●リプレイ本文
●いやよ、いやよも好きのうち?
「またなんでこんな依頼に‥‥わしはバニーなんぞそんな破廉恥な格好はせぬからな!」
カジノの従業員用更衣室の入り口に怒号が響きわたる。
声の主は綾嶺・桜(
ga3143)だ。
友人である響 愛華(
ga4681)に半ば強引に参加させられたのだが、改めてバニーの衣装を間近に見て、その破廉恥さに今更ながらこれを着ることを拒みたくなったようだ。
ちなみに誘った張本人である響は、
「わぅ〜♪ えへへ、楽しみだよね〜♪」
などと言いながら、バニーガールの衣装を見て子供のように無邪気な笑顔を見せている。
まぁ、ただ、どちらにしろこの二人は女性だから単純に着る分には問題はないだろう。
問題があるとすれば、
「うさぎさん‥‥? 僕、男の子ですよ?!」
悲痛な声を上げるのは、金城 エンタ(
ga4154)だ。
立派な男の子である。
だが、手に持つのはぴったりなサイズのバニーガールの衣装。
その可愛らしい外見から、てっきり店員さんに女性と間違えられ女性用の衣装をもらってしまったようだ。
ちなみに同じように神無月 紫翠(
ga0243)も女性に間違えられ、バニーガールの衣装を受け取っていたが、
「‥‥そんなにお客さん‥‥少ないですか‥‥でこれを着てと‥‥ふう今回だけですから‥‥」
諦めたように呟いて、先に男子更衣室に消えていた。
そんな諦めに満ちた神無月を見て、さぁ、自分はどうしようかと悩む金城にクラウディア・マリウス(
ga6559)が微笑みながら、
「大丈夫、大丈夫。エンタ君は可愛いから問題ないよ!」
と金城のやる気を一押しさせるように告げる。
どうせなら、みんな一緒にバニーガールになったほうが楽しいだろうとクラウディアはそう思っているようだ。二名ほどガールではないが。
まぁ、とはいえ金城君も、男の子だ。
こういう甘い言葉にはなびかずに男らしくきっぱりと断ってくれるだろ‥‥
「わ、分かりましたよぉ‥‥でも、仕上がりには自信ないですからね‥‥?」
‥‥着るんかい!?
男子更衣室に向かう金城の姿はどこか自らの運命に諦観しているように見えた。
●うさぎさんがいっぱい
着替え終わった傭兵達から、更衣室を出ていた。
「いざ、着てみるとすごいきわどいねー、やっぱり」
ガラじゃないなどと言いながらも、しっかりとバニーガールの衣装を着込んだ犬塚 綾音(
ga0176)が自らの姿を見て呟く。
渡されたバニーガールの衣装はやはり、女性の体つきを強調したものであった。胸部の谷間、脚部の露出にはどんな鈍感な男性も釘づけになってしまうだろう。
そしてさらに、
「どう、似合う?」
自らのお尻に取り付けられた、まぁるいうさぎの尻尾を見ようと後ろを振り向きながら的場・彩音(
ga1084)が、兎佐川・芽衣(
ga4640)に尋ねる。
「うん、似合う!! 似合う!!」
笑顔で首を縦に振り、うさぎの耳をぴくぴくと揺らしながら兎佐川は答えた。
ちなみに兎佐川の耳と尻尾は、ビーストマンならではの自前のものだったりする。
さて、女性陣が自らの姿を見ていろいろ確認しているところに男性更衣室から出てきた、金城と神無月が現れる。
「これで‥‥大丈夫ですか?」
自らの姿に不自然がないか女性陣に尋ねる神無月。
お化粧もしっかりして、ムダ毛の処理も行い、胸にはパッド、『アレ』もすっかりしまった男性陣はすっかり近くで見ても男性とは思えないレベルになっていた。完璧なバニーボ‥‥ガールである。
「じゃあ、あとは‥‥」
バニーの衣装に身を包んだクラウディアが背後を振り向くとそこには、
「お主の頼みでも着ぬ!!」
と、響の説得にも強情に着替えようとしない、綾嶺の姿があった。
気づけば、すでに着替えていないのは綾嶺だけとなってしまっていた。
いや、一人、まだうさぎさんになっていない人物がいた。
それは‥‥
「すみません‥‥遅れまし‥‥」
オペレーターの仕事の引継ぎで遅くなっていた『鉄壁』のジョルジャだ。
だが、聡明な彼女は到着したと同時に瞬時に現場を分析。
同じ仕事をするはずの傭兵達が一名を除いて、全員バニーさんの姿をしている。そして、その一名を皆が説得しようとしている。
そこから導き出される答えは一つだ。
『自分も同じ衣装を着るように説得される』
そう、高速で判断したジョルジャはUターン、来た道を帰ろうとするが、
逃さないようにその肩を犬塚が、がっしりつかむ。
そして、満面の笑顔で言う言葉は
「あたしが恥ずかしいの我慢して着るんだから、当然ジョルジャも着るだろ?」
疑問文の形をした脅迫だった。
その笑顔に軽く冷や汗を書きながらジョルジャは答える。
「え、えーと、私、風邪ひいていまして、そのような格好はちょっと‥‥」
しかし、追い討ちをかけるように的場が告げる。
「頼まれた仕事を断れずに、この仕事を引き受けたって聞いたけど‥‥だったら、手伝う気はあるのよね?」
「いえ、手伝うといっても‥‥ねぇ?」
助けを求めるように同じくまだバニーさんになっていない綾嶺に振る。
「そ、そうじゃ、ジョルジャも困っておるであろうに!! 大体、そんな破廉恥な衣装を誰が‥‥」
と、言いかけた綾嶺に詰め寄った響がウルウルと涙目で懇願する。
「‥‥一緒に着てくれないのかな?」
「‥‥って、泣くな!? わかった! わかったから泣くでない!?」
さすがに泣きつかれたのは効果があったのか綾嶺はとうとう折れた。
そして、続くようにジョルジャにも、
「ジョルジャさんが協力してくれればお客さんがいっぱい増えると思うんだけどなあ‥‥」
と、兎佐川が涙目でジョルジャの目を見つめる。
「一緒に着ませんか?」
金城も同じように涙目で問いかけてくる。
「‥‥わかりました‥‥わかりましたよ‥‥」
額を片手で頭痛がするように、抑えながら何かを吹っ切ったようにジョルジャは呟いた。
男性には無敵だった、『鉄壁』は意外にも同性である女性の涙の前には無力のようであった。
‥‥まぁ、片方は男性だったが。
●お仕事開始
結局、全員うさぎさんになって接客をすることになった。
バニーガールがここのカジノにおいて行う作業はほとんどレストランなどのウェイターに近い。
単純に言えば客の注文を聞いて、品物を運ぶだけなのだが、今回は傭兵が参加してくれるということでカジノ側が困ったお客さんのリストを渡してくれていた。
要するに、ついでにこのようなお客さんの対応も兼ねて欲しいという事らしい。
とはいえ、
「こ、この姿で接客って‥‥」
真っ赤な顔をして、ジョルジャが唸る。
対応どうのこうの以前に、まず接客がまともに出来なそうである。
自らの胸の谷間を隠すように腕で覆い隠し、体をかがめるようにして、少しでも露出する面を少なくしようとしているのだが、隠したい場所が多すぎてどうにもならない。
同じように綾嶺も恥ずかしがり、軽く体をかがめながら、接客を行っていた。
ちなみに、こういう露出が多い服、ビキニの水着なんかもそうだが、逆に隠そうとすれば隠そうとするほど、そのポーズが谷間とかを強調する事になってしまう。
なんだかんだで、二人は男性のお客さんを喜ばせていたりするわけだ。
そんな二人に、クラウディアが声をかける。
「駄目だよ、二人ともそんなんじゃ。男性チームに負けちゃうよ?」
彼女が指差した先を見れば、神無月と金城が、美しく姿勢を正し接客を行っている。彼らが笑顔で接客するその姿はまさしくバニーガールそのもの。
‥‥彼らは本当に男性なのだろうか?
誰もがそう疑問を言いたくなった時、それぞれの持つ無線に連絡が入る。
『酔っ払いのおじさんを見つけたんだけど、どうしよっか?』
声の主は響だった。
どうやら、店の入り口にて酔いつぶれているお客さんを見つけたらしい。
傭兵のうちの何人かが援護のために、響のもとに向かうことにした。
●正しいお客さんへの対処法
床に寝そべりながらおじさんは話す。
「だからな〜、大変なんだよ、おじさんも〜」
「わぅ〜おじさんも大変なんだね、それでそれで?」
傭兵達が到着するまで、響はおじさんに気持ちよく帰ってもらおうと根気よく話しを聞いてあげていた。会話が通じていたのかどうかは不明だが。
だが、これ以上、ここに居座られても他のお客さんに迷惑になるだろう。
「じゃあ、行きましょうか? おじさん」
的場が酔っ払いおじさんを引きずるようにして、事務所につれていこうとする。
「うぉ、何をする!! わしゃ、世界一の酔っ払いだぞ!!」
と、手を振り暴れようとする叔父さんに対して綾嶺が、
「あー、暴れるでないわ」
軽く注意すると急にシュンとなったように見えた。
さすがに11歳くらいの女の子にしかられるのは、こたえるのだろうか。
だが、数秒すると寝息が聞こえ始めた。
どうやらおじさん、酔っ払って寝始めてしまったらしい。
仕方ないのでとりあえず、的場は彼をそのまま事務所に連れて行くことにした。
さて、ちょうど同じ頃、クラウディアも一人の不審人物を発見していた。
スロットマシーンの前にて、ポケットに怪しい機械を忍ばせている男性を発見したのだ。
(‥‥あれって、おかしいよね?)
応援で呼んだ金城に、小声でクラウディアは確認を求める。
金城はその男にばれないくらいに離れた距離から目を凝らし観察する。
確かに、男はずっと左手をポケットの中に入れ、何かをいじくっていた。
(とりあえず、一度声をかけてみましょう)
クラウディアにそう告げると、金城は男に近づき話しかける。
「あの〜、すいません‥‥」
「あ?」
ガラ悪そうに睨みつける男に対しても、金城は低姿勢で話しかける。
「えーっと、ですね。左のポケットに入ってるものを確認させてもらいたいんですけ‥‥ど?」
言い終わろうとするや否や、男は突然立ち上がると、金城を振り切るように出口に向かって走り始めた。
それを見ていたクラウディアがすかさず他の傭兵に連絡をいれる。
『いま、走っている男を捕まえてください!! イカサマをやっていた可能性がありそうです!!』
『了解』
連絡に一番最初に反応したのは出口に一番近い、カードゲーム関係のところで監視をしていた犬塚だ。
こちらがわに走って向かってくる男を確認すると、その前に壁になるように立ちはだかる。
「どけー!!」
叫びながら、突進する男を前に犬塚は一歩も退かない。
男はそのまま犬塚を突き飛ばそうと走りこんでくる。
だが、ぶつかる瞬間、犬塚はその男の首根っこをつかみ、カウンターの容量で床に叩きつけた。衝撃音が響く。
見事に気絶した男を前に、
「ふぅ‥‥」
っと、犬塚は軽く息をつく。
すると、周囲からパチパチと軽い拍手が巻き起こる。
「よくやったうさぎの姉ちゃん!!」
一部始終を見ていた人間が賞賛の言葉を送る。
それに対して犬塚は軽くお辞儀をすると、その男を事務所に引きずるようにして連れて行った。
「‥‥どうやら‥‥つかまったみたいですね」
神無月の言葉にジョルジャが軽く頷く。
多少は慣れてきたのか、ジョルジャは自らの体をもう隠すような事はしていない。
「とはいえ、まだ油断はできません」
この衣装で依頼を引き受けた以上、この場所は終了時まで戦場だ。最後まで油断するわけにはいかない。
そういって、さらに気を張り詰める二人の背後から女性の短い悲鳴が聞こえた。
振り向き見れば、ルーレットコーナーの女性ディーラーの手をつかんで離そうとしない中年の男がいた。
「なぁ、いいだろう、姉ちゃん。終わったらさ、俺とどっか遊びに行こうぜ」
どうやらこのディーラーを口説こうとしているようだが、これではほとんどセクハラである。
見かねたジョルジャが男を注意しようと近づく。
「スミマセン、当店のディーラーにそういう行為はやめてもらいたいのですが」
「ん〜? じゃあ、姉ちゃんが相手になってくれんのか?」
と、今度は神無月の脚を触ろうと手を伸ばす。
だが、
「冗談がお好きですね?」
その言葉と共に神無月のハイヒールのかかとが男の足に突き刺さった。
「〜〜っつ?!」
声にならない悲鳴をあげ、男は足を抱え飛び上がる。
「何しやがる?! このやろう!!」
と、今度は神無月の胸を揉もうとしたのか、つかみかかった。
しかし、男は神無月の胸を触るやいなやその感触に疑問の表情を浮かべる。
分かりやすく擬音で表現するならば『もみゅ』っていうよりは、
「べこっ?」
当たり前だ、神無月の胸は自前ではなくパッドなのだから。
そして、そこまで極端なパッドを入れる必要性があるのは決して胸が小さいからとかではなく、
「お、お、お前もしや、男‥‥」
真っ青な顔になるセクハラ親父に対して、神無月は美しい営業スマイルで告げる。
「とりあえず‥‥事務所に行きましょうか?」
●うさぎさんは永遠に
問題があると指摘されていた三人のお客を事務所につれていった、傭兵達は、その後の作業は警備員さんと店員さんに任せ。本来の仕事である接客を続ける。
もちろん、カジノにバニーガールのお姉ちゃんたちがいると聞きつけた男達が、ラストホープのあちこちから集結したおかげで、本来の依頼の目的である客を増やすということも達成する事ができた。
さらには、兎佐川が広場にてバニーさん姿で宣伝していたのだ。
「みんなのアイドル芽衣ちゃんからのお知らせでーす! ラストホープにカジノがオープンしましたー! カッコイイ男性ディーラーさんや美人の女性ディーラーさんとブラックジャックをしてみませんかー? 豪華景品も盛り沢山! 是非一度来てみて下さい! 楽しいですよー!」
この宣伝で一部の層の人間が急にカジノに通うようになった。決して芽衣ちゃんに会いたいからカジノに通ってるわけではないとのことだが‥‥
まぁ、それはともかく、
「さすがに‥‥慣れない事をすると‥‥疲れました」
元の姿にもどった神無月がぼそりと呟く。
ハイヒールを履いて、歩き回ったわけだから疲労は意外とたまっているようだ。
「まったくやっかいな依頼じゃったの‥‥」
綾嶺は軽く汗をぬぐう。
それに対して、
「え〜、そうかな〜、面白かったよ♪」
本気でこのバイトを続けてこうか考えていた響が答える。
「まぁ、珍しい体験ができたことには変わりないですね」
さりげなく言ったジョルジャに対して皆が目を見張った。
最初はあんなに嫌がっていたのに‥‥
「‥‥私、何か、変な事をいいましたか?」
怪訝な目をするジョルジャに傭兵達はあのかたくなな心をも溶かしたをうさぎさんの力の偉大さを感じながらそれぞれの帰路についた。