タイトル:【初夢】ミクのBL伝説マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 3 人
リプレイ完成日時:
2009/01/19 11:18

●オープニング本文


 1月1日の夜に見る夢を、世間では初夢と言う。その初夢でいいモノを見る為には、枕の下に絵を入れておくとよいと言うのが、日本古来の風習だ。
 で、それを聞いたミクが何をやらかしたかと言うと。
「よし、これで準備完了だぉ」
 UPCの宿舎。パジャマに着替えたミクが、ベッドにセッティングしているのは、薄い小冊子だ。表紙にはカラスやら寺田先生、ティグレス、それに京太郎やレン、何人か傭兵のイラストまで移っている。いずれも半裸や全裸だったりして、抱き合ってたり寄り添っていたり、押し倒されていたりするそれの出演者は、全員男性だった。
「しちゅえーしょんは、これで全部の筈だぉー」
 ぺらぺらと、内容を確かめるミク。本はそれぞれ、別の内容であるようだ。表紙に取り付けられた手書きのあらすじカードをには、こう書かれている。

初詣:初詣に行くことにしたカラス。先輩のティグレスを誘い、和服に身を包んでいくのだが、なれない服のせいで、ティグレスは気分が悪くなる。正月でどこも開いている場所なんかないのを知っているカラスは、とりあえず寮まで連れ帰るが、そこには寺田がいて‥‥。

新年少年はじめ:人の世は年越しだが、大騒ぎするのが今ひとつ理解できていないレン。そこで兄貴分と慕う京太郎を捕まえて、何故そうなるのかを問いただす。と、京太郎はじゃあそれを教授してやろうと言い出し、自分の部屋へ‥‥。

 どう見ても不健全そうな内容である。だが、ミクはによによと顔を緩ませてそれを確かめると、満足そうに布をかけ、そのまま枕にしてしまう。
「これで探す手間をかけずに動いて喋るBL番組が見れるぉ。日本の人は便利なシステムを考えつくぉー」
 そう言って、目を閉じる彼女。はたしてミクの夢見る物語は、どんな伝説を生むのだろうか。それは、夢の神のみぞ知る‥‥。

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

 その夜、KVから降りてきたのは、燕尾服を見に付けた神無月 紫翠(ga0243)だ。純白の手袋をはめた彼は、黒のスーツと言うには、少しばかり豪華すぎるジャケットの懐から、懐中時計を取り出す。
「予定時刻より、5分ほど遅れましたね。機嫌が悪くなっていなければいいのですが」
 文字盤が大きくデザインされたそれを見て、そう言う彼。そのまま、滑走路を横切るようにして、ロビーへと向かう。飾り気のないエリアを抜け、いわばVIPルームとも言える特別待合室へと入る彼。
「ごきげんよう麗しの姫」
 足の沈む絨毯に現れた彼は、そこでひざをつく。それはまるで、不思議な世界へと導くウサギの案内係だ。彼は、入ってきた入り口とは別の扉に手をかける。薔薇の彫刻が施されたその扉が開いた先には、真っ黒な廊下が延々と繋がっていた。
「さて、これより別の世界へご案内いたしましょう。ついて着てください。選んだのは、あなたなのですから」
 その暗き闇の世界へと導くように、足を踏み入れる彼。その後を、よく見たツインテールがぴこぴこと跳ねる。そこで待っていたのは、紺地に刺繍の施されたオリエンタルな感じの上下を見につけた青年‥‥神森 静(ga5165)だった。
「ただ今参りました。ずいぶんと、お待たせしてしまったようで、申し訳ありません」
 ソファーにて、なにやら読書をしていた彼に近づき、微笑む青年。貴婦人に仕える執事と言った風情で、頭を垂れる。と、青年は本を閉じ、首を横に振る。
「こんな時間に呼び出してすまないな」
「いえ、お気になさらず。これもかの君のためですから」
 そう答える執事。立ち上がったソファーの君が、すっとその側へと寄り添っていた。そこで初めて、彼は後ろのツインテールに気付く。
「おや、見学か?」
「ええ。招待状を持っておりますので」
 にやりと微笑む黒ウサギ。ならば、と相手は告げる。
「では、まいりましょうか。夜は長いですが、時間は有限。日が昇る前に、常夜の国より戻らないとね」
「ふふ。そうだな。だがここからは大人の時間だ。そこで見物している姫には、刺激が強すぎるかもしれない」
 青年がそう言うと、ソファーの君は頷いてその腰に手を回した。そのまま、闇の扉を開く彼。樫の薔薇が、足元に赤い絨毯を作る。
「この続きはヒミツですよ?」
 視界が薔薇で埋め尽くされ、禁断の扉は開かれた。だが当方、責任は‥‥持たない。

 ラスホプも新年は来る。初夢の始まりは、そんな新年行事からだった。
「ごめんなさい。どうしても、真彼さんを俺だけのものにしたかったんです‥‥」
 初詣の帰り、自宅まで送ってくれた国谷 真彼(ga2331)が、柚井 ソラ(ga0187)の腕の中で、寝息を立てていた。
「ん‥‥」
 気がつく真彼。それまでいた部屋のみならず、着ていた服さえ変わっている。なにより特徴的なのは、片腕をベッドに拘束されていた事。しかも‥‥手錠で。
「お目覚め‥‥ですか?」
 天蓋つきの豪奢なベッド。その縁に腰掛けてきたのは、純白のバスローブを纏い、花の香を漂わせたソラだった。
「柚井くん。これは‥‥?」
 身を起こす真彼。絡みついた手錠には、どこで細工したのか、衝撃を吸収する素材が張られている。
「だって、こうしておかないと、どこかに行っちゃうでしょう?」
 いつもとかわらないほんわかとした笑顔のまま、ソラはそう言って、手を伸ばしてくる。
「今日だって、俺だけを見ていれば良いのに、他の人の事、気にしてた」
 頬に、ソラの手が触れる。いつからそうしていたのだろう。彼の手は妙に冷たかった。何が、機嫌を損ねたのだろう。疑問符が駆け抜ける。が、ソラはそれには答えず、もう1つの手のひらを触れさせる。
「真彼さんがいけないんですよ。俺の事、ずっと見ていてくれるって言ったのに」
 冷たい両方の掌で、真彼の頬を包み込むソラ。ぐっと込められた力が、強制的に視線を彼へと向けさせる。
「違いますよ。僕はいつだって、あなたの側にいたじゃないですか」
 今日だって、ずっと。つないでいた手のぬくもりを、彼は覚えていた。
「それだけじゃ、駄目なんです」
 すっと、掌が唇へと移動していく。指先で、その上下をそっとなぞる。
「‥‥真彼さんは、俺のだ。ね、そうでしょう?」
 泣き出しそうなほど、うるんだ笑顔。そう言って、ソラは真彼にそっと口付けていた。
「困りましたね」
 どれほどの間、唇を合わせていだだろうか。ようやく離したソラを、真彼は、あいたもう1つの手で抱き寄せていた。
「真‥‥彼さん‥‥?」
 重みで、起こしかけた身がベッドに沈む。きっと、傷つけないように気を使ったのだろう。ふかふかな‥‥洗い立てのシーツ。柔らかなマット。それは、2人分の体重をしっかりと受け止めてくれる。
「これで、いいかな」
 勢い、押し倒される格好となった真彼、そこで初めて、自分が上着を着ていない事に気付く。抱き寄せられたソラはと言えば、先ほどまでの笑みに隠れたイタズラっぽい雰囲気は影を潜め、急に迷子の子供めいた泣きそうな表情になっていた。
「柚井くんは、相変わらず軽いですね。一緒に、いたかったんでしょう?」
 抱きしめていた腕が、彼の顔を引き寄せる。頬をぴたりとつけて、暖めなおすように‥‥キスを落とした。
「‥‥ごめん、なさい‥‥っ」
 その刹那、ソラの双眸から涙があふれる。しゃくりあげる彼に、今度は真彼が慌てる版だった。
「って、あのっ。僕柚井くんに泣かせるような真似をっ!?」
「ちが‥‥くて‥‥その‥‥」
 ぶんぶんと首を横に振るソラ。不安でたまらなくて。どうして良いかわからなくて。僕だけのものにしたかったのに。
 なのに、彼は。
「良いよ。そのままで」
 そうやって閉じ込めようとした事すら、受け入れてくれた。泣きじゃくるソラの頭をくしゃりと撫でる。
「でも‥‥」
 嫌われたくない。泣き顔のまま見上げるソラ。
「僕は、柚井くんの事が大好きだから。よそ見してごめん。でもこれだけは本当だよ」
 何度も、重ねるようにキスしてくれる。時折見つめてくるそれは、紛れも泣く自分を受け入れてくれる証。その行為に、ソラはすがりつくように泣きじゃくる。
「ソラが泣き止むまで、ソラの心が満たされるまで、ずっと、こうして受け入れるよ。信じる『彼の君』だから‥‥ね」
「真彼‥‥さん‥‥っ」
 どうしよう。どうしたらこの思いを伝えられるのだろう。ただ側にいてほしかっただけなのに。ぎゅっと、抱きついた腕に力が篭る。名前を呟くのに、それ以上の事が出来ない。
「それに‥‥」
 と。
「この方が、ソラを近くに感じれるから‥‥」
 いつの間にか、手錠が外されていた。たぶん、サイエンティストとしての力を使ったのだろう。身を起こした真彼は、ひざの上招き入れるように、ソラを抱えなおした。
「あ‥‥」
 纏ったバスローブが、しゅるりと外される。人形のようだと称される、傷1つない少年の肌。戦場を駆けたのは一度や二度ではない証拠に、思いのほか引き締まったわき腹。
「サイエンティストは、以外と器用なんだ。でも、怪我はさせたくないから、大人しく、僕を感じてて」
 こくんと頷いた、それが合図。
「ん‥‥」
 もう一度、今度は深く長くキスをして、二人の影が天蓋の奥で重なるのだった。

 一方、日本のとある神社。
「何でゾディアックの僕が、初詣なんだよー」
 バグアと人との競合地域でもある場所でも、やはり人は多い。こんなご時世だから神頼みしたくもなるのだろうが、その人々の中に、水理 和奏(ga1500)と‥‥何故か甲斐蓮斗の姿があった。
「えへへ。何だかうれしいなっ」
 どこから調達してきたのか、女の子用の着物を着用し、これまた男の子用の着物を着用させられたレンが、賽銭の列に並んでいる。嬉しそうなわかなに対し、不満顔のままのレン。
「わぷっ」
 石畳に慣れない草履。着物の動きにくさもあいまって、わかなはつんのめってしまう。転んだ彼‥‥どう言うわけか中身は男の子になっているわかなを支えたレンは、こう言い放っていた。
「ほらいわんこっちゃない。もう終わったんだし、帰るよ。満足しただろ?」
 心配する口調だったが、大丈夫だなんて言わない。それが彼らの流儀。
「ごめん‥‥」
 だが、その流儀をまだ収めていないわかなは、素直に謝っていた。つい数時間前の事だ。
「そこ座って」
 彼が向かったのは、わかなが生み出された卵の間。「何で?」と首をかしげる彼に、レンは反論を許さない調子で答える。
「今日みたいな稼動状況じゃ、役に立たないから。脱いで」
 全部。命令するよりはお願いするような口調に、わかなは「どうして?」と首を反対側に向けた。
「診れないだろ」
 怪我でもしていないか確かめるらしい。ところが、わかなは、それを理解すると、ぐっとレンの袖をつかんで、にこりと笑う。
「あ、そうだったけ。じゃあ、レンくんも脱いでよ」
「何で僕まで」
 はぁ? と、レンの口があんぐりと開いた。
「だってボク1人じゃ不公平じゃん」
「あ、当たり前だろっ。僕の方が上なんだから」
 しばし、呆然としていたレンが、声を荒げる。が、わかなはそんな彼にそっぽを向いて、こう要求する。
「脱がないと中いじらせてあげない」
「だから。命令するのはこっちだって言ってるだろ」
 まったく言う事を聞かないわかな。イラ付いたレンが、その頬を張り飛ばそうと、手を伸ばす。
「捕まえたっ☆」
 殴られる前に、その手をつかんでしまうわかな。瞳が、すうっと細くなった。
「見せてよ。レンくんのすべてを。駄目?」
 バグアらしい、凶悪なオーラを漂わせるわかな。そのフォースフィールドに、白衣の青年がオーバーラップする。指先をなめられ、走る背筋の感覚は、京太郎に仕込まれたものだ。
「‥‥別に。見せてどうにかなるもんじゃないし」
 彼が一枚噛んでいるのなら、逆らっても仕方がないものなのかもしれない。
「じゃあいいよね。ほら、こっちきて」
 わかなが、卵の台座に、彼を招きいれた。作り出されたバグアが傷つかない様になのか、衝撃緩衝材を張られたその台座は、上質なベッドのように、ふかふかだった。
「やっぱりレン君のは気持ち良いな」
 食いつくように頬を摺り寄せ、首筋にキスをしながら、わかなはレンの着ていた男の子着物を脱がしていく。作成段階で刷り込んだ知識が上手く働いているのか、手際よく帯が解かれていった。次第に現れていく肌に、わかなは人形を抱きしめるかのように食いついてくる。
「ああ、でも男の子なのに、くん付けはだめだよね」
 思い当たる彼。身を離し、少し考える仕草をするわかなに、レンはこう言った。
「名前なんて、記号だろ」
 顔が少し赤い。ため息をつき、意識せずに視線を落とすその姿は、まるでどこかの娼婦だ。
「駄目だよ、レン。強がっちゃ」
 自然、わかなの口から敬称が取れた。そして、こらえきれなくなったように、台座の上へ押し倒す。
「ボクの事、調整しても良いけど、それはちゃんとレンの手で‥‥して?」
 そう言って、自分の胸へ手を当てさせる。どういうわけか、男の子になっているその胸板。そこからゆっくりと、下へと動かしていく。
「す、少しだけだからな‥‥」
 ふいっと横を向くのは、了承の合図。
「すごく柔らかくて‥‥。これなら、安心して任せられそうだ‥‥」
 あいた首筋に唇をよせ、わかなは誰にも邪魔されないように、卵を閉じるのだった。

 時計は、それが正確ならば、夕方を少し過ぎた頃。だが、この空間では、それは何の意味も持たない。そこには、明かりも装飾もない金属の廊下が、ずっと続いている。両側にある扉には、番号と何やら記号のようなものが張り付いていた。それでも、黒兎執事こと紫翠はこう呟く。
「ふむ、寄り道の成果、遅れ気味ですね。少し近道しましょうか」
 そう言って、扉の一つを開く彼。その先には、傭兵達が日々自らの武器を鍛え、手入れする場所が広がっている。むさぼる眠りと絆を確かめる兵舎を回るより、そちらを横切る方が、都合が良いようだった。
 そこでは、大規模作戦の反省会が済んだ後らしく、傭兵達はめいめいの手段で、特訓に明け暮れていた。
「良いか? 銃を、特にライフルを撃つ時に必要なのは平常心だ。まず自分が『当たる』と思わないと当たらないし、心の乱れは銃口に表れるからな。と、いう訳で!特訓はこれを着て行う様に!!」
 そう言って、バッグを渡すアッシュ・リーゲン(ga3804)。コーチ役を買って出てくれた彼が、嵐 一人(gb1968)に手渡したその衣装を、彼は何の疑いもなく受け取っていた。
 だが。
「こ、これはっ」
 ウェイトか何か入っているんだろうと思った一人の表情が、更衣室で凍りつく。
「はっはっは。女性スナイパーだって多いだろう? 彼女達がよく当たるのは、こう言うのに心動かされない為だ。それにお前なら似合う!」
 どこをどう見たって、カンパネラの女子制服である。
「いやその‥‥。似合っても困るんだけど‥‥」
「ふふふ。このままだなんて、そっちの方がもっと困るだろう?」
 制服持ったまま、にじり寄る彼。その手が、持っていた銃を撫でてくる。そのまま、おててまで指先が移動していくのを見て、一人は勢いに押されたように、制服を手に取った。
「う! そ、それはっ。わぁった、ちょっと待ってろっ」
 とりあえず着てみる一人。数分後、現れた彼を見て、アッシュはによりとカメラを構える。
「よし、ばっちりだ! じゃあ早速特訓を始めるぞ」
「は、はい‥‥」
 思わず返事をしてしまい、しまったと思う一人だったが、時既に遅し。気がついたら、背中にアッシュがいて、抱きかかえられえるように張り付かれてしまっていた。
「まずは姿勢だなー。もう少し足を開いて」
 アサルトライフルを持たされた一人、仕方なくそれで狙いを定める。
「こ、こうか?」
 言っている事はまともなようだ。一人が少し安心して、言うとおりにした直後である。
「ん、もうちょっとかなー。このあたりをこうでー」
「ひあっ」
 肩幅に足を開かせるようにか、アッシュの手が、ふくらはぎから太もも辺りまで入り込んでくる。思わず身をすくめる一人。倒れ掛かる背中を自身の身で支えたアッシュは、腰を抱えるようにして、背中に手を回す。
「背筋はもうちょっと伸ばして」
「あう‥‥」
 つつつぅっとなで上げられ、腰に電気が走る。そのまま、身をアッシュに預ける格好となってしまい、尻餅をついてしまいそうになる。
「だ、駄目だ‥‥。ち、力が抜ける‥‥」
「手に力は入れない」
 もっとも、アッシュはしがみついた手を逆に握り返し、しっかりと抱きしめ、首の後ろから耳元へとささやく。
「視線はまっすぐ」
「そ、そんな。狙いが‥‥」
 ふぅっと吐息がかけられ、膝が腰を支えらなくなる。と、アッシュはその腰からわき腹へと手を滑らせ、低く言葉を続けた。
「緊張しすぎるなよ? 力むと照準がずれる」
「いやだから、入らない‥‥」
 もはや、アッシュに体を預けているだけの状態。潤んだ目で睨もうとしている一人のうなじに、アッシュは舌を這わせた。
「戦場じゃ、生き物が来る時だったってあるんだぜ?」
「ひゃあっ」
 ごとりと、アサルトライフルが床に落ちる。崩れる足元を、アッシュはわざとつつく。
「どうした? ふらついてるぜ」
「そんな、ことされたら、集中できな‥‥」
 スカートの下でむき出しの足に、指先が触れる。ぺたりと座り込んだその足、慣れないスカートがはらりとめくれ、もう少しで中が見えそうになる。反論しようと押しのけた左手を壁に押し付けて体を入れ替え、ちょうど座り込んだ一人に覆いかぶさる格好となったアッシュ、今度は正面から上着の腰あたりを抱え込んだ。
「そんなこと言う悪い子には、ペナルティーだな」
「ちょ、ま‥‥やめ‥‥」
 ブレザーのホックが外され、ブラウスが引きずり出され、避けようとした膝が、スカートをさらに押し下げる。
「んー。体細いな。髪も綺麗だし」
「そ、そんなの狙い撃ちには関係な‥‥」
 アッシュの胸元辺りにある一人の頭がふるふると横に振られる。
「大有りだ。細ければ、大型獣に耐えられないし、硝煙にまみれても綺麗を保てるのは、情報収集時に有効だぜ」
 くいっと顎を持ち上げるアッシュ、見るものが見れば、それはキス直前のポーズだ。
「そ、そんなの‥‥。俺だって気にしてるんだ‥‥」
 上手くしゃべれない一人。悲しそうに潤む瞳。整った顔立ちと、長い髪は、女生徒そのものに見える。その外見を、本人も意識はしているようだ。
「綺麗なのは良いことだ。上手く出来たら御褒美やるよ」
 しばし、そんな『彼女』の艶っぽい姿を堪能していたアッシュだが、満足したのか、すっと身を引いて、その手にアサルトライフルを握らせていた。
「あ‥‥」
 一人、まだどきどきと波打つ心臓を押さえながら、深く息を吐く。
「ほら、やってみな」
「うん‥‥」
 促されて、立ち上がる。体の芯に残る熱っぽさは、まだ当分収まりそうになかったが、それでも彼はあわただしく身なりを整えると、離れた的に向かって撃った。狙いはまっすぐに飛び、中央に穴を穿つ。
「よくできた。お疲れさん」
 満足げに言ったアッシュ、直後、一人の頬に軽くキス。そう、掠めるように。
「そ、それだけ?」
 思わず聞き返してしまう一人。
「他に何かあるのか?」
 見れば、アッシュの表情には、それを面白がるニヤニヤとした笑みが浮かんでいた。反応を楽しんでいるのだろう。
「ば。ばかやろうっ。せ、責任くらい取りやがれっ」
 だが一人は、そんな思惑になんぞ、まったく気付かず、彼の上着をつかんでいた。さっき施されたイタズラが尾を引いているのか、今すぐにでも触れて欲しいと思ってしまう。口には、出さないけれど。
「そーかそーか。んでは、リクエストにお答えして♪」
 上着をつかんだ腕が、引き寄せられた。後ろ手で、射撃場の扉にロックをかけると、そのまま床へ引き倒す。
「って、そっちじゃなくて! 聞いてんのかよ!」
 衝撃で乱れた制服。隙間から覗く素肌が、アッシュの身に触れる。だが、彼の叫びは届かない。
「んー。自信ないんだ。焔の嵐くん?」
「なんだとっ。そ、そんな事ねぇよ!」
 性格故か、耳元でふぅんと鼻で笑われると、思わず反論してしまった。女装にトラウマがあるせいか、自らブラウスのボタンを外す。さぁ、試してみろといわんばかりの挑発だったが、それこそアッシュの思う壺。
「じゃ、遠慮なく試させてもらいましょうか」
 射撃場から、取り込み中な声がこぼれたのは、それから程なくしての事である。

 そ頃、もう1つの兵舎では、ばたばたと怪我人が運び込まれる騒ぎが起きていた。
「ふう。ようやくついた‥‥」
 震える掌をようやく開き、大破したアンジェリカのキャノピーを開く叢雲(ga2494)。ふらつく足を叱咤しながら、何とか地上に降り立つと、駆け寄ってくる足音。
「お帰り、兄さん☆」
「‥‥あぁ、帰ってきたんですね。よかった、無事で」
 声をかけられ、振り返る。ラシード・アル・ラハル(ga6190)と緋沼 京夜(ga6138)、2人の可愛い弟分達もまた、帰って着ていたらしい。その姿に、自然と笑みがこぼれるが、表情を動かすだけでも、あちこちに痛みが走った。
「いたた‥‥」
 思わずうずくまってしまう叢雲。自身の体に負った傷も、相当に深いようだ。早くサイエンティストか誰か見つけて、手当てをしないと‥‥と、そう思い、弟達に告げようと、笑顔のまま見上げた直後だった。
「え‥‥」
 ラシードの表情が凍り付いている。そして次の瞬間、彼はラシードの手によってアンジェリカの側面に押し付けられ、上着を無理やりはだけさせられていた。
「どういうことだよ。これは」
 じろりと、にらみつけられる。その手元には、無数に刻まれた深く痛々しい傷跡。一般人ならば、思わず目をそむけてしまうその酷い傷にも関わらず、叢雲は笑顔を絶やさないまま、その理由を告げた。
「いや、おうし座と盛大にやりあって‥‥」
「‥‥叢雲は、平気でこんな怪我して、帰ってくるんだ。‥‥僕に、無断で」
 だがそのセリフは、ラシードの耳には届いていなかった。少し遅れて駆け寄ってきた京夜もまた、「すぐに手当てしないと‥‥」と、顔色を変えている。
「大丈夫ですよ。そのうち治るから」
 心配させないように、そう告げる叢雲。だが、中々立てない姿は、その言葉に信憑性なんぞ欠片もない事を告げている。
「ボクの言う事、聞けない?」
 整った顔立ちとあいまって、おねだりするかのように、倒れかけた体が抱きしめられる。
「いえ‥‥。わかりました、好きにどうぞ」
 大切な、人形を手にした子供そのままの表情に、叢雲から反論する気力が失せた。
「大人しく、しててね」
 満足げにそう言うと、ラシードは京夜に叢雲を抱え上げさせ、兵舎の奥へと消えていくのだった。

 気がついたら、ラシードの部屋に運び込まれていた。しかも、どういうわけか、上半身の衣装はすっかり取り払われ、両腕は皮の手錠でベッドに縛り付けられていた。
「ここは‥‥。なんの、つもりですか?」
 蒼で統一された部屋には、バスローブ姿のラスと、そしてそれに寄り添う京夜の姿があった。
「これは治療、なんだよ」
 片腕に京夜を抱え、キスを交わしながら、そう告げるラス。キングサイズのベッドは、中央に叢雲、その足元に京夜を転がしても、まだ余裕がある。添い寝をするように転がったラスは、枕元の高炉を、叢雲の肌の上へと持ってくる。
「叢雲の為に、お香を換えたよ‥‥。‥‥体が熱くなる、でしょう?」
「‥‥うあっ」
 香を放つ香油が、その傷へと降りかかる。思わず悲鳴を上げる叢雲に、ラスは不満そうに言う。
「まだ、効いてないかな?」
 そして、ぺろりと唇をなめたかと思うと、その首筋に手をかけた。
「目を離したら、いなくなるんでしょう‥‥?だから‥‥首輪が必要だよ、ね」
「う‥‥」
 のしかかるようにして、引き出しから取り出したもの。それは、手錠と同じ皮製の首輪だった。
「京夜、手伝って。背中、持ってて」
 足元の京夜が、言われるがまま、体を動かす。後ろから抱えるようにされた叢雲の首に、輪が巻かれ、鎖が取り付けられる。
「そのまま、持ってて。ずっと、見てて」
 背中に、京夜の肌が触れた。ラスの前で、叢雲は座椅子に寄りかかったような姿勢にさせられる。
「消毒、しなきゃね」
 胸元に、ちょうどラスの顔があった。彼は、両腕で押さえつけるようにのしかかると、傷へと爪を立てる。
「‥‥がぁっ!」
 抉られて、喉の奥から悲鳴がこぼれた。指先についた血をぺろりと舐めたあと、ラスは意地悪く言う。
「ねぇ、もっといい声、出してよ‥‥京夜なら、僕を満足させてくれるのに」
 視界から、ラスの面が消え、直後、生暖かいものが傷跡に触れた。舌先で、丹念に舐め取られる血。その感触に、叢雲の肌にぞくりとしたものが走った。
「んぁっ‥‥」
 思わず、声を上げてしまう彼。痛みと、申し訳なさが混ざり、意識が朦朧としてくる中、ラスの舌が、肌の上を滑っていく。
「なんだ。出せるじゃん。ほら、ここいいんだ」
「やめっ‥‥!」
 まるで、彼が泣き喚くのを、楽しんでいるようなラス。それがわかっているから、叢雲は抗えない。しようと思えば、弟分を組み敷くなどわけはないのに。
「そろそろ、自分が誰のものか、思い出した‥‥?」
「申し訳‥‥ありま、せん」
 頭を垂れる叢雲。その後ろから、京夜が不満そうに顔を覗かせる。
「なぁ、ラス‥‥もういいだろ。俺‥‥もう‥‥」
 上気した顔は、どうしてなのか予想が付くと言うもの。だが、ラスは首を横に振り、彼の頬に触れ、口付ける。
「京夜、そこで見てて‥‥ね。まだ、駄目だよ‥‥」
「あ‥‥」
 耳朶を甘く噛み、舌を這わせ、そのまま叢雲の肌へと移動していく。再び悲鳴が上がった直後、ラスの手はその下肢へと伸びていく。
「‥‥つまんない‥‥やっぱり僕、京夜じゃなきゃ、駄目みたい」
 彼が、最後に見たのは、自らを見下ろすラスと京夜の姿。遠のく意識の中、二人の声だけが聞こえてくる。
「頼む‥‥煽るだけ煽って‥‥放置なんて‥‥ ラスにめちゃくちゃにされたいんだ‥‥」
「ふふ、大丈夫。僕の1番は、京夜だよ。京夜は、絶対、いなくならないもん‥‥ね。叢雲とは違うから‥‥。刻み付けて、あげるよ‥‥」
 あとはただ、色めいた声だけが、部屋の中に満ちて行った。

 心の傷、現実の傷、刻み込まれるそれに、差があるのかどうかは定かではない。だが、その刻み込まれる絆は、何も人の子だけではなかった。
「どけどけー! 雷電様のお帰りだっ!」
 ガレージに、ところどころ機械の外装が施された身の少年が、文字通り飛び込んでくる。褐色の肌に、緑髪碧眼の双眸。体つきは殆ど大人といって良いだろう。少年にしては体格が良いほうだが、そう答えた雷電の表情は、まだあどけない。
「お疲れ‥‥。元旦なのに‥‥借り出して悪かったね。この埋め合わせは‥‥いずれするつもりだけど‥‥」
 背中のバーニアをふかし、滑り込んでくる雷電を、そう言って出迎える幡多野 克(ga0444)。事前に張ったワイヤーネットで、そのスピードを強制的に軽減させる。程なくして、ガレージの中央に収まった雷電は、ぷしゅうと湯気を立てながら、首を横に振る。
「いや、かまわねぇよ。それより、部屋あいてるのか? 借りるぞー」
 聞き様によっては、自ら要求しているように見えるが、彼が向かったのは、ガレージに併設されている生活空間だ。居間を兼ねたキッチンを抜け、彼はそのまま奥にある脱衣所へ向かう。
「待って‥‥。僕も行くよ‥‥」
 後を追ってきた作業着姿の克に、ちょっと意外そうな顔をする雷電。その頬が朱に染まっている。
「出た後‥‥だろ。色々‥‥チェックしないとな」
 見れば、戦ってきた後らしく、装甲のあちこちに細かい傷がある。中の人工皮膚にまで届いてはいないだろうが、それを確かめるつもりらしい。
「そ、そう言えばそうだったなっ」
 良い繕うように染まった頬をタオルで隠しながら、雷電は慌てて風呂場の奥へと消えて行った。頭でも冷やすつもりなのか、ばしゃばしゃとやたら湯をかける音がする。そんな彼の仕草を愛しく思いながら、克は残された装甲を片付け、自身も濡れないように服を脱いで、扉を叩く。
「入っても‥‥いい?」
「あ、ああ」
 既に、彼は湯船の中に浸かっていた。濡れた髪の毛が、エメラルドのように光を反射してい。褐色の肌が、湯気かそれとも別の理由からか、ほんのり上気していた。
「お邪魔します」
 ひとこと、そう言って、結構な広さを誇る湯船に、かけ湯をしてから浸かる。
「外装は‥‥あんまりたいした事はなかったんだけど‥‥相手が相手だからな。中身もチェックさせて‥‥欲しい」
 もっともらしい事を言って、克は雷電にそっと頬を寄せた。
「痛みはないけど‥‥」
「わからないさ‥‥。それに、最近構ってやれなかったから‥‥綺麗にしてやりたいし」
 照れたように首を横に振る彼の両腕を開き、その胸板に触れる。指先でなぞり、やがて、丹念になで回す。
「‥‥ば、ばかっ。何やってんだよっ」
 顎をくいっと持ち上げる彼。見れば、既に覚醒していた。髪と瞳の色が代わり、まるで装飾品をまとったようになる。その姿に、雷電の胸がどくどくと脈打ち始めた。
「照れるなよ。ほら、こっちを向いて」
 そこへ、克はボディシャンプーを手に取ると、またたく間にあわ立て、そのクリーム状になったそれを、雷電へとなでつける。
「何でスポンジ使わないんだよぉう」
「こうした方が、肌には良いんだぜ? それに、もし傷があってもすぐにわかるし」
 そう言って、そのクリームを刷り込むように、抱き寄せる克。大好きな姿が目の前に迫り、胸を高鳴らせた雷電の反応が送れ、すっぽりとその膝の上に収まってしまっていた。
「こうしないと、チェックできないだろう? 相変わらず良い肌してるよね」
 ちょうど、首筋の部分に、克の声が振って来る。吐息がかかり、体温が上がった状態で、雷電はびくりと背中をこわばらせた。
「あ‥‥。駄目だ‥‥。そんな風に触っちゃ‥‥」
 手がゆっくりと足のほうに回されていく。湯は半分ほどしか入ってない為、腕も足も開かれた状態では、全てをさらけ出してしまう。
「わからないかな。それに、こうしていたい‥‥」
 耳を甘噛みされて、こらえきれず立ち上がりかけるが、克はそれを許さなかった。
「いつもお前を感じていたいんだ。離れてても、ずっとそうだったから‥‥」
「あ‥‥」
 振り向いた彼に、そう言ってキスをする克。
「好きだよ。大好き。だから、こうしていたい。駄目?」
「バカ、俺はここにいるよ」
 抱きついてくる彼。首筋にかじりつくように。離れたくない思いが、その腕を通して伝わってくる。
「お前の側で、待ってる。だから、安心して身を任せれば良い」
 それを、受け止める雷電。背中に手を回し、しっかりと抱きとめるのだった。