●リプレイ本文
●夏ですね
「無機物溶解光線の効力のほど‥。ここで見極めておかなければ、人類は間違いなく破滅の道を辿りますわ‥」
米国某所、リゾートシティ。そこでは、前方に広い観光ビーチを見据えた8人の能力者が、それぞれ壮絶な表情で立っていた。
「まだ良く分りませんが‥強そうな、相手‥ですね」
「ええ。油断した途端、生贄になる可能性は大ですわよ」
不安気な様子で呟く周藤 惠(
gb2118)に対して、ゴクリと生唾を飲み込みながら、無機物溶解光線の危険性を唱えるのはエルフリーデ・ローリー(
gb3060)。
無機物溶解。そう、今回彼女達が対峙するキメラは、そんな特殊な能力を有していたのだ。
「ビーチの一般人の避難誘導は終わったみたいだね。んじゃまあ、早速お仕事といきますか」
事前に成すべき処置は全て終了した。あとは、能力者が問題のキメラを討伐するのみ。エルフリーデの提案により、彼女の予備武器を多数抱えた九条・護(
gb2093)は元気に意気込む。
これから、彼女達は自分たちを待ち受けている存在がどれほどのものなのか、まだ知る由はない。だが、確かに言えたこととしては、何かヤバい予感がする――ということだけだった。
「触手に‥吸盤と‥そして白濁ぬるぬるかぁ。これはもう、思う存分堪能しないと損ってもんだよね♪」
が、ここまで来たからには、何としてもビーチから人類の恐怖を取り除かなくては。身体をゾクゾクと震わせながら、今にも突撃開始しそうな様子のレイチェル・レッドレイ(
gb2739)。
彼女の場合、ある意味別の目的で参加してそうだが、ここで深くは触れまい。
「さ、それじゃ楽しんでイこー!」
こうして、8人の尊い能力者達はいざ、混沌の渦巻くビーチへ――
「む‥。ヤバい、小銃忘れた‥」
「あ゛!?」
一方、勢いよく敵へ向かい走りだしたは言いものの、携帯品から銃を取り出そうとして、それを忘れていることに気付いたのは夜十字・信人(
ga8235)。
瞬間、やっべどうするよ俺、と顔を青ざめる信人の横では、彼曰く、妹分で悪夢な芹架・セロリ(
ga8801)が見るからに幻滅した顔でこちらを見つめる。結構、視線が痛いです。
「ま、よっちーだし。その斧があれば何とかなるだろうよ」
と、涙目の信人に対してセロリは彼のベオウルフを指さしながら、クスクスと悪戯に邪笑。言うまでもなく近接オンリーで突っ込めばどうなるかは想像に容易いが、これもまた天明なのだろうか。
「よっちーはそういう星の元に生まれてしまったのですよ♪ ですが、こっちもしっかり頑張ってもらいますですよ♪」
するとこちらは、信人に持参したマイビデオカメラを差し出した伊万里 冬無(
ga8209)の姿が。何をさせる気なのかは、この後解るとして、いよいよ8人の前にはキメラの姿がはっきりと見えてくる。
「思ったより‥デカイな」
「うわぁお。ヤりがいがありそぉ♪」
かくして、各人各々の想いを胸に今、ある意味激戦必死の戦闘は開始されるのだった。
(「魔法少女って何だ‥‥」)
1人、超機械マジシャンズロッドを手にしたセロリが、全く関係ない思案に耽っていたのは内緒だけどね。
●何かもう色々と凄い人達
ゴゴゴゴ。この光景に効果音をつけるとすれば、正にこんな感じの音がぴったりだろう。
堂々と浜辺の真ん中を位置どり、まるで犠牲にやって来る者達を待ち受けるかのように佇む1体のキメラ。そしてそれを囲み散開する8人の能力者。
周囲には、くれあ(
ga9206)やエルフリーデらによって地面のあちこちに武器が突き立てられている。武器が何本溶けようが、一切の遠慮はいらない状態だ。
「グゥオオ」
「間近で見ると、より一層迫力がありますわね‥。さて、まずは誰が最初に‥」
右手には触手、左手には吸盤。そして筋肉の異常発達した脚。そのどれもが恐ろしく、インパクトの凄まじいものであった。そんなキメラに、予想していたとはいえ、さすがにエルフリーデの首筋には冷や汗が光る。
まず、最初に突っ込む覚悟がある者は誰か。いや、ここはやはり全員で一気に行くか?
僅かばかりの静寂。しかし――
「あふぅ、もう我慢ならないです♪ 伊万里冬無、往きますですよ♪」
「出し惜しみはなしってね♪ さ、ボクと遊ぼう」
何か2人飛び出したー!? ある意味予想通りとはいえ、キメラの迫力など何のその。2本のハルスヴァルドを両手に走りだす伊万里と同時に、レイチェルも機械剣α片手に猛ダッシュ!
「レイチェルさぁ〜ん? 今回は負けませんですよ♪」
「むむ、やはり真っ先に来たかっ。冬無ちゃんとは何時ぞやのサバイバル以来だし‥‥ふふ、どれだけ腕を上げたかお手並み拝見とイこうじゃないか♪」
久々の再会に心躍らせながらも、最初は横並びの並走から伊万里が右腕、レイチェルが左腕へとそれぞれ展開。
駆ける2人。その視線に揺るぎはなく、獲物へと一心に向かっていく。とは言え
「グルァア!!」
やはりここで出た、噂の無機物溶解ビーム! 狙いの定められたその放射は、確実に伊万里とレイチェルを捉えている。まずい、早く避けなくては――
「アハハハッ! そんなものでは私は止められませんですよ♪」
「これが話にあった‥。んんっ、凄い、服が見る見る溶けてイくっ」
ってこいつら避けるどころか全然止まらねぇーー!? しかも、伊万里に至っては武器を溶かされないよう背中に回したと思いきや、後は光線を『身体』で受けながら、服を溶かされつつキメラに迫っているではないか。
「アハ、アハハハ〜♪」
パネェ、パネェです伊万里さんっ! 嬉しそうに笑いながらも、見る見るお山のてっぺんが見えてくる彼女。その姿、正に我が大道を阻むものなし、と言ったところか。
「何ということだ‥。こんな、こんなことがあって良いのか!?」
一方、そんな2人に釘つけだったのは言うまでもなく信人君。ハァハァと荒い息使いでビデオを回す彼だが、キャラ崩壊とかそんなレベルじゃ済みません。
「よっしゃあ! 2人に続くぞそりゃああ! エコエコザメザメアザアザラーク!」
と、伊万里達の勇姿に触発されたのか、信人を除く待機していた5人も一斉に突撃開始。
魔法少女って何だ、との問いに何かアンサーでも出たのか、セロリは意味深げな言葉と共にマジシャンズロッドを振り振り。やってる仕草は可愛いが、周囲に強力な磁場の空間が生み出される!
「まずは‥足っ! ‥ふぇ? や、きゃぁ!?」
だがそのキメラ、巨大にしてあまりにも強かった。まずは筋肉隆々の脚を潰そうとした周藤は、上からの触手に背中を押さえられ、そのまま身体の自由を奪われる。
「や、だ、ダメぇ。ぁ、ぃや‥も、もぐって‥来ないでぇっ!」
潜って来ただと!? ついつい過激な光景と発言に報告官も取り乱してしまいそうだが、そのまま巧みすぎる触手に色々と弄られてしまう周藤。
チュウウピトッ。チュウウピトッ。おまけに、触手で動きを封じられたかと思えば、次は吸盤の熱烈なキス地獄がループ。
「いやぁ‥いやぁ‥」
悲惨とかそんな言葉じゃ片付けられない光景の周藤だが、最早半泣きである。
「ふあぁ‥んぁっ♪ こ、この吸い付き‥ぁ、でも‥そっちも‥っ♪」
と、そうこうしているうちにレイチェルは、2つ同時に楽しんでいる(彼女にはそう見えた様です)周藤の姿が羨ましかったのか、吸盤に抱かれながらも右手で触手を手繰り寄せ中。
「ほら‥此処だよ。ふぁ‥! す、すご‥い、くる‥っ」
そのまま誘い受けと言わんばかりにキメラのスキルを自らの快楽への糧とすると、レイチェルは今にも昇天しそうな顔で頬を紅潮させていく。
ちなみに、本人は気持ち良いのかどうかは別として、その間にもどんどん生命力がすり減っている点が何ともカオスだ。
「こ、これは‥ふぅむ、な、中々ですね♪ あぁ、そ、そこはっ。んぐぅっ! んふふ、うふふふ‥!」
一方、一番最初に触手に捕まっていた伊万里は、無機物溶解ビームの所為もあり、曝け出された身体のあちこちを触手に這いずり回られていた。
「こ、ここまでとは思いませんでしたです♪ これは麗華さんがいないのが‥悔やまれ‥‥ぁぁん!」
ビクン。身体の熱りと共に、激しく脈打つ身体。最高潮にまで達している伊万里は、一体何を心に描いていたのだろうか。いや、きっと真っ白だったのだろう。
そう、こう言ったことは知り尽くした(?)彼女ですら、その触手テクは想像を絶するものだったのだ! しかし、にも関わらずガニ股で斧を振り続けている辺りが何とも恐ろs‥‥げふん、彼女らしい。
「ほらほら、威勢が良いのは認めるけど、バックが隙だらけだよ!」
と、フロントがあまりにもシュールなことになっているその時、こちらは後ろから攻撃を仕掛けた九条。なるほど、後ろからならビームも対象外か。
「まずは一発! そして次は‥」
最初は挨拶代わりに背中へ一撃。響く銃声と背後の衝撃に振り向くキメラだが、そこまでダメージはない様子。
しかし――その次に取った九条の行動が、ある意味最大の謎だった。
「‥ふむふむ。‥‥‥‥って何だこの尻の締まり具合はーー!! ゆっるゆるじゃないか!」
えええーー!? どういうわけかお尻の締まり具合を確認した九条。その結果に突如ブチ切れたかと思うと、そのままブラッディローズを尻のピーにぶっ放す。
「グルァアッ――!」
あ、これはかなり効いたらしい。思わず標的を九条に変えるキメラだが、尻が弱点とは何とも嫌らしい奴である。
ちなみに後日談だが、九条は何故キメラの尻に銃をお見舞いしたのかとの問いに対して、静かにこう告げたらしい。
「尻の力の入り具合が、非紳士的だったから」
‥‥もうダメだ。
「あん! すみません、ついつい触手のせいで動きが〜」
さて、最早ここまでくると真面目な戦闘中なのかどうかさえ疑問に思えてくるが、くれあはここぞとばかりに、どさくさ紛れに捕まってる人を触ったり揉も揉みしたり。
「あはっ♪ むしろボクは大歓迎。だけど‥揉むのも良いけど、揉まれてみるのはどうかな?」
が、それに負けじとレイチェルはくれあにヤり返す始末。「え、そんな‥」と一瞬面食らった顔をするくれあだが、身体は素直なのか気づけばレイチェルと触手の波にのまれていく。
「くっ、何をやっているバカキメラめ! そんなに触手を出しては身体が見えんだろう! あくまでお前はオマケなんだぞ!」
そしてその光景を彼が見過ごすはずもなく。気づけば何だか本数の増えてる触手に怒りながら、大事な部分が見えんとビデオカメラを未だ回している信人。
と、その時だった!
「な、何!?」
ブォォオンと振り回された触手。気づけば、キメラは触手で巻き付けていた能力者たちを地面に叩きつけると、更に追撃で白い粘着液を口から吐きかけてくる!
「なるほど‥‥あれは獲物の体力を奪う下準備だったというわけか」
一瞬だけ、ほんの一瞬だけだが、信人は真面目な顔でカメラを回す手を止めた。
――そう、キメラからしてみれば、茶番は終わり、と言うことなのだろう。
「グルァァア」
そのままベトベトで身動きの取れない能力者を蹴り上げるキメラ。何とも性質の悪い戦い方だが、その一撃により肋骨の軋む音を九条は聞く。
しかし――
お遊びが終わりなのは、キメラの方だけではなかった。いや、と言うよりもむしろ‥‥
「ふー♪ ご馳走様でしたっ♪ それじゃ、もう君いらないからさっさとイっちゃって」
ポツリと囁かれたレイチェルの一言。直後、キメラの触手の一本が空を舞っていた。
●煩悩ごとぶっ飛べ!
「さすがに服を護り通すのにも疲れましたわね。どうせ意味のないものなら!」
スイッチの切り替え、というわけではないが、一気に今までとは違った雰囲気の漂いだした浜辺。
敵の攻撃を潜り抜けながら、エルフリーデは次々と敵に刃の痕を刻み込んでいく。
「ギシャア!」
「あら、その服高かったですのよ? 代償は身体に請求しましょうか!」
「!?」
エルフリーデの無数の斬撃にも負けじと反撃するキメラ。だが、キメラの捕らえたのはエルフリーデではなく、ボロボロとなった彼女の服だけであった。
「この槍も駄目ですわね‥。次」
ボソッと呟きながら、隣に突き刺さっていた氷雨を手に取る彼女。瞬間、刹那の煌きと同時にキメラの右腕から体液が迸る。
「先ほどは‥よくもやってくれましたね!」
一方、右腕の痛みにもだえるキメラの足元では、周藤と九条による猛攻撃が始まっていた。
九条の一撃が見事アキレスを切断したため、ガクリと膝をつかざるを得なくなったキメラ。そこに
「お行儀の悪い足は要らないんですよっ」
くるりと半回転して突き立てられたくれあのイアリス。悲痛な叫びが海面を揺らす。
「ガァアア!」
だがそれでも終わらないキメラ。デカイだけにタフなのだろう。残った触手による全包囲攻撃が辺りの砂を吹き上げ――あろうことか、何とその攻撃が信人のカメラに!
「あ‥‥」
あまりの出来事に映像を楽しみにしていたくれあが言葉を濁す。しかし、それ以上にショックだったのは――
「‥‥怒らせたな。俺を」
どう見てもよっちーなわけでして。どうでも良いことがトリガーで本気出すのはご愛嬌だが、無言で立ち上がった彼は間合いを瞬間で詰め斧による6連斬を容赦なく叩き込む!
「大分弱ってきたね」
レイチェルの一言が表すように、既にキメラの息は絶え絶えだ。
「煩悩ごとぶっ飛べ、ちょいさぁあー!」
そこに止めとばかりにセロリの痛烈な攻撃! 悲鳴を上げるキメラ。近くにいた信人も巻き込まれているが気にしてはいけない!
「では、さよならです♪」
そして――伊万里によって口にねじ込まれた機雷により、キメラは首ごと吹っ飛ばされるのだった。
●戦い終えて
さて、戦い終えて平穏の訪れた浜辺。何人もの観光客とともに、能力者たちもひと時の休息を楽しんでいた。
「レイチェルさぁん、今度は負けませんですよ。うふ、うふふっ!」
「全く懲りないなぁ。またボクの乳圧で押し潰してあげようか♪」
大胆な水着で人の目を引く伊万里とレイチェルが怪しい勝負をしていると思えば
「よしよし、お疲れ様でした」
と最後まで色々と悲惨だった信人を労い、膝枕をしてあげようと提案するくれあ。それに無言でコクリと頷く信人だが、右手にハーモニカを握っている姿が何故か切ない。
「あ、やめて‥沈んじゃい‥ま‥」
「これだけ大きかったら浮き輪代わりになるってー♪」
こうして、能力者達の手によって平和な日々は再び訪れる。海で戯れる九条と周藤の顔も、辛い任務をやり遂げた為か満足そうだ。
だが、油断してはならない。
暑さという敵がいる限り、まだまだ変なキメラが生み出される可能性は高いのだから――