タイトル:【CE】ボンバーステージマスター:姫野里美

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/26 10:22

●オープニング本文


『今年の入学式はグリーンランドでやります。全校生徒収容する都合なんで、よろしくね』

 生徒全員に回ってきた入学式のお知らせ。それにはそんな意味の事が、聖菜の名前で書いてあった。
「何でグリーンランドなんだ?」
「いや、旧校舎が対岸にあるからじゃねぇの?」
 生徒達も首を捻っている。カンパネラから離れた北の地に、何故入学式が関わりあうのかは、正直言って明確な理由は学園から出ていない。可能性と言えば、海を越えた対岸に、旧校舎があるからと言ったところだろうか。
「やれやれ。ジュリア先生は、いつも何も言わずに‥‥ですからねぇ」
「向こうの研究所に向かうと、申請は出ています」
 まぁ、立地条件はさておき、そのゴッドホープへ向かう便の中に、寺田とティグレスの姿があった。
「まぁ、いかに極寒の地とは言え、そう簡単にはくたばらないでしょう。あれでも連合代表ですし」
 そう判断する寺田。実際の式典会場は、ゴットホープから東に600km。世界地図基準で言えば『近郊』と言って差し支えないだろう。グリーンランド南東部の町タシーラクにある。
「‥‥胃の痛い事を言わないで下さい」
 ゴッドホープからそこへ向かったジュリア教諭が、護衛に付けたラクロス部の生徒が先ほど怪我を負って発見されたばかり。何かあるといけないので、先に現地入りする事になったらしい。
「それで? 準備は進んでいるんですか?」
「まだ何も。どこに何があるのかさえ、最近把握したばかりです」
 さすがに教員対応なので、敬語になっているが、それでもティグレスは必要以上の事をしゃべらない。今まで、どちらかと言うと『秘密裏に』と言った形容詞が似合うほど、学園に知らされていなかった施設の建築なので、詳しい事がわからなかったと言うのは、寺田には秘密だ。
「先に探索を出した方がよかったですかね」
「管理の生徒に通達を出しておきます」
 おかげで、会話そのものはごく静かなものだ。カツカツと足音が響く中、2人は周囲の状況を確かめる。
「保護者や来賓の方も、ここには不慣れでしょうからね。動く案内板の設置は必要と言う事ですか」
 ゴッドホープの事は、確かにUPCの公式記録には記載されていたが、今まで殆どと言って良いほど、本部には関わってきていない。地下都市‥‥と言っても過言ではないが、建設されたばかりの講堂と、その近郊にある町で、いきなり一万人クラスのイベントをやれと言うのは、荷が重過ぎるだろう。
「動く?」
「生きた、でも構いません。生徒の姿しているかもしれないですけどね」
 どうやら、当日までに生徒達にこの施設について習熟してもらおうと言う魂胆のようだ。
「ここが会場ですか。広いですね」
 タシーラク近郊の専用講堂は、優に一万人を収容できるだろう。式典の他にも、様々な用途‥‥コンサートとか武道大会とか‥‥に利用できそうな広さなのは、理由があった。
「はい、ここならば全員詰め込めるでしょうし」
 確かに、カンパネラの演習場も、それなりの広さと大きさを誇っている。だが、あちこちに施設が点在し、またAUKV対応のKVをとなると、若干手狭だ。それに、既に全校生徒が並べるほどの広さになっていないらしい。そこで、ゴッドホープに全校生徒が式典に参加できる場所を作ったと言うわけだ。なお、式典のない時も、それなりに使用申請を受け付けるらしい。
「生徒会長の挨拶はこちらで行う予定です」
 中央に、まるでコンサートのステージのように、巨大な音響設備を備えたステージが設置されている。鉄骨がむき出しなのは、後で解体してコンパクトに片付けられるようにする為だそうだ。
「ふむ‥‥。ん?」
「どうかしましたか?」
 裏側に回りこんだ寺田、いつものように顔色を変えずに、「ちょっとそこにあるSES付のナイフを取ってきて来て下さい」と、物騒な事を言い出す。しばらくして、彼は関係者席の下から、箱のようなものを持ってきた。
「よし、これでいい‥‥。見てください、こんなものが仕掛けられていましたよ」
 見れば、コードの切られた爆弾のようなものが、手元に収まっている。しまっておいた音響設備に貼り付けられていたとの事。
「ボンバー系キメラですか」
 人間の考えたものではない。太さ10cmほどのシリンダーにコードが絡みつき、時計がセッティングされているのは同じ。だが問題は、そのシリンダーに収められているのがニトロやプラ爆弾ではなく、長さ20cmほどの長虫型のキメラだった事だ。
「半生体の爆薬と言ったところでしょう。ごく弱くですがFFも張られていますし。これ1つではないかもしれませんね」
「調べてみます」
 そう言うと、反対側へと回り込むティグレス。と、程なくしてどしゅっっと盛大な槍の一撃が食らわされたようで、ききぃっと言う悲鳴じみた音と共に、キメラボンバーを押収してきた。
「椅子の下に貼り付けられていました」
 どうやら、どこから入り込んだのかはわからないが、会場全域に潜り込んでいる可能性が高そうだ。
「除去スタッフを募っておきます」
「そうですね。ここまで来る通り道に仕掛けられる可能性もありますから、必要そうな場所にもお願いします」
 こうして、カンパネラの掲示板に、仕事の依頼が表示された。

『入学式の準備を手伝ってください。中規模コンサートレベルの設営の他、爆弾の除去、リハーサル、対衝撃のチェック、案内係等も募集します』

 椅子や設営を行うのは、各種安全確認の後と言う事になりそうだった。

●参加者一覧

/ 水理 和奏(ga1500) / アルヴァイム(ga5051) / カルマ・シュタット(ga6302) / 百地・悠季(ga8270) / リュドレイク(ga8720) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 神浦 麗歌(gb0922) / 美環 響(gb2863) / エリザ(gb3560

●リプレイ本文

 入学式会場は広い。キメラ爆弾が見つかった事により、捜索する事になったのだが。
「この人数だと、入学式準備は、余力次第って所ですね」
 そう言って、借りてきた台車から、必要な物品を取り出すアルヴァイム(ga5051)。寺田に申請して、管理部から『特別警戒中』と書かれた腕章と、名前にIDナンバー入りプレートを調達し、全員に配っていた。
「こうすると、本当に管理部っぽいわえよね〜」
 バディを組む事になった百地・悠季(ga8270)がIDカードを見て、しみじみと言う。入館章を模したデザインのそれは、まるで学生証をもらったようにも見えた。
「学生と聴講生が協力してってのも、悪くないと思いますよ」
 アルヴァイム。そう言って地図を渡す。スタッフ用らしく、いくつかの注意事項が書かれたそれと、無線をてに、2人はまずアリーナとも呼べる下の広場へと向かった。
「あー、マイクテステス。聞こえた人、出席を取ります。番号と名前をどうぞー」
 アルヴァイムが黒子姿のまま、無線機のマイクをいじっている。ざらざらとノイズが若干混じっているが、何とかなりそうなので、彼はそのまま参加者全員の点呼を始めていた。
「はーい。えぇと、いちばんっ! 水理和奏っ」
 はいっとお手手を上げて答える水理 和奏(ga1500)。まるで出席を取った時のようだ。その姿に苦笑しながら、アルヴァイムは本来やりたかった事を告げる。
「そうでなくて。IDの方ですよ。お渡ししたプレートに書いてあるでしょう?」
 見下ろせば、名前の所に、傭兵登録時のナンバリングが書いてある。
「あ、あははは。これか。えーと、gaの1500番‥‥でいいのかなぁ?」
「はい、OKです。あ、念の為百地さんもお願いしますねー」
 そう言って、順次確認を取っていくアルヴァイム。本人と確かめないと、バグアがいつ入り込んでくるかわからない為だ。百地が「はーい」とそれに応じている間、和奏の携帯電話が短くなった。
「あ、ミクちゃんからだ。よかったー、春香さん達、無事ついたって」
 嬉しそうにそう言う和奏。偽情報を危惧していたアルヴァイムが「出所は?」と尋ねると、彼女はこう言って画面を見せる
「やだなぁ、本物だよ。ほらぁ」
 葱型アイコンがぴこぴこと動いて文面を飾っている。きっと、ULTの関連会社あたりからゲットしたのだろう。いわゆるデコメと言う奴だ。
「でもよかった。ミユお姉さまの為にもがんばろうっと」
 安心したように、携帯を抱きしめる和奏。入学式には、ドローム社の社長もくるとのこと。彼女の安全を守る為にも、と言うわけだ。
「そうだな。何はともあれ、せっかくの入学式なんだから、無事に行いたいものだな」
「入学式に爆弾騒ぎだものなー。ま、時々は聴講生としてお邪魔してるし、ここは1つ手伝いといきましょうかね」
 配布物だ確認だと、管理部代わりにばたばたしている彼らを見て、カルマ・シュタット(ga6302)とユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)がそう言う。リュドレイク(ga8720)も、ユーリが世話になっている都合上、父兄としては手伝いに来た方が良いと思ったようだ。
「それにしても、何か呪われてるのかも。この分だと、当日スクランブルがかかっても、驚かないわね」
 計ったように爆弾が設置されているなんて状況に、百地がため息をつきながら、肩をすくめた。この調子で行くと、何が起きても不思議じゃないと考えているようだ。
「おいおい、縁起でもないこと言うなよ」
「そうならないように、さっさと生きる爆弾駆除しましょ。コンサートの余興じゃあるまいし、本当にボンバーステージにされたら、たまったもんじゃないわ」
 リュドがそう言うと、苦笑してみせる。
「それにしても、生徒や一部の教師には、さほどダメージがないと言う事ですが、それならばこのキメラを仕掛ける意味は何なんでしょう?」
「各国要人が終結するってバレているんじゃないかしら。結構見つけやすく配置されてるから、脅しなんじゃない?」
 腰まであるストレートな髪が、美環 響(gb2863)が首を捻るのに合わせて、かすかに揺れる。だが、エリザはその中性的な微笑みにも顔色1つ変えず、答えを導き出す。
「なるほど。そう言う考え方もありますか‥‥」
「どっちにしろ、入学式はひと波乱ありそうですわね」
 顔色を変えずに頷く響に、エリザ(gb3560)はぼそりとそう応えていた。どうやら、入学式がただで終わらないと考えているのは、どこも同じらしい。

 傭兵達の人間関係は、複雑な奴もいれば単純な奴もいる。友人同士で仕事に赴く者も多い。だが今回、その知り合い同士が組む事はなく、それぞれ必要そうな能力を持つ者同士が組む事になった。
 アルヴァイム言うところの『相互協力』と言う奴である。
「爆弾をしかけるなら、効果の大きい箇所に重点的に仕掛けるだろうから、目立つステージ周辺は外せないだろうな‥‥」
 ユーリ、父兄のリュドとはわかれ、その目を付けたステージ周辺へと向かっていた。そこは、証明や音響機材に繋がるコードがごちゃごちゃと入り組んでおり、当日になれば花も生けられると言う。物を隠してもわからないだろうと、彼は判断していた。
「楽器は使うんでしたっけ?」
 一緒にいるのは神浦 麗歌(gb0922)だった。楽器の扱いには多少自信があると言う彼、そう言ってステージの端っこに置かれているピアノへと向かう。
「どうだろうなぁ。それぞれの国じゃ、国家くらいは歌いそうなんだが、ここは混合だし‥‥」
 カンパネラには様々な国の生徒がいる。主要な国家‥‥例えば出資している国に限って‥‥とかでも、交響曲並に長くなりそうだ。
「日本だと校歌斉唱はあると思いますが、この広さだと、ピアノ一台ではまかなえませんし‥‥」
 ピアノそのものは立派なグランドピアノだが、さすがに一万人規模の大きな会場である。来賓の挨拶が後ろまで届くとも思えないし、何らかの音響装置を使うのは明らかだ。
「その二つを重点的にって所だな。俺は照明の辺りを見て見る」
 そう判断したユーリが、スポットライトがある辺りを覗き込んだ。神浦は舞台袖にあるピアノの蓋をそおっとあけて見た。
「まさかこんなところに‥‥って、あるし‥‥」
 張ってある弦のどまんなか‥‥。一般的に一番演奏で使う、ちょうどメーカーロゴが入っているあたりだ。
「予想していたよりも大きいな」
「ピアノは丈夫ですから、吹っ飛ばすのに念を入れたって所ですかね」
 照明の方を探していたユーリも、降りてきてピアノを覗き込む。触れないようにおててで図って見ると、報告を受けていたものより、ひと周り大きかった。
「‥‥やっぱり生きた爆弾か‥‥」
 気配を察知したのか、中の芋虫がぴくりと動く。目鼻立ちのはっきりしない粘土細工のようなシロモノだが、にやりと笑った口元には、鋭い牙が生えていた。
「と、とりあえず向こうまで持っていかないと‥‥」
 蓋を専用のバーで固定する神浦。演奏する時と同じ用に隙間を空けられたそこから取り出そうとする。
「苦労しそうだな。一応使っておくか‥‥」
 そう言って、ユーリは探査の目を発動させた。既に見つかっているが、爆弾はコード一本違えば、即座に爆発するもの。念には念だ。
「どのコードを切れば良いかわかります?」
 そのコードの扱いを、蓋をはずした神浦が聞いてきた。見つかったそれにも、たくさんのコードが絡み付いている。
「切るより抜いた方が良いだろうな。その蛍光ブルーがおそらく衝撃伝達用だ。そこに振動を与えないようにして、底を抜き取れ」
「やってみます」
 ユーリの指示に、彼は手を伸ばすが、どうにもこんがらがってしまい、ひっくり返してしまいそうになる。
「く‥‥。このままじゃ楽器が‥‥」
「無理はするな。衝撃を与えないようにして、楽器から出せるか?」
 ユーリのアドバイスに頷く神浦。調律をするのに、どこから解体すればいいのかくらいは覚えている。「それならば何とか‥‥」と、その手段を使い、慎重に爆弾そのものを取り出す。それを受け取ったユーリは、ピアノから離れ、人のいない場所へ持っていくと、持ち込んだイアリスで、その芋虫キメラ部分を、貫いていた。
「‥‥取り外さなくても、こうしちまえば良い話だ」
 そう言って、べっとりとついた体液をぬぐうユーリ。頑丈なイアリスは、この程度では傷もつかない。
「そうですね。次はそうしましょう」
 あまり気分の良い話ではないが、それが一番被害が少なそうだ。そう思い、神浦はユーリを手伝って、見つかったものを解体せず引き剥がす方にシフトする。
「この調子で行くと、天井裏にはもっとありそうだなー」
 スキルをかけなおし、そう言ってメンテナンス用の通路をよじ登るユーリ。狭くて細いはしごを上った後、イアリスを受け取る。そこへ、神浦もまた上ってくる。結構高さはあったが、さすがに頑丈に作られていた。
「「‥‥やっぱり」」
 関係者以外立ち入り禁止の札がかけられたカーテンをめくったそこには、その頑丈な天井すら吹き飛ばしそうな量のキメラ爆弾がちりばめられており、2人は深々とため息をつくのだった。

 その頃、カルマは1人で捜索にあたっていた。場所は、屋上へ通じる柱の影である。
「さて、隠しやすい場所ねぇ」
『見つかったですか?』
 途中で、アルヴァイムが声をかけてくる。が、通信機越しの彼に、カルマは首を横に振った。
「いやぁ、それがさっぱり見当もつかなくてさ」
 それっぽい場所‥‥を考えての行動だったが、正直確証なんぞない。『1人で探すと大変ですからねぇ』といってくるアルヴァイムに、彼はこう尋ねた。 
「それじゃまずいだろ。なんかねぇか?」
「では、水理さんのところへ。背丈の都合もありますし、フォローして上げてください」
 頷くカルマ。指示を受けた場所は、どうやら式典の際、様々なものを収めておく倉庫だ。もちろん、AUKVも含まれる。
「振動の与えやすそうなエリア‥‥ここかなぁ」
「ありきたりだけどな」
 駐輪場めいたそこは、コンクリ撃ちっぱなしで、一見すると丈夫そうだ。だが、あちこちにカバーをかけられた機械等がある。中には、演習で使うであろう大型ライト等もあって、もし中で爆発が起きれば、どれだけの被害になるかわからない。
「人はこないし。うってつけなんではありませんこと?」
「そうだね。イザって時に使えないと大問題だし」
 エリザが周囲を見回してそう言うと、和奏も頷く。こうして見回る限り、いるのは入り口の受付と、三人だけだ。人通りはさほどなく、何か密談をこなすには持ってこいな環境といえよう。
「手分けして探そう。俺、上な」
 カルマが天井へ続く作業用階段を登っていく。
「私は床下と廊下ですわね。これがありますし」
 エリザはそう言うと、持ってきていたAUKVを起動させ、地下へと続く階段を下りて行った。明かりはないが、オプションとして組み込んだ暗視スコープのおかげで、遜色なく周囲を見渡せている。
「じゃあ僕ロッカーとか荷物入れとか探すねー。大事なものなくなったりしたら‥‥そう言うのやだし」
 残った和奏は、クロークの中と、ロッカーを調べる事にしたようだ。人が狙われるより、思い出の大切なものをなくすのが、勘弁ならないらしい。
 そして。
「って、誰だこんなところにいれやがったのは‥‥」
 ゴミ箱の中から発見するカルマ。確かに、これを吹き飛ばされたら、色々酷い目に合ってしまうだろう。
「装着していて正解でしたわ‥‥」
 その酷い目に合っているエリザ。消火器に仕込まれたキメラ爆弾を処分しようとして、消化剤まみれになっている。AUKVが‥‥だが。
「うわーん、荷物整理位しておいてよー」
 で、水理はと言うと、うっかり扉をあけてしまい、中に入っていた未整理の書類が、なだれを起こして埋まってしまっている。
「それにしても、結構数があるなー」
 こうして集められたキメラ爆弾を見て、カルマがため息をついた。倉庫は広い為か、10個くらいのキメラ爆弾が集まってしまっている。
「これをまとめて処分するのは、これを着ていても大変ですわ」
 AUKVを装備したままのエリザがため息をついた。ちりも積もればなんとやら。殲滅する事は出来そうだが、それでは被害が計り知れない。
「運ぶか‥‥」
「僕、台車持ってくるねー」
 ここで処分することはないだろう。そう判断するカルマ。水理がそれを皆のいるアリーナまで運ぶべく、籠のようなものを調達してくる。そのカートを、まるでお盆のように抱え、ピラミッド状に積み上げたキメラを運ぶのは、エリザの役目。
「まったく。これが御茶やお菓子ならよかったのに」
 もっとも、中身はもうちょっとお上品がよかったらしく、最後までぶつぶつ言っているのだった。

 運んだ先では、響が爆弾キメラの時計がセットされていた時間やら、詳しい情報を聞き出し、それを元に捜査を開始していた。
「寺田先生の話だと、スケジュールのこのあたりが、一番人が集まっているみたいですね」
 探査の目を使い、来賓の座る席を中心に回る彼。来賓達以外にも、そのSP、音響やモニターの調整役等、教師以外の職員や生徒の集まる控え室だ。
「来賓の挨拶かぁ。確かにそうかも」
「で、後混乱するのはこのあたりかな」
 来賓リストを見たいと言った風情の和奏に、彼はスケジュール表を見せる。来賓の数が多いのだが、その割にはトイレの数が少ない。入学式に関わらず、イベントではトイレに長蛇の列が出来るのがお約束だ。
「そっか。便座に座ったらドーン!とか、やだよねっ」
 遊園地のトイレを想像しちゃったらしく、女子トイレに走っていく和奏。男子トイレには響が入る事にしたらしい。
『見つかった?』
 無線でそう聞いてくる百地に、女子トイレから『あったー!』と言う声が響いた。
「どうも、人が長く逗留する場所か、影響力の強い場所に仕掛けられてるみたいねー。どこから情報が漏れたのかしら‥‥」
 今まで見つかった場所を、手元のスタッフ用地図に書き込んでいく百地。アルヴァイムと共に、条件にマッチする場所へと向かう。
「いずれわかるでしょう。この近くでノイズが酷くなってますから、ありそうですね」
 そのアルヴァイムが手にする無線には、さっきからノイズがひっきりなしに入っていた。キメラの持つ電波障害に由来するものだろうと判断した彼は、それが酷くなる方向に、爆弾があると考えていたようだ。
「でもこの先にあるのって、女子更衣室とか、女性専用部活って所じゃない?」
 もっとも、その両条件に合致するエリアの1つには、しっかり男子禁制と手書きで書かれていたり。
「ふむ。更衣室ですか‥‥。重点区域の1つですね、お願いしますよ」
「OK。こういうところは、私じゃないといけないし。ナビはお願いね」
 あっさりと役目を百地に譲るアルヴァイム。とことこと遠慮なく入っていく彼女の後ろで、覚醒をかけなおし、探査の目を起動させる。
『‥‥もうちょい右ですね。そこ左』
 感覚の鋭くなった耳は、ノイズのわずかな差も的確に捕らえてくれる。その差を頼りに案内した先に、はやり芋虫がいた。
「みーつけた。あー、これは確かに食らったら面倒ねー。小銃使えない場所だし」
 置かれていたのは、処分をためらわれる場所だった。アルヴァイムが「どこにあったんです?」と尋ねると、百地はその場所を告げる。
「んと、給湯室。ガス湯沸かし器の上よ」
「‥‥確かに、被害が大きそうですね」
 ため息をつき、回収作業に移るアルヴァイムだった。

 その頃、リュドレイクは響と共に、来賓でも出資者レベルの者達が集まるVIPルームへと向かっていた。
「他のところでも続々見つかっているようですね。けど、威力はさほどでもない‥‥」
 いつものように微笑浮かべたまま、考えをめぐらす響。
「何か気にかかる事でも?」
「いえ、もしかしたら、騒ぎに乗じて、何か行動を起こすのではないかと思いましてね」
 リュドの問いに、彼は首を横に振った。ただの思い過ごしだと良いのだが、彼の脳裏では、それが思い過ごしではなさそうな警鐘が、ずっと鳴り響いている。
「まぁ、考えられる話ですね」
「だいたい、これだけの仕掛けを、一晩で行うなんて難しいでしょう。誰か潜り込んでいる可能性もあります」
 理由のもうひとつを口にする響。
「ふむ。確かにここは、こういうものがないと、入り込めませんしねぇ」
 VIPルームの鍵を手に、リュドは頷いた。彼が手にしているのは、正式な手続きを申請してもらって、管理部から借りてきたものだ。誰でも借りれるわけではない事は、寺田も証言している。
「何か嫌な予感がしますね。今できることを精一杯しましょう」
 そう言って、高価な調度品の並ぶVIPルームへと入る2人。
「もし、騒ぎをおこして‥‥なら、あるのはここではなく‥‥あった」
 探査の目を持つリュドが見つけたのは、大きな防弾ガラスの下。そして、火災報知器の裏側。応接室のソファーの影である。
「ここで片付けるのは問題そうですから、広場の方まで持っていきましょう。慎重にね」
 さすがにVIPルームで処理をするわけにはいかない。そう判断し、2人は見つかったそれを、アリーナまで持っていく。
「一般人はまだ入ってきていないですね?」
「開催前だもの。管理部の子は退避するか、身を守るように言っておいたわ」
 既にそこにはアルヴァイム達がいて、百地が残っていた管理部の生徒を避難させた旨を報告していた。
「生徒なら、入学したてでもエリザさんのようにしておけばいいでしょう。行きますよ!」
 リュドが、ティグレスがやったのを真似する様に、鬼蛍を振るう。横で、AUKVを装備したままのエリザが、ふぬっとツインブレイドでミンチにしていた。
「うぅ…僕、実は虫苦手なんだ…。気持ち悪いよー」
 まるで格闘ゲームのボーナスステージのように、次々と爆弾を切って蹴って切って蹴ってと、粉砕している和奏。表情がちょっと涙目だ。
「おーい。ちょっと面倒な大きさの奴が見つかったんだが」
 そこへ、ユーリと神浦が、ピアノの裏から見つかった大物と、追加のキメラ爆弾を持ってきた。
「これは‥‥。ちょっとサイエンティストの協力がいるな」
「いないけど、どうする?」
 百地がメンバー見渡してそう言った。暫し考えた結果、アルヴァイムはそれを寺田預けにすることにする。
「こんな大きさのものがあるなんて‥‥。僕、もう一回りしてきます」
「俺も。ステージ周りは、人が集まるしね」
 その間に響とリュドは、再び会場の見回りへと赴くのだった。

 さて、撤去作業が一通り終わって。
「えーと、次は椅子を並べたりすればいいんですかしら」
 装着を解いたエリザが首をかしげている。倉庫には椅子の束もあり、アルヴァイムの話では、式典の際それを使うとの事だった。
「どこをどうするのか、よくわかんないんだがな」
「ここに詳しい位置取りの表があるわ。紐を使って、まっすぐに並べる方法よ」
 ユーリが寺田にでも聞こうか? と、尋ねると、百地は首を横に振り、そう教えてくれる。1ブロックでの端と端の椅子間を引っ張って張り巡らせて、ずれた部分は揃えて、真っ直ぐになる様にする方法だ。
「それって結構力仕事だねっ。がんばるっ」
 手順を説明すると、和奏、リュド、響の3人が、椅子を運びにかかる。
「これ、役に立つかしら?」
「救急箱は、そのまま持っていて。工具は‥‥そうね。あるのがビニール紐だから」
 エリザが差し出した工具セットは、アルヴァイムが来賓の手荷物検査、搬入物資のチェックをするブース作りに使う。本部へそのチェック用人員をくれるように要請して。
「まぁ、いっぺんにやると大変ですから。これでも飲みながら、気力を養いましょう」
 ばたばたとペースを上げがちなアルヴァイムに、響はそう言ってジュースを差し出すのだった。

 さて、一通りセッティングが終わって。
「中佐のおじさんは、来賓には含まれないのかなぁ‥‥」
 休憩していた和奏、ステージを見上げながら、そう呟いていた。
「どうかしらねぇ。カンパネラの出資者名簿にはないけれど‥‥」
「講師とかだめなのかなぁ。役職に任命してあげよう」
 ふふんっとまだ成長途中の胸をふんぞり返らせる和奏。と、そこへ百地がメモを片手にこう申し出てきた。
「どうせなら、ちょっとステージに立ってくれるかしら。音響の響き具合をチェックしたいんだけど」
「え、いいの?」
 目を輝かせる和奏に、百地は「どうぞ。マイクテストみたいなものだし」と答えている。そして、ユーリやリュドをバラけさせ、音の響き具合を確かめるよう指示していた。
「こほん‥‥。『番長』のミハイル・ツォイコフ中佐である。悪い子にはお仕置きするから覚悟するように」
 声を低くし、中佐になりきって、来賓席から壇上へと向かった和奏、そんな事を言っている。その後、ちょこちょこと生徒の場所へ移動すると、高らかに声を上げた。
「新入生宣誓っ!水理和奏、UPC軍人目指して一生懸命、がんばるよ!」
 で、再び壇上に戻ると。
「ほほう…和奏君はいい子だな、卒業したら部下にしてあげよう」
 中佐の真似して言うものの、その顔はまるで、中佐に褒められたようにでれでれしていた。
「楽しそうだなー」
「まぁ、こっちも目立つのは苦手だし、得意な方に任せれば良いんじゃないか?」
 音響の方は問題ないらしく、後ろの方で聞いていたユーリとリュド、そんな事を言っている。
「…あっ、これ宣誓の生徒や来賓の方達に危険が無いかどうかの、真面目なリハーサルだよっ」
 突き刺さる視線に気付いたのか、あせあせと言い繕う和奏。
「まぁいいですよ。PAはプロがやるだろうし‥‥」
「ぴーえー?」
 専門用語に、和奏の首がかくりと傾いた。
「あ、いえこっちの話です。あのー、これの音だし、やらせてもらって良いですか?」
 もっとも、そう言った神浦は、既に打楽器のテストへと移行している。
「良いけど、多分式じゃなくて、部活紹介のほうだと思うわよ」
「それでも構わないです。この衝撃で無事なら、音響機器、壊れていないと思いますしね」
 演奏できるのはこれだけだが、なぁに、音を出すメカニズムは、どの楽器もかわらない。それが弦なのか面なのか、そして管なのか‥‥それだけの違いだ。
「なんとか爆弾も撤去できたみたいだな。あとは入学式を始めるだけか。ん?」
 神浦がリハで打ち鳴らす打楽器の音が響く中、カルマは案内係のほうへ回っていた。だが、会場の下見をしていた所、先客がいたようだ。
「エリザ、どうした」
「ふぇっ」
 声をかけると、驚いたように振り替える。ちょっとお目目が潤んでいるエルザだった。
「ちょ、ちょうど良いところに! あの、ここはどこですの?」
 が、ごしごしとその形跡を欠片も残さずふき取り、逆にそう尋ねてくる。
「入学式会場。あー、もしかして迷子か」
「違いますわ! こっちから来たから、多分こっちですわ! ま、まいごとかじゃありませんわよっ」
 どうやら、道がわからなくなったらしい。ぶんぶんと首を横に振るエリザに、カルマが「ほほーう?」とツッコミを入れると、彼女は『案内図』と書かれた紙をやたら振り回す。
「だいたい、ち、地図が悪いんですわ、わたくしが悪いんじゃありませんわよ!」
 見ていた地図、思いっきりさかさまである。
「迷子になる奴は、だいたい同じ事言うなー。ほら、こっちだよ」
 どうせぐるぐる回しているうちに、わからなくなっちゃったんだろう。そう予想したカルマは、エリザを出口へと案内するのだった。

 そして。
「よし、これで会場までの道順は頭に入れておきましたわ! 目をつぶってもいけるくらいパーペキですわよ!」
「苦労したけどな」
 ふんぞり返るエレナに、カルマがネタばらしをしてしまっている。おかげで「余計な事はおっしゃらないで下さいまし」とドツかれるはめになっていた。
「んじゃあ、リュドとユーリは来賓の方へお願いね。生徒は在校生をお願い」
 百地がそう言って、案内作業を分担している。その在校生に問われ、エリザは記憶を呼び起こそうとする。
「お手洗い‥‥? ええと……た、たぶんこっちですわ!」
「そっちは男子トイレですよ。エリザさんはこちらで受付嬢をやっていてくださいな」
 が、思いっきり逆へと案内している彼女に、百地はそう配置している。彼女の見た目なら、受付としての看板を立派に果たしてくれそうだから。
「……申し訳ありません」
「気にしないで。私はもっとも必要だと思う人にお願いしているだけよ」
 しょぼんと頭を垂れるエリザに、百地が理由を告げたその瞬間だった。

 ッどぉぉぉぉぉぉんっ!!

 表で、建物を揺らすような衝撃が、彼らを襲う。
「‥‥どうやら、始まっちゃった見たいですね。入学式の騒乱が」
 予感が的中してしまったと、厳しい表情を浮かべながら、そう呟く響だった。