タイトル:チョコレート・プールマスター:羽月 渚

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/20 16:06

●オープニング本文


「あぁ、出来た、出来たわ! 遂に出来たわよぉぉぉお!!!」
「うわぁ、な、何事ですか」
 
 ――日本のとある地域に位置する、ドローム社傘下の武器開発局
 そこでは、まだ太陽も顔を出しきらぬうちに、1人騒ぐ女性の姿があった。
 まだ若いながらも、本研究所における武器開発のチームリーダーを任されている、ミーナ・リベッタ(gz0156)である。その横に立ち、眠そうな目を擦っているのは、彼女の優秀な部下でもある目島君。
 ミーナと目島君の何気ない会話。そんな、普段とは何も変わらない光景が、この研究所における1日の始まりだった。そう、ミーナの異様に高いテンションだけを除いては。
「おはよう、目島君! ほらほら、そんなところに突っ立ってないで、目島君も見て、コレ!」
「‥‥何ですか、これ?」
「うふふ、これはね――――――ズバリ、疑似チョコよ!」
「‥‥は?」
 いきなりだった。最近は夜通しで研究室に籠りながら、何やら1人で黙々と時間を過ごしたいたミーナ。そんな、普段の怠け者からは想像もつかない姿に、ミーナの部下である目島君も、ある種の感動を覚えていたというのに。
 それが、それが一体どうしたことか。久々に彼女の顔を間近に見た瞬間、目の前に差し出されたのは、フラスコに入った茶色いドロドロの物体――その名も、疑似チョコ。

「ミーナさん、あなた一体今の今まで何を開発してたんですか‥‥」
「え? 何をってチョコだけど? ほらぁ、目島君も知っての通り、チョコって今は貴重品じゃない♪」
「それはそうですけどね‥‥こんなものにまた研究費を回して‥‥肝心の武器開発はどうしたんですか!」
 ミーナは頭が良い。それは、目島君始め、彼女の部下達にとっても周知の事実だ。
 だが、根本的に何かが欠けている気がしないでもなかった。

 そりゃあ確かに、研究者にとって興味の探究は大切な要素だ。興味があるからこそ、開発は進められ、新しい開拓が進んでいく。だが、何故、武器開発局でチョコの開発を進めようとするのか。頑ななまでの合理主義な目島君にとって、この点だけは如何しても理解することが出来なかったのだろう。整理のつかない頭をフル回転させながら、眉間にしわを寄せミーナを問いただす。

「ミーナさん! あなた分かってるんですか! 僕たちの研究も一定の成果を上げないと、研究費はどんどんカットされていくんですよ!?」
「えー、だから上げたじゃない成果。ほら、この疑似チョコ、味も見た目もチョコそっくりよぉ♪」
「でーすーかーらー!!」
 もうこの人に何を言っても無駄だ。そう判断した目島君は、腰の骨をそっくりそのまま抜かれた感触に陥りながら、ドサッとソファーに腰を下ろす。
「それで‥‥何故、疑似チョコなんて開発しようと思ったんですか‥‥」
「だってぇ、世はバレンタインデーよ!? あたしは恋する乙女の味方なの!」
「バレンタインデー、先日終わりましたけどね‥‥」
「それはほら、研究の進み具合の問題ってことで」

 開発したモノに対するツッコミもあれば、その開発したモノの需要に対する時期にまでツッコミを入れなくてはならない。そんなこんなで、頭痛までしてくる目島君だったが、とりあえず一番気になることを質問することに。
「まぁ出来てしまったものは仕方ありません。それで結局、その疑似チョコはどうする気なんですか‥‥」
「うん、丁度バレンタインフェスタをやってる温泉ランドにプレゼントするつもりよ♪ 普段から色々とお世話になってるしね」
「そうですか‥‥。でもまぁ、考え方を変えれば、そのチョコを商品化することも出来そうですし、結果オーライですか」
「あ、商品化は無理よ。致命的な副作用が生体実験で分かっちゃったから」
「致命的な副作用‥‥?」

 一瞬の空白。そして、ミーナは最後にこう告げた。

「この疑似チョコ、成分の関係で媚薬効果が出ちゃったの♪」

●参加者一覧

L3・ヴァサーゴ(ga7281
12歳・♀・FT
伊万里 冬無(ga8209
18歳・♀・AA
大鳥居・麗華(gb0839
21歳・♀・BM
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC

●リプレイ本文

●魅惑のチョコレートプールにようこそ!
 擬似とはいえ見た目も味も完全なるチョコレート。
 まさしくチョコレート色のプールで一体何が起こるのか。
 さぁ。それはこれからのお楽しみだ。

「え‥‥あの、冬無‥‥? この水着は、あの‥‥」
 いい笑顔で手渡された水着は、背中の大きく開いたセクシーな一品。
 L3・ヴァサーゴ(ga7281)は水着とそれを手渡してきた大切な人である伊万里 冬無(ga8209)とを交互に見やった。
「いいじゃないですか。折角来たんですから、楽しまなくては損ですよ♪」
 そう言う彼女自身は既に着替え終えていた。
 肩紐のないチューブトップに、これ以上とないくらいローラーズなホットパンツ。
 全てが薄紫色で統一されていて、彼女の白い肌によく映えている。
「はい。麗華にはこれです!」
 巻き込まれたもう一人、大鳥居・麗華(gb0839)は、伊万里の取り出した1着の水着を見て、何処からともなく鞭を取り出した。
「なっ‥‥! 伊万里! なんですの、この水着は!!」
 パシンっと乾いた音と、何故か嬉しそうな声が響く。
「いやですわ。まだあのチョコ食べてもいないのにそんな女王様にならなくてもっ♪」
「‥‥? あのチョコ?」
「いえ。何でもないです。そんな事より、せっかく用意したんですから、着てくれますよね? 麗華さん♪」
 何やら含みのある言葉が聞こえた気もしなくもない。
 だがまずはこの目の前に提示された水着をどうするかが先だ、と大鳥居は考える。
 見た目は所謂タンキニ ―−タンクトップビキニ、というやつだ。
 それだけなら拒みはしなかった。
 ただその水着の胸元が丸くくり貫かれ、谷間が酷く強調されて露出する、そんなデザインでなければ。
「‥‥着て、くれますよね‥‥?」
 うるりとした瞳で見つめられれば、友人の願いを拒む事など大鳥居には出来ない。
「‥‥今回だけですからね」
 溜息をひとつ落として、大鳥居はその水着を着る事を決めるのだった。

「賑やかだなぁ」
 更衣室内はカーテンで仕切れる様になっている。
 カーテンの向こう側で水着に着替え終えていたリュティア・アマリリス(gc0778)は、自分の体をもう一度眺めた。
 ライムグリーンのセパレートタイプの水着は今日の為のおろしたて。
「‥‥でも、変わってるよね。プールはプールでも、チョコレートのプールだなんて」
 しかも、ここはプールではなく温泉ランドだったはずだ。
 が、悩んでいても仕方ない。
 折角来たのだから楽しまなくては損。
 それは確かなのだから。

 直江 夢理(gb3361)は傷心の身の上だった。
 色々な事があったのだ。
 大切な人との別れや、自分の愛についてどうすべきか。
 悩んだ末に、全ての愛を包んでいこうと思っていた。
 それでも、やはり傷ついた心は隠せない。
 そんな時に、この依頼を見つけたのだ。
「思い出の場所、ですね」
 小さく苦笑してしまうのは、仕方がない。
 とにかく今は、気分転換がしたいのだ。
 そう。全てのチョコレートを食べつくしてしまおうと思うくらいに。

「チョコで溺れられるなんて浪漫‥‥! 遊び倒すぞー!」
 蒼河 拓人(gb2873)は温泉ランドに行くと決めてから売店で様々な遊び道具を買い占めていた。
 浮き輪に水鉄砲におたまに水筒‥‥。
 後半は何やら遊び道具ではなくなっているが、深くは気にしない。
 楽しければいいのだから。

 そう。一部の人間だけしか知らない。
 これから皆が入るチョコレート・プールの、恐るべき副作用は‥‥。

●あそびましょう
 特設コーナーには様々なものがあった。
 まず、飛び込み台を見つけた蒼河は、真っ先にそこへと上って行く。
「何故飛ぶのか。それはそこにチョコがあるからだよ! あいきゃんふらーい!」
 勢いよくドボンとチョコレートプールに飛び込めば、僅かだが口からプール内の擬似チョコレートが入ってきた。
 美味しい。想像より、ずっと美味しい。
「そうだ。このチョコ、オブジェにも出来るんだよね。だったら、作ってみよう!」
 丁度、自分以外の人がいるんだから、モデルになってもらおう。
 そう考えながら、蒼河はペタペタとチョコを寄せ始めた。
 時々、香りに吸い寄せられる様に、チョコを食べながら、とろん、とした表情になりながら。

 特設コーナーの片隅で、チョコをやけ食いしていた直江はほぅ、と溜息を吐いた。
「ミーナ様‥‥素敵でした‥‥」
 つい先ほど、少しだけ顔を出したこの擬似チョコレートの開発者であるミーナとばったり出会ってからというもの、直江の頭には素敵に笑うミーナの姿が只管浮かんでいたのだ。
「あぁ‥‥流れる銀髪‥‥豊かな胸‥‥私の大好きだったお姉様にそっくりでした‥‥」
 上気した頬に手を当てながら、もう一度溜息を吐く。
「愛するお姉様に甘えるみたいに‥‥抱きついたり胸の感触を確かめたり、あんな事やこんな事を‥‥」
 想像は止まらない。
 甘い甘い香りと、魅惑的な味なチョコレート。
 少しずつ、その全容が見え始めた。

「思った以上にオブジェがたくさんありましたね。よく出来てました」
 オブジェを見た後、リュティアはチョコレートの滝の前へとやって来ていた。
 本物ではないとはいえ、とにかく本物に限りなく近い外見の擬似チョコレートが、文字通り滝のように上から下へと流れ落ちている。
「液体状、という事は飲めるんですよね、きっと」
 そっと掬って口元に運ぶ。
 それは想像していたよりもずっと甘かったが、だからといってくどい味でもなく。
 簡単に言えば、美味しかった。
「これだけ美味しいなら、プールに入っても飽きませんね」
 滝の先、擬似チョコレートがタプンタプンと溜まっているプールへと足を運びながら、リュティアは少し想像してみる。
 つまり。チョコレートのプールに入った自分を。
「‥‥なんだか、バナナにでもなった気分ですね」

 そして。
 恐るべき事態が起き始めていた。
 まずその症状が出始めたのはヴァサーゴだった。
「この、プール‥‥本当に、本物のチョコ‥‥のよう‥‥」
 うっとりとした表情で、そっとチョコレートの海からそれを掬い上げる。
 ただでさえ青白いヴァサーゴの手のひらを、二の腕を、チョコレートがゆったりと流れていく様はとても映えていた。
 その横で、同じ様にとろんとした表情をしながら擬似チョコレートと戯れる大鳥居。
 彼女は最初、眼前に広がるチョコレートのプールに少々不安を抱いていた。
「これ、大丈夫なんですの?」
 と言っていたのだが、同行していたヴァサーゴと伊万里がそのチョコレートを掬い上げて口に運んだのを見て
「ヴァサーゴが大丈夫なら‥‥あら、なかなか美味しいですわね」
 その甘い香りと魅惑の味には勝てなかった。
 次から次へと口に運んでいるうちに、ヴァサーゴも大鳥居も、だんだん表情がとろんと、それこそチョコレートのように甘くなっていったのだ。
「ふふっ。計画通り‥‥ですねぇ♪」
 チョコレートをお互いにかけ合ったり、塗りあったりしているヴァサーゴと大鳥居を少し離れた場所からビデオ撮影していたのは伊万里。
 そう。彼女は知っていたのだ。
 この擬似チョコレートが、一体どんな副作用をもたらすのかを。
「あぁ‥‥チョコって、こんなにも‥‥熱くなるもの、なの‥‥」
「うぅん‥‥よく分かりませんけど、そんな事どうでもいいじゃあありませんか♪」
 ただ擬似チョコをかけ合うだけなら、水遊びと大して変わらない。
 けれど、熱っぽい吐息交じりで、時に抱き合ったり体を摺り寄せあったりしているのは、違う。
 何かが、間違った方向に効いているとしか言えない。
「はぁ、はぁ‥‥んふふぅ、計画通りです♪ あぁ、最高です♪ ‥‥でもぉ」
 歓喜の笑みを浮かべる伊万里は、心の底からこの擬似チョコレートを作ったミーナに感謝しつつ、自分をそっちのけで戯れる2人に嫉妬を覚えもする。
 それでも、こんなに素晴らしい作用なら、別に悪い副作用だといって開発中止にしなくてもよかったのに。
 いいじゃない。この媚薬副作用。万歳。

 そう。伊万里だけが知っていたのだ。
 この擬似チョコレートには、媚薬作用があるのだと。

●迷い込むキメラもキメラ
 全員が大小様々な副作用効果が現れた、そんな時だった。
 ドタンバタンと音を立てて、プールに続く更衣室からひとつの影が飛び込んできた。
「‥‥ん‥‥?」
 上気した顔で全員がそちらを眺めれば。
 そこには、何一つ身に纏っていない人間ではない何かが立っていた。
 それは、キメラだった。
 唯一つ、何も身に纏っていない、という点を除けば、唯のキメラだった。
 そのキメラは、プールの中で戯れていたヴァサーゴと大鳥居へと向かっていく。
「むぅ」
 それにまず反応したのは、飛び込み台からプールサイドへと戻ってきていた蒼河だ。
「ん〜? 何でこんな所にキミみたいなのがいるのさぁ!」
 真っ赤な顔で、持ち込んだおたまを使いプールからチョコを掬い上げると、口調とは裏腹の豪腕でおたまをスイングする。
 そう。スイング。まるでホームランでも打てるのではないか、というような、見事なスイングだった。
 当然、おたまの中に入っていたチョコは、キメラへとぶっかけられるわけで。
 どういう偶然か、キメラの目へと直撃したのだろう、目を押さえて転げまわるキメラは何というか、少し哀れだ。
 何だ何だと寄って来た伊万里は、はふぅと息を吐いて微笑む。
「ふふぅ。キメラさぁん‥‥。一緒に遊びたいなら、そう言ってくださればよかったのにぃ」
 視界が戻ったキメラの眼前に自分の胸を持って行き、寄せて、更に上げて、と妖艶な表情つきで声をかける。
「うふふ。でもぉ‥‥」
 動きを止めたキメラに、更に顔を近づけて笑った伊万里が、勢いよく足を振り上げた。
「邪魔をした報い。生命と身体で受けなさいです♪」
 そのまま両足でキメラの下半身をがっちりとホールドして、プールサイドへと引き倒す。
 伊万里の横に並び立ったのは、こちらも上気した頬でうっとりとした表情の大鳥居だ。
「私達の邪魔をした報いを受けるのですわ! このまま溺れ死になさいな」
 引き倒されたキメラの頭部をがっしりと掴み、そのままプールの中へと勢いよく突っ込んだ。
 ゴボゴボ、とチョコレートプールから気泡が上がる。
 それでも大鳥居はキメラの頭部をチョコレートの中から上げない。
「そう‥‥ん‥‥そのまま、命尽きてしまえば‥‥いい‥‥」
 寄って来たヴァサーゴが、大鳥居の掴んでいた頭を引き受けて曲がってはいけない方へと曲げようとしたところで。
 ザバンッっと取り押さえていた伊万里や大鳥居、ヴァサーゴを跳ね飛ばす勢いでキメラが起き上がった。
 若干息が切れているように見えるが、相手はキメラだ。気にしてはいけない。
 まさしく息も絶え絶えな状態のキメラが、3人娘を跳ね除け、蒼河すらも払い除けて逃走しようとする。
 が、そこで更衣室から2つの影が飛び出した。
 紅潮した頬と荒い息の2人、直江とリュティアだ。
「愛するエヴァ様からのお迎えかと思いましたけど、エヴァ様は私に『誰にも負けるな』と仰っていました‥‥」
 直江の手に握られているのは、カプロイア製の銃M2007だ。
「敬愛する伯爵様の銃で、乙女の大切なものを護らせて頂き‥‥あら?」
 ズガン。と言葉の途中で発砲してしまったのは、チョコレートの媚薬作用のせいだろう。そういう事にしておく。
 そしてその横を迅雷を使用してすり抜けていったのは、双短剣を手にしたリュティア。
「もう少しバナナの気分でいたいんです。すみませんが、退場してください」
 理性総動員で円閃とスマッシュを使用し、両手の短剣をクロスさせる。
 チョコレートまみれのキメラは、既に水攻めならぬチョコレート攻めも受けていた為、まともな攻撃を食らってダメ押しされたのだろう。
 滝の元へとフラフラ移動して、そのままボチャンと落ち、二度とあがっては来なかった。

●その後
 キメラの討伐後も、暫くはチョコレートに酔ったメンバーは戯れていた。
「もうっ、もう我慢出来ませんです♪」
 その一言と共にヴァサーゴと大鳥居に飛び掛った伊万里や。
「伊万里のキメラへの挑発を見ていたら‥‥興奮してきましたわ、ヴァサーゴ‥‥」
 もう一度プールの中でチョコのかけあいをしようとする大鳥居。
「う、ん‥‥はぁ‥‥体が何か、熱いなぁ‥‥」
 そう言いながら再び飛び込み台へと向かう蒼河。
「そう、ですよね‥‥前に、進めるよう、頑張りますエヴァ様‥‥」
 うっとりとした表情でチョコを掬い上げる直江。
「‥‥なん、でしょうか‥‥皆さんを見ていたら、何だか‥‥」
 モジモジとしながらも、プールへと飛び込むリュティア。
 とにかく、完全に副作用が効き過ぎてしまっているメンバーを確認した研究員は、大きく息を吐いて、吸って。
「ミーナさんっ!! どう収拾つけるんですかーー!!」
 温泉ランドには甘い魅惑的な香りと、後始末に奔走する数名の研究員の姿が見られた。
 ついで、といってはなんだが。
 研究員の数名が、俗に言う『ミイラ取りがミイラになる』をその体で表したとの報告も、あったり、なかったり。


(代筆:風亜智疾)