●リプレイ本文
「各員、持ち場に着きました」
「ほいほいっと。了解」
「大尉」
「わぁっとる。まじめに、やろ?」
「お願いします」
「んじゃ、これからあれの打ち合わせ行って来るわ」
「はい。こちらも準備をしておきます」
無線機を通じて田中大尉とユイ少尉のやり取りが行われる。
場所はパーティー会場。すでにパーティは始まっており、人々は絢爛豪華な会場にてひと時の歓談を楽しんでいた。
話題はなんと言っても名古屋防衛成功のこと。この話題は今やどこで出しても喜ばれる。ましてや、軍人も参加しているこの場所では言わずもがなである。
緋霧 絢(
ga3668)は壁に背を預けて会場内を見回していた。
服装は胸元と背中が開いた黒のドレスを着ており、彼女の雰囲気に合っている。その凛々しく気高い雰囲気に男が近づいて行くが素っ気無い返事に打ちのめされる。
彼女は一般人ではない、今回の警備に当たっている傭兵である。招待客ではない彼女は積極的に会話へと参加をしない。
そこに一人の男性が近づいてくる。金城 エンタ(
ga4154)である。背が低く、まるで少年のように見えるが、彼はこれでも青年と呼ばれる年齢でありまた傭兵でもある。
服装はスーツを着ているが、まるで七五三の様である。ご婦人方から好奇の目を向けられたりしていた。
「緋霧さん。どうです、食べますか?」
そう言うエンタが手に持つのは3品ほど盛られた皿。どれもが高級食材で作られた一品である。
「いえ、結構です。心遣いに感謝します」
感情をあまり表に出さない緋霧である。頑なに断られたと勘違いしたエンタは残念そうにする。それを見た緋霧が少し慌てた様に付け加える。
「飲み物なら、頂きます。ソフトドリンクで」
「うん! 取ってくるね!」
尻尾でもついていればパタパタと振っていそうな雰囲気でエンタが人混みの中へとまぎれて行く。
エンタが目の前を通り過ぎるのを篠崎 美影(
ga2512)が気づく。
彼女もまた傭兵である。給仕服を着ており、厨房から会場までの警備を主に担当しているのだ。
「どうしたのお姉ちゃん?」
美影の妹である荒巻 美琴(
ga4863)が声をかけてくる。こちらも同じ給仕側からの警備を担当している。
「あぁ、いや。エンタ君を見かけたからね」
「んと、あのちっちゃい子?」
「そう、あのちっちゃい子。でも、本人の前で言っちゃ駄目よ、気にしてるかもしれないし」
「はぁい」
そう話しながら彼女達は飲み干したグラスを回収しながら会場を回る。
そんな中、容姿の良い彼女たちは男性から声がかけられるが、
「私には夫以上の男性はおりませんわ」
「ボクはお義兄さんが好きなの! おととい来てね」
そう言ってやり過ごす。妹のそんな発言に姉である美影は、
「誰かを好きになるのはその人の自由ですよ。但し、一番はわたしですからね」
と返していた。他人には理解しがたい絆があるのだろう。
「あ、このグラスお願いしますわ」
エリザベス・シモンズ(
ga2979)が美琴に空になったグラスを渡す。
自前のオートクチュールドレスに身を包んだ彼女は高貴な雰囲気を漂わせている。
彼女は英国は名家の育ちであり、それは幼い頃から身に着けたものだった。
その隣に中松百合子(
ga4861)がグラスを傾けている。ロングドレスに黒地で裾が床に着かない長さのマーメイドラインのスカート、コーディネートに眼を見張る。
彼女達もまた傭兵であり、二人はリズの兄を通した知り合いであった。
「リズちゃん、お兄さんはお元気?」
「ええ、元気にしてるわ。それにしてもユリコも能力者になっていたなんて驚きだわ」
二人はそう会話しながらも周囲の警戒は怠っていない。
不審な動きがあればすぐに動ける心構えだ。
そこにふらりと田中大尉が現れる。
「おう。お二人さん。どないや?」
「あら、大尉。どちらに行ってらしたんですか? さっきまで姿が見えませんでしたけど」
「あぁ、ほら。主催者側といろいろと打ち合わせをしてたんや」
傭兵達は大尉の動向にも眼を向けていた。不審者としてではなく、彼が奇行に走るのを防ぐためにである。いや、それはそれで十分に不審ではあるが。
「打ち合わせすか? ‥ところで大尉」
「ん、なんや?」
百合子がすっと大尉に近寄る。
「ちょっと髪型をきっちりし、きりっと礼服を着るともっとよくなりますよ」
そう言うと彼女は素早く大尉の服装を正していく。
数瞬後には男前の男性が百合子の前に現れていた。いつもはくたびれた感じが漂う大尉がこんなにも変わるとは驚きだ。百合子のスタイリストとしての腕前に舌を巻く。
「うーん。さらにもっとこう‥‥」
百合子はまだ納得いかないのか、更に手を加えようと思案しだす。
確かに腕は良いがこれ以上弄られるのは勘弁と、大尉は逃げ出すように二人の前から後ろ歩きで離れる。
と、背中が人にぶつかり‥‥。
「わっ、と。なんやねん! どこに眼ぇ付けて歩いとんねん!」
「うわ。すんまへん‥‥て、あんさんかぃ」
ぶつかったのは沢辺 麗奈(
ga4489)、今回の警備に当たっている傭兵の残る二人のうちの一人である。真紅のドレスに身を纏った関西弁の傭兵。微妙に大尉と波長が合っている様に感じる。
「あぁ、大尉。わりぃわりぃ。うちの妹がぶつかってしまって」
「ぶつかってきたんは大尉の方やっちゅうねん」
麗奈の後ろから現れたのは沢辺 朋宏(
ga4488)、残る最後の傭兵である。
「ばぁか。こういう時はこっちから謝るんだよ。一応、相手は上司だぜ」
「あぁ、そうか。一応、上司やねんな」
やたらと「一応」の部分に力が篭っている。
「いや、一応じゃなくてれっきとした上司やねん」
大尉が力無げにツッコむ。力強く指摘できないのが虚しい。
「ところで、大尉。今回は本当にバグア達の危険はないんですか?」
朋宏が口調を改めて尋ねる。オンとオフの切り替えがうまい。
「あぁ、せやなぁ。こんなところまで入り込まれとったら既に手遅れやと思うし、敵さんもここで暴れるよりもっと重要な場所があるやろ。ここが危険になることはまずないやろな」
「じゃあ、なんでうちらがここにおるん?」
もっともの疑問を麗奈が口にする。大尉はそれにニヤリと笑みを返し。
「それはやな、ここならワイが大っぴらに上の情報を仕入れる事ができるからや。つまり、あんさんらはワイの行動ためのカモフラージュっちゅうわけやな」
大尉のその台詞に麗奈が目を見張る。
「うわっ。腹黒っ」
「まぁ、大尉が腹黒いんはどうでもいいとして。その上の情報ってのは?」
朋宏がさらりと受け流す。
「ええんかいっ。‥‥まぁ、そうやなお前らに話せる情報は名古屋の方で聞いた新兵器なんやけど」
二人が声のトーンを落として話し始める。
「新兵器? KVのようなものっすか?」
興味津々といったかんじで朋宏が尋ね、麗奈が身を乗り出す。
「いや、どうなんやろな。詳しくは分からんが、名前が確かユニヴァー‥」
と言い掛けて、
「ユニヴァーシルスタジオやな!」
間髪いれず麗奈が叫んだ。
「そうそう、アトラクションがぎょうさんあって皆が楽しく‥‥てちゃうわっ!」
大尉の関西人の血が滾り、反射神経的にボケてしまう。
「なんで遊園地を軍が作らなあかんねん!」
これが漫才の高等(?)テクニック、ノリツッコミである。
「ノッてきたくせに」
「当然や」
「当然なのかよ」
「当然やな」
肝心の情報は置いておかれ、三人の漫才は止まりそうにない。
そんな様子を少し離れた場所で緋霧が心の中でツッコミをいれていた。
(‥‥なんでやねん‥‥こんなかんじ?)
まったく表情を変えておらず、傍から見ればそんな心の内を予想することはできない。
そこへソフトドリンクを持ってきたエンタが寄ってくる。
「大尉達、なんかやってるなぁ」
「そうですね。気になりますか?」
エンタのぼやきに緋霧が相槌を打つ。
「うーん、まぁ大尉がどうなろうと知ったこっちゃないんだけど。周りに迷惑がかかるとあれだし。ホントは大尉に付いて警備したかったんだけどなぁ」
「そういえば、『ワイはいろいろと忙しいねん、警備すんのやったら別のとこ見とけや』と仰ってましたね」
エンタと緋霧は開場前に大尉が言った事を思い出す。
大尉の警護をしたいと言ったエンタ達に対して、警備責任者を警護する必要はないと無下に断られたのだ。
「言ってることは正しいけど、あの人の言葉じゃなぁ」
と口にした時だった。
「きゃあ!!」 「うわっ!?」
会場の中央で人々の悲鳴が上がる。
「動くな! 動いたら撃つぞ!」
ドスの利いた声が会場に響き渡る。
声を上げた人物は高々と拳銃を持ち上げ、辺りを威嚇する。
腕には主催側の人物が捕まっていた。
「なんだ? テロか!」
周りの客が徐々に事態を把握し始める。同様が走り始める。
そんな中、傭兵達は行動を開始していた。
「相手は三名。それぞれ拳銃を所持。内一名が人質を捕っている」
そうつぶやいたのは緋霧。彼女は隠し持っていたハンドガンを構えて移動を開始していた。同じようにリズもハンドガンを取り出し移動を開始している。
「大尉、どうします?」
朋宏が隣に立つ大尉に指示を請う。一応、ではあるが大尉が上官であり指揮者である。
「覚醒して鎮圧しろ」
すぐに大尉の命が下る。その判断に何の迷いもない。
「了解やぁ〜!」
朋宏と麗奈が瞬時に覚醒。
人混みを掻き分けて突っ込む。
それに呼応してエンタと美琴の二名も覚醒。
大きな得物を持ち込めなかった沢辺兄妹と美琴は素手で。
エンタは不慣れながらもアーミーナイフを抜き放つ。
「何!!」
疾風脚により増強した脚力で一瞬にして間合いを詰める四人。
銃を持った敵は照準を慌てて向けてくるが、遅い。
沢辺兄妹が足で二名の銃を払う。
その隙にエンタと美琴が相手の下に潜り込むようにして拳を相手の体に打ち込む。
「っ?!」
息がつまり、行動が止まる。
残った一名が銃を構えようとする、が。
「チェックメイトですわ」
リズがこめかみにハンドガンを突きつけて動きを止めた。
隠密潜行によって気配を絶った彼女は既に横まで近づいていたのだ。
緋霧、美影と百合子は覚醒はしていなかったが、客の前に立っていざというときに壁になるように構えていた。テロ鎮圧完了である。
「お見事や!」
大尉が拍手を送る。それにつられる形で周りの客も拍手を始める。
「皆さん、今目の前にいる者たちこそがかの名古屋防衛にて活躍をした傭兵達です。今の見事な活躍と、そして名古屋防衛で貢献したその活躍に拍手を!」
気づけば、さっきまで捕まっていた主催側の人物が高らかに声を上げていた。
さきほどまで捕まっていたにしてはやけに落ち着いている。
「あ‥‥これは、つまり」
ふと朋宏が気づく。そう、これは‥。
「主催者側のイベント?」
美琴が先ほど殴りつけた人物を見る。
「げ。この人、軍の‥‥」
エンタが会場入りの時に見かけた顔を思い出す。
「いたた。いやぁ、さすがに利くなぁ」
テロに扮した軍人は笑いながら腹を押さえる様にして立ち上がる。
リズは銃を離して相手を解放する。してやられたのだ、彼らに。
「ほら、お前ら。パーチィの皆さんに挨拶しいや」
大尉がいつの間にかそばまで来ていた。その顔にはしてやったりとでている。
ここで文句のひとつも言いたいところだったが、緋霧は客の前故にそれを諦めた。
そして客達の方を向き。
「本日の警備を努めさせていただく、緋霧と申します。皆様におかれましては、安心してパーティをお楽しみください」
凛とした声が会場に響き渡り、客達は再び拍手を送る。
他の傭兵達が挨拶をするたびに拍手が会場に満ちていった。
外は夜の帳を下ろしてネオンの輝きが街を照らしていた。
そしてパーティも無事終わったホテルのロビーに傭兵達と大尉がいた。
少尉は後処理の方を行っていてここにはいない。
全員が揃ったことを確認して大尉が口を開く。
「今回のパーチィも無事終了や。おつかれさん」
そう言う大尉の顔には満足げな顔が浮かぶ。本人にとって何か収穫があったのだろう。
また傭兵達にもひとつ収穫があった。
それは軍や国に対して傭兵という存在をアピールできたのだ。これからの行動によっては今回の件が役に立つときも来るだろう。
「にしても、あんなイベントをいつの間に画策したんでしょう?」
美影がふと疑問を口にする。「あんなイベント」、傭兵アピールのために行われたアレ。
「そういえば、大尉が主催者側と打ち合わせとか何とかと仰ってたような気がしますわ」
百合子が大尉との会話を思い出す。確かにそんなことを言っていたのだ。
「まぁ、何事もなくて良かったよ」
エンタがそう言うと、周りの者も頷く。
「そういうわけや。パーチィも盛り上がったしでめでたしめでたしや」
仕掛けた張本人が言う台詞ではないが、それよりもツッコむべきところが傭兵達にはあった。
全員が口をそろえて言う。
『大尉‥‥パーティです!!』
「ぱーちぃ?」
『はぁ‥‥ダメダコリャ』
To be Continued‥‥?