●リプレイ本文
たくさんの学生が通学するその道に、普段見慣れぬ8人は学校へと向かっていた。
「はーい、皆静かに。今日は、転校生を紹介します」
おぉーとざわつく教室。ガラガラと教室のドアが横にスライドすると、一斉に注目する視点。その先には
「あ‥‥はじめまして、柿原 錬(
gb1931)です」
「うお、結構かわいいくね?」
こっそり漫画を読んでいた少年が、柿原の顔を見て思わず隣の友達に話しかける、のだが
「って、男子かよ」
すぐ視点が男子生徒の制服を捉え、ガッカリと呟くと、今度は女子のテンションが上がりだす。残念そうな男子を前に、鎌は、スタスタと奥の席へ女子達の視線を浴びながら、ちょっと恥ずかしい気持で向かうのであった。本来は中学生役でも問題ないのだが、本人が高等部を希望したため、今回彼は高1として派遣されることとなっている。そう、全てはこの学校に渦巻く闇を見つけるために。
一方、こちらも同じ高等部‥‥
「えーっと‥‥神無月です、よろしくお願いしますね」
柿原の教室の2階上に位置する教室で、挨拶を済ませる神無月 るな(
ga9580)。さすがに高3ともなると皆落ち着いているのか、騒ぎもせずマジマジと彼女を見つめる。とはいえ、やはり慣れないことに緊張する神無月ではあったが。
(「勉強は苦手ですが‥‥仕方ありませんね」 )
おとなしそうな外見ではあるが、彼女もまた傭兵。本来勉強を専門とするわけではない彼女にとって、任務とはいえ多少不安もぬぐい去れない様子。しかし、そんな彼女に
「はじめまして、神無月さん。ミーシャよ。すごいわ、外国の人と友達になれるなんて。ね、どこが生まれなの?」
「えーっと、すいません。私、幼いころの記憶がなくて」
「あ、ごめん‥‥」
戦争中に拾われ、記憶を失ったまま能力者となった彼女にとって、己の過去を知る者がいるのかは定かではない。失った過去、大切な人、しかしそれでも、彼女はこの道を歩むことを誓った。だから
「いいえ、気になさらずに」
にこっと微笑む彼女の笑顔は、どこか清々しく、今こうして笑えることこそが、彼女にとっての幸せのひとつなのかもしれない‥‥
始業開始のベルがなる。各々予習をしたり、生徒が移動したため活気の消えた教室等、一様に違った表情を見せる学校のどこかで、密かに闇が動いているのもまた確かな事実であった。
「今日から美術を担当することとなったシモン・モラレスだ、よろしくお願いする」
「ちょっ、かっけぇ」
「絵を描くっていうより、あれじゃ描かれる側のモデルだよね」
ひそひそと美術室でどよめく生徒達、彼らの前には、一教師が放つオーラのそれか疑わしいほど目を引く美青年。それもそのはず、なぜなら彼の本名はホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)。そう、数多の戦いを潜りけて来た傭兵であるのだから。勿論、生徒は誰一人としてそれを知る術はないのだが。
(「ふー、意外と何とかなるものだな」)
ビシッとスーツ姿で数学を教えるのは、高身長に筋肉質な体が目を引く陸 和磨(
ga0510)。彼もまた、スーツを着ているとはいえ、立派な能力者。そして、このクラスにもう1人の来訪者。
「先生、ここが少し分からないんだが」
「やる気満々だな、南雲」
「興味がある内容なだけだ。それでここなんだが、この公式だと―――」
「‥‥俺よりお前の方が教師向いてるんじゃないか?」
「そうか?」
教師役の陸にやたらと難しい公式のメカニズムを問うのは南雲 莞爾(
ga4272)。能力者というよりも、2人のかっこ良い男子の会話に視線が離せない女子達の光景が、男子にとって何故か辛いものであったという。
そして、最も生徒に人気があったのは―――
「はじめまして。柿原ミズキって言います。よろしくお願いします」
体育館内に響く、透きとおった初々しい声。体育を教えることとなった柿原ミズキ(
ga9347)は、持前の元気な笑顔で男子生徒の心を、まず鷲掴みすると、
「そこでパス!」
「あ、ハイ!」
「柿原先生ってすごくない? 男バスよりバスケうまいよね」
「本当。憧れるぅ」
生徒と供にスポーツを楽しめば楽しむほど、生徒達にその眩しさを強調した彼女は、いつのまにか男子、女子生徒両方から熱烈な支持を受け、授業が終わるころには
「先生、私達の部活の顧問になってくださいよ」
「おまっ、ずりーぞ。俺達が先に交渉するつもりだったんだし」
彼女の存在は憧れと同時に、最早友達のようにさえ感じられるほど、生徒達の心に浸透していたのであった。
――昼休み、中等部
「やっと午前が終了か。学校はガキが多いから嫌いなんですよね」
ボソッと愚痴をこぼす少年、立浪 光佑(
gb2422)は不満を隠せない様子で呟く。あどけない表情の彼も、立派な子供ではあるのだが。
「立浪君、飯いっしょ食おうぜー」
給食がやっときたかと、歩み寄ってきた少年に目を向けるとそこには
「は? 弁当?」
中学校の昼といったら給食だろうと突っ込みそうになった立浪は、ある事実に気づく。
「しまった、ここはアメリカ」
そう、この学校の昼食形式はカフェテリアでのランチ購入か、弁当の各自持参である。
「給食を食べるために来たようなものだったのに‥‥」
ガクッと膝をつき響く金属音。体の何箇所かがメタリックな彼が落胆していると、
「立浪君ランチパック忘れたんだ? じゃあ俺の少し上げる、今日は自家製のジャムだぜぇ」
「へ?」
「俺も俺もー、チキンあげる」
(「‥‥ガキはガキでそれなりに役に立ちますね」)
目の前に差し出される料理に、かわいい目が野獣のように変わった瞬間であった。
「それでは、応急処置の授業を始めます」
午後の特別教室、その内に転がる5体の人形を前に、保健体育の授業を始める南部 祐希(
ga4390)だったのだが‥‥
「このように、まずは対象の意識確認を済ませ、周りに救助を呼びかけま‥‥」
「キャハハ、見ろよこの人形、脚が折れたー」
「そして、次に目立つ外傷、出血がないかを確認しま‥‥」
「先生ー、この人、脚があり得ない方に曲がってまーす」
「あはは」
一斉に笑い出す生徒、そして
バキィィィイイ!!
「あら、気道確保のつもりが、ノドが潰れてしまいましたね」
「‥‥」
突如として静寂に包まれる空間。
「それで、脚がどうかしましたか?」
「い、いえ、何でもありません‥‥」
「何でもないことはないでしょう? ちょっとそこの君、後で体育館まで来なさい」
「え、あ‥‥」
人形をコトッと置き、不敵に男子を見つめる南部。最早、それ以上彼女に言葉はいらなかった。ちなみにこの男子生徒、後に今学期の保健体育の成績で、初めて満点を取ることとなる。良かったね!
――放課後。帰宅する生徒や部活に打ち込む生徒達。そして、生徒会室へと集まった6人の能力者‥‥
「結局、有力な情報は得られませんでしたね」
数日間、彼らが生徒、教師を対象に聞き込みをして回った結果を纏めるが、どれも以前に比べて様子がおかしいというだけで、それ以外に不審な点は見つからないらしい。中々決定打へと行きつかない彼らに、
「あ、ホアキンさんおかえりなさい。どうでした?」
「アルを尾行してみたが、彼の姉と帰宅時、特に目立ったことはなかった。いや、正しくは全てがおかしかった、とも言えるかな」
「どういうことですか?」
「姉弟だというのに、会話が一言もなかった」
「‥‥」
密かに症状の発症した生徒を尾行していたホアキンも、得られた情報は微々たるものであった。それでも、明らかに異変が起きていることは確かな事実であるのだが、根源への切り込みが臨めていなかったのだ。すると、
「ごめんなさい、生徒と話が長引いちゃって」
ガラガラと最後にミズキが入ってくる。
「遅いよ、お姉ちゃん。何やってたの?」
「ふふ、ちょっと女子生徒と恋のお話をね」
「ッ。真面目に仕事しなよ、全く。そんな調子じゃこっちが心配になっちゃうし」
「へー頼もしいな。でも、有力な情報もゲットできたよ」
何気ない姉弟会話の様子は微笑ましいものであったが、真剣になったミズキの顔に、一斉として視線が集まると
「例の科学部、この校舎の隣にある別校舎の1階にあるみたいなんだけど、その部活の生徒がまず真っ先に発症していたよね? それなんだけど、調べてみると更に、その隣に位置する教室を活動場所としている部活の生徒達から、徐々に発症が広がっているみたい」
「!?」
「文化系の部活を扱う専用の校舎ね。事実、ボクが仲良くなった子達は全員体育系の部活動生だったんだけど、皆の友達は誰一人として異変は見られていないみたいだし」
「なるほど、アルもその科学部の姉が発症した後、異変が生じたと報告がある」
「発症例が高等部に集中しているのも怪しい部分ではありましたが‥‥発症経路を辿れば根源へと行きつくのもすぐのようですね」
「となれば‥‥」
事前情報から科学部へ目はつけていたものの、確証が持てない以上不用意に動くのはまずい。されど、いざ科学部へ介入しようとしても、またその方法に悩む能力者達。
「とりあえず、私が科学部の生徒とお話してみますね」
「そうだな」
高等部の女学生ということで、神無月の希望に賛同する南雲。あわよくば、そのまま体験入部へと持って行ければ‥‥そんな期待も込めて、能力者たちは翌日を迎えるのであった。今度は、各々の武器の手入れをした状態で―――
「申し訳ありませんが、現在入部は受け付けておりません」
「ですが私、科学に興味が」
「現在入部は受け付けておりません」
神無月の言葉を遮るように、機械的に返信する科学部部長のローズ。
「ダメだな、顧問の方にも当ってみたが、話にならない状態だ」
カフェテリア内、肩を落とす神無月に、ホアキンが語りかける。
「そういえばホアキンさんは、被害者が存在するクラスで授業されたのでしたね。どうでした?」
「建物をスケッチさせたのだが、言われたことを黙々とこなすだけだ。顧問のチューズ先生同様、機械のようだったよ」
フーと煙草に手をかけるホアキン。こうなれば
「やはり、多少強引でも、科学部にお邪魔するとしよう」
ぐっと神無月の握る拳に力が入った。
静まり返る学校、昼とは違い、光を失った校舎の様子は、不気味の一言に尽きるものであった。立浪の案で夜に捜索をすることとなった一同、勿論彼らの目指す最優先箇所は―――
「待て。人がいる」
突如、先頭を歩いていた陸がストップをかける。部活専用校舎1階、周りは暗く月明かりが照らす校舎内の奥に灯る電灯の光。その光が灯る場所こそが
「ビンゴだな」
科学部の教室。しかも、その教室の前にボーッと立つチューズ顧問。そしてその足元に
「あれが何よりの証拠。もう遠慮はいらないね」
身構えるミズキ、彼女の視線の先にはスライム型のキメラ。そして、夜中の校舎を舞台に戦いが幕を開けた。
まず火を噴いたのは南部の小銃、暗い空間に一瞬の煌きが生じると、弾け飛ぶスライム、その様子に振り向くチューズ教師だったのだが、
「少し我慢してくださいね」
気がつくと目の前に飛び出してくる神無月、抵抗する間もなく彼女がチューズを抑え込むと、そのままリンドヴルムの重みで一気に押さえつける鎌。と、同時に
――ガララ
ドアを開けて教室の中を覗き込み、武器を構える陸。いつでも反撃が可能な態勢、スッと月詠を伸ばした南雲の刀身に映った姿は
「えっ!?」
思わず声をあげるミズキの前には、生徒と思わしき人物が5人、そしてその周りを取り囲むかのようにキメラが何匹も蠢いている。
「これは‥‥全員症状の報告があった生徒達だ」
ホアキンが息を呑んだ瞬間、生徒たちに持たれた金属バット等の凶器が振り下ろされた。
「これじゃあ攻撃は無理だ」
一般人の攻撃など捌くことは他愛ない上に、ダメージなどたかが知れている。しかし、キメラの攻撃は別だ。氷雨で果敢に敵の攻撃をいなし、力のベクトルをずらす陸も下手に反撃すると生徒達に危害が及ぶ可能性があるため、防戦一方の状態。すると、彼らの前から一人の女が、窓を介して外へ出ようとする。
「あの女は報告にない。やつだ!」
直観であいつが黒幕と悟るホアキン、しかし、間合いをつめようとした能力者の前を生徒が塞ぐ。
「ダメだ、接触するだけで危ない」
リンドヴルムの機動力であれば女に追いつくことは可能、しかし、そのエネルギーとパワーを普通の人間が受け止めて無事ですむはずがない。
「回り込んでもこれでは逃げられるだけ。仕方ありません、とりあえずはキメラを駆除した後、彼らの洗脳を解きましょう」
「洗脳を解くって、どうするんですか。ッ――、このガキが!」
全身メタリックとなり、声まで機械音となった立浪が荒げた口調でキメラの攻撃を受けながら言う。
「‥‥ここの科学部は優秀と聞きましたが、はたしてアレは昔からあるモノでしょうか」
冷静な顔で南部が見据える先には、まるで巨大な機械にキメラの皮膚を融合させたかのような不気味な塊。角隅の方でキメラと生徒に隠されるように護られているそれは、不気味な点滅とともに機械音を立て作動していた。
「洗脳の大元か。俺が敵を抑え込む、その隙に」
前方に乗り出し、反回転しながら体ごと敵を押し戻す陸に、南雲がその突出した剣技で見事にキメラだけを引き裂いていく。そしてホアキンがイアリスを構えそのまま機械へと一閃―――
「生徒とキメラを相手するはめになるとはね」
翌日、ミズキが登校しながら鎌に語りかける。彼らが予測していなかった最悪の事態で起きてしまった戦闘、結果的に無事洗脳を解くことができたとはいえ、襲ってきた敵に生徒がいたことで黒幕を逃がす結果となってしまっていたのだ。
「でも、皆無事で良かった。それにしても、敵の目的は何だったんだろう」
呟くミズキの携帯に、メールの着信音が響くと
「またあの子かぁ」
「また? またって何、誰からなのお姉ちゃん」
「錬には秘密ー」
ぶすっとふくれる鎌を見て笑う姉を前に、ふん、と早歩きで学校へ向かおうとする彼だったが、不意に後ろから聞こえる声。
「病弱だった錬が、頼もしくなったね」
ハッと振り向く弟、その先にいたのはいつもと変わらない笑顔を見せてくれる姉であった。
「もう行くの?」
「やっとこれでガキから解放されます」
中等部、悪態をつく立浪の前で落ち込む男子生徒。チラッとその表情を見た立浪は、
「まぁ、弁当はうまかったし、一応礼を言います」
フッと窓の外をを向きながらも呟く立浪に、男子は嬉しそうに微笑むのであった。短い期間であったが、各々がこの学校に与えた影響は大きい。それだけ、彼らが魅力的である証拠だろう。そして、各々の思いを胸に、8人は帰路につくのであった。ちなみに、陸や南雲は執拗に女子からメルアドの交換を迫られたらしいが、女性の南部も女子から猛烈なラブコールを受けたとかなんとか。