タイトル:浪漫を追え!マスター:日乃ヒカリ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/13 23:41

●オープニング本文


「うーん‥‥」
 一人の開発者が頭を悩ませていた。
 この男、「バニシング・ナックル」を考案した人物の一人でもある。
「思い浮かばない‥‥あのシェイドを倒す兵器がどーしても。いや、広域兵器なんか使えばいけるだろうが‥‥。浪漫が! 浪漫がないんだ!!」
 頭を抱えて叫ぶ開発者。
「そう、心奮わせる熱いモノが‥‥魂が!」
 席から立ち上がり机の前をうろつく。
 そこで、ふとあることを思い出す。
「そういえば」
 机の上に乱雑に置かれた資料の中を漁りだす。
 最中、肘が机の上に置かれたコーヒーカップにぶつかり零れ落ちるが、それを気にも留めずに探し物を続ける。
 そして、目的のものを見つけ出す。
「あった。これだ、これ。えーっと、傭兵への依頼書。ふむふむ、なんか面倒くさそうだな? うーん。おお、そうだ。知り合いに頼むか。あいつに‥。確か、連絡先は、と」
 男は落ちたカップを蹴り飛ばし、電話の受話器を持ち上げる。
「ピ・ポ・パ。と」

「はぁ? なんでワイがそんなことやらなあかんねん」
『まぁ、そういうな。今度おごるからさ。それに、いつもこっちの情報くれてやってるだろ?』
「お前、情報はギブアンドテイクでちゃんとこっちからも出しとるやろが」
『はぁ、いいのか? 最近、お前の部屋に女連れ込んでるって噂、少尉にチクるぞ?』
「あれはあいつらが勝手に来とるだけや! 大体、少尉にチクるってなんや!」
『ははは。とりあえず、頼んだぞ!』
「あ、待て! ‥‥切りよった。はぁ、しゃーなぃ。依頼を出すか‥。まぁ、こっちとしても助かることやし。‥KV武装開発、ね。‥‥浪漫を重視、なんやねんこれ」

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
河崎・統治(ga0257
24歳・♂・FT
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
建宮 風音(ga4149
19歳・♀・ST
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
藤宮紅緒(ga5157
21歳・♀・EL

●リプレイ本文

●傭兵と開発者と
「諸君! 初めましてだ! 私はダニエル、ダニエル・ダーストンだ。ダンと呼んでくれ!」
 会議室に入ってきたその男は声高に告げると席にどんと座り込んだ。
 この男、ダニエル・ダーストンこそが今回の真の依頼主であり、開発者であるのだ。
 突然の出来事に唖然としていた傭兵が落ち着きを取り戻す間に彼の友人であり、依頼の手続きを請け負った田中大尉が口を開く。
「ほら、こいつが今回依頼してきた開発者や。変な奴やけど、よろしく頼むで」
 苦笑しながらダニエルの自己紹介を補足する。それに対してダニエルは自らが変人だという事を自覚しているためか特に反応を示さない。
 ようやく傭兵の一人エミール・ゲイジ(ga0181)が平常に戻り、ダニエルの前に進み出る。
「俺はエミール・ゲイジだ。ダニエ‥‥っと。ダン、あんたが考えたバニシング・ナックルには感心していたんだ。会えて光栄だよ」
「良い目をしているな、エミール。あれの良さが分かるとは実に良い!」
 エミールの言葉を受けてハイテンションに返す開発者。やはり自らが考えた作品を褒められるのは嬉しいのだ。
「とりあえず、軽く挨拶したら今回の本題の方に入ろうか」
 大尉がそう言い、傭兵達が開発者を前に自己紹介を済ませていく。
 その間に大尉はホワイトボードを運び込み準備を済ませる。
「紹介は済んだか? ほな、始めよか」

●開発者の怒り
 発表の順番をくじ引きにて決め、一番手に藤田あやこ(ga0204)が選ばれる。
 早速、皆の前に立った彼女から開発案が発表された。
「戦うオカンのシバキ倒しセットを激しく希望しますわ! どないでっかオクサン!」
 ばん、とホワイトボードを叩いて最後の締めを告げる。
 それを聞き終えた時、大尉の隣に座ったダニエルが肩を震わせていた。
「オクサンて、あんさんのことやん!」
 と大尉が最後の言葉にツッコミを入れる。
「ダンからは特に意見は無いか? ほな、次いこか」
 二番手は建宮 風音(ga4149)である。彼女が前に進み出る。
「‥‥コホン。えっと、はっきり言って、今のUPCのショップに置いてあるシールド系の品揃えに浪漫がないよね」
 そう切り出した彼女の言葉に大尉が身を乗り出す。
「と言うと?」
「つまり‥‥」
 彼女の説明が続く中、ダニエルの肩が再び震えだしていた。
「‥ってことで、ボクはこの二つの盾を提案します」
「攻撃ができるハイブリッドな盾っちゅうことか。なるほどなぁ。んじゃ、次の案いってみよか」
 大尉は建宮の案に頷きながら、次の緑川 安則(ga0157)を促す。
「今回、提示する武器の参考イラストをご覧いたします」
 緑川はそういってイラストをホワイトボードに描き始めた。
「スナイパーライフル、ガトリング、バルカンはあるのにショットガンはない! シェイドのような高機動型は一撃で無数の散弾をぶっ放し、弾幕を展開!! 私はそれが有効と判断する!」
「ホワイトボード壊さんとってなぁ‥‥」
 熱く語り始めた彼に対して心配そうに大尉が呟くも、彼の耳には届かず説明は続いた。
 そして最後に「ブースター機能の強化を」という希望案が出されて終わる。
「ふむ。ショットガンにブースターねぇ‥‥さて、ちょっとここいらで一旦休憩入れようか」
 大尉がそう言って立ち上がり、ダニエルもまた席を立つ。傭兵達も会議室の堅い空気をほぐす様に息をついて部屋を後にした。

「おい、ダン。どないしたんや。さっきから黙ってて。あんさんらしくもない」
 自動販売機の前でコインを投入しながら大尉がダニエルに尋ねる。
「ユウ。私は依頼内容に、『浪漫を』と言ったよな?」
「あぁ、そーいやそんなことも言っとったな」
 缶コーヒーを選んでボタンを押す。ガコンと熱い缶が出てくるのを取り出しながら大尉はダニエルを振り返る。
「じゃあ、あれはなんだ! 私の心を奮わせる熱いモノがないぞ!!」
「あのなぁ‥‥そうは言うけど、浪漫なんてもんは人によってちゃうやろ。あんさんの浪漫を押し付けるなや」
「だが、依頼は私がしたんだ! 私の浪漫を求めて何が悪い!」
「はいはい。まだ三人目や、残り七人もおるねんから怒るなや」
 流すように答えながらコーヒーを飲み干した大尉は缶をゴミ箱に投げ入れながら足を会議室へと向けた。
 缶と缶がぶつかる音を響かせて休憩室は静寂に包まれる。

●浪漫は傲慢か
 雪野 氷冥(ga0216)は「技術的には現存する武装のものばかりです」と述べてから説明を開始した。
 彼女は『ブリューナク』、『エネルギーバンカー』、『プラズマブレイカー』、『ショルダークレイモア』と四つの案を提出する。
 ここに来て、初めてダニエルが動く。
「ブリューナクねぇ‥‥。雪野っていったか、ブリューナクって言うのは神話に出てくる槍のことを指すのは知っているよな? では、もう一つ付け足すとこれは魔法の槍といわれていた、というのは知っているか? 神話などは基本的に現実的に起こったことをファンタジーに解釈したものがほとんどだ。ブリューナクの場合は槍などといわれているが、現代から解釈をし直すとそれは投石器などの遠距離兵器ではなかったのか、といわれている。‥‥残念だが、ブリューナクは頂けないな」
 開発者であるダニエルが神話を持ち出す事に、少なからず大尉が驚きを口にする。
「お前、歴史文学もいけるんか?」
「嘗めるなよ、ユウ。兵器と歴史は密接な関係があるんだよ。‥‥それと他の案も聞いた感じ、どこぞの古い鉄や幽霊が持ってそうだな。却下だ」
「古い鉄?」
「気にするな。知らなければそれで良い」
 口を開いたと思えば、少し不機嫌な様子でダニエルは説明を終える。
 次にプレゼンをするのは平坂 桃香(ga1831)である。彼女は前に出ると軽く浪漫について語りだした。
「強力な兵器って、それそのものが一種の浪漫ですよねぇ。敵を破壊するというただ一点のみに集約された完璧なシステムは、ただそれだけで素晴らしいと思うのですよ」
「ふーん、そうか」
 ダニエルがそれに軽く答える。
「ほな、案を提示してくれ」
 大尉が先を促す。平坂が提示したのは三つ。内二つはレーザー兵器である。
「レーザーねぇ」
「浪漫じゃないんか?」
 平坂が説明を終えて自分の席に戻るのを見ながら大尉が尋ねる。
「大出力で溜めに時間がかかって『対閃光・衝撃防御用意!』とか叫ぶんなら浪漫があるけどなぁ」
「なんか聞いたことある台詞やな。それは置いといて。じゃあ、なにか。大出力じゃないレーザー兵器には浪漫がないと?」
「いや、そう言うわけじゃない。ただ、提案があったのは他の会社で作られているものに似たり寄ったりだろ。今後も新型は出てくるだろうが、内容は大して変わりそうにない。時代は非実態系だ、とでも言わんばかりに作ってる。正直、そーいうノリの武装には浪漫を感じないな」
「‥‥お前は、わがままなやっちゃなぁ」
「うるさいな、ユウ。お前がきちんと説明してないのが悪いんじゃないのか?」
「それをお前が言うか。とりあえず、次! えーっと、エミールか。彼に期待しよう」
 エミールが名前を呼ばれて立ち上がる。
 大尉の言葉と同じく、ダニエルもどこか期待の視線を送っていた。
「あ〜。俺が提案するのは、レールガンだ」
 この言葉にダニエルがピクリと反応する。
「フレミングの左手の法則で弾丸を加速‥‥研究者に言うのもあれか。とにかく、対シェイド戦でアウトレンジから有効打を与えられる武器が欲しいってわけさ」
「いいねぇ。だが、この手の武器は出力系に問題が出る。まして、君が言うのは純粋なレールガンだろう? リニアでも帯電粒子でもないヤツだ」
「そうそれ! 最近並んでるリニアとかは浪漫が感じられないからな」
 エミールとダニエルのテンションが上がってくる。
「ブラボーだ、エミール! コングラッチェ! マイサ‥‥HAHAHAHAHA!」
 何か変な言葉を口走りながらダニエルが立ち上がり、エミールに近寄り始める。
 そして、射程圏内(?)にエミールを捉えると。
「うぉ!?」
 とてつもない力でエミールに抱きついたのだ。必死に逃れようとするが万力のように締め付けて動かなくなる。
「あ。言うの忘れとったけどな。そいつ、能力者やから力強いで」
 大尉が言うも、既に遅い。というより、大尉は寧ろ楽しんでいた。
 ダニエルの抱擁は止まらない。
「ハッハッハ。エミール君、レールガンにはいくつか問題があるんだよ。だがしかし、リニア砲と対抗する。そこに浪漫があると私は思う!」
「ちょ‥‥離し」
「浪漫だよ‥‥レールガンの弾丸はその性質上、液状化してしまうことになりSESの効果が望まれない為にリニア砲というのが先に開発されていたが‥‥その問題をどうにかしてみるのも私達開発者の務め。リニアレールガンなどというハイブリッドを提案しなかったのにも実に好感ができる! 採用だよ! AHAHAHAHAHAHA!」
「さて、エミールの意識が危うくなっとることやし、また休憩に入るか。十分後に集合や。一時解散」
 エミール・ゲイジ、失神。

●名は体を表す
「ふむ、なかなかの案が出てきたな。レールガンとか、レールガンとか‥‥あと、レールガンだな」
「全部レールガンやんけ!」
 先ほどと同じ休憩室で大尉とダニエルが傭兵達の案を話し合っていた。
 大尉は咥えていた煙草を燻らせながら先ほどの案に思いを馳せる。
「レールガン以外にもあるやろ。ほら、平坂が言っとったジェットランスとか。どうや?」
「ふむ。それはもうひと捻りほしい案だったな」
「やったら、雪野が出した『ブリューナク』の内容を組み合わせてみたらどないや?」
 大尉がそう提案をする。ダニエルが顎に手を当てて考え込む。
「あれか。火薬で高速射出させるやつか‥‥まぁ、槍なら耐久度の面もクリアできそうだな」
「やろ?」
「だが、名前がな。ブリューナクはやはり遠距離武器に付けたいところだ」
「やったら、レールガンにその名前をつければえぇんとちゃうか?」
 更に案を付け加える。
「それだとバロールの魔眼か?‥‥それはいいな」
「バロール?」
「知らなければ良い、キニスルナ」
 ダニエルは一人にやりと笑みを浮かべる。
 大尉は何のことか分からないものの、ダニエルがそういった場合は説明を放棄している印だと知っているのでそれ以上の追求はしなかった。その代わりに一つ尋ねる。
「ジェットランス、といっても内容が変わるけど。そっちの方の名前はどないするんや?」
「そうだな。やはり、武器の名前というのも浪漫に重要な要素だからな‥‥神話の流れで『ロンゴミニアト』にするか」
「ロンゴミニアト?」
「槍、打ち手を意味する武器の名前だ」
「まぁ、なんや知らんがえぇんとちゃうか?」
「うむ。さて、そろそろ時間か。ふっふっふ。彼らの案が楽しみだな」
 ダニエルの嬉々とした足取りに、「さっきと言っとることちゃうがな」と大尉が呟きながらその後を追う。
 残り四つのプレゼンが始まる。

●無理と道理
 休憩が終わり、河崎・統治(ga0257)が準備をして待っていた。
 早速、彼の案がお披露目される。
「エネルギーフィールド発生装置」
 それが彼の考えた兵器であった。これにダニエルは頭を悩ます。
「河崎、だったか。君はSESの可能性を引き出そうとしているのだろうが‥‥。そもそもSESは高出力のエネルギーを発生させる事のできる物ではあるが、それを短時間にせよKVの一部分覆うほどのエネルギーを放出させようとした場合。KVを動かす出力が落ちてしまいシステムが落ちてしまう」
「つまり?」
「無理」
 それを聞き、河崎が肩を落としながら質問を重ねる。
「純粋な盾と使用する事も?」
「無理だな。現存の技術力ではそこまで高度の指向性を持たせたエネルギーフィールドは作り出せないのも理由だ」
 それを聞き、大尉が苦笑しながら次を指示する。河崎に替わり鯨井昼寝(ga0488)が進み出た。
 彼女は顔を綻ばせながら話を切り出す。どうやら自信があるように見える。
「わたしが提案するのは、ずばりおっぱ‥‥」
「ストーーーップ!」
「え?」
 何か悪い予感をしていた大尉が鮫井の言葉を途中で遮る。当然、彼女は何故、と首を傾げる。
「それ以上言うな。えぇか。言いたい事はよく分かった。つまり‥」
「つまり、胸部ミサイルか」
 大尉が言い切るのをこれまたダニエルが遮った。大尉が台詞を取られたと喚くのを無視してダニエルが続ける。
「胸部ミサイル。王道であり、浪漫もある。しかし、KVに胸がないのが問題だ。遠距離攻撃である以上、戦闘機形体でそれを撃つときに胸からではないのに胸部ミサイルと言っては浪漫が消える」
「くっ‥‥それはつまり?」
「もう少し外見や実用性も考えた上で再考し直したらいい結果が出そうだが。まぁ、実用性など浪漫がそれを上回れば良いのだが。‥残念だが、今回は見送りだ」
「見送るんか? なんか勿体無い気もするけどなぁ」
「大尉、良いこというじゃない! もっと援護を!」
「作るだけ作ってみたらどうや?」
「むぅ‥‥時間が、あったらな」
 ダニエルのその言葉を聞き、喜びながら鮫井がプレゼンを終える。
 これで、プレゼンは残るとこ二名となった。
「次は‥‥」
「ボクですね!」
「あぁ、なんやお前か。なんか最近よく顔合わせるな‥ほな、前に出ぇや」
 大尉がそう言って、金城 エンタ(ga4154)が前に出る。
 エンタの出した内容はこうだった。
 大質量の巨大ハンマーでの超強力な一撃、である。実に単純な内容だが、そのシンプルさにダニエルが目を輝かせる。エミールの時と同じようにエンタに抱きつこうとするが、彼はそれを見事に回避していた。
「さすが、エンタ。いろんな意味で流石やったな。ほな、最後になるか。またも見知った顔やな」
 その言葉を聞き、最後の発表者である藤宮紅緒(ga5157)が立ち上がった。
 口下手な彼女はおどおどした様子で発表する。
 だが、その態度とは裏腹に発表された案は驚愕的な内容であった。
「ブラバー! 藤宮! 君はなんて素晴らしい案を持っていたのだ! 最後に君のような人物に会えて、私は!」
 ダニエルが立つ。
「ちょ、ちょっと‥ちか、近寄らないで‥くだ‥‥さい!」
「てんぷるっ!?」
 藤宮が怪しげなオーラを漂わせて近づくダニエルに拳を打ち込んだのだ。
 変な叫びを上げて崩れ落ちるダニエルを横目に大尉が立ち上がった。
 痙攣を起こしているダニエルをよそに大尉が締めの挨拶をする。
「ふぅ、長かったなぁ。さて、これで終了やな。正式採用は生産ラインが整ってからになるが、ダンのとこで採用した案の発案者には特別報酬を追って振り込むわ。ほな、今日はこれで解散! おつかれさん」

●今回の採用者
 エミール・ゲイジ
 金城 エンタ
 藤宮 紅緒
 雪野 氷冥
 平坂 桃香

●追記 失神(放置)
 エミール・ゲイジ
 ダニエル・ダーストン