タイトル:父親としてマスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/08 00:10

●オープニング本文


 ライオット・レッドフィールドには今年で十九歳になった娘がいる。
 娘の名はジュリア。母に似た美しい女性だ。
 ある日、彼が自宅で久々の休暇を満喫していた時の話である。
 ちなみに彼は戦前までプロレスラーとして活躍し、今は傭兵としてキメラを相手に肉体と肉体を衝突させている。
 彼が戦場の騒がしさを家族との穏やかな一時で忘れようとしていた所、突然娘が緊張した面持ちで、
「お父さんに会って欲しい人がいるの」
 と、切り出した。
 傭兵としての日々で直感が鍛えられていた彼は、すぐに娘の言いたい事を理解した。
 だが、認める訳にはいかなかった。
 彼にとって娘はまだ幼い子供であり、どこの馬の骨とも知れない男に娘を任せられる訳がなかった。
 その後、彼と娘は激しい口論となり、最終的に娘は涙を流して家を飛び出し、恋人の家に住み始めた。
 後で彼は知ったのだが、娘の恋人はメガ・コーポレーションに勤めていて、若くしてそれなりの地位を築き、安定した生活と娘への絶対的な愛情が約束されていた。
 頭では分かっていても、彼は認められなかったのだ。
 
 そうして半年近くが経過した頃、娘から結婚式の招待状が届いた。
 彼は猛反対するつもりだったが、予行演習で娘の花嫁姿を見た途端、そんな気は失せてしまった。
 幸せそうに笑う娘の表情が、彼の考えを変えたのだ。
 彼は娘を話をして、恋人と一緒に酒を呑んだ。
 話をしてみれば恋人が好青年である事が理解出来て、彼は安心した。
 そしていよいよ式の当日、彼は着慣れないスーツを窮屈そうに纏い、何度も同じ場所を往復していた。
 だが開式まで十五分と迫った時、非情な緊急ベルと共に女性の緊迫した声が館内に響き渡った。
「現在、館内にキメラが侵入しております。
 大変危険ですので、お客様は最寄の非常口から迅速に避難して下さい。
 非常口には係員がおりますので、係員の指示に従い、慌てずに避難して下さい。
 繰り返します。現在、館内に──」
 彼は素早く行動を開始したが、避難するためではなかった。
 娘のため。娘の幸せのため。
 彼は父親として、走り出した。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA
セシル シルメリア(gb4275
17歳・♀・ST
ソルナ.B.R(gb4449
22歳・♀・AA
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

 ●宴の準備
 現場となる結婚式会場に赴いた傭兵達は、その華々しい外観に思わず見惚れていた。
 白を基調とした会館の外壁には純潔なイメージを際立たせるように天使や女神の彫刻が飾られ、神聖さを醸し出している。
 館を囲むように並ぶ花壇には美しい花が咲いており、まるで結婚を祝福しているように見えた。
 傭兵達が再び動き出したのは、会場を眺めたまま動かない一行に不安そうな表情でライオット夫人が声を掛けた時だった。
「結婚式に乱入とは‥‥無粋も良い所ですね。
 邪魔なので、早々にご退場願いましょうか」
 戦闘準備を整えながら、鳴神 伊織(ga0421)が呆れた口調で言う。
 綾野 断真(ga6621)もこれに同意し、小銃の弾倉を一度外して装弾数を確認すると、再び装填し直した。
「無事に救助と殲滅ができても式は延期でしょうね。お気の毒に‥‥」
 事件の経緯を思い出した柊 沙雪(gb4452)は、本日結婚する予定だった二名の事を思い、溜め息を零した。
 一方、彼女の隣では堺・清四郎(gb3564)が拳を震わせ、今にも暴れ出しかねない勢いである。
「糞が! バグア野郎どもが!!」
 被害を受けた二名に同情する沙雪と、侵攻を行ったキメラに怒りを覚える清四郎は、隣接しながら事件に対して反対の感情を抱えていた。
 少し離れた所では絶斗(ga9337)が屈伸運動を行い、即座に戦闘出来るように準備体操をしていた。
「必ず‥‥助け出します!」
 心配するライオット夫人を安心させるように、セシル シルメリア(gb4275)が元気な口調で語り掛けた。
 彼女の意気込みを感じたのか、ライオット夫人は「お願いします」と告げて深く礼をする。
 傭兵達はそれに答えるように深く頷き、館内へ進むために正面玄関へ向かって行った。
「俺らが行くまで持っててくれよ‥‥。
 俺が全部‥‥倒してやる。仲間も参列者も‥‥俺が助ける」
 玄関扉のノブに手を掛けて呟くと、須佐 武流(ga1461)はゆっくりと扉を開放した。

 ●生ける死者達の宴会場
 会場に突入して早々、傭兵達は覚醒を行い、二班に分かれた。
 断真、清四郎、セシル、の三名が救助班。伊織、武流、絶斗、沙雪の四名が殲滅班として行動を開始する。
 殲滅班は玄関ホールから廊下へ進み、真っ先に式が開かれるはずだった大部屋へと侵入。
 しかし部屋の中には要救助者の姿も敵の姿も発見出来ず、すぐに殲滅班は廊下に戻って捜索を続行した。
 手当たり次第扉を見つけては内部を調べるが、人影すら見当たらないまま二十分が経過してしまう。
 一行の顔に焦りの色が浮かび始めた頃、厨房から皿の割れる音が聞こえてきた。
 もしかすると生存者か。それとも敵の罠か。
 どちらにして、傭兵達は現場に向かう以外になかった。
 扉の脇で中の様子を窺いながら武器を構え、伊織の合図と共に一斉に突撃する。
 厨房に居たのは、三匹のゾンビだった。
 式で来賓者に振舞われるはずだった豪華な料理を貪り、完食しないまま次の皿に手を伸ばすゾンビ達。
 よほど空腹だったのか、ゾンビは傭兵達が侵入してきた事に一瞬気付かず、無防備な間を作っていた。
 それが傭兵達にとって先制攻撃の機会となり、先手必勝とばかりに全員同時に攻撃を開始する。
 最初に駆け出したのは伊織だった。
 彼女は調理台を軽く跳躍して乗り越えると、一番手前に居たゾンビの首を鬼蛍で薙いだ。
 彼女の一撃は首を分断させるには至らなかったが、喉を切り裂き、常人ならば致命傷に至る損傷を与える。
 しかし、ゾンビは倒れず、彼女に反撃を行おうとする。
 伊織が慌ててもう一度刀を薙ぎ払うと、今度こそゾンビの首は断ち切れ、その頭が皿の上に落下した。
 だが驚くべき事に、頭部を失っても尚、ゾンビは攻撃を中断しなかった。
 骨の露出した一見脆そうに見えるゾンビの拳は、想像以上の速さで伊織の右頬を捉え、彼女を厨房出入り口まで殴り飛ばした。
 伊織は口の中が切れているのを感じながら、空中で回転して着地する。
 首だけゾンビは攻撃に全生命力を使い果たしたのか、それきり地面に倒れ、痙攣した後に絶命した。
 伊織の後に続くように国士無双を振るっていた武流は、彼女が負傷した際に僅かに動揺してしまった。
 その間隙を見逃すまいと、やられる一方だったゾンビが反撃するが、彼はそれを紙一重で回避し、最後に国士無双を袈裟に振り下ろした。
 倒れる間際、ゾンビの胴が斜めに切断される。
 絶斗は天井からの急降下攻撃、地上での連続突き攻撃を一挙に叩き込んだが、ゾンビはまだ倒れていなかった。
「ならばこれだ! 龍生九技・四の技‥‥ヘイカンの万力‥‥!」
 絶斗はゾンビの頭を両手で挟むと、万力のように力を込めて圧殺しようとした。
 しかしそれは同時にゾンビに密着する事になり、敵からの攻撃を受ける結果となってしまう。
 ゾンビは彼の両脇に指先を食い込ませると、内臓を圧迫するように徐々に力を加えていった。
 敵の頭が潰れるのが先か、絶斗が重傷を負うのが先か。
 先に苦痛の声を上げたのは絶斗だった。
 ゾンビの指先が皮膚を裂き、肉を破り、彼の体内に挿入したからである。
 溜まらずに絶斗は攻撃を中断し、敵の両手を外そうと暴れ出した。
 彼を救ったのは、一発の弾丸だった。
 沙雪の小銃から放たれた弾はゾンビの眉間を的確に撃ち抜き、残り少なかった命を終えさせた。
 絶斗は短く礼を言って、活性化による回復を図る。
 一行が戦闘終了に安堵していると、突然厨房の扉が開き、沙雪にゾンビが飛び掛って組み付いた。
 沙雪は急いで離れようとするが、ゾンビの拘束は強固で解く事が出来ず、ゾンビの大きく開いた口が彼女の首筋に迫る。
 彼女が歯を噛み締めて痛みに耐えようとした時、突然巨大な影が現れて、ゾンビの首に骨太な腕を回した。
 ゾンビの注意が首を絞める腕に向いたため、沙雪を掴む腕の力が弛み、その機会を逃すまいと沙雪は無理矢理ゾンビの拘束から脱出して転倒した。
 離脱を確認した人影はゾンビを廊下の壁に後頭部から思い切り叩き付け、床に伏せるゾンビに沙雪が小銃による止めを行った。
「大丈夫か、嬢ちゃん」
 そう言って沙雪に手を差し伸べた巨漢は、今日結婚する予定だった娘の父親──ライオット・レッドフィールドだった。
 沙雪が手を借りて起き上がりながら何故ここにいるのか尋ねると、戦闘の騒がしさを聞きつけてやって来たらしい。
 沙雪は立ち上がって感謝の意を告げると、ここに来た経緯と現状を簡略的にライオットに教えた。
 ライオットは了解してすぐに救助班と合流しようとするが、伊織がそれを止め、携帯していたテンペストを彼に渡した。
「一応武器を持ってきました。今回はこれを使って下さい」
「悪いな。終わるまで借りておく」
 今度こそライオットは救助班の元へ移動をし、束の間の騒がしさが静けさへと戻る。
 ライオットの足音が小さくなるのを聞きながら、絶斗は先ほどの戦闘を振り返っていた。
「これだけの相手にこの負傷、俺もまだまだ未熟だな‥‥」
 絶斗は自身の体たらくについて嘆いたつもりだったが、伊織がそれを否定した。
「見た目に惑わされていたのは恐らく全員同じでしょう。
 まさかここまでの強敵だとは思ってもみなかったはずです」
 彼女の言葉には沙雪も武流も同意し、敵の実力が想像以上である事を認めた。
 そして不意に、四人は不安を覚えた。
 『果たして救助班は大丈夫なのだろうか』、と。

 ●屍骸と花嫁
 殲滅班と別れた救助班は、玄関ホールから階段を昇り、二階の捜索に当たっていた。
 断真が隠密潜行を発動させて先行し、安全を確認したら残りの二人を誘導する。
 清四郎とセシルはジュリアの名を呼びながら片っ端から部屋を探して回り、その間断真はゾンビが攻めて来ないか警戒した。
 捜索を開始して三十分後、三人は衣裳部屋に辿り着いた。
 セシルと同じ位の高さのハンガーラックが部屋中に詰められ、百を遥かに超える衣装がハンガーに掛けられている。
 清四郎がここにはいないと判断した時、セシルが大きな声を上げた。
 何事かと断真が部屋の入り口から覗いてみると、衣装に紛れてジュリアが倒れているのをセシルが発見していた。
 清四郎と断真がジュリアを広い空間に引っ張り出して安否を確認すると、幸いにも彼女は気絶しているだけのようだった。
 起こすか起こすまいか三人は少し悩んだが、脱出してから目を覚ましても問題ないと結論を出し、清四郎が背負って脱出する事にした。
 再び断真が隠密潜行しながら先頭に立ち、最後尾のセシルが後方を警戒しながら、間の清四郎が慎重に歩を進める。
 二つ目の曲がり角で断真が鏡による安全確認を行うと、行きにはいなかった一般人が地面に倒れているのを見つけた。
 彼は周囲に敵がいないか用心しながら急いで倒れている人物に近付くと、まだ生きているか確かめようとした。
 だが断真の指が首筋に触れようとした瞬間、突如として倒れていた男が起き上がり、不気味な声を上げ始めた。
 最初は錯乱して興奮状態にあるのかと思っていた断真だったが、次第に男の体が膨れだし、劇的な変化を遂げると、それがキメラであると悟った。
 倒れていた男は常識では在り得ない筋肉の発達の仕方をしていて、頭部が岩の中に埋もれているような外見だった。
 戦闘は不可避と察知し、断真は小銃を抜いて臨戦態勢を整える。
 だが事態を予想外の方向へ変化させたのは、予定外の人物の乱入だった。
 ネオゾンビの背後からライオットが現れ、奇襲を仕掛けて注意を逸らしたのである。
「俺がこいつの相手をするから、お前等は一刻も早く娘を外に連れ出せ!」
 戦闘の最中、ライオットは断真達にそう告げた。
 断真はライオットの事を心配するが、彼は娘の命を最優先にして言う事を聞かない。
 仕方なく救助班の三人はネオゾンビの隙を狙って横を通り過ぎ、そのまま走って会場の脱出を試みる事にした。
 逃げ去る際、断真はライオットにこう語り掛けた。
「ライオットさんが怪我したらジュリアさんが悲しみます。
 花嫁には泣き顔より笑顔の方が似合いますので、泣かせないようにお願いしますよ」
 ライオットは苦笑を浮かべてそれに応じると、ネオゾンビの強力な攻撃を何とか防御して耐え切った。

 ●鎮魂歌は誰が為に
 一階で殲滅班が苦戦の末にゾンビの一掃に成功した時、脱出を終えた救助班から無線連絡が入った。
 その内容は二階でライオットが囮としてネオゾンビと交戦しているというもので、連絡を受けた武流は即座に二階へ走り出した。
 武流が二階に到着すると、ライオットとネオゾンビの対立はまだ続いており、しかもライオットがやや劣勢に追い込まれていた。
 国士無双を取り出した武流はネオゾンビの背中を斬り付けて注意を引くと、ライオットに大声で話し掛けた。
「後は俺が引き継ぐ。あんたは早く脱出してくれ!」
「いや、俺も闘う。こいつは一人でどうにか出来る相手じゃない!」
 ライオットの言葉を受け、武流は考えた。
(「確かに、この強力な個体に単独で勝てる見込みは薄い。
  救助対象に助けられるのは少し不恰好だが、ここは依頼成功を優先させるか」)
 ネオゾンビの巨大な拳を寸での所で回避する武流だが、完全に回避に成功している訳ではなく、徐々に体力を消耗していた。
 それが一定以上蓄積した時、彼は決断を下す。
「悪いが、手伝ってくれるか?」
「いいぜ、相棒」
 武流は後転してネオゾンビと距離を置き、ライオットは彼と反対側の位置に移動した。
 ネオゾンビは前後を能力者に挟まれているのを視認すると、会場全体を揺るがすような雄叫びを上げて戦闘意欲を高めた。
 一方、一階でその声を聞いた殲滅班が何事かと驚いていると、二階の声に影響されたかのように一階で待ち伏せしていたネオゾンビが現れた。
 既に変化を終え、戦闘準備万端の状態で殲滅班と対峙するネオゾンビ。
 その頃、再突入を行った救助班をパワ−ゾンビの群れが歓迎していた。
 外見はゾンビと変わらないように見えるが、通常個体よりも一回り体が大きく、防御力の高い特殊個体である。
 ただし背中に心臓のような臓器が露出し、そこが弱点となっている。
 一体ならば連携せずとも勝てる見込みのあるパワーゾンビだが、四体も揃うとそうはいかない。
 無闇に一体の背中を狙えば他のパワーゾンビに攻撃され、負傷は必至。
 救助のために重装備をしてこなかった事を悔いながら、救助班はパワーゾンビとの戦闘を開始した。

 ●父親として
 結婚式会場キメラ襲撃から一ヵ月後、別の結婚式会場でジュリアとその夫の結婚式が行われた。
 ライオットは額に包帯を巻き、右腕をギプスで固定していたが、スーツを着て結婚式に参加していた。
 襲撃事件の際に彼ら親子を助けた傭兵達も招待され、皆ジュリアに改めて感謝の言葉を述べられて気恥ずかしそうである。
 花嫁衣裳で嬉しそうに式を過ごすジュリアを見ながら、ライオットはぼんやりと思った。
(「俺は、あの子の父親で本当に良かった‥‥」)
 目頭が急に熱くなるのを感じながら、ライオットは生きているという事を強く噛み締めて喜んでいた。