●リプレイ本文
ここは、つい最近日本に存在する温泉ランドの隣に建設された、ウォータランドの水着貸出所&更衣室。
そこでは、男子と女子に分かれたグループが、各々目を輝かせながら自らが着用する水着を選んでいた。
「今ひとつピンとくるものがないな‥‥。この色は‥‥派手すぎるか」
事の発端は、ドローム社の企画した『傭兵達にひと時の休息をキャンペーン』。
そのキャンペーンに見事当選したうちの1人、御山・アキラ(
ga0532)は、中々良い水着が見つからないのかお悩み中の様だ。
「麗華さん麗華さん、この水着なんか如何です? きっと似合いますですよ♪」
「た、確かに私の美貌を存分に発揮出来そうな水着ですが‥‥少し露出度が高すぎではありませんこと?」
「何を言ってますですか♪ せっかくのプール、私を楽しませて下さいです♪」
一方、こちらは彩り溢れる水着を見つつ、伊万里 冬無(
ga8209)からアドバイスを受けている大鳥居・麗華(
gb0839)の姿が。
露出度の高い水着を麗華が着ることにより、何故伊万里が楽しめるのかは置いてといて、伊万里は自身の水着以上に麗華への水着選びに熱心なようだ。
「‥‥我、どの水着、選択すべき‥‥」
そんな中、2人の様子を眺めつつこちらも水着選びに一生懸命なのがL3・ヴァサーゴ(
ga7281)。身長が低めなこともあってか、サイズ的に合うのが子供用になってしまう為、ある意味ヴァサーゴにとっては誰よりも水着選びは悩ましいものだったかもしれない。
「ヴァサーゴさんにはこれがピッタリです♪ ささ、試着室に〜」
と、そうこうしているうちに、何時の間にかヴァサーゴに似合いそうな水着を見つけたらしい伊万里が、それを片手に彼女へと薦め始める。見ればその手には黒のゴスロリ風水着が握られているようなのだが‥‥
「にしても、そのサイズで良くそんな水着がありましたわね」
麗華の言うように、なんだか妙にえっちぃビキニなのは気のせいか。
「さてさて、それじゃあ準備は終わりましたですね? では、いざ出陣です〜♪」
かくして、人工太陽の輝く屋内巨大プールへの砂浜へと、水着もバッチリ決まった少女たちは向かうのであった。
●自由時間の光景〜その1〜
「さて、問題が起きなければいいのですけどね‥‥」
オープンしたばかりな為、一般客もかなり多いのだが、室内の広大さもあり比較的空間にゆとりのあるウォーターランド。
早速傭兵達も自由行動開始と言うことで、狭霧 雷(
ga6900)は何事もないことを祈りつつ周囲の様子に気を配る。
遊びに来たというよりも、参加者の保護者的な感じもしなくはないが、「いくら休暇とはいえ、ハメを外し過ぎるのは良くないですからね」との一言とともに、年長者らしく周囲に気を配る様子は、彼の規律心と、ちょっぴり苦労人っぽいところを浮かばせているようだ。
「暑い夏にウォーターランドで遊び放題♪ これは嬉しいわね♪」
「ええ、そうね。あたしもお誘いいただけて嬉しいわ」
一方、狭霧とは反対に当選したからには遊びつくそうと考えているのは日本人肌に銀色の髪が映える女性、冴城 アスカ(
gb4188)である。
「あら、あっちは流れるがあるみたいね。少し行ってみない?」
「え‥‥た、楽しそうではあるんだけど‥‥その、私、カナヅチと言うか何と言うか」
だが、一緒に遊ぶ予定のミーナ・リベッタ(gz0156)からの誘いに対して、実はカナヅチであったことを少し恥ずかしそうに話すアスカ。
傭兵と言えど、やはり得手不得手があるのも事実だ。とりあえずそんなこともあり、まずは2人で浅いプールへ行ってみることに。
「だんだん慣れてきたら、今度はウォータースライダーへと行ってみましょうか♪」
「そうね、それなら私もきっと大丈夫だわ」
だが、アスカの心配もこのウォーターランドでは些細なことだった。
と言うのも、『全ての人に楽しんでもらえるように』を方針の設計されたこの施設では、シアター形式でのアトラクションなど、泳ぎの苦手なアスカにとっても十分に楽しめる場所が多数存在していたのだ。
そのことをまだ良く知らないアスカ。それゆえに、色々連れ回ってアスカを驚かせてみようとミーナが企んでいたのを、アスカはこの時は知る由もないのであった。
「それでは、まず何処に行ってみますですか?」
「先に準備の終わったヴァサーゴは、確かドーナッツプールで待っているとのことでしたわよ」
さて、それぞれ参加者も全員が着替えを完了し、いよいよ始った本格的な自由時間。
思いのほか水着選びに時間のかかった伊万里と麗華の2人は、まず、巨大プールが珍しかったらしく、先に室内の様子を見に行ったヴァサーゴと合流する為、ドーナッツプールへと足を進めていた。
「うふふ〜楽しみですね、麗華さん♪ ‥‥って、あら?」
今からどんな遊び(悪戯とも言う)をしようかと思案しつつ、期待に胸を膨らませる伊万里。するとそんな時、ドーナッツプールへと歩いていく途中に、横の深いプールにてとある異変に彼女は気付く。
「ん、どうしましたの伊万里‥‥って、あれは!? 誰かが溺れていますわ!」
異変に真っ先に気付いた伊万里に続き、隣の麗華も即座にその光景に目を奪われた。何とそこでは、1人の少女が苦しそうに足場ないの深いプールにて水飛沫を立て、もがいていたのだ!
「待ってなさいですわ、今行きますわよ!」
少女を見つけ次第、麗華は持ち前の俊敏さを活かした1蹴りでプールへと真っ先に飛び出す。
そして、無我夢中で溺れている者の救出を行った彼女は、数分後――
「すいません、美音、泳ぎが得意ではなくて‥‥ありがとうございました」
1人の少女、柚紀 美音(
gb8029)をお姫様だっこした状態で、ヴァサーゴと合流することになるのだった。
***
「待たせましたわね、ヴァサーゴ。紹介しますわ、こちらは柚紀 美音。向こうで出会ったんですわよ」
「我‥‥Legions、第三‥‥ヴァサーゴ‥‥宜しく‥‥」
「はぅ、可憐でぎゅっとしたくなる方ですね。よろしくお願いします」
「?」
――場面は変わり、ドーナッツプールにて。
先程のプチ救助から僅かばかり。何か意気投合するものでもあったのだろう。単独行動だった為に、一緒に遊ばないかと麗華とヴァサーゴに誘われた美音はと言うと、すっかり2人と仲良くなった様子で楽しそうに会話を弾ませていた。
「美音も故郷を失ったのですわね‥‥。私も、昔住んでいた館が破壊されてしまったのですわ」
「お姫様だったのですね‥‥。凄いです」
何気ない話から過去の話まで。話せば話すほど麗華と距離が近づいていくのを感じる美音。
更には、プカプカと浮輪で浮いているヴァサーゴが可愛かったのか、隣に一緒に浮かんだかと思えば、流れに任せて2人でドーナッツプールを一周したり。
きっと、今まで一人放浪していた美音にとってはよほど嬉しかったのだろう。その顔には、満面の笑みがこぼれている様子だった。
――だが。
そう、ここで忘れてならないのが『アイツ』の存在だ。
「麗華さ〜ん、あちらでアイスクリームが売ってあr」
「美音〜、あんまり流されるとまた溺れますわよー」
「ヴァサーゴさ〜ん、浮かんでばかりいないでウォータースライダーにでm」
「美音、次は‥‥2人乗りの‥‥浮輪、探す?」
「‥‥‥‥‥」
何ということだろうか。何時の間にか仲良くなった3人に対して、自分はポツーンと置いてけぼり感をくらったことが否めない伊万里。
勿論、そこで沸き上がるのは禍々しい嫉妬のオーラでして。そして――
「あら、伊万里は何処に行ったんですの?」
「伊万里‥‥行方、不明?」
「どうされたんでしょうか、心配ですね」
ドーナッツプールで泳ぐ中、気付けば伊万里がいないことに気付いた3人の底から‥‥
――ゴボボボ
「って、何ですの!?」
「!?」
「ひゃん!」
「ぷはぁっ♪ うふふ、アハハハッ! 私を仲間外れにはさせませんです♪」
正にこれぞささやかな報復。素早く3人の水着の紐を解いて剥奪しにかかった彼女は、見事達成した後、やり遂げた表情で浮上し戦利品(?)を天高く掲げるのだった。
「な、何ですかーこれはー」
慣れっこのヴァサーゴと麗華にはともかく、美音には少し刺激が強すぎたかもしれなかったけど、ね。
「あっちの方が何だか騒がしいですねぇ」
「ん、そんなことは如何でも良いから、ほら。エンタはどれにする?」
「僕はー‥‥これなんかおいしそうですね」
さてさて、伊万里たちのカオス空間は一先ず置いといて、こちらは彼女達以上に仲の良さそうな――いや、ラブラブなアキラと金城 エンタ(
ga4154)の2人。
最初はプールを楽しんでいた2人だが、ノドが渇いたのか少し浜辺で休憩中のようだった。ちょうど近くで和風なオープンカフェを開店していた矢神小雪(
gb3650)からカクテルを購入したアキラたちは、肩を寄り添いあいながら腰を下ろし談笑を楽しんでいる。
「エンタ‥‥」
「?」
と、その時、そっとエンタの手の上にアキラが手をすえたかと思うと、そのまま彼女は唇を重ねてカクテルを口移し。
「ア、アキラさん‥‥こんなところで。でも、これ普通に飲むより‥‥酔いそうですね‥‥いろんな意味で‥‥」
積極的、とでも言うのだろうか。人目を特に気にする様子もないアキラに対し、少しエンタは顔を赤らめつつもそれを受け入れる。凄く、ラブラブです。
「いやぁ、ラブラブですねぇ〜」
そんな2人を遠目越しに、小雪の子狐屋で軽く食事中だったのは五十嵐 八九十(
gb7911)。
傭兵としての初戦闘も無事に終え、骨休みにやってきたという彼は、とりあえずゆっくりくつろごうとまったりモードだ。
「ん? サルミ‥‥何だろう、洋菓子か何かかな? すいません、このサルミアッキというのも一つ、御願いします」
すると、軽食を終えた彼は、デザートを探そうとメニューを閲覧している時にとある聞きなれない名を目にする。
ようかんやケーキと言った様々なデザートが揃う中、何故か目を引く珍しいな名のお菓子――サルミ○アッキ。
とりあえず、食べてみないことには始まらないと早速注文した五十嵐は、出てきた小さめのお菓子を1口パクリ。
「あ、言い忘れましたけど、サルミアッキは、食べた後の責任は当店は一切持てませんよ‥‥と、遅かったかな」
ふむふむ、まず口に広がったのは何ともいえない味。しかしその後、目の前で小雪の心配そうな顔が一瞬過ぎったかと思うと、刹那、五十嵐の口に途轍もない衝撃が走った。
「ぬ‥‥‥‥ブッ、ウボァーーーーー!!」
「あっ、こら、きたな――」
本人曰く、それはそれは凄い味、と言うよりも、脳を揺るがすものだったと言う。
目の前が真っ暗になったかと思うと、気絶すると同時に涙やら色々と混ざったものを出しつつ地面に堕ちていった五十嵐。
走馬灯すら見えたかもしれない瞬間だったが、その後の彼はと言うと、営業の邪魔だったらしく従業員の手で流れるプールにドボン。
ああ、眩き光に射されつつ、口と胃を絶えない悪夢に襲われた五十嵐君。
今彼は、その悪夢に魘されつつプールを放流している。‥‥どんまい!
●企画その1〜チキチキ☆ビーチフラッグ〜
「ビーチフラックの会場は‥‥ここか」
既に何だかドタバタな展開が始まっている気がしないでもない、ウォーターランド。
オープン初日と言うこともあり、人口浜辺では、賞金の金額こそ少ないものの、お昼休みを前にビーチフラッグ大会が催されていた。
「にしても、良いのか。一般人と能力者が一緒に参加して」
「良いの良いの〜♪ 元々、能力者をアピールするのも目的のひとつだったりするから」
「そうか‥‥。なら、遠慮はいらないな」
多数の観客を前に、黒髪と黒い瞳が日本人肌を一層際立たせるのは須佐 武流(
ga1461)。
程よく締まった体と端麗な容姿のためか、ミーナを始めとした女性人からやたらと熱い声援を受けているものの、本人は特に気にする様子もなくスタートラインに並ぶ。
「一瞬で終わるスポーツだが、奥は深いらしいな」
「‥‥そうね。絶対、負けないわよ」
一方、やる気満々な須佐と同じく、いやそれ以上にやる気に溢れていたのが紅 アリカ(
ga8708)だ。
覚醒こそしていないが、青い陽炎らしきオーラが見えてくるのは気のせいか。
「はは、とりあえず、決勝で会えるようお互い頑張ろう」
そんな、物静かな雰囲気に反して心は意外と熱い(?)アリカに笑みをこぼしつつ、こっちも負けてられないと意気込むのは、アリカの夫であるジェイ・ガーランド(
ga9899)。
戦いにおいて、時に戦局をチェス盤に見立てることもある彼。ルールを念入りに確認しているあたり、そういった思慮深さは、どうやら普段の私生活でもにじみ出ている様子。
――では、位置について〜
ドン。響くピストル音とともに駆け出したのは、第一組のメンバーである獅子河馬(
gb5095)とジェイ。
「1位は私が貰った!」
完璧なタイミングでスタートダッシュに成功した獅子河馬は、砂飛沫を上げながらフラッグ目掛け一目散。
「予選で1位になる必要はない‥‥ここはとりあえず、フラッグを確保する!」
闘志むき出しな獅子河馬に対し、遅れたジェイはと言うと焦らず彼の後方につく作戦に。
例え「走」で2位だったとしても、狙うフラッグが首位と被ってしまえば、3位以下、果てはフラッグを取ることすらままならぬ場合もこの種目。
それを考慮していたジェイは、予選なのもあり敢えて本気は見せず、確実に決勝進出を狙うことに。
堅実なながらも、先に見るは決勝1位の2文字。かくして――予選Aブロック、獅子河馬・ジェイ決勝進出。
「‥‥中々な走りだったわね。それじゃ、決勝で会いましょう」
「さぁて、ここはいっちょ優勝して、ミーナさんにいいところ見せないとねぇ」
Aブロック代表が選出されたことで、予選もいよいよBブロックの試合へ。
こちらは、アリカとアスカの結果がやはり気になるところだ。
女同士の戦い、とも言えるかもしれないが、それぞれジェイやミーナと親しい者が観戦しているだけに、負けられない戦い。
そして――
(「1、2、3‥‥いけ!」)
(「‥‥疾い――!?」)
獅子河馬と同じく、完璧なスタートダッシュを切ったのはアスカ!
心の中で静かにタイミングを見計らっていた彼女は、あと一歩間違えばフライングとも取れるスタートで一気に首位に出る。
「‥‥負けないわよ」
だが、そのスピードに意表を衝かれたものの、アリカとて負けてはいられない。
出だしでこそ僅かに差が出来たが、純粋に脚力の勝負となると、見た目以上のポテンシャルを見せ付ける。
普段はそのままストレートで下に流している髪も、今回はポニーテールに結び、かつわざわざ黒のフラッグ用ビキニまで用意していたアリカ。
その甲斐あってか――
「取った!」
「‥‥取ったわよ」
ほぼ同着。横に並んだ2本のフラッグを、同じタイミングで手中に収めるのだった。――予選Bブロック、アリカ・アスカ決勝進出。
「予想通りとは言え、決勝の面子はほぼ皆能力者か」
こんな時でも、ちゃっかり能力者の普及を働きかけるドローム社の動きも計画的なものが感じられたが、予想通り見知った面子が多く残ったことに苦笑するジェイ。
「ふふ、泳ぎは苦手だけど、走るのは譲れないわね」
「俺も負けるわけにはいかん」
入念にアップを始めるアスカの横で、須佐は静かに目を瞑り精神を統一する。
Cブロックでの予選では圧倒的なスピードを見せ付けた須佐だったが、周りの声援に少し笑顔で応えただけで、周囲の女性陣がやたら盛り上ったとか何とか。
「決勝は3組のトーナメントで、6人が各2人ずつに分かれて決戦か」
「‥‥約束どおり、最後まで勝ち抜けると良いわね」
こうして、最後まで絞られたメンバー6人により、いよいよ幕を切った決勝戦。
「残りの力全てを‥‥1位を狙うことに懸けるぜ! 」
キャンペーン当選者の中でも、比較的、大人な雰囲気の方々(?)が揃ったためか、特にドタバタすることもなく、最終的に栄光のフラッグを手にした者は――
チキチキ☆ビーチフラッグ.優勝者:須佐 準優勝者:ジェイ セクシーだった賞:アリカ
●自由時間の光景〜その2〜
観客の盛り上りも中々に、無事決勝まで終了したビーチフラッグ大会。
その後は時間もちょうど昼時なことから、子狐屋で皆各々食事を取っていた。
するとそんな時、目を細めながら静かに天を仰ぐ青年が1人‥‥
「人工とは言え、青い空に白い雲。楽しげな人々、綺麗なお姉さん、可愛い女の子、そして‥‥」
迷彩柄の水着に、鍛え抜かれた傭兵の体と、それに反する整った顔立ちが目を引く、夜十字・信人(
ga8235)が、意味深げな言葉を呟いていた。
一見、見た目こそ攻撃的ではあるが、目の前を通り過ぎていくお客の皆様(特に女性)を見る眼差しは生暖かく、表情は非常に締まりがない様子の彼。
そんな、ある意味紳士的匂いをかもし出す彼には、ある1つの悩みがある様子だった。
と、言うのも――
「綺麗なお姉さん、可愛い女の子、そして‥‥」
先ほどの台詞の後半を再び詠唱しつつ、信人はチラッと視線を横に向ける。そこでは
「はい、麗華さん、フランクフルトですよ♪ あ〜ん、です♪」
「あ、あ〜んですわ」
「‥‥‥‥」
そう、他でもない、伊万里の姿が。
実は、せっかくキャンペーンに当選したのだから、こっそりドサクサに紛れてセクハラをやってやろうと考えていた信人。
しかしその夢もはかなく、一部危険な面子が存在していたがゆえに、それを断念せざるを得ない状態になっていたのだ。
「はい、いなりずしですよー」
「うむ、すまない」
心の中で涙を飲むものの、それを顔には出さない彼。小雪が注文していたいなりずしを持ってくるが、パッと見無害そうな彼女でさえ、信人から言わせれば危険人物の1人らしい。
「我が身が可愛い故に、今回、予定していた多くのセクハラは無し、か‥‥‥‥ちっ」
若干最後に舌打ちが聞こえた気もしなくはないが、こうして、昼食を済ませ立ち上がった信人は、パンフを片手に流れるプールの方へと歩いていく。
「この歯がゆさを‥‥俺は糧に、優勝する」
なんてことを囁きながら歩く彼の前には、『流れるプール逆泳レース・会場』の看板が、立っているのだった。
●企画その2〜流れるプール逆泳レース!〜
「さぁさぁ、それではこれより、逆泳レースを開催したいと思います」
おいしい出店で燃料補給は万全。テンションの高い解説者の声に背中を押され、そこには一般人を含むレース参加者がプールにぷかぷかと浮いていた。
「ルールは単純、この流れるプールを水の流れに逆らい逆泳し、最初に3週した者が優勝です!」
やることはシンプル。だが、地味に辛いのも事実。そんな根気が試される大会ではあったが、信人はパチリと目を閉じ、精神を統一中。
「うぅ、お姉さまも観ていられることですし、ここは何としても優勝を‥‥!」
「私も負けてはいられませんね」
一方、信人に比べこちらもやる気では負けていないのが 直江 夢理(
gb3361)とストレガ(
gb4457)の2人だ。
「夢理さんも頑張ってくださ〜い」
「あ、お姉さま、あんな所から身を乗り出してまで私のことを‥‥(ポッ」
大好きな月夜魅(
ga7375)からの声援で、心なしか力が沸いてくるのを感じる直江。かくして今、スタートの合図とともに参加者全員が、一斉に水を掻き分けて泳ぎ始めるのだった。
丈夫な体を持ち。
欲ハナク。
決シテイカラズ。
イツモ静カニ笑ッテイル。
ソウイウ人ニ、私ハナリタイ。
「‥‥‥‥おっと、何か違うか」
競泳開始から1分弱。早くもトップに躍り出たのは、ぶっちゃけ意味不明な瞑想とともに泳ぐ、信人であった。
アウトローが多い傭兵の中でも、ひと際(駄目な方向へ)進む彼は、(世間体とかの)冷たい雨にも負けず(周囲の目とかの)向い風にも負けない逞しい心の持ち主だったらしく、流れに逆らうなどお手のものといった様子でグングン2位との差を突き放していく。
「くっ、そう簡単に負けるわけには!」
だが、それでも差を縮めようと腕に力を入れるのはストレガだ。細く締まった美しい体のラインが特徴的な彼女は、信人と同じくクロールで彼の後を追う‥‥のだったが――その時! そんな彼女の前に流れてくる1つの物体が!
「!? こ、これは――人っ!?」
何とそれは、先ほど気を失ったままこのプールへと投げ込まれていた五十嵐であった!
先ほどの舌への強烈な襲撃のおかげで、未だに意識がボーッとしていた彼。
勿論、そんなことは知らない、と言うか予想すらしていなかったストレガだったのだが、とりあえずは苦しそうな五十嵐をプールサイドにどかしてから、再びゴールを目指すことに。
しかし、完全な不意打ちによるタイムロスはあまりに痛く――結局、彼女の前では先に信人がゴールを切っているのだった。
流れるプール逆泳レース.1位:信人
●自由時間の光景〜その3〜
「結構遊べましたねぇ。意外と僕も疲れちゃいました」
「そうだな」
こうして、静かに外の本物の太陽も、室内の人工太陽も徐々にその光が欠けていく頃。
綺麗にライトアップされたプールを前に、アキラとエンタはホテルに戻るまでの時間を楽しんでいた。
ロマンチックな雰囲気の中、美しい世界に囲まれて。見れば、彼ら達の周囲にもたくさんのカップルが見受けられている。
「少し、寒くなってきたな‥‥。そろそろ出るか?」
「あともう少しだけ、こうしていましょう」
と、そんな恋人達だけの空間でも、他に引けを取らないラブラブな2人。
少し寒そうな様子だったアキラが気になったのか、エンタは自身のウインドブレーカーをアキラの背にかけると、そのまま隣に肌を重ね、アキラの体温を感じ取るように彼女を温める。
「ありがとう、エンタ」
「こんな時くらいしか、男の子らしいところ、みせられませんけどね‥‥」
今はただ、この幸せな瞬間がずっと続いて欲しい。そう微かな願いとともに、エンタはアキラに身を委ねるのだった。
***
「さぁって、うふふ、恒例のバストチェッーク! ですよ〜♪」
さて、甘いシーンをとりあえずはウァーターランドで紹介する最後の場面とし、今度はウォーターランドの隣に位置する、温泉ランドにスポットを当ててみることにしよう。
「だ、だから何故あなたはいつも胸にこだわるんですの!? わ、私は絶対に遠慮しますわよ!」
「あぁん♪ そんなこと言って麗華さんってば、タオルもつけず堂々と見せ付けてくれますですね♪」
「なっ!?」
ウォーターランドでの汗を流すため、すっかり仲良くなった美音を連れて温泉ランドまでやってきていたヴァサーゴ、伊万里、麗華の3人。
そこでは、早速と言わんばかりに伊万里による、恒例のバストチェック(ただの乳揉みとも言う)が行われようとしていた。
「ふむふむ、相変わらず主張の激しい胸ですね♪」
「うう」
伊万里相手に、抵抗するだけ無駄なことは知っていた麗華。悲しい現実だが、口では嫌々と言いつつも、ちゃっかり体を許してしまっている辺りが切ない。
――そんな、普段と変わらない(?)光景。しかし、今日はひとつだけ、違うことがあった。
「うふふ、麗華さんはチェック終了です♪ それでは、次は〜」
シャキーン。ペロッと舌で指を舐めつつ、鋭い視線を向けなおす伊万里。そう、何と言っても、今日は新しく見つけた逸材、柚紀美音がいるのだ!
「え、え、何ですか?」
しかし、自分が今正に狙われていることなど知る由もない美音。麗華たちに比べ少し遅れて入浴しに来たため、ついさっき行われた伊万里の過剰なスキンシップは未だ目にしてはいない。そして――
「美音さん、お覚悟です♪」
「ふぇ?」
――ポム
何と言うことだろうか。そこでは、まだ幼い少女の胸を後ろから鷲掴みにしたかと思えば、上下に揺さ振ったり、中央に寄せたりして堪能するメイドが1人。
「わ〜ん、お嫁にいけないですよ〜」
その弄りに涙目で抵抗するしか出来ない美音は、ただただかつてない衝撃に頬を紅潮させていく。
しかし、その様子に羨望の眼差しを向けつつ、少し俯いて、元気のない少女がいた。
「美音も‥‥冬無、麗華と同じく‥‥胸、大きい‥‥。我だけ‥‥小さい事‥‥少々、寂しい‥‥」
ここでまさかの本音ぶっちゃけトーク、ヴァサーゴである。
あまり表情に出さないとはいえ、実は胸のサイズにコンプレックスを抱いていた彼女。
見た目こそ幼いが、実年齢が結構高い為か、それとも仲が良いメンバーが皆豊満だったのが災いしたのか。とりあえず、目線を下に落とし悲しんでいる様子の姿が、なんとも切ない。
「ヴ、ヴァサーゴはほら、まだまだ大きくなりますわよ!」
そんな彼女を放ってはおけず、必死で苦しい慰めをする麗華だが、
「‥‥麗華、この中でも一番胸大きいけれど‥‥何か‥‥方法等、ある‥‥? 揉んでみれば‥‥分かる‥‥?」
などと、どうやら本気で気にしているらしい素振りを見せられ、思わず口をつぐんでしまう。
「むむむ、あ、あれは!? なぁにやってますですか! こうなったら美音さん、突撃ですよ!」
「え、え?」
そして――結局、何故か麗華の乳を揉んで、乳の謎に迫ることにしたらしいヴァサーゴに伊万里が気づいたかと思うと、勿論そんなことは許せない彼女は嫉妬オーラマックスで、2人の元へと駆けて行くのだった。
その後どんな光景が繰り広げられたかについては、ご想像にお任せします。
「‥‥綺麗な空ね」
「また来年も、こうして遊べるといいな」
「‥‥ええ」
かくして、各々が描き出す楽しき時間も過ぎていく。
混浴風呂の中で、2人して夜空の天涯に散らばる星を眺めつつ、来年もまたこうして楽しもう、と約束を交わすジェイとアリカ。
「須佐さんとアスカさんのおかげで今日は色々と楽しかったわ。本当にありがと♪」
温泉ランドのロビーでは、ミーナが色々と引率を手伝ってくれた須佐や、遊んでくれたアスカに感謝している。
「ふぅ。今日は特に何事もなかったようで何よりですね」
そんな光景を見つつ、ホクホクと湯気を立てながら今日と言う日が無事に終ることを確信し、安堵しているのは狭霧だ。勿論、本人は女湯の中で何が起きているのかなど知る由もないのだが、ある意味、これはこれで狭霧にとっては良かったのかもしれない。
皆の笑顔の為に。今日も、ウォーターランドと温泉ランドは、笑顔で溢れる楽しい時間を刻んでいくのだろう。
夜の帳はおろされる。だが、耳を澄ませばホテルの中からは、何時までも楽しげな声が響いてくるのであった――