タイトル:【CA】鳩を追いかけてマスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/07 16:12

●オープニング本文


 カンパネラ地下階層に、KV同士の闘技場を作る。その為、学園では生徒達にも依頼し、地下階層の掃除にあたっていた。
「流石にほったらかしにしてあったから、すごい事になってるなぁ」
「文句を言うな。ここを片付けなければ、闘技場の工事が入れまい」
 カンパネラ地下階層の掃除は、いくつかのチームに分かれて行う事になった。普段、人の出入りの無い場所だけに、埃とカビで嫌なにおいをしている部分もある。ティグレス達が担当していたのは、そんな部分だった。ぶーたれる管理部生徒にそう言いつつ、AUKVを装着したまま、転がっている様々ながらくたを、材料毎にまとめて行く事から始めるティグレス。
 だが、その時だった。
「くるっぽー! くるっぽー!」
 がらくたの森で響く、人が真似たような鳩の声。どこだ? と生徒が見回すと、がらがらと崩れた金属資材の間から、ぱたぱたと翼の音が聞こえた。
「せ、先輩。あれ!」
「くるっぽーー!」
 生徒が泡食った声で、ティグレスに告げる。それと、目の前で現れた鳩が、翼を広げて飛び立ったのが同時だった。
「ここにも、廃棄された試作機か‥‥」
 愛用の槍を持ち出すティグレス。生徒が「こっちきましたぁ!」と、リンドを回れ右させる。直後、ずしゃっと埃が舞う。が、その直後だった。
「くる‥‥ぽー‥‥。きしゃああ」
 それまで鳩の声だった、試作機の鳴き声が、いきなり変わる。けたたましく鳴り響くそれは、まるで敵襲を受けたキメラそのものだ。しかも、そのおめめの部分から、プロジェクターのように、中に収められたデータが、壁に映し出された。
「これは‥‥。どうやら、機密を飲み込んだままのようだな」
 専門用語が羅列された品だったが、ティグレスにはそれが重要なものだとすぐに分かった。
「逃がすな。捕まえて、研究棟に叩き込め」
 確保命令を下すティグレス。自ら走り出す彼の後に生徒が続く。が、鳩は警戒モードに移行しているらしく、今までとは比べ物にならない速度で逃げ回っていた。そう、言うならば鳩から猛禽類になってしまったようなものだ。
「ぎしゃああ!」
 追い掛け回す生徒達。だが、鳩もどきは、その小ささを生かして、排気ダクトから、表へと逃げてしまったのである。

 それから数時間後。
「暗号解析? 俺は今ヘルヘブンとオールラウンダーの調整で忙しい。それに、文書関係なら、寺田の方が専門だろう」
 試作機のパーツがいくつも並ぶ准将のガレージ。売店から調達してきたと思しき苺大福が置いてあったりする中、本部からの通信に答えている准将。モニターには『G4弾頭基礎データ紛失に関して』との項目がある。どうやら、データベースの記録から、カンパネラの研究部に、基礎データが移送された形跡があるらしい。だが、移送ルートや行き先に関しては、複雑な暗号化が施されており、解析が必要だそうだ。
「私がなんです?」
 そこへ現れる寺田。
「いや、ちょっと暗号解析を頼まれてな。一体どうした?」
「それが、ちょっと厄介なものが見つかりましてね」
 振り返る准将に、寺田はそう言って、地下階層で見つかった鳩型の報告をする。
「もしやと思って、研究棟のデータベースにアクセスしてみたら、こんなものが出てきたんですよ」
 ぶすっとした表情の准将に、寺田はモニターへ『警備装置作成:キャスター・プロイセン』の文字を映し出す。いくつかのチームが関わっているであろう研究で、当時セキュリティ部門の設置担当だったのは准将のチームだった。
「あー‥‥それか。確かに、作ったのは俺らだ。バグアの手にわたらねぇように、きっちりしまっておいたはずなんだがな。誰だ、ばらしやがったのは‥‥」
 自分がこさえたものだと言う自覚はあるようで、頭を抱える准将。
「心当たりがあれば結構です。どういうシロモノですか?」
「センサーを山ほど取り付けた金庫ってところだ。固定型だと、見つかったとたんぶっ壊されるんで、感知したら移動するように組んである」
 准将の説明曰く、バグアに奪われてはまずいモノを隠しておく箱を作ってくれと言う依頼で、いくつか納品したそうだ。今回発見された鳩型は、敵が来るとすぐ移動出来るように、各種センサーが取り付けられている。一般的な金庫では、壊されておしまいになってしまう為、そういった手段では開かない様に組み上げたそうだ。その後、完成したものを、まだ人間だった頃のエミタが率いるチームにも納品。ただ、中身に何を入れたかは、准将には連絡来ておらず、そのままになっていた模様。
「確かに金庫ですね。どうも中身に機密データが入れられているようなんですが、コントロールする方法は、何か無いんですか?」
「えーと、確か人には扱いやすいように、天然ナマモノ素材に反応するようにしてあった筈‥‥。例えば‥‥天然布とか、魚の切り身とかだな」
 何でも、バグアの品々はかなりの高確率で、加工されまくっているから、自然なもの‥‥例えば、切ったばかりの刺身とか、取れたてサラダとかには、反応するように出来ているそうだ。
「なるほど。それであのエリアに‥‥」
 埃とカビの匂いがしていたので、天然素材があるのは確定だろう。警戒モードの今でも、それはかわらないに違いない。
「ただ気をつけろよ。あんまり脅すと、多分機密破棄装置が作動しちまう筈だ」
 万が一的に奪われた場合、情報を読み取らせないようにする為の措置も組み込まれているらしい。
「そう言う事は早く言ってくださいね。准将」
 とすっと釘をさしつつ、寺田は職員室へと戻るのだった。

 その頃。
「わぁ、可愛い鳩さん」
 校庭で、女生徒の集まる場所に、やたらとメタリックな鳩がいた。他の鳩と同じように、豆をつついている。
 ところが。
「カメラ映るかなー」
 女生徒の一人が、記念撮影をしようと、携帯のカメラ機能をぱしゃっと押した。
「きしゃああ!」
 驚いたメタリックな鳩が飛び立ってしまう。豆を咥えたまま。
「どうしようか。あそこ、確かキメラ研究棟の方だよね」
「先生、今月、猫型捕まえてきたら単位1割り増しって言ってたし‥‥。捕まったら食べられちゃうかも‥‥。あたし、一応知らせてくるねー」
 行き先を見て、顔を見合わせる女生徒達。その先には、キメラ研究を行っているたぷたぷ先生の研究棟があった。
「ふむ。事を急がねばならないようですね」
 女生徒の写した携帯写真を、ティグレスに確認させると、どうやら先日目撃された鳩型金庫で間違いないようだ。だが、そう呟く寺田のスケジュール帳には、『今月の予定:猫キメラの研究』と記してあった。

『鳩型金庫捜索者急募。機密事項が封印されている可能性が高い。行き先及び物品に関しては、解説項目を参照の事』

 急がねばならない。なぜなら鳩は、人間もAUKVも猫型試作機も、同じ様に敵として認識してしまうから。

●参加者一覧

高村・綺羅(ga2052
18歳・♀・GP
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
咲坂 八葉(gb4740
15歳・♀・FC
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
ヴィンフリート(gb7398
20歳・♂・DF
瀬上 結月(gb8413
18歳・♀・FC
リティシア(gb8630
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

 カンパネラ学園は意外と広い。必要な情報は准将から、物品地図その他は管理部から調達し、レティシア(gb8630)の案で、2班に分かれて捜索する事になった。
「ここが地下封鎖部分かぁ。確かに、ちょっと雑然としてるねー」
 B班が向ったのは、地下の封鎖部分だ。見回して、そう言う咲坂 八葉(gb4740)。あちこちに試作品だか、ガラクタだかが山積し、それが遥か彼方まで延々と広がっているような場所だ。
「これでも、掃除してたから、多少は片付いているんじゃないかな?‥‥綺羅もこの前、片付けは手伝ったりしたし」
 高村・綺羅(ga2052)が、その一部を指し示した。見れば、妙に片付いているエリアがそこかしこにあり、既に工事用品が搬入されており、よく見れば工事中のマークもぺったし貼り付けられていた。
「廃棄された植物など集めたりしてると思うから、その辺あたりかな?」
 彼女が案内した場所には、引っこ抜かれた雑草が山積みになっている。隠れ場所になりそうな光景に、綺羅は足を踏み入れる。
「ここに天然素材が入ったら、確かに分からないな。おわぁっ」
「みゃーみゃー」
 隠れていた猫らしき生き物が驚いて飛び出してきた。いきなりなので思わずそう言ってしまったが、見る限りどこからか紛れ込んだ猫のようだ。
「体力には自信ありますけど‥‥捕まえるのは‥‥。あ、いえ、やらないとダメなのはわかってますよ?」
 そんな猫さん達を、おっかなびっくり避けるナンナ・オンスロート(gb5838)。足元を駆け抜けて行くにゃんこさん達は、そっと触らないと壊れてしまいそうだが、最近それが出来てない。
「人工素材が少ないようにしとけばいいだろ。さて、どこから手をつけるかな」
 鳩を傷つけないよう、綺羅の衣装は綿製のもので統一されている。靴だけはどうしようもないので、運動靴なのだが。
「とりあえず布の切れッ端を持ってきたけど‥‥。ああそこのにゃんこ! それはお前の餌じゃないよ〜」
 八葉が罠や誘導の為に、家庭科室から調達してきたらしい面の布切れや、お肉のきれっぱしなんかを見せる。が、そこに何故か先ほどの猫ががじがじとアタック開始している。よく見りゃ、尻尾が金属製だ。
「だから、出られちゃ困るんですってば。えい」
 試作品と分かれば容赦のないナンナさん。レーザーナイフで真っ二つである。ばじゅっと鉄くずになってしまう。
「相変わらず力押しだなぁ」
「言わないで下さい。最近ずっとそうなんです」
 八葉に突っ込まれ、肩を落とすナンナさん。顔を引きつらせながらも、残ったケージに布をかぶせたりしておくのでした。
「しかし、これだけの広さだと、罠仕掛け難いぜ」
 とりあえず、コンパクトタイプのテントを張ってみるヴィン。中に餌を放り込んでいる。入り口は紐で開け閉め出来る用になっている。が、鳩がかかるかどうかは、わからなかった。
「罠だけやってみるか? かかるとは思えないけど」
 そう言って、材料を出してくる綺羅。絹の糸に天然木の棒、藁の籠に大豆。見事なまでに鳩の罠セットである。「お願いします」とナンナが言ってきたので、籠を棒で支え、根元に糸を取り付ける。
「あっちの方が鳩が来易いと思う」
「さてと鳩ちゃん、ご飯の時間ですよー」
 見れば、ヴィンフリート(gb7398)も同じ様に罠を仕掛けている。こっちは魚の切り身だった。
「後はかかるのを待つだけ、だね」
 八葉がそう言って、少し離れた場所まで下がる。双眼鏡を片手に様子を逐一報告しようと覗き込む中、後ろでみゃーと鳴く声。
「ほーらほらほらほら」
 振り返れば、綺羅がその辺のにゃんことじゃれている。赤髪の戦闘機械と称される彼女だったが、何故かとても楽しそうに、落ちていた猫じゃらしを振っていた。
「あ、鳩みっけ!」
 ばさばさ、がさり。鳩が舞い降りる。見れば、餌の方にちょこちょこと歩いてきていた。
八葉が合図する。しかし、すぐには向わず、紐を握り締めたまま、確実に籠の下まで来るよう、タイミングを計っている。
「こちらでも確認しましたけど‥‥」
 一方のナンナも、反対側から鳩を見つけていた。が、彼女は逆に、どんどん籠から後ろに下がって行く。
「ぽっぽー」
「あ、ナンナさんの方にっ」
 八葉がじりじりと距離を詰めるが、鳩はどういうわけか、ナンナさんの方にちょこちょこと歩いて行く。
「ここで私が脅かしてしまったら‥‥大事な情報がデリートされて‥‥!」
 捕まえたいのは山々だが、今のおててにはレーザーナイフ。そんなモン振りかざしたら、逃げ出すどころの騒ぎじゃすまないのを、わかっているようだ。
「は‥‥早く皆を呼ばないと‥‥」
 だから、ナンナ・鳩・八葉の順番で、じりじりとトラップゾーンから離れて行っても、自分でやれと言うツッコミは勘弁していただきたい。
「鳩さん鳩さん、いい子だからちょ〜っと大人しくしてくれない〜?」
 八葉がそう言うた、言葉が通じるなら苦労はしていない。当の鳩は、綺羅が転がしていた大豆をくるぽー言いながらつついている。それを見て、ナンナは自分も豆の袋を取り出す。
「こ、これで怖くないですよね? 豆持ってきましたよー」
 安心させて、手なずけようと、豆を投げるナンナ。八葉がやっぱり豆を片手に「ほらほら、こっちこっち」とバラまくが、まったく引っかからない。それすらも勢い余って、明後日の方向へ。
「くるっぽー」
 ぱたぱたと、追いかけて飛んでく鳩。
「わぁっ。飛んじゃったよー!」
「そりゃあ、相手は飛ぶものだしっ」
 綺羅が慌てて覚醒し、瞬天速で追いかける。八葉も迅雷を取り出して追撃する。
「逃げたってムダだよ!こちとらすでに先手打ってるんだから!」
 が、一瞬で迫られて驚いたのか、とたんに警戒モードになってしまった。綺羅がおててを伸ばし、八葉が回りこむが、鳩はきしゃあと叫びながら、上空へ。
「ぐはっ! 糞の爆撃食らった」
 ヴィンが思いっきり糞の直撃を食らい。あぐあぐぺっぺと呻いている。その間に、鳩は地上へ繋がる排気口の上。
「すぐA班に連絡をっ。そう遠くへはいけない筈だし」
 ナンナが出口をふさいでいるので、行き先は本校舎の辺りだと察しが着く。慌てて連絡する八葉だった。

「しかし、天然素材しか嫌だなんて‥‥本当に贅沢な鳩だな。本当に贅沢な鳩だな」
 大事な事らしく、2回も繰り返す瀬上 結月(gb8413)。その頃、地上から捜索を開始していたA班は、管理部の事務所にいた。
「これ、つまらないものですが‥‥皆さんでどうぞ」
 購買部で売ってたチョコレート菓子の赤い箱を差し出す結月。それには『改造申請書』と油性ペンで書いてある。一瞥した担当の生徒は「ああ、准将から連絡は着てるよ。そこに一式揃えてある」と、山の様に詰まれた箱を指し示す。持って行った先は、キメラ研究棟だ。
「って、一体何をするつもりだ?」
「このままだとただの箱だ。軽く改造させて貰う。鳩がターゲットの前で暴れられても困るね」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が覗き込むと、結月は中にえさ箱や隠れられる場所を作り、完全な鳩用ケージにしてしまう。生き物は大切にと言ったところだ。
「よし、これで良いだろう。すまないが、鳩を見つけても近づかないように頼むぜ」
 一方、ホアキンは侵入経路をテープで目張りして封鎖していた。B班とは逆に、地上部分から捜索を開始する。一つ一つ確かめて行くホアキンだが、中々お目当ての鳩には行き着かない。逆に、ここでは書けないが、とってもいやんな感じのサンプルを多数見てしまい、げんなりしてしまう。
 と、そこへ。
「いっきまぁーす!」
 リティシア、研究所で一番デンジャラスと言われている、サンプル保管庫へ特攻する。‥‥AUKVで。しかも、折り悪く、換気口から締め出されちゃった例の鳩がそこに!
「わぁぁぁ。鳩さんこっち来ちゃ駄目ぇー」
 追い出す格好となったリティシア、慌ててリンドブルムを停める。が、鳩さんは警戒モードになったまま、リティシアの頭上に。パニくった彼女、思わず持っていた小銃をぶっ放してしまう。
「きしゃぁぁぁ!」
「ふみゃあああ」
 おまけに、騒ぎを聞きつけてか、それとも締め出しの影響を食らったのか、青い猫型試作機が、何やら茶色い円盤を片手に、リティシアへと迫る。
「きゃ〜〜ちょっとやめて〜」
「リティ、こっちだ!」
 その手を引っ張ったのはホアキンだった。そのまま感知距離外へと引っ張り、部屋の出入り口をパタンと閉める。
「う〜‥‥ひどい目にあいました‥‥ぐすん」
 リンド中におきっぱなしである。後で取りに入れるのだが、ちょっとへこんだ表情の彼女。
「これで奴は袋の鼠‥‥いや、鳩だな」
「‥‥あの、鳩さんいませんよ?」
 後は、取り押さえるだけ。と思ったホアキンだったが、恐る恐ると言った調子でマルセル・ライスター(gb4909)に言われ、覗き穴から見てみると、影も形もない。「え」と慌てて中に入れば、テープががじがじとかじられて、穴が開いている。
「この下、演習用の倉庫だから、きっと中に入り込んじゃったんだね」
「感心してる場合じゃないだろぉぉぉ」
 人がせっかく苦労して塞いだのに〜。と悔しがるホアキンの横で、のんびりとそう言うマルセル。と、結月が作ったばかりの箱を取り出す。
「落ち着け。そう言う時の為にこいつがあるんだ」
「そうですよ。誰だって一人じゃ寂しいですもの。鳩さん。ちょっとお手伝いしてくださいね」」
 内装の巣は、細い竹細工になっていた。既に、普通の鳩が1羽、えさ箱に入った粟玉をつついている。どう見ても捕獲用の罠と言うより、ただの鳥かごだ。
「はいはい、豆はたくさんありますから、喧嘩しないでね」
 鳩小屋になってしまったそこで、マルセルはぽわんぽわんと天然発言をしながら、鳩の世話を始めた。頭に花の割いているような気がしたが、楽しそうに鳩の相手をしている。先ほどまで、鳩に驚いてホアキンの後ろに隠れていたとは思えない。
「扱いは任せた方が良さそうだな。で、これどこにセッティングする?」
「排気ダクトが通ってるのは、この下だ。そこにセットするのが正解だろう」
 ホアキンにそう答え、結月は地下の演習場の自然の多い場所を、トラップゾーンんに指定するのだった。

 カメラは、再びB班に移る。場所は、連絡を受けた演習場だった。
「さすがに、ここは散って探すしかないだろうなー」
 広い場所だが、大体の目星は付く。AUKVで暴れることを前提とした場所なので、自然物は限られているだろう。そこを探せば良い話だ。綺羅はその目星をつけた場所を、以前演習で使った人工川エリアだと推測していた。
「こう言う時の為のAUKVですから。まぁ演習だと思えば、ちょうどいいんじゃないかしら」
 ナンナがAUKVを起動させる。と、そこへ八葉から通信が入り『罠は人工自然の辺りと、カンパネラの湯に設置しといたよん』と、該当ポイントが地図に示された。後は、複数あるそのエリアを回るだけである。
「これでよし。うーん、少し多すぎたかな」
 一方、そうして捜索を続ける間に、A班も演習場へとやってきていた。鳥籠の蓋を開け、棒を引っ掛け、ひもを取り付ける。そして、その周囲に結月は豆をばら撒きまくっていた。おかげで、周囲が豆だらけになってしまう。
「魚の残りは少ないからな。フェイクの鳩に食べ物持っていかれたら、洒落にならん」
 生活に苦労してきたせいか、生魚みたいな人間様の食べ物をくれてやるなど、言語道断と言うわけだろう。
『こちらB班。そっちに移動した。場所はだいたい湯の辺りだ』
 そこへ、綺羅から連絡が入る。どうやら、近づいているようだ。周囲を見回すと、カンパネラの湯がある辺りで、バイク音にまざって鳩の鳴き声。
「お、どうやら近づいているようだな。んじゃ、誘導しますかね」
 ホアキンが、魚でそこから籠の周囲に向うよう、道筋めいた巻き方をしようとする。が、それは結月が止めた。
「まて、魚は勿体無い。こっちを使え」
 本音はそこらしい。ホアキンとしてはどっちでも良いので、豆で綺麗に誘導路を作っていた。
「ぽっぽさん、お願いしますね」
 一方で、マルセルは生身の鳩をなでている。クルル‥‥と鳴いていると、程なくして、ぱたぱたと羽音が聞こえてきた。見れば、麗のメカ鳩だ。
「怖くないよ〜、おいで〜、よしよし」
 リティシア、今度はちゃんと豆で誘き寄せようとする。しかし、鳩は警戒しているのか、中々こない。
(こうなったら‥‥こうするしか!)
 ぐっと拳を握り締めた彼女の呼吸が、すうっと整えられた。
「らら〜ら♪ らら〜♪」
 お歌で誘き寄せようと言う算段の様である。が、相手は鳩。いくら歌が上手くても、そうそう寄って来るモンではない。
「あ、猫が!」
「駄目です。猫さんはお魚を食べるもので、鳩さんを食べては駄目なのですっ」
 しかも、何故かそこに、青い猫型試作機まで。マルセルが慌ててリティシアと鳩をかばうように、猫の前に立ちふさがる。その間に、回れ右した鳩さんは、リティシアの頭を飛び越えて、安全そうな場所‥‥すなわち、箱の中へとダイビング。
「ゆっきー。そぉっと。そぉっと」
 合流したB班の八葉が、親しい人につける愛称で、結月にそう言っている。うなづく結月、紐を握り締めたまま、様子を見ていた。
「くる‥‥ぽ?」
 しばらく周囲を見回していたメカ鳩だが、同居の鳩が大人しくしているのを見て、自分も粟玉をついばみ始める。大丈夫、と判断した結月は、音の出る紐は止め、指先でそっと扉を閉じるのだった。

 鳩を確保した彼らが向ったのは、寺田智之(gz0131)の所だ。ホアキンの依頼で、コードをたくさん取り付けた鳩を検査していた寺田が、驚くべき事を言う。
「これ‥‥G4弾頭の基礎データですね」
 が、マルセルにとっては、そんな事には関心ないようで、おずおずと口を開いた。
「あのぅ、寺田先生‥‥。その、データ抜いて金庫機能切ったら、いただいても構いませんか?」
 どうやら、気に入ったらしい。寺田先生、しばらく考えていたが、いつもの表情のまま、やおら一枚のIDカードを手渡した。
「普段は研究所預かりですけどね」
 その言葉に喜ぶ彼。渡された管理用IDカードには、メカバト担当として、自分の名前がしっかりはっきりと記されていたからである。