●リプレイ本文
「エルドラドか。私にとっても縁がない訳ではないな。市民の安全は最優先、それを害する敵は排除するだけだ」
青い青い、しかしどこか不気味な雲を散りばめた空。そこを飛ぶ8機の機体のうち、ディアブロに搭乗しているレティ・クリムゾン(
ga8679)は静かに呟いた。
「まったく、エルドラドから手を引いた筈なのに、もう反故にするなんてね。油断も隙もないんだから」
一方、こちらはシュテルンを操る赤崎羽矢子(
gb2140)。その視線の先に次第に見えてくる目標の空域を見据えながら、苦笑しつつ溜息と同時に言葉を吐く。
彼女の言うとおり、既にエルドラドへのバグアによる介入は無いものとされていただけに、今回の事件が発覚したとき、人類側に衝撃が走っていたのは事実だった。
『連中も一枚岩ではないのか、宇宙人は約束を守らないものなのか。どっちかしら?』
『どちらにしろ、敵対する以上、あちら側の勢力は殲滅しなければな』
皇 千糸(
ga0843)の疑問に、間髪入れずレティが囁く。そう、バグア側がどういった行為に出ようと、どういった意図を持ってしての行いだろうが、我々が対処するべきことは変わらない。人々の安全を脅かす存在の迅速なる駆逐。それが、UPCから派遣された能力者の最優先事項だ。
「見えてきたね。なるほど、こりゃあ骨が折れそうだ」
前方にHWを視認次第、それぞれ戦闘体制へと移行する8人。赤崎は自分の首を冷や汗が伝わるのを確かに感じていた。彼女達の目の前に広がった敵は、HWだけでなく‥
「鹵獲されたKVか‥。あたし達の味方も、こうなってみると複雑なもんだね」
AI操作された、鹵獲KVなど、これから始まるであろう激戦の予感をひしひしと感じさせるものであったのだから――
●進攻阻止
「この国をやらせるわけにはいかない!」
激戦必死。まず、当初の予定通り8機は4つのペアに別れ敵軍と交戦を開始する。
前衛で周防 誠(
ga7131)からの援護を受けつつ、井出 一真(
ga6977)はHWを確実に捉えられる射程範囲内へと引き寄せた瞬間、一斉にホーミングミサイルD−01を発射。もともとは中距離にも対応できるよう作られた誘導型のミサイル兵器だが、ギリギリまで引き寄せた彼の絶妙なタイミングもあり、ソレはHW1機の翼を見事に焦がす。
「おっと、逃がしはしないぜ!」
追撃態勢へと移行しつつ、次弾のミサイル二発を積んだ発射口は旋回する敵を尚も逃がさない。生み出される爆音、それは井出が操る阿修羅の咆哮そのものと言ったところか。
「狙いは良いと思いますよ。ただ、それが運の尽きってね」
高い破壊力を同時に自らの障壁とし、空を自在に翔る阿修羅。ただ、その攻撃を何よりも引き立てていたのは周防の巧みなサポートがあってこそだった。その点に気づいた手負いのHWは、対象を変更し周防のワイバーンへと照準を向ける。が、井出を真似接近しすぎたのが逆に仇となる。周防のKVに装着されたソードウィングが、HWの焼け焦げた翼を引き裂いたのだ。
「まずは数を減らし、戦力の不足を補いたいところだが‥そう簡単にはいかないか」
順調なスタートを見せた人類側だが、如何せん最大のネックはその物量の差。
『くっ、後ろに着かれたか‥‥千糸、頼む』
『任せて』
どうしても数の暴力の前に隙を作らざる終えない八神零(
ga7992)。しかし、皇の助けもありギリギリで局面の優位さをこちらへと引き寄せる。
「にしても、こいつら相手に8人はちょっと厳しいか」
が、更に現れる敵機を前に、認めたくはなくとも、皇の呟く言葉が自分達の置かれた現実を確かと得て当てているのだった。
と、その時
「!?」
後方から赤崎の支援をしていた直江 夢理(
gb3361)のロングボウが、弾幕の壁を突き抜けた敵機から襲われる。
「ヤバッ」
急速で方向を展開する赤碕。間にあうか、そう思いつつレーザーの放射口を調節した瞬間――
――ガガッ
突き抜けた一筋の集束光。そしてそれが描いた直線の末端にいたのは‥‥
「FR!?」
最悪と思える展開の出迎えだった。
『ちょっと、どういうことよ。まさかUPC軍も動いてたっての!?』
予期せぬ敵の登場により、緊急で構えなおす8機。しかしながら、当のFRはと言うと停空したまま何かボソボソと呟くばかり。
更に言えば、先程のFRが攻撃した対象。それはあろうことか、直江を攻撃しようとしていたHWで‥‥
今の光景を一言で表すとすれば、三竦み、と言ったところか。動く気配どころか、困惑しているかのようなFRに向けて、まず均衡を破る一声が放たれる。
鋭い視線でソレを見つめる八神の、低く静かに呼びかける声だった。
『エヴァ・ハイレシス(gz0190)‥何故、お前がここにいる?』
『げっ。その声はいつぞやのキザ男!?』
すると、聞くからに嫌そうな声で返答するは少女の声。そう、最近新たにゾデイアックに襲名された事が発覚した新蠍座、エヴァの声だ。
『その様子じゃ、あたし達がいるっては思ってなかったみたいだね。どういうつもりか、説明して貰えない?』
そして、八神に続いたのは彼と同じくエヴァと面識のある赤崎。ライフルを向け威嚇しつつも、敵意をなるべく抑えたつもりで彼女は呼びかける。
『そっちこそどういうつもりよ! アンドリューの部隊を殲滅しようと思って着てみれば、先にUPC軍がいるなんて』
『何?』
するとどうだろうか。返ってきたのは、全くもって予想だにしなかった答え。そして、その発言から見出された結論を瞬時に悟らせたのは‥‥
『つまりお前は、私達の後ろにいるこいつらが本来のターゲットと言うことか』
事を冷静に、慌てず、しっかりと状況把握に努めていたレティの一言だった――
『ちっ、相変わらず数だけは立派だね』
『ほらほら、さっさと戦いなさいよ。あたしはここで傍観しててあげるから』
『‥‥』
僅かばかりの静寂を経て、再び始まりだしたエルドラド付近上空での戦い。しかし、先程と違ったものは、人類側と攻撃を共にする側に、赤い悪魔がいることだった。
『あー、ちょっとアンタ。動きに無駄多いわよ! ほら、後ろ後ろ!』
‥‥と言うよりも、人類側に向けてやたらとウザい愚痴を言い放つ赤い悪魔が1機増えた事だった。
『ゾディアック。利害は一致しているんだ。できれば私達に手を貸して欲しい』
『却下』
利害の一致。確かにその通りなのだが、全く動く気配のないFRを後方に、いつ狙撃されるかすらも分からないまま戦う8機のKV。正直、ここを切り抜けても、エヴァが自分達を都合よく逃がすか、気が気でない心理が働いてしまう。
その為、少しでもその不安を払拭しようとレティはエヴァに交渉を持ちかけるのだが、どうやら良い返事は返ってこない模様。
『貴方が蠍座を継ぐものですか‥‥』
そんな彼女を、遠目越しに瞳に映しながらソード(
ga6675)は呟く。旧蠍座と関わりがあっただけに、エヴァ自信との面識は無くとも気になるのだろう。とはいえ、どうやらこちらの呼びかけには面倒臭そうにしか返答しないエヴァの態度に、若干苛立ちすらも感じ始めるソード達。
前にはHWと鹵獲KV、そして後ろには何を考えているのかすら分からないFR。どうすべきか、血液が最高速度で体中を回り思案する中、現在おかれている人類側の危機的状況を打破したのは、意外にも本依頼最年少の彼女だった。
『エヴァ様、暫く私達にお付き合い下さいっ! そうしたら面白いものを見せちゃいます!』
『‥おもしろいもの?』
『ええ、必ずやご期待に副えるものを!』
『ふーん』
直江の言葉に今までに無い反応を示すエヴァ。自信の好奇心が惹かれたのか、はたまた精神年齢が幼いのかだけなのか。とにかく、確かな手ごたえを感じた直江は尚続ける。
『約束してくださいっ。それを見せる代わりに、私達に協力すると!』
が、瞬間、直江は熱弁している隙に自信へのHWの攻撃を許してしまっていた――
「しまっ」
今度は赤崎も敵機に包囲されサポートが完全に間に合わない。堕ちる、そう直江が確信した刹那
『約束よ、お嬢さん』
耳を突き抜けた静かな声。そして、目の前に迫ったHW1機は一瞬で塵と化していく。
「あ‥」
『何ボーっとしてんのよ。ほら、さっさと見せなさい。そのとっておき』
どうやら、FRの砲口が向いた先はアンドリューの用意した敵部隊のようだ。そして今、人類側の反撃の狼煙が上がろうとしていた。
●共同戦線
『レティさん、右翼の1機をお願いします』
『了解した』
FRから攻撃されると言う懸念材料が消えた今、元来の力を取り戻した人類側の猛攻は鹵獲KV程度には到底止められぬものであった。
ソードとレティの完璧な連携に続き、皇と八神に至ってはまるでお互いの目と目が通じ合っているかと言うほどの巧みな波状攻撃を見せる。
『いやはや、人の縁って不思議なものね』
『そうだな』
こう笑顔で囁く皇は、依頼だけではなく普段からも八神と交友があるようだ。
そして、何と言っても‥‥
『赤崎様、前方に可能な限りで弾幕をお願いします!』
『オーケー、無茶はこの際承知』
近寄ってくる敵の攻撃を赤崎の方に引き付けて貰いつつ、若干敵軍下方部を位置取った直江のロングボウから繰り出された取っておき――
『しっかりと見ていてくださいね。これが敬愛する伯爵様の美学を体現したロングボウの力です!』
直江の叫びと呼応するように、ロングボウのミサイル噴射口が一斉開口、そして
『敵射程圏内ロック――新型複合式ミサイル誘導システム発動』
蓄積された練力を惜しみなく使用して発射されたミサイルが、まるで意思を持つかのように敵KVの下腹部を貫いていく。
『ど、どうでしたか』
そう言ってFRの方を振り向く直江。その先では
『ふーん。50点ね。でもま、お礼にあたしも良いもん見せてあげる』
そうエヴァが返事してきたかと思った瞬間、FRから放出された何発ものミサイル。直撃、そして爆散していく鹵獲KVの装甲。そこでは、先程の直江のミサイルが的中した機体よりも一層悲惨な光景となった敵KVが、哀れにも地上に堕ちて行くのだった。
「まいったね。今までFRとはやり合ってきたけど、改めて味方になるとここまで違うものか」
FRが今回は敵としてではなく参戦する貴重な機会のため、できればゆっくりとFRのデータを採取しようと考えていた周防。しかし、次々と敵を蹴散らしていく赤い悪魔の姿は、改めて人類側の機体性能とに敷かれた差を顕著に表しているようだ。
「ソードウィング、アクティブ!」
相変わらず周防と同じく、井出はギリギリでの近接戦闘を巧みにこなす。本来、扱いが難しいとされるソードウィングだが、さすがは『戦空の刃』二つ名を持つと言ったところか。
『ほらほら、ちゃんとあわせなさいよ!』
『ええ、分かってるわよ』
一方、最も敵機が集中していた皇と八神には、エヴァが強引に参戦することで一気に戦況を巻き返していた。蟻も数さえいれば象を殺すが、所詮蟻は蟻。象が3匹では到底叶わないようだ。
「大分片付きましたね」
こうして、ゆっくり息を吐きつつ、改めて現在の戦況を再分析したソードの目には、確かに人類側の大優勢が伺えた。が――
『‥‥了解した』
『どうした、レティさん?』
突如として、本部からの連絡を受けたレティの声色に変化が見られる。訊きかえすソード。返ってきた答えとは
『良くないお報せだ。エルドラドへと向かう陸のエリア――丁度、この上空の下に位置する防衛ラインがキメラにより突破されたそうだ』
『!?』
『くっ。本命はそっちか!』
陽動というにはあまりにも大部隊すぎた為気づかなかった盲点。それは、新たな展開の幕開けと供に、傭兵達の首筋を一滴の汗が伝った瞬間。
『アンドリューめ、考えたわね。これほどの部隊を囮に使うとは』
下を噛み悔しがるエヴァだが、それは人類側にとっても同じ状況である。とりあえずこの真下にいるキメラ部隊が本命と分かった以上、エヴァか能力者のどちらかが出向いてそいつ等を止めなくてはならない。
『エヴァ、今だけは信じてあげる。だから、残りの上空の敵部隊は任せたわよ?』
こう告げる赤崎。敵に敵を託すなど前例の無い判断だが、この場面では、それが最善の一手。
『ふん、それはこっちの台詞よ。絶対にキメラを国内に入れてはダメ‥‥分かったかしら?』
『当たり前』
『交渉成立、ね』
そして、地上へと降りていく8機のKV。そこでは
『次は、敵かもしれないな』
『かもしれない? 何言ってるの、次は敵で確定でしょ』
皮肉ながらも、レティとエヴァのこの会話が、本依頼における空戦での最後のやり取りとなるのだった。
●陸からの進軍
「全く、ジャングルじゃなければKVの射撃で即終了だったのにね」
キメラはどうやら近辺のジャングル地帯を進行中と言うことで、KVから降り、そのまま生身で討伐へと向かっていた8人。ジャングルという上からの見渡しが聞かない地形、及び森林と生物の保護義務により生身での捜索なったことに顔を顰める赤崎だが、どうやらその悩みはすぐに吹き飛んだようだ。
「こいつらか‥‥」
「1、2‥‥8匹か」
ジャングル内にて無差別に薙ぎ倒された木や草などで作られていた一筋の『道』。その先にいたのは、8匹の血に飢えたヒト型まのキメラだった――
――バキッ
「ぐっ」
お互いが視認しあった瞬間戦闘へと移行した能力者とキメラ。まず、迅速に4つのペアに分かれた傭兵達を鋭利な爪が襲う。それを盾で受け止める井出の後方から、周防はアラスカ454による援護攻撃。
「受けてみなっ!」
一方、こちらは獣突により敵を吹き飛ばし分断しつつ、直江と迅速に敵の撃破を試みる赤崎。ミカエルの駆動音とともに痛烈な一撃を振り下ろす直江だが
「よしっ、まずは1匹目終わりっと」
「お見事ですっ、赤崎様」
頼りになる赤崎に少しポッとなったり。
「黒焔の双月の異名、伊達ではない事を見せてやる」
「へー、相変わらず魅せてくれるじゃない」
更に、こちらでも皇が遠距離、八神が近距離で巧みな戦闘運びを見せ
「4匹目、クリアだ」
レティに至っては、その一閃が敵を両断するほど。
「道を作って進軍する辺り、知能は比較的高いのだろうが‥‥」
フッと微笑しつつ敵を見据える彼女だが、
「どうやら戦闘能力は低かったようだな」
またもや難なく敵の腕を吹き飛ばす。そう、アンドリューは内部からの混乱を呼ぶ為、知能に特化したキメラを送っていたのだが、どうやら予期せぬ事態にその思惑も潰えそうだ。
「これで、トドメ!」
そして、皇のエネルギーガンが最後のキメラを沸爆させ、全ての敵を無事に討伐完了し‥‥
「どうやら、上も全て終ったようですね」
同時に、ソードが呟き見据えた上空は、何時もの空へと戻りつつあった。全ての敵を一掃した赤き機影だけを、斜陽の彼方へと残して――