タイトル:襲撃−迎え撃つ者達マスター:日乃ヒカリ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/04 00:22

●オープニング本文


 周りはなだらかな丘がある荒野、その只中に一つの建造物。
 大陸の中にある駐屯基地の一つである。
 傭兵達は移動手段である高速艇を使うには海や大きな川まで出なくてはならず、大陸奥地で依頼を遂行する傭兵達は陸路での移動を余儀なくされる。
 ここはそんな傭兵達がラスト・ホープへ帰還途中等に休憩として立ち寄る場所でもある。
 その中継点であるこの基地に君達傭兵がいた。
 そう、そこにいたのは偶然であった。
 そして、それがその基地にとっては幸いだったといえる。
 この基地は現在、キメラの襲撃を受けていたのだ。
 傭兵達は休憩を中断して依頼で疲れた体に鞭打って基地防衛に就く。

「敵、第一波沈黙!」
「弾薬の補充急げ! 弾薬庫に走れ! 敵の第二波がすぐ来るぞ!」
「くそっ、なんて数だよ! おまけに連携までしてきやがる。あの傭兵達がいなかったらこんな攻撃防ぎきれないぞ」
「傭兵達だって人間だ。疲労が溜まっている。このままこの防衛線を維持できるとは限らないぞ」
「何? 基地指揮がびびって部屋に閉じこもってるだと!? ケツ叩いてでも連れ出せ!」
 キメラの第一波は防ぎきった兵士たちが怒鳴り声を上げながら走り回っている。
 そこに遊撃隊となって防衛に就いていた傭兵達が戻ってきた。
「傭兵達が帰ってきたぞ! 何人か怪我してる! 救護班!」
 傭兵の様子を見ていた現場指揮官が声を上げる。そして状況を分析する。
 彼ら傭兵たちを再び外に出して遊撃させるのは無理だ。ならば、基地内部での防衛となるか。
 現状の戦力でどれだけ抗えるかはやってみなければわからないが。
 問題は、傭兵と基地の兵士の指令系の違い。現場では突発的に他部隊との合流はありえるが、傭兵と兵士ではそれはなかなか難しい。それによって混乱を招きかねない。
 しかし、このまま傭兵と軍の兵士を別にして動いていたのでは連携して攻撃してくる敵に打ち勝つのは困難だ。
 となれば‥‥。
 そこまで考えたその指揮官は新たな指示を部隊に送る。

 治療を受けていた傭兵たちの前に三名の兵士が前に出た。
 尉官ではなく現場の兵士だ、二等兵辺りだろうか。横に立つ現場指揮官が口を開く。
「君達傭兵に彼らを預ける。全員がスナイパーだ」
 どういうことか、と傭兵たちは指揮官に疑問を投げかける。
「このまま君達と我々を別個にしてキメラどもと対抗するのは無理な状態と判断した。何より、君たちは全員が怪我を負っている。そこで、彼らを補佐として回す。流石に全部隊との連携には兵士たちが混乱しかねないため、このような緊急措置を採ることにした」
 要するに、彼ら三名のスナイパーを傭兵達が指示を出し、狙撃による援護を行わせるのだという。
「君等には君等の戦い方があるだろうから強制はしないが、彼らに配置場所や狙撃のタイミングを指示してくれ。なお、彼らの装備はアンチマテリアルライフル。人間に当たれば四肢が吹っ飛ぶほどの威力だが、キメラには衝撃を与えて足止め程度しか効果はない。有効射程は敵の硬度上200メートルあたりだろう。彼らを有効に使って欲しい」
 そう言うと指揮官は兵士たちに目を向ける。
「右から、サガラ、キム、ブラッドだ。階級は君達にとっては飾りだと思うから省く。スナイプの腕のほうはサガラがかなり良い、ブラッドとキムも悪いわけではないがな。それと、弾は十発ずつ持たせてある。弾薬が尽きかけている現状、少ないのは許して欲しい」
 三名の兵士たちは緊張した面持ちで傭兵たちに敬礼する。
 外では再び敵の猛攻が始まろうとしていた。
 傭兵たちは四名の兵士を連れて戦場へと足を向ける。

 その頃、連絡を受けた軍本部では援護部隊の編成が行われていた。
 果たして、その部隊が駐屯基地に辿り着くまで守り抜くことができるのか。

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP

●リプレイ本文

「今度、子供が生まれるんです」
 兵士の一人、サガラが敵キメラの襲撃が始まる前にそう話し始めた。
「へぇ。そいつはめでたいじゃないか」
 彼らに指示を伝えていた赤村 咲(ga1042)がその話を聞いて言った。
「んで、なんて名前にするんだ?」
 ファルロス(ga3559)がその話に混じってくる。
「『ユウキ』勇ましいの勇に希望の希と書いて『勇希』。女の子なんですけどね」
 そういって彼は笑った。
「子供ってのは、俺達が守った世界を生きていくんだよな。がんばらないとな」
 赤村が頷く。外から慌しい音が聞こえてきた。
「敵が来たようであります。行くであります!」
 稲葉 徹二(ga0163)が近寄ってきて報せる。キメラの第二波がついに来たのだ。
「了解」
「行くか」
 三人の傭兵に続いて支援するスナイパー達が持ち場に動き出す。



「飛んだぞ! ブラッド、撃ち落せ!」
「ラージャ!」
「ナイスだ! 止め!」
 ブラッドが撃ち落したキメラをゼラス(ga2924)が重量のある一撃で甲殻を貫く。
 動かなくなったそれを蹴り飛ばして次の獲物に向けて赤いマフラーをはためかせながら飛び掛っていく。
「くっ!」
 一度に二体のキメラを相手にしていた南雲 莞爾(ga4272)が突き立てた槍を引き抜くのに手間取る。その背後をもう一体のキメラが襲いかかる。
 そこに轟音が響き渡る。サガラの援護狙撃だ。
「助かった。サガラ!」
「構いません。次来ます!」
 門の上から頷き返しながらサガラが呼びかける。
 隣のキムが引き金を引く。反動に体を揺らした。
「っは!!」
 鏑木 硯(ga0280)落ちてくるキメラを空中で殴り飛ばす。両手を使って着地しながら視線を巡らす。パートナーの南雲が無事なのを確認する。
「莞爾さん、無理はしないで下さい!」
「ああ。大丈夫だ」
「それにしても、稲葉さんとゼラスさんはすごいですね戦い慣れてる」
「俺から見たら、あんたも十分慣れてるがな」
 そう言いながら南雲は視線を稲葉達に向ける。
 稲葉は赤村達の牽制で体勢を崩したキメラを確実に仕留めていた。
(「エネルギーガン‥‥なかなかに効果があるでありますな」)
 その稲葉はそう考えながら身近な敵に向けては蛍火を振るいながら、離れた敵にはエネルギーガンと使い分けながら戦っていた。
「いいかんじに踊れてるじゃねぇか稲葉!」
「お互い様であります!」
「だが、まだ踊りたりねぇな!」
 一撃必殺を狙いながらゼラスが動く。迫るキメラの体の中心に爪を付きたて引き裂く。稲葉も負けじと蛍火が煌めく。
 そんな中、後方で援護していた赤村が声を上げる。
「敵が多くなってきた! 中に入るぞ! ファルロスさん、撤退支援を」
「了解了解っと」
 シエルクラインに貫通弾が入ったマガジンを叩き込みながらファルロスがキメラに向けてばら撒く。
 怯んだキメラの隙を付いて傭兵達が下がり始める。
「こんなもんだろう。俺達も下がろうぜ、赤村」
「そうですね、行きましょう」
 二人のスナイパー達も基地の中へと移動する。
 硬き門は閉ざされる。



「あ‥」
 キムが装填途中の弾を落とし、その音が響く。
「キム。大丈夫か?」
「あぁ‥‥いや。クソっ、ダメだな。ビビッてるよ」
「自分もだ。こんな数のキメラを相手にしてるんだ‥‥」
 隣に座りながらブラッドが溜息をつきながら言った。キムがそれに頷きながら傭兵達を見る。
「あいつらは、すげぇよな。いつもあんな奴ら相手に引けをとらずに戦うなんて」
「あいつらは、選ばれた存在だからな。俺達とは違うさ」
 キムの言葉にブラッドが返す。それを聞いてサガラが振り返る。
「おい。ブラッド、それは違う。彼らは俺達と同じ人間、それに仲間だ」
 サガラの言葉を聴き二人が黙る。
 傭兵達は装備の点検を終えて立ち上がり、一人がこちらに近づいてきた。
「君達はボク達の後ろで援護してくれ、頼んだよ」
「了解しました」
「‥了解」
「‥了解です」



 門の上から応戦していた兵士達から悲鳴が上がった。
 迎撃しきれずに上ってきたキメラに兵士が襲われる。バランスが崩れ始める。
 閉ざされた門が大きな音を立てる。
 二度、三度‥‥腹に響く音が鳴る。
「さて、第二舞台にご招待だ」
「飛んで火にいる何とやら‥‥相手と状況を選ばない愚かな奴らには死をくれてやるか」
 ゼラスが両腕の武器の具合を確認しながら呟き、南雲が不敵な笑みを浮かべて囁く。
「よしっ! 俺も準備完了!」
 ポニーテールを後ろに束ね直して両頬をぱんと叩き鏑木が正面を見据えて言った。
 門が打ち破られる。
 雪崩れ込むキメラの集団。
 傭兵達は己の得物持って駆け出す。
「脚の関節、狙えるか?」
 赤村が門を越えようとする敵の一体に狙いを定める。狙いは体を支える脚。忙しく動き回るそれ目掛けて引き金を引き絞る。
 発射音とほぼ同時に敵の足が弾け飛ぶ。二発、三発とそれを続けて行い相手を行動不能に陥らせた。
「俺も負けてらんねぇな」
 そうぼやきながらファルロスも敵を狙い打つ。こちらは貫通弾を込めた拳銃を使用しての射撃。敵の頭部を狙い、のけぞった所で腹部に一発叩き込む。
 唯一甲殻が薄い部分である腹部に撃ち込まれてキメラが絶命する。
「さて、弾幕で援護すっかな」
「ブラッドさん、キムさんはファルロスさんが撃ち漏らしたものを狙ってください。サガラさんはボクのをお願いします!」
 五人のスナイパーが動き出す中、四名の前衛は門を突破して中に入ってきたキメラに向かって己の牙をたてる。
 南雲が疾風脚で機動力上げて突っ込む。敵の攻撃をかわし、体勢を限りなく低く下げてエリシオンで敵の足を薙ぎ払う。
 足を失くし、一瞬ふわりと浮き上がったキメラに鏑木が蹴り上げる。腹部を晒すキメラに向かって二人のファイターが止めをさしていく。
 確実にキメラを倒していく傭兵達だが、戦場は彼らだけがいるのではない。基地の兵士達も善戦していたが、フォースシールドを容易く打ち破るすべが無く苦戦を強いられる。
 そして、徐々にだが、キメラの侵攻は基地内部へと進む。
 このことに傭兵が気づいた時、既に敵の侵攻はかなりの段階まできていた。迎撃戦は基地内部へと変わっていく。

「キム! 走れ!」
 サガラが仲間を振り返り叫ぶ。サガラは既に弾を撃ちつくした銃を投げ捨てていた。キムはサガラが隠れている影に滑り込む。
「キム、弾は後いくつだ?」
「あと‥‥三発ある。ブラッドはどこへ?」
 肩で息をしながら残弾数を思い出す。キムは迫る恐怖に頭が巧く回転していない。手も微かに震えていた。サガラがその様子に気づきながらも注意はしない。怖いのは当然だからだ。
「あいつはもう中に入った。弾が残っているのはお前だけだ」
「くっそ。もっと撃っておけば良かったぜ」
 サガラが顔を少し出して辺りを見回す。傭兵達が兵士の撤退を支援しているのが見えた。傭兵達の中には既に練力が尽きた者もいるがそれでもそこに立って戦っていた。
「キム。俺にその銃を寄越して、お前は中に戻れ」
「なんだって?」
 傭兵の一人がキメラに押し倒されるのがサガラの視界に映る。
「いいから、寄越せ!」
「あ、お前!!」
 サガラはキムの手から銃を奪い取る。力の入ってない手からはすんなりと取れた。そしてサガラはそのまま走り出した。
「サガラ!」

「莞爾!」
 南雲が敵に押し倒され、鏑木が悲痛の叫びを上げる。他の傭兵達はすぐには援護に動けない。鏑木が助けに入ろうと走り出した。
 しかし、背後からキメラが鏑木に飛び掛ってくる。気づいて振り返るが間に合わずにそのまま押さえ込まれ、身動きが取れなくなる。
「この! 離れろ!!」
「南雲、鏑木!」
 ファルロスが叫ぶその声を二発の銃弾が遮った。
 サガラの狙撃だった。かなりの距離まで近づいて放った大口径の銃弾はキメラの体を遠く吹き飛ばす。
「サガラ!?」
「サガラさん、下がったはずじゃ‥‥」
「話は後です! まだ来ます!」
 吹き飛ばされた二体のキメラが起き上がる。
「‥‥くっ! サガラ、すぐに下がれ!」
「南雲さん、あなたは練力が尽きてます。なら、条件は同じ。まだ下がりません!」
 サガラの声を聞きながら鏑木が二人の前に立つ。
「莞爾、あなたも下がりなさい!」
 鏑木は南雲を振り返りながら言う。
「ファルロスも後数分しか戦えないはず。貴方はファルロスとサガラを連れて下がる、分かった?」
「‥了解。サガラ、行くぞ」
 南雲は苦々しく頷きサガラの肩を掴む。
「行って!」
「‥‥了解です」
 鏑木が二体のキメラに向かって走る。その動きが最初より鈍くなっていることに自らは気づかずに駆ける。
 そんな彼女を背に三人が基地に向かって走りだした。
 遠く太陽は傾き始めていた。


 傭兵達はその後、兵士の後退を確認して自らも基地内へと下がる。
 バリケードのしかれた基地内で最後の抵抗を行っていた。
「助けは来るのか? 来ないのか? 来るなら、さっさと来て欲しいもんだぜ」
 ゼラスが苛立たしく言葉を吐き出す。
 その声を聞いてか、遠くで銃撃の音が響いた。
「‥聞いたか?」
「聞いたであります」
「やっと、来た!」
 キメラを前にしながらも傭兵達の顔に安堵が生まれる。
 バイクの走る音が聞こえてくる。たった五台だけで突き進む彼らは間違いなく傭兵である。
 先頭のバイクが稲葉達の前に群れるキメラを吹き飛ばして止まる。
「手伝いに来たよぉ!」
 明るい女性の声が基地内に響き渡る。
 兵士の、そして傭兵達の歓声が沸きあがった。



 救援部隊が到着したその数時間後に基地内のキメラは掃討される。
 しかし、基地施設は激しく損傷し、また兵士達の命も多く失われていた。
 この駐屯基地は放棄が決定されることになる。

「結局、守りきる事は出来なかった‥のか」
「守れるものは守った、そう思いたいであります」
「守れるものか‥サガラが言っていたな。『ありがとうございました』って」
「ちゃんと、守れたのかな」
「あぁ、守れたさ。あいつらと、あいつらを待つ人達の未来を」
「‥今の俺達には、それだけでも十分の成果だな」