タイトル:蠍の星が欠けるときマスター:羽月 渚

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 4 人
リプレイ完成日時:
2009/09/07 21:23

●オープニング本文


 ――シェイド討伐作戦
 UPCの正規軍を囮に、ロサンゼルスにてシェイドを叩く。
 簡単に言えば、これを目標に掲げたのが、本大規模作戦――通称、Woiである。
 その激戦の舞台となった地域の1つに、サンディエゴ市街地があった。
 基本的に本作戦の最大目的はシェイドの無力化であり、サンディエゴにおける戦闘自体の優先度は低い。しかし、それでも今後の戦局に関わる大切な戦域であると同時に、士気を高めるという意味でも、最後まで火花が消えることはなかったここサンディエゴ。
 優先度は低い。そうは言ったものの、この市街戦には非常に大きな意味があったのもまた、事実である。
 そんな、血と硝煙の臭いに包まれた市街地の地下水路にて、1人、屈辱の表情で歩を進める少女の姿があった――

 ***

「以上が本作戦の概要である。前言した通り、蠍座エヴァ・ハイレシスは未だ市街地内に留まっているだろう。弱っているこのチャンスを逃すわけにもいかない。何としてもここで抹殺せよ!」
 ――UPC、北米司令部
 そこでは、緊急で提示されたミッションに対し、上層部の面々も戦闘を終えた後の一息すら、許されない状態が続いていた。
 と言うのも、サンディエゴ市街地において、ゾディアック蠍座、エヴァ・ハイレシス(gz0190)のFR破壊に成功し、更にはエヴァを地上へ追いやることに成功していたからだ。
 これを好機と見たUPC軍は、至急、FRから緊急離脱し、市街地内へ潜伏したと思われるエヴァを捕捉ないし抹殺せよと、緊急部隊の編成を進めていた。
「報告によれば、エヴァ・ハイレシスは下水道へと逃げ込んだとのことですが‥‥」
「なぁに、既に街を巡る水路の地図を手配し、発見部隊も送り込んでいる。ネズミめが、あぶり出しにしてくれるわ」
 FRを破壊しただけでなく、パイロットを敵側に救助されることなく撃退したのは、この上ない収穫であったのだろう。目をぎらつかせる様にして地下水路の地図を眺めつつ、絶えず先遣隊からの報告を待っている指令官。ここでエヴァを捕らえることが出来れば、人類側は大きな一歩を踏み出すこととなるであろうことは、言うまでもない。
「あとは、エヴァを討つに足りえる人材さえ揃えば‥‥」
 チャンスとは言え、傭兵側も本作戦において疲弊は既に限界である。おそらく、バグア側からの救助隊に先を越されてしまえば、我々に成す術はない。
 スピードと、結果を結ぶまでに必要となるであろう戦力。この2つが揃って初めて、ゾディアックを獲るに至れるのだ。
「逃がすわけにはいかない‥‥。そう、絶対に、絶対にだ! 至急、精鋭を手配しろ。蠍座の墓場はサンディエゴだ!」
 血が舞い、幾つもの命が堕ちていったサンディエゴにて。
 再び、痛み伴う悪夢が繰り返されようとしていた。
「くっ、クソ‥‥あの、傭兵‥‥ども、が‥‥。絶対に、絶対に‥‥許さない」
 ただ1人。憎しみに歪む悲痛な声を、暗き道に響かせて――

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
大鳥居・麗華(gb0839
21歳・♀・BM
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

 少し乾いた空気に混じる鉄の臭いが、その日の少女には苦く、何処か切なく感じられた。

 ――サンディエゴ市街地
 先のシェイド討伐作戦において、戦場の舞台の1つとなっていたここサンディエゴ。今では大規模な戦いも終了し、辺りを取り巻く煙と瓦礫の山、そして小型キメラが散在する以外、特に目を引くものはない。
 そんな中、1歩1歩の足音にさえ気を配りながら、しかし確実に進みを止めない人影が12人。無線機や地図を片手に先を急いでいた。

「私、馬鹿ですよね‥初めてエヴァ様と出会って助けられた時、いつか分かり合って、姉妹の様になれるって思っていたんですよ」
「‥‥。辛いかもしれないけど、私達がここでエヴァをバグアから解放するんだ」
「そう‥ですね」
 その12人のうち、幼さが目を引く1人、直江 夢理(gb3361)は下を俯きながら唇を噛みしめる様に言葉を放つ。
 初めてエヴァ・ハイレシス(gz0190)と会ったのは何時だっただろうか。その後何度か対峙し、気付けばここまでエヴァと接点を持つようになっていた彼女。
 戦いを繰返し、何時しか直江の胸の中には、敵対心以外にも別の感情が芽生えていたのかもしれない。そんな少女を横目で見つつ、赤崎羽矢子(gb2140)は言葉少なに装備の点検を行っている。
 赤崎にとっても、エヴァに対する思いは直江と同等、いや、それ以上に大きかったはずだ。
 何度も相まみえながら、未だにエヴァをバグアから解放できなかった自分の力不足を嘆きつつ、遂にここまでやってきた。もう、これ以上のチャンスは2度と訪れないだろう。何としてもここで、エヴァのバグアとしての時に終止符を打たなくては。
「そろそろ本部から指示のあった地点だよ。さあ、ここで幕を下ろそうか」
 深いような浅いような、微妙な因縁だった。だからこそただ君を討つことだけを誓おう。
 蒼河 拓人(gb2873)は一度静かに目を閉じ、強く地を蹴りだす。
「間違いなく‥これまでで一番の敵になるでしょうね‥」
 その後に続く柊 沙雪(gb4452)の顔が険しさを増したその先。風は強く、まるでとぐろを巻くように1点に集中する、比較的、周囲に何もない開けた場所。
 そこで目を引くのが、ポツンと置かれたマンホールだった。そして‥‥
 ボンッ、という音とともに勢いよく弾け飛んだ灰色の円板。と、同時に飛び出してきた人物――
「あらあら‥全く、嫌になるわね。下にも鼠が多いと思ったら、上にも鼠が何匹か‥」
「さぁって、ネズミはどっちの方だかな。ここで会ったが百年目、あの時の借りはキッチリと返させて貰うぜ」
 ノビル・ラグ(ga3704)が隠密潜行しつつ、物陰から銃口を向けた先。そこにいる者こそ、泥と水を払いながらうんざりした顔つきの少女――蠍座、エヴァ・ハイレシスだ。
 かくして、各々の思いを胸に今、サンディエゴにて再び激戦の火蓋が切って落とされるのだった。

●幕開け
「目標を確認。エヴァ・ハイレシスと確認できた。護衛戦力は0。これより閃光手榴弾を投擲する!」
 先手必勝。本来ならエヴァが飛び出すと同時に行いたかったが、さすがにそれは難しく、エヴァを視認後、閃光手榴弾を彼女めがけ投擲した緑川 安則(ga0157)。
 瞬間、周囲を目が眩む光が包みこみ、それはエヴァの動きを確実に止める。
「な、何よこれ。目が」
「よし、効いたぞ!」
「行きますわよ! ふふ、やっと私のこの手でバグアに止めをさせる‥覚悟なさい!」
 確かな手ごたえを掴んだ緑川。そのまま射撃班による牽制射撃でエヴァを足止めしつつ、一気に瞬速縮地で接近した大鳥居・麗華(gb0839)が低姿勢から跳ね上がる。
 己の過去を振り返ると、影に潜むバグアの悪夢。あの辛い記憶と戦いながら、遂にバグアのトップ級にトドメをさせる日が来たのだ。そう思い、力の限りエヴァめがけラブルパイルを麗華が振りかざした――その時
「なーんてね。あれ、前にも見たことあるんだけど」
「何!?」
 目を擦っていたエヴァは、そこから視線をチラリと上げ、クスッと唇の両端を釣り上げる。作戦自体は悪くなかった。しかし、以前エヴァは既に閃光手榴弾にやられていたのが原因だったのだろう。
 刹那、麗華の身体の側面にエヴァが回り込んだかと思えば、そのままエヴァは細腕からは想像もつかないほどの力で麗華の頭を鷲掴むと
「くっ、放しなさ」
「あなた、綺麗な髪してるじゃない。泥でシャンプーでもしてなさいな!」
「!?」
 痛烈な一撃。コンクリートの地面に頭部を抗う間もなく叩きつけられた麗華は、意識を数秒間剥奪されると同時に、その後激しい痛みと血の味が口に広がっていることに気付く。
「痒い所はないかしら?」
 しかし、なおも押さえつける力を緩めないエヴァ。と、そこに
「近衛のキメラがいないのは残念だ‥少し早いがメインディッシュといこうか」
「エヴァ‥あんたは私が何としてもここで解放してあげる!」
 目にも止まらぬスピードで間合いを詰めた2人、鯨井昼寝(ga0488)と赤崎がそれぞれ爪と剣による左右からの攻撃!
「ちっ、相変わらずうるさい女ね!」
 その攻撃を上空に飛びかわしながらも、赤崎の方を一瞥し、吐いて捨てるようにエヴァは言葉を放つ。
「大丈夫かい」
「ま、まだまだ私はこんなところでは倒れませんわよ」
 そのエヴァから視線は離さずとも、痛手を負った麗華に手を差し出す赤崎。1秒たりとも油断してはならない。そんな相手が、正に今目の前にいるのだ。
「さっきは上手く避けたみたいだけど、上空に逃げ場はない」
 が、そんな敵を相手に1歩も引けを取らないのが昼寝だった。地の一蹴りとともにエヴァ目がけシュナイザーを突き立てる彼女。このまま腹部を裂く、そう判断し半回転した――矢先
「あなた、さっき近衛のキメラいないとか言ってたけど‥‥ダメじゃない、地下にも目を向けないと」
「――!? しまっ」
「食いちぎれ、ギルタブ!」
 エヴァの一声と同時に、マンホールの底から現れた巨大な蛇型のキメラの牙が、上空の昼寝の腹部を切り裂いていた――


「大丈夫ですか、鯨井さん」
「ええ、掠っただけよ」
 蠍座の最大の能力はキメラの使役力。その点に注意していたからこそ、目に見える範囲にキメラがいなかったことに少なからず油断してしまったことも事実だ。駆け寄ってく沙雪に大丈夫と告げる昼寝。寸前でかわした為、思ったより傷は深くない。
「この子、市街地で戦闘が始まる前に地下に忍ばせておいたの。いざって時の為にね」
 不意打ちに成功した満足感からか、エヴァは無邪気に笑いながら隣のキメラに手をかける。グルルと不気味な腹音を立て彼女に平伏す巨大な蛇。その顔には血が飛び散っており、腹からは多数、人の形がぽっこりと出ているようだが。
「なるほど‥自らの退路確保に加え、先遣隊はソイツで始末したのか。用意周到なことだね」
 やはりそう簡単に討たせてはくれないか。そう思い、エヴァを睨む赤崎の目にも力が入る。
「コイツは俺と昼寝、拓人でやるぜ。他のヤツらはエヴァを頼む」
 まずは敵の戦力を分散すしなくてはならない。対キメラを想定していたノビルの声かけに、昼寝と拓人も頷いた。
「悪いな。エヴァ・ハイレシス、可愛らしい顔は傷つけたくないが、手は抜けないのでね」
「あらあら、それは残念ね」
 キメラに3人、残りはエヴァ。いよいよ本番の始りに、強気な口調の緑川の首にも汗が伝わる。第2局、開始。

●微笑みの凶刃
「いくよ、エヴァ!」
「あはは、あなたにあたしが殺せるかしら!?」
 まず飛び出したのは赤崎だった。踏み込みと同時に素早さを活かしエヴァの死角に回り込むと、そのまま彼女はハミングバードを突き立てる。
 ――キィン
「なっ」
「随分と鍛えられた剣ね‥でも残念、あたしの服は硬いわよ」
 しかし、金属音を立てたかと思うと、エヴァは赤崎の攻撃を完全に受け止めているではないか。
「エヴァ様‥これが私の覚悟です!」
「ちっ」
 と、赤崎の剣を押さえつつ反撃しようとしていたエヴァに、続いて2波目と言わんばかりに飛び出した直江の剣が薙がれる。
 グッと半身を逸らしそれを避けるエヴァ。が、その頭上から――
「あの程度の攻撃、何ともないですわ! あなたを倒せるのなら!」
 先程エヴァから屈辱的な攻撃を受けた麗華が、100倍返しとの勢いで上空から体重を乗せた杭の鉄槌!
「ガッ」
 斬ではなく打。目に見える外傷はないものの、その衝撃が凄まじかったせいか、杭の一撃が胸部に直撃したエヴァは思わず体勢を崩してしまう。
「やっと隙を見せてくれましたね。カウンターをさせる暇は与えません!」
 そしてそこに追撃するは沙雪の疾風迅雷。目にも止まらぬ二回攻撃を人体急所向けて斬りつけた彼女の早技に、エヴァは怒りに満ちた表情で顔を歪ませる。
「こ‥の‥小娘どもがぁあ!」
「くっ」
 だが、刃を食い込ませた分、エヴァの攻撃は苛烈を極めることに。彼女の黒い衣服部分が変化したかと思うと、それは不気味に鼓動し沙雪達を切り裂く。
「エヴァ様、私を許せませんか? 私も許せません。貴女を救えなかった、私自身が‥!」
「!」
 それでも――この少女だけは怯まなかった。想いを込めた命さえ昇華する一撃。エヴァのカウンターでミカエルの装甲を剥がれつつも、決死にエヴァの首元へ直江はガラティーンの刃先を運ぶ。
「あ、あんた、何でそこまで‥‥」
「痛い、です‥けど、エヴァ様の痛みに比べたら全然大した事ないです!」
「――ッ」
 グサ、鈍い音と共にミカエルの破損個所から覗く赤く染まった白い肌。膝をつく少女、しかし――その少女が持つ刃は、エヴァの喉元を確かに捉えている。
「チッ、あたしとしたことが」
 喉元を押さえるエヴァの横で動かない直江。だが、彼女の覚悟は確とエヴァに隙を作った。
「夢理にばっかり良い格好はさせられないね。聞きな、エヴァ。あたしの名は赤崎羽矢子。ずっと貴女を倒すべく足掻いてきた。ここで終わりにしよう!」
 直江の想いと自分の想いは違うかもしれない。だが、目指すべきものは同じ。直江の攻撃で怯むエヴァに、赤崎も力を振り絞り渾身の一撃!
「ふ‥ざけるなぁああ!」
 とは言え、なおも地に膝をつける様子はないエヴァは、周囲を一掃するかのように黒服を鞭の如く伸ばして薙ぎ払う。その瞬間生まれる衝撃波は、地煙を立ち上げ、肌を切り裂くかまいたちの如く麗華達に襲いかかる程だ。
「体にキメラを寄生させてるのか‥その身体をそれ以上弄ぶんじゃない!」
 込み上げる怒りに震えながら、衝撃波の波をくぐりエヴァへ前進する赤崎。それを支援するように、精密に発射された緑川の貫通弾はエヴァの脚部を撃ち抜いていく。
「ちっ、ギルタブ! そんなに雑魚どもに何手こずっているの! さっさとあたしに加勢しな――」
 さすがにKVでの戦闘時受けた傷の影響が大きく、如何しても数の差の前に戦いを有利に運べないのも事実だった。仕方ないとはいえ、思わずギルタブに援護を要請するエヴァ。しかし、その時彼女が見た光景は、余りに信じがたいものだった。
「な‥、い、何時の間にギルタブを」
「あまいぜ、こんなので俺たちを止められるとでも思ったか!」
 驚愕の表情を浮かべるエヴァの前で、全身傷だらけになりながらも「余裕余裕」と笑顔を見せて挑発しているノビル。その横では
「ま、オードブルとしてはこんなものか」
 夥しい血を噴射しながら、ダラリと力を失っていく蛇が崩れ落ちていた。

●蠍の星が欠ける時
「貴様らぁあ!」
 怒り狂うとは、こういったことを言うのだろうか。憎いという感情が全身を包んだエヴァは、最早冷静な判断に欠けていたのかもしれない。
 ここで逃げる選択肢もあったのだろうが、何としてもこの屈辱は晴らすと衣服を刃へ変形する彼女。
「そろそろ締めといこうか」
「蠍に蹂躙された者達の怒りを込めて――これで最期だ!」
 緑川の一声とともに、まずはノビルの銃口から一筋の直線を描き撃ち出された弾丸。それを右腕で弾いたエヴァはノビルへと突進。
「させるか!」
 が、その前をふさぐように展開する赤崎と沙雪。
「邪魔だぁあ!」
「何て‥力」
 それでも、ゾディアックの本気による攻撃は凄まじいの一言だった。体ごと空に浮かされたかと思えば、あとは純粋に力のみで横へと吹っ飛ばされてしまう2人。次いで左右から麗華と直江、正面から昼根が迫るものの、空高くエヴァが飛んだと思えば、上から無数に枝分かれした刃が襲い来る!
「ほらほら、どうしたの!」
 そのまま着地すると、再び向きをノビルへと向けエヴァは片足を踏み込む。まずい、止められないか!? そう誰もが思った、その時
「所詮君はキメラというお人形がいなければ何も出来ない。そう、君こそが本当の欠陥品なんだよ」
「なっ」
 後ろから聞こえた自身を侮辱する声。それに怒り、エヴァが振り向いたその先には――
「無線‥機」
「もう終わりにしよう」
「しまっ」
 ――ガガッ。激しい光、発砲音とともに煙に包まれていくエヴァ。そこでは、無線機を囮にその逆に展開した拓人が、あらん限りの力で引き金を引いていた。
「くそっ、くそっ!」
 額、胸、丹田。次々と繰り返される衝撃に肉が剥がれ、武器の衣服も塵となって行く。そして
「今だよ!」
「バグアが人を踏み躙る限り、あたしはあんた達を赦さない。この星に、あんた達の居場所を認めない!」
「エヴァ様、さようなら。そして、ごめんなさい!」
「――ガッ‥‥」
 吹きあがる血飛沫。赤く彩られていく白い肌には、赤崎と直江の2本の剣が突き刺さっていた。

●そして
「まさか‥‥あたしが負けちゃうなんて‥‥ね。でも、直にここへはキメラがやって来る。そうなればあなた達は」
「キメラならここへは来ませんわよ。別班の4人から連絡が入りましたわ。周囲のキメラ排他完了と」
「‥‥本当、憎らしい人達」
 それは、油断だったのだろうか。それとも、何があっても自分はキメラに護られる。その慢心が結果的にこの現状を生み出してしまったのだろうか。戦いを終えてみれば、他班4人の活躍もあり、その場にはエヴァを救済出来る者は誰一人としていなかった。

「エヴァ様‥」
「あら、素顔を直に見るのは初めてね‥。声通り、随分と可愛い顔だこと」
 ミカエルを解除し、改めて壁に伏せるエヴァの前に寄り添う直江。最早、エヴァはかろうじて半身が繋がっている状態だ。
「エヴァ様、私‥」
「いやね‥そんな顔‥しないで‥よ」
 生気の消えていく体。目は虚ろになり、声も徐々に擦れていく。
「夢理、辛いだろうけどここで一先ずお別れだ。あとは回収してから弔ってやらないと」
「‥‥」

 欠けていく夕日の光に包まれて、緑髪の少女に抱かれ蠍は眠る。
 今わの際、直江の耳にはか細い声が聞こえたと言う。
「このあたしに勝ったんだから‥他の奴らに負けるんじゃ‥ないわよ」
 その言葉に少女はただ、頬に一粒の雫を流すのだった――