●リプレイ本文
「さぁ〜いよいよ開始の時刻が迫ってまいりました、能力者によるこのサバイバルゲーム。実況は私、レドモンド、解説は能力者のマッスールさんがお送り致します」
舞台は目の前に空と海を臨む砂浜、そしてそこに集った10人の能力者達。今回、能力者の普及委員会から提案されたこの企画は、欧米のローカルネットワークをバックに、現在に至るまでの運びとなっていた。能力者達が様々なゲームを2人1組で競い、その様子を欧米にネット放映する。一見すると、このご時世に貴重な能力者をまるで見世物にしているかのようではあるが、能力者の供給不足を少しでも改善できるよう発案された、苦肉の策でもあったのだ。企画の名は『2人1組、サバイバル』。そう、この試みが成功となるかどうかは、全てこの初回に懸かっていると言っても過言ではない‥‥
「それでは、時間となりましたので、開始するとしましょー!」
やたらと元気なナレーションが大袈裟に叫ぶと、砂浜に集まった見物客がドッと盛り上がる。輝く太陽を背に受けて、最初のゲームが幕を開けた――
●初戦
「選手の入場です」
砂浜に簡易的に設けられた一面のバレーコート。そこに、ナレーションの紹介で、4人の能力者が入って来る。
「アハハハッ♪ 冬無と愉快な仲間のご入場ですよ〜♪」
「ちょっと!? チーム名が違いますわ! わたくし達は奇創蓮華ですわよ!」
「アハハハッ♪」
笑い声とともに姿を見せる、黒フリル付の紐水着に身を包んだ伊万里 冬無(
ga8209)の後ろから、こちらは派手なドレス姿の大鳥居・麗華(
gb0839)が入場してくる。
今回、伊万里に無理やり連れてこられた麗華であったが、案外ノリノリの様子でもある彼女。そんな2人が、なんだかんだで楽しそうに会話をしているその横では‥‥
「お、おい。見てみろよ、あの2人」
「ああ。なんかすげーな」
ザワザワと妙な雰囲気の観客席。よく見ると、男性客が釘つけの眼差しで2人を見つめているではないか。
「今回参加してくれたチーム、奇創蓮華の2人が入場だぁ〜! いやぁ、それにしてもこの2人、マッスールさんはどう思いますか?」
「あの2人がいるだけで、軽く16禁はいきますね」
「以上、解説のマッスールさんでした!」
怪しいオーラに包まれた空間。そして、次に反対側から入場してくるのは
「やれやれ。よもやあんな可愛げなお2人が相手とは、困ったもんだ」
「ダメだよ、木場さん。これも勝負、見た目に騙されちゃ負けなんだから」
「ああ、勿論分かっているよ。今日はクールに行こうじゃないか」
「よーし、それじゃ、張り切っていってみよー!」
あちらはドレスという格好ではあったが、こちらもビーチバレーを微塵も感じさせないスーツでやってきた木場・純平(
ga3277)と、スクール水着の群咲(
ga9968)ペア。
普段兵舎でも顔なじみの彼らは、チーム『ザ・SP』という名前で登録をし、その名の通り、木場は自らのポリシーを捻じ曲げることなく、スーツ姿で参戦していた。ちなみに今度は、木場のダンディさに女性客の目が輝いた上に、群咲のスク水という一部にとってはどツボな姿で更に男性客が沸いたとか。
「それでは、第一試合を開始します」
「さぁ、行きますわよ!」
試合開始のホイッスルと同時に、自らのドレスを豪快に脱ぎ捨てる麗華。すると、その下から前もって着用していた真っ赤なビキニとパレオが顔を覗かせる。一瞬で自らを彩った彼女であったが、その光景は、横の男性陣の顔も赤く彩っていた。どうやらこの会場の観客には、紳士さんが多いようだ。
「アハハハハっ♪ それじゃ行きますですよ!」
えいっと黒フリルをはためかせながら、伊万里がサーブでまず敵コートへボールを打ち込む。
「スパイクは木場さん、お願い!」
「任せたまえ」
ふわっとやって来るボールを木場がレシーブすると、続いて群咲がトスを上げ――
――ボス
砂にボールの半身を一瞬食い込ませ、砂飛沫をあげるほどのスパイクを放つ木場。
「やりますですね。麗華さん、私達も負けてられませんですよ」
「勿論ですわ!」
強烈なスパイクを目の前にしても、尚も闘志を燃やす麗華‥‥と伊万里のはずであったのだが
「さぁ、麗華さん今です!」
「チャンスですわ。アターック!」
伊万里の絶妙なトスでバッと一蹴し敵陣を見据え、麗華がスパイク!――
――ポロリ
「ふぇ?」
「クスクス」
目の前で唖然としている木場と群咲。スパイクを決めたのに会場が急に静まり返っている。これは一体‥‥振り向いて伊万里の方を見つめた麗華が、ふと異変に気づく。
「ナイスショットですっ♪」
目の前では伊万里がいつものように笑っているが‥‥あれ? 地面に落ちいてるこの水着は‥‥
「‥‥って、きゃー!? な、見るんじゃないですわー!」
あたふたとしゃがみ込み胸に手を当てる麗華の横で、ニコニコ顔の伊万里。
「おおっとぉ、ここでハプニングー! しかし、安心を。放送の際には直前で編集(カット)されます」
ぶわっと静寂を突き破り興奮し出す観客。第一試合、木馬・群咲ペア、相手試合続行不可能により勝利――
結果 1位:木場・群咲 2位:ジェイ・アリカ 3位:神無月・フッツー
●2回戦
「続きまして2回戦は障害物リレーとなります」
第一試合の余韻が冷めぬまま、続いて行われる障害物競争では
「‥‥ジェイさん、怪我は大丈夫?」
「ああ、心配はいらないよ。先のバレーでは何とか体格でごまかせたけど、ここは‥‥ある意味、次に控えるキメラ討伐勝負のためにも勝負所かな」
先日、KVにおける戦闘で予期せぬ負傷を負ってしまったジェイ・ガーランド(
ga9899)の横で、恋人の紅 アリカ(
ga8708)が心配そうに声をかける。
普段は丁寧な言葉遣いのジェイだが、恋人の前では心許せるのか、特に敬語を用いる様子もなく、慣れ親しんだ様子が見て取れる。
「‥‥まずは、私が最初に走るわ。でも、決して無理はしないでね?」
「了解」
不安げな表情のアリカに、ニコッと笑顔でジェイが告げる。一方、こちらでは、
「障害物ですか、何となく期待される事や予想されるアクシデントは読めますけど‥‥どうなることやら」
「更紗ちゃんなら大丈夫だよっ。だから頑張ろう♪」
チーム名『チーム無乳』という、何とも2人の馳せる思いが伝わってきそうな名前を掲げた、二条 更紗(
gb1862)、ローリタペアはコースを見据えて、おしゃべり中のご様子。なのだが
「にしても、さっきのバレーの時もそうだったけど、なんだか嫌ぁ〜な視線が‥‥」
「あら、そうですか?」
鳥肌を立てるローリタに、首をかしげる二条でっあたが、彼女の勘は見事に的中していた。
「あの2人かわいいなぁ〜」
彼女達の後ろに控える観客的で、興奮顔のヘンタイちっくな男が2人をガン見していたのだ。蛇足だが、彼は一般的に幼女と呼ばれる子たちが好きなタイプらしく、彼曰く、あの2人は天使らしい。
「まぁ、女は度胸と愛嬌。頑張りましょう!」
ググッと意気込む二条の後ろで、何人かの男も拳を握り締めた。
「それでは、障害物リレー、スタート!」
一斉にスタートを切る5人の能力者。まずは、相変わらずスーツ姿の木場が前に出る。
「‥‥思ったより、普通ね」
第一コースに用意された障害物は、平均台や跳び箱、ネットといった所謂一般的な物となっていた。とは言っても、能力者用に調節がかけてあり、幅、高さ、ネットでは特殊金属を練り込み重さ増量等の処置が組み込まれてはいたが。しかし
「‥‥これなら、ジェイさんに安心してバトンが渡せるかしら」
持前のバランスで次々と障害物を乗り越えていくアリカ。ネットではその豊満なボディが少し邪魔をしたようであったが、特に問題もなく一位でバトンをジェイへと渡す。
「アハハハッ♪ 皆さん見てますですか〜」
一方こちらでは、最後尾でカメラにピースを決めている伊万里。
「何してるんですの! ってああ、もう! 伊万里に用意してもらったのは失敗だったですわね」
伊万里同様、体操服にブルマ姿の麗華は、意図してかどうかは定かではないが、明らかにサイズが一回り小さい服のせいで、動きにくそうに体をもじもじと動かし彼女の到着を待つ。何気にこの体操服、胸元に平仮名で名前付きという、なんとも言えない仕様なのがポイント。
「さぁ、全員バトンパスも終わり、いよいよレースは終盤戦に突入だぁ! ちなみに、第2コースのメインはネトネトローション地獄だぜ、ひゃっはっー」
「何ですってぇ!?」
ナレーションの声に振り向き怒声を発する麗華。こんなことなら最初に走れば良かったと思いつつ、これは何と言うプレイに属するのかと自問自答。
「きゃっ。イタタ。このローション、滑りすぎ‥‥」
勿論ローションも能力者用にレベルアップしてます! と訳のわからないナレーションの実況を受けながら、体に纏わりつくローションに悪戦苦闘の二条は
「うう‥‥これはタダ見は絶対駄目です‥‥後で見物料金払って貰わないと」
顔を赤くしながら、ローションまみれの体で、何とかゴールを目指す。
「あたしのチャイナドレスが‥‥でも、これも絆で乗り越えてみせる!」
自慢のチャイナドレスで臨んでいた群咲は、悲しいかな、服をたっぷり濡らしながらも持前の根性で乗り越え‥‥
「そして今、1着の群咲がゴールー!」
結果 1位:木場・群咲 2位:二条・ローリタ 3位:ジェイ・アリカ
●3回戦
「全く、とんだ茶番だな。お前もそうは思わないか?」
「で、ですが、神無月さんのおかけで結構頑張れてますよね」
「まあ、そう堅くなるなよ。次は俺達の本業だ。援護は俺に任せてもらって大丈夫だから、持てる全力をぶつけて敵を討伐するぞ」
「はい!」
美しい金色の髪に、美しい容姿をもった神無月 翡翠(
ga0238)と、すごく普通なフッツーペアは、2人の信頼というよりは、フッツーから見れば神々しいほどにも思える神無月のオーラに憧れを抱くことで、より2人のチームプレイに拍車をかける結果となっていた。
平凡な自分にはないものばかりを持った神無月。そんな人とペアを組める、それだけでフッツーの心は満たされるほど‥‥
「これにもカメラがつくのか。面倒だが‥‥さっさと終わらせるとしようか」
グローブをギュッと装着し、瞳の色を紅に変える神無月。
「グルルル」
「お前に恨みはないが、これも仕事だ。悪く思うなよ?」
後方からフッツーの援護に回る神無月。
「す、すごい」
傷を負えば回復していく体のおかけで、キメラに恐れず立ち向かえるフッツー。
「さて、フッツーさん。少し屈んでください」
「え?」
覚醒により口調が丁寧になった神無月がそう発すると、フッツーの後方から煌く一筋の光。そして、
――グルァァ
エネルギーの集合体を一点に浴びたキメラの肌から、肉片が飛び散り、ほどなくして絶命するキメラ。
「アハハハ〜! これです、これが素敵なんです!」
「全く‥‥伊万里のバーサク状態は相変わらずですわね」
敵キメラを斧でこれでもかというほど切り刻み、血飛沫を一身に受ける伊万里。いや、最早、斬るというよりは叩き潰すという表現に近いかもしれない。
「あ、あの‥‥そのキメラ、もう死んでるんじゃ?」
「いいえ、まだですよ♪ ほら、まだ腕が動いているではありませんか!」
後に出来上がった伊万里・麗華ペアによるキメラの死骸には、四肢がなかったという。
結果 1位:伊万里・麗華 2位:神無月・フッツー 3位:木場・群咲
●最終戦
「いよいよ最終戦。今までの激戦を懐かしみつつも、最後の戦いの内容を発表いたしましょう」
ゴクリと息をのみこむ能力者達。各々真剣な顔持ちだが、一人笑ったままの少女と、その横でこれ以上の恥プレイは勘弁と、血色の良くない人がいたのは内緒。
「最終戦は〜これだぁ!!」
バッと目の前に差し出されたのは、『ゴム』。
「は?」
何これと言わんばかりの表情で、そのゴムを見つめる能力者達に、実況は
「最終戦は、正に2人の絆を確かめるにうってつけ、ゴムパッチンだぁ!」
ズコォー。
今までの内容とのギャップにこけまくる彼ら。かくして、謎の最終戦が幕を開けた。
「アリカ。ここは私がゴムを受けるから、適当なところで離してくれ」
「‥‥でも‥‥いいえ、ジェイさんは怪我していますし、ここは私が」
互いが譲り合い、痛みを背負おうとするジェイとアリカ。素晴らしき愛かな。もし、ジェイの負傷さえなければ、今大会で一位をとったのは、もしかしたら彼らだったかもしれない‥‥ジェイ・アリカペア、記録21メートル。
「木場さん、あたしの言いたいこと分かる?」
「ああ、お互い遠慮することはないさ。それが、俺達の絆だろう」
「さすがっ」
どんな試練であろうと、我々に不可能はない。最後まで、全力で駆け抜ける。木場と群咲は顎の力が許す限りゴムを伸ばしたという。何とも実行委員の設けた間抜けな企画を、ここまで美しく昇華させることになったのは正しく彼らのおかげだろう。今ここに、ゴムパッチンの記録が生まれた。記録、42メートル
「まさか最後がゴムパッチンとは‥‥ですが、この胸の誇りに賭けて、逃げる訳にはいきません」
ぐぐっと胸を自慢げにそらす二条。そらすほどの胸はなくとも、彼女が誇るのはまさしく、その内に秘めた想いであったのかもしれない。だが
「もうひゃめぇ」
相方のローリタが想像以上にビビりであったのは、彼女にとって最大の不幸であったかもしれない‥‥記録、22メートル
「神無月さんのおかげでここまでこれました」
「そうか? まあ、たまにはこういうのもいいかもな」
面倒くさそうに淡々とこなしてきた神無月であったが、振り返ってみると、飽きもせずやり遂げた自分に、若干意外性すらも見出す彼。
(「もしかしたら、こいつの必死さに俺も感化されたのか‥‥なんてな」)
ふっと微笑すると、
「それじゃあ、最後の舞台に上がろうか」
神無月の声に、ハイッと元気よく声を上げたフッツーが彼のあとに続いた。記録、35メートル
結果 1位:木場・群咲 2位:神無月・フッツー 3位:伊万里・麗華
●そして、絆は永遠に
「おめでとう御座います。実にお見事で御座いました」
優勝した木場・群咲ペアに祝辞を述べるジェイ。
「ジェイさんこそ、その体でよく頑張ったよ」
群咲は、傷だらけのジェイを見つめながら、称賛の言葉をかける。互いの栄光を称え、それぞれの帰路につく能力者達。
「楽しいでしたね、麗華さん?」
「勘弁ですわ‥‥」
ドラキュラマントを翻し、多数の男性客の声を背に受け会場から出て行く伊万里と麗華。後に、彼女たちのファンクラブが創設されたことを彼女たちは知る由もなかった。
かくして絆が綴るひとつの歴史が刻まれる。そして、その絆が永久にあるように、再び、歴史は巡るだろう。かの地から、バグアが消えない限り―――