タイトル:闇に漂う獣たちマスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/22 22:40

●オープニング本文


「ニャー」
 好きな人間ならば誰もが振り返るその声は、正しく猫のもの。
 しかし、声はすれども見えない姿に、人々はその声の主を求めて探し始めるだろう。
 そんな光景を理由の知らない者が見れば、さぞ異常に感じるに違いない。
 しかし、そんな事よりもさらに異常な事態が、休日の市街地で発生してしまった。

「ニャー」
 街中で突然、その声だけが明瞭に人々の耳に届いた。
 休日ということもあり、それなりに騒がしい市街地の真ん中で、である。
 不思議に思いつつも、人々はその声を発した動物の姿を探し始める。
 ある者は期待を、ある者は不安を胸に抱いて。
 しかし、いくら捜索しても誰もその姿を発見する事が出来ない。
 車の下にも、狭い路地にも、誰一人として猫の姿を視認できなかった。
「ニャー」
 再びその声が響いた後、異変が起きた。
 歩道に片輪を乗り上げて停めてあった車のフロントガラスに、鋭い爪で引っ掻かれたような傷と嫌な音が響いたのである。
 そして次の瞬間、その傍にいた中年男性の腕に平行した4本の切り傷が突然発生し、痛みと恐怖に男性が絶叫した。
 何事かと視線を向けたその反対側の歩道の少年の脚に、同じような傷が出現し、少年も男性と同じく悲鳴を上げた。
 誰もが混乱し、そして理解した。『ここには危険が存在する』と。
 かくして休日の街はまるで祭りの日のように騒然とした空気に包まれて、皆それぞれの自宅へ戻っていった。
 同時に何人もの住民達が警察へ異常事態の発生を連絡し、静まり返った街へ武装した警官が派遣された。

「全く、たかが猫相手に何を騒いでいるんだか」
 武装した警官の一人が、『自分流』の捜査を行った後で、煙草を吸いながらそう漏らした。
 パニックになりながら連絡してきた住民達の話を総合すれば、ただ猫に引っ掻かれただけの話だと、警官は思っていたからだ。
 そんな小さな相手に武装した警官を出動させる必要性を感じず、その警官は不満を仕事をサボることで解消していた。
 既に3本目の煙草を吸い終わり、時計を見てまだ集合時間に余裕があること確認すると、警官は4本目の煙草を吸おうと口に咥え、ライターを点火しようとした時だった。
「ニャー」
 突然聞こえてきた声に驚いて煙草を落とし、警官は慌てて周囲を見渡す。
 すると、建物と建物の小さな隙間の闇の中に、2つの獣の目が浮かんでいるのを見つけ出した。
「何だ、お探しの猫かよ」
 警官は安心したように大きく息を吐いた後、この珍妙な事件に終止符を打つために猫を捕まえようとした。
 まずはその場にしゃがんで目線の高さを同じにし、指先を動かして猫を呼んでみる。
 猫は警戒するようにしばらく目を瞬かせた後、ゆっくりと闇の中から出てきた。
 後は近寄ってきた所を捕獲すれば仕事は終わる。
 そう思っていた警官の楽観は、その猫によって打ち破られてしまった。
 闇の中から生まれ出た生き物は確かに猫の体躯にとても似ていたが、その風貌はまるで科学実験によって誕生した新種の生物だった。
 全身を覆う体毛は一切なく、奇妙な色の爬虫類のような皮が全身を多い、足の先には常に鋭い爪が伸びている。
 それがどれだけ異常なことであり、そして自分がどれだけ愚かであったか、警官はその生物にさらに教えられることとなる。
 闇から誕生した獣が建物の影に侵入すると、その姿を警官の目前で消失させてしまったのである。
 警官は急いで持っていた武器を構え、周囲を警戒するが、どこにも獣の姿は確認できない。
 警官の荒い呼吸だけが周囲に響き、そして警官の存在だけが周囲から浮き立つ。
「ニャー」
 再びその声が聞こえた時、その獣は警官の足元まで迫り、驚かせるように闇から姿を現せた。
 神経を張り詰めていた警官がそれに驚かない訳はなく、慌てて獣を蹴り飛ばそうと足を上げる。
 しかし、その足は再び闇に消えた獣を捉える事が出来ず、逆にもう片方の足に引っ掻き傷を作られてしまった。
 今までの被害者と同じように痛みと恐怖に悲鳴を上げて、警官はその場から一目散に走り出した。

 かくして、その正体がバグアの生物兵器であるキメラだと推測されるのにそう時間は掛かる事はなかった。
 結果、連絡はあっという間に各所を回り、傭兵の出動依頼が発せられるのに半日も掛からなかった。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
都倉サナ(gb0786
18歳・♀・SN
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST

●リプレイ本文

「ご協力、お願いします」
 レイヴァー(gb0805)は詳しく要請内容を説明した後、恭しく頭を下げた。
 作戦開始前、一同は地元警察署に赴いて、地図の貸し出しと街中の電灯を点して暗闇を減らしてもらうように協力を仰いでいた。
 応対しているのは警察署の署長とその部下数人で、いずれも小奇麗なスーツを着こなしている。
「その程度であれば、喜んで協力させて頂きます。‥‥おい」
 署長は朗らかな笑顔で協力に応じる返事をした後、一転して低い声で部下に鋭い視線を送った。
 部下の男は無言のまま了解を示すように頷くと、恭しく一同に礼をして部屋を退室する。
「地図は受付の者に用意させます。灯りの方は、皆様が到着されるまでには連絡が回っているでしょう」
 署長の穏やかな口調と笑顔に虚偽を感じつつも、一同は口に出さずに同じような笑顔を浮かべて礼を言い、警察署を後にした。

「闇夜の黒猫どころか、本当に闇に溶け込んでしまうとはな」
「闇に溶け込むとは、厄介な擬態能力持ってるもんだね。注意深くしとかないと」
 白鐘剣一郎(ga0184)とフィオナ・シュトリエ(gb0790)は周囲の様子に警戒しつつ、のんびりした口調で話をしていた。
 現在地は、最初に街の人間が襲われた現場から南に歩いた場所にある噴水が設置された広場。
 そこを臨時拠点として、一同は各々の準備を行っていた。
 鯨井昼寝(ga0488)は警察署で貰った現場周辺の地図を広げ、何やら思慮に耽っている。
「化け猫ですらないのに、にゃー、と鳴くとは‥‥。にゃんこへの冒涜は許さん。存在ごと抹消する」
 猫好きの一人としてホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が意気込んでいるのを見て、UNKNOWN(ga4276)は煙草を咥えた口を弛めた。
「住民の方々の為にも、一匹たりとも撃ち洩らしの無い様にしないといけませんね」
 都倉サナ(gb0786)の言葉に、リディス(ga0022)は無言で頷いて周囲に目を配った。
「さて、それじゃあこれを見てもらおうか」
 一同の準備が整ったことを確認すると、昼寝は全員に見やすいように地図を広げた。
 地図に描かれた道は噴水のある広場を中心に蜘蛛の巣状に広がっており、北と南に赤いペンで印が書き加えられていた。
「今いるのがここ。で、最初の事件現場が北のこの場所。警官が襲われたっていうのが南のここ」
 それぞれの印の意味を聞きながら、一同は簡易的に地図の内容を覚えていった。
「ホアキン、フィオナ、UNKNOWNの3人はA班として北と西を捜索。剣一郎、リディス、サナの3人はB班として南と東を捜索して頂戴」
 昼寝は大雑把なエリアと道順を各員に説明する。
「俺と昼寝さんはC班として情報収集を行う。連絡は随時寄越して欲しい」
 レイヴァーは言いながら無線機を取り出し、各班に携帯している者がいるか確認を行った。
「宜しく、だな。騎士2名に姫が1人と言ったところか」
 UNKNOWNはホアキンとフィオナの元に歩み寄ると、まずフィオナと挨拶を交わした。
 フィオナは照れ笑いを浮かべつつも挨拶を返し、UNKNOWNは続いてホアキンの方を見る。
「終われば昼寝が待っているだろう‥‥その分、働いてももらうが、ね」
 意味深に笑みを浮かべ、UNKNOWNはホアキンの肩を軽く叩く。
 ホアキンはその意味を理解してか、微笑を浮かべてUNKNOWNを見た。
 剣一郎、サナ、リディスの3人は、不安になって顔を出した近所の老人へ言葉を掛けている。
「外に出る必要はありません。出来るだけ明るくしておいて貰えれば十分です」
 剣一郎の優しい口調と微笑みに安心したのか、老人は自分の家へと戻っていった。
「お上手ですね」
 リディスの言葉に照れたように表情を弛めながら、剣一郎は頭を掻いて誤魔化した。
 一通り挨拶が済んだのを見届けて、改めて昼寝が口を開く。
「キメラは発見次第殲滅してもらって構わないが、ちゃんと詳細を連絡しろよ。応援が必要な時も、だ」
 昼寝の言葉に了解の意の言葉を告げた後、一同は持参した暗視スコープを装着した。
 全員が準備万端となっていつでも出発できる状態の中、サナが零すように、
「これだけ暗視スコープを付けてる人が集まって居るのを冷静に見ると‥‥。いえ、何でもありません」
 と言ったのを聞いて、一同は苦笑が浮かぶのを禁じ得なかった。

「こちらA班。今の所敵は発見できてないよ」
『了解。引き続き捜索を続けてくれ』
 定時連絡を終えて無線機をしまうと、フィオナは改めて街並みを眺めた。
 都会のような煌びやかさはないが、田舎のような寂れた感じもしない。
 程よく温かくて冷たいこの街は、フィオナの記憶にある街に似ているような気がした。
「ぼんやりしていると、逸れますよ」
 ホアキンに声を掛けられ、フィオナは自分が集中力を欠いていたことを恥じた。
 しかし他の2名と違い、フィオナは暗視スコープを所持しておらず、捜索は懐中電灯で周囲の路地を照らしながらの作業となり、やや効率が悪かった。
 しかも誤って仲間に光を向けようものなら、暗視スコープをつけている2人は最悪失明するほどの損害を受けてしまう。
 それでも何か自分に出来ることはないかと思案して、フィオナはある考えを閃いた。
 意識を視覚に集中させ、静かに『探査の眼』を発動させる。
 夜間とはいえその効果は高く、暗視スコープを使用しているのと同等の探索能力でフィオナは周囲を見渡した。
「に”ゃあ、だ」
 と、突然UNKNOWNが猫の鳴き声を真似したので何事かと2人が視線を向けてみれば、口に指を当てて静かにするように体現しながらUNKNOWNが視線を固定している。
 ゆっくりとその視線の先へ瞳を向かわせてみれば、路上の真ん中で3匹の猫がのんびりと寛いでいた。
 しかしそう正確に視認できたのはフィオナのみで、他の2人は苦々しい表情で暗視スコープを外した。
「熱ではほとんど感知できないとは、少し厄介だな」
 UNKNOWNの言葉に同意するようにホアキンは頷いた。
 UNKNOWNが猫を発見できたのは全くの偶然だった。
 住宅から漏れる光が僅かに動き、その結果一瞬だけ猫の姿を視認する事が出来たのである。
 細心の注意を巡らせてなければ見過ごしてしまうような一瞬だったが、UNKNOWNはしっかりとその異変に気付いた。
「とりあえず、ペイント弾を撃つか」
 ホアキンの提案に今度はUNKNOWNが頷き、スコーピオンを取り出して3発ペイント弾を装填する。
「懐中電灯で照らすのとほぼ同時にお願い」
 フィオナは一度灯りを消すと、猫に向けて電灯を突き出してUNKNOWNに声を掛けた。
 UNKNOWNは一切返事をしなかったが、フィオナは構わずに電灯のスイッチを入れ、光を発射した。
 円形の灯りの中、3匹の猫の姿が突如として浮かび上がり、猫達は驚いた様子で3人に視線を向けた。
「いつまでも徘徊されたら困るからね。退治させてもらうよ」
 フィオナの呟きをまるで掻き消すように三度小さな発砲音が響き渡り、猫達の体に色鮮やか彩色を施す。
 肉眼で見れば闇の中に忽然と浮かぶ奇妙な模様にしか見えなかったが、猫の居場所を特定するには十分なヒントだった。
「発見。戦闘に入る」
 ホアキンは無線連絡を入れながら、素早くソードを抜刀して猫達へ走り始めた。

「これは、少し厄介な相手ですね」
 レイヴァーはA班との通信を終えると、顔を渋めてそう呟いた。
 暗視スコープで熱源感知できれば楽勝だろうと踏んでいたのだが、実際にはその有効性はほとんどないとの報告だった。
 これでは頼れるのは懐中電灯と住宅からの光だけとなり、益々探索が困難となってしまう。
 何かいい策はないかとレイヴァーが黙って思考を働かせていると、昼寝がおかしそうに笑い声を漏らした。
 自分を笑ったのかと不機嫌な瞳でレイヴァーが見ても、昼寝は気にしない様子で答えた。
「夜闇が多い位で、臆することはないだろう。今夜は満月だしな」
 言われてレイヴァーが視線を上げてみると、暗い雲で覆われていたはずの空がいつの間にか晴れ始め、美しく輝く満月がその姿を現していた。
 その輝きは淡い光ながらも地上を照らし、闇を好む獣にとって忌み嫌う存在であった。
『こちらB班。敵を見つけた』
 無線機から唐突に連絡が入り、慌てるレイヴァーよりも先に昼寝が応答する。
「了解。場所を教えてくれ」

 リディスが通信を終えるのを待って、サナは小銃「ブラッディローズ」の引き金を絞った。
 連続で発射されたペイント弾は月明かりの出現に驚いて硬直していた2匹の猫に着弾し、背景の闇にはそぐわない着色を行う。
 奇襲に不意をつかれた猫達は一旦退却しようとするが、すぐに剣一郎が追いかけるように走り出して月詠を抜いた。
「逃がさん。天都神影流、虚空閃!」
 空を薙いだ月詠から鋭利な衝撃波が飛び出し、闇へ逃れようとした猫達の体を二つに分離させた。
「さて、報告っと」
 サナが新たに弾を込め終えて無線機を取り出そうとするのを、剣一郎が手で制した。
 その意図を図ろうとサナが剣一郎へ視線を向けようとして、リディスも武器を構えている事に気付いて慌てて周囲に視線を巡らせた。
 3人を囲むように住宅の屋根から見下ろす眼が16も確認できる。
「全く‥・・何匹潜んでいたんだ」
 文句を言っているような口調だったが、剣一郎の口元は明らかに笑みを浮かべている。
 微動だにしない瞳の群れに警戒しながら、3人はゆっくりと移動して背中を合わせる形を取った。
 いつでも襲撃を迎撃できる陣形に安心しつつ、最初に向かってくる敵を探して視線を左右に動かす。
 しかし瞳は3人を見下ろすばかりでいつまで経っても攻撃して来ず、3人が逆に攻撃を仕掛けるべきかアイコンタクトを行い始めた時。
 突然、周囲の明かりがゆっくりと消え始めた。
 3人は吃驚して、次いで空を見上げる。
 再び夜空には暗黒色の雲が蔓延り始め、月はゆっくりとその姿を隠され、猫達は闇との同化を再開した。

『現在複数の敵に追われて逃走中。現在地はさきほどの通達した場所だ』
「了解。そのまま北東に走って最初の脇道を左折して頂戴」
 息の荒い通信に冷静に返答を行い、通信終了と共に昼寝はA班に連絡を行った。
『こちらA班。どうした?』
「B班が猫の大群と鬼ごっこをしている。援護に向かって欲しい」
『了解。場所は?』
「さきほどの位置から移動してないなら、そのまま北に進めば広い道に出るはずだから、そこを東に向かって頂戴」
『了解。すぐに向かう』
 伝達を終えて、昼寝は大きく息を吐く。
 自分も現場へ向かいたいが、今回の役目は臨時拠点での情報の収集、伝達である。
 役割を蔑ろにして他の全員へ迷惑を掛ける訳にもいかない。
 視線を転じてみればレイヴァーも同じ気持ちらしく、落ち着かない様子だった。
 昼寝は仲間の無事を祈って待つことに苛立ちを覚えつつ、仲間を信じて次の連絡を待った。
「‥‥?」
 不意に視線を感じて、レイヴァーは周囲を見回す。
 広場は電灯の点された商店で囲まれており、最も猫の存在を感知しやすい場所だと言える。
 レイヴァーは眼を凝らして探したが、鼠一匹見つけることは出来なかった。
 しばらくは不審に思っていたレイヴァーも、時間が経てば気のせいだと自分を納得させて通信機に集中し始める。
 そんな彼を、闇の中から一際鋭い瞳が見つめていた。

「危ない所だったな」
 UNKNOWNが銃弾を新たに補充しながら、無事合流できたB班に声を掛けた。
 C班の的確な指示のおかげで2組は間もなく合流を果たし、8匹の猫達を迎撃することに成功した。
 事前の情報通り高い戦闘能力はないようで、誰一人怪我をしていない。
 各員は新たな戦闘に備えつつ、戦闘終了後の一息をついていた。
「今度こそ報告っと」
 一足先に準備を終えたサナが通信機を取り出し、C班に連絡を入れる。
 しかし次第にその表情が曇り始め、一切言葉を発していないことに全員が気付いて、視線が集中した。
「‥‥応答しません」
 無線機を耳にあてたままサナがそう告げ、全員の心に不安が募る。
「戻ろう」
 ホアキンの提案に誰も異論はなく、一同は急いで準備を終えると、広場へ向けて走り始めた。

 一方広場では、正に捜索班が予期していた通りの展開になっていた。
 昼寝はシュナイザーの持ち手を握り直し、レイヴァーはジャックとフリージアをそれぞれ構えている。
 2人と対峙するように、3匹の猫が横に並んで正面に立っていた。
 左右で攻撃態勢を取っている猫は情報通りの容姿だったが、中央に君臨している個体は両脇の猫よりも体が大きく、爪の長さも鋭さに高そうに見える。
「ボス猫ってところかしら」
 昼寝の言葉にレイヴァーは無言だったが、心中ではその意見に賛成していた。
 中央の1匹を囲むようにして立つ2匹は明らかに体躯の大きなその存在の動向に注目しており、それは次の指示を待ち構えているように見えたからだ。
「やってみれば分かりますよ」
 レイヴァーはゆっくりと覚醒状態に移行しながら、猫達を睨みつける。
 その目付きに敵意と腹立ちを覚えたのか、両サイドの猫が2人に向かって駆け出した。
 2人も同じように2匹に向かって駆け出し、同時にお互いの爪を突き出す。
 それからまるで何事もなかったように数歩進んだ後、猫達は静かに横に倒れて絶命した。
 ボス猫は怒りを表すように眉間に皺を寄せた後、小さなその体からは信じられないほど大音量の咆哮を上げた。
 あまりに気迫に二人は数歩下がり、雄叫びの煩さに耳を手で覆う。
 その隙を逃さず、ボス猫は一度姿勢を低くした後、2人目掛けて大きく跳躍して爪を振り上げた。
 回避が間に合わないと察した2人はその攻撃を武器を盾代わりに使用して防御したが、体重の加算された威力の高さに再び数歩下がってしまう。
 2人が腕に痺れを覚えつつ見てみれば、ボス猫は少し得意げに笑っているように見えた。
 その憎らしさに手加減の必要はないと判断し、2人は反撃を決行する。
 昼寝は『瞬天速』を用いて一瞬にしてボス猫の背後に回りこみ、レイヴァーは正面から走り寄って『急所突き』を行った。
 正面からのレイヴァーの攻撃は回避できたボス猫だったが、昼寝が背後で構えていることを失念し、悔しそうな表情を浮かべる。
 刹那、昼寝のシュナイザーが最大の威力でボス猫に放たれた。

 捜索班が広場へ駆けつけた時には既に夜は明け始め、空を覆っていた暗雲は消えていた。
 連絡班は一部始終をやってきた捜索班に話し、最後に確認のために街を歩いて回った。
 連絡班の予想通り、ボス猫の消滅によって全滅したのか、街には猫キメラの姿は発見されなかった。
 一同が任務の完了に安堵し、帰路に着いてしばらくした後、
「にゃー」
 道路を黒い体毛で全身を覆われた猫がのんびりと横切って行った‥‥。