タイトル:絶望、後悔、愛情、殺意マスター:羽月 渚

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/02 06:45

●オープニング本文


「こんな、こんなことが‥‥」
 1990年、地球の上空に赤い星は煌いた。
「私は、私は一体何のために能力者となったのだ。私は、私は‥‥」
 バグアと名乗った侵略者、彼らに対抗する手段として開発されたSES。バグアが使用した兵器から開発した兵器でバグアと戦う。そんな絶望的ともいえる戦いであったにもかかわらず、まだ地球が彼らに支配されていないのも一つの事実ではある。少しずつ、しかし確実に反撃の狼煙は上げられている‥‥そんな希望を人類は抱き、そして能力者は絶えず戦っていた。勿論、それはこの男とて例外ではない。

「シャルル‥‥すまない、許してくれ」
 たたずむ男の名はチェスター・バーグ。彼の手に握られているのは淡く輝くキーホルダー。
 そして、時は5時間前に遡る―――――――

「えー、お父さん今日はあたしの試合、応援に来てくれるって言ったじゃない!」
「すまない、シャルル。大事なお仕事なんだよ、お前が勝てば次の応援には絶対行くから、な?」
「ふん、じゃあこの試合わざと負けちゃおーっと」
 中学生ぐらいであろうか、整った顔立ちでテニスラケットを持った少女は、不満顔でプイッと顔をそらした。
「こら、シャルル。わがまま言わないの」
「だってー‥‥お母さんひどいと思わないの!? この前ライにせっかく遊ぶ順番譲ったのにぃ」
「だーかーらー、わがまま言っちゃダメだろー」
 へへん、と言うような顔でお母さんと呼ばれた長いブロンズヘアの女性の後ろから、スッと男の子が顔を出す。
「くっ、何よあんたは黙ってて!」
 びしっとラケットで男の子の頭を叩く少女。うむ、痛そうだ。
「やれやれ、ほらシャルル。今日はこれをお父さんの代わりだと思って頑張れ」
 そう言うとバーグは少女の手にクマのキーホルダーを差し出す。
「本当はお前の試合の祝勝祝いにと思ったんだが。これで前祝になっちまったな。いいか、だから絶対勝つんだぞ?」
「ううー‥‥」
 まだ不満げな表情だったが、あきらめたのか、
「いらない。ちゃんと勝ってから貰うわ。じゃあ、あたし着替えてくる」
 と、ため息をつきその場を走って後にする少女。
「ふー。じゃあ、行ってくるよ」
「ええ、行ってらっしゃい」
「いってらっしゃーい」
 ほっと一息ついてバーグは家を出る。暖かな日常、変わらない朝。しかし、生きている限り、その日常がなくなる日はやってくる。ただ、彼にとっての問題は『それ』が早すぎるかもしれない、ということであった‥‥


―――――UPC本部。そこに緊急の依頼が提示される。
「何体かのキメラが街の中学校に立て篭もっている模様。敵情報に関しては、進入時の目撃情報から小型キメラ2体、中型キメラ3体、長身の女1体を確認」
 そして、オペレーターが告げる内容は最悪と言えるものであった。
「キメラが立て篭もっている中学校は休校日ですが、校内には部活動等の関係者が確認されています。予測人数は30人〜60人です。内部から発信された人質の情報によると、まだ生徒達は学校敷地内に多数生存しているとのこと。キメラが周囲を徘徊していると同時に、正門と裏門がキメラによって封鎖されていることから迂闊に行動できず、身を潜めている状況です」
 そしてオペレーターは追加情報に目を通し、こう告げる。
「更に、注目すべき情報として、捕まった人は殺されず、体育館内に何故か連れて行かれているとのことです。キメラがこのような行動をとるとは考えにくい‥‥何か目的を持った首謀者がいる可能性が高いと推測されます」
 突然の緊急依頼。本部に居合わせた戦力となる傭兵は、満足にも多いとはいえない状況。そんな中、真っ先に飛び出していく男が一人。
 
「―――え? ‥‥さ、更に追加情報です。被害地に家族を持つ能力者、チェスター・バーグが現地へ単独で赴いた模様。しかし彼独断の判断による行動となるため、非常に危険です。至急、今依頼の参加メンバーは現地の地図を確認後、彼の応援に向かってください!」

 能力者は強い。しかし、それでも彼らは人間。人間である以上、その思考には感情が干渉し、結果として戦いにおいて一瞬の隙が生じる場合がある。だがキメラはどうだ。殺戮兵器としてその力を揮う奴らに感情はない。そして、それゆえに強い。衝動を抑えきれず、冷静さを欠いたバーグが勝てる相手でないのは明白であった。そして‥‥ 
「うう、助けて、お父さん‥‥」
 体育館内に連れて行かれた少女を尻目に、不適に笑う女が1人‥‥

●参加者一覧

月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
如月(ga4636
20歳・♂・GP
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
旭(ga6764
26歳・♂・AA
シヴァー・JS(gb1398
29歳・♂・FT
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD

●リプレイ本文

 痛いような日差しが照りつける正午、その脅威は突如として降りかかる。
 
 舞台は小さな中学校。突然キメラの襲撃にあったその学校では、無力な人々がひたすら助けを待っていた。そんな絶望が包み込む学校を目の前に、双眼鏡を覗き込む男が1人‥‥
「正門に1匹か‥‥問題ない、いける」
 独り言のように呟く男。すると、その後ろから
「そうですね、確かになんとかなりそうです。ですが、その後はどうするつもりです?」
「!」
 ふいに背後からかけられる声、振り向くとそこには8人の傭兵がいた―――

「はじめまして、あなたがバーグさんですね」
「君達は‥‥そうか、本部からの派遣は間に合ったか」
 バーグと呼ばれた男がほっと一息つき、武装に身を包んだ8人を見渡す。先ほど声をかけた男、旭(ga6764)の方へと視線を戻すと
「ああ、私がバーグだ。突然の事態だったために対応が遅れるかもしれないと思い飛び出してきた。迷惑をかけたな」
「いえ、僕たちは」
 改めて挨拶を済ませ、勝手に飛び出してきたことを詫びるバーグ。そんな彼に、旭が返答しようとした瞬間
「あんたなぁ、一人で突っ込んでなにする気だったんだよ!?」
「あ、ちょっと如月さん」
 旭の横からスッとバーグの襟元を掴む腕。
「あんたが死んだら子供はどうすればいいんだ! 頼るべき者がいなくなった子供の辛さが分かるか!」
 激情しながら重い声で叫ぶ男の名は、如月(ga4636)。と言っても、偽名ではあるのだが。真っ直ぐにバーグを見据えながら怒りを露にする彼は知っていた。残される者の苦しみ、痛みがどれほど大きなものなのかを。だからこそ、バーグの無謀な行動に行き場のない感情が爆発していたのだ。
「あんたの子が助かっても、あんたが死んじゃ意味がないんだよ! それを分かってくれ」
「‥‥そうだな、焦りで我を忘れていた。すまなかった‥‥」
 必死に訴える如月の言葉に俯きながらも感謝するバーグ。その様子を見て、自らも落ち着きを取り戻した如月を彼は再び見据えると、
「私の娘のことは知っているのだな。だが心配しなくていい、彼の一言で目が覚めたよ」
 そう言って改めて8人を見渡し、
「今回は、頼むぞ」
 グッと腰の刀に手をかけ、告げるのであった。ミッションスタート――

「では、私は陽動に回ればいいのか」
「ああ、俺達と共にグラウンドで暴れてもらう。派手に行ってキメラを引き付けないとな」
 手はずどおりバーグに作戦を告げる月影・透夜(ga1806)。
「了解した。娘は頼んだぞ」
「ええ、おまかせを。捕らわれている者は私達が全力を以って救出します」
 走りながらバーグの不安にシヴァー・JS(gb1398)が応える。その言葉に頷くバーグ。しばらくして、前方に正門が見えてくると
「それじゃ、ここで一旦お別れだな。陽動班、これより作戦を開始する!」
 残りメンバーに月影が一声をかけ、彼とバーグ、そして西島 百白(ga2123)が一気に飛び出した!

「‥‥グルル」
 正門にいたのは小型の犬型キメラ。前方からやってくる殺気、それに気づいたキメラが前を見据え身構える。しかし
「残念だな、俺を視認してから構えても遅い」
 淀みのない切り込み、一瞬で間合いを詰めた月影。気づけば彼の美しい白色の槍が、敵胴体部を切り裂いていた。強烈な一撃の前に胴体の半分近くを失うキメラ。しかし、それでもすれ違った月影に最後の力を込めて牙を向ける。が、
「どけ‥‥雑魚に‥‥用はない」 
 太陽の光が刃に反射し標的を照らす。そして、振りかざされた刀身に写るキメラの鏡像。月影に目を向けていたキメラは、ろくに攻撃もできないまま、西島の大剣の前にひれ伏す。
「いく‥‥ぞ」
(「見事なものだな‥‥待っていろよ、シャルル」)
 まだ若い月影と西島の戦闘能力に感心しながら、いざ、バーグはグラウンドへと踏み出した。

「皆さんもお気をつけて」
 解放班のうちの一人、身体にAU−KV、リンドヴルムを装着したシャーリィ・アッシュ(gb1884)が、陽動班と別れながら彼らに視線を送る。
「ここを回った塀の裏が体育館のようです。私達はそこで待機しましょう」
 陽動班にうまく敵キメラが向かうことを祈るシャーリィ。
「できれば体育館内がどうなっているかぐらいは、把握しておきたかったのだが‥‥」
 一方、神無 戒路(ga6003)は落ち着いた様子でライフルに弾を装填しつつ呟く。
「潜入時に確認できればやってみましょう。今の状況では厳しそうですが」
 校舎にいきなり侵入することができない以上、体育館内の様子を探る方法は限られている状況。
(「無謀に正面から全員で突入していいものか‥‥」)
 だが、常に冷静な判断を求める神無は空を見上げ思案していた。

「それにしても、子供を集めてどうしようというのか、気になるところではありますね」
 解放班を後方に、ソード(ga6675)は旭に話しかける。
「確かに‥‥ですが、ともかく全員救出。これが最低限であり最大の目標です」
「ごもっとも。さて、こちらも行動を開始しましょうか」
 派手に聞こえてくる戦闘音、陽動班はどうやら成功したと見て良さそうだ。目の前に裏門を確認するソードと旭。ソードの右腕を澄んだ蒼色が包み―――
「キャイン」
 裏門のキメラは足に激痛を伴い、ソード達の方へ体を向ける。その前方にはソードが構えるライフルからの煙、しかし急激に塞がる視界。
「まずは道を開けてくれますか?」
 キメラの目の前に一気に踏み込んだ旭から抜刀される月詠。何が起きたのか思考する間もなかった一体のキメラが動かなくなり、旭の目の前に転がった。そして、

「準備は整いましたね、潜入開始です」
 各班からの無線による連絡を確認後、シヴァーの言葉を合図に4人の影が塀の上空を飛び越えた。

「外が騒がしいわね‥‥やっと本命の登場かしら? ふふ、楽しみねぇ」
 体育館内、外で戦闘が行われていることに気づいた女が不適に笑うと、彼女の後ろから飛び出して行く影が1つ‥‥

「どうやら全て順調に、というわけにはいかなさそうだな」
 正門のキメラを一気に撃破しグラウンドへと進行した陽動班の3人。その前方から何かが飛んでくる。
「1匹‥‥だな」
 標的を見据えた西島、体全体を白い光が包んだ彼が大剣を構える。
「鳥型のキメラか」
 彼らの前に現れたのは美しい羽を持つ飛行可能なキメラ、ハーピィであった。そして、その全体像を月影が視認した瞬間、急加速急降下で飛来してくる。
―――バシュッ
「‥‥面倒だな」
 激しい風を纏いながら、グラウンドに土煙が舞う。その風に乗る赤い西島の血。
「素早い敵だな。大丈夫か、西島?」
「問題‥‥ない」
 西島の腕に鋭利な爪から繰り出される斬撃を与え、再び空へと舞い戻るキメラ。
「キシャア!」
 想定されていた内容から外れた最悪のケース。そう、それは敵の形態が飛行タイプであることだった。
「どうする。我々は全員近接だぞ」
 動揺を隠せない様子のバーグ。焦りばかりが先行し、彼は落ち着きを失っている。
「くそ!」
 ただ敵を見つめ成す術なく立ち尽くす。そんな彼に西島が
「‥‥落ち着け‥‥」
 傍に歩み寄り、ガシッと肩を掴み声をかける。戦場での焦りは禁物、とでも言うような落ち着いた表情を見て頷くバーグ。とは言え、確かに遠距離攻撃の術を持たない3人には不利な状況‥‥人質のことがバーグの頭をよぎる。そんな苦しい状況の中、
「‥‥西島」
「なんだ?」
「俺がやつの動きを数秒間止める。その隙にやれるか?」
「‥‥無論‥‥だな」
 ふっと敵を見て笑う月影。そんな、どこか余裕を見せる彼に向かい、キメラは翼を広げ、ピーンと体を張る。そして
 ―――降下、前方に迫る煌く爪。‥‥しかし、今回風に舞っていた赤い液体は、3人のソレではなかった。
「ギシャ!?」
「御影流・奥義の参『獅子皇槍破』‥‥残念だったな、俺の槍は近接だけじゃあないんだよ」
 勢いよくセリアティスから発生された衝撃波。地を這い一直線に伸びたその攻撃がキメラの羽を潰す。
「全く‥‥面倒‥‥だ」
 羽を潰され、動きが止まったキメラの後方に素早く回り込む西島。上段から一気に振り下ろされる一閃、深く切っ先が地面に突き立てられ、同時にキメラの体が真っ二つに切り裂かれる。
「血に飢えた獣ほど‥‥危険な奴は‥‥いない‥‥だろ?」
 血飛沫を見つめる西島の姿は、正に上位捕食者による『狩り』であった。

―――同時刻
「潜入完了、ターゲットはあの体育館ですね。急ぎましょう!」
 陽動班が1匹のキメラと対峙している間、順調に敷地内へと侵入し体育館を目の前にする解放班。今にも突入態勢に入る如月だったが、そんな彼の肩に手をかけ制止するシヴァー。
「入り口はどうやら正面のドアと、側面のドア2つが良さそうです。二手に別れて奇襲をかけましょう」
「分かった」
 シヴァーの咄嗟の判断に頷き、飛び出す如月とシャーリィ。そして、続いてシヴァーと神無が側面へ回り込む。
「みんな、無事でいて‥‥‥‥行きます!」
 まず先手を取ったのはシャーリィ。スキル、竜の翼が発動され、急速に彼女の練力を源に加速するリンドヴルム。目の前に開かれた体育館の扉が迫る、その奥に確かに捕らえた生徒達の姿。そして
「あの女が例の女ね!」
 視界に入る情報を瞬間的に処理、女と生徒達との間に割って入る。ドガガと豪快な音を立て、片手で勢いを抑えながら女の目の前で停止するシャーリィ。体育館の床にはその際生じた摩擦により、黒い2つのラインが敷かれていた。
「良かった、皆無事だわ‥‥でもこの女、限りなく人間に近い‥‥洗脳されたか、或いは‥‥」
 丁度、女と生徒達の中間点を見事に位置取ったシャーリィ。
「あらあら。これはこれは随分と猪突猛進な小娘ね」
「人質達を解放してもらうわよ」
「ふーん。あんた珍しい格好ね」
 シャーリィの言葉は気にもせず、リンドヴルムにどうやら興味を惹かれた様子の女が彼女の前に寄ろうとする。が
「そこまでだ、動くな」
 気づけば左右に、如月とシヴァーが女を包囲していた。
「とりあえずお前には聴きたい事がある、大人しくしてもらおうか」
「‥‥大人しくしなかったら、どうするつもりかしら?」
 不適に女が笑い、尚も歩みを止めず一歩踏み出そうとする。
「!」
 しかし、前方の足元に突如として刻まれた床の丸い穴が、その行為を完全に遮断した。
「ふーん、上にも1人いたの」
 見上げる視線の先には、いつでも迎撃に移れる態勢の神無が2階でライフルを携え身構えている。
「そういうことです。すぐに投降せねば、死ぬ程に痛い目を見て貰いますよ」
 女に重く囁くシヴァー。人質の人数は10人にもみたない、絶対的に有利な状況。しかし、それでも
「あはは、いいわね、素晴らしいわ。さすがは能力者といったところかしら。では、こういった場合はどうするか見せてちょうだい!」
 不気味に笑いながら口笛を鳴らす女、すると2階の窓が割れ
「気をつけてください、キメラです!」
 窓から表れたハーピィ、上空に輝くガラスの破片。
「ちっ。まずはこいつらが先ですね」
 両手のロエティシアを構えた如月が、同時並行で自らの後ろに子供達をおき、避難するよう指示をする。
「かわいい私のキメラ、あの子供達を狙いなさい」
 女の一声に反応し、2体が一斉に飛び掛る。
「ぐ」
 両手の爪で1匹を止める如月、しかしもう1匹が横をすり抜け子供達に一直線。
「させない!」
 鈍い打裂音をたてながら、壁に突き飛ばされるシャーリィ。身を挺してキメラの体当たりを受け止めた彼女は大剣もろとも壁に叩きつけられた。
「畜生が!」
 再び子供達を狙おうとするキメラの前にシヴァーが踏み込み、蛍火の柄に手をかける、と同時にキメラの視界から消える彼の刀。
「ギシャア!」
 気づくとキメラの腕には直線の斬撃の痕、シヴァーの高速抜刀の前に怯むキメラだったが、それでも傷のない方の片手でシヴァーの体を切り裂く。攻防を繰り広げる1人と1匹の時間を止めたのは上から放たれた一撃の銃弾。
「助かりましたよ、神無さん」
 神無の精密な射撃は、敵キメラの頭部を確実に貫いていた。一方、
「がはっ」
 1人、もう1匹のキメラの攻撃を捌いていた如月であったが、さすがに敵の爪の前に体のあちこちに切り傷が刻まれていく。神無が援護しようとするも、如月の体が敵を遮り狙えない状態。踏み込むシヴァーと、痛みに耐えながら構えるシャーリィが如月の援護に入ろうとした瞬間!
「え」
 驚くシャーリィ、気づくと目の前でハーピィの羽が無数に飛び散っていた。
「トドメだ」
 そのまま一気に畳み掛ける如月とシヴァー。ほどなくして、絶命したキメラであったが、
「何かと思ったら、思いがけない援護ですね」
 ふっと笑いながら遠くに視線を傾ける如月、その延長線上にいたのは
「俺達のことも、忘れてもらっては困りますね」
 自らの身長にさえも匹敵しかねない巨大なライフルを持つソード。なんと彼は、校舎の2階から遠距離狙撃で見事にキメラの羽を貫いていたのだ。
「ふー、早く終わらせてお茶で休憩したいものです」
 そんな、どこかおっとりした一言を呟きながら、銃の反動が残る腕を回しつつ彼は体育館へと走り出す。
「さて、これで残るはあなた一人ですね」
 女の方を睨みつけるシヴァーに
「‥‥思ったよりやるのね、ここは一旦退くか」
 これ以上は無理と判断した女が体育館の外へと身を翻そうと向きを変えた、のだが
「どこへ行かれるつもりですか」
「!」
 校舎にもうキメラはいないと判断した旭は、体育館に入り女の後方へと回りこんでいた。彼の刀が大きく円心を描き、女を切り裂く。命を絶つまではいかなくとも、動けない程度のダメージを確実に与えた旭。それを見て、駆け寄る傭兵達だったのだが‥‥
「いやぁ、痛い、痛い。 何、ここどこよ。嫌、あたし、あたし」
 突如として様子が急変する女‥‥


「シャルル!」
「おどうさぁ〜ん」
 泣きながらバーグに飛びつく少女、他の子供たちも無事に解放され、各々親達と再会を喜んでいる。
「とりあえず校内の被害者は想定以上に少なかったようだな」
 周囲を見渡しながら安堵の表情を浮かべる月影。
「それで、結局例の女はどうなったんだ?」
「それがどうやら、バグアによって洗脳された一般人のようですよ」
 リンドヴルムを元のバイク形態へと戻しながら、暑かったのか水を飲みながらシャーリィが応える。
「洗脳後の記憶は一切残っていないらしいです。結局、敵の目的は分からずじまいですね」
 後味苦そうに如月が溜息をつくが、それでも
「だが‥‥依頼は‥‥成功だ」
「ああ、そうだな」
 呟く西島、彼らの前には暖かい生徒達の笑顔が広がっていた。

―――校舎屋上
「良いデータが取れたわね。あの程度のキメラじゃ通用しない、か。ふふ、次が楽しみだわ」
 ただ、彼らは自分達の戦いが監視されていたことについて気づく余地はなかったが‥‥