●リプレイ本文
【生体バイク】
その日、ダウンタウンのはずれで、どう言うわけか、カレーのテントが出来ていた。地元の住民が、何事かと虎視眈々狙っている中、サポートのリティシア(gb8630)はリボンカチューシャにゴーグルつけたまま、カンパネラの制服で、補給活動に余念がなかった。
「これで補給はばっちりです。ジュースもゼリーもありますから、おなかすいたら戻ってきてくださいね」
今回、新人研修を兼ねてか、後方支援と言う形で手伝ってくれている。オレンジジュースを差し出されたカラスは、それを受け取ってくれながらも、警告めいた一言を言った。
「ありがとう。でも、それほどゆっくりしてられないみたいだけどね」
耳を澄ませば、遠くにバイクの音が聞こえて来ている。エンジンを吹かす音に聞こえるが、よく聞けば何かのうなり声のようで、周囲の人々が慌てて屋内にひっこんでいた。
「そうなのですか‥‥。長期戦の準備をしてきたのですが‥‥」
残念そうなリティシア。戦力の低下を防ぎたいとの事だったが、どうやら大規模作戦と同じ様にはいかないようだ。
「ステアーか。‥‥撃破した後でも厄介事を持ってくるとは、やってくれるね」
もっとも、夜十字・信人(
ga8235)の言う通り、中身は大規模作戦に関わるものなのだが。
「ああ、頼まれてた使用許可だけど‥‥。人型形態は禁止だってさ」
と、そんな信人に、カラスが頼まれていた書類を手渡している。信人が、LM−01の使用許可を求めた物だが、そこには赤字でしっかりはっきりと『不許可』と記してあった。
「あくまでも車として使えって事だな。わかった。気をつける」
ただし、移動用の車として使うのは大丈夫らしい。考えていた作戦が、がらがらと崩れる音が聞こえたが、きっと気のせいだろう。
「あと、管理にも気を配らないと。この辺は狙ってる人も多いからね」
目立つ車は、スカスクばかりではない。じろじろと、無遠慮に投げかけられる好奇の視線。中には、露骨に算段をつけている者さえいる。
「ダウンタウンか、嫌いな空気じゃないが、さて」
邪魔さえしなけりゃいいが‥‥。と思う信人。彼らのアウトローっぷりは、たくましく生きている姿‥‥と、好意的に捕らえていた。
「ノーマルは尊重するがね。邪魔をするなら‥‥バグアと同じだ」
そう答え、首を切る真似をするドクター・ウェスト(
ga0241)。発言が過激なのは、いつもはつけているはずの十字架が消え、瞳が輝いている所を見ると、覚醒の特徴なのだろう。
「ペイント弾は各自持ったかね」
それでも、必要そうな指示はするドクター。班分けは4つ。それぞれが、生体バイクを発見次第、ペイント弾を撃ち込む手はずとなっていた。
「色の違うものを用意しておいた。あと、これはこの辺りの地図だ」
全員分の地図を渡す嘉雅土(
gb2174)。他の大多数の地域でそうであるように、大戦前の物しか残っていなかったが、それでも大きな道路とランドマーク的な建物くらいは残っている。
「えーと、このルートがこうだから‥‥」
嵐 一人(
gb1968)がそれを頭に叩き込もうとしているが、やはり実際走ってみないとわからないようだ。一方で、信人は自身が所持するインデースのエンジンをかける。
「やはりナビは利かないな。こうしておくか‥‥」
ナビシステムのあるにはあるが、機能していない。仕方なく、地図をダッシュボードに貼り付ける。
「本当にお借りしていいんですか?」
「ああ。車は、必要ならばぶっ壊して良いぞ」
美環 響(
gb2863)にそう答え、自身はスカスクに乗り込んだ。特殊電子波長装置を起動させ、通信機だけでも使える用にしたとたん、警報がけたたましく鳴り響く。どうやらお出ましのようだ。
「そうしないようにしますよ」
パーツは無傷で回収したいし、住民と町に被害が出るのも困りものだ。
「バイク型キメラかよ……悪趣味なの作りやがって」
もっとも、相手はそうは思っていないだろう。バイク好きとして、黙っているわけにはいかない一人。
「カーチェイスみたいなのって初めて…ドキドキしちゃうけど僕、ステアーと勇敢に戦った天衝の皆の為にも、がんばるっ!」
「なんか嫌な予感がする依頼だな。とにかく人的被害少なくパーツ全部回収できると良いけどな?」
やる気の旺盛な水理 和奏(
ga1500)を見て、雅土はその嫌な予感が的中しないで欲しいと願う。
「さぁ、楽しい鬼ごっこの始まりですよ」
お宝を持った悪い鬼を捕まえ終わったら、祝賀会でもしたいなと思う響だった。
いくつかのチームに分かれた彼ら。その1つ、C班に割り振られたのは、水理と雅土、それと響だ。
「こちらC班。通信機の様子はどうです? ドクター」
『ん〜、多少ノイズは入るが、大丈夫のようだね〜』
響がそう確かめると、ザラついてはいるが一応聞き取れるドクターの声が聞こえて来た。中和装置はなんとか稼動しているらしい。
「どうやら中和は出来ているようですね。さて、始めるとしますか‥‥」
念のため、呼笛と照明銃を助手席にセットする響。通信機の向こうで、AUKVをバイク形態にした雅土が「何か見つけたら、言ってくださいよ」と言っている。
「僕の華麗なるドライビングテクニックの見せ所ですね・・・! ふふ、僕の眼からは何人も逃れられませんよ・・・」
ふふっと自信たっぷりに微笑む響。覚醒し、探査の瞳を使う。ぎゅいんと加速したGに、水理は押しつぶされそうになって、慌ててシートベルトを探した。
「あ、あぶないから、直線の時までは大人しくしてた方がいいかな」
武器を持ち合わせてはいるが、彼女はスナイパーではない。このスピードでは、カーブで身を乗り出しても、きっと当たらないに違いない。
「こういう町だからな。暴走跡くらいは残っていると思うが‥‥」
一方では、雅土が地面の轍を見て、暴走跡をおいかけようとしていた。と、そこへ顔に笑みを張り付かせた地元住民らしき数人が寄ってくる。
「何か寄ってきたよ?」
「どうやら地元住人のようだなー」
見た目に優男、子供、学生。カモれる相手だと思われたのだろうか。
「よう、この辺でこんなバイク見なかったか?」
「さぁなぁ」
のらくらと答えない地元住民。その目は値踏みするように、響と水理に注がれている。片方は手品をやっているそうで舞台栄えのする中世的な容姿の持ち主だし、片方はまだ熟れ切っていない年頃。売り飛ばそうかと思う輩がいても不思議はなかった。
「そうか、じゃあな」
ろくな情報をもっていない。と判断した雅土、即答すると、即座に回れ右をさせる。後ろの響も同じ様に出発させていた。
「え、えっと。あれでいいの?」
「構わん。ああ言うのは、即断即決で好きを見せないのが大事だ」
水理だけ目を瞬かせているが、彼は通信機越しにそう言ってきた。このあたりでは、まだ稼動してくれているようだ。
「けど、情報そのものは間違いなかったみたいですよ、見てください」
響が車を止める。見れば、ちょうど角を曲がる生体バイクの姿が見えた。水理が後ろからペイント弾を撃ち込むが、当たったかどうかはわからなかった。
『通信機の状態は大丈夫そうだな』
ノイズはあまり酷くない。まだ距離が離れているからだろうと判断した響、後ろの水理にこう言った。
「わかりました。飛ばしますから、しっかり捕まっていてくださいね!」
「わぁぁっ。飛ばしすぎだよ〜!」
ぎゅいっと盛大なGがかかり、体が押し付けられる。目の回りそうな動きに、体をぶつけそうになってしまった水理は、慌ててシートベルトを締めるのだった。
その頃、B班はドクターの車で移動していた。
「にゃ〜ふにゃふ、我輩のOOマシーンを一般車に変形だ〜」
ファミラーゼに、息を吸い込むような笑い方をする猫のぬいぐるみを乗せたドクターは、テストを兼ねてか、にゃふにゃふと電波増幅中。結果は良好のようだ。
「ステアーは報告書では紅い血を流していたみたいだから・・・ワームとかキメラとかと同じ生体兵器かな?まあ、パーツを奪って調べればわかるんだろうけど」
同行者はランディ・ランドルフ(
gb2675)である。そのリンドブルムには、通信機が取り付けられており、すでにバイク形態となっていた。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜。もしもしノブト君、通信はどうかね〜」
通信機のテストを始めているドクター。相手はD班の信人である。
『やはり雑音があるな。使用距離が限られているようだ』
ざらつく音声。向こうにこちらの声は聞こえているようなので、場所によって中和能力に差があるようだ。
「ふむ。仕方がない。ランディくん、交戦の際には、照明銃を使ってくれたまえ」
「了解。さっそく現れたようだね」
先行するランディがそう答える。と、その直後、建物の向こうへと横切る生体バイクの姿が見えた。
「さすがに早いなあ。ドクター、一旦突破を試してみるよ」
そう言うと、早速リンドブルムを発進させるランディ。
「我輩は後ろから追いかけるが、その前にこれを持って行きたまえ」
と、ドクターはそんな彼に、練成強化を施してくれる。
「ありがと。さて、いくとしますか」
ブーストを吹かし、生体バイクへと肉薄するランディ。ドクターから、ペイント弾がげしげし撃ち込まれている。
「けど高機動戦闘はドラグーンの十八番なんでね。キメラごときに十八番を奪われたくないな」
背中が蛍光色に染まる中、距離がかなり縮まっても、ランディはスピードを緩めない。そしてそのまま、生体バイクの横へと強引に突っ込んでしまう。
が。
(笑った?)
メットの下の口元が、にやりと歪む。寄せようとした直後、生体バイクはそのボディをバンクさせた。
「く‥‥待て!」」
同じ様に車体をバンクさせるランディ。ざりざりと膝を擦ってしまうが、気にして入られない。
「目印はつけたよ」
「了解。おいかけるぞ!」
ドクターの車から発射されたエネルギーガンの援護が命中しているはずだが、スピードは緩まない。擦った膝が痛かったが、逃がすわけには行かなかった。
その頃、D班‥‥と言うか、中和機オペレートをしていた信人はと言うと。
「C班とB班がキメラを確認。援護に向う」
ばたんとスカスクに乗り込む彼。だが、通信機からはドクターのノイズ交じりの声が切れ切れに聞こえる。
『了解‥‥。だが‥‥が酷いので、‥‥は期待しないでくれたまえ』
事前に作戦区域をある程度頭に入れておいたものの、返ってくる通信はノイズが酷い事に、頭を抱えていた。
「ジャミングの発生源は他にあるかも知れん。警戒しておいて損はないか」
人型への変形をしようとして、周囲を見回す彼。が、今停めている場所の周囲には、壊れやすそうな老朽建築ばかりだ。
「おっと、この辺りで人型なんぞになったら、色々ぶっ壊しちまうな。仕方がないか‥‥」
しかも、建物大きさは軒並み低いものばかり。人型になったら、頭1つは出てしまう。ダッシュボードにある書類には『不許可』の文字。仕方がなく、車形態のまま滑り出す信人。
「いたいた」
通りの奥へと消えて行く生体バイク。数は一匹だが、油断は出来ない。その証拠に、アクセルを踏み込んだ刹那、横揺れの衝撃が襲い、あちこち打ち身の傷が広がる。どうやら相手から攻撃を食らったようだが、やはり気にしてはいなかった。
「どけどけー! スカスク様のお通りだっ! 関係ねぇ奴は下がってろ!」
しかし、車形態だけとは言えKV。密集した建物は、4mの車体に引っ掛けられ、壁に白煙が舞う。下町のこの辺りは、老朽化が進んでいるらしく、少しかすっただけでボロボロと崩れてしまった。
「うわぁぁぁっ。何しやがる。俺の家がー!」
「やべぇやべぇ、危うく全部壊しちまうところだった。こりゃ、向こうまで回りこまないと、思いっきり撃てねぇや」
住民が悲鳴を上げる中、そう言ってハンドルを切る信人。車とは言えKVのスカスクは、古いレンガごときでは傷1つつかないが、この状態では、ガトリングさえ撃てない。こっちが不利だと判断した信人、接近を控えて、仲間のところへと合流するのだった。
その頃、最初に追いかけたC班はと言うと、ようやくその姿を捉えていた。
「見つけた!」
「こちらでも確認した。行くぞ!」
ぐいんと、雅土がリンドブルムを加速させる。狭い入り組んだ路地は、車で動くには向かないが、バイク形態では充分だ。
「ここじゃ、回りに被害が出ちゃうよ〜」
「わかってる。強引にでも、弾き飛ばすまでだ!」
バイクに乗ったままでは、武器は使えない。そう判断した彼は、距離を詰めるとAUKVを人型へとチェンジする。
「吹き飛べッ!」
竜と呼称されるドラグーンのスキルが、自身の錬力を大幅に奪って行く。その力を腕のエクリュの爪に注ぎ込めば、白銀の爪は生体バイクへと叩き込まれる。
「ぐぁっ!」
が、相手の速度はそれ以上だった。受け止められ、逆に吹き飛ばされてしまう彼。
(まずい!)
信人の話では、壁は相当脆い。体を捻る雅土だが、間に合わず、人型の穴が開いてしまった。
「ここじゃ、ガトリング砲使えない。えぇと、こう言う時は‥‥」
がちゃがちゃと、積み込んだ武器をチョイスする水理。持ってきた中で選んだのは、特別仕様のガトリング砲だ。それを、古い映画のワンシーンのように箱乗りして、狙いを定める。響が安定走行を心がけてくれているおかげで、窓枠でセーラー服がひらひらと揺れていた。
『この辺は倉庫街だ。遠慮せずにぶっ放せ!』
「うんっ」
たとえ外れても、誰かを怪我させる心配はないらしい。雅土のナビゲートに従い、彼女はえいやっとその引き金を絞る。が、やはり彼女の腕では、本職のスナイパーほどには行かなかった。逆に、シートベルトを外したせいか、発射の反動で、車内に放り込まれ、背中を思いっきり打ち付けてしまう。
「大丈夫ですか?」
「うん、平気っ」
すぐさま身を起こす水理。あちこちずきずき痛むが、文句は言っていられない。
「く、案外と丈夫だなっ」
その間、雅土が再びバイク形態に戻しておいかけているが、安定しないので、ペイント弾が無駄に消費されるだけだった。そうしている間に、バイクは路地を曲がってしまう。
「合流するつもりみたいです。こちらも追いかけましょう!」
くねくねと入り組んだ路地を把握している所を見ると、相手も土地柄とバイクの特製を熟知している。そう判断した響は、まずその足を止めるべく、回り道を敢行するのだった。
その頃、生体バイクに追いついたB班はと言うと。
「さて、ここから先は行き止まりだよ」
アーマー形態に変形したランディが、S−01の銃口を向ける。何とか転倒はしないで済み、後ろはドクターのファミラーゼがマークしている。ためらいなく、竜の爪を乗せ、発砲する彼。だが、命中したものの、生体バイクの装甲に弾かれてしまった。
直後、相手の足が地面から離れる。突破するつもりだ。
「悪いが、重装甲高機動なのが本領なんでな!リンドヴルムの装甲は伊達じゃないんだ!」
自分を撥ねてでも、押し通ろうとしている。そう判断したランディ、竜の鱗と翼を起動させた。加速し、装甲を上げたAUKVなら、踏みとどまれる。そう思い、左手のイアリスを持ち変えた。
(たたっ斬ってやる!)
ヴぃんっと加速する生体バイク。イアリスの両刃に竜の爪を乗せ、そのバイクへと振り下ろした。
だが。
「なにっ!?」
手ごたえは、あった。だが、その刃は上に乗るバグアの腕先で止められ、なおかつ本人がメットの中でにやにやと笑っているのが垣間見えた。
「うわっ」
返す刀で。いや、バイクで弾き飛ばされるランディ。細身の体が宙に浮かび、地面に叩きつけられる。その間に、バイクは路地の向こう側へ。追いかけようにも、車では細くて入らない道だった。
「まずいな。相手、相当強いぞ‥‥」
ようやく起き上がるランディ。全身がバラバラになりそうなほど痛い。どうやら、衝撃であちこち折れたようだ。
「一端治療した方がいいんじゃないかね〜?」
「そんな暇はなさそうだけどね」
本当は、すぐにでもどうにかしたかったが、既にその路地の向こうから、戦闘の音楽に似た銃声が聞こえてくる。急いで向わなければならないようだった。
「気をつけたまえ。敵は一筋縄ではいかないようだよ」
「分かってる。パーツの確保か、破壊が優先だ」
ドクターが練成治療を施してくれる。それにより、幾分動けるようになったランディは、痛む全身を押して、再びリンドブルムに跨るのだった。
「ふむ。こちらドクター。合流ターゲットはランディくんのイアリスをはじいた。大きさは大型バイクと、大男が乗っていると言ったところだ。膂力と防御力が今までとは違うくらい盛大だ。単純なアタックでも通らない可能性が高い。ただ、能力に取り立てて特殊なものはないのが弱点と言えば弱点だ。気をつけてくれたまえ」
彼も、ただ後ろで見ていたわけではないらしい。相手の様子を的確に捉え、無線機で全車両に通達している。
「後はサンプルだけか。ランディくん、それを貰おう。研究所並とは言わないが、何か分かるかもしれない」
ドクターはそれを終えると、イアリスについたバグアの血を採取し、丁重に保存用カプセルへ収めるのだった。
残りのA班は、二台のAUKVを要する一人と二条 更紗(
gb1862)だ。リンドブルムに搭乗した更紗は、ふうとため息をつく。
「相方はカズトですか。縁があるのか無いのか」
「そう言うなよ。これが一番効率がいいってんだから」
地図をしまい込み、そう答える一人。確かに、細い路地の多いこの町では、バイクのほうが動きやすいだろう。信人が壁を壊したと呻いていたから、よくわかる。
「この先が待ちの広場になってるみたいですわ」
更紗、地図は覚えているらしい。多少の誤差はあったものの、程なくして人の集まっている所に出た。
「よう。この辺りででかいバイクを‥‥」
言いかけた一人に、向こうの地元住人は、ニヤニヤとした顔を浮かべている。金でも要求されるかなと思った一人、腰の貴重品入れに手を伸ばすが。
「なんだ。可愛い子が2人も現れやがったぜ。何聞きたいんだか知らないけど、話なら、その辺でゆっくり聞こうじゃねぇか」
どうやら相手の狙いは、それよりも彼ら自身のようだ。一人の女性めいた顔立ちに、更紗の日本人形めいた長い黒髪と白い肌。欧米人の興味を引いてもおかしくはない。
「をほほほ。褒めても何も出ませんわよ。さぁカズト、ここはお相手を‥‥」
認めたかぁないが、自分がえっちな目に合うよりは何倍もマシなので、ずりずりとリンドを後ずさりさせる更紗。
「学生にたかるなよなー。って、おい!?」
AUKVを見張っていてもらおうと思っていた一人。どういうわけか物陰からこっそり見張っている更紗を見て、自分が生贄にさせられそうな状態だと悟る。地元の人はそんな事気付きもせず、綺麗な獲物を前に、鼻の下を伸ばしているのだが。
「悪いな。オファーに応じてる暇はねぇんだ」
これが普段なら、ギターの演奏代でも徴収して撤収と言ったところだが、今そんな時間はないので、とっとと回れ右である。
「情報料払うまでもなかったな。あいつら、こっちを舐めてやがる」
どういうわけか、どこへ言ってもそんな感じだった。そう感じる一人だったが、それもその筈、走り回っているうち、どこからかバイクの排気音が聞こえてきたからだ。
「場所を特定しました。中和率の高いほうですわ」
ヘッドセットのノイズが若干薄れてきて居るところ見ると、追いかけて居るのは信人だろう。覚えた地図を元に向えば、壁の砕ける音と白煙、蛍光色に塗られた背中が見えた。
「おっし。行くぜ二条! 遅れるなよ!!」
照明銃をぶっ放し、現在地を知らせる一人、そのままミカエルを出発させる。
「ご一緒するのはダンスパーティー以来ですが、宜しくお願いしますよ」
同じく更紗もリンドブルムを発車させた。程なくして、ヘッドセットで他のチームへと報告する。
『目標補足、追尾捕獲開始です』
そしてココが腕の見せ所。と、一人も同じ事を考えていたらしく、誰ともなしにこう叫んだ。
「ライディングなら少しは覚えがあるんだ、そう簡単に俺を振り切れると思うなよ!」
ミカエルの機動力は、リンドブルムよりも秀でている。程なくして、更紗と距離が開いた。どうやら、前にでるつもりのようだ。
「気を逸らします、そのうちに前にでて敵の頭を押さえて下さい」
ならば、やる事は決まってくる。肉薄し、プレッシャーをかけるべく、更紗は生体バイクの元へと急いだ。
「乗ってる奴は後回しでもOK、まずは足を潰すぜ!」
そう言うと、バイクの横へ無理やり割り込む一人。追い抜きざま、ちらりとメットの中を見れば、その口元は笑っている。気に食わない感情が支配する中、彼は迷わずアーマーを装着していた。
「ふざけるなよぉぉぉ!」
想いが、竜の咆哮となる。威力の加算されたその一撃は、生体バイク本体を直撃する。
「心得ました。挟撃しますわよ!」
そんな彼を援護するように、後ろをふさぐ更紗。携帯したグラディヴァをぶっ放して牽制中だ。青い銃身が彼女の白い肌によく生えた。
「いっけぇぇぇぇ!!」
一人、竜の翼で距離を詰める。足を潰す、の言葉どおり、生体キメラに超圧縮レーザーをお見舞いしていた。
「やったか?」
爆炎があがる。二人が見守る中、現れたのはバイクから下りた影。
「上の、生きてますわっ!」
気付いた更紗が警告する。更紗の見る限り、その頭部には大きな鋲が生えており、ぶつかったらただではすまない。直後、一人は更紗の前に立ちふさがっていた。
「ぐあっ」
装甲ががりがりと削られる。崩れ落ちる一人。と、その時だった。生体バイクがもう一台、目の前を走り抜ける。花びらをたなびかせながら。
「薔薇?」
色とりどりに見えるそれには、仄かな香がついていた。ローズの香。
「無粋な。追いかけてきたら、こんなところに出くわすとはね‥‥」
その花びらと共に現れたのは響だ。いや。彼ばかりではない。Cチームが姿を見せている。
(狙いは箱‥‥!)
水理、黙って狙いを定めている。射手の指輪がその力を発揮して、視界をクリアにしてくれる。
「これでも食らえ!」
ずしゅっとわかなライフルが火を噴いた。手数を多くするため、既に限界は超えている。そのせいか、生体バイクの周囲に土煙が待った。雅土がそれに合わせるようにして、小銃を乱射する。閃光手榴弾が舞い、視界が覆われる。
「そろそろパーティーはお終りの時間です。心置きなく眠ってください。二度と目覚めぬ眠りへと、ね」
レインボーローズを一握りすれば、現れるのはガトリングシールド。それを手にした響は、迷わすキメラの足元へとぶっ放した。その間に、テンペランスへと持ち替えた更紗の目の色が、覚醒効果で変わっている。竜の翼と爪は、その威力を最大に引き出してくれる。
「こいつはさっきの礼だ!」
一人がエネルギーガンを乱射した。バイクに乗っていたバグアが、不利と悟ったのか、とっとと回れ右をする。残されたキメラが、きしゃあと前足を振り上げる用にしてウィリーしているが、放たれる弾丸の嵐は、それを許さない。
「産まれた事を3度後悔して逝け、この槍が水先案内人となる」
そこへ、更紗が肉薄し、キメラをその槍で突き刺すのだった。
パーツより先に、まずは治療となった。
「これでよし。残念ながら、カズトくんとランディくんの怪我は、我輩の力も及ばぬところだ。どうやら、上に乗っていたのは、キメラや今までのバグアとは違うようだね」
だが、思ったよりも皆の怪我が酷く、特に体当たり組2人の怪我は、中々治らない。それでもランディは、こう提案する。
「パーツを確保した。可能ならスカイスクレイパーに乗せて、この戦線を離脱をした方がいいと思うんだが。どうかな?」
「俺は構わん」
信人は預かる事に賛成のようだ。と、そんな中、水理が気がかりな事を口にする。
「レンくん‥‥どこに消えちゃったんだろ」
姿は見えなかった。もしかしたら、今もどこかで見て居るのかもしれない。安心している所に現れて、パーツを取られるのは嫌だなと思っていたら、横の道路から近づく車の音。
「驚かせてごめんなさい。私です」
現れたのは、リティシアとカラスだった。ほっと胸をなでおろす傭兵達の前で、彼は難しい表情を貼り付けたまま、パーツの箱に近づく。
「それなんだけど、気になる事がある。ドクター、ちょっと手伝ってくれ」
どうやら開けるつもりらしい。サイエンティストのドクターにかかれば、その開封はお手の物‥‥だったのだが。
「これは‥‥」
開いた中に詰まっていたのは、金属で出来たレンの人形。まるでカラフルな内装で、あちこちに壊れたオモチャが転がっており、『残念でした』のプレート付き。
「カーくんと一緒に、3台以外を探したのですけど、これを見て下さいな」
リティシアが見せた画像には、使われていない地下鉄から走り去って行くもう一台‥‥そう、最初にカラスが手にしていたのと同じ画像のバイクだ‥‥が映っていた。
「レンくん相手だと、普通に戦って勝つのは難しいんだね‥‥」
せっかく、ガトリング砲にペイント弾を詰め込んでいたのに‥‥と、悲しい顔でそう呟く水理だった。