タイトル:【狂】破壊の権化マスター:水君 蓮

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/23 05:03

●オープニング本文


 破壊だ。破壊だ。破壊だ。破壊だ。
 全てを跡形もなく壊してしまえばいい。
 どんな奴にだってできる単純明快な作業だ。
 破壊だ。破壊だ。破壊だ。破壊だ。
 壊して壊して壊し尽くしてやる。
 絶望して涙ながらに全壊を懇願させてやる。
 破壊だ。破壊だ。破壊だ。破壊だ。
 気に食わないから、ただ壊すだけだ。
 止めようって言うなら、お前も壊してやる。

 <俺はただ、『破壊する』だけだ!>

 白水 轟嵐(ハクスイ ゴウラン)。
 その名を知る者が聞けば、誰もが苦虫を噛み潰したような顔になる。
 日本人離れした長身に、まるで獅子の鬣のような蘇芳色の頭髪。
 何よりも、その性格が印象に残りやすいだろう。
 傲慢で自分勝手で下品で乱暴者。
 自分のためには手段を選ばず、平気で他人を蹴り散らす。
 彼がただの街の無法者だったならば、まだ幾分かマシであっただろう。
 だが、不運な事に彼はエミタ適性を見事合格し、傭兵となってしまった。
 超人的な能力を手に入れた彼は、益々その凶暴性に磨きを掛けていった。
 強いキメラに一対一で勝負を挑んだり、それを止めようとする仲間を振り払ったり。
 彼の受けた依頼は、いつも必要以上の後始末が必然になっていた。
 周囲の不満の声は急速に大きくなり、軍もいよいよ彼らを抑えられなくなっていた。
 ただ、確かに彼は性格や素行に大問題を抱える人間であったが、その力は本物であった。
 彼の向かうキメラ討伐依頼に失敗は在り得なかった。
 彼が、強大な力を持っていたからである。
 その力を手放す事を、軍はついに決断することが出来なかった。
 そして、問題の日が訪れてしまう。
 いつものように彼はキメラ討伐依頼に向かい、他の傭兵達がそれに同行する。
 事前の作戦や現地での綿密な打ち合わせなど一切無視して、彼は単独行動を行った。
 そのまま痛い目を見れば良かったのに、彼はたった一人でキメラを倒してしまう。
 これでは面白くないのが、同行した他のメンバーである。
 彼らは轟嵐を責め、行いを改めるように抗議した。
 いつもならそんなもの鼻息で飛ばしてしまう彼だったが、その日はいつもと訳が違った。
 一向に話を聞かない彼に、メンバーの一人で憤慨して執拗に責め立てたのである。
 彼は「うるさい」と一蹴したが、その人物は余計に腹を立てて彼に殴りかかろうとした。
 そこで、轟嵐の我慢にも限界が訪れた。
 彼は持っていた大斧を握り直すと、その刃で殴りかかろうとした男の首を刎ねてしまった。
 一旦血が舞えば、後はドミノ倒しのように惨劇の連続だった。
 仲間の復讐をしようと、あるいは彼を止めようと、他のメンバーも武器を構えた。
 だが、成長し過ぎた彼の力の前に、その行為は自殺行為に他ならなかった。
 ある者は頭部を縦に二つに割られ、ある者は両腕を引き千切られ、ある者は骨という骨を粉砕された。
 そして、彼は立派な殺人鬼へと変貌を遂げた。
 元々その素質が充分だった彼だけに、今更変化した所で誰の注目も浴びなかったが。
 仲間を皆殺しにしても、彼の気分は治まらなかった。
 最早何もかもが苛立たしく感じていた彼を、バグアが目に止めた。
「もっと破壊を行いたくないか。
 もっと全てを壊してしまえる力が欲しくないか」
 バグアの言葉を、彼は喜んで快諾した。
 こうして、最悪にして最低の存在が誕生してしまった。
 だが、彼の名が敵側のリストに並んだ時、誰も悲しみ嘆く者は存在しなかった。
 皆同じように喜び、そして表情を暗くさせた。
 堂々と彼を殺せる事は嬉しいが、果たしてそれを達成出来る者はいるのだろうか。
 そんな不安が、この依頼に対して向けられていた。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
リュス・リクス・リニク(ga6209
14歳・♀・SN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
虎牙 こうき(ga8763
20歳・♂・HA
猫瞳(ga8888
14歳・♂・BM
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

「馬鹿に何とやらか、はた迷惑な話だ」
 作戦開始前、九条・命(ga0148)が呆れた口調で呟いた。
 命の言葉を受け、鳴神 伊織(ga0421)が小さな声で、
「何が彼をここまで破壊に駆り立てるのでしょう‥考えても詮無き事ですけど」
 と、疑問の声を漏らす。
「きっと力に溺れた哀れな野郎なんスよ」
  六堂源治(ga8154)が肩を竦めながら答えるが、伊織はまだ考えていた。
「俺のただの思いだけど‥‥本当に悪い人なのかな?」
 突然の予想外な虎牙 こうき(ga8763)の発言に、一行は驚いて彼を見た。
 こうきは誤魔化すようにぎこちない笑顔を浮かべて、「ただの勘だけど」と付け加えた。
 何となく重い沈黙に包まれる中、リュス・リクス・リニク(ga6209)が口を開く。
「私は、自分のやれることをしっかりとするだけです」
 一行はその意見に賛同するように頷いた。こうき一人を除いて。
 こうきは何となくもやもやしたものを胸の中に感じ、素直にリュスの言葉に頷けなかったのだ。
 しかし、そんな彼の思いとは無関係に、彼ら五人の足は作戦開始のために一歩一歩目的地へ迫って行った。
 
 一方、残りの五人は街の反対側を移動していた。
 命を含む五人をA班、残りの五人をB班と分け、街の両端から轟嵐を探す作戦だった。
「元能力者。元々の人間性は分からないが、驕りとは怖いものだ。次は我が身、か‥‥」
 クリス・フレイシア(gb2547)が独り言を漏らしたように、こちらも話題は轟嵐に関するものだった。
「戦う相手という意味でなら俺はこのオッサン嫌いじゃないな。
 敵は良心の呵責無く殴れる奴が望ましいって事だ」
 猫瞳(ga8888)がケラケラと笑い、意気込みを表現するように虚空へ向かって拳を突き出す。
「破壊することに喜びを見出して、更なる破壊の快楽を求めて強くなったのでしょうか?
 もしもそうなら、彼は心の弱い人だと思います」
 言いながら、旭(ga6764)が同情を含んだ瞳を地面に落とす。
「とにかく、街を破壊する狂戦士を放置は出来ない。
 住んでいた人の幸せは壊されて良いものでは無かった筈だ」
 武器の確認をしながら語るレティ・クリムゾン(ga8679)の瞳には、僅かに怒りの色が覗いていた。
「力に呑まれた愚者など同情の余地なし」
 一行の迷いを断ち切るように、漸 王零(ga2930)が力強い口調で断言する。
 その言葉に背中を押されたように、一行の目的地へ進む足は更に速くなった。

 一行が轟嵐を探し始めて二時間が経過した。
 街の様子は戦前の地図と比べてかなり変化していたが、大通りや目印になる建物は健在だった。
 慎重且つ大胆に瓦礫の裏や崩壊した建物の内部などを調べていくが、轟嵐の姿は全く見当たらなかった。
 全員に少し疲れの色が見え始めた頃、A班からB班に轟嵐発見の連絡が入る。
 B班は急いでA班の元へと向かった。
 A班が轟嵐を発見したのは、街の中心から南西に外れた小さなバーだった。
 窓ガラスは全て砕け散り、入り口に取り付けられていたであろう扉は地面に伏している。
 木目調の床や内装の店内は本来ならばゆったりとした空間だったのであろうが、今はそんな様子は微塵もなく荒廃していた。
 そんな店で、轟嵐はカウンター席の一つに腰掛け、酒を呑んでいた。
 小さなグラスの中ほどまで酒を注ぎ、それを右手で掴んで無言のまま静止している。
 その目は悲しげで、自らの過ちを省みているようにも思えた。

「待たせたな」
 A班が待機している所へ、王零が現れた。
 その後ろに続くようにB班全員が到着する。
 ちなみにA班は轟嵐のいるバーの斜め向かいにある崩壊寸前の建物に潜伏していた。
 命は全員集合した事を確認すると、無言のまま轟嵐のいるバーを指差した。
 B班の人間はすぐさま轟嵐の所在を視認し、次にA班との打ち合わせを開始した。
「店の裏手は確認してますか?」
 旭の質問に、こうきが首を振って答えた。
「残念だけど、裏手は瓦礫で完全に封じれていた」
「ってことは、挟み撃ちは不可能って訳か」
  猫瞳は腕組んで策を考えるように唸り声を上げる。
「私は、事前に決めた作戦の応用として、音を立てて誘き出す作戦を提案します」
 小さく挙手した後、伊織が発言した。
「今の所、それが的確だろうな」
 レティが賛成意見を述べ、伊織の表情からやや緊張が解ける。
「僕も支持しますよ」
 続いてクリスが微笑みを浮かべ、伊織は律儀に小さく礼をして返した。
「んじゃ、それでいくッスかね」
 源治の言葉に、誰も異議を申し立てない。
 元より、伊織の案は誰も反対などしていなかったのだ。
 その後、詳しい手順や行動を打ち合わせして、いざ行動を開始しようとした時だった。
「あ‥‥」
 リュスが間の抜けた声を上げた直後、一行が潜む建物の近くで騒音が響いた。
 何事かと視線を向けてみると、建物の一部が欠損して地面に落ちたらしく、見知らぬコンクリートの破片が地面に誕生していた。
 無論、その音は一行だけでなく、向かいで酒を呑んでいた轟嵐にも届いていた。
 轟嵐も同じように視線を向け、そして運の悪い事に、一行と目が合ってしまった。
「あ」
 一体その言葉は誰から発せられたのか、最早理解できなかった。
 全員が同時に漏らしたようであり、轟嵐が漏らしたようでもあった。
 いずれにしろ、一行が長い時間を掛けて考えていた奇襲作戦は、無機質な破片によって見事に打ち砕かれてしまった。
 隠れている意味もなくなった一行は、士気も儘ならないまま、のこのこと表通りに出て行く。
 轟嵐も先ほどまでの寂しげな表情はどこへやら、訪問者を歓迎するような気前の良い笑顔を浮かべてバーから出てきた。
 結果として、轟嵐を狭いバーから誘き出す事に成功したのは不幸中の幸いかもしれない。
「こんな街までわざわざよく来てくれたな」
 皮肉を孕んだ歓迎の挨拶を、轟嵐は目の前に並ぶ一行に告げた。
 一行はそれを無視して、改めて轟嵐の風貌を見定めた。
 見せ付けるような裸の上半身はまるで岩のような筋肉で形成されていて、全身に残る小さな傷が体験してきた戦場の数を示していた。
 襷のように巻きつけられた巨大な弾倉の帯は、左手に所持する対戦車歩兵用機銃のものなのだろう。
 右腕一本で握られた大斧はかなり巨大な刃を有していて、一行の中では誰もそれを片手で振り回せる者は存在しなかった。
 まさに破壊力を重視したその装備や容姿は、頭髪が似ている事もあり、百獣の王と呼ばれる獅子を連想させた。
「御足労をお掛けして恐縮なんだが、俺はこんな所で止まれないんでな」
 轟嵐はわざとらしく丁寧に喋り始めたが、次第に面倒臭くなったのが、いつもの口調に戻っていた。
 両手の武器を構え、中央の王零に銃口を向ける。
「死ぬほど痛ぇが、死にはしないだろうから安心しな」
 刹那、轟嵐が引き金を引くのと、一行が行動を開始するのは同時だった。
 一行は轟嵐を撹乱するように二手に分かれ、同時に機銃による攻撃を回避する。
 ある程度事前の打ち合わせ通りに陣形を組んだ後、前衛担当となる五人が一斉に轟嵐へと詰め寄った。
 その前衛をカバーするように、少し遅れて前衛の支援として二人、後方支援として三人が攻撃を開始する。
 後方支援担当の一人、こうきがオカリナ型の超機械を構えて特殊能力を発動させた。
「響き渡りて、皆に勇気を!進撃マーチ!
 そして、響け、敵を病める音色、弱りのノクターン!」
 味方全員に練成強化を施し、同時に轟嵐に練成弱体を仕掛ける。
 ほぼ同時に、クリスとリュスが轟嵐の機銃を狙ってそれぞれ攻撃を行った。
「さーて、パワー勝負‥‥と行きたい所ッスけど、今回はサポートに徹しさせて貰うッスよ」
 源治はニヤリと笑いながら小銃を構え、同じく機銃へ向けて発砲を行う。
 反対側ではレティがエネルギーガンによる攻撃を開始していた。
 轟嵐は冷静に射撃手達の狙いを分析すると、同時に迫り来る前衛達との距離を見定め、その後の行動結果に笑みが浮かぶのを抑えられなかった。
「でかい銃にはな、こういう使い方もあるんだよ!」
 轟嵐は機銃のグリップをしっかりと握ると、その銃身で自分の周辺を薙ぎ払った。
 斧による攻撃を警戒していた前衛は、その予想外の行動に虚を突かれた。
 取り囲むはずだった前衛組は全員機銃の銃身に殴り飛ばされ、同時に後援組の狙いは全て外れてしまう。
「こいつは、オマケだ!」
 素早く銃身を握り直し、その銃口をクリスに向けて思いっきり引き金を絞る。
 クリスは回避を行ったが、散布される銃弾の雨を全て避けることは不可能だった。
 右足、二の腕、脇腹に命中してしまう。
「──グッ!」
 各部から伝わる痛みに顔を顰め、苦痛に声を漏らし、地面を無様に転がりながら、クリスは一矢報いようと轟嵐向けてライフルを発射した。
 その弾丸は偶然にも機銃の銃身に命中し、轟嵐の狙いは大きく逸れる事となった。
 しかし、ここで轟嵐の悪運が働く。
 狙いを逸らされた機銃が、不運にもレティを捉えてしまったのである。
 本人も意識していなかった攻撃など、回避できる訳がない。
 レティは慌ててパリィングダガーで受け流そうと構えるが、強烈な弾丸の雨を全て流す事が出来ず、レティに当たってしまった。
 特に心臓付近と額に強烈な一撃を被弾した結果、彼女の意識は急速に失われてしまった。
「おっと、こいつぁラッキーだぜ」
 その場に崩れるレティを見て、轟嵐が嬉しそうな表情を浮かべる。
 視界から外れている事を好機と見出し、猫瞳が立ち上がって瞬速縮地で一気に轟嵐へ駆け寄った。
「おらぁっ!」
 気配に気付いて振り向いた轟嵐の膝をジャンプ台にして飛び上がり、布斬逆刃を発動させる。
「ぬおおぉ!! 電磁波物理攻撃拳『猫瞳コレダァァァ〜』!」
 轟嵐の顔面目掛けて、猫瞳の強力な正拳突きが放たれる。
 頭部を破壊しようという猫瞳の心意気を汲み取ったのか、轟嵐はそれを避けようとはしなかった。
 代わりに、額を拳にぶつける頭突きでそれに応じてみせた。
 二つの力がぶつかった瞬間、周囲に衝撃が空気を揺るがして伝わる。
 僅かに砂埃が舞い上がり、拳と額を激突させたまま、轟嵐と猫瞳はしばらく静止した。
「惜しかったな、坊主‥‥」
 轟嵐がニヤリと微笑むと、猫瞳が悲鳴を上げた。
 自らの必殺の威力に加え、轟嵐の頭突きの負荷が加担した彼の手の骨には、ひびが入っていた。
 無論、轟嵐とて真正面から攻撃を受けて平気な訳ではない。
 しかし、虚構でその痛みを打ち消せるほど、彼の精神は強固だった。
 轟嵐は眼前で悶絶する猫瞳の腹を蹴り飛ばし、元いた位置へ強制移動させる。
 直後、轟嵐の後頭部を激しい衝撃が襲った。
 リュスが特殊能力を付加した弾頭矢を放ったのである。
 脳を揺さぶられる衝撃に轟嵐はよろめき、体勢を立て直した前衛組が再び接近を試みる。
 轟嵐は飛びそうになる意識を必死で繋ぎ止めるが、そのせいで前衛組の接近許してしまった。
「汝が如き愚者などに既に問いはない。汝にあるはここで朽ちる結末のみと知るがいい!!」
 王零が国士無双を機銃の銃身に叩きつけて傷をつけるが、破壊までには至らなかった。
 さらに、その際に生じた金属の響き合う音と衝撃が、轟嵐の意識を鮮明にさせる一役を買ってしまう。
 一瞬遅れて命がM92Fを構え、銃の破壊へ取り掛かる。
 轟嵐はゆっくりと命に銃口を向け、それを迎撃しようとした。
 結果として、その発想は轟嵐の機銃を破壊する事となった。
 ばら撒かれる機銃の弾丸は命に直撃したが、命の撃った三発の貫通弾も機銃と轟嵐に着弾した。
 その時、命の貫通弾が機銃の内部を破損させ、使い物にならなくさせてしまったのである。
 引き金を絞っても何の反応もないことを知ると、轟嵐はそれを王零へ向けて放り捨てた。
 回避する暇もなく、巨大な機銃に襲われて王零は弾き飛ばされてしまう。
 着地には成功したが、再び轟嵐との距離は開いてしまった。
「さっきのは効いたぜ、お嬢ちゃん」
 後頭部を空いた片手で押さえながら、轟嵐はリュスに向き直った。
 リュスは一瞬たじろいだが、すぐに弓を構えて敵意を向けた。
 そんなリュスを守るように、間に源治と伊織が武器を構えて立ち塞がる。
「安心しな。諸共俺が破壊してやるよ」
 轟嵐は片手で易々と斧を振り回し、その言葉が嘘でないことを証明する。
 三人が固唾を飲んで轟嵐の動きに注目していた時、突然こうきが声を上げた。
「どうして、そんなに破壊にこだわるのですか? 破壊するのは辛くないのですか‥‥?」
 轟嵐が訝しげにこうきに視線を向けてみると、彼は悲しそうな表情をしていて、轟嵐を驚かせた。
 こうきは内心で今はこんな事を訊いている場合じゃないと思いながらも、言葉は次々と溢れていった。
「貴方は何を思って破壊をしてきたのですか? 貴方の本当の気持ちを教えて‥‥ください‥‥」
 轟嵐は眉間に皺を寄せてこうきの目を見据え、こうきもそれに応じるように轟嵐の目を見た。
 互いの真意を探り合おうと、ただ静かに見つめ合った。
 その異様な光景に一行が動揺し始めた時、轟嵐が小さく鼻で笑った。
「俺は全てを利用して力を手に入れる。エミタでも、仲間でも、バグアでもだ」
 突然の回答に一番驚いたのはこうきだった。
 まさか答えてくれるとは予想だにしていなかったのである。
 こうきは再び問いかける。
「何故?」
 轟嵐は一度こうきから視線を外してリュス達が攻撃を仕掛けて来ないか警戒した後、大きな声で言った。
「こんなくだらねぇ戦争、さっさと終わらせてやるのさ。俺の力でな!」
「‥‥英雄願望ッスか?」
 恐る恐る源治が尋ねてみると、轟嵐はそれを否定した。
「俺は英雄になりたいんじゃねぇ! ただ、このくだらねぇ世界を破壊したいのさ!!
 自分勝手にこの世界を侵略しようとするバグアが気に食わねぇ!
 力に溺れていることが自分だって気付かない傭兵が気に食わねぇ!
 本気で世界を救うために動かない奴らが気に食わねぇ!
 だから、俺が全部ぶっ壊してやるんだ」
 轟嵐は持っていた大斧を振り上げ、地面に叩き付けた。
 怒りの込められた大斧はアスファルトを粉砕し、その刃を地中に埋もれさせる。
 しばらく興奮したように荒い呼吸をした後、轟嵐は静かに姿勢を正した。
「今更退くつもりはない。
 俺は前に立ち塞がるものを全て破壊して進んできた。
 これまでずっと。そして、これからもだ」
 ゆっくりと斧を地面から抜き、それを肩に担いで轟嵐はこうきを見た。
「興醒めした。俺は、お前みたいな馬鹿とやりあうつもりはねぇ」
 驚くこうきに苦笑を向けた後、轟嵐は驚くべき跳躍力でその場から一瞬にしていなくなってしまった。
 残された者達はただ、呆然と去り行く轟嵐を見守るしか出来なかった。

 その日を境に、轟嵐の消息は一切不明となった。