タイトル:【DR】堕天使の城マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/06 07:07

●オープニング本文


●北からの刺客
 極東ロシアに、バグアの軍事的な拠点が建造されている。それは、一番近い町であるからでも1000km。その上空では、ラインホールドが移動を開始し、続々と姿を見せていた。
 星の海の権利を奪われた今、そんな奥地に建造された品を探し出すのは、直接行くしかない。被害を出しつつも確かめられたそこには、ラインホールドと鉱山を守護するように、雪原仕様のサンドウォーム、そしてアースクエイクが複数展開していた。中には、見慣れないものもある。
 一般の人々は、彼らがそこにいる事すら気付いていないのかもしれない。だが、傭兵やUPC軍はそうはいかない。例え、岩龍に写っていた光景が、畏怖するものであったとしてもだ。
 それがわかったのは、ラインホールドが移動を開始し、その周囲を固めるように、全長11mほどの大型ワーム‥‥アグリッパが配備されている。彼らを倒さなければ、その奥にある鉱山はおろか、ラインホールドにすら、触れる事は出来ないだろう。
 そのラインホールドとアグリッパを確かめ‥‥撃墜された岩龍。そのカメラを解析していたカラスは、もう1つの映像が写りこんでいたのを発見していた。
「だらしないなぁ。何ビビってんの?」
 怒鳴り散らすバークレー。その後ろから、そう声がした。振り返れば、ブリッジに少年の姿だ。
「き、貴様は‥‥」
「い、いつこっちに‥‥」
 驚愕するバグア達。相変わらず心の底から楽しんでいるような笑顔を浮かべた、ファンタジー仕様の少年。ゾディアックの一人、甲斐蓮斗である。
「面白そうだから、やりにきたんだよん。文句ある?」
 つかつかと歩み寄った彼は、手近な席にいた一人をつかみ上げる。少年とは思えない膂力。「まぁいいや。リリアンちゃんにも頼まれたし、北は僕らの領域。餌や材料に事欠かないしね」
 くくくっと笑って、勝手に参戦を決めてしまうレン。
「あいつらの事だから、もうすぐここにやってくると思うよ。アグリッパ一体だけじゃ物足りないから、貸して上げるよ」
 その懐から飛んできたナイフが、カメラを直撃し、周囲がブラックアウトする。だが直後、鉱山の北側に座するアグリッパの周囲には、メイズリフレクターとイリュージョナーが展開したとの報告が入っていた。
「キミの名前はマルキダエル。天使の王様の名前だよ」
 そう‥‥まるで、邪神の城を構築するかのように。

●エンジェルダスト
 さて、その城の外側では。
「このあたりかなー」
 ウチーダヌイ上空。北の外輪部近くに、レンの姿があった。アグリッパの肩辺りにのぼり、笑みさえ浮かべている。周囲にはきらきらと輝くメイズリフレクター。地上にはマインドイリュージョナーが配され、迷宮を作り出している。と、その直後、ワームから人のようなものが射出された。
「ふふ、こんなところに君達人間は踏み入れるべきじゃないよ。さぁ、迎えにおいで。天使達」
 そう言って、彼が呼び出したもの。それは、少しいびつな‥‥古い壁画やカタコーム、それに書物などに描かれた天使を具象化した姿だった。ただ、顔だけは人だった。それはある傭兵の姿に似ている。
「何だアレは!?」
 監視に当たっていたUPCがあわただしくなる。そこへ、通信に割り込むようにして、レンが映し出された。
「人間ってもろいよね。少し温度下げるだけでいいんだもん」
「ゾディアック‥‥みずがめ座がなぜここに‥‥!?」
 驚く彼ら。偵察では、彼が来ているなど、書かれてはいなかったのに。だが直後、監視用の岩龍にその天使が音もなく降り注いだ。
「人の子はよく言ったものだよね。天使が魂の導き手だなんて。つまり死ぬってことなのに」
 その実体はキメラなのかワームなのか定かではない。攻撃され、慌てふためく監視所を他所に、楽しげにそう言うレン。

 その報告は、すぐさまラスホプにももたらされた。
「つまり、北側のアグリッパにはみずがめ座が堕天使を用意してきた‥‥と」
『そう言うことだな。この城を攻略するのは、並大抵ではないだろうが‥‥よろしく頼む』
 本来なら、複数のチームで当たるべき懸案事項だろう。だが相手は、こちらの手のうちを知り尽くしている可能性がある。また、ラインホールド落としを考慮すると、それほど戦力は回せない。そこで、戦力にもなりうる係をひとり放り込んだと言うわけだ。
「やれやれ。いっつもボクが引くのは貧乏くじかな」
 本部で苦笑するカラス。バレンタインも、結局伯爵が美味しいとこ持って行ったような気がする。チョコをくれた女性はいたけれど、それでも若干寂しい気分になりつつ、参戦を了承するのだった。

『ウチーダヌイ北部に現れたアグリッパを攻略する。相手はレンとこちらのクローンを使用したらしい新型キメラだ。少数精鋭で挑む事になるけど、僕も手伝うからよろしく』

 なお、ファームライドを持ってきているかどうかは、今のところ定かではないらしい。

●参加者一覧

水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
Mk(ga8785
21歳・♂・DF
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA

●リプレイ本文

 乾いた大地に、冷たい風が吹き抜ける。周囲は大陸特有の先の細い木々が繁茂し、ところどころに文明の名残がある。ウダーチヌイ周辺は、そんな場所だった。
「揃ったようだね。じゃ、始めようか」
 ラスホプの一画。出発前に、打ち合わせを済ませておきたいと霧島が言うので、一行はオペレーション・ルームに集まっていた。どういうわけか、UNKNOWN(ga4276)が暖かい飲み物を皆に配っている。相変わらず上から下まで一部の隙もない黒コートだが、カラスも似たような格好な上、誰もツッコミを入れない。それほど、今回の任務は危険だと言う認識があるのだろう。
「軍の見解はどうなんだい? カラス」
「いつもと同じさ。あれを壊さないと、先に進めないの一点張り。ま、あれくらいの大きさになると、通常兵器は中々面倒だからね。よろしく頼むよ」
 霧島 亜夜(ga3511)の問いに、カラスは壁にかけられたプロジェクターに、資料と称する見解書を表示する。細かい数値や説明の記されたそれは、ぱっと見ると何が書いてあるか今ひとつわかり難いが、カラスは代わりに地図をテーブルに出した。
「ふむ。これが現地か‥‥」
「このあたりにAUKVが行ってる。小雪くらいはちらつくと思うし、気温はこのくらい。ここに川。こっちに廃墟の町。大体駐留軍の数がこれ」
 興味深そうに記憶へと留めようとするアンノウンに、カラスは一つ一つ数値を指し示しながら、そう言った。
「懐炉と非常食があれば、どうにかなりそうだな」
「機体に偵察用カメラつけたいんだけど」
 アンノウンと霧島に言われ、カラスは『OK』のサインを出す。冬の活動に必要そうなものは、一通り大丈夫そうだ。
「後はこれを配って‥‥と。写真とかはないの?」
「戦闘記録からひっぱってきたのはこっちだけど‥‥。場所違うからねぇ」
 ひたすら森と市街地しか書いていない大雑把な地図を用意しながら、キョーコ・クルック(ga4770)が問うと、カラスは画像から引っ張り出した写真を見せてくれる。それを、モニターに積ませていると、水理 和奏(ga1500)が覗き込むようにして、首をかしげる。
「んと、何か注意しなきゃいけないことあるかなぁ。敵の対処法とか、侵入路とか」
「んー。そうだねー。このセッティングだと、空中で『がら空き』になっちゃう可能性あるから」
 EQ対応に、振動を関知するセッティングにしてある和奏の機体。だがそれは、陸戦でこそ真価を発揮するもの。空中では今ひとつ不安が残るようだ。
「すごいなぁ。あ、そうだ。この間言ってた機体だけど、何か決まった?」
 と、和奏、整備の腕も確からしいカラスに、感嘆の声を上げながら、以前言ってた新しい機体の事を聞いていた。
「いや、まだなんだよね。目移りしちゃって」
「んじゃあ、カラスさんにはフェイルノートで射撃の敵一掃がお勧め☆ 伯爵さんとも名コンビだし今なら僕のK02も貸しちゃう!」
 ロッタの真似をしながら、携帯品リストを見せる和奏。そんな彼女に、カラスは苦笑しながらも、こう言ってくれた。
「あはは。あれはミクちゃんの妄想じゃないかな。でもありがとう。せっかくだから使わせて貰うよ」
 手元の書類は、ULTへの発注書のようだ。カラスの話では、皆が出発するまでには間に合うだろうとの事。
「後詰めは任せたぜ。レンの奴、何を隠してるかわからないしな‥‥」
 霧島が作業を進めるカラスにそう言い残し、自分の機体へと向かう。自分のクローンは自分でケリをつけたい。ウダーチヌイ偵察に赴いた事もある。だがそれ以前に、そのあたりにいるであろうレンと話してみたかった。
(AWン時も、殺されはしなかったからな‥‥)
 まだ、数える程しか会っていないが、その隠された人の部分を信じたい霧島。
「何、全部ぶっ壊せば良い話だろ」
 豪快にそんな事を言う煉。つい最近小隊を設立したばかりだそうで、初陣の今回に気合が入っているようだ。
(前線に出るあいつらの為にもな‥‥)
 願わくば。気合が空回りしない事を祈るばかりである。

 マルキダエル。
 誰が呼んだか知らないが、カラスの説明ではそうなっていた。古い書物によれば、偽神の意味を持つ。いわば邪神とも言えるその空域に、傭兵達の姿があった。
 だが、その空域には、すでにメイズリフレクター‥‥略称MRが展開している。まるで城の入り口を模したようなそれの、門柱はおそらくキューブワーム‥‥略称CWだろう。遠くからでもわかるあたり、一体何匹いるのか、見当も付かなかった。
「エネミータリホー、ボギー‥‥‥数えるだけ無駄か」
 ナンバリングを行おうとした伊藤 毅(ga2610)だが、その数の多さに、途中で数えるのをやめてしまう。その横を、遊撃部隊のキョーコとヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)がすり抜けて行った。それにあわせて、霧島がジャミング装置を起動させる。本人曰く、『偵察機体』だそうなので、伊藤は僚機の護衛に専念する事にした。
「しかし、悪趣味な展示会だ。早々に閉会願おう」
 ヴァレスがそう言った。その間に、戦線をかき乱すのは、彼ら遊撃班の役目だ。だが、それだけの数を一度に相手にすれば、疲弊するのはこちらだ。そう判断した、迂回するように北側へ回りこみ、まずはCWから片付ける事にする。
「お出迎えのようだな‥‥」
 すぐに、門兵のHW‥‥ヘルメットワームの意だ‥‥が遅いに来る。普段と違い、様子見フェイズを吹っ飛ばして、いきなりプロトン砲を撃って来た。いくらか改造されているらしく、衝撃で激しく揺さぶられる。しかも、フェザー砲の様に拡散させており、より広範囲の敵を補足できるようになっていた。回避能力の高いキョーコは、何とか避けられているが、それより低いヴァレスは、避けきれずに時々ダメージを受けてしまう。
「他の面々は?」
「今、堕天使の偵察に行った」
 ヴァレスの問いに答えた直後、すぐ脇を霧島と伊藤の機体がすり抜けていく。そして、追いかける手段をなくすかのように、CWとMRが壁になる。まずは空戦で応戦しようと、キョーコがレーザーを発射する。ヴァレスがスラスターライフルを撃ち、排除にかかっていた。が、強化した分、こぼれ弾が当たった程度でも、MRは増殖してしまう。
「さすがにMRも、強化されてるみたいね」
 キョーコがそう言った。全体的な底上げもだが、より過敏に反応しているようだ。外側のCWへ攻撃を仕掛け、少しでもジャミングを抑えるものの、あまり状況は変わっていない。
「親を探さないと、埒があかないな」
 ヴァレスがモニターをガン見しながらそう答えている。戦闘データでは、どこかに親ワームがいるはずだが、既に増殖し、どこにいるのかわからない。
「中身が八角形の奴が、どこかにいるはずなんだけど‥‥」
 キョーコもまずは親ワーム探しにシフトしている。HWからの攻撃をたくみに避け、時に防御しながら、目を凝らしていたのだが。
「うわ、MIが振ってきた」
 そこへ、2人の間を切り裂くように、巨大なきのこが振ってくる。砕かれたCWを土台にし、傘を開くマインドイリュージョナーことMI。その粒子が、お互いの機体に降り注ごうとしていた。
「やられる前に打ち落とすのが正解そうだねっ」
 空中へと旋回し、その効果範囲から離れようとする。追いかけては来ない。
「ここからは立ち入り禁止っぽいなー」
 その様子を見て、ヴァレスはそう感じた。まるで、ある程度のエリアで線引きをするかのように。そんなMIの効果範囲外から、最大射程で狙おうとするヴァレスだが、やはり遠すぎる上、囲みこむように、アグリッパの操るミサイル達はその外側まで追いかけて来た。
「回り込めっ」
 キョーコも同じ様に回避行動へ移っている。強化された彼女は、何とか7割がたを回避しているが、ヴァレスはその半数が命中し、中の彼にも強い衝撃が加わり、どこか怪我をしてしまったようだ。
「大丈夫っ?」
「まだいけるっ。鬼さんこちらっ」
 ヴァレス、追いかけるミサイルをUターンをかけるように避ける。が、ミサイルはマルキダエルに誘導されるように、軌道を変え、正面へと引き返してきたのだ。
「なにっ」
 機体を斜めに落とすヴァレス。が、ミサイルの直撃を避けられない。
『ふふ。そんなんじゃ、ボクのMRもMIも倒せないよん』
 被弾し、降下していくヴァレスに、どこからか少年の声がする。姿は見えないのは、やはりファームライドに乗っているのだろう。
「あれが、レンくんか‥‥」
『さぁて、それじゃあボクの天使にも頑張ってもらおうかな』
 ぱちりと、何かのスイッチを入れる音。と、その刹那、天空から雪が降るように現れる、いびつな翼。その顔は、霧島と和奏にそっくりだった。
「そんな姿をしてたって!」
 まるで、鎧を纏った2人そのもの。だが今、2人はそれぞれ別のチームとしてマルキダエルに挑んでいる筈である。惑わされないよう、アンジェリカの操縦桿を強く握り締めるキョーコ。そして、取り付かれた天使を振り落とすべく、機体を回転させる。いわゆるバレルロールと言う奴だ。
『あははは。そんなの対処済み!』
 あざ笑うようなレンの声。見れば、天使達はかすかにぬめっていた。高速で飛行するKVから振り落とされないよう、鍵爪らしきものがついている。そこから、まるで装甲をじわりと溶かすように、機体の表面に傷がついていく‥‥。
「これじゃ、K−01が撃てない‥‥」
『ほらほら、お尻に火が付いてるよ。上手く避けてね。まだ遊び足りないんだからさっ!』
 歯噛みするように、タイミングを計るキョーコ。しかし、その翼には次々と天使が取り付き、彼女自慢の回避能力すら、落とそうとしている。
「このぉぉぉ。落ちろっ!」
 ためらっている暇はない。後続の突撃部隊の為にも、着陸地点の安全を確保しなければ。そう思ったキョーコは、次々群がろうとする天使に、K−01を放つ。そして、MRの反射攻撃がこないよう、即座に踵を返すよう旋回した。見れば、ヴァレスも機体を高速回転させ、それに取り付けられたソードウイングで、12の翼に満遍なく取り付いた天使を、無理やり振り落としていた。
「損傷率はどう?」
「まずいね。外も中も」
 キョーコが確認してくる。そう答えるヴァレス。何とかエリアは抜け出したものの、まだ油断は出来ない。
「わかった。とりあえず下に降りましょ」
「ああ。乗り越えるのにも、こいつらをどうにかしないと駄目だしね」
 彼女の案に頷くようにして降下する。自機の状況に応じて、臨機応変に。それが遊撃部隊と言うものである。

 その頃、上空の偵察班は。
「さて、こちらはどうしましょう?」
「MRは無視。俺らの役目は偵察だ。適当に逃げ回って、新兵器だけ探しに行こうぜ」
 伊藤の問いに、そう答える霧島。下手に増殖されるとまずい。相手は遊撃班に任せておこうと。
「了解しました。では露払いと行きましょう」
 護衛の伊藤も、CWとHWだけ相手にするつもりのようだ。
「俺らの仕事は偵察だ。それに、レンも待ってる」
「そのゾディアックですが、遊撃班に現れたようですよ」
 FRの動向には気を払っていた伊藤が、遊撃班にFRに乗ったレンが、ちょっかいを出してきたようだ。因縁の浅からぬ自分達ではない事に、霧島の胸に小さな棘が生まれる。
「あいつめ‥‥。俺や水理をほったらかして、どういうつもりだ‥‥」
「最初に交戦したのが、彼らだからでしょう」
 それに、声だけで姿は見せていない。一番最初に引っ掻き回しにきた相手を、少し出迎えただけと言ったところか。
「‥‥偵察機は範疇外ってか。だったら、会いに行くまでだな」
 それでも、納得いかない霧島、そう言うと、MRを無視し、CW掃討に取り掛かる。と、こちらもそれがスイッチだったかのように、MIが振ってきた。舞う粉雪のように見えるが、幻覚を生むそれが周辺にふりそそぎ、モニターにも次々ノイズが走る。
「MIが出てきたようです。どうします?」
「面倒だ。突破するぞ」
 通信機からの断片的交信記録では、遊撃部隊が地上への降下を開始したようだ。支援部隊でもある彼らは、その陸戦機をナビゲートする為、同じ様に地上へと向かうよう指示する。
「せっかくだ。天使どものけりは、俺の手でつけてやる」
 機体についた分は、振り落としたようだが、油断は出来ないようだ。そう思い、支援する事を皆へも告げると、和奏が聞いてきた。
「レンくんは?」
「どうやら、アグリッパの方に逃げたみたいだな」
 いや、そもそもそこに居たかどうかも怪しいのだが。
「レンくん‥‥今回はどんな手で来るかな」
「ソードウイング対策はしてあるみたいだけどな」
 傭兵達に、これを好む者は多い。つまりは、バグア側にもよく知られた兵器なのだろう。和奏が口にした疑問に、霧島はそう答えるのだった。

 なぎ払われた残骸が、まるでコロシアムのような、すり鉢上の穴を作っている。その周囲には、CWの残骸と、増殖したMRが壁と観客席を形成し、そこに座る観客には天使達、そして背後に守護神のように、マルキダエルがそびえていた。
「こりゃあ、酷いなー」
 その状況に、顔を引きつらせる霧島。ペアを組んでいた伊藤も、黙って人型に変形させている。そこに、キョーコとヴァレスも人型で着地していた。
「こっちの方が良さそうだな。指示を頼むぜ」
 ヴァレスが機杭を取り出し、キョーコはKVアクスへと切り替えた。そんな彼女に指示を仰ぐと、有無を言わさない調子で、それぞれの機体へ指示をする。
「標的への進路上の敵だけを攻撃。可能な限り足を止めずに標的に向かう」
 人使いの荒いメイドさんだな‥‥と、ヴァレスは思ったが、黙っておいた。そんな中、霧島がロケットランチャーを天使達へと放つ。
「地面から来るわよ。あと、空も」
「了解。こっちも相手をしてやるぜっ」
 ごごごごと地表から伝わる振動。次の瞬間、まるで地下から呼び出された魔物のように、SWとAQが姿を見せる。そして、両側に彼らを従わせ、中央の‥‥貴賓席にあたる部分に、すぅっと姿を見せたのは、生身のレンだった。
『やれやれ。どうしても相手をしないといけないかなぁ』
 どこかくぐもった声。もしかしたら、幻影なのかもしれない。コロシアム中に響くような口調で、彼はそう言った。
「レンくん‥‥」
『面倒だから、エンジェル達に相手をして欲しかったんだけどねぇ。好きでしょ? こーゆーの』
 見上げる和奏。周囲の天使がざわめく中、沈黙を破るように、霧島が外部スピーカーへと切り替える。
「ああ。クローン完成したっていうから、寒いけどわざわざ来てやったぜ! そいつが天使なら‥‥俺は死神って所か?」
『ああ、その声は確か‥‥。こう言うとき何て言うんだっけ‥‥。そうだ。久しぶり、だったね』
 向こうも気付いたらしい。だが、まるで言葉を思い出すような、口調。
「レンの仕掛けは予想できないから楽しいけど、難易度たけーよ」
『予想できたら、面白くないだろ。攻略本は、ないからやりがいがあるんだよ』
 くくくっと、笑い声。その仕草は、北の地にいる少女の姿をしたバグアと、とてもよく似ている。
「ところでお前、リリアンと付き合ってるの?」
『何、それ。意味わかんない事言うなよな』
 やはり、知らない。そう確信した直後、貴賓席からレーザーのようなものが、霧島の機体を貫く。
「くはっ」
 不意打ちで、避け切れなかった。うずくまる霧島の機体に、レンは気まぐれなイタズラをするかのように、高く笑う。
『あはは。相手してやんない。エンジェル達、たかり殺してあげなよ』
 エンジェル達が動いた。なだれ込んでくるかのように飛び立つ。組み付かれたら、そう簡単に振りほどけないのを知っているキョーコ達は、決して留まらぬよう、ステップを踏む。そんな中、和奏はアップになった天使が、人形じみた顔をしているのに気付き、不満そうに叫んだ。
「ちょっとレンくん。僕の作ってくれるなら、もっと可愛く作ってよー!」
『そっかなー。かっこいーじゃん』
 どうやら、彼の感覚は、和奏達とは違うようだ。何とか、道を切り開こうと、彼らがマルキダエルの方向へ向かって、戦力を集中させた時だった。盛大に、近くのCWが吹き飛ぶ。
「すまねぇ! 遅くなった!」
 武藤 煉(gb1042)だった。いや、彼ばかりではない。アンノウンと、Mk(ga8785)の姿もある。
『脇役は、引っ込んでなよ!』
「脇役には脇役なりのあり方があるんだ‥‥前だけ見といてくれ、不安になる」
 レンが邪魔だとばかりに、MRの群を差し向ける。回避しながら、反論するMk。その目的は、潜んでいるはずの親探し。その間に、他の面々は、出来たばかりの壁の穴から脱出する。出てすぐの所に、伊藤機が援護射撃を行い、追撃をMkのガトリングが防ぐ。支援と援護と護衛。その三つに絞り込むMkと伊藤のおかげで、一向は何とか囲みの外へと脱出する。
「少しは、やるようだね‥‥」
 今度は、くぐもっていなかった。すぐ近くにFRがいる。そう知ったアンノウン、通信機に向かってこう言った。
「ここは私が相手をしよう。カラス、来い」
『了解。じゃ、借り物だけど、雑魚の相手くらいは任されたよ』
 直後、HW達にフェイルノートのミサイルがお見舞いされる。
「MK、支援を頼んだ」
「言われなくてもっ」
 アンノウンに指示される前に、Mkの機体から、AAMが飛んできた。距離を置こうと反転するHWに、今度は高初速滑空砲がぶつけられる。
『今のうちに、アグリッパを頼んだよ』
「わかった。ごめんレンくん、そこどいてね!」
 カラスに言われ、和奏は機体を浮かせ、煉と合流する。追いかけようとした彼に、今度はアンノウンが立ちはだかった。
「どきなよ」
「断る」
 セリフと同時に加えられた一撃を、手じかに転がっていたMRで防ぐ。増殖はするものの、それはアンノウンに取っても壁となる。その間にアンノウンは、足元に転がるCWの残骸を相手にぶつける様にしながら、距離を取った。
「決して動きを止めない事‥‥。援護します」
 他の面々が脱出したのを確かめ、Mkは距離を離させようと、ガトリングを乱射する。ただし、FRそのものは対象にしていない。
「OK。‥‥さて、と。戦場を変えてくるかなっ」
 その間に、煉は着々とマルキダエルに近づいていた。後方から『抜けても、結果は同じだと思うよ』と、ここに来てまであざ笑うようなレン。
「そんなこと、わかんないじゃないかっ」
 和奏がそう言いながら、先にレーザーで攻撃してみる。と、ミサイルがそれにぶつかってきて打ち消してしまった。どうやら、幻ではないようだ。
「錬力つぎ込んでるんだ。無駄になんかされたくないっ」
『じゃあ、しちゃおうかな』
 レンの声が響く。と、積み上がるMR。マルキダエルの盾となるような姿のそれは、普通と少し毛色が違っている。
「えっ。まさか‥‥」
『予想不可能な話が好みのようだしね』
 直後、和奏の地震計が敵の存在を関知する。
「気をつけて。下から何か来る」
「80mまで何とか回避しろっ。距離稼ぐぞ!」
 びしりと隊長らしい一言が飛んだ。
「わかったっ。頑張って近づいてみるっ」
「レンにこれ以上良い顔させてたまるか。援護させて貰う」
 戦力は温存したい。降り注ぐミサイルに被弾していた和奏に、霧島がフォローに入る。和奏も、森の部分に入り込み、隠れる場所をうろうろしながら、盾代わりにしている。その森を抜けた直後。
「見えた!」
 そびえる姿、邪神のごとく。あちこちに棘の生えたその姿に戦慄しつつも、煉は迷わずハンズ・オブ・グローリーを発動させた。
「いまだ! 栄光を掴め、ヴィルトシュヴァイン!‥‥これから集う、仲間達の為にッ!」
 温存していたエグツ・タルディを錬力ごと全弾叩き込む。
「必殺、わかな粒子砲! だぶる!」
 盛大な煙が上がる中、和奏もまた、錬力を注ぎ込んだ粒子砲をお見舞いしていた。霧島も、同じ様に粒子砲を叩き込む。都合3発。
「逃がすと思うな」
 ヴァレスが地面に叩きつけるように機杭を打ち込んだ。逃げ場を押さえようとした彼らに、レンが楽しそうに言う。
『あははは。やるじゃん。じゃあ今回はここまでにしといてあげるよ。だけど、お代はきっちり貰うよ!』
 ミサイルの嵐に、視界がさえぎられる。それは、的確にマルキダエルを狙った傭兵だけを狙っていた。
「退け!退け!退きやがれぇッ!」
 そう叫びながら、煉はブーストを使う。だが、避け切れず、機体は爆風に吹き返される。
「うわぁぁぁっ!」
 コントロールが聞かないコクピットの中で、意識が遠のいたのは、仕方のない事だっただろう。

 気がつくと、寺田がKVで迎えに来ていた。
『お前達、大丈夫か?』
 通信機越しに言う口調は、普段の丁寧さが消えている。
「なんだ、迎えに来たのか」
『その様子だと、何とか生きているようですね。霧島くんからの連絡は、こっちにも来てましたから』
 アンノウンが答えると、とたんにいつもの調子へ戻った。どうやら、霧島が定期的に入れていた状況報告が、寺田のいる本部にも通信を入れていたらしい。
「ほほう。やはり人妻と未成年が好みらしいな」
『誤解ですよ。なんなら、試してみますか?』
 確信犯的にアンノウンがそう言うと、寺田はコクピットの向こうで口の端を歪ませる。「今度是非」と言いかけた彼をさえぎるように、霧島が言った。
「あーあー、そのくらいにしてくんねーかな。こっちもボロボロだ」
「殿を務めたかったんですが‥‥。いたた、そうもいかないようだね」
 同じく重症のヴァレス。帰ったら医務室直行なのは言う間でもない。
「直進5ブロック先、Y字路。その先、敵集団、戦闘用意」
 ここにきてなお、HWがちょっかいを出してくる。最後まで気が抜けないと思う伊藤。
「俺ができるのはここまでかっ‥‥‥‥俺、隊長らしく居られたかな‥‥」
 目を覚ました煉が、コクピットの中で、そう呟くのだった。