タイトル:【DR】堕ちた天使マスター:羽月 渚

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 3 人
リプレイ完成日時:
2009/04/07 04:05

●オープニング本文


●アグリッパの結界
 地上要塞ラインホールド。
 この名から想起するイメージに反して、その最高速度はマッハ1以上と推定されていた‥‥
 ‥‥のだが、ウダーチヌイ偵察作戦の完了後、UPC正規軍による第2次偵察が開始された頃、既にウダーチヌイにはラインホールドが鎮座していたという事実は驚愕せざるをえないであろう。
「奴は東京にいたんじゃないのか!?」
「動いたって情報は来ていたさ‥‥だがな、冗談だろう? あのデカブツがもうここにいるなんて」
 UPC極東ロシア軍のKVパイロットもまさに驚愕する事態。
「くそっ、撃ってきたぞ!」
「落ち着けっ、この距離でそうそう対空砲火があた‥‥うわああっ!」
 無数の対空兵器が偵察部隊のKVに襲いかかり、一機が撃墜される。十数km離れたラインホールドから恐るべき精度で対空兵器が飛行中のKVに放たれているのである。
「3番機、ミサイルに追いかけられているぞ! 避けろ!」
「とっくにやってる!」
 押しつぶされるような強いGに耐えながら急旋回を行い、追尾するミサイルを引き離すKV。
「よし! 引き離して‥‥なっ!? ミサイルが引き返してくるだと」
 だが、安堵したのも束の間。パイロットが見たものは、引き離したミサイルが再び自分に向って飛来してくる光景であった。
 パイロットはミサイルを回避し続けるが、何度でもミサイルは蛇のようにしつこく絡みついてくる。連続する激しい回避運動に意識がふっと遠くなった時、機体は爆散していた。

「――以上が第2次偵察隊の生き残りによる報告だ」
 ヤクーツクのUPC軍基地の一室。UPCの将校が偵察部隊の報告を傭兵達に説明している。
「その後、第3次偵察隊を出撃させ、敵の防衛システムについて探らせた。その結果、ラインホールドの周囲に展開する攻撃補助装置の存在が確認された」
 映写機でスクリーンに映し出される写真。バグア軍特有の生物的なラインを持つものの、パラボラやアンテナ類が目立つその兵器はおそらくセンサーの集合体とも言うべき装置だと想像できる。
「この装置の総数は不明であるが、少なくともラインホールドの周囲20〜30kmの間に6基が確認されている。この6基を線で結んだ六角形の内側では、既存の戦闘においてはあまり考慮されることのなかった数十km単位での長距離対空迎撃が高い精度で行われ、また敵ミサイルの追尾機能が尋常でないほど向上している」
 スクリーンに映されるウダーチヌイ周辺の地図に6つの光点が浮かび上がり、それを結んだ六角形の内側が赤く塗りつぶされる。それはまさに対空兵器による結界とでも言うべきものである。これでは手も足もでないのではないか。そんな不安が傭兵達によぎる。それを察したように将校は言葉を継ぐ。
「だが、付け入る隙がないわけではない。この六角形の外側への効果は比較的高くないものと推定される。そこで諸君らに命じるのは、大規模作戦発動に先んじて、この6基の装置を破壊し、ラインホールドへの接近を可能にすることである」

 ***

「それにしても、こんなものを開発していたとはねぇ。抜け目ないっていうか‥‥」
 ラインホールド周囲に配置されたアグリッパがうちの1基――通称『アドナキエル』を見据えながら、FRに搭乗するエヴァ・ハイレシス(gz0190)は溜息をついた。
 周りに広がるは、中央シベリア高原にかかる為か比較的緩やかな地形と、それを取り囲むように雪国のイメージを強めるタイガの針葉樹林。
 そんな、見るからに機体の外へと身を乗り出す気にはなれない景色の中、彼女は静かに雲ひとつない寒空を見上げる。
「綺麗な空ねー‥‥」
『――エヴァ、異常はないだろうな?』
 と、その時、突如としてFR内の無線に響く男性の声が。
 その声を聞くや否や、少し顔を顰めて返答の言葉を返すエヴァ。
『今のところ問題なしでーす』
『その返事はなんだ! 貴様、自分に与えられた任の重さが解っているのか!?』
 するとどうだろう。軽く返したエヴァに対し、無線越しの男は声を荒げて彼女に注意を促し始めるではないか。
 実はこの声の持ち主、ジョージ・バークレーは、今回のラインホールドを取り囲むアグリッパ防衛網作戦の重要人物であり、指揮系統の中枢に位置する人物でもあった。
 いい加減人類をつけあがらせるのに痺れを切らした彼にとって、今回の作戦の重大さは計り知れないものであると同時に、どうしても譲れないものがある。その為、口調を荒げながら逐一に周囲の確認をしてくるジョージに、エヴァは少し嫌気がさしていたのだ。

「はいはい、解ってるわよ、まったく。遠くから派遣されてきたはいいものも、面倒臭い話よねー」
 そんなジョージの想いを知って知らずか、無線を切ったエヴァは落胆した表情で声をこぼす。ラインホールドの移動に伴い、バグア側の勢力を底上げする為に呼ばれていたゾディアックの彼女だが、どうやら本人はそこまで乗り気ではないらしい。
「アドナキエル‥‥黄道十二宮の天使から名前を貰った装置、か。随分と洒落た名前よね」
 そう言ってエヴァが目線を向ける先には、全長約10メートルほどであろうか。陸上形態のまま不気味に佇むアグリッパの姿が、静かに寒風に曝されている。
 まだ具体的にその全貌が明らかになっていないこのアグリッパだが、少なくともミサイルの終端誘導能力など、人類側にとって相当の脅威となり得るであろう能力を秘めているのは事実だ。
 ただ、ラインホールドとのリンク機能により、確かに対空防御は鉄壁に近いものがあるのだが、同時に陸上からの攻撃には得意の防衛機能が最大限に活用できないという弱点もあった。
 だからこそ、今回はゾディアックらを動員して陸・空双方への護りを固めることとなっていたこのアグリッパ。これらを破壊できない限り、人類側の不利は至極明らかである。


「以上、諸君らにはこれら装置のうち、西南西に配置された1基を破壊してもらう。予想される敵勢力としてFRが確認されている為、くれぐれも注意するように」
 UPC軍、イルクーツク基地。そこでは、数人の能力者達が険しい顔で今回のミッション内容について説明を受けていた。
 今、偵察の依頼を経て、遂にラインホールドを囲みつつ周囲に展開された6基のアグリッパを破壊する作戦が開始される。その先に人類が見出す結末がどうなるのかは、まだ誰にも分からない。
「さぁて、今日はどんな出会いがあるのかしらねぇ」
 一説には、黄道十二宮の天使達は、堕天して宮を支配する悪魔と化したとも言われている。 
 天使、アドナキエルを称したアグリッパ。そして、それを護る星ゾディアック。
 
 銀幕を突き抜け、堕ちた天使が待ち受けるその更に先を目指す為、まずは立ちはだかる天使を討て――

●参加者一覧

ノビル・ラグ(ga3704
18歳・♂・JG
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
Loland=Urga(ga4688
39歳・♂・BM
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD

●リプレイ本文

 一度外に出れば、人間の肌では張り裂けそうな痛みを感じるに違いない。そんな、雪景色と厚い永久凍土層がどこまでも続くウダーチヌイの大地。そこでは、とある目標へ向かい走る8機の機影があった。
『アグリッパ‥また厄介なモン、出して来やがったですね』
 直に見えてくるであろう対象を考え、少し口調を強めて無線に言葉を発するシーヴ・フェルセン(ga5638)。パイロット用ヘルメットから覗く眩いほどの紅い髪が特徴的な彼女は、既に全神経を研ぎ澄ませたまま覚醒しており、瞳の色も鮮やかなルビー色に変化している。
『ですが、ここでアグリッパを破壊できれば人類の不利は払えるのです! 気を引き締めていくです!』
 その言葉に、自らを元気づけるよう如月・菫(gb1886)は返す。
『確かにそうでありやがるですが‥‥最新の報告では、付近にFRも確認されやがったとか。相当厳しくなりやがりそう、です』
『え、ええ!? FRですか!? ‥こ、これはやばいかもしれんのです』
 が、シーヴの言葉を聞くや否やさっきの強気はどこへやら。実はどこか残念な部分もあるらしい彼女。急にテンションが下がった気もしなくはないが、それでも着実にアグリッパへの距離を縮めていく。
『これから戦火に赴く皆のためにも‥この作戦は絶対に成功させないとね』
 とは言え、ここで攻めに転じ敵の防衛軸を潰してこそだ。相手が誰であろうと関係ない。蒼河 拓人(gb2873)は、確かな決意を胸に前方を見据えていた。
 本来は狭いはずであろうコクピットにも関わらず、空間に多少のゆとりがあるその光景は、彼がまだ幼いことを意味している。
『とにかく生きて帰りやがるですよ』
『勿論!』
 アグリッパと呼ばれるバグアの最新型ワームにより、一定の周辺区域からは陸上形態での走行を余儀なくされていた8機。
 シーヴの全員に向けられた無線越しの声に、拓人が勢いよく気持ちの良い返答を放った。

「はぁ〜。まったく、来なければ良いと思ってたけど、やっぱそうはいかないか」
 ラインホールドを中心に、西南西に配置されたアグリッパ――通称アドナキエル付近。
 その全容は未だ明らかにされていないものの、不気味な10mほどの巨大ワームを見つめながら、FRに搭乗するエヴァ・ハイレシス(gz0190)は溜息をついていた。
 広範囲の探知レーダーに、8機の機影が映ったのだ。この8機という数による部隊構成には見おぼえがある。そう、忌むべき人類の戦闘兵器が今、彼女に迫っている証拠。
「仕方ない‥潰すか‥」

 互いの思惑を胸に、対峙する人類とバグア。この先に待ち受けるのは生か死か。
 こうして、いよいよ辺りの針葉樹林を背に、白銀の舞台における激闘が開始されるのだった――
 
●突き進め
『おっと、FR発見! ‥って。何だぁ、お得意の光学迷彩は使わないのか?』
 互いを視認後、一瞬でペア機どうし固まり、迎撃態勢に移行するノビル・ラグ(ga3704)ら8人。が、どういうわけか、前方に佇むFRを見てノビルは思わず疑いの眼差しを向ける。
 FR、その最も特異であり得意とする機能の光学迷彩が発動されていないのだ。
『FRならば、まずは光学迷彩を用いた奇襲が定石にすらなっている程ですが‥』
 その様子を見て、ノビルに続き南部 祐希(ga4390)も表情を曇らせる。旧蠍座を撃墜した者として、対FRには慣れていた彼女だけにどこか拍子抜けした部分もあったのだろう。しかし
『どっちにしろ関係ないな。アドナキエル破壊まで、ド根性で持ち堪えてみせるだけだ!』
 威勢よく叫ぶノビル。瞬間、ライフルの砲口を向けながらFRの横へアンジェリカが滑り込む!
『あら、いきなりね。レディにはまず挨拶から始めて頂戴な』
 そんな彼を目で追いながら、エヴァは円月刀に似た形状のグレイヴと呼ばれる兵装を展開。今にもノビルめがけて突進しようと構える、のだが
『どこ見てやがるですか? 後ろがガラ空きでありやがるですよ』
 ノビルとペアのシーヴが、FRを囲むように距離を詰めつつレーザーガトリング砲を猛射!
(「アドナキエル班への邪魔だけは防がなきゃな」)
 次いでノビルも、シーヴの集中射撃に加勢しFRの足元めがけ射撃を試みる。巻き起こる雪煙。周囲の雪は迸る火花による熱で瞬く間に空へ帰す。
 近接の武器を構えている今、わざわざ誘いに乗る必要はない。このまま一気に活路を開く。そう思う2人の横をアグリッパ破壊の担当班である、Loland=Urga(ga4688)と直江 夢理(gb3361)が一気に先のアグリッパへと一直線。
 その間も足止めの牽制射撃を行うノビルとシーヴに、烏谷・小町(gb0765)も秒のタッチで加わる。
 一瞬の出来事。正にこの表現が表せる光景がそこには存在した。
 想像以上の初動における制圧射撃の前に、少なからずとも出だしが遅れたFR。その隙に拓人達は一斉にFRの一戦を超えた。かに見えた――
「なっ!?」
「――ッ」
 突然脳内を揺さぶるかのように何かが奔ったかと思えば、それは一気に8人の操縦を鈍らせる。
『ひ、ひぃ、CWですー。しかもこの数、かなり多いのですよ』
 判別不可能の周波数による怪音波の嵐。最早バグア側にとって当たり前となった兵器が登場したのだ。

『あら。ダメじゃない、せっかくあたしを押さえつけられていたのに』
 CWの奇襲により、どうしてもその場における攻撃が弱まり隙を作ってしまっていた対FR班。しかも、その余波はアドナキエル担当の3人にまで及んでいた。
『まずはコイツらを倒さな‥FRなんて相手にしてられへんで!』
 体勢を立て直しつつ、鳥谷は再びFRに警戒しながらレーザー砲を構える。しかし、その時彼女は思わず自分の目を疑ってしまう。
『う、嘘やろ‥話には聞いとったけど、なんつー性能や』
 と言うのも、巻き起こった雪煙が落ち着き、今一度全体の姿を見せたFRには何とほとんど傷がついていなかったのだ。
『ふざけた機体でありやがるです』
 本来、サポート専用の補助機として注目を集める岩龍を最新機に劣らない性能にまで叩き上げたシーヴですら、首を冷や汗が伝わるのを感じる程。
『それじゃ、まずは抜け駆けしようとしているその子達にお仕置きかしら‥』
 低く伝わる声。刹那――
『しまっ』
『!? ノビ‥』
 FRの腹部付近が輝いたかと思えば、一回の瞬き後、シーヴの前ではノビルのアンジェリカ脚部が焦げ付いていた。
『ってめぇ!』
『嫌ね、さっきのお返しよ。それより‥』
 クスッと笑うエヴァ。シーヴの警戒を発する声が拓人の無線に響く。
「速いっ」
 一見鈍足そうな外見に不釣り合いなほどのスピード。直線で雪を柱の様にせき立てながらFRが向かうは、アグリッパへと進攻していたUrgaら3機のもとだ。
『待ちなさい!』
 叫ぶ南部の声も虚しく、相当な命中力を持つはずの彼女の追撃をFRはジクザグに交わすと
『こんにちは、初めましてかしら?』
 あっという間に、その機体は拓人の隣へとつけていた――

●新たな輝き
「くっ」
 すぐにでもその腕に握られたグレイヴが振り払われれば、まず間違いなく一撃を貰う距離に詰められた拓人。コクピット内の体ごと揺らし、KVを全力で傾けながら距離を離そうとする。
『嫌ね。逃げないでよ』
 が、そのまま狙った獲物を最期まで楽しむかのように、エヴァは拓人機を追従すると、機体を反転させるかのようにしてグレイヴを円状に薙ぐ!
「うぁっ」
 鈍い音、弾かれる機体。しかし、なおもトドメを刺そうとするエヴァに、そうはさせまいと鳥谷や如月がガトリングで弾幕の壁を形成。更に横からは南部のファランクスによる圧倒的な連射!
「ちっ」
 舌打ちするエヴァ。そのまま一度後方へ下がろうと、近距離兵器から遠距離兵器へと転換しようとするが
『待っていましたよ、この時を‥‥!』
『!?』
 狙うは相内覚悟の一撃。グングニルのブースター噴出に合わせた、南部の突進だ!
 並みの機体であれば間違いなくどこかに風穴が開くであろう絶大な一撃が、確かにエヴァを捉える。だが
『‥‥その槍だけはさすがに耐えられそうにないわね』
 言うや否や、腕に装着されたグレイプを2本クロスさせ、そのままグングニルを挟み込む。飛び散る火花、強烈な金属の摩擦音と共に、そのまま攻撃のベクトルをずらされたグングニルはFR側部ギリギリの空へ。
『南部さん!』
『‥まだ、終わりませんよ!』
 それでも再度攻撃に繋げようとする彼女だが、FRの体ごとの体当たりで機動力を完全に殺され、機体は激しく横転。
『ふふ、あんたは危険ね‥死になさい』
 確かに聴こえた冷たい声。無慈悲に南部のディアブロへとライフルが向けられる。と、その時
『う、怖い‥‥いえ、こ、怖くはありません! お、お命頂戴なのです!』
 ――ドガガ
 南部の決死の覚悟があったからこそ作らざるを得なかった微かな隙。そこをついたのは、意外にも菫のシュテルン――4機のブースターを搭載した新槍!
『‥‥カハッ』
 伝わる激しい衝撃で、頭部を操縦席内部の壁に激突させられたエヴァ。機体へのダメージは微々たるものでも、その衝撃が機体を揺らす。
『まずはアグリッパだ! 夢理、行くぜ!』
『は、はい!』
 菫の一撃で完全にエヴァの気が逸れたと判断したUrgaは直江に呼びかけアグリッパへとブースト。
『今でありやがるです! 菫のサポートに回りやがるですよ』
 ここで何としても時間を稼ぐ。グレイヴを今一度振りかざしたFRへ向けレーザーガトリングを翳すシーヴと同時に、ノビルは起き上った南部を援護するようにライフルで支援。
『うっとおしいな、コイツラ!』
 とは言え、やはり未だ空中に漂うCWの排他が完了していない。絶え間なく発せられる怪音波の前には、どうしても射撃による精度を欠く破目に。
『‥もう怒ったわよ!』
 FRへの傷ではあまり感情の変化を見せなかったエヴァも、自らが直接的な被害を蒙ったからか、声を荒げて強力なライフルを絶え間なく射出。
『――右脚部破損。この‥‥』
 その攻撃は、シーヴのコクピット内を、彼女自身の美しい紅ではなく、機体の破損を告げる警告メッセージで赤色に染める。唇を噛みしめるシーヴ。まだいける、ここで退くわけには絶対にいかない!
『仲間がアドナキエルを潰すまで‥‥持ちこたえられるか不安やね』
 苦い声。アグリッパの破壊が最優先とは言え、やはり全員が無事に帰還してこその任務。それが無事に叶うことを祈りつつ、鳥谷は地を自在に駆けるFRへとアテナイの砲口を向け続ける。
『あははは。敵は多い方が良いわよね! これはあたしからのプレゼントよ!』
『‥‥おいおい、マジかよ。冗談きついぜ』
 それでも、5人ではやはりFRとCWでは厳しい。その絶望的な現状に、更に非情を極めたのは、エヴァの率いるキメラ部隊の到着だった。
『マズイでありやがるです。さすがにこれは――』
 一瞬、シーヴの脳裏に浮かぶ愛しいあの人の顔。アグリッパに向けてUrga達の道は切り開けたが、今自分たちの生死は儚い天秤の上。最悪のケースも考え、思わずシーヴが力のない言葉を放った――その時!

『どうした、らしくないな?』
『!』
 不安が取り巻く冷たい風を取っ払うかのように放たれた、聞き覚えのある声。
『姉さんも!』
 叫ぶ菫。彼女の視線の先には、誰よりも心強い味方。
『遅くなりました。ですが、その分仕事はしますよ』
 そう、本依頼でのサポートを要請されていたリュイン・カミーユ(ga3871)と如月・由梨(ga1805)の2人だ!
『何よ、アンタ達!?』
『ふん、貴様にあんた呼ばわりされる筋合いはないな』
『リュインはアグリッパに向かった夢理の援護を頼むでありやがるです!』
『了解した』
 その行動に一切の無駄はなかった。電光石火の如く現れた3機は、3人目のルカ・ブルーリバー(gb4180)が空中を浮遊していたCWを巧みに引きつけながら、見事に仲間の攻撃を生むチャンスへと繋げる。
『ちっ! 待ちなさい!』
 焦るエヴァ。たかが3機が新たにかけつけたぐらいで、相手の状況が好転するとは思えない。しかし、それでも‥‥
『雑魚は私達が引きつけておきます、皆さんはその間にでもFRに集中して下さい』
『助かるでありやがるですよ』
『こ、コイツら‥‥』
 奥歯をこれでもかと噛みしめながら、エヴァは憤怒の表情に顔を歪める。好転するはずはない‥‥するはずはないが、確かに全体の士気が上がったのは事実だ。
 これ以上の猶予は与えられない。纏めて殺してやる。そう彼女が思い攻撃用ギミックを解放した瞬間、先では彼女を我に帰させる驚愕の事実が目に移っていた。

『嘘‥そ、そんな』
 ある程度の戦闘は可能、その言葉を鵜呑みにしていた為か。数百m先では、アドナキエルが煙を立てて今にも崩れ落ちようとしているではないか!
 まずい。悟り、駆ける。攻撃ではなく、全てを移動に費やしノビルらの攻撃を受けながらもエヴァはアドナキエルの方へ――

『夢理、来るぜ!』
『‥はい』
 目の前では、空へ逃げようとするアドナキエルを一心でUrgaや拓人達迎撃していた。
 と、その時1人飛び出す少女の機体。
『エヴァ様、私とダンスの御相手を願います!』
『お前は、あの時の!?』
 全ての銃口を開放し、全力をもって迎撃へと体勢を移行した直江機だ。
『これが全てアグリッパに届いたら、さすがに大破するでしょうね』
『させるかぁ!』
 雪柱を立てながら徐徐に距離を縮めるFR。これで良い、このまま敵の気を逸らしたまま時間を稼げれば、他メンバーの攻撃でアドナキエルは破壊される。そう思い、決意する直江。距離5m――

●破壊
 気を失うほどの衝撃が直江にぶつかっていた。
 数秒間意識を失った彼女が再び目を開けた先では、彼女に意識を集中した為、鳥谷に背後装甲を裂かれていたFRが。
『ど‥けぇ!』
『まだや、まだ離さへんで!』
 背には鳥谷の白雪。が、振り払おうとしたその目の前では、アドナキエルへ肉薄した拓人が既に雪村を上段から一閃!
(「まずい。完全に破壊される」)
 すぐさま拓人めがけライフルを構えるFR。しかし、続く光景は彼女にとってあまりにも衝撃なものだった。
「練剣は二度啼く――秘剣、雪燕!」
 振り下ろされたはずの刃が、何と返しで更にアドナキエルへと食い込んだのだ!
『‥‥ふふ、何て様かしらね』
 目を一瞬瞑るエヴァ。操縦座席の前では、本戦以外にも、先のエルドラドにおける戦いで負った損傷個所が赤く表示されている。

『あーあ。どうやら、楽しいダンスは踊れなかったみたい‥残念だわ』
 そう直江を振り向きつつエヴァは呟く。そして
『これで安心しないことね。本当の闘いはこれからよ』
 そう最後に残すと、360度全方位に向けガトリングを連射、近接していた鳥谷を吹き飛ばし、FRは巻き起こる白煙と共に空へと飛び立つのだった。


※本依頼結果については「連動シナリオ情報」にて。