タイトル:選択と決断マスター:日乃ヒカリ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/23 12:51

●オープニング本文


「困ったもんやなぁ‥」
「何がですか?」
 事務室で二人の仕官がいつものようにやり取りしている。
「ここ最近、軍の輸送車がキメラの襲撃にあっとるようや。連絡がつかんようになったのもあるみたいでな」
 そう言ったのは、いつになくやる気のない田中大尉である。
「軍の護衛は就いているのでしょう?」
 返すはユイ少尉。こちらはいつもと変わらず背筋を伸ばして立っている。
「就いてるんやけどな」
 質問に答える大尉は少尉の方を向かず、背中を向けている。
 それに対して少尉は特に咎める事もなく、軽く頷いた。
「‥‥人材不足、ですか」
「そう言うこっちゃ」
 大尉は丸めた背中で肩をすくめる。
「軍には能力者がいても、全ての部隊におるわけやないしな」
 実際、大尉自身は能力者ではない。軍人であっても能力者であるのは稀なのだ。
「軍部の方も能力者の確保は行っていますが、それでも適応者は僅かしかいませんしね」
「まして、軍人は傭兵みたいに個人の正義によって動けるわけではあらへん。異動やって個人の裁量で決まるわけやない。組織行動にはそれはそれでえぇ所もあるけど、どうしても個人のように臨機応変に動けんところがあるわけや。この輸送車の護衛やって対応にはもう少し時間がかかりそうやな」
 少尉の言葉を背中で受けながら、軍のシステムを嘆く。
 大尉は中間管理的な立場であり、こういった事態において何もできない自分と軍にもどかしさを感じているのだ。
「その間にも被害は増えてしまいます。どうしますか?」
「はぁ‥傭兵に依頼するしかあらへんか」
 なんでも屋的に依頼をすることに躊躇いを感じつつも、背に腹は変えられない事実が目の前にあった。
 今回も彼らの力を借りるしかないようだ。
「では、手配しておきます」
「あぁ、頼むわ」
 元気のない返事を受け、少尉は白い息を吐きながら部屋を出て行った。
「そろそろ、あっちの計画を進めるか。‥‥にしても、なんで空調壊れとんねん。寒いっちゅうねん!」
 部屋に残された大尉の前には、少尉が用意した小さな電気ヒーターが置かれてあった。


「‥‥と、いうわけで、や。あんさんら傭兵達には輸送車を護衛してもらうことになる」
 空調の効いたブリーフィングルームで声を張り上げる大尉がいた。
「今回、護衛する輸送車は仮にA・B班とするが、あんさんらにはA班の輸送車を護衛しつつ目的地の基地まで向かってもらう。ついでに、B班はA班に1時間遅れで出発することになっとる」
 モニターには軍の輸送車三台と輸送物の詳細が表示されている。輸送物は武器弾薬などが主である。
 傭兵達には移動用に軍用の車とバイクが貸し出されるようだ。
「途中二回、休憩を兼ねてガソリンスタンド(以後GS)に寄る事になるが、そこでルート選択がある。選択といっても近道と遠道の二択や」
 傭兵達の手元に資料が配られる。電子データではなくプリントアウトされた用紙だ。資料には目的地までの地図とルートが書かれてる。高速道路などではなく一般道を使用するようだ。GSのポイントには赤ペンで「トイレはここで済ませましょう」と書かれているが、これは大尉に向けられたメッセージではないだろうか。そんなことはさておき、話は続く。
「初めに寄るGSをA。次のGSをBとしよう。出発地点からGSAまでのルート、GSAからBまでのルート、そしてGSBから目的地までのルートの計3回のルート選択があるわけや」
 手元の資料と同じものがモニターに表示される。大尉がそれを指し示しながら説明を続ける。
「キメラが現れるのは近道か遠道かはわからん‥と言うと思ったか? 軍を嘗めてもらっては困るで」
 大尉はそう言って自分の手元にある資料に目を向ける。
「これはさっき受け取った情報や。軍の偵察によるとやな、出発地点からGSAまでは近道の方にキメラが待ち構えとるようや。また、GSAからBまでもまた近道のほうで確認されとる。そして‥‥」
 そこまで言って資料をめくる。次のページに目的の情報がなかったのか、再びめくる。めくる。めくる。めくる‥‥。
「‥‥そして、最後は不明や! これが軍の力や!」
 めちゃくちゃである。言っている大尉自身それを自覚していた。
「文句言うな! 抗議は受けんぞ! わいの責任やない、だまれ!」
 軍を嘗めるなと大見得切っただけに恥ずかしいのか、突き刺さる傭兵の視線を振り払うように叫ぶ大尉。
「あ〜‥とにかくや、選択はあんさんらに任せるわ」
 もはや叫ぶ気力もなくなったようで肩を落としながら話を続ける。
「あぁ、そうそう。やり過ごしたキメラやけどな。どういう行動を取るかはわからん」
「もしかしたら、こちらの休憩中に先回りして待ち構えとる可能性も出てくるし、後ろから追いかけてくるかもしれへん。そういう時の対応も考えといてくれや」
 投げやりに聞こえる態度で大尉が語る。実際に椅子にふんぞり返っている始末である。
「最後に、B班の護衛もやるとか言ってくれるかもしれへんけどな。悪いけど、それはなしや。B班の輸送車の中身が中身だけに、傭兵には任せられんもんなんやわ。中身は秘密や」
 これ以上は聞くな、そういうように大尉は話を締めくくる。
「質問はないな? ん、なんや? おやつ? あぁ、おやつは500Cまで、バナナはおやつに入らん。‥‥どうでもええことやな。それじゃ、説明は終わりや。では、準備にはいってくれ。あ、ついでにわいも一緒に行くで。よろしゅうな」

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
沢辺 朋宏(ga4488
21歳・♂・GP
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL
ナオミ・セルフィス(ga5325
18歳・♀・FT
二桜塚・如月(ga5663
14歳・♂・ST

●リプレイ本文

「‥‥ふぅ。さむっ」
 肺に溜めた空気と一緒に紫煙を吐き出しながら田中大尉は冬の寒さに身を震わせた。
 彼の傍には輸送車とそれを護衛する車両が控えていた。
 そして、それに乗り込む兵士と傭兵達も。
「大尉、全員集まったみたいですよ」
 沢辺 朋宏(ga4488)が大尉に声を掛ける。
「あぁ、今行くわ。そうや、沢辺。妹さんは元気してるか?」
「はは。元気すぎて困ってますよ」
 大尉の質問に笑って答える彼は、以前とある任務で大尉と仕事をした仲だ。彼の妹の事も大尉は知っている。
 大尉は煙草の火をを携帯灰皿で揉み消してから他の傭兵が待つ所へと向かった。
 傭兵は全員で八名。その中にもう一人、見知った顔がある。
「おう、エンタ。相変わらずちっこいのぉ」
 そう言われたのは、金城 エンタ(ga4154)。彼はその言葉に眉を顰める。
「相変わらずとは何ですか。まったく大きなお世話ですよ」
 ふんと鼻を鳴らして返す言葉は丁寧だが棘がある。それはただ大尉に言われた言葉による反感から来るものだけではないのかもしれない。以前の任務のとき、彼らはこの大尉に一杯食わされていたのだ。少なからず大尉の言動には敏感に反応してしまうようだ。
「そない連れへん返事せんといてや。ま、今回もよろしゅう頼むで。さて、と。他は初見のようやな」
 他をぐるりと見回して確認する。傭兵と軍人が共に行動をする事事態が稀なのだ、二人のように顔を見知っているだけでもめずらしい。
 軽い自己紹介でも頼むわ、と大尉は言って傭兵達を見る。
 初めに前に出たのは中性的な顔立ちをした青年、真田 一(ga0039)だ。
「真田一だ。よろしく頼む」
 とても端的に、そう言うと下がる。その短さに大尉が少し呆気に取られつつも次が前へ進み出る。こちらは真田とは逆に表情豊かな好青年、新条 拓那(ga1294)である。
「新条拓哉です。大尉、俺のこと自分の部下だと思って好きに使って下さい。よろしくお願いします」
「自分の部下ね。あぁ、よろしく頼むで」
 新条が挨拶した時、大尉が何故かにやりとほくそ笑んだのを誰も気づいていなかった。
 それはさておき、紹介は続く。どこかクールな面持ちを持つのに気弱に見えるという女性がおどおどした様子で口を開く。
「せ、精一杯護衛しますのでど、どうぞ宜しくお願いします‥‥!」
 自分の名前を名乗っていないのも気づいていないのだろう、頭を何度も下げながら挨拶が終わる。金城が気を利かせて彼女の名前は藤宮紅緒(ga5157)だと大尉に教える。
 そして次にシルバーブロンドの髪を持つ少女が挨拶をする。
「ナオミ・セルフィス(ga5325)です。輸送車は絶対守ってみせます! よろしくお願いします」
 その言葉は力強く、大尉は頼もしげに頷く。そして、その隣に立つ人物が前に出る。金城より少し高いくらいの身長を持った少年、二桜塚・如月(ga5663)だ。
「二桜塚如月です。今回が初めての公式任務就任です。精一杯がんばります」
 無邪気に笑うその表情から傍目では彼を傭兵とは思わないだろう。しかし、彼も正規の傭兵である。そこまで自己紹介が終わって、大尉はよしと頷く。
「これで全員やな。んじゃ、しゅっぱ‥‥」
「ちょ、ちょーーー!」
 大尉の台詞を遮って女性が飛び出す。その姿、名前の入ったゼッケンに体操着ブルマに首から提げた巨大ハリセン。既にしてそこでは異様なオーラを放っていた。
「んーなんやぁおったんかいなぁ気づかへんかったわー」
「いやいや。こんな寒空の中にこんな姿でおるんやから、気づいとったやろ! ちうか、なんで棒読みやねん!」
 そうツッコミを入れるのは三島玲奈(ga3848)、巷では空飛ぶ漫談師と呼ばれる傭兵である。彼女は、以下略。説明すらネタに終わってしまう。
「まぁ、あれや。既に自己紹介終わっとるやろ、そのゼッケンで」
「あ、ほんまや」
「よし。問題ないな。ほな行くでぇ」
「え? あ、ちょっ待ってやー」
 大尉は彼女を放って車両の方へ向かう。それを追う三島を見やりながら真田がぼそりと呟いた。
「‥こんな姿って、あれは体張ったボケなのか‥」


 左右を小高い丘で挟まれた道を輸送車が進んでいた。その輸送車の前後を傭兵と大尉が乗り込んだ護衛車が付く。
 前方を走る護衛車のハンドルを握ってるのは大尉である。
 助手席に真田、後部座席に三島が座っていた。
「ていうかな。お前ら。編成はもっとしっかり相談しておけや。おっちゃんちょっと困ったでないか」
「あはは〜。すんまへんなぁ」
「‥‥」
「しかも、なんや。なんで運転をわいがやらなあかんねん!」
「あはは〜。すんまへんなぁ」
「‥‥」
「お前ら、反応にもちっとバリエーションを‥‥」
「あはは〜。すんま‥」
「もうええわ!」
 そんなやり取りを交わす大尉は、出発前に傭兵達から運転を頼まれていた。
 初め、断っていた大尉だが。
『あ。大尉やらへんの? なら、うちが』
『いや、それなら僕が』
『いやいや、それなら俺が』
 と、他の傭兵達が進み出るのを見ているうちに。
『あ、じゃあ、わいがやるわ』
 ぽろりとそう口にしたとたん、手のひらを返すように「どうぞどうぞ」と言われ、気づいた時にはハンドルを握っていたのだ。まんまと嵌められた大尉は悔しそうながらどこか嬉しそうにしていたのだった。つまり、この愚痴も一種のノリであるのだろう。
 隣に座る真田はアホらしいとばかりに溜息をつきながら双眼鏡を覗いていた。

 一方、その頃。車両の更に前を進むバイクがあった。
 これに乗るは新条、ナオミのペアと沢辺、金城ペアである。側車を取り付けたバイクが冬の寒い空気に白い息を吐き出しながら突き進んでいた。
「ん? ‥‥あれは」
 双眼鏡を覗き込んでいた金城が丘に立つ黒い影を見つける。
「キメラだ。沢辺さん!」
「おうよ!」
 アクセルを全開にして加速をかける。新条も同じく加速。キメラが丘から駆け下りてくる。その間にナオミが後方に無線で伝える。金城はSMGを固定させて構えた。
「金城くん、援護します! 新条さん!」
「あぁ、任せな! これでも食らえ! ご挨拶代わりにバナナの皮でもど〜ぞ!」
 追いついたキメラに向かって新条が持ち込んだバナナの皮を投げつけた。
「って、ええぇ!?」
「新条、それは間違ってる!」
 驚愕するナオミとそれにツッコむ沢辺。確かに、間違っている。どこぞのレースゲームではないのだ、効果があるはずがない。
 その間にも金城は近づくキメラに向かって掃射、一体が弾け飛ぶ。
「よし、一匹目!」
「あれを見てよく落ち着いてるなぁ、その肝の据わり方に感服だよ」
「感心してないで、操縦の方お願いしますよ!」
「新条さん、今度こそお願いします!」
「わかってるって、冗談だよ‥‥ちょっと期待してたけど」
 一体がやられたことで残りのキメラ二体が目標を後方にいる輸送車へと変える。
「ちっ! ナオミ、飛べ!」
「はい!」
 新条が方向転換をかけながら急停止させる。その瞬間にナオミが刀を抜き放ちながら飛び出す。能力者の身体能力ならこの無茶な行動も可能だ。金城は停車させたその場からSMGで援護射撃。銃弾が一体の急所に命中する。残る一体。
「―――これが‥‥ノゾミを護る、護り手の剣です!!」
 白き翼を輝かせてナオミがキメラを斬りつける。その一撃は相手を絶命させる事は叶わなかったが、足を止めるには十分だった。その隙に後から追いついた新条と沢辺の攻撃でそのキメラは倒れた。
「ふぅ。こんなもんか」
 全てのキメラを倒し一息ついた三人は金城が待つバイクの下へと向かおうとした。
 と、その時‥‥。
「大尉! あすこにバラナの皮が落ちてるで!」
「ぅおおっ!? こ、こんなところにバナナが! そ〜んなバナナ〜!」
「‥‥ネタが古いな」
「‥‥事故んなよ、大尉」
 大尉の運転する車が新条の投げ捨てたバナナの上で故意にスリップするのを見ながら三人は再び息をはいた。盛大な溜息を。

 一行は、その後GSAにて休憩を取り、GSB間にて再びキメラと戦闘。
 これを真田、金城、藤宮、二桜塚の四名が排除。
 その間、二桜塚がキメラのサンプルを採ろうとするも、大尉がそれは既にサンプルがあると言われて断念した。
 あと、余談ではあるが、GSAにて大尉が再び運転席に乗ろうとした際、傭兵達は大尉を蹴り回して押し止めた。再び運転で遊ばれたら困るからである。大尉曰く、「真田の蹴りが一番痛かった」らしい。助手席に乗っていた彼があの運転の一番の被害者だったからだろう。
 そして、輸送車は無事に最後の休憩所であるGSBへと辿り着く。

 GSBにて傭兵達は一時の休息を取っていた。
「おい、三島。なんやねん、それ」
 大尉が休憩中の三島に声を掛ける。彼が言うそれとは、三島が持ち込んだ瓶である。
 瓶の中には押しつぶされたバナナが入っていた。
「これはバラナでっせ? ええっとおやつは500cc迄でんな?」
「ふむ。‥‥バナナか。だがバナナは五本までと言ったはずやが?」
「裁判官、これはバナナではありません、大阪弁でバラナですわ」
「ふむ、バラナか。なら仕方ないか」
「いつまでボケ続ける気だよ」
 ボケがまだまだ続きそうな二人を見かねて沢辺がハリセンで二人にツッコむ。
 しばかれた二人は沢辺を振り返った。怪しく目を輝かしながら沢辺ににじり寄る二人。
「救いの神様や」
「あぁ、沢辺。お前のハリセンが輝いて見えよる」
「か、関西人ども、近寄るな!」
 そんな三人から離れたところで一人、藤宮が海老せんべいをつまんでいた。
「藤宮さん、お茶どうです?」
 金城がお茶を持ってやってくる。ポットセットで入れた温かい紅茶やコーヒーが湯気を立てていた。
「あ、ありがとうござっ‥ございます」
「いえいえ。熱いですよ、気をつけて。あと、バナナチップもどうです?」
「え? いや、あの‥海老せんべいとバナナチップは食べあわせが‥その、でも。あ、頂きます」
 勧められる物を断りきれない性格の藤宮は、やはり断りきれずにバナナチップと海老せんべいを手にもらった紅茶を見ていた。
 金城はそんな様子の彼女ににこりと微笑みかけ、他の人に飲み物を配りにそこを離れていく。
「この食べ合わせは、まさに未知との遭遇ですね」
 彼が離れて行ったのを確認した後に藤宮はそっと呟いた。

 長めの休憩の後、傭兵達と大尉は置いた地図を片手に次のルートでの行動を相談していた。
「大尉。その後、情報は入ってきてますか?」
「いんや。今は航空部隊やらなんやらはほとんど向こうの作戦に出張っとるからな。準備段階とはいえ、本部はてんてこ舞や。こっちに偵察出しとる余力があるなら向こうさんに渡しとる」
「つまり、情報はまったくなし、か。やはり、大尉は‥‥」
「わいはそれに関係ないやろ!」
「まぁ、それは置いといて。次もやはり近い方を進みましょう」
「バイクは俺と真田で、沢辺と藤宮は車の運転を。大尉にハンドルを任せちゃだめだからな?」
「はっはぁ〜。大尉、完璧に信用されてないでんな」
 三島が大尉を指差して笑うが、そこに二桜塚が口を挟む。
「三島さん、あなたも運転したらだめです」
「うっき〜!?」
「三島もバナナとかのネタがあると何するかわからないからな」
「はっはっは。同類やな!」
「た、大尉。それ‥‥喜ぶところじゃ‥ないです」
 大尉と三島が車の陰で落ち込んでいるのを放っておいて、傭兵達は相談を終えて出発の準備を整える。時は夕刻、日は陰り始めていた。一行は目的地に向かってGSBを後にした。

「来た!」
「でかいのがいやがる。止まって応戦するぞ!」
 先行する班がキメラを発見する。キメラは道を遮るように待ち構えていた。
 無線を通じて後方に報せつつ、四人はバイクを降りる。
 真田が刀を抜き放つ。月詠が月の影を受けて怪しげに輝いた。
 キメラが動き出す。
 四足の獣の姿をしたキメラは地面を蹴りながら飛ぶように駆ける。
 傭兵達も走り出す。新条が瞬天速を使い先頭に踊り出る。ツーハンドソードを肩に背負うように構えて手前に迫ったキメラの攻撃を掻い潜りながら叩きつける。しかし、キメラがこれを避ける。両手剣の重みに身を引かれて体勢が崩れたところをキメラが襲いかかろとするが、これを真田が遮った。
「動きが速いねぇ。まるで風のようだ」
「大尉たちが着ました」
 ナオミが遅れて到着した車に気づく。車から他の傭兵達が飛び出してくる。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃんじゃ〜ん!」
「誰も呼んでないけどな」
「キメラ‥‥僕らが着たからには死んだも同然だよ」
「が、がんばります!」
 口々に何かを言いながら戦闘へと突入する。
「いってらっさ〜い、と」
 車の助手席では取り残された大尉がビデオカメラを片手に手を振っていた。金城が大尉のカメラに気づく。
「カメラ? ‥‥一体何を。っと、こいつ!」
 キメラが思考しようとした金城に攻撃を加えてくる。考えるのを後にしなければならないと判断して戦闘に集中する。
 傭兵達は連携しながらキメラを追い詰める。互いをカバーし合い、相手の隙を作り出して止めをさす。
 その連携を前にキメラは程なく全滅する。
「ふむ。さすが、傭兵‥‥やな」
 その様子をカメラに収めた大尉は車の中でにやりとほくそ笑んでいた。

「おーっし。皆の衆、おつかれさんや!」
 無事到着した目的地で大尉が傭兵達に労いの言葉をかけていた。
「あの、大尉。これは?」
 二桜塚が先ほど大尉から手渡された袋を指しながら尋ねる。他の傭兵達も同じくそれを受け取っていた。
「ん、まぁ。それは個人的なキモチや。遠慮せず受け取りぃ」
「何が入ってんのかな〜」
「‥‥む」
 早速、三島が袋を開けて中を覗き込む。それを横から見ていた真田が眉を寄せる。
「大尉。あんたの気持ちって‥‥」
「うわ」
「少なっ!」
「てか、キモチ少なっ」
「最悪だ。そんな人だとは」
「ガッカリですね」
「まったく‥‥」
「な、なんや! ないよりましやろ!」
「大尉のキモチはないよりまし‥‥」
 傭兵達は溜息をつきながら大尉だからこんなものか、と半ば無理矢理納得する。
 その様子に大尉が少し落ち込むが、それを見ながら金城が大尉に尋ねる。
「あの、大尉。戦闘中にビデオ撮ってましたよね。あれはなんですか?」
「ん。気づいとったか。あれはやな、実は軍で新設の部隊を作ろうって話が来てんねん。そのための参考にな。まぁ、実際に立ち上げるかどうかはまだ決まってへんけどな」
「て、ことは。このお金は、それの?」
「‥‥」
「なんで目を逸らすんですか」
 わざとらしく口笛を吹きながら目を逸らす大尉。その様子に傭兵達があることに気づく。
「あぁ! 本来の金額から猫糞したやろ!」
「んなことやってへんわ! こらそこ! そんな目で見んな!」
「怪しい‥‥」
 ジト目で見つめられることに堪えられずに大尉が解散を告げるが、傭兵達はその後も大尉を攻め続けていた。
「えぇかげん帰れお前ら!」