タイトル:LIFE GAMEマスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/18 06:46

●オープニング本文


 能力者を巻き込み、突然《ゲーム》を始める謎の人物『ピース』。
 その正体については一切不明で、ULTの情報網を以ても新しい収穫はなかった。
 分かっていることは、ピースが男だということ。
 そして、不快な《ゲーム》を考える最低で最悪な性格の持ち主だということ。
 過去二回、能力者を罠に嵌めて、ピースは挑発的な《ゲーム》を仕掛けた。
 その態度に業を煮やしたULTは、彼の捜査に躍起になった。
 『正体が分からないなら、本人から聞き出せばいい』。
 そう言いたげに、彼の潜伏地を暴くため多くの捜査員が世界中を駆け巡った。
 ゆっくりだが着実に捜査は進み、ついに一ヶ月後、ピースの居場所が突き止められた。
 競合地域の山中に密かに建つ古風な洋館。
 そこが、ピースが潜んでいる可能性が最も高いと考えられる場所だった。
 少なくとも戦前にそのような山奥に館を建造した酔狂な者は存在しない。
 見た目こそ古風だが、地域的にも、バグアが関わっていることは明白だった。
 もし洋館がピースの隠れ家ならば、これは絶好の機会だとULTは考えていた。
 今までの作戦で全ての主導権をピースに握られていたことが余程腹立たしかったのかも知れない。
 先手を打つべく、ULTは洋館の調査を傭兵に依頼した。
 そして、そこにピースの存在を確認次第、抹殺するように命じるのであった。

 問題の洋館に辿り着いた傭兵達は、その外観に束の間ながら目を奪われた。
 傭兵達は事前説明で、館には罠が仕掛けられている危険性があると教えられていた。
 そのため、洋館の設計そのものにピースが関与している見込みが高いと誰もが考えていた。
 毎度傭兵達に気持ちの悪い思いをさせる《ゲーム》を考案するような男である。
 その感覚は異常に違いないと思い込んでいただけに、目の前の現実との落差に驚かされた。
 洋館は、有名設計士が携わったと聞けば信じてしまうほど、美しい意匠をしていた。
 大胆な構造の中に芸の細かな装飾が施され、それが惜しみなく全体に広がっている。
 外壁に絡まる蔦が美しさをより際立たせ、建造物に特に興味のない傭兵も感動を覚えた。
 だが一瞬後にはそれが敵の隠れ家だと思い出し、慌てて湧き上がる感情を消し去る傭兵達。
 その後、慎重に窓から中の様子を窺うも不自然な点は見つけられず、内部に侵入しようにも裏口には施錠がされていたため、仕方なく正面玄関から忍び込むこととなった。
 傭兵達は音を立てないよう細心の注意を払いながら、正面玄関フロアに足を踏み入れた。
 ピースがまだ帰宅していなかった場合を想定して、玄関の扉は閉め直す。
 そして全員入館を完了した所で、傭兵達は改めて正面玄関フロアを見渡した。
 外装を見て期待した通り、中は落ち着いた色調で整えられ、しかし優雅さを忘れていなかった。
 華やかな装飾品が絶妙な位置に置かれることで、建物自体が芸術品と化していたのである。
 無意識の内に長く息を吐き、傭兵達は任務を忘れて歩を進めた。
 玄関フロア一階の東西の壁には、豪華な額縁の絵画に挟まれて、色の違う扉が設けられていた。
 玄関扉の正面には二階へ続く階段が伸び、それは踊り場で左右に分かれている。
 二階部分は玄関フロアを囲むように設計されていて、一階と同位置に扉が存在していた。
 洋館は特別大きいという訳ではなかったが、調べ尽くすにはかなりの時間を必要になりそうだと傭兵達は覚悟していた。
 だが、早速探索を開始しようと傭兵達が意気込んだ瞬間である。
 突然扉に錠が掛けられる音が響き、玄関扉が頑なに閉じてしまった。
 慌てて傭兵達は扉脇の窓から脱出を試みようとするが、特別製のガラスらしく全く破壊出来ない。
 傭兵達が罠に嵌まった自分の愚かさを呪っていると、聞き覚えのある機械音声が耳に届いた。
 それがピースなのだと、傭兵達は瞬時に理解することが出来た。
「私の館にようこそ。諸君。
 こんな辺境の山奥まで、よくぞやって来た。
 その褒美として、諸君には私を討ち取る権利を与えよう。
 だが──」
 刹那、突然巨大な怪物が傭兵達の前に降臨し、威嚇するように雄叫びを上げた。
 怪物は三メートルにも及ぶ巨躯の筋骨隆々な人間だった。
 肌が炭のように黒く、やや腹が膨れており、左手に自身と同程度の大きさの棍棒を握っている。
 全員が一目見て、『黒鬼』の名を想像した。
 その黒鬼の背後──二階へ続く踊り場の壁の一部が回転すると、モニターが出現した。
 そこに、男性と思わしき椅子に腰掛けた人物の腹部と、明らかな『スイッチ』が映る。
 それは初めてピースが見せた映像情報であり、彼の姿だった。
「この館には特殊な仕掛けが組み込まれていてね。
 キメラが瀕死状態になると同型のキメラを新しく館内に導入するようになっている。
 キメラの死亡を感知し、導入完了するまでの期間は僅か二分だ。
 ‥‥さて、この『スイッチ』が見えるかね?
 これを押せばその仕掛けは停止し、更に残りのキメラを自動的に全滅させてくれる。
 諸君は永遠に続く煉獄から開放され、命の保障を得る訳だ。
 だが、このスイッチが置かれている部屋には私も同室させてもらう。
 卑怯だと思うかもしれないが、私の体には『ある装置』を埋め込ませてもらった。
 それは、私の身体機能と直結し、スイッチの有効と無効を判定するものだ。
 諸君が私に危害を加えれば、直ちに装置が作動してスイッチは機能を失う。
 ‥‥スイッチを押してから私を殺そうなどとは考えるな?
 最終的な判定はスイッチを押してから五分後に行われる。
 その間、少しでも私に触れようものならスイッチは無効化されるから注意することだ。
 頭の良い諸君なら、もう理解しているだろう?
 つまり、『私を殺す』か『キメラを殺す』か、諸君が選ぶのだ。
 最も、今までの話は諸君が私のいる部屋まで到達できれば、の話だがね」
 再び雄叫びを上げる黒鬼。
 いつ傭兵達に襲い掛かっても不思議ではない雰囲気である。
 傭兵達は黒鬼を警戒しながら、モニターに映るピースを眺めた。
「それでは、始めようか。
 互いの『LIFE(命)』を賭けた《ゲーム》を!」
 ピースの声が合図となったのか、黒鬼は雄叫びを上げながら棍棒を振り上げ、傭兵達に向けて振り下ろした。

●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
キムム君(gb0512
23歳・♂・FC
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
ノーン・エリオン(gb6445
21歳・♂・ST

●リプレイ本文

 これまでと何ら変わる事無く、ゲームは一方的に始まった。眼前に迫る黒鬼。閉ざされた扉。
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が素早く状況を見て取りながら、ため息を吐く。

「何もかもいきなりですね‥」
「どうにも趣味の悪いゲームだな。‥反吐が出るッ」

 ディッツァー・ライ(gb2224)も吐き捨てた。だがまずは身の安全を確保せねばならない。傭兵達は眼前に迫り来る危機をひとまず退けるべく、各々の武器を振り上げた。
 黒鬼キメラを倒してから新たな個体が補充されるまでの間はわずか2分。だが、ならば止めを刺さず行動不能に出来れば。
 黒鬼が雄たけびを上げ、驚くほどの素早さで棍棒を振り下ろした。ガツッ! 床と触れ合う鈍く重い音。
 漸 王零(ga2930)の姿が銀髪灼眼へと変化した。

「そちらが黒鬼ならこちらは漆黒鬼神がお相手しよう‥‥聖闇よ‥我が意に従い‥‥顕現せよ!」
「援護します」

 剣と盾を手に駆け出すフィルト=リンク(gb5706)。黒鬼の意識が、積極的に攻撃態勢に出た2人の方へと向けられた。
 その隙に残る傭兵達はまずは手近な部屋に飛び込んだ。1階の右の壁際、絵画に挟まれた扉。一応最低限に、中が図書室でない事、ピースらしき人影がない事、他の敵も存在しない事を確認し、扉を閉める。
 遠ざかった喧騒を聞きながらキムム君(gb0512)が呟いた。

「ピース、あの時セレスタが語った名」

 かつて彼はとある兵舎で聞いた。人の心と命を弄んだゲームの主、ピース。その最低なやり口は、傭兵として決して忘れられない名としてピースを記憶させた。
 キムム君の言葉にセレスタ・レネンティア(gb1731)が硬い決意の表情で頷く。胸に過ぎるのはかつて、ピースにしてやられた時の苦い、重い思い。

「あの屈辱‥‥忘れはしません‥‥」

 その一方で、同じくピースのゲームに巻き込まれながらも、異なる印象を抱いている者も居た。ノーン・エリオン(gb6445)だ。
 彼自身も前回巻き込まれたゲームでは、余り楽しからぬ思いをしている。だがそれはセレスタ程に重苦しいものではなく、

(「ピースさん自体には恨みもないし、個人的にはルールを守るという点では好感が持てるけど」)

 周りが殺気だらけだけど、と苦笑出来る程度には気楽なものだ。勿論それを口に出すほど愚かではないが。
 いずれにせよ、時間は無限ではない。館がピースのものである以上、この部屋にもマイクは仕掛けられているだろう。ならば作戦を話し合うのはこちらの手の内を明かす事だと、シンは持参のPCを立ち上げ、どこにあるか判らないカメラから画面を隠す様にパタパタッとキーボードを叩いた。

「さて、外から見た限りでわかる大体の屋敷の構造と、今後の方針の確認です」

 仲間達にそう言いながら、己が打ち込んだ文字を見せる――ピース殺害。スイッチを押さなければ無制限に補填されるキメラは確かに脅威かもしれないが、彼らは本来、ピース殺害の任務を受けてこの館に足を踏み入れたのだ。
 その場に居る全員、無言で頷く。確かにキメラは脅威だ。傭兵として放っておく事は出来ない。だが、命を弄び愉悦するピースを野放しにしてはまた、何度でも悲劇は繰り返される。
 ふと、白雪(gb2228)が呟いた。今の人格は真白。

「‥ピースさん、聞こえる? 貴方のやり方は褒められた物ではないけど‥‥その怜悧さには敬服するわ。‥‥もう二度と会えないかも知れないから先に伝えとくわ」

 独り言よ、と呟いた彼女の言葉に、スピーカーから返る言葉はなかった。





 ホールでは未だ、黒鬼との戦闘は続いている。無事、何とか黒鬼の右足を潰す事に成功した王零が言った。

「さて‥‥主催者も命をかけるゲームか‥‥面白い‥‥」
「確かにゲームの道具として遊ばれるのは不快ではありますが、今回は同じステージに立っているのでそれほど不快では」

 ならば楽しませてもらおうと、怜悧な笑みを浮かべて棍棒をなお振り上げてくる黒鬼を避ける男の背後を守るフィルトが嘯く。
 今まで、ピースは絶対的なゲームの支配者であり、傍観者だった。だが今回は違う。彼は同じ立場とは言い難いにせよ、ゲームの参加者としてこの館のどこかに隠れている。
 話し合いを終えた仲間が素早く部屋から出てきてドアを開け放した。ピース殺害の方針をやはりパソコン画面で伝える。黒鬼が左足だけで傭兵達に襲いかかろうとするが、避けるのはそれ程難しくない。
 了解、と頷き、黒鬼に向き直って左足も潰そうと狙いを定める。そうなれば腕だけでも襲い掛かってくるだろうが、時間は稼げるだろう。
 その、稼いでくれる時間を有効に使わなければ。セレスタが「とにかく邸内を探してみましょう」と言い、それを合図に王零とフィルト以外の6人は2班に分かれ、右と左に散った。
 左に行ったディッツァーが、こんな状況ながら楽しむような口調で言った。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか‥‥って、鬼だったな、今回は」

 動作は大仰ながら、警戒は勿論怠らない。真白が率先して中を覗きこみ、人影がないか探した。終わった部屋はドアを開け放し、捜索済みだと判るように。
 見た限り構造は単純だが、念の為に壁にペイント弾で印をつけて進む。キメラでも傭兵達でも破壊出来ない壁に、それ以外で満足に印をつける事は出来ないだろう。
 目に付く限り、手当たり次第ドアを開けて中を確認する。ホールからは戦闘音が響いている。それは、探索に当たる者達の安全は確保されている、と言うことだ。
 だが相手はピース、安心は出来ない。

「人の命をゲームと称して弄ぶ‥‥許せねぇな。俺は‥‥」

 バシュッ!
 苛立ちを吐き出そうとしたディッツァーに、何かを予感したシンが容赦なくゼーレを撃った。前髪の焦げる嫌な匂い。ゲ、と引きつる友人の顔に、当の本人は涼しい顔で嘯いた。

「失礼、この方向に黒鬼が出たような気がしないでもなかった気がしました」
「‥‥無事に終わったら盆踊りにでも行きましょうか。亡くなった人のためにも‥‥」

 これから死に逝く人のためにも、と声にならない呟きとともに、真白が新たなドアを開いた。その向こうにも、ピースらしき人物は存在しない。
 一方、右に行ったセレスタ達も、虱潰しにドアを覗き込んでいた。

「1階から捜索してみましょうか‥‥」
「図書室ってなんとなく1階にあるイメージがするなぁ。うん」

 セレスタの言葉にノーンが頷く。確かに、重い本棚を置くのに、あまり上階は選ばない。一般家屋であれば尚更――だが、見た目はまともとは言えこの館の主であるあのピースが、そんなまともな理由で行動するものだろうか。
 案の定、1階のすべての扉が開かれても、図書室は勿論、ピースの姿も見つからなかった。となれば2階。そこへ上る階段はホールにだけ存在し、そこでは王零とフィルトが黒鬼キメラを一手に引き付けて戦っている。
 邪魔にならぬよう、素早く通り過ぎようとした能力者達に、だが黒鬼キメラの方が気付いた。すでに両足を潰され、顔面にペイント弾がこびり付いている。目潰しを狙ったものだが、うまく命中しなかったようだ。
 それでも、今は前衛として戦うフィルトが素早く動いた。同時にセレスタ達と共に捜索していたキムム君が、囮となって仲間達を行かせようとする。

「ピース、貴様に夢幻想を、最後の希望を弄ばせはしない!」

 叫ぶと同時に、右腕の文字が『幻想たる人が夢』から「輝きし夢」に変化し、左腕に『護るべき幻想』と刻まれた。セレスタとノーンがその隙に素早く2階へ駆け上がる。
 キムム君が剣を構えた。黒鬼は腕の力だけで跳躍し、ほぼ体当たりで棍棒と共に圧し掛かろうと落下してくる。
 ドーンッ!! 館全体を揺るがすかと錯覚する衝突音。ステップで交わし、その背に王零がショットガンを叩き込んだ。ビクン、と跳ねる巨躯。どうやら、図らずも止めを刺してしまったらしい。
 素早く、フィルトと王零がそれぞれトランシーバーで2班に連絡した。キムム君が先に2階に上がった仲間を追う。猶予は2分。その間に仲間と合流し、新たな黒鬼が現れるようなら対処しなければならない。
 だが連絡を受けた2班のうち、新たに補充されたキメラに出会ってしまったのはシン達の方だった。1階の探索を終え、2階に上がろうと移動しているところに、前方にのそりと黒鬼の影が現れたのだ。
 ならばこの辺りに導入口があるのか。視線を走らせたが、それらしきものは発見できない。同時に黒鬼も傭兵達の姿に気付き、咆哮を上げて踊りかかってきた。

「ガアアァァァ‥‥ッ!」
「シン君、ディッツ君! 援護よろしく!!」

 真白が叫ぶや否や、ソニックブームを放った。足を狙い、あくまでこの場を逃げ出す時間を作る事に専念する。
 黒鬼の咆哮。それはダメージを受けたからなのか。或いは単にそういうものなのか。

「悪いが、こっちにも事情がある。少々姑息な手を使うが恨むなよ?」

 妙な所で律儀に断り、こちらも流し切りであくまで足止めに徹しようとする。シンからトランシーバーで連絡を受けた王零とフィルトが、その後を引き継いだ。狭い通路では存分に戦えないと、半ばは本気で逃げを打って黒鬼を引き付け、玄関ホールへ誘導する。
 このエンドレスの戦いに終止符を打つ為にも、一刻も早くピースを。そう思い、玄関ホール中央にただ一つ据え付けられた上り階段を駆け上がり、中央の分岐を左へ行こうとした3人は、危うい所で方向転換し、右の階段を駆け上がった。先程、キムム君がセレスタとノーンを追って駆け上がった階段だ。
 それは、シンのトランシーバーがセレスタからの連絡をキャッチしたからだった。すなわち、

「‥‥ピース氏を発見しました」

 どこに仕掛けられているか判らないマイクに拾われぬよう、細心の注意を払って押し殺した声で短くそう継げた言葉を。





 図書室は、2階の右側に並ぶ扉の1つの向こうにあった。壁際にぎっしりと書架が並び、部屋の4箇所にも書架が置かれている、静謐な空間。少なくともそう呼べるものを、その部屋も兼ね備えてはいた。
 だが、その中央の机に座る男の姿が、そのすべてを台無しにしている。いっそ無造作に思えるほど簡単に机の上に投げ出されたスイッチと、館に閉じ込められた当初モニターに映し出された人間の物と同じ服。
 生憎、あの映像にピース本人である事を確認できる決定的な証左はなかった。だがピースが、狂っているとしか思えない様な悪趣味なゲームを主催する割にルールに忠実な男であることを考えるなら、ここが図書室で、そこにスイッチがある以上、その前に座る男がピースである可能性は限りなく高い。
 ノーンが脳内で整理していた館の地図を元に説明したおかげで、真白、シン、ディッツァー達は迷うことなくキムム君たちに合流する事が出来た。セレスタが硬い表情で、追いついてきた仲間を見、伺った中の様子を説明する。
 無言で頷き合った。彼らの方針はもう決まっている。たといキメラを滅ぼせずとも、ここでピースを滅ぼさねばならない。未来の為に。これからの為に。ピースに翻弄され、散っていった人々の為に。
 バタン、と開いたドアを男はたいした事でもない様に見た。真っ直ぐに向けられた歪んだ眼差し。この状況に愉悦を覚える人間のもの。
 真白が、険しい表情で一歩進み出た。

「問う。お前はピースか?」
「いかにも。私がピースだ、諸君。まずはここまで到達した事を褒めておこう」

 男は、ピースはあっさり頷き、それを肯定する。瞬間、傭兵達から隠し様のない殺気が発せられた。だがピースは動じず、ニヤリ、と歪んだ笑みを浮かべる。
 ピースを慎重に睨み据えながらキムム君が問いかけた。

「お前は何故、この『ゲーム』を行う? 弱肉強食という言葉がある以上、バグアが地球を侵略することはまだ理解ができる。だが、お前はただ人の心を弄び、命を玩ぶだけだ――その貴様の狂った幻想、無に帰す!」
「成程、それが諸君らの選択か。面白い。実に面白い――私を殺せばキメラは止まらないと、知っていてそれを選ぶとはな!」

 ピースが哄笑を弾けさせた。だがそれはこちらの動揺を誘う為の罠だと、自分自身に言い聞かせる。選択は済んだ。覚悟は決めた。後は実行に移すだけだ。
 無言でそれぞれの獲物を構え、引き金に手をかけ、スイッチを入れたのは同時。その後に及んでなお、ピースは笑っていた。互いの命を賭けたゲームを、そう言っていた通り、この結末ですらゲームの行く末として楽しんでいるとでも言うのか。
 ディッツァーが先手必勝で切りつけた。

「悪趣味なゲームは幕にしようぜ、チェックメイトだ!」
「これでやっと‥‥貴方を止めることができそうです!」

 セレスタがためらわず引き金を引き、真白もまたそれに負けず銃弾を放つ。キムム君の霊夢斬が鉛玉を吸い込んだ男の体をさらに引き裂き。
 最後にシンがピースの死亡を確かめ、真白が念の為に眉間にもう2発銃弾を打ち込んだ。衝撃に、ピースの体が床を跳ね回って鮮血を撒き散らす。
 結局、ピースから話を聞く事は出来なかった、とノーンは溜息を持ってその光景を見守った。個人的に、ピースには聞いてみたい事があった。その為に何度か、班を抜け出して先回りし、ピースの元に辿り着けないかと試みたのだが、無理だった様だ。
 立ち込める血の匂い。幾度も他者に血を流させて愉悦を噛み締めてきたピースこそが、今回のゲームの敗者だった。




 ピースの死体を念の為確認してみたが、そこからは何ら有益な情報は得られなかった。仕方なく傭兵達は、黒鬼から逃げるように館を脱出する。
 最後まで出口を守っていたフィルトが、全員が避難を終えた事を確認して大きくキメラに切りつけて牽制し、わずかに足止めした隙に自らも館の扉から外に滑り出た。硬く閉ざされていた玄関扉は、ピースの死後それまでが嘘だったかのように難なく外界への口を開いた。
 最後まで全方位への注意を欠かさずに居たシンとディッツァーが、わずかに安堵の息を吐く。とは言え、まだこの後バグアの関係者が現れる可能性もある。油断は禁物だ。
 真白が今後の為に、封じた玄関と裏口に『大型キメラ在中・開封厳禁』の張り紙を貼って回る。ここから戻るにはどのルートが良いか、フィルトが事前に借りた地図を確認した。
 閉ざされた壮麗な館を見上げた王零が呟く。

「これでゲームクリアか‥‥」
「キムムさん、今回はありがとうございました」

 セレスタが、彼女の言葉に怒りを共にし、戦った友人に感謝し、頭を下げた。全員にも丁寧に頭を下げて回る。ピースが存在を公にした最初の事件。そのケリがようやく付いた形になる。
 傭兵達自身もピースには思う所があった。だから気にする事はないと、セレスタに首を振る。そうして全員で背を向け、後にした館の姿は、狂ったゲームの舞台になったとは思えぬ程、変わらず美しかった。
(代筆:蓮華・水無月)