タイトル:破滅の引鉄マスター:羽月 渚

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/22 00:31

●オープニング本文


「人を支配するためには、まず人を知ることが必要だと思うの」
 黒い闇が包む空間の中、幼い少女の声が響く。
「弱いくせに、あいつらは生意気にもあたし達にたてつくのよ? 嫌になっちゃうわ」
 顔をしかめ、ブツクサ不満げに呟きながら、何やら前方の黒い物体に話しかける少女。
「だから、あたし考えたの。ああ、そうか。あいつらが最も恐れるモノを作ればいいんだって」
 彼女が優しく抱いているのは、何かの腕らしきもの。少女の身長より大きいソレは、彼女の呼吸に合わせ静かに胎動していた。
「あなたはあたしの最高傑作よ。だから期待を裏切らないでね、それじゃあ、おやすみ」
 黒闇の中、黒い何かに抱かれて少女は眠る。その安らかな寝顔は、どこか誇らしげにさえ見えていた。

「悪魔を見た」
 そのUPC軍基地に突然通信されてくる、ひどく混乱した男の声。彼の声は半ば叫び声にも聞こえ、ほとんど会話のままならない状況であったという。ただ、一方的に通信されてくる断片的な言葉。最後にはっきりとした叫び声と、女の笑い声が聴こえ、気づけばその男との通信は途絶えていた。

「ラン、ランラン」
 生温い風に乗って聴こえる澄んだ歌声。
「ありゃ、まだ食べたいの? うーん、でも、もうすぐ傭兵達が来ちゃうだろうから、それまで我慢しなさい」
 1人の少女が人差し指を立て、慰めるように語りかける。その言葉に、荒い息を立てながら座り込むキメラが一匹。しかし、明らかにそのキメラは他と違っていた。そして、ふっと向きを変える少女の先には、
「さぁーて、あなた達の『希望』への連絡はちゃんと終わったかしら?」
「あ、ああ! 言われたとおりにUPCに連絡した! だから、命だけは、命だけは助けてくれ」
 必死になって少女に懇願する男が1人。痛めつけられた後であろうか、生々しい傷痕が残る顔を歪めながら、ひたすら少女の隣の『1匹』を見据え脅えている。
「ええ、約束だものね。いいわよ、あたしは別にあなたがどうなろうと知ったことじゃないし。さっさと消えなさい」
 優しく微笑みながら、男にバイバイの仕草をする少女。それを見た男が、涙まみれの顔に笑顔を浮かべ、腰の抜けた体を必死で起こし逃げようとする。が、
―――え?
 何かが潰れる鈍い音。突如として襲う激痛、遮られていく視界。
「え、あ、約束が‥‥違‥‥」
「うわー。ごっめーん。あたしは別にどうでも良かったんだけど、その子は逃がしたくなかったみたいねー」
 あはは、と腹を抱えて笑う少女。豊かに変化する表情、彼女の目の前で赤く弾ける男。少女の笑い顔とは反対に、彼の最期の顔は、正に死を悟り絶望した者のそれであった。
「さて、じゃあ頑張ってね」
 その場に残した『1匹』に、ウィンクして少女はこう告げると、そのまま歌いだし街を去っていく。どこか楽しげで、そしてどこか寂しげな歌を口ずさみながら‥‥ふと、去っていく少女のポケットから、ふわっと1枚の紙が落ちる。何かの本の1ページであろうその紙切れには、確かにこう記述してあった。
『悪魔。それは、人が最も恐怖する存在である』

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
紫藤 文(ga9763
30歳・♂・JG
楓姫(gb0349
16歳・♀・AA
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
カララク(gb1394
26歳・♂・JG

●リプレイ本文

「悪魔の様なキメラか、はたして何処まで近いものか」
 静寂に包まれた街の所々から、数十分前の惨劇を物語るように、上空へと昇る白煙を見つめ、九条・命(ga0148)は呟いていた。
「人が悪魔を恐れるのは、それが人にはどうにもできない存在だから」
 そんな彼の後ろから、小さな鈴の音と共に、澄んだ声で言葉が投げかけられる。
「だからこそ私達がどうにかすれば、それは悪魔でも何でもない、唯のキメラよ。それじゃ、手早くこの街の恐怖を除去しましょうか」
 鈴の可愛らしい髪飾りに、美しい着物で身を包んだ皇 千糸(ga0843)が九条の横にスッと歩いてくると、大きなエネルギーガンを片手に、彼の方を見て一言。どこか他の女性とは違う雰囲気を漂わせる彼女は、双眼鏡を取り出し、
「さて、まずは状況の確認が先ね」
 そう言って街の先を見据えるのであった。
「‥‥捜索は任せたぞ」
 そんな2人のやり取りを見て、白銀の髪が特徴的な青年、カララク(gb1394)が語りかける。
「陽動の方は、俺達が引き受けた」
 今回は緊急の依頼であったため、人数が6人という状況で討伐に臨むこととなったメンバー。そんな彼らが組み立てた作戦は、2人1組の計3組で、それぞれ役割を分担しようというものであった。
「カララク。ほら、これ」
 ザッと足を踏み出そうとしたカララクが呼び止められ、声の方へ体を向ける。すると、目の前に数発の弾丸を差し出す武藤 煉(gb1042)。今回カララクとペアを組むこととなった彼の身体には、武者鎧を彷彿させる防具が装着されている。
「いいか、確かに俺の魂‥‥託したぜ?」
「ん、無駄弾にはしない」
 武藤からの貫通弾を手渡され、自らの小銃に装填するカララク。
「さて、俺はコイツの隠し場所でも探しておくか」
「‥‥随分と、歪な形だな」
「即興だからな、通用するかどうかなんか知らねぇが、やらねぇよりマシだろ?」
 武藤が手にした槍、そしてその先端に取り付けられた弾頭矢。これが何を意味するかは後のこととして、2人はお互いを前に、戦いの幕開けを覚悟するのであった。 

「うはぁ、双眼鏡なんてどうやらいらなかったようね‥‥」
 今回6人が訪れた街は、比較的小高い丘のような地形の上に建てられている。徐々に歩を進め、街へと近づく度に、彼らの目にその脅威は映ってきた。最初は黒い塊、次に翼の形と判断されるキメラのパーツ、そして‥‥
「これほどか」
 街に入る前に、すでに能力者達の目にその姿を晒しだした巨大キメラ。そのあまりにも予想を超える巨大さに、思わず能力者一同は息を呑む。
「‥‥成程、格好だけは付いてるらしい」
 周囲を囲む建物はおそらく3メートル〜6メートル程度。半壊や全壊の建物も数多くあるとは言え、街の中心部に鎮座しているソイツは、明らかに他とは異なる異様な存在感であった。
――グルル
 これだけ離れていても聴こえてきそうなその鼻息、キメラと呼んでいいのかどうかさえも戸惑われる怪物、その姿は正しく、
「悪魔、か‥‥」

「はは、予想以上だな‥‥皆、無茶しないように」
 それぞれの班が散ろうとして態勢を整える。そんな中、全員の無事を祈る言葉を、紫藤 文(ga9763)がかけると、彼の右目が赤く変色し始め――覚醒。
「では、私達は反対の方から回りこみますので」
「了解した」
 茜色の鞘から伸びる直刀の朱。美しい、正にその一言に尽きる優美な血桜を携えた楓姫(gb0349)が九条に確認を取り、紫藤と供に街の外側を回るように、逆側へと駆け出した。
「楓さん、先ほども言いましたが決して無理はしないように」
「私なら大丈夫。紫藤さんも気をつけて」
「‥‥そうだな、必ず」
 走りながら、会話する紫藤と楓の2人には、戦いを前に同じ決意が芽生えていた。
(「俺が(私が)必ず、護る」)
 最も、この感情をお互いが気づいているかどうかは、ここで語るものではないが、されど、確かな決意が強さに繋がることは、後に証明されることとなる。
 
「文さん達と大体同じ距離をとって、徐々に近づいていきましょう」
「了解だ」
 無線を片手に九条と皇は到着した場所から街へと入っていく。スッと皇の気配が消えたかと思うと、軽やかな足取りで建物の影を縫うように移動を始める2人。
「それじゃ俺達も行くとするか」
「そうだな」
 最後に武藤とカララクが行動を開始し、いよいよ討伐への序章が始まった。

「こちらA班、建物の損害が酷い上に、周囲には何人かの犠牲者。しかし、今のところ生存者は見当たらないな」
「私達C班も同じです。どうやら、対象の半径100メートルを除いた付近に、生存者の確認はなし。これから、更に距離を縮めます」
「了解した。‥‥‥‥千糸、ここから更に接近する。さすがにこの距離だと気づかれる恐れがあるが、行けそうか?」
「勿論よ」
 A班とC班が徐々に捜索の範囲を狭め、対象に接近する。そして、彼らの目に飛び込んできた光景、それは―――
「! ちょっと、何よあれ」
「くそっ」
 ほぼ同時に、接近を試みていた両班の皇と紫藤が押し殺した声で叫ぶ。彼らの目の前には鎮座する1匹の悪魔、そして、その隣の瓦礫が作る小さい空間に閉じ込められるように、手と足を縄でくくられた子供が4人。
「人質!? でも待って。今回のターゲットはあのキメラだけじゃないの? さすがにアレがそこまで知能が高いとは信じられないんだけど」
 驚く皇、そんな彼女達に気づく様子もないキメラはジッと座り込み、制止している。
「どうやら、最初から私達をおびき出すためのものだったのかもしれませんね。ですが、そうである以上、余計に当初の作戦が活用できるはず」
「ああ、そうだな」
 無線で連絡を告げる楓。その言葉に了解と一言送る2人の青年。そして、全員の頭に唱えられた共通の認識―――作戦開始!

 最初に静寂を破ったのはカララクの放った一筋の弾丸。瞬間、自らの翼に違和感を覚えたキメラが振り向く。
「見掛け倒し‥‥と、言いたいところだが‥‥」
 いざ、目の前に捉えて改めて実感する脅威。翼を広げ、口からあまりにも巨大すぎるゆえ飛び出した牙。この世のものとは思えぬその全貌を目の前に、思わずカララクの足が止まる。
「どーした、らしくねぇぜ?」
「‥‥ふ、言われるまでもない」
 しかし、武藤の言葉ですぐに構えを戻すカララク。構えられた2丁の銃の先端が煌く。
―――グルルァ
 しかし、その巨体に効いているのかどうかさえ不明な攻撃、確かに命中しているにもかかわらず、通常のキメラのフォースフィールドを凌駕するそれはカララクの弾丸を緩和し、
「くっ」
 巨体、この言葉から連想されるはずもない驚異的なスピードが、一気に間合いを詰める。それを後方に回避する武藤とカララク。振り下ろされる爪がカララクの横数十センチを掠めると、
―――ガガッ
 強烈な振り下ろしにより生じた地響き、それと同時に地表に刻まれた亀裂が、当たれば能力者といえどもただではすまないことを物語っていた。
「まだかっ!?」
「C班、人質に接触! このまま人質を安全な場所に避難させた後、合流します」 
 無線から聴こえてくる言葉。ふっと、思い出したかのように人質の方を塗り向くキメラであったが、そこにいたのは4人の子供を抱きかかえ走り去る、紫藤と楓の後姿。追いかける、そう脳内で判断されたのか、翼をバサッと振り下ろし構えるキメラだったのだが、その横から同時に―――
 1撃、先ほどの痛みとは違う感触を生む何か。振り向くキメラの横には
「狙い、撃つッ!」
 エネルギーガンを構えた皇、意識をそちらに向けたキメラが今度は皇相手に爪を振るおうとすると、
「随分と感情的で、幼稚な思考の悪魔だな」
「!?」
 今度は逆から突如として襲ってくる銃弾。更に振り向き見下ろすキメラの先では、九条が攻撃態勢に移っていた。九条を見、グルリと首を回し皇とカララクを見た後、そのまま身体を動かし武藤を見やる。不気味な眼球がグルリと回り、
―――ブワッ
 自分を取り囲むように散らばる能力者、その存在を否定するかのように、キメラの後ろで土煙を上げながら消えるモノ。
「来るぞ!!」
 ガガガと全方向をなぎ倒す一閃が大きく円心を描き4人を襲う。巨大なキメラの体長に見合う、長く不気味な尻尾が能力者の視界から一瞬姿を消し、その数秒後、辺りを飛び交う建物の破片。
「ッ‥‥手前ェ!」
 壮絶。KVで本来なら戦うべきかとも思える敵が繰り出す攻撃。その一撃後、振られた尻尾の、あまりにも強力な勢いのため、バランスを整えるキメラの隙を逃さなかった武藤が左から一気に尻尾へと斬りかかる。されどその前方を阻むキメラの腕。ガキンという鈍い音、食い込む刃、しかし足りない。硬い外皮に覆われたキメラの肉壁の前では、武藤の一撃では決定打を与えることは不可能であった。
「煉!」
「畜生がっ。これならどうだぁッ!」
 思わず叫ぶカララクの一声に背中を押され、滞空した状態で更に片手の蛍日を振りかざすと、
「ギシャア!!」
 途中で止まった刀の刃上に、更に一撃上乗せで叩き込む。それと同時に周囲に響いた人外の悲鳴。
「効いた!?」
「へっ、あまりなめん―――! ぐあっ」
 キメラの皮膚を引き裂き、赤い体液を周囲に散らせた武藤だったが、右側面を激しい痛みが襲うと、そのまま瓦礫の山へと叩きつけられる。
「貴様ぁ!」
 その光景を見て、キメラへと強弾を撃つカララク。それに続いて、九条と皇も前に出ながら散発的に射撃で牽制し、敵の注意をひきつける。しかし、それでも武藤を押さえつけた腕は動かない。ギシギシと骨のきしむ音、確実に防具を壊し食い込んでいく爪。あと数秒、それでコイツの息は止められる、そう判断したのかキメラがそのまま体重を乗せようとした刹那、
「‥‥知りなさい‥‥本当の悪魔と言うものを‥‥ね‥‥」
「ったく、無茶しやがって !」
 弾けた肉片、ボタボタと流れ落ちる体液。片翼が、ダラリと力をなくすのが目に見えた。
「ググ、グルァァ」
 黒い身体の所々に生える硬い体毛を逆立て、激怒の感情を顕に振り向くキメラ。そこには、
「人質は避難させておきました。予定より遅れましたが、最後の作業です」
 気づくと、自分を囲む5人の能力者。むせ返る血の焼け付く臭いを漂わせた空間の中、キメラが再び尻尾を持ち上げた。

「煉、大丈夫か?」
「ああ、問題ねぇ」
「‥‥そうか、分かった。引き続き支援する、お前はチャンスを見てアレをやれ」
 キメラが九条達へ向きを変えた瞬間、武藤の下へ走り彼の意識を確かめたカララク。続き今度は全能力者へと向けられた尻尾のなぎ払いを、武藤を担いだまま避けたカララクが告げる。アレ―――つまり、今回の切り札とも言える一撃のことを。
(「‥‥口では言っても、体は限界だな」)
 親友であり、ライバルであるからこそ良く分かる。武藤もそろそろ限界に近い。
「‥‥動き、こいつの動きをまず止める!」
 カララクが言い放ち、
「任せろ」
 それと同時に九条が地を蹴る。敵の攻撃を回避しながら、その巨体を登る彼、一度身体を空で返し、足の砂錐の爪で痛打を右手に一撃、そしてそのまま顔面へと一蹴。それを阻止しようと腕を振り上げるキメラの間接を皇の一撃が押さえ込む。
「己の内面の投影足り得ない悪魔なぞ恐るるに足らず! 」
 地表からどれほどの高さがあろうと、周囲のサポートさえあれば、最高峰の身体バランスを持つ九条にとって距離を詰めることなど他愛ない。そして伸ばされた腕に持つ銃の先にはキメラの頭上。
「―――ッ!!!」
 悲鳴どころか、何が起こったのかさえ把握する間もなく数秒間奪われる意識。零距離で放たれた九条の弾丸が、敵脳内へと響いた瞬間、
「‥‥恐怖を知らないなら知れ‥‥ただの悪魔気取りのビースト‥‥」
 トンと気づけば翼の付け根を足場に、背中に立った楓。フッと足を空へと踏み出し、そのまま落下する体。そして、赤い閃撃が上から下へと直線を描く。奪われた意識を取り戻すほどの激痛、もがれかける翼、泣き喚くような叫びで楓へと腕を振り下ろそうとしたキメラの爪が、バリンと音を立てて砕け散る。
「楓さん、良い一撃だったぜ」
「こちらこそ、援護に感謝だ」
 紫藤の弾丸が敵の攻撃の勢いを緩め、虚しくその一撃は地面へと己の血だけをばら撒く。そして、確かにキメラの動きが停止した―――
「煉、見せてやれ」
 フッと呟くカララク、そして
「街の連中の、怒りの雷‥‥その身で受けやがれッ!」
 瓦礫が作った山、その上から勢いよく飛び出した武藤が放った一筋のスピア―――爆雷槍

 爆撃。煌びやかに、花火のような瞬きに生み出された光の華に続き、赤い液体が咲く。聴こえてくる、言葉に表せぬほどの悲鳴。そのおぞましい振動が街全体を包み込む。
「やった!?」
 乗り出す楓、能力者達の目の前には倒れ込む一体の化け物‥‥
「待て、まだ息がある」
 微かに脈打つ鼓動の音、九条が倒れ込むキメラに銃を向けると、
―――ググッ
「ちっ、回復が早いな。畳み掛けるぞ!」
 必死で翼を持ち上げ起き上がるキメラ。倒れた体の跡が、しっかりと地面に刻まれている。トドメを刺そうと近寄る能力者に、切断を未だに終えることのできなかった尻尾が襲い掛かると、そのまま傷だらけの翼を広げ、ブワッと翼を上下に動かした瞬間、
「風、が‥‥」
 土煙を巻き上げながら強風が能力者の動きに制限をかける。と、そのまま
「嘘、と、飛んだ!?」
 まさかとも思える光景、その巨大な翼は、同じく巨大な身体を上へと運び、そのまま地面に強烈な風を巻き起こしたまま逃げ去ろうとする。
「逃がすか!」
 弓に持ち替え射撃する紫藤だが、やはり距離のある状態での射撃は風による影響も含め効果が期待できない。
「せっかく追い詰めたのに」
「いや、そうでもないぞ」
 悔しそうにかみ締める楓。そんな彼女に、九条が無線を取り出す。討伐は失敗‥‥かに思えたかもしれない状況。しかし、彼らは悔いることはなかった。まず、街から恐怖を解放したこと、人質が無事であったこと。そして、何より‥‥
「あの人質は明らかにキメラによるものではなかった。と、なれば、あのキメラが逃げ帰る先には‥‥」
「あ」
 後に、今回の一件は、本部に連絡された後、新たな展開を見せることとなる。それは、キメラの追跡という形から、この事件の黒幕にたどり着くという形で‥‥

「ちっ、俺の最後の一撃が浅かったせいで」
「恥じる必要はないさ。‥‥お前はよくやった」
「そうそう、煉もその傷でよくあの槍を投げたよ。それに‥‥」
 チラッと楓を見つめる紫藤に、ニコッと少女は微笑むと、少し顔を赤らめる紫藤。一仕事終えた達成感の余韻が漂うなか、それぞれの傷を気遣い、支度を整える6人。そう、彼らはあのキメラ相手にこれだけの立ち回りを見せた。それだけで、胸を誇って帰路につける資格があることは、確かな事実であった。