タイトル:蒼海の霹靂マスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/19 17:27

●オープニング本文


●7月上旬の某日
 夏季の到来を表すように、日に日に温度計はその数値を高くしていく。
 一足先に夏を満喫しようと、数人の青年が海へ泳ぎに行くことを計画するのは当然の事と言えた。
 予定の日、青年達は自分達と同じような人間が砂浜にいることに安心しつつ、水着へと着替えた。
 ある者は日頃の運動不足を解消するために水泳をしに海へ。
 ある者は一夏の思い出作りのために女性をナンパしに砂浜を歩く。
 また、ある者は荷物の番として小さな傘の下でのんびりと横になる。
 それぞれが少し早い夏を楽しんでいた時、突然聞き慣れない音が周囲に響き渡った。
 その場にいた全員が音の原因を探ろうと周囲を見渡し、異変に気付く。
 海で遊んでいた全員がその場に倒れ、全く動作をしないのである。
 中には小さな子供の姿もあり、不安に駆られた母親らしき人物が駆け寄る。
 それに先導されるように次々と海に入って行き、そして、再び奇妙な音が発せられた。
 その時ちょうど海の方を見ていた青年の一人が、音と共に海中で何かが閃光し、海全体が淡く光ったのを確認した。
 次の瞬間、辺りは悲鳴に包まれる。
 海へ入っていった人達が、先ほどと同じようにその場に倒れ、海上に浮いていたからである。
 動物としての本能が、『海中に危険が存在する』という事実を全員に知らせる。
 海に近い者達は続々と陸へ向かって走り出し、危険から逃れようとする。
 すると、まるでそれを逃すまいとするように、海中から巨大な水柱と共に何かが現れた。
 退避した人達はその光景に釘付けになり、水柱の中から出現したものを捉える。
 海中から現れたのは、全長4メートル位の大きな巻貝だった。
 螺旋状に渦巻く貝には攻撃的な棘状の突起が散在していて、その下で甲殻類を思わせる鋏を持った生物が避難する途中で振り返った人々を見つめ返している。
 誰かが早く逃げるように声を上げたが、既に遅かった。
 蟹のような生物は口から液状の塊を近くにいた数人に吐き付けると、巻貝の突起から紫色の光を飛ばし、一瞬にして数人の命を奪ってしまった。
 再び砂浜は絶叫で溢れ、皆が他人に目など気にせずに我先に生き延びようと走り出す。
 逃げていた青年の一人だけがその流れに逆らうように留まり、他の友人達の姿を探していた。
 通り過ぎて行く人の中に友達の顔を見つけることが出来ず、最悪の場合を想定して海の方へ視線を移した。
 そう時間を掛けず、すっかり変わってしまった友人達を発見し、青年は改めて叫び声を上げた。 

●参加者一覧

クラウド・ストライフ(ga4846
20歳・♂・FT
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF
優(ga8480
23歳・♀・DF
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
タリア・エフティング(gb0834
16歳・♀・EP
ルーシー・クリムゾン(gb1439
18歳・♀・SN

●リプレイ本文

 作戦決行前、タリア・エフティング(gb0834)と優(ga8480)の提案によって、一同は現場から少し離れた岩浜で一度移動を中断した。
 優は持参した双眼鏡を使って岩陰から砂浜の様子を探り、タリアは一際大きな岩の上に登ると、『探査の眼』を発動させて異常がないか見渡した。
 他の全員もそれに従うように砂浜の方へ視線を移し、目的となるキメラの姿を探す。
「「ヤドカリは海中に潜っているようです」」
 優とタリアが同時に同じ内容を全員に報告し、2人は驚いて顔を見合わせ、他の者達はその可笑しな偶然に笑い声を漏らした。
 2人の報告によると、海中に僅かながらヤドカリ型キメラと思わしき巨影が見えたらしい。
 一同は予定通り作戦を実行することに賛成すると、砂浜への道を移動し始めた。

「なんて酷い‥‥許せない‥‥絶対に」
 砂浜に到着するや否や、目の前の惨状にルーシー・クリムゾン(gb1439)は言葉を漏らさずを得なかった。
 楽しい思い出作りのために訪れた観光客達の荷物があちこちに散乱し、血液らしき赤い液体が点々と模様を描いている。
 キメラに襲われた被害者達の遺体はUPC軍によって回収されたらしく、幸いにも砂浜に転がる骸はなかった。
「ヤドカリ型‥‥思い出深いキメラではありますが、どうも今回は厄介に過ぎる相手なようで」
 ナナヤ・オスター(ga8771)はかつて自分が戦ったキメラとは相容れない凶暴性を目の当たりにし、いつも浮かべている笑顔が少し強張っている。
「すなはまってあんまりきたことないんだよな、はだしとくつとどっちがいいんだろ?」
 そんな中、番 朝(ga7743)だけが呑気に目の前の砂浜に注目していた。
「‥‥兎に角、早く作戦開始と参りましょう」
 瓜生 巴(ga5119)が少し苛立たし気に声を発し、全員がハッと視線を上げて、今は感傷に浸っている場合ではないと自覚する。
「了解しました♪」
 自分の行為に誰かが自責を始める前に蛇穴・シュウ(ga8426)が戯けた返答をし、それに続いて残りの者達も慌てて了解の意を告げる。
 それが故意か無意識なのかは分からないが、結果としてシュウの発言によって作戦開始の準備は迅速に行われた。

 作戦はシンプルだった。
 まずは巴とタリアが囮として海中へ移動し、ヤドカリに襲わせるように仕向ける。
 残りの者達は砂浜で待機し、ヤドカリに見つからないように観光客達の残した荷物の影に隠れる。
 巴とタリアがヤドカリを陸まで誘導し、一定距離海から離れた瞬間に待ち伏せしていた仲間達が強襲。
 同時に海への逃走を防ぐために円で囲むように全員で包囲し、集中攻撃でキメラを殲滅する。
 事前報告と情報部の敵推測情報を元に編み出した戦略である。
 一見すれば穴のない完璧な計画のようであるが、実際はそうではなかった。
 その事実を、一同は身を以って知ることとなる。

 作戦通り、巴とタリアの2名は海中への移動を始める。
 優はその様子を双眼鏡で見守りながら、観光客が残したビニールシートと砂地の間で水分補給を行っていた。
「‥‥暑いですね」
 誰に言うでもなく、ミネラルウォーターを飲みながら優はポツリと言葉を発した。
 その日の気温は30度超。
 各々の定位置で身を隠している他の者達も、額に汗が浮かぶのだけはどうしようもなかった。
 そんな中海で泳いでいる2人を何となく羨ましく思いつつ優が再び双眼鏡を向けてみると、2人の様子が明らかに変化していた。
 巴は時々後方を確認しながら必死に陸に向かって泳ぎ、タリアはわざとらしく悲鳴を上げながら巴の隣を移動している。
 早速目的のキメラが行動を開始したことを察知し、優が他の者に視線を移す。
 優よりも陸側で待機していた朝を見てみると、待ち遠しいように口元に笑みを浮かべていた。
 ルーシーとナナヤは向き合うような位置に待機していたので、まず囮作戦が成功したことを視線を合わせて確認する。
 シュウも異変に気付くと、改めてシュリケンブーメランの持ち手を握り直し、今か今かと待ち構える。
 誰もが海からヤドカリの襲来を予見していた時、予想外の事態が起こった。
 陸まで敵を誘導するはずだった巴とタリアが突然移動を中断し、砂浜までもう少しの位置で立ち往生してしまったのである。
 何か危害を加えられたのではないかと待機組が危惧する中、タリアの慌てた声が響いた。
「皆さん、逃げて下さい!」
 その言葉が何を意味するのか理解する前に、突然全員が囲んでいた砂浜の中央が弾けた。
 水柱ならぬ砂柱が起こり、唖然とした表情でその光景を眺める一同。
 慌てて我に返ったのは、その中から敵の巨大な巻貝が姿を現したからである。
 勘の良い何人かは悟った。
 ヤドカリキメラは巴とタリアが陸へ逃げることを見抜き、追いかけるようにしばらく移動した後、回り込むために砂の中を潜行して現れたのである。
 もしそれが巴とタリアの2人だけだったら、どれだけ絶望的な状況であっただろう。
 逃亡先を立ち塞がれ、背後には敵の得意とする海中しか残されていない。
 2人だけでは短期決戦を仕掛けても敗北は目に見えていて、持久戦となれば地の利があるキメラにいずれ軍配が上がるに違いない。
 しかし、ここでキメラは予想外の事態に遭遇する。
 それは、『敵は2人だけではなかった』ということである。
 本来ならば窮地に追い込んでいるはずのキメラが、偶然にも待機していた他の者達の中央に現れていた。
 そこは、作戦通りならば全員が攻撃を開始する予定位置であり、冷静な判断力を備えた一同は、間を置かずに物陰から一斉に飛び出した。
(「おっきぃ〜! あれがおひっこしするとこみてみたいかもだ」)
 相変わらず朝は呑気に心の中で感心しつつ、両手で握り締めたグレートソードを掲げてヤドカリとの距離を詰めていく。
 期せずして背中側となったナナヤとルーシーも武器を構え、行動を規制するために左右の足に射撃を開始する。
 海への逃亡を立ち塞ぐように横に並んだ優、巴、タリアも攻撃を始める。
 シュウは狙いを定めていた左の大きな鋏が反対側を向いていることに不満を覚えつつも、ならば右の鋏を、と対象を変更し、シュリケンブーメランを放った。
 ヤドカリは咄嗟の出来事にしばらく反応できないようだったが、自分が攻撃をされていることに気付くと戦闘体勢に入った。
「それっ!」
 朝はグレートソードをゴルフスウィングのように振り回し、ヤドカリの目を狙って砂を巻き上げた。
 しかしその攻撃は巨大な左の鋏を目の横に持ち上げることで防御され、目潰しは失敗に終わってしまう。
 だが、朝の狙いは正しくそれだった。
 砂を防いだせいで視界が遮られた事を利用して、朝は滑り込むようにヤドカリの懐へ移動したである。
 驚くヤドカリの隙を見逃さず、朝は『豪破斬撃』を発動させて大剣を振り下ろした。
 硬い甲殻に覆われたヤドカリの顔に亀裂が入り、噴水のように血液が飛び出す。
 朝は反撃を出される前に懐から飛び出したが、それは失敗だった。
 距離を空けた事によってヤドカリに反撃の手段を考える隙を与え、移動を終えたばかりの朝目掛けて、ヤドカリは口から水弾を吐き出したのである。
「やばっ‥‥!」
 グレートソードを盾として代用することで水弾のダメージは防げたが、その後の更なる攻撃を予期して朝は剣を地面に突き立てたまま慌てて跳んだ。
 間一髪、朝に向けて放たれた巻貝からの雷撃は地面に刺したグレートソードに止められたが、姿勢を気にせず跳躍した朝は砂に半身を埋める事となった。
「しかし水棲生物だというのに電撃を放つとは‥‥ふぅむ、色々な意味で共生、と言えるかもですねぇ」
 ナナヤも朝に負けじと呑気な台詞を口走りながら、ライフルでヤドカリの脚を的確に狙撃していく。
 隣に立つルーシーも弓を構え、ナナヤが狙うのとは反対側の脚へ矢を放つ。
 ヤドカリもその攻撃が行動に支障を来たすものであると理解すると、慌てて旋回して攻撃対象を2人に変更しようとする。
 その動きがシュウにとっては幸運となり、ヤドカリにとっては不運となり、シュウの投げたシュリケンブーメランが偶然にも左の鋏の根元を削った。
 次第に行動を起こすのもままならなくなってきたヤドカリだったが、その戦闘意欲は一向に減っていなかった。
 むしろ、戦闘を開始した直後よりも増加し、次なる攻撃手段を冷静に思考していた。
 一方的に攻撃されているだけに見えるヤドカリだが、やはりその全身を覆う甲殻の恩恵は高い。
 未だに致命的と言える大きな損傷は与えられず、ヤドカリも生命の危機は感じていなかった。
「ハッ!」
 掛け声と共に優が月詠を薙ぎ、ヤドカリの甲殻に新たな傷を作る。
 その直後、ヤドカリキメラは奇妙な声を上げながら両の鋏を空に掲げると、いきなり自分の足元の砂を掻き分け始めた。
 その行為は大きな砂煙を巻き起こして全員の攻撃を中断させ、完全に消えるまで誰一人目を開けることが出来なかった。
 しばらくしてやっと空気中に舞う砂がなくなったのを一同が確認すると、忽然とヤドカリが姿を消していることに気付いた。
 一同は慌てて周囲を見渡すが、どこにも影も形も確認できない。
 もしや逃げられたのではないかと巴が不安を募らせていると、タリアが大きな声を上げた。
「ルーシーさん、ナナヤさん、海側に跳んで下さい!」
 言われるまま真意を解する事なく、ルーシーとナナヤは海側へ向けて大きく跳躍する。
 直後、数十分前に起こったのと酷似した砂柱が2人の背後で起こった。
 ぎりぎりの所で回避できたことに安心しつつ2人が振り返ると、砂の中から見覚えのある巻貝が顔を出していた。
 最初に巴とタリアの前に回り込んだ時のように、砂の中を潜行して奇襲を仕掛けたのである。
 タリアが『探査の眼』を発動していなかったら、間違いなく防げなかった攻撃だった。
 巻貝は驚く一同の顔を眺めるようにしばらく静止した後、回転するドリルのように再び地中へと潜っていった。
 一同がタリアに視線を移し、タリアはヤドカリの地中での行動が見えるように瞳を動かす。
「数秒後、私の足元に現れます」
 タリアのその言葉は回避の勧告ではなく、攻撃の機会を知らせる報告だった。
 全員が改めて武器を持ち直し、タリアがいた場所へ視線を集中させる。
 そして予告通り巻貝が砂を撒き散らしながら勢い良く地面から突き出てくると、全員で飛び掛った。
 ナナヤは『影撃ち』を発動させて目にも止まらぬ速さの射撃を行い、ルーシーは『強弾撃』を発動させて渾身の力で矢を放った。
 優は『両断剣』による月詠の一撃を振るい、シュウは遠心力をつけた回転力の凄まじいシュリケンブーメランを投げる。
 タリアも突進力を加えたイアリスを振り下ろし、負けじと朝も『豪力発現』と『豪破斬撃』の併用発動を用いたグレートソードを思い切り叩き付けた。
 どれだけ硬度を備えている発達した貝も、一度にこれほどの威力の攻撃を与えられては傷付かないはずはない。
 巻貝は部分的ながら砕け散り、ヤドカリが驚きと痛みで地中から慌てて姿を出した。
 その正面で、巴で待ち構えていたようにエネルギーガンを構えている。
「終わりです」
 無感情な終了宣告と共に引き金が絞られ、銃口から飛び出した弾丸が砕けた巻貝の内部へと侵入する。
 一瞬後、小さな爆発音が鈍く響き渡り、ヤドカリが弾かれたように直立した。
 いつまでもその姿勢のまま動かないように思われたヤドカリだったが、ナナヤとルーシーによって攻撃されていた脚部の甲殻がついに崩壊し、その場に倒れた。
 口から血液混じりの泡沫を噴出しているが、それ以外は微動だにしない。
 一同がヤドカリの奇策に警戒していると、まるで役目を終えたように残っていた巻貝が突然地面に落ちたのを見て、ヤドカリが絶命したことを察した。

「砂浜の掃除、しませんか?」
 任務が終了してそろそろ帰還を始めようかという雰囲気の中、シュウが突然提案をした。
 一同が怪訝そうな表情で振り返るが、誰も責めている感じではない。
「いえ、折角綺麗な砂浜なんですから、少しでも掃除したいな。というのと‥‥」
 そこで一旦言葉を切って、砂浜に残された数々の観光客達の荷物を眺め、
「‥‥物によっては大事な『遺品』になり得る場合もあるので、回収したいのです」
 と、悲しげな瞳で呟いた。
 一同は顔を見合わせ、シュウと同じように砂浜を見た後、誰とはなしに掃除を始めたのだった。