●リプレイ本文
「うふふふ、今日は良い日光浴日和ですね♪」
「それで‥そんな水着を着てきた、と‥」
――米国、某地域
燦々と輝く太陽は眩しく、サラサラの砂浜に広がる波形が実に美しい観光ビーチ。
そこにはたくさんの人だかりのなか、周囲からの注目を一身に集める伊万里 冬無(
ga8209)が、大鳥居・麗華(
gb0839)の前で誇らしげに胸を張っていた。
「こういうイベントは、どれだけ目立つかが大事なんです♪」
と、唖然とした表情で立ち竦む麗華に、伊万里は黒を主体とした自信作の水着を此見よがしに見せつける。遠目ではワンピ型のありがちな水着なのだが、よく見てみるとそれは背中が丸見えのベアバックに、ボトム部に至ってはTバックという究極完全体仕様。
さすがに同姓と言えど、若干目のやり場に困る麗華のリアクションを伊万里が堪能している横では、そんな彼女を見て呟く、とある男性が。
「どんなトラップよりも警戒すべきは、冬無さんですね」
と、キッパリ断言する狭霧 雷(
ga6900)だ。今回のイベントに向けて作戦を練っていた狭霧だが、行き着いた結論は伊万里をマークすることになったらしい。
このように参加者のインパクトがあまりにも大きすぎた為紹介が遅れてしまったが、今日のこの人だかりはとあるイベントが原因である。
参加者全員が能力者と説明すれば、珍しいだけに驚かれる方も多いだろうが‥‥
「トライアスロンに罠でありやがるですか‥関係者でてきやがれです」
そう、今日はおそらく歴史に残るであろう大切な日。
<第1回、能力者限定トライアスロン>が催される日なのだ!
とは言え、成り行きながらも何時の間にか参加してしまっていたシーヴ・フェルセン(
ga5638)は、普段ほとんど着用しない水着に頬を赤らめる。
伊万里みたく望んで参加した者達もいれば、覚悟を決めて頑張る決意をするシーヴといった者達。そして
「ちょ、何時の間に参加者名簿に私の名前が!? い、伊万里、やってくれましたわね!」
「あはははっ、心配しなくとも水着はバッチリ用意してますですよ♪」
果ては知らぬ間にエントリーシートを出された者など、それぞれ多人多様な想いを胸に今、熱き戦いが幕を開けるのだった。
●遠泳編〜ビート板の恐怖〜
「くっ‥傷は多少痛むが、ここは能力者として‥いや、一人の男として何としても完走してみせる」
第一競技は遠泳なのだが、先の依頼で深手を負ってしまっていた煉条トヲイ(
ga0236)は、苦い顔で海を見据える。
競技に参加することは可能でも、さすがに傷が痛む様子の彼。それでも、周囲にソレを悟られぬよう自らに鞭打つ姿は、正に真の能力者と言うべきか。
と、その時、競技開始5分前。集まった参加者一同の一部分にて突如ざわめきが!
「どうしました? 結構泳ぎ易いのですよ、この格好は」
そう言いながら端整な顔立ちで微笑みつつ、一瞬で着ていた服を脱ぎ捨て赤褌一丁となった美環 響(
gb2863)。さすがにこの演出は予想外だったか。いや、と云うよりギャップが凄まじかったのだろう。開始早々カメラを集めながら、響のアピールは大成功の様子。
「わ、私、夢理さんの勇姿に憧れて傭兵になったんです‥‥責任、取って下さいね! なんて言われたら‥‥。い、いけません! 私には既に愛するお姉さまがっ! あぁっ、でもっ!」
一方、そんな騒ぎには全く気付かず自らの妄想世界へとダイブ中なのは直江 夢理(
gb3361)。
中学生らしくスク水で参加の彼女だが、本人曰く胸が小さいから水の抵抗が少ないだろうとのこと。少し多感な成長期の悩みが見え隠れする発言だが、きっと将来は憧れのお姉さまに負けない女性になっていることだろう。
「それでは、これより競技を開始します」
さて、ピストルの発砲音と共にいよいよ開始されるトライアスロン。言うまでもなくスタートの合図はこれのみ。後は待ち構える3つの競技を突破し、ゴールにより早く到着した者が優勝だ。
「海は波の抵抗があるから、ダイエットに最高なのよねぇ」
偶には思いっきり身体を動かしてみようと云うことで、色香漂うナイスバディなパイロープ(
ga9034)はせっせとクロールに勤しむ。
続いて後方を泳ぐは、随分と水飛沫が目立つシーヴなのだが‥‥
「ゲホッ‥、わ、罠がなけりゃ自分で妨害をしやが‥ゲホッ」
まさかのビート板だよこの娘! 長い髪が邪魔にならないよう括り、必死でバタ足に励む彼女だが、見るからに泳ぎに慣れているとは言い難い。しかも
「即席の罠攻撃でありやがる、です」
と、ビート板をダミーに潜って競技者の足を引っ張ったりと妨害するものの、明らかに半分溺れかけなのが痛ましい。
「おーっほっほ! この私が他人の後ろにいるなんて似合いませんわ!」
競技開始から数分後。早くもトップと最後尾には差が見られだしていた。妨害など寄せ付けないと言わんばかりの勢いで先頭を爆泳する麗華。
が、良く見ると海面から艶やかな肌がこれでもかと露出しているではないか。実はこれ、伊万里が用意した特別製スリングショット水着なのだが、嫌々と着用を拒みながらも最終的に着ている辺りが妙に切ない。
「変ですね‥てっきり早々仕掛けてくると思いましたが、意外に真面目?」
現在のトップは麗華、続いて伊万里なのだが、ある程度の距離を保ちつつ伊万里を観察していた狭霧は、思いの外真面目に泳いでいる伊万里に不審を抱く。平泳ぎながらそれなりのスピードは出ているものの、どうやら伊万里達とはどんどん差が開いていくようだ。
●自転車編〜サドルだけが知っている〜
「やりましたわ! 早く次の自転車に――」
「おっとぉ! 大変です♪ 麗華さんの水着、ちょっとズレていますよ♪」
「!?」
さてさて、異常に長い距離にもかかわらず、丁度良い感じに息の乱れている伊万里と麗華は、まず2人揃ってトップで自転車へ。
と、その時、伊万里は麗華の水着から大きなお山の天辺がちょっと飛び出ていることに気づく。
けしからん波の抵抗に怒りながらも、顔をマックスで紅潮させた麗華はそのまま着直しの為ちょっと休憩所へ。
「うふふふ〜。ショータイムの始りです♪」
しかし――それは、このメイドが本性を表す瞬間でもあった。
待たせましたわね、と言いながら麗華が再び伊万里のもとへ走って来ると、目の前には次競技用の自転車が爽快に立ち並んでいるのだが‥‥
「さ、休憩も終わりましたし、このままワンツーフィニッシュを目指しますわよ」
「はいです〜♪」
よいしょ。意識してか知らずか、ハンドル部分に可愛い猫のマスコットがついた自転車へ乗った瞬間、麗華はある異変に気付く。
「‥‥ん? な、何かこれサドルが高くありませんこと? 漕ぎ辛いですわよ」
「麗華さんは知らないのですね? 競技用の自転車は、どれもサドルが高いものなのですよ♪」
「!? し、知ってますわよ、それぐらい!」
そうだったのか、と内心思いつつ、伊万里と一斉にスタートを切る麗華。が、どう見てもサドルが高すぎである。勿論、伊万里の嘘に今回も騙されているわけなのだが、必死に漕いでいる後ろ姿はある意味太陽より眩しい。
「意外に疲れたわねぇ。さて、自転車はどれにしようかしらぁ〜」
「過酷な戦場はエキスパートの十八番。まだまだこれからですよ」
伊万里達がスタートしてからタッチの差で自転車に続々と乗り出すグループには、パイロープや響きらの姿も見受けられた。
「や、やっと終わりやがったです」
更に少し遅れて到着したシーヴは既に息が揚がって切れているものの、ここからが彼女にとっては本領発揮である。ファイト!
「あふ、はぁはぁ‥‥さ、さすがにサドルの食い込みが‥きついです‥わ」
「あぁん♪ これは効きますです♪」
一方、最初の快進撃はどこへやら。汗だくでポタポタと水分が身体から抜け落ちていく麗華は、何よりもお尻部分の絶妙な食い込みに意識を削がれていた。何が効いているのか気になるが、その光景を脳内に完全保存するかのように後ろから眺めている伊万里。
「見つけましたよ! 私の家に代々伝わりし忍術が奥義。吹き矢を受けてもらいます!」
「な、何ですの!?」
しかし、遂に2人は先頭を捉えられてしまう! 振り返れば、一気にここで追い上げようとスピードを上げて迫ってくる直江の姿が。しかも、その片手には吹き矢と思わしき1本の筒がしっかりと握られているではないか。
「いきます! ふっ」
「や、やめなさいですわ!」
「あ、麗華さん、急にブレーキをかけちゃ――」
――ガシャーン。
きっと、最大の原因は麗華の思考が熱さと伊万里の手によって機能していなかったからだろう。よくよく考えれば武器の使用は禁止なのだが、まんまと直江の策にはまって失速、そのまま後方の伊万里と麗華はぶつかってしまう。
「すみません。実はこれ、空っぽなんです」
ネタをばらすと、実は何てことないただの空砲なのだが、如何に極限状態に人が陥ると思考が停止するかが見てとれる瞬間といったところか。
「麗華さん、こんなに汗だくだったのですね♪ それじゃ、私の水着で拭いてあげますです♪」
「うう。もうどうにでもなれですわ〜」
‥‥ゴホン。こうして、お嬢様はせっせとメイドからご奉仕される姿をカメラに映してアピールすると、再び自転車(と言うよりサドル)との戦いに臨むのだった。
「な、何でありやがるですか、この坂は‥」
場面は変わり、こちらはシーヴや煉条達が走行中のロード。
が、シーヴは目の前にデデンと立ち聳える急勾配の坂に、力の抜けていく溜息を思わず吐き出す。
「何が何でも体力を奪おうって魂胆か」
立ち漕ぎしようと、一般人の脚力であれば間違いなく途中で足をついてしまうほどの坂道。なるべく後方集団につき、かつ前方を走る自転車を風よけにしていた煉条も、さすがにこれは小細工なしで臨むしかない。
「めどいわねぇ‥早く気持ち良い風に吹かれたいわぁ〜」
覚悟を決めてペダルを踏みだすシーヴ達を後方に、坂道の丁度真ん中に差し掛かったパイロープは、胸についた大きな2つの重りと格闘しながら、マイペースに一定の速度で駆けていた。特に順位などを気にする様子もない彼女は、賞金よりもシェイプアップ重視の様子。
「ふふ、たった一つだけ僕も忍術が使えるんですよ。それはですね‥忍法やせ我慢の術!」
完全に性格が掴めない辺りが如何にも奇術師っぽい響だが、坂道を超えた途端競技者から繰り出される妨害行為にもめげず、彼はそのまま上位集団をキープ。人が密集する為辛いが、これを抜けられればトップは目の前である。
――自転車終了。ゴールまで残り15km
●マラソン〜緑の悪魔〜
「地味に重いですね‥」
いよいよレースも終盤に差し掛かり、最終競技のランに臨む狭霧は、3キロのタスキをかけながら後方に警戒しつつ安全重視で走っていた。と言うのもこのマラソン、いたる所に落とし穴やらの罠が待っていたるのだ。しかも、すぐ後ろには伊万里と麗華が走っている状況。正直、ある意味これ以上恐ろしいことはない。
「あぁん、あまりの暑さに倒れてしまいそうです♪」
「その方がありがたい気もしますわ」
何てことを言い合いながら、観客からの視線に興奮しつつ伊万里は顔を紅潮させた笑顔で愛想を振りまけば、隣の麗華は余裕がないのか必死で前との差を詰めようと全速力。
「さて。これなら無事にゴールに着けそうですね」
その頃、トップ集団では響が給水所でドリンクを貰いながら、いよいよ最後の追い上げへ。が――
「これは中々、画期的な飲み‥も‥グボォハ!」
どうしたことか。完全に言語から外れた叫びと共に、思わず前方に膝をついてしまう響。見てみれば、落とされたコップからは緑色の生々しい液がドロドロとこぼれている。
「あの緑汁。ちゃんと飲んで頂けたでしょうか」
同時刻。響より少し先の地点では、直江がコッソリと彼が倒れた原因を囁く。そう、実はあれ、以前直江がVDに作った超特製緑チョコ入り青汁だったり。
この暑いなかマラソン中にチョコ入りの劇甘緑汁など想像したくもないが、とりあえず響はどんまいだ。
そして‥‥いよいよ局面は最後に向けて動き出す!
「えっ!?」
気づいた時には遅かった。トップグループだった直江が突如倒れたかと思えば、その横にはタスキを振り回すシーヴの姿が。
「私としたことが‥不覚でした」
「悪く思わねぇでくださいですよ、使えるモンは最大限に活用しやがるです」
さすがに能力者と云えど、幼い体には辛すぎたのだろう。今までの疲労もあってか、倒れたまま動かなくなる直江。良く見ると、気絶と言うより眠っているようにも見える。夢の中では、お姉さまが頑張りを褒めてくれているのだろうか。何にせよ、ここまでの頑張りは実に見事なものであった。
かくして――
「こうなったら絶対に優勝しやがるです」
「奇術は最後の最後まで何が起きるかが分らないものです。最後まで僕は諦めない!」
トップ集団、ゴール!
自転車からの大逆転劇を見せたシーヴと、最後の最後まで優勝を目指した響。結局優勝争いはこの2人になったのだが、女神はギリギリの差で響に微笑んだようだった。
「ふー。とりあえず、こんなものでしょう」
「いい汗かけたわぁ〜。後はビーチでくつろがないとねぇ〜」
「まだまだ未熟だな‥」
更にその後続々と狭霧、パイロープ、煉条もゴール。終始、見ごたえのある内容だったと言えよう。
「や、やっとゴールですわ‥」
「麗華さぁん、待って下さいです♪」
‥‥。そして、結局この2人はと言うと、前半とは打って変わってペースを落としてしまい後列でゴールへ。だが
「きゃん、今までの疲れで足がもつれてしまいましたです♪」
「え、ちょ!」
足がもつれるどころか、完全に自ら手を伸ばし張り倒したようにも見えたが、伊万里は後ろから麗華と一緒に倒れ込み仲良くゴール。しかも
「く、最後の最後で転ぶなんて‥」
「♪」
恥ずかしい気持ち半分、ゴールの喜びも見え隠れするなか、伊万里を見た麗華は彼女がニコニコと自分の胸を見ていることに気づく。
「‥‥まさか‥またですのぉーー」
こうして、最後の最後まで麗華を弄ぶ事に成功した伊万里と、見事にしてやられた麗華。しかし、この2人なら真面目に取り組めば、優勝も狙えた気がするのはあえて言うまい。
●安らぎを
競技も無事終わり、各々フリータイムへと移った能力者達。賑わうビーチで休む狭霧だが、隣で伊万里が麗華のマッサージをしている為、気が気でないのが不憫だ。
他には奇術を披露している響や、海を楽しみつつ泳ぎの練習をするシーヴ達も。一方、ビーチに姿が見えない煉条はどうやら病院に行ったらしい。お大事に。
かくして、参加者一同は暖かい砂浜の胸に抱かれ一時の安らぎに身を委ねる。
今はただ、やがて訪れるであろう戦いの日々へ向けて、穏やかな時間を――