●リプレイ本文
「怪盗が現れる時、そこには決まって探偵がいるものだ。そう、探偵であるこの私が来たからにはもう安心しなさいっ!」
――米国、美術館
そこでは、依頼主のオーナーの前で胸を張りながら、雨霧 零(
ga4508)がフフッと誇らしげに唇の両端を上げていた。アルマーニーニコートを羽織、気分は完全に探偵さんな彼女だが、今回の任務はあくまで探偵ではなくある敵の討伐が目的である。
「人類の宝を盗むばかりか、皆が楽しみにしているイベントを邪魔しようとは‥‥挙句、服を盗む変態ときましたか」
そう、服を盗む変態‥‥。ミオ・リトマイネン(
ga4310)からポツッと出た一言が意味するよう、この美術館には今日、怪盗キメラがやってくるなのだ!
「さて、それじゃあ行くとするか」
こうして、そのまま会場に警備の為入っていく傭兵達。手強い敵との戦いになりそうだが、何としてでもここでキメラを討つ為に、それぞれの想いを抱き太陽は傾いていくのだった。
「勇敢な男性傭兵を募集してるって聞いていたのですが‥あ、あれ? 何故かお姉さんがいっぱい‥」
時刻は午後6時。予告状に記された時間帯まで少々ゆとりがあるなか、上杉 怜央(
gb5468)はキョトンとした様子で辺りの能力者達を見渡す。武器の入ったバックをよいしょっと背負いながら、少し大きめのセーラー服が眩しい彼女。
こんな幼い少女が傭兵という現状を考えると胸が痛いが、そこは本人の覚悟もあってこそだ。これからの成長に注目といったところだろう。
「こ、こうなったら、唯一の男としてボク、頑張らなきゃ‥!」
へ? えーと、男の子‥‥だと?
「しかし、どこからどう見ても女の子にしか見えないね」
雨霧のポツリと呟く一言に、オドオドとこれは姉の御下がりだと弁明する上杉。とは言え、雨霧の疑問も尤もだ。さすがにここまで可愛いとなると、もう正直、男の子でもバッチ来いレベルに達する気がしてしまう。
「せっかくの、美術館です。まだ時間はありますし、間取りの確認も含め、見学しませんか?」
と、そうこうしているうちに、フリータイムは有意義に使おうと言うことで榊 菫(
gb4318)が一つ提案。確かに、普段は忙しい彼女達。美術館に来館できるチャンスは、そこまで多くない。
「じゃあ、ボクはそこで休憩しておこうかな」
かくして、大規模な抗争中に予期せぬ傷を負ってしまった九条・護(
gb2093)を休憩所に残しつつ、そのまま散開する7人。これから始まる嵐の前に、僅かばかりの静けさを迎える瞬間といったところか。
●メイドは見ていた
「ふー。風が心地よいですわね」
――屋上
一通り館内を見て回った大鳥居・麗華(
gb0839)は、ちょっと休憩する為に屋上へと。重厚な雰囲気は嫌いではないのだろうが、やはり少し独特な空気が立ちこめる館内。少し、息苦しい気がしないでもなかった。
「あら、ヴァサーゴも休憩中ですの?」
すると、屋上で見知った後ろ姿を見つけ、そのまま彼女は横に腰を据える。
「麗華‥冬無の姿、見えず」
「伊万里なら1000年前のメイド服が展示されてるって聞いて、飛んで行きましたわよ」
何時も傍にいる相方がいないことを疑問に思うL3・ヴァサーゴ(
ga7281)だが、麗華の返答に納得するとそのまま雑談タイムへ。
何気ない雑談中、笑顔で話す麗華と違い、表情にヴァサーゴはあまり変化を見せない。だが、コク、コクと時々首を傾げる仕草等を見ていると、不思議と彼女も楽しんでいるのであろうことが感じ取れる。
「さて、予告にあった時間の1時間前ですわね。そろそろ位置に‥って、ヴァサーゴ!?」
と、その時、突如としてビクっと身体を震わせて、首筋に汗を流す麗華。と言うのも、何時の間にか眠くなったのか、ヴァサーゴが麗華に寄りかかるよう寝てしまっていたのだ。
「ま、まだ時間はありますし、仕方ないですわね‥」
動こうにも、ここで体勢を崩すとヴァサーゴが起きてしまう。仕方なくそのままの格好で座り続ける麗華だが、5分、10分とするうちに完全にヴァサーゴは倒れこんでしまい、そのまま膝枕される形に。
麗しい金髪の女性の膝で眠る、漆黒の人形が如き少女。ぶっちゃけ、美術館に展示されたどの作品よりも美しい。
「うふふふ〜。さすがに1000年前のメイド服には感動しましたですね♪ さ〜て、麗華さんは何処に行っ‥た‥!?」
が、それはあくまで『このメイドを除く他の人達』からしてみればのことである。ナイフよりも胸に突き刺さりそうな光景を目撃してしまい、思わず身体中にかつて感じたことのない衝撃が走る伊万里 冬無(
ga8209)。
「あ、あれは‥。うふ、うふふふ‥麗華さんに膝枕なんて、私でさえして貰った事がないんですよ‥?」
陰に隠れながら、伊万里はガリガリと壁を引っ掻きつつ、引き攣った笑顔で嫉妬と狂気のオーラを全身から滲ませる。
「意外と暖かいですわね。ヴァサーゴのおかげで、何だか私も眠く‥‥って、い、伊万里!? はっ!? こ、これは別にやらせたわけではなくて勝手に‥」
と、傭兵の感か、背後からの暗黒電波を受信してしまった麗華は伊万里を発見。慌てて釈明するものの、時既に遅しなわけでして。同時に、何かのフラグが立った気もします。
●汝、怪盗也や?
「ある意味これは放置プレイに属しますですね♪ あぁ、このままだと私は焦れて焦れて狂いそうですよ‥♪」
さて、気まずい時間を超えて、いよいよ作戦決行。特別展示室付近の物陰に隠れつつ、紅黒く薄汚れた兎人形に頬擦りする伊万里。心境としては、この有り余る狂気をキメラにぶけて早く楽になりたい、と云ったところだろうか。
「失礼しますね。ただいま警備の強化中でして‥‥入館章はお持ちですか」
一方、伊万里と同じく2階待機班のミオは、物陰に隠れつつも怪しい人物を見かけては、積極的に声かけ中。
「こちらリトマイネンです。今のところ、異常はありません」
そのまま、無線機を片手に小まめにミオは連絡を取る。その電波が届く先は――
「うむ、こちらも今のところは異常なしだ。引き続き警戒を頼むよ」
――雨霧達が構える、屋上だ。情報を共有しつつ、まず侵入そのものを発見できれば幸いと、雨霧達は逐一外からのアプローチに対する警戒を強めていた。
更に、その横では同じく九条が
「はっはっは〜愚民どもが犇いておるわ〜」
何故か妙に高いテンションで庭のチェックを行っているところ。とは言え、一見無邪気そうながらも双眼鏡や眼鏡など一切不要の両眼は、柵の向う側やライトアップされていない庭を入念に見据える。
「怪盗型ですか。珍しいタイプです。捕まえるの、苦労しそうですね」
場面は変わって、館内1階。榊は比較的のんびり構えたまま、2階へと通じる階段付近に気を配っている模様。一方、上杉はというと
「やっぱり、特に気を付けなくちゃいけないのは、一般人に扮しての侵入かな‥」
同じく1階の榊とは反対にある階段で、待機中。が、幼い外見とは裏腹に、鋭い視点で考えを巡らせていた。作戦結構前に提案してはいたが、やはり気になる点として『変装』による侵入が頭をよぎる。しかも、都合の良いことにキメラの能力は服の剥ぎ取り‥‥
「要注意ですね」
ググッと拳を握りしめ、依頼参加者の女性陣はボクが護ると気合満タン。が、後に彼は思い知ることになる。まず率先して護るべきだったのは、自分の身体だったということに‥‥
「警備の一環故‥協力、願う‥。確認‥可能‥?」
それは、実に珍しい光景であった。例えると、小さな警備員と言うべきか。1階から昇ってくる人を対象に、2階の階段口で簡単なチェックを行っていたヴァサーゴ。
「今の時間だけ、特別に協力お願いしますわ」
反対側では、同様に麗華も網を張っている。なるほど、これなら1階から侵入してきた場合でも、異変に気付くのが容易なのは確かだ。
――ミニョ
「‥‥?」
そして、単純ながらも効果的な作戦は実を結ぶ。まず、ソレに気付いたのは、ボディチェックに精を入れていたヴァサーゴだった。
ミニョ、ミニョ。触れば触るほど不可解な触り心地。何とも言えない感触に、思わずヴァサーゴは眉を顰める。が、傍から見れば、デカイ男の身体をさわさわしている少女が1人。結構シュールだ。
「汝‥怪盗也や‥?」
一言も喋らない男に、ポツリとヴァサーゴは呟きかける。――瞬間
「ギシャア!」
「!?」
何と言う早技。武器を抜く暇すら与えず繰り出された一撃に、ヴァサーゴは小さな身体ごと吹っ飛ばされていた。同時に入る覚醒のスイッチ。回転、壁を蹴り返し無線機に一声。さぁ、殲滅開始だ!
が。
「ギシャア!」
飛び跳ね、まるで喜んでいるかのような仕草でキメラは逃げていく。しかも、その片手には‥‥
「う、うお! 何だ何だ!?」
「え‥きゃあ!」
騒ぐ一般客。それもそうだ。目の前に、突如としてゴシック・ロリータ風のワンピース片手に走るキメラと、大剣で身体を隠しつつ、可愛らしい下着姿が露わとなった少女がキメラを追いかけていくのだから――
「対象発見しました。場所は――この階です!」
一斉にヴァサーゴからの無線を聴き、ダッシュで目標へと走りだす7人。服を盗めるならやってみなさいと意気込むミオと、ヴァサーゴの服が盗まれたと聴いてニヤリとした伊万里は最もキメラとの距離が近かった為、すぐに対象を発見する。
「アイツですね‥」
だが、奇しくも何よりの目印となったのが、フリフリとキメラの手で靡くヴァサーゴの服のフリルだったのは内緒だ‥‥
●その光景、プライスレス
「おーっほっほっほ! この私に見つかったのが運の尽きでしたわね!」
「ギシャ!?」
何より特筆すべきは、その的確な警備方法と配置だったのだろう。おかげで、迅速に的を発見、討伐姿勢へと追い込んだ傭兵達。逃げるキメラだが、後ろからはミオ、伊万里、ヴァサーゴ。そして、前方には既に麗華が回り込んでいる!
「ギシャア!」
「ふっ。この程度でこの私を止められると思わないでくださいな!」
まず、最初に地面を踏みこんだキメラは麗華めがけ突進。とにかく退路を確保したいのだろう。が、それを受け流すように反転すると、麗華はそのまま瞬速縮地で一気に後ろへつけ、犀牙で強打! 崩れる体勢、確かな手ごたえ。しかぁし!
「あぁん、キメラも粋なはからいしてくれますです♪」
目論見通り、と邪笑する伊万里の目の前では、戦闘用ドレスを見事に引き剥がされた麗華の姿が。かろうじてブラはランニングから透ける程度だが‥‥下の大人っぽいパ○ティーは完全に丸見えです。うん、麗華さんは黒色っと。
しかし、何より悲惨だったのは‥‥
「伊万里、笑ってないで早く手を貸しなさいですわ!」
本人、集中し過ぎで全く気づいていません。
「探偵は遅れてくるものだ、覚悟しなさい!」
さて、とりあえず決戦の場は2階になりそうだが、連絡から3分ほどで雨霧達も到着。敵を視認次第、彼女は一気に接近して機械剣αの一閃!
「な、何て早技だ。一瞬で雨霧さんの服が!」
そんなシーンを見ていた九条。確かに先手を取ったのは雨霧だったが、その一撃を受けながらも、キメラの手には雨霧のスポーティなシャツが輝く。この早技、正にミステリー!
「え、えっと。エネルギーガンで攻撃を‥。あ、でも美術品をもし壊してしまったら、貧乏なボクでは弁償が‥。よし、ここは機械剣で‥ぅわぁぁ!?」
上杉君、惜しい! 一瞬の判断ではあったのだが、思考する僅かな間を逃がさないのが怪盗キメラだ。気づけば、セーラー服を盗まれスパッツ一丁の裸に一歩手前状態へ変身。
「ボ、ボクは男ですっ! これぐらいでは負けません!」
と言いつつも、何故か胸を隠している彼。可愛すぎる仕草なわけだが、もういっそスパッツも盗まれてしまえとか思わなくもない。
現時点で犠牲者4人。既に半分下着姿という、何かの映像撮影っぽい現場に近づく館内。ぶっちゃけ周辺の美術品が霞んできます。
「ギシャア!」
「速い! 榊さん、横です」
「くっ」
そして、何よりも厄介なのは、キメラのスピードだった。視認し続けるのが難しいほどで空間を制する敵は、次のターゲットに榊をロックオン。刹那、白の花柄下着が眩しい榊が出来上がる。へい、5人目一丁上がり!
――ブチ
「ギシャ?」
「許さない‥」
が、その際、何かが弾け飛んだ音がしたのは気のせいだろうか。すると‥‥
「このあたしの素肌を見たんだ。代償は、高くつくからな? 地べたに這いつくばらせてやる」
完っ全にS度が天元突破。もう何このカオス。
「ギシャッ、ギシャッ」
きっと榊が怖すぎたのだろう。もう十分とばかりに地を一蹴したキメラはいよいよ本格的に逃亡体勢へ。
「しまっ。逃げられますわ!」
「待て、この」
しかも、元々速さを真価とするキメラだ。それは凄まじい速度で麗華の頭上を飛び越える。このまま先頭を渡してしまえば、逃げられる! そう九条が確信した――その時!
「空にいる時は、逃げられませんですよね♪」
「ギ‥ガッ!?」
待ってました! 気づけば、隙を窺っていた伊万里が飛び跳ねたキメラの更に上から上段振り下ろし!
衝撃が喉を貫き、鳴き声が悲痛な声へと変わる。
――ドガガッ
そのまま、片手斧×2と自身の重さごとキメラを地に叩きつけた彼女。同時に、マウントポジションキ〜プ。
「アハ、アハハハ〜♪」
瞬間、始るオンステージ。もうこうなったら誰にも止められない。
しかし、ズガズガと胸や顔に斧を食い込ませられながらも、何とか伊万里の衣服を剥ぎ取っていくキメラ!
1枚、2枚。あと一歩、あと一歩で伊万里の特注勝負ブラを剥ぎ取れる! と思いきや! 無念、ここで絶命です。
こうして、無茶しやがったキメラの死骸を運び終えた美術館は、再び活気を取り戻すこととなる。
何とか衣服を護れたミオと九条以外は色々と不味い状態になっていたが、ちゃっかり着替えを用意していた伊万里のおかげで、何とかその場は凌げることに。
「然れど‥何故、こんな格好‥」
が、そこは伊万里クオリティ。ヴァサーゴにはバニー、麗華には獣人装備(狼)を渡し、他の皆にはお揃いのメイド服をチョイス。これ何ていうコスプレパーティですか。
「姉の御下がりじゃない服は、久々です。これがボク‥(ポッ)」
そんな8人をふと見てみると、メイド服が一際似合っていたのが上杉だったり。いつも御世話してくれている姉の癖が移ったのか、自分の姿を鏡に映し何故か顔を紅潮。
「くぅ、また変な着替えを持ってきてっ!」
「私に内緒であんなことした麗華さんが悪いんですよ♪」
かくして、無事に美術品を守り抜いた8人は、美しい星を散りばめた銀幕の下、帰路に着く。
「ヴァサーゴさんには負けませんですよ♪」
平和の訪れた美術館を見て、ポツリと呟いた誰かさんの一言を、静かな空に溶かしながら――