●リプレイ本文
「この機体を使うのも久しぶりだな‥‥使い方を誤らぬ様に注意せねば」
インドネシア西の海域、北西から南へと巡航するKVが1機、青い海へと溶け込んでいた。青を基調とされた、他の既存KVとは、多少異なる存在感を示すその機体の搭乗者は、九条・命(
ga0148)。彼が目指すは、時機に眼前に捉えるであろう、バグア勢力の一派‥‥
そう、今回彼は、オーストラリアに存在するバグア勢力圏から北西へと進行してきているであろう、バグア部隊を駆逐するために派遣された傭兵の1人である。そして、九条の上空を飛行するKVが2機、美しい海を映したかのような空に煌いていた。
「‥‥大丈夫。なんとかなるさ‥‥たぶん‥‥」
コクピット席に座り、専用のヘルメットを着用しているとはいえ、まだ幼い体形が見て取れる小柄な体から、不安げな声を発するイスル・イェーガー(
gb0925)は、緊張した面持ちで青い海を見下ろす。また、そんな少年の前方を移動するのは、まだ実用化に至ってから日が浅いKV、通称ミカガミを操縦する榊 刑部(
ga7524)。
イスルほどではないといえ、まだ年齢的にも若いはずの彼だが、その鋭い目つきは正に戦いに身を投じる覚悟を決めたものの、ソレであった。こちらは空に溶け込んでしまいそうなスカイプルーが印象的なミカガミを先頭に、着々と九条、イスル達は目的の敵部隊へと進行を進めていく。一方、
『おかしな編隊は気になりますねぇ〜。特に後方の小型‥‥ん〜、やはり用心して接触を試みるべきですねッ』
こちらは、彼ら3人とは別行動をとる5人の部隊。その中の1人、聖・綾乃(
ga7770)は無邪気そうな声で通信機へと言葉を発していた。
『後ろの小型‥‥指令塔とか? どのみち戦闘に入ったらやりあうんだし、意表を衝かれないよう心がけとくよ』
彼女の発言に、真っ直ぐ進行方向を見ながら返答する、赤崎羽矢子(
gb2140)。今回の情報では、敵HW部隊で1機だけおかしな飛行をする小型のHWが確認されており、聖のように、そのHWへと考えを向ける能力者も少なくはなかった。
『何にせよ、とりあえずは敵を殲滅してから、誘導班の皆さんと早く合流するのが最優先ですね』
『そやな! 敵のことずっと考えててもあかんし、やるからには絶対勝たな』
美しい白銀の髪から覗く眼帯で、左目を覆ったパディ(
ga9639)が静かにそうつぶやくと、それに烏谷・小町(
gb0765)が元気よく返事をする。
『まぁ、海の方は野郎ばっかりだし、心配ないだろうが、数的にあっちは不利だからな。俺たちが早いに越したことはねぇ』
褐色の小麦色の肌に、高い身長とそれに似合った筋肉質な体系のジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)は、正しく彼にぴったりかもしれないと言える機体、雷電を操縦しながら部隊の先頭を飛んでいた。
このまま進行方向を変えずに直進すれば、やがて目標とぶつかることとなるであろう。予定ではあと数分後‥‥各々はブラン通り編列を組み、そのまま徐々に傾いていく太陽とは反対の方角へ、飛んでいくのであった―――
『ん、どうやらお出ましのようだぜ』
『お出ましっていうよりは、あたし達がやって来たんだけどね。それじゃ、ジュエルはエスコート、任せた!』
『了解っと』
前方から進行してくる4機のHWを確認した聖たちは、
『さーて、大盤振る舞いや! ありがたく受け取っとき〜』
一気に接近する5人、そして、それぞれがそれぞれの、KV攻撃によるモーションに移ると―――
―――ドガガガガ
こちらの接近に気づき、同じく攻撃姿勢へと移行するHW1機を、一瞬にして5人の集中砲火が襲う。あまりにも強大かつ、速度の乗った波状攻撃の前に、小型のHWの片翼がそのまま弾け飛ぶと、モクモクと煙を上げる一機が、それでも必死に後退しようと失速したその側面から、
「どうした? さっさと堕ちろ」
覚醒し、ヘルメットで隠れて見えないものの、この空と同じく、蒼色へと近づいた髪の聖が冷酷な言葉を発し、彼女のアンジェリカに搭載された3.2cm高分子レーザー砲の砲口が光を集め、次の瞬間莫大なエネルギーの塊が、一直線に敵を貫通した。
ボコボコと機体の側面が液体化し、沸騰するかのような光景を見せたあと、内部から爆破し海へと墜ちて行くHW。
時間の単位で表せば、1分にも満たないほんの数十秒、そのほんのわずかな間に小型のHWを容易く葬り去った5人は、旋回し、通り過ぎたHWの元へと再び展開していく。
隣にいたはずが、気づけば海へと真っ逆さまな味方機の様子を見て、やっとこちらも反撃を仕掛けるHW。小型2機がそれぞれ右翼、左翼に展開すると、真中から中型がブーストで急接近し、即席ながら美しいフォーメーションで対抗してくる。
「ん、お前の相手は俺だぜ?」
敵の散開を視認し、咄嗟にそれぞれが進路を変えたのち、ジュエルは1人、そのまま直進すると、中型機をターゲットに短距離高速型AAMをぶち込んだ。接触すれすれ、超近距離をすれ違うジュエルの雷電と、ギリギリで攻撃を回避する中型HW。
2機の空中による交叉の瞬間は、間に生じる巨大な風圧で、それぞれの機体が傾くほどである。しかし、タフさが売りの雷電は、更に追撃を仕掛けようと旋回し、再び兵装の操作に手をかけようとしたジュエル―――だったのだが、
「ちっ」
突如、下に急降下する機体、その右側面から放たれた小型HWの収束フェザー砲が雷電の上を掠めていた。咄嗟に高度を落とし見事に敵攻撃をかわしたジュエルであったが、さすがに2機のHW相手に立ち回るには難がある。
『そっちはまだか!?』
ふっと視線を傾けるその先では、4機のKVと、小型のHWによる対戦が始まっていた―――
「くっ、随分と素早いHWですね」
小型のHWで、左翼に展開した方に集中攻撃をかけ、早々ともう1機を海の藻屑に変えようとした4人であったが、予想以上に回避力の高いHWの前に中々攻撃が当たらない。
「何とかして動きを止められれば」
一回火を噴くごとに、40発もの弾をばら撒く赤崎のミサイルポッドだが、寸前のところで攻撃をかわされ、悔しさで思わず舌打ちをしてしまう。
―――ジジジ。
すると、突如としてHWの砲口に光が輝いたかと思われたその刹那、強烈なプロトン砲が放たれる!
「うわわ、あぶないやん!」
ブーストで攻撃軌道から瞬時に機体を逸らす鳥谷、数秒後、海から巨大な水柱が吹きあがっていた。
「当たれば、こちらもタダでは済まないかもしれないが‥‥当たらなければ意味のないこと」
覚醒し、その影響からか、ブツクサと呟きつつ照準を合わせるパディは、
「どうでもいいけど‥‥攻撃後は随分と隙が出てますよ」
最後にそう言って、レーザーライフルを放射した。空を下から上へと突き抜ける一筋の光槍が、HWの突き出た砲口部を抉りとると、その前方と後方から、聖、赤崎の挟みうちが襲う。
「くだらないな。弱すぎる」
「ここはお前達の居場所じゃない!」
レーザーと弾とがクロスし、その中心部に存在していたHWは、熱と弾圧による強大な抱擁に抱かれ、成す術もなく空中で爆破。そして、原型を留めることもなく、海へと垂直降下していった。
『エスコート役の気分はどう? ジュエル』
『悪くはねぇが、お前ら、ちょっと来るの遅すぎだぜ!』
『あはは、堪忍してな!』
小型HW1機を殲滅し、そのままジュエルの加勢に向かいながら調子よく声をかける赤崎に、ジュエルが冗談っぽく言う。鳥谷が謝りつつも、ジュエルの雷電と中型HWを引き離しにかかろうとミサイルの大サービス。
『さーて、大盤振る舞いや! ありがたく受け取っとき〜』
『ってうぉ、俺まで巻き込むんじゃねぇ!』
『あちゃー、あかん。ちょっと強力すぎた?』
予想以上の破壊力と爆風で、中型HWの半身を焦がす鳥谷のディブロ。その破壊力は、さすが悪魔の略称を得るだけのことはある、と言ったところか。そんな威勢の良い彼女だったたのだが、ディアブロの翼部分に突如として衝撃が走る。
「う、うわ!? なんや?」
「さっきから本当に、小型はちょこまかと‥‥」
鳥谷の後ろでは、中型機にひきつけられた彼女の隙を狙い、死角からHWが武装兵器で攻撃を仕掛けていた。見れば、先刻の攻防でもその手段が功を制したのか、ジュエルの雷電に所々焦げ目が見える。しかし、
『まっ、もう残りは2機だし、さっさと潰すよ!』
赤崎がそのまま射撃に入ろうとした瞬間、ふと頭をよぎるひとつの疑問―――
「あれ? あと2機?」
バッと振り向き後方を確認する赤崎の視線の先には、かなり離れた、いわゆる「安全エリア」と呼べそうな距離から、ジッとこちらの方を向く1機の小型HWがふわふわと浮いている。
「‥‥‥‥とりあえず、まずはこいつらを始末してから、あっちも破壊するだけ」
「私はお前らに、負けるわけにはいかない」
赤崎が視線をずらしている間に、とりあえずまずは目先の敵からということで、聖と連携して小型のHWを追い込みトドメを刺すパディ。
そんな2人の横から接近しつつ、搭載された収束フェザー砲4つをフル起動でパディと聖の方向へ向ける中型HW、だが、
「おっと、だからお前の相手は俺だっつってんだろ」
「じゃあ、うちも相手したる!」
ジュエルと鳥谷による砲撃の前に、傾く機体、そして空しくも的外れの方角へ放たれたフェザー砲。
『ん、あー待って。トドメはあたしにもやらせてー』
ジッと離れたHWを見つめていた赤崎であったが、大破寸前の中型HWに最後の詰めをかける。結局、ある程度のダメージは受けたものも、比較的楽に敵殲滅へと持って行けそうだと安堵した傭兵たちは、
『それじゃ、残るアイツを逃がさないようにしないと、ね』
そのまま、全機ブーストで離れたHWへと突っ込むのであった。
一方、こちらでは―――
「ふ、やはりそう簡単にいく相手でもなさそうだな‥‥」
水中用ナイトフォーゲルKF−14を操縦する九条。彼が目の前に捉えていた敵、それは、水中を移動可能に作られた専用のゴーレムであった。
試しに牽制攻撃を仕掛けてみるものも、やはり火力が不十分なのか、硬い鎧がそれを阻む。また、九条の上空では翼竜型のキメラとKV2機が空で戦いを繰り広げていた。視線を上にあげ、その様子を見る九条は、
『現時点から東へ進めば島が見えてくるはずだ。やはり、当初の予定通り時間稼ぎに加え、想定ポイントへコイツはできる限り誘導するとしよう』
『そうですね。少しの間ですが、ソイツは任せます』
『‥‥了解‥じゃあ、僕たちは‥‥こいつらだね』
九条がゴーレム相手に、水中KVによる水上内での機動性を利用し、敵の意識を逸らす間、翼竜型キメラへの排他活動に移る榊とイスル。
「ゴーレムのおまけ程度ってところか‥‥残念だが、ここで果ててもらおうか」
榊がそう言い放ちながら、後方へ下がり間合いを調節する。数秒後、ミカガミに搭載された高分子レーザー砲によるエネルギーの集合体が、気づけばキメラの半身を『消滅』させていた。
「グシャアアア」
まだ思考をつかさどる器官が残ってしまっていたため、安らかに逝くことができず、そのまま苦痛に悶え悲鳴をあげながら下へ堕ち行くキメラ。やはり、いくら肉体を強化されたところで、数匹のキメラ程度では、KVに決定打を与えることは困難だろう。しかし、
『危ない‥‥避けて』
前方に乗り出し、小声ながらもしっかりそう無線で告げたイスルの声を聴いて、下方からの攻撃に気づく榊。
「くっ」
ガバッと機体を横に倒し、ギリギリでかわしたミカガミのすれすれを通って行ったのは、水上ゴーレムから放たれたプロトン砲であった。
『すまん、榊。大丈夫か?』
『ええ、何とかギリギリセーフです』
ハハと冷や汗を額に浮かべながら、破損状況を確認する榊であったが、特に異常は見当たらない。
(「さすがに抑え込むのは無理か。ならば‥‥これはどうだ」)
距離を置いて敵を挑発していた九条であったが、一気に接近し、知覚兵器の爪による応戦を試みる。だが、
「ぐっ。物理よりはマシかもしれんが‥‥」
爪に付加している火の属性と、接近時、敵からのカウンターによる攻撃でやはり決定打へは運べない。とはいえ、徐々にゴーレムを陸のほうへと誘導する彼ら、そして遂に、
『あ‥もうすぐ、だよ』
イスルが4匹目のキメラを海面へ叩き伏せてすぐ、彼が見据えた先、そこにあったのは、本陸からはまだ距離があるものの、小さな無人の島であった。このままあとは数で押せば‥‥そうイスルが考えていると、
『悪ぃ、待たせたな』
『こっちはやっと終わった! 誘導感謝や!』
『皆さん、いいタイミングです』
前方からやってくる5機の姿。どうやらあちらも無事に終わったらしい。
「ほら‥‥こっちだよ‥‥」
上空からゴーレムの砲撃を交わしながら、イスルが散発的に射撃でゴーレムを陸へと誘導する。すると、潜ってその攻撃を無効化しようとゴーレムではあったのだが、九条がそれを阻止し、気づけば彼らのすぐ目の前には広がる陸地―――
陸に逃げるわけにはいくまいと、なおも抵抗しようとするゴーレムだが、7機からの弾圧と、常に目の前で牽制をかける九条機のために、それは虚しい抵抗となり‥‥
「図体だけでかくても、それじゃ意味ないな‥‥」
だんだん姉に似てきたのか、男勝りな口調でそう聖が告げ、そのまま一斉砲撃―――
「それで、結局あのおかしなHWは何だったんでしょうねぇ?」
戦闘も終わり、覚醒を解いて嘘のように性格の変わった聖が、不思議そうな顔で首をかしげる。
「さぁねー‥‥それにしても、一番弱っちかったのには拍子抜けしたけどね」
赤崎が、疲れたーという口調で返事すると、
「ですが、無事に作戦も成功しましたし、何よりです」
「そう‥‥だね」
榊が笑顔でそう告げ、緊張のほぐれたイスルが、ふー、と改めて、その姿を欠かせていく太陽を見据えるのであった。
―――オーストラリア、バグア勢力圏
そこに、今日、いくつかの『データ』が送られることとなる。その詳細には、こう記されていた。
『偵察機は、敵に動向を探られることなく自爆。また、人類側の最新機含による、KV戦闘の戦闘力について収集アリ』、と‥‥