タイトル:【北伐】充電器マスター:姫野里美

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/23 09:31

●オープニング本文


 その目的はともかく、極東ロシアの鉱山の動きが活発になっている事実は、衛星軌道を押さえたバグアには筒抜けだった。しかし、防衛に戦力を割かねばならぬ現状、その妨害のために戦力を割くことは困難だ。
「それで、戦力を出せと? うちがカツカツなのは知ってるだろう」
「‥‥実験部隊『ハーモニウム』だったかな。余り僕が面白いと思う素体はいなかったけれど。アレ、使えないものかな?」
 瞳孔を細めるハルペリュンを、イェスペリは一瞥した。
「アレか。役に立つかどうか。いや‥‥」
 考え込むイェスペリ。力には、それに合わせた使い道がある。その特性が敵に知れていないならばなおの事。黙した彼の顔を、異形のバグアが覗き込んだ。
「少なくとも、子供の強化人間ばかりというのは悪くないよ。人間は、外見に騙されやすい種族だからね」
 ハルペリュンは、青白い触腕をゆらゆらとたなびかせてそれだけを言う。
「‥‥気に入らん、な」
 イェスペリが吐き捨てるように呟いたのは、ハルペリュンの言葉の中身、そしてその言い分に従わざるを得ない自分も、だった。

 大連、旧市街地。
 バグア侵略の余波により、メンテナンスの必要なビルがあちこち壊れ、以前は文化的価値があったとされる建物は、半ば崩れ落ちている。その隙間を埋めるように流れていた路面電車は、もう長いこと使われておらず、あちこちにひっくり返っていた。
 そんな、荒れた街を見下ろす高台。バグアが来る前には、それなりに展望タワーが建ち、街を一望出来た場所に、数台のバイクの姿があった。
「ふぅん、ここが大連ねぇ。そんなに大した街には見えないけど」
「人が多いからな。奴らの単語を借りれば『鉱山』だ」
「じゃ、鉱石堀りってところだね」
 そんな会話が聞こえたかどうかは定かではない。だが、確かなのはその直後、そのバイク達が、市街地へと向った事だ。そして直後、市街地のあちこちで悲鳴が上がる。顕著なのは、あちこちでばちばちと盛大なスパークが上がっている事だ。そして直後、市街地を流れる大きな川へ向うバイクの姿がある。そこには、何やら荷物を搭載したらしい箱が積み込まれていた。
 残されたのは、警備らしき死体。その制服には、電気会社のエンブレムが組み込まれている。銀河に属しているので、日本から出張して来た御仁達なのだろう。そういえば、ここは日本人街にも近い街だ。
 生体バイク達は近くの川へとそのまま飛び込んで行ったのが目撃されている。水路とも言える浅い川だが、バグアには関係ないらしく、そのまま水音を蹴立てて、沖へと進んで行ってしまったようだ。その先の行方は分からなかったが、沖合いには水中型ワームが停泊している事を省みると、どこかのワームに収容されたのだろうと予測できた。
 問題は、盗まれたもの。である。
「なるほど、シェルターの維持に必要な電力が低下してる‥‥か。どうやら、奴の目的は、ここの電力供給システムみたいだね‥‥」
 報告を受けたカラスは呟く。他の依頼では、大掛かりなタートルワームが動き回っていたり、CWやHWが動いていたりする。だが、浅い水路も多く、ビルの残骸の多いこの街では、そう言った大型のものより、小回りの利く敵が入り込んでいるようだった。
 シェルターは、そのままではただの箱でしかない。いくつものシステムが起動してようやく、人々の逃げ込む場所になる。だが、度重なる作戦の影で、そのシステムを動かすエネルギーが枯渇しかけているようだ。
『この間の襲撃で、発電機をやられた報告アリ。そのシェルターだけじゃなくて、このマップの赤い点が全部アウト。今は予備でしのいでるけど、いつまで持つか分からない。部品を取りに行きたくても、外にはやっかいなのがうろうろしてるから無理だって』
 報告してきたのは、覚醒状態のミクだった。それほど、数が多いと言うことだろう。大きな都市だから、狙われている場所だけでも20はある。細かい建物が密集するそこには、どういうわけかあちこちにメイズリフレクターが配備され、マインドイリュージョナーが、傘を広げて、まるで都市を苗床にするような状態だ。
 それに、気がかりな事がもう1つ。
『今はまだ、シェルターだけだと思うけど、こうやってる間にも、UPCに襲撃がかかると思う。もうあちこちに目撃情報あるし』
 その前に、補給を済ませなければならないだろう。ただでさえ入り組んだ街。補給路確保も重要だった。
「と言うわけなんです。でも先輩なら‥‥何とかなるでしょう?」
 眼鏡の奥に、にやりと笑みを浮かべるカラス。相手はティグレスだった。
「ふん。お前はいつもそうやって人を乗せる。困った奴だ」
「どういたしまして」
 こうして、生徒達に緊急招集がかかった。戦闘服姿のティグレスは、低い声音で厳命している。

「俺達の仕事は、シェルターに電力を届けることだ。ただ、現地には、以前北米を荒らしていた生体バイクと、グリーンランドで見かけるマインドイリュージョナー、そしてメイズリフレクターが待ちかねている。他に、護衛のゴーレム型ワーム達もいるだろう。水路と陸路を駆使し、人々の安眠と無事な生還を守るのだ。いいな」

 彼にしては、珍しく長いセリフだが、現地の状況を考えると致し方ないことだろう。

●参加者一覧

ユウ・エメルスン(ga7691
18歳・♂・FT
クロスエリア(gb0356
26歳・♀・EP
ロジーナ=シュルツ(gb3044
14歳・♀・DG
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
真上銀斗(gb8516
21歳・♂・JG
綾小路 若菜(gb8529
17歳・♀・DG
音無蒼真(gb8787
18歳・♂・FC
神翠 ルコク(gb9335
21歳・♀・DF

●リプレイ本文

 物資を送り届ける。無事に。
 それが今回の仕事だ。
 だがそこには、敵の仕掛けた罠が右往左往しており、緊迫感を否が応でも高めていた。
「運ぶの‥‥でもぶんぶん、黄色いよぉ?あっちの方。大丈夫?」
 独特の口調で、ロジーナ=シュルツ(gb3044)が街中の方を指し示す。彼女にとって、危ない所、もの、人は全て黄色くてぶんぶん鳴っているらしい。言うならば、ミツバチの警戒色と言ったところだろうか。
「大丈夫じゃないみたいですけど、ね」
「‥‥いいけど。がんばるもん。ボク、怖くないんだよ?」
 神翠 ルコク(gb9335)が首を横に振る。が、ロジーナは構わずリンドブルムへと跨っていた。今回、やはりカンパネラの生徒をはじめとするドラグーンが多い。理由は、ここへ来る報告書にあった、見慣れぬ生体バイクに乗った部隊。ハーモニウムと呼ばれた彼らに、興味を示したゆえだろうか。
「うふふ。カンパネラ対ハーモニウム‥‥何だか面白そうじゃん♪」
 一番楽しそうなのは、ドラグーンではないクロスエリア(gb0356)だったりもするのだが、ともかく新しい存在に、心躍らせているのは事実なのだろう。高揚感とも言うのだろうが。
「この辺りの地図は‥‥。相変わらずだな。最短距離はこれでいいか」
 月城 紗夜(gb6417)が、データベースから引っ張り出してきた昔の地図を、方位磁石と共に、自分のリンドブルムに貼り付けている。風防の真ん中で、エンブレムのようにくるくると針を回して‥‥ぴたりと止まった。
「というか、敵も面倒な事をしてくれる。蹴散らしてやりてぇが、まぁ補給活動が優先だな」
 その様子に、無線機を取り付けるユウ・エメルスン(ga7691)。適うなら、粉砕撃破と行きたいところだが、トランクに収めた充電器の事を考えると、そうも行っていられない。と言うわけで、連絡を取りながら向おうと言う事になった。
「隊列はこんな感じで良いー?」
 クロスエリアが、AUKVの配置を決めている。先行と左右で挟むようにして、極力戦闘を避けようとポジショニングされている。物資輸送を優先した結果らしい。各自がエンジンスイッチを回す。クロスエリアを後ろに乗せたロジーナが先行し、一行は敵の顎待ち受ける街中へと滑り込んで行った。
「月城のルートだと、ジーザリオが通れないかも知れねーな。予備ルート用意しておくぜ」
 最短ルートは、向こうも予想していることだろう。車での突破が困難であることを考えて、ユウは他のルートも選択していた。ロジーナとクロスエリアのリンドにも転送する。
「皆様、無事に帰ってきましょうね」
 その月城と共に、左右に展開していた若菜が呟くように言った。心配する彼女を含め、ジーザリオの周囲にいるAUKV組は、何故か女性が多い。
「うーん、そういや今回は女の子多いな‥‥‥‥」
「ユウさん、鼻の下伸びるっすよ」
 同乗している真上銀斗(gb8516)がツッコミを入れている。顔を引きつらせるユウ。弁明している声が上ずっている。
「い、いや、別に他意は無い、ただの‥‥そう、ただの感想だ!」
「って、前危ないっすよ!」
 おかげで、選考するロジーナに追突しそうになる。ききっとふらつくジーザリオ。
「みんな、若いなぁ‥お姉さんとして頑張らないと」
 後ろが大騒ぎしているのを、無線機で聞いたクロスエリアは、のほほんとそう呟くのだった。

 傭兵達が向った市街地エリアは、細かな路地が入り混じっていた。まだ、人も住む地域。バグアへの対処の為か、車一台通れるかどうかと言う場所だ。だが、先行するリンドブルムは、そんな細い路地でも、難なく入り込んでいる。その路地で、運転していたロジーナがききっとリンドを止めた。
「あっちぶんぶんしてるの、ぶんぶん黄色いの」
 ロジーナ、路地の向こうに見え隠れする四角い物体を指し示し、そう報告してくる。見れば、マインドリフレクターが、まるでダンボール箱のように積みあがっていた。
「ふんふん、ここの道はもう使えないっと」
 その様子に、後ろのクロスエリアが、カリカリと地図に書き込んでいる。
「黄色いの、いないところ。ぶんぶんしていない所」
 通れなくなった道を、再計算して、新たな最短距離を算出するロジーナ。そっちへ向うと、行き止まりへと差し掛かる。
「ちょっと待って。念の為」
 後ろのクロスエリアは、探査の目を使いながら、慎重に周囲を見回した。一見何もないように見えるが、油断は禁物だ。
『どうかなさいまして?』
「あの壁‥‥偽物だね」
 後ろの綾小路 若菜(gb8529)が、無線機から問うてくる。それに短く答えると、リンドから下り、慎重にS−01を構えながら、近づく。
「なるほど。あっちは駄目だけど、地図にないここは通れるんだね」
 どうやっているのか知らないが、壁は壁ではないらしい。近づいてみると、すぐ近くに、MIの姿があった。まだ傘は閉じている。この壁が薄いフィルターのようなものなのは、それを隠すためだろう。
『こちらは何もありませんでした』
 後ろでは、周辺を見回した若菜がそう言っていた。どうやら、ここは通したくないらしい。無理に相手をすれば、こちらが被害を被る。リンドに戻ったクロスエリアは、緊張している様子のロジーナにこう指示。
「む、何か嫌な感じがするから、ルート変更。ロジーナちゃん、次を左ね」
「わかったの」
 こくんと頷いたロジーナが左折する。その後ろを、ジーザリオとAUKVが追随する。
「狭いな。ここは、前後に分担するべきか‥‥」
 とは言え、左右に展開できるほど広くない場所では、フォーメーションを変えざるを得ない。しっかりと両膝でタンクを挟み、バックミラーを折りたたんで走行する月城。何とか片手で運転したかったが、この狭さでは無理をしない方が良さそうだ。
「無線機の調子はどうだ? 真上」
『ちょっとザラついてますね。ジャミングが濃くなっているみたいです』
 常にONにした無線機の向こう側で、対応してくれたのは、ジーザリオの後部座席に乗っている真上だ。と、運転していたユウは、ロジーナのリンドブルムに続き、左折しようとしてふ気付く。
「ん? 過重量か? ジーザリオのハンドルが重い気が‥‥」
 何しろ、大人3人+充電器である。箱に詰め込まれたそれは、その他にも色々詰め込まれているらしく、見た目よりも重い。動きが遅い気がする中、先行していたロジーナが、再び立ち止まった。
「ぁ、みっけー‥‥。逃げよ?」
 3本ほど向こうの路地を曲がる辺りに、二輪のフロントタイヤが見えた。少なくとも人類のものではない。ロジーナのみつばちセンサーが警報の羽音を響かせている。迂回するルートを探したが、ジーザリオの入れる隙間がない。
「みーつっけた♪」
 そうこうしているうちに、スズメバチが3匹、こちらへ姿を見せてしまう。見つかったと思った刹那、ジーザリオの後ろから、月城が追い抜いて行く。車体を抜けたところで、アーマー形態に変形した彼女は、ジーザリオの正面へ回り込むと、そのスピードを殺さぬまま一番手前の生体バイクへ肉薄する。
「吹き飛べ!」
 竜の咆哮が響きわたった。轟音が生体バイクを包むのを見て、クロスエリアがひょうと口笛を吹いた。
「むぅ、速いなぁ‥‥。みんな、ハーモニウムが来るよ」
 警告を発した直後、生体バイクがむくりと起き上がり、その上の御仁がニヤリと嘲笑う。
「乱暴だなぁ。そんなの僕にもできるよ」
「何っ」
 月城が驚く間もなく、その体躯が地に転がる。衝撃波が襲ってきたようだ。
「くっ。敵襲、ここで食い止める。先に行け」
「援護します」
 ジーザリオの後部座席に乗っていた真上が、小銃を乱射する。だがそれは、相手のライディングギアにはじかれてしまった。しかも、スピードをあげた彼らは、生体バイクの強みを生かして、壁に張り付いてしまう。よく見れば、足の部分から鍵爪が生えていた。
「こんのぉっ!」
「きゃはははは、あたらないよーん」
 弾丸が壁にめり込む。残されたガラスが砕け、頭上に降り注いだ。その中を、ようやく起きあがった月城が肉薄する。
「この刃に慈悲は無い」
「あーあ、かわいそうなボクタチ」
 蛍火の一撃が相手をとらえた。少年姿のバグアだったが、月城は容赦なく、その足下をねらう。しかし、靱帯を切ったはずのバグアは、楽しそうに言って、ジーザリオの上へと飛び降りてきた。
「ちょろちょろ邪魔だっつーの!」
「だってそれがお仕事だもーん♪」
 後部座席のユウが、その牽制をしようと、小銃をぶっ放す。その弾が、体にめり込んでも、どこか楽しそうな相手の姿に、背筋すら凍る思いだった。
「せぇいっ!」
「うわっ」
 真上が距離を詰められ、その身に爪らしきものを振り下ろされる。思わず小銃で受け止めた刹那、相手が横に飛んだ。
「こっちはそれなりに出来るみたいだねー」
 見れば、月城が蛍火を使ったところだ。
「す、すんませんっ」
「戦力が減る。それだけだ」
 申し訳なさそうな真上に、月城は冷静に告げた。覚醒した都合なのか、生来の性格なのかはわからないが、その左頬に浮かんだ蝶の痣と、深紅の瞳、浮かんだ十字架は、無慈悲な証。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うっす。平気っす」
 駆け寄った若菜に声をかけられ、ファイティングポーズをしてみせる真上。救急セットは生き残った後でもよさそうだ。
「危ないの、ぶんぶんなの、黄色いの‥‥」
「やっぱり、囲まれてる気がする。僕が敵だったら‥‥。そうか!」
 おそらく、ロジーナの視界は、黄色く染まっているだろう。そんな彼女達を先行させたルコクが、何か思い悩むような風情なのを見て取り。若菜が首をかしげた。
「どうかなさいまして?」
「多分、僕だったらジーザリオを狙うと思うんです。怪しいですから」
 だが、相手は先に行った者達と戦っている。
「なかなか上手くいかないものだな」
 ユウは一気に仕留めたかったようだが、相手もそう簡単には沈んでくれない。まるで、何か目的があるかのように。
「‥‥! ここは危ないです!!」
 ルコクのせりふに、若菜はその「目的」を思いつく。が、その刹那、ビルの上から降ってくるのは、バハムートと同じ大きさの生体バイク。それは、ジーザリオの真上に降ってきた。
「く。やはりですか‥‥」
 がつんっと強い衝撃が走った。天井を切り裂こうしたのか、さらなる衝撃が襲う。これ以上はやらせないと、ルコクが、ジーザリオの影から進み出る。
「どうしたの?」
「新手です!」
 クロスエリアに答えるルコク。だが、彼女達も目の前の戦いに手いっぱいだ。ここは、自分が相手をするしかない。そう判断し、懐から鉄扇を取り出す。
「どうしてもやるしかなさそうですわね」
 若菜、あまり戦いたくはなかったらしい。決して厭戦気分で言っているわけではない証拠に、すでにリンドブルムは装着済だ。
「いきますわよ!」
 大型タイプが、邪魔だと言わんばかりに、若菜に装着した爪をふるう。それをレイシールドで受け止めた後ろから、駆け上がるようにして、ルコクがつっこんできた。
「僕の舞い、見切れますか?」
 流し斬りを使い、肉薄する彼女。鉄扇を閉じ、舞の仕草で振り下ろす。
「ふうん、ずいぶんと自信過剰な奴ばっかりだねー」
 軽く言われているが、盾扇で受け止めたその一撃は、かなり重い。
「僕の舞いは止められませんよ?」
「止めるなんて思ってないよ。好きなだけ踊ってくれるかなっ」
 びゅうんっ爪がルコクを凪いだ。走る痛みに、ルコクは活性化を使わなければ‥‥と、地に足を着く。だが、相手はその暇すら与えてはくれないようで、目の前にがつんと爪が突き刺さった。
「縄張り争いをしてるんです。容赦なんて、しませんよ!」
 その爪に、一撃を食らわせるルコク。人とかバグアとか、どちらでもいい。獣の戦いに、温情などいらない。
「長引きそうね‥‥。そんな暇ないのに‥‥。仕方ない、使うか」
 劣勢とは言わないが、ここでもたもたしていると、充電器が運べない。そう判断したクロスエリアは、懐の閃光手榴弾に手を伸ばす。
「ボクをいじめないでーーーっ!!」
 その目の前では、ロジーナが竜の爪と瞳で、相手をしていた。そこへ、クロスエリアが合図する。
「皆! 目ェ瞑って!」
「えっ、ははははいっ!」
 刹那、強烈な光の奔流が周囲を覆った。相手も視界は同じだろう。探査の眼は、そんな中でも、出口を指し示してくれる。
「さ、今のうちに逃げるよ♪」
 クロスエリアの導きで、一行は素早く戦場を後にするのだった。

 その後、AUKVをバイク形態に戻し、無線で位置を聞きつつ、最短ルートを走ることに成功していた。
「敵掃討終了、任務続行。そちらの居場所は?」
「ん、こっちは平気っす」
 月城にそう答えている真上。程なくして、充電器は無事避難所へと運ばれる。
「皆様、お疲れ様でした」
「ロジーナちゃん、乗せてくれてありがとね♪」
 若菜とクロスエリアが、同乗者と仲間に礼を言っている中、ルコクは不自由な生活を余儀なくされているシェルターの中の人々に、こう申し出る。
「これでいいのかな。皆さん、時間があれば、僕の踊りを見ていただけませんか?」
 きっと、忙しくなるだろうから。
 せめてひととき、楽しんでくれれば、士気も上がるだろうと思って。
 こうして、シェルターには、『踊り子充電器』という都市伝説が、まことしやかに残るのだった。