タイトル:FAKE GAMEマスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/07 14:44

●オープニング本文


 アナタが目を覚ました時、そこは薄暗い見知らぬ部屋だった。
 霧が掛かったように霞んだ頭で周囲を見渡すと、同じ依頼を受けた仲間達がいる。
 次にアナタは、気を失う前の最後の記憶を探し始めた。
 思い出せる場所から徐々に、最新のものへと近付いていく。
 最初に思い出したのは、ここにいる全員で受けた依頼のこと。
 『キメラ掃討作戦』と名付けられたその依頼は、文字通りキメラ生産施設壊滅を目指す内容だった。
 現場に到着し、群がるキメラを倒し続けること数時間。
 施設内のキメラを殲滅し、最後に辿り着いた部屋が生産工場のはずだった。
 だが突入してみると中は廃棄品ばかりが置かれた何の変哲もない部屋で、アナタは思わず呆然としてしまう。
 直後、突然部屋の扉が閉鎖されたかと思うと、謎の煙が部屋に充満してきて‥‥。
 ぼんやりとしていた頭が一瞬にして晴れ、アナタは現状を理解をした。
 『罠に嵌められた』。
 一度事実を受け止めると、人という生き物のは更なる事実を求めたがるものだ。
 周囲を見渡し、情報を探し始めるアナタ。
 まず仲間と情報を共有しようと考えたアナタは、意識が鮮明になり始め仲間と接触を図った。
 全員無事である事を確かめると同時に、アナタは新しい事実を手に入れる。
 戦場で命を預けてきた愛用の武器と携行品が、全員奪われていた。
 幸いにも防具や衣服はそのままだが、素手での戦闘は困難を極める。
 途方に暮れていると、暗闇に慣れてきた目が部屋の隅に扉を発見した。
 試しに手を伸ばしてみると、扉は何も抵抗もせずに開いた。
 これも罠かもしれないと警戒しつつ、現状を打破するために進む事を決意したアナタ達。
 扉の先は窓のない真っ直ぐな通路で、天井から下がった電球だけが定期的に続いていた。
 恐る恐る足を進めていくと、五分ほど進んだ場所で机に置かれた宝箱と鋼鉄製の扉が現れた。
 宝箱の中身は、人数分の回転式拳銃だった。
 しかも一般的なものではなく、能力者用に特殊加工されたもの。
 これならば一発で容易に頭も吹き飛ばせるな、と考えていると、アナタは宝箱の底に一枚の紙を見つけた。
 そこには短く『絶望時の必需品』と書かれていた。
 皮肉なのか、冗談なのか。どちらにしても笑えない。
 とりあえず拳銃を持ったまま扉を開けると、そこはダンスレッスン場のような場所だった。
 左右に広く、目の前の壁一面に鏡が置かれている。
 嫌な予感を抱きながら全員入室すると、予想通り鋼鉄製の扉がロックされた。
 続いて、壁に設けられたスピーカーから、機械的な男の声が聞こえてくる。
『おはよう、諸君。
 私は“ピース”という者だ。
 今回は諸君と《ゲーム》がしたくて、この場を設けさせてもらった』
 アナタが次は何が出てくるのかと考えていると、突然鏡が変化した。
 先ほどまで鏡に映るアナタがいた位置に、アナタに似た木製人形のようなものが立っている。
 カツラを被り、似たような服装をしているが、顔の部分は見事に平坦で表情というものがない。
 だが驚いた事に、人形はまるで鏡に映るアナタのように、アナタと同じ動きをしていた。
『大体状況が把握出来てきたかね?
 それでは早速だが、今回の《ゲーム》のルールを説明させてもらうよ』
 どうやらアナタに《ゲーム》に参加するか否かの選択権はないらしい。
 最も、罠に嵌められた事を悟った時点で既に覚悟していた展開なので、アナタはルール説明に集中した。
『今回の《ゲーム》は至って簡単だ。
 君達の正面に見えるその人形達。実はそいつらは特殊なキメラでね。
 特定の相手の動きを一定時間そっくりそのままコピー出来るんだよ。
 鏡の仕掛けを使って分かりやすくしたけど、特定の相手というのは正面に対峙した諸君のことだ。
 これから三十分間、そのキメラ達は諸君と全く同じ動きをする。
 諸君が背中を向ければキメラ達も背中を向け、諸君が逆立ちすればキメラ達も逆立ちする。
 そして三十分後、キメラはコピーをやめて自立行動を始め、ガラスを突き破って諸君に襲い掛かる。
 諸君に抵抗する術はなく、あっという間にゲームオーバーだ。
 この《ゲーム》に勝利するには、三十分以内にキメラ達を倒さなくてはならない。
 ‥‥ちなみに、いきなりキメラに向かって発砲することは愚かだと忠告しておこう。
 キメラも諸君と同様の拳銃を所持している。勿論、弾を込めてね。
 だから自分のキメラに向かって発砲する真似をしても、困るのは諸君だけさ』
 言われた通り、アナタが正面のキメラに向けて銃を構えると、キメラもアナタに向けて銃を構えた。
 どれだけ速く行動しても、どれだけ意表を突こうとしても、キメラは同じ動きをする。
『では、この《ゲーム》で諸君に与えられた選択肢を説明しよう。
 諸君は一人一つ、『確認』を行うことが可能だ。
 それは行動でも構わないし、私に対しての質問でも仲間への質問でも構わない。
 『確認』は一人一つだが、確認出来た情報を全員で共有することは構わない。
 諸君はこれからよく考え、答えに辿り着くための道を見つけなくてはならない』
 スピーカーの隣に設置された時計の秒針が、ゆっくりと動き始めた。
 時間は十二時の三十一分前。
 三十分前になったらスタートの合図を下すつもりなのだろう。
 静かな部屋に響く秒針の音を聞きながら、アナタは即座に思考を働かせ始めた。
『言い忘れていたが、諸君の装備品は全て大切に預かっている。
 結果に関わらず、これらはお返しすると約束しよう。
 そして見事諸君がキメラを倒し、《ゲーム》に勝利した場合、私個人から報奨金を授けよう。
 ‥‥では、時間だ。
 諸君の健闘する様子を見守らせてもらうよ』

●参加者一覧

金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
クロスエリア(gb0356
26歳・♀・EP
忌瀬 叶(gb0395
21歳・♂・EP
鬼非鬼 ふー(gb3760
14歳・♀・JG
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
ノーン・エリオン(gb6445
21歳・♂・ST

●リプレイ本文

 ●選ばれた『プレイヤー』たち
 スピーカーからマイクをオフにした時の「プツッ」という音が聞こえ、傭兵達はお互いの顔を見合わせた。
 どうやらこれが噂に聞く《ゲーム》とらしい、と数名がすぐに理解する。
 遅れて、他の者達もこの《ゲーム》の主旨や流れを何となく理解し始めた。
「‥‥陰湿ですね‥‥自殺ゲームとは」
 改めてルールを把握して、金城 エンタ(ga4154)はそう感想を漏らした。
 彼の言う通り、多くの傭兵達が『悪趣味だ』と感じていた。
「こういうゲームは嫌いだ。
 解けようが解けまいが、結局“ピース”とやらの一人勝ちじゃないか。
 ああ、全く腹の立つ。
 この苛立ちはどこにぶつければ良いんだ。‥‥そこのキメラか」
 怒りを放出するように、時枝・悠(ga8810)はやや早口で告げる。
 一方、クロスエリア(gb0356)は存分に順応能力を発揮していた。
「ふぅ、何だか妙なことに巻き込まれちゃったみたいだね」
 他人事のように捉えられそうな口調だが、彼女としては単に自身の不運を嘆いているつもりだった。
 最も、言うほど悲愴感に浸っている訳ではなく、既に諦めのようなものが幾分か含まれていた。
「ゲームと言うのは、大抵胴元が損をしない様に出来てるんですよね」
 悠の怒気に晒されたように、忌瀬 叶(gb0395)も不満を露わにする。
 だが鬼非鬼 ふー(gb3760)は逆に、この状況を楽しんでいた。
「自分がもう一人いるなんてなかなか味わえない体験ね」
 言いながら、手足を動かして正面に立つキメラが自身の動きを模倣する様子を楽しみ始める。
 その光景を見て、リア・フローレンス(gb4312)も試しに自分もキメラと向き合って体を動かしてみた。
 予想通りとは言え、全く同じ動きをするので、彼は驚きを覚えた。
「さて、ピース君のお遊びに付き合ってあげましょうかねぇ‥‥ま、さっさと終わらせましょう」
 御守 剣清(gb6210)は喋りながらも思考を巡らせ、この状況を打開する策がないか探していた。
 既に彼の中では何を『確認』すればいいか決まりつつある。
「うん? キメラ退治が終わったと思ったらゲームのお手伝いかい?
 まぁせっかくのお誘いだ。楽しくいきたいもんだね」
 最も遅れて現状を理解したノーン・エリオン(gb6445)は、呑気な口調でそう呟いた。
 だが彼は決して油断している訳ではなく、同時に本心からこの《ゲーム》を楽しみたいと考えていた。
 時計の長針が二つばかり動いたことに気付くと、傭兵達は不平不満を漏らすのを止めて真剣に相談を始めた。

 ●生き延びるための『確認』
 最初に『確認』を行ったのは、リアだった。
 彼はスピーカーに向けて声を掛け、ピースが返答するのを待ってから質問した。
「さきほど、『装備品は全て大切に預かっている。結果に関わらずこれらは返す』と仰いましたが、まず始めに装備品を全て返してもらうと言う事は出来ますか?」
 リアの問いは予想外だったらしく、ピースは驚いたような台詞を述べた後、
「すまないが、それは《ゲーム》が終わってからだ。
 焦る気持ちは察するが、今は《ゲーム》に集中して欲しい」
 と、返した。
 残念そうな表情を浮かべるリアを傍目に、悠が「次は私がやる」と宣言してから、入室前に入手した回転式拳銃の弾倉を確認した。
 彼女としてはそれは何ら違和感のない自然な動作だったのだが、これが事態を急展開させる切っ掛けとなった。
 彼女の持っていた回転式拳銃には、空薬莢が一つ入っているのみで、弾丸は一つも込められていなかったのだ。
 これを知った他の数名は、急遽『確認』内容を変更した。
 次の番はエンタで、彼は仕切りガラスに近付いて回転式拳銃の弾倉を取り出すと、キメラの銃の弾倉を確認した。
 事前にピースが言っていた通り、キメラの銃には弾倉全てに弾丸が込められている。
 思えば、彼が何故わざとらしくキメラの銃に弾が込められている事を告げたのか何となく理解出来た。 
 エンタからキメラ側の弾倉状態を教えてもらい、クロスエリアはピースに尋ねた。
「この銃でキメラの頭を撃てば、キメラは倒せるのかな?」
「諸君の頭すらも吹き飛ばす威力のある銃だ。キメラも例外ではない」
 すぐに答えが返ってきて、益々傭兵達は確信を強くしていく。
 続いて、叶が全員の銃の状態が本当に一緒か確認したいと申し出た。
 断る道理もなく、全員弾倉を出して確認しあう。
 予想通り、全員空薬莢が一発入っているのみだった。
 間髪入れず、剣清はキメラの持つ銃と自分達の持つ銃が同一なのかピースに訊いた。
 結果は全く同じ形式、型番の銃だということだった。
 既にこの時点で如何にこのゲームを攻略すればいいのか分かっていた傭兵達は、正直二人分の『確認』を持て余していた。
 だが当人達は攻略の道が見えたことにより、気楽に『確認』が行えることを喜んでいた。
 ノーンはエンタと同じように仕切りガラスに近寄ると、同じ動きをするキメラに注意しながら、互いに協力してガラスの破壊を試みた。
 ノーンの力が強かったのか、キメラの力が強かったのかは分からないが、ガラスはいとも簡単に砕けてしまった。
 『実はガラスの向こうにはキメラなど存在しなかった』。 
 僅かながらそんな展開を期待していたノーンだったが、生憎とガラスがなくなった所でキメラは姿を消さなかった。
 落ち込むノーンを退けて、ふーは自身の分身となるキメラと向かい合うと、手を伸ばしてその右頬に触れてみた。
 見た目通り、冷たく硬い感触が右手と左頬に伝わった。
 一先ずそれで満足すると、ふーは元居た位置に戻って仲間達との最後の確認を開始した。
 ピースは敢えてそれを『確認』としてカウントせず、静かに傭兵達の導き出した答えを待った。

 ●最後の一時
 時間に余裕があることを知ると、数名の傭兵達がキメラと遊びたいと提案した。
 当然他の傭兵達は却下したが、強い希望に負け、最後には危うくなったら即座に《ゲーム》を終了することを条件に許可するのであった。
 まず傭兵達はキメラと協力して、仕切りガラスを全て破壊し、一緒に破片を片付けた。
 仕切りガラスがなくなると、数人が一歩踏み出してキメラに近寄る。
「鏡写しだと、何処まで出来るかわかりませんけど‥‥」
 用心しながら、エンタはキメラと手を握り合ってダンスを始めた。
 始めは苦労していたが、次第に慣れ始めると楽しくなり、警戒心もどこかへと消えてしまっていた。
 その様子を見守りながら、悠は口を開いた。
「変な解き方したら評価が上がるとか、無いのか?
 ‥‥『確認』じゃないから答えなくて良いぞ、独り言だ」
 呟いた後、ピースが『確認』としてカウントしないように念を押す。
「‥‥では、これも独り言だ。
 如何に奇抜な解き方であれ、目的は一つしかないため、それがクリアできない以上は論外だ」
 意外なことに、ピースは彼女の疑問に答えてみせた。
 とは言え、本人が独り言だと言っている以上、それは独り言なのだろうが。
 彼女の隣でキメラと遊ぶ仲間を眺めながら、クロスエリアは思慮に耽っていた。
 果たして自分達の見つけた答えが正解なのか。それともピースは更に何か企んでいるのではないか。
 彼女と同様に、叶と剣清もピースの《ゲーム》に裏があるのではないかと疑っていた。
 不安は早急に解消したかったが、今は楽しそうに遊ぶ仲間のためにも我慢する時だという結論で全員納得した。
 そんな仲間の考えなど気にせず、ふーはキメラと一緒にガンスピンを興じていた。
 ただ回すだけの動作から、バタフライスピン、ショルダースピンと徐々に難しくしていく。
 彼女が失敗しそうになるとキメラも失敗しそうになり、それがふーは面白かった。
 彼女ほど派手ではなかったが、リアも様々なポーズを取ってキメラと遊んでいた。
 自分が苦労しながらも複雑な格好をすると、キメラも苦労しているように見えるのである。
 妙な愛着が湧いてしまいそうになるのが複雑だった。
 一人、全く動かずに誰よりも苦悩する人物がいた。
 ノーン・エリオンである。
 彼は如何にして邪な考えを実行するか考えながら、その結末が毎度自分に得がないことに落胆していた。
 最終的に逆恨みに近い感情をピースに抱いたのは、恐らく後にも先にも彼だけなのではないだろうか。

 ●《ゲーム》終了
 傭兵達が導き出した《ゲーム》に勝利する方法。
 それは、手に入れた回転式拳銃を自身のこめかみに当て、引き金を絞ることだった。
 弾丸の込められていない傭兵達の拳銃は空しく音をたて、弾丸の込められたキメラ達の拳銃は弾丸を撃ち出す。
 残り時間が五分を切った所で、傭兵達はその予想を現実のものにするため、準備を始めた。
 同じように拳銃を構えるキメラを見ながら、エンタは悲しげな瞳を浮かべる。
「お別れですね‥‥僕には‥‥守りたい人が居るから‥‥」
 隣では悠がキメラを眺め、無表情で呟いていた。
「吹き飛ばしても面白みの無い顔だな」
 最後までガンアクションを楽しんだ後、ふーは微笑を浮かべて別れの挨拶をした。
「さようなら、楽しかったわ」
 ノーンはキメラ達に同情を覚え、思わず心情を口にしていた。
「なんだか苛めみたいだね‥‥」
 他の者達は無言で正面に立つ自身の分身を睨みながら、引き金に掛けた指に力を込めた。
 一瞬後、全員が同時に発砲した。

 ●勝利の喜び
 傭兵達の考えていた通り、キメラは全員自らの頭を吹き飛ばして死亡した。
 これで《ゲーム》には勝利したが、傭兵達には勝利したことに対して何の喜びも感じられなかった。
 ただ虚しさだけが、彼らの心に残っていた。
 そこへ、全てを見届けたピースから通信が入る。
「おめでとう。諸君は見事《ゲーム》に勝利した」
 彼の拍手に同時に、今まで壁だと思っていた一部が動き始め、新たな通路が出現した。
「通路の先に諸君の装備品を置かせてもらった。忘れずに受け取ってくれたまえ。
 それと、《ゲーム》の勝利を讃え、私から報奨金を授与させてもらうよ。こちらも通路の先に配置してある」
 話はそれで終わったと思い、傭兵達がさっさと通路の先へ向かおうとした時だった。
「次は、もっと楽しい《ゲーム》を用意させてもらうよ。
 そして今度こそ、一緒に《ゲーム》を楽しもうじゃないか‥‥ククク」
 再び響いたピースの不快な声に、傭兵達は容赦なくスピーカーを破壊した。