タイトル:襲撃−進み穿つ者達マスター:日乃ヒカリ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/03 00:28

●オープニング本文


 周りはなだらかな丘がある荒野、その只中に一つの建造物。
 大陸の中にある駐屯基地の一つである。
 傭兵達は移動手段である高速艇を使うには海や大きな川まで出なくてはならず、大陸奥地で依頼を遂行する傭兵達は陸路での移動を余儀なくされる。
 そこはそんな傭兵達がラスト・ホープへ帰還途中等に休憩として立ち寄る場所でもある。
 その中継点であるこの基地に傭兵がいた。
 そう、そこにいたのは偶然であった。
 そして、それがその基地にとっては幸いだったといえる。
 この基地は現在、キメラの襲撃を受けていたのだ。
 傭兵達は休憩を中断して依頼で疲れた体に鞭打って基地防衛に就く。
 そして、その報せは軍の本部へと届けられる。

「諸君、聞きたまえ。さきほど、敵キメラが駐屯基地を襲撃している報が入った。現在、基地は防衛戦を行っている。諸君らにはこの基地への援護部隊と共に駐屯基地へと向かって欲しい。基地への移動手段は車両を使用して陸路で向かうことになる。なお現在、軍の航空部隊はある作戦のために出動ができない状態だ。空からの移動はそのためにできないと知っておいてくれ。陸路からの移動途中、キメラとの戦闘があると予測される。諸君らにはこれの迎撃で力を振るってもらいたい」
 でっぷりとした将官が召集した傭兵たちの前で依頼の概要を説明する。
「道中、キメラが襲撃してきた場合は足を止めての戦闘となるだろう。迅速な殲滅が鍵となる。また、援護部隊が攻撃を受けてしまえばそれだけ駐屯基地での十分な援護を行えなくなるだろう。諸君らの働きが駐屯基地の者達を救うこととなる。駐屯基地に着いたら、援護部隊が中心にキメラの掃討を開始する。その時、諸君らはこちらの指揮官の指示で部隊とは別個の援護行動を採ってもらうことになるだろう」
 つまり、今回の依頼で傭兵達が考えて行動すべきことは、基地到着までの迎撃戦だけとなる。
 どれだけ、すばやく。そして、部隊を傷つけずに立ち回るかを考えるべきらしい。
 軍の援護部隊は途中の遭遇戦において応戦はするものの、主に戦闘を行うのは傭兵であると考える。
「敵は昆虫系の形をしたキメラであるそうだ。鋭いあごを持ち、硬い甲殻でその身を守るタイプだ。短い距離なら空すら飛べるが、これは長距離のジャンプ程度だと判断してよいだろう。それ以外特に特徴のないキメラだが、数がそれなりにいる上に連携をとってくるようだ。十分注意してかかりたまえ」
 将官は以上だと告げ、説明は終わる。
 傭兵達が立ち上がる椅子の音が部屋に響いた。

 援護部隊は駐屯基地へと向かい本部を出る。
 果たして、部隊は駐屯基地へと無事辿り着けるのだろうか。

●参加者一覧

吾妻 大和(ga0175
16歳・♂・FT
煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN

●リプレイ本文

 日が昇り始めた頃、彼らの部隊は出発した。順調に進めば、基地に着くのは日が傾き始める頃になりそうだ。
 依頼を受けて既に数時間が経っていた。出発までに時間が掛かりすぎる、大勢で動くためだと分かっているが、と煉条トヲイ(ga0236)は静かに舌を打つ。
 その音を聞きつけてか、リュイン・カミーユ(ga3871)が無線を送ってくる。
「煉条。焦っているのか?」
「あ、ぃや‥」
 心の内を見透かされてか口ごもってしまう。
「ははっ。あんたらしくないぜ、煉条さん?」
「そうそう! もっとク〜ルに、ね!」
 吾妻 大和(ga0175)と聖・真琴(ga1622)が場の空気を和らげるために明るい声を出す。それらの声をマイク付きのイヤホンで聞きながら煉条はヘルメットの中で軽く苦笑いを浮かべる。このような形で言葉を交わしているのは、彼らが単車に乗っているからである。ヘルメット内部に付けられたそれとタンク横に添え付けられた無線機で彼らは短距離での通信を行っていた。
 ふと、聖が知り合いの月影・透夜(ga1806)が出発から今まで声を出していないのに気づく。軽く後ろを振り返りながら月影を盗み見る。
「透夜さ〜ん。おっげんっきでっすかぁ〜?」
「‥‥‥」
「返事ないし」
「‥‥おい、月影!」
 と、ここまで後方で全員の様子を車の中から傍観していた御山・アキラ(ga0532)が月影に一喝する。
「っ!?」
 突然のその声に驚きわずかにバランスを崩す月影。
「まったく。意気込むのも良いが、肩の力を抜け」
「あぁ、すまん。分かった」
 軽く深呼吸して気を落ち着かせる月影に倣って、聖も先頭を走りながら深呼吸をしていた。
「さて、そろそろか‥‥」
「もうすぐ中間地点だ。各員、警戒を怠るな」
 落ち着いた煉条の声が無線に響いた。冬の風が強く吹いている。


「敵だ!」
「そぉら来た! 団体さんでお出ましってか!」
 月影と吾妻が同時に声を上げる。護衛対象を挟む形でキメラが現れる。
「挟み撃ちか!? 真琴、透夜! 害虫を屠るぞ!」
「はんっ! 相手になってやるよ! Now it’s show time!!」
「了解。何であろうと、貫き通す!!」
 リュインの言葉で二人がバイクを急停車。そして、二人の女性を残して月影がアクセルを捻り、先頭を迫り来るキメラに向かって走り出す。ある程度加速したところで右手を離し、後部に取り付けたカデンサを回しながら抜き放つ。槍の重さに身を任せ、体とバイクを横に捻る。そのまま倒れこむバイクを先頭のキメラに突っ込ませる。キメラはこれを避けようと翅を使って飛び上がる。だが、これは既に予想通りだった。月影の後ろからハンドガンを構えた聖が浮かび上がるキメラの腹を狙い打つ。精確ではない射撃も貫通弾による威力でキメラを撃ち抜く。
「これで終わりじゃないんだ‥‥っよ!!」
 空中でバランスを崩しながら滑空するキメラを聖が飛び上がりながら回し蹴りを繰り出し叩き落す。着地後、続けて至近距離で再度銃を撃ち込み絶命させた。
 その一連の動作の中、月影は槍を巧く使い倒れかけるバイクを起きあがらせる。しかし、ここで他のキメラが動く。まだ体勢を立て直しきれていない月影に向かって二体のキメラが突っ込んでくる。
「我を忘れてもらっては困るな!」
 そこにリュインが飛び蹴りで割り込む。一体のキメラがこの攻撃を受けて吹っ飛ぶが、これを踏み台にしてもう一体のキメラが飛び上がる。
「させるか!!」
 頭上を越えようとキメラが見せた腹の中心に向けて月影が槍を突き上げる。貫かれた槍に自らの進む勢いで腹を割かれながらキメラが墜ちる。
「まだ来るぞ!」
 リュインが真紅の爪を構え直して叫ぶ。
 一方、車を挟んだ反対側でも戦いは繰り広げられていた。
「くっ! 時間が惜しいというのに‥‥この数!」
 吾妻がスコーピオンで撃ち落したキメラに煉条が止めを刺しながら呟く。
「煉条、どけ!」
 御山が手に持つ武器を使って攻撃する。固まって動いているキメラの群れに向かって電磁波が放たれる。動きを鈍らせたそのキメラ達に吾妻が蛍火を抜き放ちながら斬りつける。甲殻に抵抗されて弾かれる刀を力点に体を回転させて右足で敵の頭を蹴り上げる。
 キメラの体が微妙に浮き上がったところに素早く蛍火を走らせて止めを刺す。吾妻の視界の隅で影が動く。
「煉条さん、一体あんたの方に行ったぞ!」
 声を聞きつけ、振り返る煉条。滑空してくるキメラ。
「嘗めるな、よっ」
 煉条は傍の車を蹴りつけてキメラよりも高く飛び上がる。背面飛びの様に敵と交錯する瞬間、体を捻りながらシュナイザーを翅の隙間に突き立てる。そのままキメラを体の下に敷いたまま地面に叩き付けた。痙攣して動きを止めるキメラから体を起こしながら爪を抜き取る。
「負けそうになったら仲間を盾にして敵陣に特攻か、ふざけた連携だな」
「確かにふざけてるけど、効果はあるよなぁ」
 未だキメラは周囲を囲むだけの数が存在していた。
「このまま戦い続けるか? それとも‥‥」
 御山が風に巻き上げられる髪をかきあげながら囁く。
 キメラが冬の風に押されるように動き出す。


 戦闘が始まりキメラを全滅させるのにかなりの時間が経過していた。
 リュインが最後のキメラに止めを刺して振り返る。
「なんとか、護衛対称に被害は出なかったな」
「休む暇は無い、すぐに出発しよう」
「了解〜」
 傭兵達は自らの車両に乗りアクセルを吹かす。
「げ。弾切れじゃん! うわー。貫通弾使いすぎた」
「真琴は撃ちすぎだな」
「いいかげん喋ってないで。軍の方も準備が出来たみたいだ、出るぞ。」
 進路を北に取り、一行は走り出す。後には何体ものキメラの屍骸が転がっていた。


「もうすぐ到着だ。重火器用意!」
 援護部隊は基地到着を目前にし慌しく指示が飛び始める。
「一班、二班お前達が先頭だ!」
「五班! 怪我人を運び出せ!」
「三班は弾薬運び! 四班護衛遅れるな!」
「キメラ視認! 基地内に侵入しているぞ!!」
「右方警戒! キメラがこっちに気づいてるぞ!」
 壊された基地門扉を塞ぐキメラをアンチマテリアルライフルを構えた兵士が狙撃。
 車両に取り付けられたチェーンガンが近づくキメラを牽制しつつ基地へと突入を開始する。
「傭兵! 基地内部にいるキメラの掃討を頼む!」
「了解、任せろ」
「突入する!!」
「アキラ! こっちに移れ!」
 傭兵達が単車で突入する中、月影が御山に呼びかける。御山を乗せたタンデムが走り出す。
「月影、左から来るぞ!」
「大丈夫だ、避けれる!」
 道に立ち塞がるキメラを右へ左へかわしながら五台のバイクが突き抜ける。
 バイクレーサー顔負けの技術で敵の攻撃は空を切る。
 基地内で戦う傭兵達の姿が見えた。バリケードを作って応戦しているように見える。
「あそこにいるぜ! 行きますかねっと!」
 先頭を行く聖が倒れているキメラを踏み台にバイクをジャンプさせる。
 群れを成すキメラの中をバイクでふっ飛ばしながら着地。ヘルメットを脱ぎ捨てる。
「2人ともお待たせぇ〜♪ 手伝いに来たよぉ!」
「待たせたな。これより援護する!」
 聖と煉条が基地内で援護行動に移る。吾妻とリュインもそれに続き、遅れて月影と御山がこれ以上のキメラの侵入を阻止するように牽制攻撃を加えていく。
 基地内の敵は傭兵達の力の前に打ち崩れていく。
「ん?」
「どうした、吾妻?」
「動きが鈍くなってきてるよ〜な気が」
「む、確かに。これは好機だ。‥‥糞蟲共、一気に沈ませてやる!」
 傭兵達の勢いは止まらずに加速する。辺りは沈みかけた日の色に染まっていく。
 援護部隊もその勢力を基地内へと進ませていた。