タイトル:美術品を護送せよマスター:疾風

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/30 23:43

●オープニング本文


「依頼です」
 UPC本部、女性オペレーターは事務的にそう告げるとその詳しい依頼内容を手際よく液晶画面に表示する。
「依頼主はスペインの美術館館長からとなっています。この美術館はまだバグアなどによる襲撃はないそうですが、イベリア半島の戦況の悪化に伴い、美術品の中でも特に重要なもののいくつかを一時的にフランスに避難させたいそうです。しかし‥‥」
 一息。
「現状、スペインの競合地域以外もそこまで安全と言い切れるわけではありません。様々なところでキメラらしき存在も確認されています。そのため、今回の道中で特に危険とされる地域を通過するまでの間、約一日ほどULTの傭兵に護衛をしてもらいたいとのことです」
 オペレーターは滑らかにそこまで読み上げると、さらに続ける。
「護衛対象である美術品を載せた運搬用トラックは計五台となります」
 五台、決して多い台数ではない。だが‥‥
「今回護送していただく美術品は決して多くはありません。その分、一つ一つが本当に貴重なものとなっています。そのためキメラとの戦闘になった場合、戦闘の余波でトラック、および美術作品に傷がつかないように心がけてください」
 オペレーターは言い終えると、最後に少し補足を加えた。
「もちろん傷がついてもULT側では保証しませんのでご注意ください、それではお気をつけて」

●参加者一覧

シェリル・シンクレア(ga0749
12歳・♀・ST
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
沖 良秋(ga3423
20歳・♂・SN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
大上誠次(ga5181
24歳・♂・BM
烈飛龍(ga5901
38歳・♂・BM
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD

●リプレイ本文

●果たすべき仕事

 早朝、太陽が上り始めるとともに美術館の周辺が、あわただしい空気に包まれ始めた。美術館の職員が総出となり、美術品を一つ一つ丁寧に梱包し、それを慎重にトラックに運び入れる。
 ただでさえ、大型の美術品などもあり運ぶのが一苦労である上に、その美術品の重要性を知っていることによる緊張感が彼らに嫌な汗をかかせる。ある意味、彼らにとっての戦場はここなのかもしれない。
 そんな、緊張感が張り詰めた現場を小鳥遊神楽(ga3319)は練り歩いていた。美術品自体にはそこまで興味がないのだが、自分が守る美術品がどのようなものなのかは知る権利があると考えたのだ。そして、興味がない身でもここに並ぶ美術品がどれくらい重要なものなのかは肌に感じる事ができる。
「貴重な美術品か。失われたら取り返しがつかないわね。被害は絶対出しては駄目ね」
「そうですね、こんな綺麗な風景画とか壊されるわけにはいかないですね〜」
 呟いた小鳥遊に相槌を打ったのはシェリル・シンクレア(ga0749)だ。
 美術品がどれくらいの衝撃まで耐えられそうか確認しながら見ていた彼女は、自分の期待していた夕焼けの風景画に近いものを発見し、より今回の仕事にやる気が沸いてきていた。
「そういう物の良し悪しなんて俺にはあまり分からないが、先人達が作り上げた貴重な文化財である事には違いない。傷が付いてしまわないように丁寧に運ぶとするか」
 大上誠次(ga5181)は自らの仕事の重要性を再認識した。
「そうですね。美術は人々に、心の平和をもたらしてくれます‥‥。未来に残していくためにも頑張らないといけないですね」
 彫刻などを鑑賞していた沖 良秋(ga3423)は言う。ただ今回参加した理由の半分は自分が美術品が見たかったからなのだが。
「ええ、一緒に頑張りましょうね〜♪」
 可愛らしく言うシェリルを見て、いろいろ思うところもあり若干不思議な顔しながら沖は答える。
「そうですね、僕たちの果たすべき仕事をやり遂げましょう」



 リゼット・ランドルフ(ga5171)と、みづほ(ga6115)はトラックの運転手達と美術館の館長と打ち合わせを行っていた。
「バンではなくジープみたいなものは用意できないんでしょうか?」
 そう、館長に問いかけたのはみづほだ。それに対し館長はやや申し訳なさそうに答える。
「すいません、本当はジープや軍用車みたいなものが用意できればよかったのですが、イベリア半島の現状として、戦争の役に立ちそうなものは戦場に真っ先にもって行ってしまったんですよ‥‥」
 だが、用意されたバンには天窓がついておりそこから身を乗り出すことも可能だ。攻撃ができないわけではない。
「わかりました。次に、トラックの隊列は前方から2台、1台、2台でかまわないでしょうか?あと、休憩地点のようなものは考えていますか?」
「おう、かまわんぞ。多少細い道は通るがこのご時勢で、交通量もほとんどない。ある程度道を大きくとっても構わないだろう。あと休憩地点は道中三箇所ほど見晴らしのいい場所がある。そこなら、キメラにも対処できるし、休憩するにはもってこいだろうな」
 運転手達のリーダーと思われる初老の男は、そう告げた。。
「トラックにも無線機はありますか?」
 リゼットの問いに男は縦に首を振る。
「一応、全ての車同士が連絡取れるようにはしてある。全体停止の合図があれば、一斉に止まれるぞ。ただ、急ブレーキは美術品が危ないから無理だ。まぁ、そこらへんは俺達の腕の見せ所だがな。互いに仕事がんばろうや」
 初老の男は腕をまくり、笑いながらガッツポーズをとる。
 リゼットはその様子にクスッと微笑む。
「そうですね、無事に危険地帯を抜けられるよう、頑張りましょうか!」


 烈飛龍(ga5901)、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)は積み込みの立会いに付き合いながらも他の運転手達と親睦を兼ねて談笑をしていた。
「護衛頼むぜ。俺達もまだ死にたくはないからよ」
「ふっふっふっ、我に万事任せるがよい!」
 運転手の言葉に、ない胸をドンと叩いて答えるのは藍紗だ。
「正直こんなちっこい娘に護衛頼むのも気が引けるんだが‥‥」
 別の年配の運転手が不安げに告げると、その頭にスパコーン!!と藍紗の打撃が叩き込まれる。
「ちっこいと言うでない!」
 どうやら、運転手は藍紗の最も触れてもらって欲しくない部分に触れてしまったらしい。
「まぁ、落ち着け」
 と、烈が藍紗をなだめる。
 だが、その様子を見て運転手たちの間の緊張していた空気も多少は和んできたようだった。
「そんくらい元気なら安心だ、キメラもビビッて逃げちまうだろうな」
「ハハハ、違いねぇ!!」
 運転手達の笑い声が青空に響き渡った。


●キメラ迎撃・前半戦
 荷物が全て積み込み終わると、運転手達はそれぞれのトラックのエンジンをスタートさせる。傭兵達も二台のバンに乗り込み、発進する。
 護送の隊列は先ほど、みづほが告げたとおりのものだ。トラックを前から2台、1台、2台と置き、その前後をバンで挟む。前のバンを担当するのが、小鳥遊、沖、大上、烈。後方のバンがシェリル、リゼット、みづほ、藍紗。
 もちろん、狭い道などでは隊列は変更させなければならないが、運転手からの情報では今回キメラが特に目撃されているのは見晴らしのいい平地で道も広い。なので、そこでは出来る限り隊列を保つようにすると運転手は言った。
 

「青い空、白い雲‥‥平和だね。戦争がなけりゃもっと良いんだが」
 と言うのは、大上だ。バンの天窓から身を乗り出し、風をその身に感じながら思う。
 気づけば道中も二箇所目の休憩地点を過ぎ、道のりは半分を超えた。今のところはキメラの目撃もこれといったトラブルもない。
「油断するなよ、ここからがキメラの最も多く目撃された場所だ」
「むしろ、ここからが本番というところね」
 烈と小鳥遊は改めて気合を入れなおし、双眼鏡を片手に車の窓から監視を続ける。だが既に8時間以上監視を続けているため休憩を挟んだとはいえ多少の疲労は否めない。
「この先もキメラがでなければいいんですけどね‥‥」
 沖がそう呟くと同時に外に体を出していた大上が異変を感じ取った。
「臭うな‥‥子猫ちゃんのお出まし、かな?」
 ビーストマンである大上の持つ鋭い嗅覚が、キメラの臭いらしきものを察知したのだ。そしてその言葉がバンを緊張した空気で包み込む。
「前方にキメラらしき物体がおよそ三体、待ち構えています!!」
 運転手の悲鳴に近い声がバンの中に響き渡った。沖はすかさず備え付けられた無線で他の車両に連絡を取る。
「前方に三体のキメラを見つけました。全車両停止してください」
 トラックの運転手達はその連絡を聞くと美術品に傷がつかないように巧みにブレーキをかける。スピーディに、しかしそれでありながら緩やかに。
 そして同じように傭兵達の乗るバンも停止する。キメラとの距離およそ50mで止まる。現れたキメラは目撃情報どおりの50cmから1mほどの虎型キメラだ。
 まず、一番最初に動き出したのは小鳥遊だ。バンの窓から身を乗り出すようにして、スナイパーライフルを構え、覚醒する。本来は相手に気づかれる前にこちらから先に攻撃を行いたかったが、今は既に相手もこちらに気づいてしまっている。だからこそ、
「如何に早くダメージを与えられるか、この依頼達成の成功はそれに掛かっているんじゃないのかしら?」
 スナイパーライフルから放たれるのは貫通弾、さらに強弾撃によって威力が上がった一撃だ。フォースフィールドを貫き、一体のキメラに直撃する。
 そしてそれに追い討ちをかけるように、沖が天窓から身を乗り出し弾頭矢を放ち相手のキメラを穿つ。
「フォローは任せてください」
 放たれる言葉と同時に矢は爆破を起こし、相手のキメラに更なるダメージを与え、息の根を止める。
 二人の攻撃で瞬間的に葬り去られた仲間のキメラを見て、接近してきた他の二体のキメラの動きが鈍った。
 そこをすかさず、瞬速縮地で間合いを縮めた烈が接近する。ゼロによる爪撃を仕掛ける。そして、それに続くように大上の爪撃がもう一体のキメラを切り裂いた。
 さらに、小鳥遊と、沖の援護射撃が加わるが、しかし今度はキメラに避けられる。
「俺の役目は最後の壁だと云うことは分かっているぜ。だから、撃ち洩らしても気にせず、攻撃を続けてくれればいい。信頼は裏切らないつもりだからな」
 烈は後方にそう激を飛ばし、相手の始末にかかる。大上の爪が相手の顔面、目を貫く。
「――――!!」
 言葉に出来ないキメラの甲高い断末魔が周囲に響き渡る。
「素晴らしく邪魔ですよ」
 その叫び声に対して言ったのか、存在そのものに対して言ったのかはわからないが、それでも沖の矢は最後の一体の頭を貫いた。



●キメラ迎撃・後半戦
「思ったよりあっさり終わったな。とりあえず、早く出発しないと」
 大上の言葉に他の三人が、頷く。
 道路に横たわるキメラの死体をどけ、障害がなくなったためいつでも出発できる準備は整った。
そこに後方のバンから無線から声が流れる。リゼットの声だ。
『後方からキメラが多数近づいています!! 前方のバンとトラックは先に出発してください!! ここは私達が食い止めますから』



『すまない、先に行かせてもらう。次の休憩地点で待っているぞ』
 大上の声が無線を通じて後方のバンに響き渡る。
 そして、その声が放たれると同時にバンの前にあるトラックが、スタートする。
「来ました、キメラは全部で5体です!! おそらく先ほどの仲間だと思います」
 車の上に乗り、双眼鏡で後方を確認していたみづほが声を上げる。
「さっきより、多いのう。倒しきれるか?」
 藍紗がやや不安な顔をして、他のメンバーにたずねた。
「とりあえず、ある程度蹴散らしたらすぐにトラックを追いかけましょう」
 答えたのはシェリルだ。
 トラックがない今、守るべき対象がないということで、こちらはバンの性能が許す限りいくらでもスピードを出す事が出来る。自分達のバンの前に回られなければ逃げ切れる。
 今回の任務は倒す事ではなく、守りきること。全員がそれを再確認し互いに頷きあう。
 まず、藍紗が車上で弓を構え覚醒した。蒼い瞳が紅色に変化する。さらに強弾撃を発動させ、キメラに矢を放つ。
 先頭を走る一体が、その矢を顔面に喰らい、「ギャン!!」という悲鳴とともに転げた。そこをリゼットがハンドガンで追い討ちをかける。
 キメラはまだ、死んでいないながらも、さすがに傷で動きが鈍る。
 だが、またすぐに次のキメラがバンに走りよってくる。
 そのキメラに対し弓矢を構え、矢を放とうとするみづほにシェリルが、練成強化をかけた。さらに自らのレイ・バックルで一撃の威力を上げる。
「止まれぇ!!」
 キメラがバンに飛びかかろうとすると同時に、放たれた矢がキメラの額を貫く。転がり込むように倒れこむキメラ。
 仲間のキメラが飛び道具でやられていく姿に他のキメラたちが攻撃を躊躇する。
 その一瞬をリゼットは見逃さなかった。
「運転手さん!! 今です、発進してください!!」
 合点承知とばかりにバンの運転手が車を急発進させる。残りのキメラが追いすがるが、どんどん引き離されていく。そして、ある程度の距離が離れると、これ以上は追いかけても無理だと悟ったのかキメラたちはその場に立ち尽くした。獲物を逃がした獅子のように。



●合流・そして終点へ
 三ヶ所目の休憩地点で、後方のバンはようやくトラックと合流することが出来た。あのあと、前方のバンとトラックは特に障害もなくここまで来れたらしい。運転手達は後方のバンが無事にたどり着いたところを見て、ようやく一息つくことができたらしい。
「さぁて、あとはたいした距離じゃない。キメラの目撃情報も少ない。休憩したら早々と出発と行きますか」
 という運転手の声に、みなが頷いた。
 

 終点にたどり着いたのは日も既にくれ夜の8時。出発が早朝だったのでちょうど半日ほどトラックに揺られていたことになる。
 終点はフランスにある小さな街だった。そこから先の道中は、キメラの目撃情報もほとんどないため傭兵の護衛は必要ないということだった。
 最後に、美術品が本当に無事だったかどうかをチェックし終われば、今回の依頼は終了となる。トラックは全部で五台。一つずつ内部の美術品に傷が出来たり、壊れたりしていないかを現地のスタッフが調べあげる。

 そしてチェックシートに全て記入を終えたスタッフが結果を報告する。
「大丈夫ですね、特に問題はありません。本当にお疲れ様でした」
 笑顔で告げられた内容は、依頼が成功した証だった。