●リプレイ本文
「浜辺貸切りの上に、能力者まで呼べるのか。随分と裕福な家庭だな」
サンサンと照り付ける太陽が海の水面を輝かせ、穏やかな潮風が1艘のクルーザーを包み込む。そんな爽やかな風に吹かれながら、目的の浜辺に目を向けた煉条トヲイ(
ga0236)が呟いた。
「私の家も裕福と言えば裕福でしたけど‥‥今回の依頼主の方々は桁が違いますね」
その後ろから、風で靡く美しい長髪を押さえながら、如月・由梨(
ga1805)が歩いてくる。元々は黒い髪なのだが、太陽の光による反射と周囲を包む潮風で、その銀色にも見て取れる髪色が神聖な雰囲気を纏わせている。
「しかし、お金の如何に関わらず、子へと愛情を注ぐ親とは良いものですね」
先ほどの言葉にこう付け加えると、
「では、私はあちらで着替えてきます」
そう言って船内下部に設けられた室内へと入っていこうとする‥‥のだが、
「ああ、ロッカールームならまだ先客がいるぞ」
すかさずストップをかけるトヲイ。
「あら、そうでしたか」
昇降口の手前で立ち止まる彼女。再び向きを戻したその後ろから、
「けひゃひゃ、さて今日はどんなキメラに会えるか楽しみなのだね〜」
白衣姿の男が地下から上ってきた。
「ウェストさんでしたか。もう中には誰もいらっしゃらないかしら?」
「ふむ、我が輩が最後だね〜」
ウェストと呼ばれた白衣姿の男。海と白衣とはミスマッチなのだが、ちゃーんと中には、
「お、おいドクター。その中に着てるのはなんだ?」
トヲイの突っ込みに、
「何って水着だよ〜どうかね、なかなか似合っているだろう〜」
上機嫌の彼。中にはちゃんとシマウマ水着が装着されていた。
ある研究所の所長を務める彼の名は、ドクター・ウェスト(
ga0241)。独特な言葉使いの彼だが、どうやら今依頼に参加したのには、目的があるようだ。
「情報ではキメラが出るとのことだが、さて、何が出るか楽しみなんだね〜」
けひゃひゃと笑いながら白衣を靡かせる。彼の目的、それはどうやらキメラのようであった。あらゆるキメラに対抗すべく、オリジナルで武器等の研究も手掛ける彼らのグループ。その所長という位置づけの彼は只者ではなさそうだ。
「キメラ、か‥‥さて、着いたぞ。何事もなければいいんだが」
そんなウェストとの期待とは裏腹に、トヲイが呟き、一同は浜辺へと足を踏み出した。
「想像はしていましたが、中々美しい浜辺ですね」
子供の教育に気を使い、水着の上からYシャツを羽織った姿のオリガ(
ga4562)が船から降りる。
「こういった場所で飲むウォッカもいいかもしれませんが。
そう言って残念そうに船に目を向けると
「はは、確かに美味そうだが仕事中だからな」
明るい声で返す早坂冬馬(
gb2313)。
「今年は海に行っていないし、これはこれで楽しそうだ」
海自体はあまり好きではないのだが、楽しそうな雰囲気の依頼だったので引き受けたらしい彼。その右腕にはぐるりとテーピングが巻かれていた。
「んん、どうやらあの方々達が依頼主のようですね。とりあえずは挨拶を手早く済ませしょう」
目先で手を振っている子供達と、その後ろに立つ大人8人に目を向けるオリガ。
「さてさて、念のための武器はどこに置いておくべきか」
持参した武器を入れた荷物を置く場所を探しながら、子供達が待つ方へと歩いていった。
「こんにちは。今日は改めてよろしくお願いします」
依頼主一同の前で軽いお辞儀をすませた赤崎羽矢子(
gb2140)。タンクトップとハーフパンツのラフな格好なのだが、その腰には氷雨がベルトで固定されていた。
「こんにちは、私はハンクス・リーブルと申します。今回の参加者は皆身内となってます。皆さんにはしばらくの間子供達の世話をしてもらえれば問題ありません。よろしく頼みます」
ド派手なシャツ姿の男が赤崎に握手を求める。
「多少子供達がわがまま言ったりもするかもしれませんが、大目に見てやってください」
2人の握手を合図に子供達が飛び出した。
「ねーねー、早く遊ぼうぜー」
1人元気そうな男の子がこう叫び、いざ、ミッションスタート!
「兄ちゃんすげー、腹筋が割れてる、腹筋ー」
キャッキャッと真っ先に飛びついてきた男の子。早坂の目の前に来てこう話すやいなや、
「ところでなんでこんな包帯巻いてるんだ?」
どうやら右腕の包帯が気になる様子。
「ああ、これはな‥‥秘密だ」
しばしの沈黙の後、ニコッと笑って男の子の頭に手を置く早坂。できればこの傷痕は見せたくない、そう願う彼だが、
「ちぇっ、まぁいいもんね、隙を見せ次第千切りとってやるよ」
乱暴な言葉使いで笑う男の子。どうやら4人の子供の中で一番の問題児っぽい彼だったのだが、
「コラ、年上に向かっての喋り方じゃないだろ、それは」
ポコッと頭に軽いゲンコツをくらわせたトヲイ。どうやら性格的にこの子の担当は彼になりそうだ。
「ちょっとぉぉ! あーた何してるんザマスの! うちのミシェルに怪我させたら承知しないザマスよ!」
すかさずトヲイのゲンコツを見て前に乗り出してくる厚化粧のオバサマ。赤い三角の眼鏡がやたらと様になっている。そんな彼女に
「しつけは小さいうちが肝心だ。子供だからと甘やかしていると、将来とんでもない子になってしまう」
びしっと言い返すトヲイ。
「んまー、あーた何様ザマスの! 私はその子の母親ザマスよ! 私のしつけにあーたが口出しするなん‥‥て‥‥」
何故か言葉を詰まらせるミッシェルの母。どうしたのか、目線がトヲイを見て離れない。
(「な、なななーんて美形ザマス! お、おほほ、これはこれで悪くないザマスー」)
ハテナマークのトヲイに、
「コホン、ま、まぁとりあえずはあーたの好きな様にしなさいザマス。あなた、爺や! 私達は木陰に移動ザマス!」
「はい、畏まりました」
爺やと彼女の夫であろうか、細身の男を引き連れて、ミッシェルの母は消えていく。その様子を見ながら、
「なんだ、まぁいいか」
不思議がるトヲイであった。
「それでは、もしもキメラが現れた場合はこのようにお願いします」
今回の依頼主でもある、ハンクスにキメラが出た場合の対処法を伝えるオリガ。抜け目ない彼女は前もって大人たちにもしもの場合を話していた。
「分かった。こうならないことを祈るが、もしもの場合は頼んだぞ。それと、ウチの子達もな」
そう言って目線を逸らすハンクス。その先には
「あ、はじめましてお姉さん。僕はレン、こっちはリーンです」
「ええ、はじめましてレン。それにリーン」
「あ、はじめ‥‥まして」
真っ直ぐな瞳のクリクリしたかわいい少年の横で、オドオドとしている少女。
「あなた達は双子ですか?」
瓜二つの2人に問いかける如月。
「うん、そーだよ」
ニッカリと笑って水着姿の如月を見上げる。本人曰く、スタイルが気になるとのことだが、何故か横からチラチラ大人の視線が気になるのは気のせいだろうか。
「いやぁ、レンは幸せだな。あんな美人とかわいい女の子に囲まれて‥‥」
ハッハッと白い歯を見せ笑うハンクス。そんな彼の頬に数秒後、妻による手形が刻み込まれ気になる視線はなくなった。
「では、あちらで遊びましょうか」
2人を連れて行く如月とオリガ。そして、残る最後の1人は大人しそうな少女、だったのだが‥‥
「さて、と。各々の担当も決まったようだし、あたしはとりあえず周囲の警戒でもしとこうかな」
赤崎が歩き出そうとしたところ、
「ん、どうしたの早坂さん‥‥船酔い?」
そこには笑っているのだが顔が真っ青の早坂がいた。
「べ、別に何でもない。大丈夫だ」
「お兄ちゃん、おいしかった?」
早坂の横からひょっこり顔を出す少女。
「うん。美味しいよ、ありがとう」
「わーい、よかったぁ」
手を合わせ喜ぶ少女。その横で何故か彼女の母親が涙ぐましい顔で早坂を見つめていた。やはり赤崎の頭上には『?』ではあったが。
「とりあえず俺達も遊ぼうか、ルリアちゃん」
「うん、あたしね、綺麗な貝殻集めたいの」
「そっか、じゃあ貝殻探しに行こう。その前に、ルリアちゃんは料理が好きなのかい?」
「ふえ? うん、大好きだよ、良く分かったねお兄ちゃん」
笑顔のルリア。
「そっか、じゃあ俺がもっと料理が美味くなるコツを教えてあげるよ」
同じく笑顔で話す早坂。
「本当? やったぁ」
大喜びのルリアにそれとなく早坂の料理アドバイスが行われようとしていた。一方、
「なー兄ちゃん。あそこにいる変な人は誰だー?」
ミシェル担当のトヲイだが、いつのまにかすっかり仲良しの2人。いや、仲良しというよりは、ミシェルはどうやらトヲイに逆らえないと思ったようだ。そんな少年が、変な人呼ばわりで指指した先には
「けひゃひゃ。やはり紅茶がなくては始まらないね〜」
ビーチパラソルの下、優雅に紅茶を口にするウェストがひたすらキメラを待っていた。
「ウ、ウェスト、お前‥‥」
多少呆れ顔のトヲイ。それを見た少年が、
「ふーん。あいつもババア達が雇った傭兵だよな。へへ、なんか貧弱そうだし、こいつをおみまいしてやる〜」
「あ、コラ、またお前はババアとか言って‥‥」
ミシェルの言葉を注意しようとしたトヲイだったのだが、
「ミ、ミシェル、それは‥‥」
言葉に詰まるトヲイ。気にはなっていた浜辺にポツンと置かれた大きなバッグ。そこに走っていった少年が取り出したのは
「じゃじゃーん。特注品の超強力ウォーターガンだぜ!」
ふふふと水をこめる少年。
「これはまた随分とゴツイ玩具だな」
感心するトヲイ、何気に乗り気である。
「いくぜ、兄ちゃん」
そう言いながら、ゆっくりとウェストに近寄っていくミシェル。
(「まぁ玩具だし、大丈夫だろう」)
普通の銃では通用しない能力者。そんな彼らに、たかが玩具のウォーターガン程度が通用するはずはなかった。のだが
――ブフヲァァア
「うぉぉおお、すげーー」
超強烈な水圧で発射されたガンの反動で倒れる少年。それを見つめる目の引きつったトヲイ。そして
「な、なんなのだね〜」
側面から猛烈な水鉄砲をくらったウェスト。彼の口から彼の顔をした魂が出たような気がしたが、気のせいだよね!
「あら、そういえば爺や、あの子の鉄砲を改良したとか言ってたザマスね?」
「ええ、お坊ちゃまの頼みでしたので」
静かに爺やが微笑んでいた。
「何やらあっちが騒がしいなー。それにしても、いい場所ね」
「ふー」
ストッと休憩する赤埼。
「私も水着にすればよかったかなー」
熱い砂の温度を感じ、ちょっぴり海が恋しい彼女。すると
――コトン
そこにはベルトで固定していたはずの氷雨。
「え‥‥ベルトが切れてる‥‥」
バッと後ろを振り向く彼女、そして、
「キメラ!」
彼女の声が響き渡った。
「うそ、怖い」
びくっと赤崎の声に反応するリーン。震える彼女の前にしゃがみ込むオリガ。
「大丈夫です、あなた達には指一本触れさせません」
冷静だった。彼女はあわてる様子もなく双子を抱きかかえ親の元へと走っていく。
「厄介ですが、敵は全力で排除するのみです」
長身のオリガが子供達を運び終えると同時に、二丁の銃が待つ場所へ走っていく。一方如月は
「赤崎さんが敵を発見。皆さん、戦闘準備を」
無線で離れていたメンバーに連絡後、
「さて」
赤く鋭くなった目つきの彼女が、氷雨片手に顔を赤崎の方へと向ける。そして、
――バシュ
砂が急激に巻き上げられたかと思うと、そこに彼女の姿はなかった。
「了解。‥‥ごめんね、ルリアちゃん。ちょっとの間だけお母さんの所に戻ろうか」
遠くへと貝を拾いに来ていた2人。連絡を受け、早坂もまた少女を抱える。
「できればこの姿にはなりたくなかったんだが」
「お兄ちゃん。どうしたの、体が」
覚醒により体に傷跡の幻影が生まれる早坂。
「おっと、目をつぶっててくれ。大丈夫、心配はいらないよ」
ニコッと微笑み、優しい眼差しで見つめ返した。
「行く行くぅ! 俺はキメラが見たいんだぁ!」
「ダーメーだー」
ジタバタするミシェルを強引に押さえながら、母の元へと連れ行くトヲイ。
「ちぇ、せっかくの武器なのにぃ」
「残念だがキメラにそんなもの通用しないよ」
「でもさっきの兄ちゃんには効いたじゃないかぁ」
「あれは‥‥たまたまだ」
そんなトヲイを尻目に、
「けひゃひゃ! やっとメインの時間がやってきたね〜」
抜けていった魂を引き戻したウェストが走っていく。いざ、戦闘開始!
「ほう、蟹型のキメラかね〜。これは外皮の硬さをどうするかが問題だよ〜」
キメラの前でじっくり観察をするウェスト。
「関係ありませんね」
一閃。敵前方へ踏み込むと同時に華麗に敵を切り裂いた如月。
「なんだ、今夜の晩飯は蟹料理か」
遅れて到着したトヲイが冗談っぽく言う。
「ありゃ、随分不甲斐ないんだね〜」
その横で残念そうにウェストが溜息をついた刹那――
ボコボコ
「あはは、思ったより大変かも」
一帯から出てくるキメラの群れに、今度は赤崎が溜息をついていた。
――バキッ
オリガのそれぞれ片手に装備された銃が連続で火を噴く。1本、2本、と同時に敵キメラの足がもぎ取られ
「トドメだ」
上段からアーミーナイフを突き立てる早坂。しかし
「ちっ、浅いか」
余力を残した蟹が早坂へと鋏を向けるが
「ここはあんた達の居場所じゃないのよ」
すかさず赤崎がサポートに回り、刀で鋏を受け止めるとそのまま
「くらえ!」
彼女のイヤリングが揺れ、敵が地へと平伏した。
「流石に甲羅は硬いか。だが、これならどうだ!」
猛烈、かつ強烈な一撃がキメラを切り裂く。一撃で敵の生命を奪い去ると言わんばかりのトヲイの攻撃の前に、成す術なしのキメラ。そして、こちらでも
「我が輩によって強化された武器の前に、こんなキメラ敵ではないね〜」
「感謝します」
後方からウェストの支援を受け、如月が舞うように敵を切り裂いていく。
「やはり刀はいいですね」
直後、彼女の目の前には幾多の傷が刻まれた屍骸が1体。
「討伐完了しました」
敵キメラを難なく撃破した彼ら、再び子供達の所へと戻り赤崎が報告を告げる。
「これが能力者か‥‥」
「すげーぜ、かっこいいー!」
感嘆する大人達を前に、大はしゃぎのミシェル。かくして、日が暮れるまで彼らのヴァカンスは続いた。
「お別れかぁ。また今度遊ぼうね」
悲しげな顔のレンとリーンにええ、また今度と微笑む如月。
「お姉さん、クッキー余ったからあげる!」
「あら、ありがとう。帰りにこれでお酒を飲むとしましょうか」
少女からクッキーを貰うオリガ、そして
「余り我儘ばかり言うなよ?じゃあな。又いつか逢おう」
トヲイがミシェルに告げて、一同は帰りの船へと戻って行った。
「うーむ、あまり良いデータは取れなかったんだね〜むむ、オリガ君どうしたんだね、顔色が悪いよ〜」
「い、いえ。何でもないで‥‥す」
全てがハッピーエンドではなかったようだけど、ね。