●リプレイ本文
その日、集められたのは、准将管理下の研究室だった。ガレージに見える研究室で、准将の後ろから控え目についてきたスーツ姿の青年に、橘川 海(
gb4179)が声をかけた。
「あ、クルメタルの社員さんも、よろしくお願いしますっ」
眼鏡をを直しつつ、小さく答える社員。ちょっと痩せ型だが、優しそうな感じの青年だった。
「これが、バハムート‥‥デカッ」
その間に、准将は試作機を出してきた。雪代 蛍(
gb3625)が目を見張ったのは、その横幅だ。
「ふむ。確かにこう言った場所に使えそうではありますね」
自身が壁役なので、興味津々と行った調子の霧島 和哉(
gb1893)。准将に、サイズと仕様を確かめていた。
「俺、バイクってカテゴリに属するんなら、サイドカーは最適だと思うんだ。隣に他の能力者や、装備とか物資を乗っけても良い」
そんな彼に、アレックス(
gb3735)は熱っぽく語る。彼と対等に話ているジジィを見て、海は懐かしい父の姿を重ねてしまう。
「すごいなぁ。あの、准将‥‥師匠って呼んでも良いですか」
整備が教わりたい‥‥と申し出る彼女。ある程度の整備や調整なら行えるが、わからない事が会った時の師が欲しいそうだ。
「今のままだと‥‥ミカエルが太っただけの‥‥つまらない機体に、なっちゃうから‥‥ね。要らない部分は‥‥肉抜き、しないと」
霧島がそう言って、意見交換が始まる。舞 冥華(
gb4521)がはいはーいとお手手を上げた。
「雷電みたいって冥華聞いたから、高くなりそうだけど、4連は無理でも2連ばーにあとか付けてみたい」
「火力を補う‥‥意味でも、重量のある‥‥装備を開発するのは良いと思います‥‥。補うのに、装備力を‥‥補強するのはいかが‥‥」
それによると、回避を削り、知覚や錬力より、装備力に回して、よりバリエーションに富んだ武器を搭載するのを希望している模様。こうして、バハムートは、元の姿をとどめない改造を施されるのだった。
一行が向かったのは、AUKV練習の出来る巨大なサッカー場だ。
「1人じゃすぐ終わっちゃうから、あと3人増やしてー」
キーパー役の蛍がそう言いだした。今、相手しているのは、バハムート着用の番場論子(
gb4628) だけである。それでは物足りないらしい彼女に、准将はボールを二つ追加する。シュートするのは、天小路桜子(
gb1928)だ。言われた通り、ぺしぃっと蹴り飛ばしたのだが。
「うわぁっ」
その刹那、ボールが爆発する。どうやら、どこかで混ざりこんでしまったらしい。
「蛍さん、お怪我はないですか?」
「ん、大丈夫だ。バハムートが盾になってくれてたし」
むくっと起き上がる蛍。その爆風とダメージは、バハムートの装甲で上手く吸収されたらしく、ダメージはなかった。
「次は、走行テストですわ」
コースを設定していた桜子が、その結果をデータベースに入力している。機体バランスや、長時間運用の安定性を考慮すると、本島にあるレース場より、演習場の外輪部をたどる方が良いだろうと准将がアドバイスしていた。
「よーい、すたーと!」
蛍が台の上でフラッグを振っている。専用ヘルメットのバイザーに、入力したコースが映し出される。前を走るのは海だ。巨大なタイヤで、外輪部を疾走していくバハムートだが、乗った海は、まるでツーリングでも楽しんでいるように、きょろきょろと周囲を見回している。演習場でもあるので、各種授業をやっていたりするのが、気になるようだ。
「余所見は禁物ですよっ」
回り込む論子。本当は持ち込んだ桜花を使いたかったが、不安定なリンドの上で、両手を離す事は危険すぎる為、禁止事項になっていた。逆にバハムートは、リンドと比べて、かなり重量感のある車体だった。
「ばはむーとすっごいおっきい。冥華…ちっちゃいけど運転できる?」
その大きさに、首をかしげている冥華。と、准将は目の前でシートを外し、かなり低いシートに付け替えてくれる。腰の抉れたデザインになった試作型バハムートにまたがってみる冥華。そのままロックを外し、トライアルコースを滑り出す。
「キメラロボ投入しますわよ」
そこへ、エリザ(
gb3560)がキメラのスイッチを操作する。ヴィンと光の入ったメカビートルは、冥華のバハムートを追い越し、あっという間に海をも追い越してしまう。
「あーあ、やっぱり追いつかれたよー」
「安定感は抜群なんだけど、速度足りないのは重症ですわねぇ」
どうやらバハムート、外部装甲の影響で、かなり遅いようだ。この辺りが改善点だろうと、桜子はデータシートに記入している。
だが、その時だった。
「おい! あのキメラ、様子がおかしいぞ!」
准将の指摘に、コントローラーを見直す桜子さん。が、リンドに回り込もうとするビートルは、コントロールを受け付けてくれない。それを見て、ミカエルで追走していたエリザもまた、人型へと変形させる。
「私が何とかします!」
気付けば、比べる用に走っていた論子も、暴走キメラを取り囲んでいた。数は3匹。メンバー数では対等だが、技量はさすがに比べるべくもない。
「こんのぉぉぉ!」
海が、バハムートの重さをのしかからせるように、体当たりする。じたばたと下で足をばたつかせるビートルキメラ。
「そのままおさえ込んでいてくださいまし!」
「は、はいっ!」
エリザの指示に、論子もまた、それに倣う。動けないメカキメラに、エリザは竜の翼でもって、一気に距離を詰めた。スキル使用で舞い散るその光の粒が、まるで星屑のように見える。
「一応、闘える部類には入るようだな」
直後、機能停止するメカキメラに、満足そうに言う准将だった。
「とりあえず、言われたもん全部作って見た」
そう言って、ジジィは海に手伝わせながら、いくつかの武器を持ち込んできた。結局、冥華やアレックスの希望したパージシステムは、技術的な問題から、デフォルト設定を諦め、3輪タイプにしたらしい。その分、推奨装備を新たに作る案を採用することにしたようだ。エリザの提案する、重量過多の巨大な斧、彼女と蛍が同意見の、ぶっといキャノン。そして冥華の『たてとがとりんぐつけてー』っておねだりにより、装甲+分の盾。知覚を上げるなら、それを変換するキャノンがあっても良いだろうと言うことだ。一発限定では問題なので、錬力を上げる。命中精度も、大きく関わってくるだろう。
「いーちにーい、さーん‥‥」
リンドを着た冥華が、人型になったまま、メットのバイザーを手で押さえている。ぶっちゃけ提案してたのは鬼ごっこだが、目的は『市街戦を想定した鹵獲訓練』『複数対象比較耐久試験』と、きわめてまっとうな実験だ。
「‥‥じゅう! もーいーかい?」
冥華が回りに声をかけるが、返事はない。
「よろしいようですわね。さて、参りますわよ!」
桜子がそう言うと、エリザは自身のミカエルを起動させた。相手は試作機とは言え、中には言っている面々を考えると、手は抜けない。
「みーーつけたっ!」
冥華が、アレックスのステカを見つけ、かぶせてあったシートを引っぺがす。だが、そこにあったのは、ただの箱。
「捕まらなきゃ良いんだよっと」
気付いた彼女が振り返ると、彼は少し離れた場所の壁をよじ登っている最中だった。その重さからか、少し動きづらい。やはりこれ以上、行動力を下げるのは、デフォルトにしない方が良さそうだ。がりがりと嫌な音を立てて、装甲が削れていのを感じ、そう呟くアレックス。中身はペイント弾だ。当たらないようにする‥‥と言うのは、やはり無理な相談で、背中にペイントの跡が付く。「こちらヴァルキュリエ。各機、そのまま模擬戦に移行してくださいまし」
「了解。鬼さんこちらっ!」
エリザの指示に、アレックスは、塀の向こうに設置された足場を飛び降り、その向こうにある路地へと侵入する。横幅はぎりぎりだが、細かい事は言っていられない。その路地の両側には、ミカエルの桜子、論子のリンドブルムが、ライフルと矢をこちらに向けて放っている。ちょうど、挟まれた格好となったが、反対側にいる蛍からは、こんな通信がぶっ飛んできた。
「絶望的な状況下での装甲消耗率‥‥を試すためだから、ぎりぎりまで粘ってくれ」
アレックスが答えた直後、路地の反対側で合図の煙が上がった。実戦ならば、囮の実弾と言ったところだろう。あらかじめテスト項目に含まれていたため、桜子と論子は反転し、蛍の乗ったバハムートへ向かう。
「きたきた。さぁて、鬼ごっこ再開といきますか」
持っていた煙幕をぽいっと投げ捨てて、蛍が移動を開始する。向かう先は、アレックスのいる路地の反対側。よくわからない金属で作られた、ジャングルジムのような台座だ。
「やらせませんわっ」
論子が、そう言って矢を放つ。ちょうど建物の窓になったような部分から、最大射程で放たれた通常矢は、試作ながら装甲にはじかれてしまう。それを見て、今度は弾頭矢を番える彼女。
「つまり、ここでキャノンを放てば良いんだな」
今は装備されていないが、矢を交換するタイミングは、彼女の提案したスタン砲を放つのには、充分だ。回避はないが、射程を長くし、早く攻撃に気付けば、囮としても機能するんじゃないかと、総判断する蛍。
「ランス‥‥エクスプロード起動。3.2.1‥‥イグニッション!」
問題は、近づかれた場合だ。アレックス機に取り付けられた試作キャノンから、槍の穂先がともるように、口径から、ペイント弾がほとばしる。
「きゃあんっ」
攻撃力はないはずなのに、対象となった桜子が衝撃で吹き飛ばされる。命中率は高くしたおかげか、塀は見事に粉砕されていた。
「‥‥やべ、壊しちまったか!?」
予想外の威力に、慌てて崩れた壁に駆け寄るアレックス。着ていたミカエルでも軽減できるレベルだったのか、桜子はすぐに起き上がって、手を振ってくれた。
「重量過多だと、市街戦で周囲にも被害が出る‥‥と。むつかしーですわねー」
論子が、ペイント弾の散乱した箇所を見て、そう言っていた。今は模擬戦だが、これが実戦だったらと思うと、頼もしくもあり、怖くもある。
「リンドに比べると、やっぱり動かしづらいかな」
今度は論子がバハムート担当になった。弓の動作作業に不具合はないが、念のため彼女は、自身の役目である射手を担当するため、後方へと距離を取る。やはり、動きが重いかもしれないと思いながら。もう1人のバハ担当は海だ。冥華ちゃんリクエストの試作型ガトリングシールドを構え、メカキメラを待ち受ける。
「きました‥‥」
霧島機の周囲に、大量の小型メカが群がってくる。いずれも、バハムートのひざ下くらいの高さしかないが、一度に3匹は相手にしなければならなかった。
「この巨体じゃ‥‥回り込めない‥‥」
回避もそうだが、行動力も相手が上だ。無理に避ける事は諦め、霧島は手にした試作盾を起動させる。攻撃を割り込まれ、動きを止めるキメラ達。内蔵されたセンサーが、動かないバハムートを壁として認識し、回り込もうとする。
「素通り‥‥困る‥‥」
回りこむ余力はない。だが、回れ右をして、迎え撃つだけの火力はある。
「受け止めるのが‥‥闘い方です‥‥」
練力を注ぎ込む霧島。体当たりを食らわせるキメラを受け止めた直後、ヘルメットを通して注ぎ込まれる。それは、バハムートへと連動し、周囲へ咆哮を響かせた。どうやらバハムートの装甲重視なスタイルは、盾で受け止め、竜の咆哮で吹っ飛ばすという自分の戦闘スタイルとは、よくマッチしているらしい。あとはやはり、その受け止めるための武器がほしいといったところか。
「うん。瞬間の瞬発力はやっぱり欲しいかな? すぐ慣れるとは思いますが、白兵は専用の武器があってもいいかも知れませんねー」
ばちばちとスパークをあげて壊れるメカを見て海がそう言った。
「今度は‥‥スキル使わずに‥‥やってみましょう‥‥」
霧島が、盾を捨てて、変わりに転がっていた鉄パイプを手にする。同じように鉄パイプを手にした海が、バハムートのまま、棒術の型を取っていた。
「行きます‥‥」
距離をつめ、振り下ろす。そのタイミングは、海が竜の鱗を起動するに十分なものだ。ついでに竜の咆哮まで使われるバハ。重さからか、しりもちをつく程度で済んだが、代わりに瓦礫が増えた。
「これで粉砕されるようじゃ、設備がやわすぎますよー」
「そんな筈ぁねんだがなぁ。これじゃ、重量武器開発に設備が耐えられないぞ」
海に言われ、頭を抱える准将。これまでの実験から、重すぎる武器各種は、その機動を確保する為、オプションにすることに決めたようだが、実験場所が柔らかすぎては、役に立たない。
「うーん、クルメタルの人は、何かないの?」
「そうですね。では、ちょっと本社に頼んでみましょうか」
見守っていた社員が、海に向かって微笑みかけている。どうやら、メカニック気質な彼女を気に入ったようだ。
「まとめとしては、回避を下げた分、知覚を上げて、装甲をアップさせる。増えた重量分は、早めに気付ける仕様でカバー。動きは遅いが、火力と命中重視っで、多人数に対応と言ったところかしら」
論子がそれまでに出た意見をまとめている。いずれ、改めて文書にて提出するとのこと。
「手合わせした感じでは、私は霧島君の戦い方がいいと思ったかな? あとは、何回か使えるといいんだけど」
海、それに出来るだけ練力を上げるよう追加するのだった。