●リプレイ本文
カンパネラの生徒会室は、地上の本校舎にある。別にに、出入りを咎められるような事はしていないので、アグレッサー部隊を引き受けた数人は、部室へ向かっていた。
「あら、こんにちは。皆さんでどうなされました?」
執務室で、にっこりと笑顔を見せる会長。既に顔見知りの百地が「久しぶり。元気だった?」と答える中、龍深城・我斬(
ga8283)が准将の横っ腹をつつく。
「ほら准将」
「あー、今度のアルバトロスの件だ」
一応、事前アポの取り付けをしたのは准将だ。が、根回しとか面倒くさい事が苦手だと言っていた彼、聖那にこう言ってご挨拶。
「お初にお目にかかる、LH傭兵の龍深城・我斬だ、こんどのトライアルではお手柔らかにな」
「ボクは荒巻美琴、グラップラーだよ」
荒巻 美琴(
ga4863)もそれに続いた。と、彼女はいつもと同じ柔らかな雰囲気を漂わせながら、「まぁ、ご丁寧にありがとうございます」と同じく一礼してくれる。
「あの新型には興味があってね、そいつを扱う相手を見ておきたかったのさ」
そのいかにも深窓の令嬢と言った雰囲気に、我斬はじぃっと見つめるようにしてそう言った。
「うふふ。これも役目ですから。鳥さんにのって泳ぐなんて、中々出来ませんものね」
一見した限り、普通の学生だ。
「機会があれば聖那さんともお手合わせ願いたいものです」
自機のテストを兼ねて参戦というフィルト=リンク(
gb5706)も、そう言っていたが、彼女は笑顔を浮かべているだけだ。
「そりゃそうね。じゃあ、他の面々の名前、教えてもらえる?」
「あ、はい。確か‥‥」
百地が突っ込むと、ぺらぺらと所属と年齢を教えてもらえる。相手にも通達してあるそうだ。
「意外とあっさり引っかかったわね」
「何か隠し玉があるのかもしれません。注意してくださいな」
素直すぎるのが、引っかかる百地。フェルトにそう言われ、対象へとアプローチをかけるのだった。
「学園生徒から、テスター依頼受けてる者を探せといわれてもなぁ‥‥」
その頃、キャプテン・エミター(
gb5340)は多少げんなりした表情で、学食にいた。彼女が、生徒が開発したとか言うおから入りヘルシーハンバーグをオーダーし、きょろきょろと周囲を見回している。
「というわけで、これが例の話よ。こっちは多少手加減できるけどね」
百地が何やらこそこそと生徒にアプローチしている。確か、管理部の生徒だった覚えがあった。
「なるほど。会長副会長の周囲ってことか。それなら、なんとかなるかもしれない」
数千人規模いる中から、闇雲に依頼を受けている者を探しても埒が明かない。そう考えたキャプテン、とりあえず生徒会執行部に名前を連ねている生徒なのではないかと、所属するクラスを訪ねていた。
「と言うわけだ。やっぱり、正々堂々と勝負したいだろう? そっちも、こっちがなに出てくるか、気になると思うけど」
放課後、限定ホットケーキボールに、これまた限定キャロットプリンを並べながら、そう聞いているキャプテンの姿があった。隠し事の出来る性格でないのは、彼女自身もよくご存知なので、こちらの参加メンバーと、対応機種を明かしながら、機体の種類を聞きだしている。
(ふっ、単純だな。こっちは隠すべき情報など何もないから、いくらでも手札が切れると言うのに)
キャプテン、メタルヒーローの割には、微妙に黒い。
「と言うわけで、向こうの情報はこの通りよ」
フィルトが、百地から受け取ったメンバー表を見せている。こちらのメンバー表も、向こうには届いている筈だ。これで、正々堂々と勝負が出来ると、我斬は頷いている。
「カメラの取り付け、終わりましたー」
「ご苦労様。新型の性能を確かめるには、実際に対峙してみるのが一番ですしね」
機体のアクセサリスロットに、カメラを装備していた佐渡川 歩(
gb4026)に、マグローン(
gb3046)がそう答えている。
「ナオミさん、空からの様子はどうです?」
フェイト・グラスベル(
gb5417)が通信機越しに言った。カメラはまず、空中へと上がったようだ。そこには、ナオミ・セルフィス(
ga5325)がイビルアイズに乗って、周囲にバグアロックオンキャンセラーを撒きつつ、相手の動向を探っている。
「こちらから確認は出来ないな。市街地から堂々と入り込んだわけではなさそう」
細長い作戦エリア。一昔前の番組に出てきたコロニーのような町だった。だが、その山間部に、KVは影も形も見えない。身体的能力に優れているのは、傭兵の常だが、それでも山の中に戦力を割いているようには見えなかった。
「やはり、上から見下ろすのは厳しいね。向こうもそれなりに考えているってところかな」
援護が来るようには見えないものの、もう少し空中を紹介してみようと考えるナオミ。思うところはあるが、記録にとられている以上、それ以上の事を口にするつもりはないようだ。
「やっぱり、空からくるつもりはないようだね‥‥」
彼女は、敵陸上班がいると思われるエリアで旋回飛行を続けて見たが、やはり空に戦力を張る予定はなさそうだ。
「荒巻さんの予想通りみたいですね。だとすると、次はこっちですか」
3班に分け防衛配置を考えていたフェイト、その情報に、絞り込んだプランの中から、適当なものを選択する。新型の性能を充分に引き出す為、彼女のいる陸上市街地班は、港のほうへと向かった。
「山中班、港のほうへ頼む」
「了解。市街地よりやや先へ待機する」
一方では、フェイトの指示で、ナオミが我斬に通信している。空の敵がいない保証もない為、山側へと部隊を配備していた。
「OK。そんじゃ、待ち伏せ班は動くとしますか。キャプテン、市街地の方から回りこむぞ」
「了解。しかし、上手く行きますかね」
担当は、我斬とキャプテンのようである。ナオミのイビルアイズとデータをリンクさせ、山側に切り立った方へと進む。
「さぁな。小細工の苦手な俺としては、どうでもいいが!」
眼下の市街地に、フィルト達の姿が見える。港の部隊と合流するようだ。しかし、彼らの周辺に敵の姿はなかった。どうやら、山の周囲に配備はしない模様。
「ナオミさんが空から援護してくれるようですが、相手は海から出てくる気はないようです」
フィルトが変わらない口調で言った。
「だったら、引きずり出すだけだっ」
仕方なく、市街地近くまで降りる事になる。ところが、その時だった。
「こちら空中哨戒機。敵部隊の到着を確認。山中班、至急港の方までお願いします」
「もう向かってるって」
町に近い北東の山に潜んでいたフェイト、そう言って、ナオミの指示に従い、フィルトと共に街中へと降りていく。足元の悪い我斬は、足のレッグドリルで岩をがりがりと削りながら、土煙を上げて、市街地へと降りて言った。
「射程範囲へ到着。敵影、4機!」
相手にとって申し分はない。黒い点にしか見えないが、フェイトは構わずスナイパーライフルの狙いを定める。
「さてさて、お客様の御到着なのですよー」
そのまま、トリガーを絞る彼女。ぶしゅうっと飛んで言った実弾は、相手の機体にひらりとかわされてしまう。
「射撃が、途切れない用にしないと。こちらの条件を満たしてくれているんですからっ」
「さぁ、今こそ根性を見せる時です!!」
が、彼女はすぐさま建物の影に隠れると、ガトリング砲で応戦していた。フィルトも同じ様に、副兵装を使っている。が、狙いは定まらない。
「新型の陸上性能のテストはどうですか? 聖那さんっ」
『残念。彼女なら下だよ』
通信機ごし、答えたのは聞き覚えのある声、見れば、やってきたのはロングボウ。その特製であるミサイルを大量乱射する。彼も牽制なのか、狙いは定めていない。
「ぐぬぬ。負けませんよー!」
ナオミが相手をしている間、フェイトが距離を中距離まで縮め、人型へと変形し、アイギスを構えて手近な敵機にブースト突撃していた。管理部の生徒が動かしていたと思しき翔幻が大破している。シールドチャージを併用したその姿は、まるで狙い撃つ盾だ。
「見せてもらおうか、メルス・メスの水中用KVの性能とやらを!!」
その間に、ちょうど挟撃する形へ、入り江にキャプテンたちが下りてくる。我斬も同じ様に続いた。
「さあ、日頃の学習の成果を見せて貰うぜ学生さん」
電子戦機は1機だけいるはずだ。探すと、後ろのほうにウーフーの姿がある。
「こうなったら‥‥突撃なのですよ〜!」
「了解だ。多少強引だが、仕方あるまいっ」
そこへ、フェイトがディフェンダーを振るった。直後、我斬がウーフーに迫る。期せずして挟撃する形になった彼女、盾ごしに剣を突き立てていた。
「なるほど、支援機を狙いますか。悪くない案ですが」
「寺田って言う教師だったな。相手にとって不足はない。叩かせて貰う!」
ウーフーに乗っているのは寺田のようだ。あまりやる気があるようには見えない彼へ肉薄する我斬。と、その時だった。水中から鎖が伸びてくる。足元を崩され、引きずり込まれる我斬の機体。
「ハイで何ともない奴には、こいつだ!」
キャプテンがそう言って、自身のハンマーボールを投げつける。しかし、水中へ落ちたそれは、水の抵抗で減速してしまう。
「くっ、メルス・メスの新型は化け物か!」
逆に水中へと引きずり込まれ、チェックメイトになる。
「やれやれ。これは准将に何かご馳走してもらわないと、割があわないかもしれないな」
そうぼやくフィルト。後で、皆を巻き込んでご馳走させてやろうと思う。
「くっそぉぉぉ、もう1機くらいやれると思ったのにー!」
「そうでもないですよ。粉砕凶撃手と言ったところでしょうか」
ペイントだらけで真っ黒になっている我斬が、悔しそうに気炎を上げている。そこへ、返礼と言わんばかりに、寺田が評価を下していた。
「‥‥陸チーム、通信途絶。やはり決戦は海でしょうか」
その記録は、空中に待機していたナオミのイビルアイズを通じ、陸側の面々にも伝えられた。情報管制やくのナオミは、各自へとその一部始終を送る。
「ボクの予想では戦闘の流れは海から陸に上がってくる感じかな。でないとアルバドロスの活躍を見せてあげられないと思うし」
美琴がそう言いながら、海のほうへと向かう。初めて乗るらしいビーストソウルだが、問題なく言おう事を聞いてくれそうだ。
「では‥‥ダンスパーティーの幕をあけましょうか」
「テンタクルスの力を見せてあげましょう!」
マグローンと佐渡川は、テンタクルスに乗っているらしい。水質のせいか、視界のあまりよろしくない港の入り口にたどり着くと、程なくして反応があった。
「テスター機、センサーに反応あり。港のほうです」
マグローンが、空中のナオミに通信を送る。海側テスター陣営は、こちらと同じくらいの数だった。
「先頭は聖那さんみたいだね」
美琴がそう言った。手に、水中用の武器を持ったアルバトロス。形状が日本刀の柄に酷似しているが、見慣れないものだった。
「その試作品、見せてね!」
早速、熱源感知型ホーミングミサイルをお見舞いする美琴。ぶしゅううっと水音を立てながら水中をぶっ飛んでいく。だが、アルバトロスに乗った聖那は、それを受け止めていた。
「こんなものでやられないで下さいよ?」
と、同時に、マグローンが距離を縮める。後ろのテンタクルス向かってニードルガンを撃ってみた。タイミングを合わせ、佐渡川が同じ様にホーミングミサイルを放つ。
「‥‥やりましたか?」
「いえ、まだ来ます! 数は‥‥3機!」
佐渡川がそう言うが、マグローンのモニターには、相変わらず元気な3機が移っていた。1人、水中用の槍を持っている。そこへ、マグローンは向かった。
「1つ任せました。すみませんが、そう簡単に撃破されるわけにはいかないのですよ」
そう言って、槍もちを相手にする彼。無言で槍を振り回すアルバトロス。三叉に分かれた槍は試作品だろう。がっちりと受け止めた後、深度を下げる機体。その的確な動きに、マグローンは違和感を覚える。
「聖那さんじゃ、ありませんね?」
『こちらティグレス。本人のたっての希望により、通信機はオフにさせてもらった。悪いが、気取られるわけに行かないんでな』
そのセリフが、マグローンに聖那の素直さ加減の裏返しだと悟る。
「ばれてません?」
「いや、考え方としては、悪くないでしょう」
佐渡川の問いに、彼はそう言った。こちらの策が見通されているわけではなさそうだ。その証拠に、向こうもがっちりとこっちの武器をくわえこんだまま、深度を上げようとしている。自分の得意なフィールドへ持ち込もうとしているようだ。
「向こうも積極的に来てますね。時間制限前に、どうにかなるかもしれないです」
「では、こっちも私語は慎みましょう。会話を録音されていては、もとも子もありませんからね」
佐渡川が、機内に納められたタイマーを見てそう言う。マグローンが答え、彼らはおのおのの武器で、深度を上げようとするアルバトロスに追いすがろうとする。しかし、そこは相手も機動性を誇る機体。追いつくより前に、深度系が危険信号を出してしまう。
「魚雷まだ残ってるって言うのにー!」
その前に接近戦になりそうだ。ぼやく美琴だが、逃げられてたまるかと、その残った魚雷をぶっ放す。命中したものの、相手はまだまだ元気だ。その間に、マグローンが大蛇を取り出していた。
「ふっ、新型であろうと、この大蛇で一飲みにして差し上げますよ」
そう言って、ぐっと剣を握り締めた直後、人型に変形していたアルバトロス距離を詰める。その武器からして聖那の機体。だが、こちらには既に余力がない。
「‥‥ぐっ!? いつの間に変形を‥‥っ」
美琴が何とか自分も変形し、水中用ディフェンダーで防御しようとするも、剣を抜く前に、その水中用試作日本刀で、マグローンはたたっ切られてしまった。
「こいつ、速いぞ!?」
美琴が次なる一手を防ごうとするも、その間に彼女は深く暗い海の底へ。追いかけきれないビーストソウル。その間に、ティグレスの機体が、牽制に動いていたらしい佐渡川のテンタクルスへと肉薄する。
「うわーもうだめだー」
どぉんっとチェックメイトの水柱。
「ふ、普通にやられた気がする」
自ら上がった3人が、ペイントだらけの機体を見て、そうぼやいたとかなんとか。
なお、破損金額は全部で990万程度だったらしい。