タイトル:途絶えぬ殺欲は君が為マスター:羽月 渚

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 4 人
リプレイ完成日時:
2009/05/26 00:05

●オープニング本文


●プロトタイプ――
「全てを殲滅なさい。その為に、あなたは生まれてきたの‥‥」
 ――米国、キメラ生成研究所
 静かに胎動する不気味な影に手を置きながら、少女は深く息を吸いこんだ。
「あたしの声が聴こえる? もうすぐ、もうすぐよ。ふふふ、あと少しすればすぐに餌を食べれるから」
 そのまま優しくこう囁くと、まるで我が子を見るかのような顔で微笑む少女。
 彼女の名はエヴァ・ハイレシス(gz0190)。現ゾディアックの蠍座として、先のロシアにおける大規模作戦でも姿が確認された、バグア勢力の一味だ。
 そして、その戦いから数日経った今。新たに、彼女は動き出そうとしていた。
「これでゲヘナに続いての2体目かしら、あたしの最高傑作としては。そうね、名前は何が良いかしら」
 目の前で蠢く黒い物体と少女以外には、生命の感じられない無機質な空間で、エヴァは上を見上げ思案に耽る。
「うーん、何か良い名前は‥‥。アルシエル、うん、これだわ。あなたは今からアルシエルよ!」
 と、数分後、閃いたのかパッと顔を明るくすると、アルシエルと前の物体を命名する彼女。
 ピクッ。すると、気のせいだろうか。それと同時に、その物体は自らの名前に反応するかのように身体を動かすではないか。
 そして、徐々に彼女の元へ寄り添うかのように身体を起き上がらせ、少女の目に映されたソレの全貌は‥‥
「あら、ちょっと大きく創りすぎちゃったかしら?」
 全長3メートルほどの、巨大な人型のキメラであった――

●途絶えぬ殺欲
「状況は、最悪かつ緊急を要します‥‥。少数での討伐になりますので、くれぐれもご注意を」
 ――UPC本部
 オペレーターが告げると同時にモニターに映し出された映像。それは、思わず目を背けたくなるようなものだった。
 街に響く数多の悲鳴。燃え盛る家、引き裂かれた無残な肉塊‥‥。そのどれもが、事の異常性を痛く露わにする程。
「確認された敵はキメラが2体と、蠍座エヴァ・ハイレシスです。キメラの1体については、以前確認されていますが、残り1体は完全な新型です。恐らく‥‥」
 静かに口調を強めながら、僅かばかりの沈黙の後、続けるオペレーター。
「恐らく、エヴァが新たに自らの手で生成したキメラだと思われます」

 ***

「あははは、そうそう、良い感じよ。もっと、もっと暴れなさい! そうすれば、餌がやって来るはずだから!」
 数時間前までは、温かい日常と穏やかな匂いに包まれていたのであろう、小さくもそこそこな賑わいを見せていた、とある街の一角。
 積み上げられていく死体を満足げに見据えながら、エヴァは軽やかに歌を口ずさんでいた。
「ママ、ママぁ!!」
「あら、こんにちは、坊や。ふーん、ソレ、あなたのママなの」
 気づけば、キメラの目を逃れたのか一人の幼い少年が、倒れ動かない女性に泣きじゃくりながら縋り付いている。
 ダランと、曲がるはずのない方向に曲がった四肢。シナプスを経て、まだ完全には発達していない少年の脳でさえ、その光景を見れば一瞬で分かる事実。
 ママは死んだ。そして、次は‥‥
「あははは、残念ねぇ! ママはもうただのお肉の塊なの! ほら、見なさいよ。綺麗な血の色でしょ!?」
 笑い、少年の前に無邪気に近寄るエヴァ。数秒後、少年の首は空を舞っていた――

「あたしは、人類の結末には興味はないの。あるのは、より強いキメラを生み出すことだけ‥‥」
 赤く染め上がった噴水の水たまりを見ながら、少女は横のキメラに語りかけるよう、微笑む。彼女の横には、以前傭兵により確認された人型キメラ『ゲヘナ』と、先日生み出されたアルシエルと名付けられたキメラが2匹。
 数分前までには耳を劈くほどだった悲鳴も、今は静まりかえり、耳に残るのは地べたを這う人間の虚しい音だけ。
 そして、誰にも邪魔されずかき消されることのない空間で、エヴァは静かにこう呟いた――
「さすがね。バークレーを参考に創った甲斐があったわ」

 太陽の輝く青い空の下、鉄臭と赤い錆色が広がる街を舞台に今、最悪の闘いが幕を開ける‥‥

●参加者一覧

皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
伊万里 冬無(ga8209
18歳・♀・AA
大鳥居・麗華(gb0839
21歳・♀・BM
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD

●リプレイ本文

「‥‥最悪だ。エヴァの野郎、好き勝手に破壊しまくりやがって」
 立ちこめる白煙、血の臭い。目の前に広がる絶望的な光景を前に、ノビル・ラグ(ga3704)は呟いた。
「一方的な虐殺‥‥見ていてこんなに憤りを感じることはねぇでありやがるです」
 その言葉に続き、同じく顔を顰めるシーヴ・フェルセン(ga5638)。紅く美しい髪を風に靡かせながら遠目越しに見る街の光景は、彼女にとってあまりにも許し難いものである。
「全力で敵を倒す、それだけを考えて最大限の力を尽くしやがるですよ」
 静かに一度目を閉じ、再び見開く彼女の瞳は、緑色から紅色へ――覚醒。
「無抵抗な女子供まで標的にしてやがった落とし前は、キッチリと着けさせて貰うぜ‥‥!」
 グッとSMGを握る手にノビルが力を入れると、同時に12人の能力者達は駆け抜ける。
 これから始る最悪の戦い、エヴァと2匹の獣が待ちうける街の中心部へと――

(「これは‥‥く、あの時と一緒ですわ。あの時と‥‥!」)
 街はそこまで大きくはない。あと数十秒もすれば、後に標的は見えてくるであろう。そんな瓦礫の廃墟と化した舞台を駆けながら、大鳥居・麗華(gb0839)は怒りに震える体を必死で抑えていた。
 そう、あれは忘れもしない忌々しい記憶――かつてバグア襲来時とともに破壊された館の光景。それが、今目の前に広がる街の様子と完璧に重なっていたのだ。
「麗華さん、どうかしましたですか?」
 そんな彼女の異変に気付いた伊万里 冬無(ga8209)は、並んで走りながらも彼女の顔を覗きこむ。が、返ってくる返事は、何でもないですわとの一言だけ。
「うふふ、怖い顔の麗華さんも素敵です♪」
 と、これ以上の言及は不要と悟ったのか、伊万里は特に気にする様子もなく前を向き直す。長い付き合いだ。聞かずとも自ずと麗華の気持ちは伝わってくる。それに
「あぁ、この匂い‥‥この光景、全てが素晴らしいです。身体が熱くて熱くて堪りませんです♪」
 今は、何よりも自分の身体の興奮を抑えるが一番だった。久方ぶりに味わえるであろう、血肉の削りあい。
 これから起き得る戦いを考えると、熱ってくる身体のせいで狂ってしまいそうな感覚に陥る。
 そして――
「あら、いらっしゃい。ふふふ、自ら死地に赴くその勇気は、立派ね」
「随分と好き勝手してくれたみたいだけど‥散々人の命を奪ってるんですもの、奪われる覚悟も当然あるわよね?」
 皇 千糸(ga0843)の言葉を前に、エヴァが姿を現した。

●硝煙弾雨
「命令よ。あいつらを殺しなさい、ゲヘナ、アルシエル!」
「来るよ、気をつけて!」
 まず、声を張り上げたのはエヴァ。瞬間、目の前のキメラ2体が一気に突っ込んでくる。と同時に、それぞれ2班に分れた能力者達。
「久しぶりだね。あんたの相手はあたし達だ! かかってきな、ゲヘナ!」
 今回対峙したキメラは、2体とも人型だ。そのうちの一体、ゲヘナと呼ばれるキメラにまず攻撃を仕掛けた赤崎羽矢子(gb2140)。2体同時に相手にするのは辛い。最初に戦力を分担し、4人で各個撃破に当たるのが今回の作戦だった。
「ギシャア!」
 赤崎の誘いに乗ったのか、そのままゲヘナは標的を彼女達に定め――突進、そのあまりの衝撃に、地には一筋の亀裂が奔る!
「あの時のあたしと思わないで。幾つもの修羅場と死線を抜けてきたんだ。今度こそ‥‥必ず!」
 と、その衝撃を受け流すように懐に赤崎は潜り込むと、そのまま獣突。これでアルシエルとの分断にはひとまず成功か。
「主賓は未だ登場せず従者を余興に持て成す、か。君のキメラの実力、試させてもらうよ」
 その一瞬の攻防を見つつも、視線をエヴァの方に傾けていた蒼河 拓人(gb2873)は呟く。
 キメラと同時に彼女が襲いかかってくる恐れもあったが、どうやらエヴァが動く様子はない。
「それなら‥‥まずはこの従者にご退場願おうか!」
 吼え、拓人の左右の腕から2丁の銃が姿を見せる。
 響く発砲音、そのまま銃弾とエネルギーの集束光はゲヘナの足元へ!
「もらった!」
 コンマ一秒の制圧。そのチャンスを見逃さなかった赤崎は再び滑り込み、鍛え抜かれた自慢の愛剣、ハミングバードを突き立てる。しかし!
「!?」
「赤崎さん!」
 直江 夢理(gb3361)の警戒を促す声。見れば、彼女の剣はゲヘナの腕によって掴まれているではないか。
「このっ」
 引き抜こうとするが、片方の腕が赤崎を狙う! が、それを寸前で受け止めた直江。
「くっ、今のうちに」
 小さい体にはあまりにも恐ろしいほどの衝撃。それは、地につく足がコンクリートの地面に少しめり込む程。だが、見事赤崎を守り抜いた直江は、そのままゲヘナの腕を下に叩きつけると、『竜の咆哮』で敵を突き飛ばす。
「グルァァ」
「ありがとね、助かったよ」
 冷や汗を首に伝わらせながら、ゲヘナからの束縛が解けた赤崎は囁く。
 戦闘開始からまだ1分。終わりの見えない地獄は、まだ始ったばかり。

「アハハハッ! 私の玩具はあなたですね!」
 一方、こちらの方でも既に激突の火花は散っていた。アルシエルを見るや否や、狂った機械人形の様に伊万里は大鎌を持って走り出す。既に、麗華の獣突によってゲヘナとの分担は終わっている。後は、何としてでもキメラを抹殺するのみだ。
「立て直す前に、少しでも多く喰らいやがれ、です!」
 まだ戦いに慣れていないのか、麗華の獣突に続きシーヴの一撃も確りと食らってしまうキメラ。右腕には巨大な剣が取り付けられているものの、確実に動きを牽制していけば、どうやら攻撃を当てるのは容易い様にも見える。
「何がアルシエルだっつーの。少女漫画とかに出て来そうな名前着けやがって‥見た目と名前が全く合ってねーよッ!」
 次いで、瓦礫の陰に隠れていたノビルは一気に貫通弾を頭部めがけぶち込む! 的中、生まれる隙。
「どうしましたですか? もっと楽しませてください!」
 そこに右側から伊万里の大鎌が一薙ぎ! ――しかし
 ――ガッ
「!?」
「伊万里、危ないですわ!」
 麗華から発せられた声の語尾が聞こえ終わる間もなく、伊万里は気づけば地へと叩きつけられた。
 確かに捉えたはずの大鎌の一閃。だが、想像以上にキメラの外皮が硬く、刃が通らない!
「く‥ぅ」
 反撃を受けた瞬間、活性化で傷を塞ごうとするが、キメラの左手は彼女の背中をへし折らんとばかりになおも押さえつけてくる。何も装着されていない左腕、この正体は敵の慣性を殺す為か。
「放しなさいですわ!!」
 このままではまずい。咄嗟に判断した麗華は犀牙を打ち込む。が、虚しくも大剣がそれを阻み、振り下ろされた超速の一撃。
「ぁ‥‥」
 ガクリと落ちる膝。麗華の胸からは、血が吹き出ていた。その隣では、軋む伊万里の骨音。
 こんなところで終わりか‥‥いや!
「その隙、貰いやがったです」
 まだだ。ある意味、これは2人が傷を負って生んだ絶好のチャンス!
 正面から地を一蹴したのはシーヴ。そのまま下段斬上げ、アルシエルの顎めがけ痛烈な一撃を――
「ッ!? ‥‥カハッ」
「なっ、シーヴ!?」
 しかし、数秒後、なんと宙を舞っていたのはシーヴの方。
「野郎、脚も武器か!」
 蹴りあげ。ノビルが見たのは、その極めて単純な攻撃動作。しかし、あまりにも速く強烈なソレは、シーヴの剣より速く彼女の腹に突き刺さっていたのだ。
「ちっ、ヒポポタマス二号の分際で」
 傭兵と言っても、まだノビルは幼い少年である。そんな彼のネーミングセンスは置いといて、吹き飛ばされたシーヴを少年は身体ごと受け止める。見れば、シーヴの腹部からは血がジワリと滲んでいるではないか。
「ギシャア」 
 その光景が満足だったのか。或いは、絶対的な力を誇示したかったのか。アルシエルは高らかに空に吼えると、そのまま下の獲物に目を向け直し、いざトドメを刺さんと構えた――その時!

 グサッ

 ポトリと左腕の肉片が落ちる。何が起きたのか分らず、一瞬停止する思考。が、気づけば、左腕で掴んでいたはずの少女がいない‥‥
「うふふ、アハハ、アハハハッ! 先程はやってくれましたですね? ですが、傷つけて良いのはぁ‥‥私だけなんですよっ!」
 煌く円形の一閃。堅個な腕を削いだ一撃の正体は、これか。活性化するエミタの力を受け、先程とは段違いの破壊力で放たれる伊万里の一撃。
 シーヴを蹴りあげた瞬間、僅かに浮上した隙を利用し腕から抜けた彼女は、そのままアルシエルの膝から腕にかけてを薙ぎ払っていたのだ。しかも、何より目の前で麗華を傷つけられたことにより、彼女の狂気度は10割増。
「やってくれましたわね、この代償は高くつきますわよ!」
 まだ血は止まらないが、咄嗟にスキル『獣の皮膚』で衝撃を緩和していた麗華も、再び伊万里との連携に続く。
「流石に重いでありやがるですが‥‥負けねぇですよ!」
 それを見て、更にシーヴとノビルも再びアルシエルへ。手強いと言えども、まだアルシエルにとっては初めての実戦。必ず、どこかに取り入る隙はあるはずだ。さぁ、反撃開始!

●連鎖を断ち切れ
「これで、大方街の確認は終わりましたね」
 戦闘区から少し外れた市街地周辺。そこでは、一通り生存者の救出者を終えたドッグ・ラブラード(gb2486)が、澄んだ瞳で街から昇る煙を見据えていた。
「これで、一通りは任務完了ですね‥‥。あ、ルカさんは大丈夫でしたか?」
「‥‥血、一杯‥‥けど、もう大丈夫、です」
 彼の横では、同じく救出班のルカ・ブルーリバー(gb4180)と上杉 怜央(gb5468)の姿も。幼いルカを心配して、男の子らしく声をかける上杉に、ルカはコクリと返す。
「羽矢子ちゃん、無事でいてね」
 そんな2人を見つつ、やはり友人が心配なクロスエリア(gb0356)は、不安な気持ちを胸に崩れていく街へと眼差しを向けるのだった。

「ハードね、どうにも‥‥。まっ、分り切っていたことだけどね」
 再び場面は戻り対ゲヘナ班。予想していたとはいえ、壮絶な速さを誇るゲヘナを前に、勝負は完全な消耗戦へと移行する破目に。
 横腹から滲む血にも構わず、痛みに耐えながら機動力を殺ぐ為、脚へエネルギーガンを撃ち続ける皇。後衛にも関わらず彼女が傷を負っている理由というのが、
「ちっ、相変わらず厄介な腕だね」
 この伸縮自在な腕によるものだ。かつてその対応力の高さを嫌というほど見せつけられた赤崎も、改めて目の当たりにするその破壊力に唇を噛みしめる。
「結構粘るのねぇ。そろそろギブアップしちゃいなさいよ」
「エヴァ様、あなたは‥‥」
 苦戦する光景を嘲笑うかのように、横で成り行きを観戦し続けるエヴァの声が煩わしい中、直江はどうしても彼女の方が気にかかっていた。エヴァの凄惨な所業は見過ごせない。けれど初めて会って助けられたあの時、そして生身で会った今、凄惨さと逆に際立つ可憐な美しさに、心を惹かれてしまう自分がいる。ならば、自らの答えは決まっている。
「エヴァ様、あなたは、この私が‥‥」
 そう願い、揺るぎない想いとともに直江は直刀を振るう――その時だった。
「グルァァ!」
「どうしたの!?」
 身を乗り出すエヴァ。何故かゲヘナが突如として苦しみ出したかと思えば、明らかに動きが鈍り始める。何が起きた? そう考えを巡らせるうちに、瞬間彼女の目にその答えが映し出される。
「‥‥そういうこと、か」
 歯を噛み締めるエヴァの先では、一か所の『胸部』が明らかに変色しているゲヘナの姿。
「やっと外皮が剥がれたみたいだね‥‥ここからが本番だ!」
 叫ぶのは拓人。援護射撃以外にも、胸部の一点に集中した攻撃を行うことで、彼は確実にダメージを溜めていたのだ。焼け焦げた胸からは、生々しい肉が覗いている。
「終わりよ! 地獄で殺めた人達に謝ってきなさい!」
 こうなれば、成すべきことは一つだけ。拓人に次いで皇も貫通弾を用いた影撃ちで敵の生命を剥奪にかかる! 叫ぶゲヘナ、外皮の消失した箇所への攻撃には耐えきれないと言った様子か。
「君の出番は終わりだ。カーテンコールは‥無い!」 
 電光石火。この機会を逃すまいと接近した拓人は、至近距離から胸部に向け両銃の全引き金を引く! 響く爆竹音、痛烈な悲鳴。そこに頭上から振り下ろされたのは――
「その首、もらった!」
 赤崎の細身剣。そして、確かに頭部を貫いた剣の刃先では、外に曝け出されたゲヘナの胸の心臓が停止していた。

「くっ、貴様らぁ!」
 予想外だったのだろう。以前見た生身での戦闘時とは明らかに進化している傭兵に怒るエヴァだが、手駒が1つ消えた今、できるなら早々に撤退したい。
 しかし、そうはさせまいとアルシエルの方へと向かう皇と拓人。そして、残りの赤崎と直江は
「エヴァ、今度こそバグアから解放したげる!」
 そのままエヴァへと一直線! 閃光手榴弾を囮に一気に接近した2人は、互いの武器をエヴァの胸元へ。だが
「なっ!?」
 突如として彼女の黒いドレスから覗いた不気味な刃。脈を打つかの様に鼓動するソレは、2人の胸を切り裂いている。
「ちっ、あたしが直々に手を出すなんてね。アルシエルは‥‥諦めるか、データなら残っているしね」
 と、そのまま吐き捨てると、エヴァはそのままふわりと舞うように消え去っていく。
『次に会う時を最後にしましょう』
 そう微かにエヴァが呟いた一言を、傷口に手を据える赤崎と直江の耳にだけ残して。

●決着
「まだ、まだ足りません♪ アハハハッ♪」
 一方、こちらでも局面は最終段階へと移行しつつあった。服はボロボロで鎌の刃は毀れながらも、止まることなく血飛沫に舞う伊万里。
 更に伊万里の横では、美しい金髪を赤に染めながら、戦闘用ドレスの裾を破りつつも大剣へと果敢に麗華が飛びこんでいく。
「これで最期だ! 地獄でママのオッパイでもしゃぶってろッッ!」
 弾丸に乗せる想いは墳怒の念。既に撃ち尽くした銃の反動で手の感覚も麻痺しているノビルは、確実に体力を消耗しているアルシエルへ最後の弾幕!
「トドメでありやがるです!」
 それに続くは、紅蓮衝撃と急所突きの複合技。一言でいえば、超撃。
 瓦礫を蹴りあげ飛び上がったシーヴは、そのまま全体重をかけて大剣で屠る。
 同じく大剣で受け止めたアルシエル、だが
 ――ビキ
 ヒビ割れる刃。そこに
「玩具を壊す瞬間、正に快感です♪」
 円を描いた伊万里の大鎌がシーヴの大剣に上乗せ! 重なる刃、砕け散るアルシエルの剣。
「私の前に跪きなさい!」
 刹那、2本の斬撃で斬り伏せられるキメラの身体を前に、麗華の強打が首をへし折り――絶命。


「破壊は一瞬だけど、再生には時間が掛かる。エヴァの奴、絶対に許さねぇ」
 変わり果てた街を見つめ、怒りを募らせるノビル。その横では、麗華が懐かしの館を想い静かに肩を震わせていた。
 今はまだ、辛い現実を受け入れるしかない。だが、その悔しさが続く限り、望む平穏に向け彼らの歩みは止まらないだろう。