●リプレイ本文
「要はバイクで突っ込んで、敵をやっつけりゃ良いのよね?」
まずは、氷雨 テルノ(
gb2319) がそう言うや否や、問答無用でスロットルをあけた。
「いくぞぉ! ぱーふぇくとちゃーーーーじ!」
どごーーーーんっと、盛大に緩衝材が吹っ飛び、粉まみれになってしまう。
「こら、専用装備作ったほうがええんちゃう? ランスとか、バイクに固定ドリルとか」
「ただ欲しい‥‥と言うだけでは、製造してくれませんよ。水理さんのような他のクラスの方へのメリットも考えないと。売り上げに響きますからね」
要 雪路(
ga6984)が、まるでバイクレースの走行練習のようなするように、データ画面を覗き込んでいる所に、寺田智之(gz0131)先生が、そうアドバイス。固定装備にするにしても、実際に購買部へ持ち込む為には、そう言った販売戦略的な理由も用意しなければならないようだ。
「直前で、前輪を浮かせば‥‥」
持ち込んだリンドヴルムに乗ると、覚醒する文月(
gb2039)。ブーストを使い、一気にスロットルを空ける。あっという間に緩衝材のところまで移動したリンドブルムは、重心をずらし、前輪を浮かせるようにハンドルを引く。
「しまっ‥‥きゃあっ!」
だが、調整しきれず、お湯の中へと突っ込んでしまった。
「大丈夫ですかっ?」
「くっ‥‥ご面倒をおかけします」
慌てて引き上げにいくヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)。プールの要領で上がってきた文、服のお湯を絞りながら、申し訳なさそうに謝っている。
「最高速で前輪浮かそうとするからですよー」
「でも、このの突撃が一番破壊力出そうなんだ」
彼女がジャージに着替えている間、今度は水理 和奏(
ga1500)が、借りたリンドブルムにまたがった。手爪のルベウスと足爪の刹那の爪に、剣のイアリスと、結構な装備である。
「失敗したら水ぽちゃだけど、僕、別に濡れても平気だし。リーチが短いからこれ使おうかと思う」
「その割には、水着ですね」
防具はカールセルを始めとした重装備系なことを指摘する文月。
「え、これはそのっ。えーとっ、も、もし、重すぎるみたいなら、軽いプロテクターにするからっ」
うろたえている所を見ると、やっぱり女の子の部分はあるようだ。
「中佐のおじさんとの約束を果たす為にも‥‥。想いを乗せて…貫けっ!」
が、例え能力者といえど、リンドブルムのパワーに引きずられ、気合パンチはむなしく宙を切り、やっぱり水の中。
「それじゃ、あたしは槍持って突撃するよ!」
剣→爪とキタので、次は中距離武器である。それを持ったまま、リンドブルムをスタートさせようとするテルノを見て、雪路が慌てて止めた。
「両手離しは危ないでーー」
「じゃあ、紐とかで何とかして槍をばいくにくくり付ければ良いんじゃない? うん、あたしってば画期的♪」
自画自賛して、ワイヤーを巻きつけるテルノ。その状態で、スロットを入れる。
「‥‥どちらにせよ、危険な攻撃方法には違いあらへんナァ」
気をつけて。バイクは急に止まれない。どぼーんと、盛大な水しぶきがあがった。
「な、何よこれっ!? 温水プールって思ってたのに、これじゃまるで熱湯じゃんっ!!」
じゃぱっと湯から上がったテルノ、不満そうに寺田へ文句を付けた。が、彼は平然と温度計を指し示す。
「そうですねぇ。ちょっと高めに設定してありますから」
見ると、ふた昔ほど前の銭湯と同程度のようだ。
「いいな、単車いいなぁ‥‥」
それでも、どこか楽しそうな彼らの様子を、うらやましく思いながら、のんびり眺めているヴァレス。少し離れている彼に気付き、寺田先生が声をかけてきた。
「バイクとして利用するだけなら、他のクラスでも乗れますよ」
きょとんとする彼に、寺田先生は、額を押さえながらこう呟く。
「問題は、支給がドラグーンだけなんですけどね、今のところ」
「そうなんですよねぇ。そういえば、アーマー時の関節部の強度に疑問があるんですけど、どうなんです?」
ふと、眺めていて気になったらしい点をぶつけてみるヴァレス。
「素材から変えると言った方式が必要でしょう。機械よりも繊維や部品の問題になりますね」
半ば諦め気味の質問だったが、寺田先生は丁寧にそう答えてくれた。そして、今はリンドブルムのような汎用型が主流だが、研究部では、その辺りを強化する研究も行われているらしいので、いずれ実験を課題として出すかもしれない‥‥とも教えてくれる。
「しっかし、燃費も問題やな。使うにも錬力を消費するわけやし、そう多用できるもんでもなさそうやね」
一方では、雪路が実験機のエネルギー効率を見て、頭を抱えていた。基礎能力を上げれば可能だが、それではヨロイやアーマーとしては、効率は悪い。
「いっそ、電池みたいに錬力を溜めておけるパックみたいなものがあればええねんけどなぁ」
予備タンク構想を練る彼女。しかし、スターターが中の人の為、もう少しアイディアを練らなければならないようだった。
さて、今度はプエルタ(
gb2234)達のチームが、実験に参加する事になった。
「いくよ、うちが命を吹き込んであげる!」
初依頼&初授業と言う事で、気合の入った紫藤 望(
gb2057)が、水着着用着替えばっちし、と言うわけでスロットルを開ける。
「っちょ、スピード出しすぎ‥‥!」
お湯ポチャなんか上等と言わんばかりに、ブーストON。その先にあるのは、坂道と同じ形状をしたジャンプ台だ。
「ライダーーーじゃーーーーんぷっ!」
そのままのスピードで、空へと舞い上がる。だが彼女、スロットルを戻さない。弧を描くように前のめりから落ちていく。
「わぁっ!」
そのまま目標物‥‥この場合は緩衝材‥‥に体当たりをしようとする望だが、空中でバランスを保てず、倒れてしまう。
「まずいっ! 紫藤ッ、アーマーに!」
見守っていた寺田先生の口調が変わった。直後、まるで空気に押し出されるかのように、望が湯船の上へと落下する。どぼーんっと盛大な水柱があがった。
「ぷはっ。せ、先生いきなりなにす‥‥」
「足元は良く見てくださいね」
最後まで聞かずに、落下地点を示す寺田先生。見れば、少し床が露出している。あのまま落ちれば怪我ではすまなかっただろう。
「ヤッパリ通常チャージ実験カラ始めた方が良さそうデスネ」
そうため息をつくプエルタ。
「高さ稼ぐから問題なんだってば。これを参考に‥‥」
そう言った九条・護(
gb2093)が、徒手空拳のまま、リンドヴルムを起動させる。そして、重心を後ろにずらし、前輪を持ち上げる。ふわりと浮くタイヤ。緩衝材部分を目標物に見立て、踏み潰すように着地する。
「行くぜ、アクセル全開!」
そのまま、スロットルを捻る護。イメージはふた昔くらい前の世紀末漫画なのだろうが、それにしてはスピードを出しすぎた。
「わーっ。すべったぁ!」
緩衝材を跳ね飛ばしてしまい、あさっての方向へ進んでしまう護のリンドブルム。その結果、護もお湯ポチャする羽目になった。
「何も考えずにツッコんじゃ駄目デース。ここは1つ考えないと! マズは濡れてモ大丈夫ナよう二、着替えるデスよー」
プエルタ、そう言って制服の上着を脱ぎ捨てた。
「オウ、中にいつものボディスーツを着ているのでノープロブレムデース」
裸かと思いきや、見れば、傷をさらすようにした水着のような装束があらわになっている。
「アウッ!? 痛イデスッ!!」
その衣装のまま、リンドヴルムを装着しようとして、肉を挟んでしまうプエルタ。実験は装着した状態から始める事になった。
「気を取り直して、翼よ。チェーンジアーーップ!」
覚醒し、装着した状態ならば、龍の翼が使える。その勢いに乗り、一気に距離を詰めるプエルタ。だが、緩衝材の部分までたどり着いた直後。
「パージアウト!」
プエルタ、いきなり装着していたリンドヴルムを解除する。背中からするりと抜け出る彼女の足元で、無人と化したリンドヴルムが、緩衝材に落ちていく。
「これが、必殺技、アイアンメイデンデース!」
どがぁっと盛大な音をバックにポーズを決めるプエルタ。自慢げにそう言う彼女だが。
「中々良い案やけど、ダメージさほど行ってへんで」
雪路が画面を指差した。緩衝材に取り付けたセンサーは、キメラを同じ目にあわせるほどの衝撃値を示していない。
「そう言えば、丸腰では、アンマリ威力ないって言われマシタ。上からブツケテモ駄目ですか?」
「フォースフィールドは全てを覆ってるねんで。あのバケモノさんは、それくらいじゃビクともせぇへんわ」
がっかりしたようにそう尋ねてくるプエルタに、雪路さんは首を横に振る。残念ながらもう一押しといったところのようだった。
「ブレーキングのタイミングさえ間違わなければ‥‥おわぁっ!」
次は再び護の番だ。アクセルを吹かして緩衝材のところまで進み、急制動よろしくフロントブレーキをかける。ロックされた状態で後輪が滑り、車体は大きくスピンした。
「やっぱりダメージ行ってないなぁ」
どごぉぉんと、緩衝材が盛大に吹き飛ぶが、それでもキメラに届くほどの数値が出ていない。だが、動きに10秒ほど余裕があったので、方向性としては悪くなさそうだ。
「うーん、てーことは、武器を載せれば良いんだよね」
そう言って望、様子を見ていたヴァレスを後ろに乗せる。
「望、それ武器やない。ヴァレスはんや」
「あ、やっぱり。さすがに体当たりはできないけどー、これで格闘とかできたら便利だよね!」
そのヴァレスに剣を持たせ、自分は運転しようとする彼女。まるで暴走族だが、和奏の話では、幾度かこの方式で、バグアと遣り合っているそうだ。しかし、既にボロボロの緩衝材を、相手に見立てるわけにはいかないので、剣を小脇に挟んだ護が相手をする事になった。攻撃の都合上、両端からスタートする事になったのだが。
「スピード出しすぎ!!」
「え、うそっ!」
剣を構えてブーストふかすと、あっという間に望のリンドブルムをつっきって緩衝材に激突してしまう。放り出された護が落ちた先は、なぜか湯気の代わりに氷が浮かんでいた。
「って、冷たいっ? なんでお風呂に氷の塊が‥‥」
「え? これ? 本当はかき氷に使おうと思ってたんだけど、こんな熱くちゃ泳げやしないか‥‥げふっ」
慌ててあがってくる護に、テルノが胸をそらす。が、その直後、保冷財にドツかれて伸びているのだった。
調整が入った。
「単純に速度と重量が上がれば、チャージの安定性と威力があがんねん。ただ、威力が上がれば上がるほどに、搭乗者に返ってくる衝撃も増えんねん」
そう言いながら、手際よくリンドブルムの重心を変える作業に入る雪路。確かに安定はするのだが、前方から吹き付ける風や、速度感に堪えられるだけの技量がいる。
「さっきから見てると、その衝撃に振り回されてる部分があるし、ちょっと安定性いじってみたんやけど」
そう言って、彼女が操作したのはタイヤの大きさ。普通のよりも少し太くなったように見える。本当はエアバッグでも付けたかったんだが、構造上無理だったので、テストパイロット達のプロテクターが一枚増えた。
「アリガトウです。それじゃ、ちょっとアクロバティックな技、やってミマスヨ」
早速プエルタがバイク形態の状態で、ブーストを使う。
「だから、スピードが速すぎるって!」
「これデ良いのデス!」
雪路が叫ぶが、彼女は構わずハンドルをきった。カーブを描いたリンドヴルムが、バランスを崩して横倒しになり、緩衝材に激突する。
「足の抜き加減が難しいデスネー」
の手には蛍火。どうやらそれで斬り付けたかったらしい。しかし、倒れざまに足を抜くと言う行為は、結構操縦技術が要るものなので、失敗しちゃったようだ。
「うーん。一か八かの捨て身ならしゃーないけど、一々投げ出されたり、転倒してたら話にならへんやろ?」
頭を抱える雪路。今は緩衝材だが、同じ大きさのキメラの場合、爪を振り下ろされるのは自分自身なのだから。
「はいはいはーい。やってみたいことがありまーす。あのねあのねー」
と、そこへ護が教室で発言する時と同じ様に手を上げた。が、雪路さんは、眉根を曇らせたままだ。
「それ、めっちゃ危ないヤン」
「あー。じゃあ私もー!」
話を聞いた望まで賛同してくる。困った雪路さんが寺田先生に顔を向けると、先生も「許可できませんね」とばかりに、首を横に振った。ほっぺ膨らます2人。
「俺らが待機してるから、大丈夫っすよ」
暫しの沈黙の後、ヴァレスがそう申し出る。こんな事もあろうかと、必要そうなモノは全てそろえてあると。
「‥‥わかりました。では自己責任で」
くるりと背を向ける寺田先生。その後ろで「「やったぁ」」と大喜びの望と護。二台並んだ状態で、アクセルを全開にする。
「上手くタイミングを合わせて二人同時に突っ込める様に‥‥」
彼女達の前には小さなジャンプ台。祈りを込めるように、望がこう叫ぶ。
「Holy Knight、キミに魂があるなら応えて!」
そのタイヤが、ジャンプ台を勢い良く駆け上がる。マシンの勢いに乗ったまま、リンドヴルムが宙へと舞った。
「「ダブルドラグーンアタぁーーーーック!!」」
声を揃えて、その前輪が緩衝材へとたたき付けられる。乗せた足ごと。
「落ちてるだけジャン」
ばしゃーんっと盛大に水柱が立っているのは、ご愛嬌と言うものだろう。