●リプレイ本文
「ふふ、女王ねえ? そんなことよりも、世の中にはもっと楽しいことで溢れているでしょうに」
神森 静(
ga5165)。別名、夜の貴婦人。そう謳われ、その美貌から数々の男を魅了し、堕としてきた彼女は、先程受け取った美しいネックレスを見ながら呟く。
男との浮名も多く、その本性は永遠の闇の中とさえ言われる程であったが、それでも神森の魅力に抗うことのできる男など存在しない。
「ネックレス‥どこに着用しようかしら? 足首かしらねぇ」
時刻は午後6時。太陽も完全にその姿を隠そうとするなか、これから始るであろう(ある意味)壮絶な戦いを前に、神森は静かに着ている着衣を脱ぎ捨てる。
露わとなる真白き肌。一点の曇りもない身体を鏡に映しだすと、彼女はポツッと自分の分身に向かって一言。
「足首だと、スカ−ト捲らないと取れないわねえ。ここにしておこうかしら」
と、そのまま手に持ったネックレスは彼女の胸に聳える白い双丘の狭間へ。
「それじゃあ、行ってくるわね」
そして、彼女は隣にいる大きな黒豹(注:ペットです)に手を振ると、そのまま街へと繰り出す。
そう、空が暗闇に包まれてから始る、彼女のめくるめく世界に向けて――
ここは、どの歴史上の書物にも存在しない幻の国、百合国。
だが、確かにその王国は存在すると云う。
4月の始まりにだけその全貌を明らかにする国で、忘却の彼方に君は何を見る‥‥
●始りの宴
「麗華お嬢様、ヴァサーゴ様、紅茶をお持ちいたしました」
「遅いですわ! 何分待ったと思っていますの!」
「は、はい‥ごめんなさい‥」
――百合国、大鳥居家の一室
そこでは、豪華絢爛たる家具に包まれた空間の中、L3・ヴァサーゴ(
ga7281)と、大鳥居・麗華(
gb0839)が真剣な面持ちで会話を行っていた。
何でも作戦会議とのことらしいのだが、そこにドアから現れるメイドが1人。良く見れば、所々彼女のメイド服には裁縫したらしき箇所が覗いている。
「ヴァサーゴ様もどうぞ。お嬢様がお好きな紅茶です」
「‥感謝。‥‥味‥酸味、不足。逆に、甘味‥過剰」
「!? も、申し訳ございません!」
すると、どうだろう。麗華と同じ紅茶をヴァサーゴに注いだメイド、伊万里 冬無(
ga8209)だが、どうやら味が好みに合わなかったのかダメ出しを貰ってしまう破目に。
「ヴァサーゴは私と好みが違うから、注意しなさいと言ったでしょう!」
――バシィイ
瞬間、麗華の手に握られていた鞭が伊万里の太ももを激しく撫でる!
破ける着衣。これで裁縫痕の原因は理解頂けただろうが、更にそこから覗いた伊万里の肌には、所々まだ新しい鞭痕が生々しく残っているではないか。
「ご、ごめんなさい。許してください」
鞭に打たれつつも、伊万里は涙を堪えつつ麗華に懇願する。が、高笑いと共に麗華が鞭を緩める様子はない。しかも
「あ、ヴ、ヴァサーゴ様!?」
「冬無‥斯様な辱め‥好み、故」
何という光景だろうか。麗華の鞭に加え、次いでヴァサーゴは苦しそうに喘ぐ伊万里のお尻を愛でるようにさわさわ。
「おーっほっほ! 良い表情ですわね! これも日頃の調教のおかげですわよ、感謝なさい!」
こうして、本来の目的を忘れ伊万里への辱めに没頭し出すヴァサーゴと麗華。もう色々と末期です。
さて、ここで話は変わるが、今日ヴァサーゴと麗華が密会した理由は他でもない。
来たる、女王権利争奪戦に向けての作戦会議の為である。
百合国に君臨する女王。その1枠を巡り、これから5日間戦いが始るのだが、普段は仲の良い2人は、協力することで残りの参加者から女王になる為の証――ネックレスを奪おうと企てていたのだ。
しかも、何故か成り行きで麗華の専属メイドである伊万里まで女王候補者になっているという事実。
つまり、言ってしまえば他の3人のうち、誰か一人からネックレスを奪い取れれば女王の座は自動的にヴァサーゴか麗華になるという事が容易に想像できる。
誰もが一度は夢見るこの国を統べし存在。そこに王手をかけた6人を待ち受ける試練とは、果たして如何なるものなのだろうか。
ある者にとっては絶対に譲れない戦い。ある者にとってはただの興味本位。しかし、各々の想いは何であれ、選ばれた6人はこの国に咲き誇る百合(シンボル)となる為、今棘の道へと踏み出すのだった。
●1日目
「女王かー。一度はやってみたいよね」
城下町広場。
そこでは、パラソルとデッキチェアを主体に、まるで南国にいるかのような錯覚を覚える光景が広がっていた。
「あー、うん、そうそう。今丁度勝負中なのよ」
行きかう人々から受ける不思議な眼差しに応えるかの如く、赤崎羽矢子(
gb2140)は他愛ない世間話のようにあっけらかんと笑って話す。
本来は姫将軍として名を馳せてきた彼女だが、その武勇と美貌を武器に、遂に女王への道を切り開く程に。ただ、元々の性格からか彼女は正々堂々と広場で決闘を臨んでいるようだった。
最も、やはり初日は皆様子見なのか、結局赤崎の前に候補者が現れることはなく日が落ちる。
「うーん、今日はここまでかなぁ」
そう呟くと、よいしょっとチェアから飛び降りそのまま彼女は周囲を見渡した後、近くでこちらを見ていた女性へと笑顔で接近。
数分後。立ち話が少し続いた後、動きがあったかと思えば、そのまま赤崎は女性に導かれて女性宅へと。そう、実は姫将軍という仕事柄、赤崎には大勢のファンがいたのだ。それを直感で悟った彼女は、そのままお持ち帰りされることに。
なるほど、これで敵からの奇襲を防ぐ魂胆らしいが、夜に女性宅でどんなシーンを繰り広げるかまでは、さすがにプライベートなので報告は省略させて頂こう。
「候補といえど、私は女王の盾。盾が主に成り代わる事などありえません」
場所は変わって宮殿内部。そこでは、女王の近衛騎士である五條 朱鳥(
gb2964)が現女王に向かい、跪き改めて自分の忠義心を示していた。
自分には分不相応と遠慮する五條。それを見てあなたなら信頼できるわと微笑み返す女王だが、彼女は知らなかった‥‥
(「なんてね。ふふ、今にこの国は私のものよ。そうすれば、国中に可愛い娘を集めて、あんなことやこんなことを‥」)
そう、完っ全に五條のハートは真っ黒だったのだ!
と言うか、もう既に女王になる気満々は勿論のこと、可愛い娘限定の新生近衛騎士団まで設立しようと企んでいる始末。
(「ぶっちゃけ、野郎臭いの兵士には飽き飽きなのよね」)
「? どうかしましたか、五條」
「いえ、もし“仕方なく”女王になることになった場合を考えていまして」
そうニッコリと微笑みつつ、五條は愛想を振る。あぁ、どうやら今回の参加者は、過去最悪級の腹黒娘(褒め言葉です)ばかりのようだ。しかも、それでいて皆美しいのがまた何とも言えない。
●2〜4日目
「麗華お嬢様、大変です! 街中で実は麗華お嬢様はドSのショタロリで、夜な夜な可愛い子供をお伽の国へ招待しているという噂が広がっていますです!」
「何ですってぇぇぇえ!!!」
2日目、朝。普段は優雅な紅茶の香りで目が覚める麗華は、騒がしくも伊万里から突如と入った報せに驚愕の表情で怒声を放つ。
実は、早くも五條が動いたのだ。まずは候補者のありえない噂話を広めまくることで、相手の精神へとダメージを与えようとしていた彼女。見事に2日目でその作戦は実を結び、麗華は既にぴくぴくと怒りに震えるのだが、ぶっちゃけ半分当っている気がしないでもない。
「し、しかも、ヴァサーゴ様とは実は恋親しい仲で、いつも人形のように愛でているとかも」
「‥情報流失、何処から? ‥如何、対処すべきか」
ん‥‥? と、その時、何故かゴソッと麗華のベットから出てくるヴァサーゴ。えーと、これはつまり‥‥
「伊万里、あなたがばらしましたわね! お仕置きですわよ!」
「わ、私は決してそんなことは‥あぁん!」
‥‥どうやら、嘘のはずが半分どころか本当のことだったようです。
「あらあら。まさか、ばったりと遭遇しちゃうなんてねぇ」
「そう言わないの。これも運命ってことでさ。ダメ?」
騒々しいお嬢様宅はひとまずおいといて、こちらは依然と赤崎が待ち構えていた広場。
そこでは、既に局面が新たな展開を迎えていた。
「うふふ‥これはこれは、随分と勇ましい騎士さんね」
「できればあんたみたいな綺麗な人は討ちたくはないんだけどね。悪く思わないでよ?」
「あら、できるかしら、あなたに?」
吹きすさぶ風。絶世の美女が2人、同じ場所に佇んでいる。有名人同士だけに本来なら騒ぎのひとつでも起きそうだが、そこでは辺り一面の観客を前にしても、あるのは静寂だけ。誰も、誰も言葉など発せない状況。
そう、いよいよ赤崎の前に、夜の貴婦人こと神森が現れたのだ!
「いくよ!」
「レディには優しくなさいよ?」
ガキィン。激しい金属音。赤崎から繰り出された痛烈な細身剣の一撃を、神森の剣は受け止める。ちなみに、赤崎の服装は何故かビキニです。
5分、10分。熾烈な戦いだった。とても上品な姿からは想像できない神森の剣術を、自在に空間を駆ける赤崎は捌く。そして――
――ガガッ。半分神森は目を瞑り、もう充分楽しめたと言うばかりの表情になったかと思えば、そのまま受けた剣の衝撃に身を任せ地べたへ。
「綺麗な肌に傷つけたくないの。降参してくれる?」
「ふふ、負けちゃったのね。いいわ、ネックレスはここよ」
そのまま、神森は胸からチラリとネックレスの輝きを見せる。刹那、沈黙を突き破るかのような大歓声が! きっとそれは、僅かな時間だったとはいえ見事な戦いを魅せた2人に対する国民の賛美であったのだろう。
「あらー‥どうやらばれちゃったみたいね〜」
一方、再び麗華や五條達へスポットを戻す。そこには、麗華から届いた一通の手紙に舌を出しながら苦笑する五條の姿が。
手紙の内容を要約すると、要は麗華達の噂を流したのが自分だとばれてしまったらしく、潔く観念して麗華宅へ来いとのこと。
「せっかく面白くなってきそうだったのに‥仕方無いですね。いっちょやったるかぁ!」
素が出てます、五條さん! ‥‥ゴホン。とりあえず、正面対決用に甲冑を来て乗り込む準備を五條は開始。
が、勿論本人は流した噂が真実に近かったなどと云う事実は知らないわけで。とりあえずこれも運命なのだろう。
かくして、時は過ぎ最終日――
●最終決戦
「証は全部勝ち取ってこそ女王の名に相応しい! 一気に討って出るよ!」
「ここが大鳥居家か。覚悟しときなよ!」
「さて、私は大人しく観戦でもさせてもらおうかしらねぇ」
正に最後の決戦と呼ぶに相応しい光景。そこには、麗華宅を舞台に集った3人の候補者達が。
既に甲冑に身を包みズカズカと階段を昇り始めている五條に続き、玄関に到着したのは神森と赤崎。ただ、神森についてはどうやら今回は戦う気はない様子。
「ここか! さぁ、かかって来いやぁ!」
あとは力技でねじ伏せるのみ。完全に本性丸出しの五條はそのまま一室のドア前へ。ここを開ければ待ち構えているだろう3人の敵――だが!
――ぐさっ
「え‥」
突如として指に刺激が走る。関節部分が密集する為、如何しても硬度が低くなるそこに刺ささっていたのは、ドアノブに仕込まれた幾つもの針。
「やら‥れた」
バサッと倒れる五條。ギギィと開くドアから出てきたのは
「うふふ。伊万里の用意した薬、よく効きますわね」
勿論、この人です。
「おーほっほっほ! もっと鳴きなさい、喚きなさい! うふふ、あなた可愛いですわよ!」
「くっ、や、やめ‥て」
壮絶な光景だった。痺れ薬のせいで、ろくに呂律も回らない五條を麗華が鞭で攻め続けると思えば
「心配、無用‥。我が技巧にて‥永遠の楽園‥招待‥」
相変わらずそれに続くヴァサーゴの巧みなゴッドハンド。いや、と言うよりゴッドフィンガーが覚醒。
こうして、いつのまにか顔を赤らめ悶えたままネックレスを奪われた五條を横に、伊万里は麗華の首にソレをかけながら囁く。
「これで、麗華お嬢様の勝利は約束されたも同然ですね♪ ささ、勝利のシャンパンです♪」
差し出されたのは超高級シャンパン。それを満足そうにヴァサーゴと麗華はゴクリ。五條は既にヴァサーゴのテクにより膝をペタンと地につき、息も絶え絶えだ。
ちなみに、赤崎も結局この罠にかかってしまい倒れ、同じく楽園へご招待されることに。
さぁ、これで邪魔ものはいない。後はヴァサーゴと麗華、どちらかが女王になるだけ!
「麗華‥覚悟」
「あぁ、何か興奮してきましたわ! おーっほっほっほ、良い顔で堕ちなさい!」
瞬間、ぶつかりあう2つの身体。絶妙にスポットを突くヴァサーゴのゴッドフィンガーに、麗華はもう完全にテンションMaxで女王様モードが限界突破。ドレスを脱ぎ捨て下に来ていたボンテージ姿で鞭をビシバシ!
押し倒しては押し倒され、重なる肢体、果ては心まで――と、思いきや!!
――クスッ♪
「‥? 良い処‥されど、何故、身体動かず」
「おーっほっほ‥って、あら? 何か身体が」
「うふ、うふふ」
そう、そうだ。今まで重ねてきた辛い日々。ここで返さず何時返す‥‥
「ま、まさか、伊万里‥あなた」
「アハ‥アハハハ‥アハハハハッ! さぁ、麗華お嬢様、ヴァサーゴ様。覚悟は宜しいですね♪」
やられた――が、時すでに遅し。今思えば、何故あの時気付かなかったのか。あの時、あの時喉を通したシャンパン。間違いなくあれが原因だ!
「即効性の興奮薬と遅効性の筋弛緩薬を配合しておきましたです♪」
「不覚‥」
もう結果は見えていた。成す術もないヴァサーゴをまずはこれでもかと弄り尽くす伊万里。しかもそのテクは、日頃受けてきたせいで攻める側としても開花していたのだ!
そしてグテ〜となったヴァサーゴを見て満足気に胸を優しく撫でると、そのまま彼女は麗華へと。が、その時!
――ガチャ
「!?」
「ふ、油断‥しましたわね」
何と、麗華は最後の手段として伊万里を手錠で繋ぐことに。なるほど、これなら最悪でも負けはない。
「アハハハッ、慌てなくとも大丈夫ですよ。『一生』逃がしませんから♪」
「へ‥‥」
こうして、5日目の夜。手錠で繋がれたとあるお嬢様は朝まで声を絞り出された後、後の女王へとなる。
翌日、くたくたの身体で旧女王から継承を受けた彼女の名は、麗華女王。しかし、民衆は知らない。
「麗華女王♪ 今日の夜は如何されますか♪」
「‥とりあえず、ヴァサーゴも呼びなさいですわ」
そう、その国には一人の裏姫君が存在することを。あぁ、今日も狂気に満ちた笑いが月夜に響く時、女王の姫は狂舞する。
かの国が名は百合国。女王が統べし幻の国。
え、その国は何処に存在するかって?
ならば、目を瞑り静かに眠ってごらんなさい。もしかしたら、意外に近くにあるかもしれないから――