タイトル:空中遊劇 −激突−マスター:水君 蓮

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/26 21:26

●オープニング本文


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 アメリカ上空に現れた特殊輸送艦『ヘミスフィア(上半分のない半球体状の形が由来)』。
 その目的は、大量のキメラをUPC北中央軍の本拠地オタワに運ぶことだった。
 刻一刻とヘミスフィアが目的地に接近する中、傭兵達がキメラ出撃口から内部への侵入に成功する。
 遅れて突入した破壊工作班と別れ、ヘミスフィア最上層部のサーカステントへと向かう傭兵達。
 情報が正しければ、そこにはアルマノイド・サーカス一座が存在していることになる。
 各々の思いを胸に秘めながら、傭兵達はテントのある平面部分に到達するのであった。

 あれほど激しかったキメラの猛攻が嘘のように、平面部は静けさに包まれていた。
 最初は平面部に繋がる階段からキメラが追跡してくることを警戒していた傭兵達だったが、それは取り越し苦労に終わった。
 階段の見える直線通路の途中で、キメラが自ら足を止めて撤退したからである。
 それはまるで、平面部が不可侵の聖域と告げているようで不気味だった。
 とにかく、傭兵達は折角の機会を無駄にする訳にはいかないと、敵がいない間に軽い治療と装備を整えた。
 万全まではいかないが、良好状態を取り戻し、意気込みを改める傭兵達。
 目的地であるサーカステントが、水平線に沈み行く太陽に照らされていた。
 その入り口は開かれ、まるで傭兵達が来ることを待ち構えているように見える。
 『罠かもしれない』。誰もがそう考えた。
 だが、今更躊躇した所で何も進展せず、結局傭兵達には前進以外の選択肢は残されていない。
 現実を受け止めると、傭兵達は仲間と顔を合わせて頷き、テント内部へと慎重に歩き出した。
 
 入り口から真っ直ぐ伸びる道を進むと、傭兵達はテント中央の舞台に辿り着いていた。
 周囲を観客席と思われる段々に囲まれ、円形の舞台を頭上のスポットライトが照らしている。
 テント内部は静寂に包まれており、傭兵達は無人ではないかと疑った。
 だがそれも一瞬のことで、すぐに大袈裟な声がテント内に響き渡る。
「ようこそ、アルマノイド・サーカスへ!!」
 傭兵達が構えると同時に、様々な場所から舞台衣装を着た人間が飛び出してきた。
 皆、曲芸を披露するように派手な動きをして、最後にポーズを決める。
 現れた人間は全員で四人。
 宣伝ポスターに毎回その顔を並べる、主役的芸人達だった。
 全体の中で最も地味な衣装を着ているのは、投擲の達人アーキラス。
 彼は本来の腕の位置から少し外れた場所に更に二本の腕を生やしていた。
 体中に大小も形状も多様なナイフを巻き付け、無表情で傭兵達を睨みつけている。
 その隣に、一際大きな影が立っていた。
 鍛え抜かれた筋肉を持つ、全身がやや赤く染まった大男──グリック。
 形状は人間のままだったが、元より大きかった体がさらに巨大化していた。
 三メートルを超えるであろう巨体が、傭兵達に威圧感を与えている。
 その肩に、妖艶な雰囲気を纏う薄着の美女が座っていた。
 最も派手な舞台衣装を着て、慎ましやかな微笑みを浮かべているのは綱渡り芸人のロザリー。
 一見すれば以前と変わらないように見えるが、彼女にもバグアの魔の手は及んでいた。
 柔軟な体が極限に至り、最早関節どころか骨がないような柔らかさを持つ彼女の身体。
 高い平衡感覚を持つロザリーにとって、それは最上の武器だった。
 そして、その三人の中央で落ち着きなく跳ね続けているのは、団長のヴォール。
 元々肥満体質だった彼の体はまるでボールのような球形となり、舞台の上を跳ねている。
 まるで中にガスでも詰まっているかのように、その落下速度は緩慢だった。
 再び人々の前に姿を現したアルマノイド一座は、完全に人間ではなくなっていた。
 全員キメラと化し、目の前に立つ傭兵達をただの殲滅対象としか見ていない。
 獲物を逃がさないようにするためか、突然入り口が閉ざされた。
 恐らく舞台に進んだ所で発動する罠だったのだろう、と傭兵達は推測した。
 覚悟を決めて、眼前で構える怪物達に向き直る。
 激戦の火蓋が切られようとしていた。

●参加者一覧

エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG

●リプレイ本文

「ようこそ、アルマノイド・サーカスへ!!」

「サーカスか、ガキの頃に爺さんたちと見て以来だが、最近は随分と悪趣味になったもんだな」
「ちっ、元が人間だと思うとやり辛い‥‥」
 一目見て、ディッツァー・ライ(gb2224)とキョーコ・クルック(ga4770)は顔を顰めた。
「貴方達に私怨は無いけれど‥‥人に仇を為す以上、消えてもらうわ」
 白雪(gb2228)の意識と取って代わり、心の表面に姿を現した真白が、二刀の切先を団員達へと向ける。
「‥‥元に戻すことができないなら‥‥せめて‥‥」
 赤い箱を胸に抱き、エレナ・クルック(ga4247)は、彼らを眩しそうに、そして悲しげに見つめて、くっと唇を噛んだ。
「本当に、これで終わらせたいところです」
 ぼうっとした目で団員達を眺める芹架・セロリ(ga8801)を横目で見遣り、抹竹(gb1405)が大太刀を握り直す。
「みなさん、お久しぶりです‥‥」
「ようこそ、アルマノイド・サーカスへ!!」
 彼らの体内から繰り返される録音放送。セロリは一度目を閉じ、ただ微笑みだけを返した。
 機械剣の柄に手を掛けた彼女を見て、抹竹は、静かにその傍らに進み出る。
(「‥‥舞台を終わらせてあげよう。何かを想うのは、全てが終わった後だよ‥‥」)
 彼らの身に起きた出来事の欠片さえも掴めぬまま、蒼河 拓人(gb2873)は銃を抜く。

      ヨウコソ アルマノイド サーカス ヘ ヨウコソ ヨウコソ ヨウコソ

 あの日、助けを求めていたはずの彼ら。
 届かなかった手のその先で、彼らは何を想い、何を願っていたのだろう‥‥。


    ◆◇
「あんたの相手はこっちだよ!」
 戦いの口火を切ったのは、キョーコであった。
 四体の敵のうち、十本の指間全てにナイフを煌かせるアーキラスへと、舞台の縁に沿いながら疾り、距離を詰めていく。
 銀の光が空を裂き、キョーコの肌を掠めて飛んだ。チリリとした痛みに構う事無く、彼女はツインブレイドを振り被り、跳躍する。
「ヨウコソ アルマノイド サーカス ヘ!!」
「止めな!!」
 空中で反転した刃が、横飛びにかわしたアーキラスの肉体を外れ、キョーコが着地した目前の床を叩き割った。
 だが、それで良い。アーキラスは他の団員と引き離され、その間にはキョーコが立ち塞がっている。
 そして、アーキラスと対峙するキョーコの背中に、ロザリーが腕を伸ばした。
「――っ!」
 鋭覚狙撃、影撃ちを発動した拓人の瞳が七色に揺れ、左手に持ったアラスカ454の銃口が硝煙を立ち上らせる。手首に弾丸をめり込ませたロザリーが振り返るより早く、彼はもう一方の手でエネルギーガンの引き金を引いた。
 スポットライトを点ける瞬間のような重い音を響かせ、光条がロザリーを貫く。
「さて‥‥やっちまいますか」
 グリックの肩の上で、胸を灼かれたロザリーが後ろに傾いだ。抹竹は地を蹴り、彼女が座す肩とは逆側から、グリック目掛けて走り込む。
「ヨウコソ アルマノイド サーカス ヘ!!」
 腕を振り上げ、拳打を放つグリック。抹竹は十手刀を自分の横に伸ばして前転し、敢えて相手の足元に転がり込むことで回避した。そしてそのまま、伸び上がる勢いで刺突を繰り出す。
 グリックの肩から転がり落ちるロザリー。ぐにゃりと体を曲げて着地した彼女は、脚を普通とは逆方向に曲げたまま天井を見上げる。
「拓人さん! 縄です‥‥!」
 舞台を駆けるセロリ。彼女の言葉の意図を読み取った拓人が両手の銃を天井に向け、そこに渡されたロープを狙った。
 細いロープを撃ち切るのは容易なことではない。だが、ロザリーは弾丸の飛び来るロープに乗るべきではないと判断したか、射程の短いラッパ銃を構えて敵を捜した。
「あ、がっ!?」
 瞬天足を発動し、突然グリックの陰から飛び出してきたセロリの手元に、淡く輝く光が生まれる。それはロザリーの捻子曲がった首元に触れ、煙を上げて灼き斬り、肌を突き破った。
 ロザリーの柔らかな腕が銃を掲げ、セロリに銃弾を浴びせる。だが、ラッパ銃のような命中率の低い武器では、瞬天足を使ったセロリの動きを止められない。
 パシン、と真中から穿ち切られたロープが、張力を失い床に垂れ下がるのが見えた。
「片手で凌げるもんじゃなさそうだな。だが‥‥っ!?」
 刀の柄を両手で握り、グリックの拳を受け流そうとした抹竹が、想定外の威力に耐え切れず吹き飛び、舞台上を転がった。
「――成程。いいだろう、受け流せないなら避けるまでだ」
 ロザリーと対峙するセロリを一瞥し、抹竹は立ち上がる。
 セロリがどんな気持ちであのキメラに剣を向けているか、十分理解しているつもりだ。
 だが、彼女は傭兵だ。私情に惑い、それを忘れてしまうような人間ではない。
 それならば。
「お前の相手はここだ、グリック。――かかって来い」
 彼女を信じ、自分は自分に用意された役割を果たすまで。

「いきますっ! 錬成弱体!」
 舞台上を緩慢に跳ね回るヴォール。ゆっくりと床に落ちるそれを目標に、エレナが練成弱体を発動した。
「ヨウコソ アルマノイド サーカス ヘ!!」
 床に腹を押し付け、ヴォールが再び宙へと浮かぶ。最大限の力を込めて跳躍したディッツァーがヴォールの真下に着地し、相手が反応する前にもう一度飛び上がった。
「厄介な奴から叩かせてもらうぞ、悪く思うなッ!」
 ヴォールの膨れ上がった腹目掛け、FFの上からオーバーヘッドキックの要領で蹴撃を放つディッツァー。強い衝撃を受けたヴォールは、まるでサッカーボールのように客席へと突っ込んだ。
「バウンドしてきますよっ!」
「フン、むしろ歓迎してやるぜ!」
 弾力に富んだ敵の体が客席の椅子に跳ね返り、ディッツァーへと向かってくる。エレナは警鐘を鳴らし、超機械「PB」の蓋を開けた。
「ヨウゴゾアルバドイドザーガズベヨウゴゾ‥‥」
 空中で猛烈な電磁波に囚われたヴォールから、呪詛のように響く声。ディッツァーは身の丈より長い刀を抜き放ち、眼前に迫ったそれを横一文字に斬り裂いた。
 だが、斬撃を受けた敵はそれを物ともせず右手を動かし、放たれた黄色いボールがディッツァーの脚に着弾する。
「う‥‥!?」
 ディッツァーの身体は瞬く間にピリピリと痺れ、脱力して膝から崩れ落ちる。
 しかし、
「大丈夫ですかっ? いま治しますっ!」
 エレナの超機械から飛んだ青白い電波がディッツァーを包み、一度は失敗したものの、二度目で特殊ボールの効果を完全に打ち消してしまった。
 その間にヴォールは桃色のボールを取り出し、瞬時に自身の傷を癒すと、再び舞台上を跳ね回り始める。
「キャッチボールは嫌いじゃないが、お前らと親睦を深め合う気は毛頭無いんでなっ!」
 復活したディッツァーが、大刀を構えて突撃をかけた。
 ヴォールは青色のボールを取り出し、後退しつつも真正面からそれを迎え撃つ――が、
「‥‥目障りなのよ。悪いけど消えて」
 声が聞こえたのは、後ろからだった。
 ディッツァーとエレナに気を取られていたヴォールの背後で、二刀が閃く。
 振り向いた敵の、更に死角へと、流し切りを発動させた白雪が滑り込んだ。
「八葉流終の型‥‥八葉真白」
 両の手が素早く動き、二段撃を繰り出す。スポットライトを照り返し、何度も煌く白条。
「次会える日があるなら‥‥楽しみましょうね。もっと心行くまで」
「じゃあな、団長さんとやら」
 血に塗れた手足を垂れたままポンポンと跳ね転がって行くそれを、ディッツァーの大刀が突き刺し、地に繋ぎ止めた。
 
「中々やるね。当たりはしないけどっ!」
 飛来した三本のナイフを、キョーコはツインブレイドを胸の前で一回転させて弾き飛ばした。
 後退して敵の接近を防ごうとするアーキラスに、彼女は一旦大きく横に跳んでみせる。そして、突然の方向転換に相手が戸惑った瞬間を狙い、再び大きく跳躍した。
「ヨウコソ アルマ」
「だから、それを止めな!!」
 アーキラスの目前に着地したキョーコの刃が、力の限り突き出される。下腹を刺し貫かれ、ぐらりと揺れたそれから両刃の剣を引き抜き、キョーコは返り血を浴びることも厭わず更に斬り上げた。
 斬られた勢いで、アーキラスが一瞬空中へと浮かぶ。キョーコは、相手の目がツインブレイドに集中している事を見て取ると、流し斬りを発動してその側面に移動、唐突に上体を傾けた。
「――がっ!?」
 苦痛の呻きを残して、遠く離れた客席に突っ込み、それらを破壊するアーキラス。
 キョーコの回し蹴りに脇腹を突かれ、そのまま吹っ飛ばされたのだ。
「剣だけがあたしの武器だと思うなっ!」
 サーカステントに声を響かせ、キョーコは爪先の刃についた鮮血を振り払う。
「無粋だとは思うが、助太刀するぜ」
 キョーコが客席まで達するより早く、ヴォールを倒したディッツァーと白雪が、アーキラスの左右に躍り出た。
 血を滴らせ、苦し紛れに放ったナイフは白雪のメタルガントレットを突き破り、彼女の柔肌を僅かに傷つけたのみ。
「‥‥投げナイフ。正直貴方の腕はいいわね。素直に褒めておくわ。‥でも」
 白雪の左手が、小太刀を投げ放つ。それは手を離れた時点でSES兵器としての効果を失い、赤い光に阻まれて地面に落ちる。
 だが、
「悪趣味なサーカスも、そろそろ幕にしようぜ。――胴ォォッ!」
 一瞬隙を見せたアーキラスの胴に、ディッツァーの横薙ぎの一撃が叩き込まれた。
 よろめき、その場に膝をつくアーキラス。そこへ、白雪が本命の投擲用小太刀を投げ放つ。
「逃がすか!」
 床を這い、必死に二人から逃れようと足掻くキメラの頭部を、キョーコの放ったソニックブームが跡形もなく吹き飛ばした。

「くそ‥‥しぶとい奴だぜ!」
 ロザリーが危機に陥る度に移動を試みるグリックを、抹竹は必死に自分へと引き付け続けていた。
 しかし、
「ヨウコソ アルマノイド サーカス ヘ!!」
 既に全身血塗れにも関わらず、グリックは変わらぬ調子で手足を振り回し、回避し続ける抹竹をしつこく追い回す。
 突き出された巨大な拳を横にかわし、刀を握り直す抹竹。しかし、そこへ二撃目が迫っていた。
「――ぐっ‥‥げほっ!」
 自分から後ろに跳び、威力を殺したものの、打たれた腹から吐き気がこみ上げる。
「大丈夫ですか? 手当てしますねっ!」
 膝をついてしまった抹竹に、救援に駆け付けたエレナが練成治療を施した。柔らかな光に包まれ、彼の身体に刻まれた傷はもちろん、内臓にまで達したダメージがあっという間に癒される。
 拓人のエネルギーガンが更なる追撃をかけようとしたグリックの肩を撃ち抜き、さらにその先の肘関節へも回転式拳銃の銃撃が叩き込まれた。片腕をだらりと下げ、グリックが後退する。
「‥‥お師匠さん、綱が切れちゃいましたよ?」
 天井のロープを切られ、地を這うしかできないサーカスの華。
 セロリは胸元に盾を構え、彼女が放つ銃弾を受け止めた。
「まあ‥‥言葉は通じないみたいですが」
 セロリが、再び瞬天足で舞台を駆け抜ける。笑ったままのロザリーを見据え、機械剣を振り下ろした。
 ぐにゃりとうつ伏せに崩れるロザリー。カウンターで振り上げられた腕をバックステップで回避し、セロリは再び距離を取ろうとする。その足元で、コンコン、と、銃で床を打つ小さな音を聞いた気がした。
「セロリさん! 避けて!!」
「――!?」
 抹竹から離れたグリックの拳が、セロリの頭上に迫っていた。
「ダメです!!」
 その拳がセロリを打つ直前、エレナの超機械が作動する。鋭く飛んだ電磁波に捉えられ、グリックの攻撃は的を外して地面を窪ませた。
「ああ‥‥音なんだ」
 ずっとロザリーとグリックの動きを注視していた拓人が、そう呟いて閃光手榴弾のピンを抜き、銃口をロザリーへと向ける。うち一発がロザリーのラッパ銃に命中、それを弾き飛ばした。
「この二体、特定の音を立てることで連携を取ってるみたいだね。さり気無い動きだったから、気付かなかったけど」
 武器を失ったロザリーがセロリへと突進し、セロリの機械剣がそれを迎え撃つ。抹竹の十手刀が振り抜かれ、グリックの体表に更なる傷を刻む。
 そして、
「行くよセロリちゃん、抹竹くん。これからが本番だ――光るよ!!」
 拓人が、二体の間へと閃光手榴弾を放った。
 目を閉じ、耳を塞いだ人間達と、無防備なキメラ達を、膨大な光と爆音の渦が包み込む。
「自分の役目はここまで‥‥後は、頼むよ」
 光が消えた、その後には。
「頭が急所じゃないなんて事ないだろ? ‥‥ぶち抜かせてもらうぜ!」
「これで‥‥終わりですね」
 セロリの機械剣と、抹竹の十手刀が。
 憐れなキメラ達の頭部を、深々と刺し貫いていた。


    ◆◇
 アメリカ上空に突如として姿を現した浮遊島――ヘミスフィア。
 その内部から、何機ものナイトフォーゲルが空へと飛び立った。
 最後の一機が発進し、蒼空に姿を現した時、浮遊島の内部で地響きのような轟音が鳴り響く。
 正規軍が仕掛けた爆弾が、エネルギー機関を破壊した音だ。
「取り合えず、今度は真っ当なサーカスを楽しみたいもんだぜ」
「そうね‥‥サーカスは観客のままが一番楽しいわ」
 コックピットに座したディッツァーが息をつくと、隣を飛んでいた白雪のディアブロから、そう返事が返ってきた。
 傭兵達の機体の周りを、脱出してきた正規軍の突入部隊のS−01、R−01、バイパーが次々と通り過ぎて行く。
「‥‥墜ちて行く‥‥。もう、終わったんだよね‥‥彼らの舞台は」
 拓人が、力が抜けたように一言口にして、視線を落とした。

 陽力を失い、大きく傾きながら墜落していくヘミスフィア。
 半球状のその平面には草木が生え、鮮やかな色のサーカステントが見える。
 それはまるで、桃源郷のように美しく、輝いて見えた。
 
「ごめんなさい‥‥みなさんを元に戻す手段があればよかったんですけど‥せめて‥安らかに眠ってください」
「そうだね‥こんな解決の仕方しかできなかったあたしが言うのもなんだけど‥‥安らかに眠って欲しい」
 エレナの手向けた花は、哀れなサーカス団の魂を少しでも慰めることができただろうか。
 涙声の妹に同調したキョーコは目を伏せ、操縦桿を握ったままで、神に召された彼らの平安を祈った。
「‥‥大丈夫、ですか?」
 セロリの機体に通信を送り、抹竹が気遣わしげに尋ねる。セロリは無言だった。
 念の為に、と、全ての団員達に止めを刺して回ったセロリ。
 確実に殺すこと。
 それは彼女にとって、楽しい思い出をくれた彼らへの、最大の恩返しだったのかもしれない。

 遥か遠く、北米の大地に衝突し、大爆発を起こすヘミスフィア。

「さようなら。仇は必ず‥‥」

 機体を揺るがす光と轟音の中、セロリは一人、ひたすらに涙を堪えていた。



―空中遊劇 完―

(代筆:桃谷 かな)