タイトル:【Pr】Azuriteマスター:葉月十一

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/27 21:39

●オープニング本文


●いまだ晴れぬ悪夢
「――――ぁッ!?」
 自らの叫び声に、一瞬で眠りから飛び起きる。伝う汗を拭うこともせず、少年はただ腕を掻き抱くように蹲った。
 夢見たのは、過去とするにはあまりにも短い――ほんの二週間ほど前の出来事。 その記憶は、いまだ生々しさをもって少年を苛んでいる。
 真っ赤に燃える空。死者が埋め尽くす大地。
 スパイによる裏切りが、全ての勝負を決定付けた。
 そして。
「‥‥くそぉっ!」
 自らを庇った友の顔と、最期の言葉。
 忘れる事は、二度と出来ない。もう一度拳をベッドの上に叩きつける。
 出口のない感情を堪えることも限界に近い。まるでその機微を察したかのように、少年の耳に鳴り響くアラーム音が届いた。

●UPC東アジア軍九州拠点・新田原基地
 UPC本部からの召集を受け、ここ新田原基地の一室に集められた能力者達。その中には、先の戦闘で辛うじて保護された速水遼平の姿もあった。
 彼らの前には、冴木 玲(gz0010)が何時になく厳しい表情で立つ。
「――緊急の呼び出しに応じてくれて、ひとまず礼を言うわ」
 声もまた硬く、どこか張り詰めた印象を拭えない。
 その理由をこの場にいる者達は、全員理解していた。
「あなたたちも既に聞いてると思うけど、UPC本部よりの通達で極東のバグア達がいよいよ動き出したわ。連中の狙いは、アジア本部がある名古屋みたいね」
 語る彼女の言葉に、その部屋の緊張が次第に高まるのを感じる。
 遼平もまた、強く拳を握り締めて気持ちをやり過ごそうとした。
「勿論、好き勝手やられるわけにはいかない。こちらも迎え撃つ準備は着々と進めてるわ。けれど、情報では各地から集められるバグアの戦力は、私たちの比ではないの。無論、最善は尽くすつもり。けれど、どう計算したところでこちらの不利は否めないわ」
 ざわっと動揺が走る。
 能力者達の口から溜息とも嘆息ともつかぬざわめきが零れる。その中にあって遼平は平然としていた。復讐の二文字を心に刻んだ彼にとって、例えどれほど不利だろうと前に進むしか道はない。
 そんな彼の様子を、玲はちらりと横目で見つつ、再び言葉を続けた。
「だからこそ、少しでも敵の戦力を削ぐためにあなたたちに集まってもらったの」
 そうして彼女が取り出したのは、日本近海の地図。
「情報では、ウランバートルから真っ直ぐ名古屋へ向かう応援部隊があるようね。バグア達はその進行の邪魔を取り除くため、まず進行上にある町の一掃を行っていたの」
 彼女の言葉に、遼平がギリッと唇を噛む。
 ただそれだけの為に滅ぼされた、自分が駐屯していた町。一瞬で灰と化した理由は、ただそれだけ。
「その進行上でも、勿論幾つか徹底抗戦している都市もある。北京もその一つよ。特にこの都市は、連中の支配下にある中国北部でも、唯一抗戦しているの。そこであなたたちには――」
 ぐるっと北京より僅か北の位置を彼女が円で囲む。
「この辺りで進行してくるワーム達を少しでも迎撃して欲しいの」
 全てとは言わない、それでも一体でも多く迎撃し、または進行を妨げて欲しい。
 そう言って、玲は言葉を締め括った。
 じっと能力者達を見つめる彼女の目に、ふと遼平の双眸が酷く暗い光を宿らせていることがやけに気になった。

『現状のKV搭載可能兵器』
下記の兵器からKVに積み込むものを選択してください。
武装が多くなればその分機体重量が増えます。

・20mmバルカン(装備可能数2)
コクピット傍から撃ちだされる機銃。攻撃力は高くないが、命中率は高い。変形後も使用可。

・ガトリング砲(装備可能数1)
近距離戦用の銃。高速で弾丸を撃ち出す事により、敵に反撃の隙を与えないが、変形後は使用不可。

・収束レーザー砲(装備可能数1)
ナイトフォーゲルR-01のメイン武装。強力な攻撃力に、そこそこ長い射程を誇るが、チャージに時間がかかる。

・ディフェンダー(装備可能数1)
実体剣。至近距離での格闘の他、中距離戦での防御にも効果有だが、変形後にのみ使用可。

・ホーミングミサイル(装備可能数4)
中距離でも有効な誘導式のミサイル。非常に高い命中率を誇るが、装弾数は少ない。変形後使用不可。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
ブランドン・ホースト(ga0465
25歳・♂・SN
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
角田 彩弥子(ga1774
27歳・♀・FT
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

 今回のミッション参加者から申請された岩龍に搭乗するのはBasket4『Soir』アグレアーブル(ga0095)。
 アグレアーブルが索敵し、吸い上げた情報を今ミッションのリーダーであるBasket1『銀月』終夜・無月(ga3084)が解析して各機に指示を出す。
 現在の所、Basket3速水遼平はバディを組んでいるBasket2『ランブルホース』ブランドン・ホースト(ga0465)というお目付役が着いた事もあり、現在の所大人しく無月の指示に従っていた。
「速水、分っていると思うが‥‥くだらんことを考えるなよ? 余計な行動一つで、お前だけではなく私達で窮地に陥るのだからな」
 不破 梓(ga3236)が回線を開き、遼平に釘を刺す。

 ***

 ミーティングの状況は最悪だった。
 メンバーが速水遼平がいた部隊がどのような状況下で壊滅を知っていた為に起こった最悪な事態とも言える。遼平の単独行動を危惧し発した言葉が、遼平の神経を逆なでし、一発触発のムードが漂う。
「ミッション前に仲間割れをしてどうする‥‥それこそがバグアの思うつぼだぞ‥‥」
 割って入ったのは、遼平と面識がある無月であった。
「前回はろくに自己紹介もできなかったな‥終夜・無月‥今作戦で‥全体の状況把握と撤退の判断を任せてもらう事になった‥‥」
「あんたがリーダーか」
「そうだ。円滑な作戦進行の為‥‥戦闘時は戦況報告と例えまだ戦える状態でも撤退の指示には従う事を‥忘れないでくれ‥‥」
「作戦には従う。貴重な岩龍を失う訳にはいかないしな。それに単独でヘルメットワームを倒せると思う程俺はマヌケじゃない。だが必要と感じたら単独行動を取らせてもらう」
 お前らと一緒に犬死にする気は無いからな。そう言うと、遼平はミッションチャートを受け取るとさっさと格納庫に行ってしまった。
 遼平と傭兵達のやり取りをジッと見ていた冴木 玲(gz0010)が、溜息を吐く。
「皆の気持ちも判らなく無いけど、皆のやり方だと速水を追い詰めるだけよ?」
「ならどうしろと?」
「それは自分達で考える事ね。だけど、一つアドバイス出来るとしたらどんな即席チームでもチームメンバー同士の信頼関係は大切という事よ」
 少なくとも玲はそうしてきた。

「しかし戦況は予想以上に最悪だな。速水が突っ走らないといいが‥‥」
「だが速水ばかりに構っていられない。俺達は今俺達のできる事を精一杯やればいい」
「そうですねぇ。バグアとの戦闘も聞こえて来る戦況は悪いものばかり‥‥思ってた以上に戦況は悪いみたいですねぇ」
 かなーりキツイですけど、なんとかがんばってきますかぁ。と平坂 桃香(ga1831)が少しでも明るい気持ちで戦いたいと明るく言った。
「そんな事は言わずに『目標はもちろん全滅! デストロイ!!』‥‥って言いたいトコだが欲張って死んでも間抜けすぎるから『適当』に頑張って時間内に一機でも多く潰させてもらうよ」
 バディを組む角田 彩弥子(ga1774)が苦笑する。
「梓姉ちゃん、よろしく。一緒に頑張ろうよ」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
 リチャード・ガーランド(ga1631)と梓が握手をする。

「さあ、お喋りはこれでお終い。敵は待ってはくれないわ。Basket1から10、出撃を命じます」
 ──Good Luck!
 そう言って玲が傭兵達を送り出した。

 ***

 Basket4『Soir』が隊の右舷上方1時の方向に敵機4機を発見する。
 レーダーのレンジ設定を変え、敵の規模を確定する。
 敵中型ヘルメットワーム1、小型ヘルメットワーム3という返答にBasket1『銀月』の無月は少々考えた後、メンバー達に通達する。
「Basket1『銀月』よりBasket全機へ。アタック制限時間はこれより1時間半とし、攻撃力と防御力に優る中型ヘルメットワームの撃墜を優先事項とする。次に小型ヘルメットワームを分断し、各個撃破へ移行する。ヘルメットワームのフォースフィールドは厚い。俺がレーザー砲を最大出力で撃ち込み、流れを一気にこっちに持ち込むぞ!」
「試してみたいこともあったが‥‥状況が状況だ、遊びは抜きでいくとしよう」
「OK、先手必勝」

 ──下方にバグアによって壊滅した村が見える。
 Basket3、遼平の乗るKVの翼が揺れたような気がして梓が回線を開く。
「速水、分っていると思うが‥‥くだらんことを考えるなよ? 余計な行動一つで、お前だけでなく私達まで窮地に陥るのだからな」
「下らん事? お前らこそ下らない事で俺を何時迄苛つかせんだよ。これ以上、下らない事を俺に聞かす気なら無線を切って単独行動に移る。そっちの方が奴らを攻撃するのに効率がいいからな。大体、俺はお前らを信用していない」
 お前らが俺に信用されたければ、態度で示せよ。
 そう言うと遼平は通信を切ってしまった。
「レーザー射程迄敵、あと10秒、9、8、7‥4‥ジャミング開始」
「発射!」
 レーザーが中型ヘルメットワームのフォースフィールドに当り、火花が散る。
「ご武運を‥‥」
 アグレアーブルが小さく呟き、岩龍を含むBasket1から4までが隊列から離脱する。

 Basket7の彩弥子・8『ゴースト』桃香がホーミングを放つ間にBasket5『プロフェッサー』リチャードと6『オーガ』梓が突撃仕様ガトリングで突っ込み乍ら中型ヘルメットワームを攻撃する。
「敵のプロンプト砲に気をつけろ!」
「要は当たらなければいいってことだろう‥‥使い方は乗り手次第ということさ‥‥」
 オーガのガトリングが火を吹く。
 2チームが波状攻撃、ホーミングとガドリングを交互に叩き込む。
「まったく! ヘルメットワームっていうのは頑丈だ! ミサイル叩き込んでもダメージあるか分からねえ!」
 リチャードが忌々しそうに吐き捨てる。
「レーザーを撃つ。『プロフェッサー』フォロー宜しく!」
 梓がすれ違い様にレーザーを撃つが中型ヘルメットワームのフィールドは揺るぎない。
「さあて、ザルの網目に引っ掛かるバカはどんだけかな?」
 中型ヘルメットワームを攻撃する4機を守る為、Basket9『Skull』のツィレル・トネリカリフ(ga0217)と10『Narr』クレイフェル(ga0435)がガトリングとホーミングで間に割り込み、牽制小型ワームを牽制する。
 ちらりとBasket5から8迄の動きを横目で見る。
 フェザー砲を被弾し乍らも彩弥子がバルカンとガトリングを使い分け、遼機への攻撃を牽制すれば、桃香も次のチャージ迄の時間を無駄にせんとガトリングを叩き込む。
「くそ! 装甲は硬いわ、数は多いわ、機動性はダンチだわ、ヘルメットワームなんか嫌いだぁ!」
 当初予定では、中型ヘルメットワームが2機や小型機が4機以上同時に接触した場合のみ、Basket9・10は攻撃に参加する予定であったが、Basket5から8までが予想以上に中型ヘルメットワームに苦戦していた。
「落ち着け‥Basket1『銀月』だ。『ゴースト』『オーガ』‥‥レーザーの発射タイミングを併せて‥‥相乗効果を利用しろ」
「Basket9『Skull』からBasket1『銀月』およびBasket10『Narr』。予定を変更してNarrと共に攻撃隊のバックアップからアタックに変更したい、許可を願う」
「Basket1『銀月』より『Skull』および『Narr』‥‥アタックを許可する。小型ワームはこちらに任せろ‥‥」
「了解。Basket10、行きます」
「逃がしはしねぇぜ、この蟲野郎!」

 足の遅い岩龍に襲い掛かる小型ヘルメットワームを撹乱し攻撃するブライドンと遼平。
 攻撃は一撃一離脱、俗に言うHIT&AWAYを繰り返す。
 無月もまた指揮をし乍ら追撃に参加する。
 軽量を目的としている岩龍には、基本装備である20mmバルカンしか無い為にアグレアーブルは回避行動に専念していた。
 中型ヘルメットワームの援護を受けられない小型ヘルメットワームを丁寧に1機ずつ撃墜して行くBasket1から3。
「Basket2『ランブルホース』よりBasket3。いい調子だが、まだまだ復讐劇は始まったばかりじゃないのか? このまま気を緩めずに行くぞ」とブライドンが遼平に声をかける。
 聞こえているのか聞こえていないのか、遼平からの返答は無い。

 一方、Basket9・10の応援を受け、中型ヘルメットワーム攻撃の形勢は一気に変わる。
 ビームの一斉射撃がフォースフィールドに穴を開ける。
「フィールドが直る前に落とすぞ!」
 嵐のようなガドリングに続いてホーミングの束が叩き込まれ、ついに中型ヘルメットワームが爆発する。

 中型1機小型3機を撃墜したところでBasket4『Soir』アグレアーブルから新たな敵の報告が入る。
「北京方面から敵、キメラおよび小型ヘルメットワーム15機‥‥右方ウランバートル方面より‥‥敵の数‥‥多すぎて確認出来ません」
「被害状況を報告しろ‥‥」
 各機から損害状況が無月に上がって来る。
 損失40%、弾の残平均20%、燃料の残量平均は30%を割っていた。
「これ以上は無理だな‥‥Basket1より全機、新日原への帰投」
「了解、もともと撤退のタイミングは任せているからな」
「そーれ、とっとと逃げ出す! 今度はもっと強い武装準備しておくぞ!」
「北京の人達には悪いが、無理なもんは無理だな」
 だが、次はもっと強くなって戻って来てやる。
 そう言うとBasket5・6・9らが反転し、空域を後にする。

 ──だが、Basket3が空域に留まる。
「もう復讐に飽きたのなら構わないが、まだ終わりでなければこれからもバクアを多く倒すためにここは撤退するぞ」
 ブランドンが言う。
「戻れ、遼平‥‥ここでみんなを裏切るなら奴と同じになってしまうぞ‥‥」
「裏切る? 違うな、無月。俺はお前らを信用していない。なのにどう裏切るっていうんだ?」
 無線を通し、遼平の暗い笑い声が聞こえる。
「噂に高いG4弾頭の2つや3つ抱えているなら突っ込んでやっても良いさ。それ位あれば、かなりの数のバグアを倒せるからな‥‥だが俺は命を安売りするつもりも無いね。俺の命を‥‥俺の代りに死んだ友の為にも‥‥バグアとバグアに組みする者を皆殺しにする迄は死ぬつもりは無い‥‥‥ただもう少し見ていたいだけさ‥‥」
 この思いが揺るがないように──。
「Basket3、新日原に帰投する」

 帰投したKVが修理の為にハンガーへと牽引されて行く。
 滑走路の端を歩く遼平に声をかける無月。
「君は一人じゃない‥‥俺達がいる‥‥」
「誤魔化すなよ、無月。お前らも俺を全く信用していないじゃないか」
 信用しているならお前を含めて、作戦の邪魔をするなとか突っ込むなとか、そういう言葉は出ないだろう?
「口先だけの綺麗事なら間に合ってんだよ」
 報告書を出してくる。
 そう言うと無月に背を向けて歩き出す遼平。
 無月は渡す事が出来なかったお守りを強く握りしめた──。

<代筆 : 有天>