タイトル:真冬の修学旅行(?)マスター:羽月 渚
シナリオ形態: イベント |
難易度: 易しい |
参加人数: 34 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2009/03/09 23:34 |
●オープニング本文
――日本、ドローム社傘下の武器開発局
「と、いうことで、上からのお達しです」
「‥‥はい?」
窓から覗くは、ふわふわと風に流されながら舞い降りてくる粉雪。いよいよ冬の寒さも本格的な到来を告げたここ日本では、このように各所で雪が降り始めていた。
そんな中、温かいコーヒーを飲みながら、旅館等を掲載した情報誌に目を向けている1人の女性。
慌ただしくファイルや資料が散在する一室で、そこだけ綺麗に整頓されたソファーに座り休憩の時間を楽しんでいた彼女だが、突如、助手と思わしき男性が持ってきた一通の手紙に目を通し、首をかしげる。
「これ‥‥どういうことかしら?」
「文字通り、このツアーの引率をお願いしますってことじゃないですか?」
手紙の差出人を見てみると、そこにはドローム社の社名とお偉いさん方のサインが。
訳も分からず途方にくれる女性だが、どうやらその手紙には、彼女にとあるツアーの引率をお願いする内容らしい。
***(手紙熟読中)***
「くぁー、前回の温泉に引き続き、相変わらずの企画をしてくれたわね‥‥」
「まぁまぁ、仕方ないじゃないですか、これもお仕事なんですから。でも、珍しいですね」
「え? 珍しいって何が?」
「いえ、ミーナさんなら、仕事がサボれる〜とか言って喜ぶかと思ってたんですが‥‥」
手紙を全て読み終えた後、面倒くさそうな顔で頭を掻く、ミーナ・リベッタ(gz0156)。彼女の予想外な反応に、助手の目島は思わず珍しいと驚いている様子。
確かに、普段から仕事を怠けたりする性格から、このような遊びともとれる仕事には本来喜びそうなミーナだったのだが、それには理由があり‥‥
「だって、あたし寒いの嫌いなんだもん」
そう、今回のツアーというのが、冬を楽しもうという題目で用意された旅館への宿泊だったのだ。
企画書に目を通せば、そこにはスキーや雪合戦、はたまた野外に設置された雪を囲んでの露天風呂(天然のサルもいるらしい)等、至るところに雪との戯れが記載されているではないか。正直、能力者ならまだしも、一般人かつ寒いのが嫌いなミーナにとっては、辛いというのが本音なのだろう。
嫌だなぁ〜と駄々をこねるミーナ。すると、そんな彼女に呆れた助手の目島君は、慣れた口調で説得をし始める。
「あ、見て下さい、コレ。おいしそうな料理もあるみたいですよ〜」
「でも嫌だぁ〜」
「あ、この露天風呂美肌成分が含まれてるって!」
「でも嫌だぁ〜。しかも野外とかありえない〜」
「‥‥」
手ごわい。どうやら今日の彼女を説得するのは無理そうだ。そう彼が諦めかけた時‥‥
「しかしまぁ、これってなんか、修学旅行だよねぇ〜」
ポツリと彼女が呟いた一言。瞬間、目島君の脳裏にひとつの妙案が浮かぶ。
「修学旅行ですかぁ〜。修学旅行といったら、やっぱり愛の告白とかする人いそうですよねぇ〜」
「‥‥」
「あとは、夜の恋ばな、とかも期待できたりするんじゃないですか」
「‥‥‥」
「更に言えば、可愛い少年たちが無邪気に遊ぶ姿も見れるかもしれませんね」
「‥‥‥‥目島君」
「はい?」
「あたし、引率頑張る!」
こうして、一連の話が流れた後、今回のツアー引率を決心するミーナなのであった。
●リプレイ本文
目の前には、その身を真白く染めた高い山が聳える、日本某所に位置する某旅館。そこには、約30人ほどの能力者達が列を作り、各々楽しそうに語り合っていた。
可愛らしいコートに身を包んだ女性陣や、ジャケット姿でバシッと決めた男性陣など、ラフな格好にオシャレを覗き見させる光景は、紛れもなく今回の目的が戦いではないことを物語っている。そう、何故ならば今日は‥‥
「はーい、皆集合したわねー。それじゃ、ただいまよりドローム社の企画するツアー、開始しまーす」
待ちに待った、修学旅行(?)なのだから!
●序
「どんな旅行になるのやら〜。ふふっ、楽しみですね〜。ふぃ〜ちゃん♪」
「ええ、羽を伸ばして楽しみましょう♪」
辺り一面を覆う白い雪模様に反射する太陽光が眩しい中、まずはそれぞれ荷物を旅館の部屋に置くため移動する一同。今回、双子して企画に当選したらしいシェリルとフィリスは、ゲレンデ用ながらも、可愛くカスタマイズされたウェアに身を包み、顔に2人して笑みを浮かべている。
一見耳あてなどの小物はお揃いに見えるが、どうやら細かい部分で色違いだったり。身長にほとんど差が見られないため、2人して並ぶとまるで人形のように可愛らしい彼女達。双子ということもあり、仲良さそうに語り合っている光景がとても可愛らしい‥‥のだが、
「うふふ〜♪ 本当に、楽しみですね〜♪」
何故か、周囲のメンバーを見渡しつつ、その笑顔に邪気を含んでいるのは気のせいだろうか。
「温泉温泉〜♪ ふふ、ナニが起きるやら楽しみだなぁ」
一方、こちらは友達どうしなのだろう。談笑しながら意気揚々と部屋に進む数人の姿が、少し狭く入り組んだ廊下の途中に見受けられていた。
「みんなで楽しく戯んでイこーね〜♪」
そのグループの中の1人、レイチェルは、後ろからガバッと青い髪の少女に抱きついたかと思うと、冷たい吐息をその少女の耳元に吹きかける。
「もう、重たいよレイチェル」
「失礼だなー、ボクはそんなに重くないよ」
そんな青い髪の少女――レミィは、横を歩いているルティエに思わず助けてと苦笑した表情。
「それにしても、修学旅行なんてひさびさですわねー。楽しみですわ♪」
しかしながらも、ルティエは2人を見ながらニッコリと微笑みつつ部屋のキーを回すだけ。どうやら、2人の絡み合いを止める様子はなく、むしろその光景を楽しんでいるようだ。
「うーん‥‥眠たい‥‥」
「あらあら、まだ夜まではたっぷりありますわよ、佐倉さん」
そんな中、1人ウトウトと眼を擦りながら、いかにも眠そうな表情で3人の後ろを追従している1人の少女が。
「お部屋についたら‥‥休憩しようよ‥‥」
みたいなことを既に呟きつつ、佐倉と呼ばれた少女は、あと一歩で夢の世界へ行ってしまいそうなのだが、レイチェルを筆頭にこのメンバーはどうやらそれを許してはくれそうにない。そう、まだまだ楽しい旅行は始まったばかりなのだから、ね。
「準備できたか、ナオヒト?」
「あー、もうちょい。‥‥しかしまあ、こうやって遊べるってのも、中々ない機会だな」
今回の宿泊先は旅館なのだが、さすがはドローム社と言ったところか。というのも、実は部屋割りも事前に各々の希望を取っていたため、友達どうしで泊まれることになっていたメンバーが非常に多かったのだ。
よって、普段から仲のよい面子どうし同じ部屋に泊まれることとなった田中と芹沢。
間もなく始まる雪合戦に出場する予定の2人は、部屋に荷物を置いた後、その準備をしているところなのだが、既に出口で待っている芹沢をよそに田中は最後の確認中。
「よし、出来た」
「出来たじゃねーよ。随分と気合入ってるじゃねーか」
最後に鏡の前で最終チェックを済ませる田中を見て、不思議そうに芹沢は首をかしげる。たかが雪合戦とスノーボードぐらいで、なぜにこうもこいつは気合を入れるのか。そんなことを考えていると
「ドーン、へへ、準備できたよー」
「いてっ。‥‥んだぁ、そっちもやたらと気合が入ってるのな‥‥」
突如として依神からの不意打ちを食らってひるむ芹沢。
「それじゃ階段トリオ出撃だな」
合流した依神を見て、田中は部屋に鍵をかけると同時に一声。その声に依神が続き、最後に芹沢が軽く笑うと
「じゃー出発ー」
依神を先頭に3人は足を踏み出す。丁度、一番修学旅行というイメージに近い気もする3人だが、今日はどんな場面を見せてくれるのだろうか。
●俺の雪だるまが世界一、巨大雪だるま競争!
今回の旅行では、事前に企画された4つのイベントが存在するのだが、こちらはその1つめのイベント、雪だるま競争の会場。
本ルールは単純明快。この一面雪景色の広い敷地内で、より巨大かつ美しい雪だるまを作るというものだ。形も大事ということで、広場に集まった参加者は今からどんなものに仕上げようか構想を膨らませている。
「ふっふっふ‥‥デカい雪だるまを作ってみせるぜ! ‥‥とは言え、どんなのにするか悩むな」
旅行は大学の卒業旅行以来ということで、那智はイベントを楽しむためにもかなりの気合が入っている。既に周囲にある材料で使えそうなものに目を配る光景は、1位を狙う彼の揺ぎない姿勢が見て取れるようだ。
「それにしても、審査員は誰が?」
すると、那智の隣で暖かそうなモコモコブーツについた雪を払っていた狭霧が、ふと疑問に思ったことをポツリ。確かに、この競技はその性質上、審査員が必要なはずだが‥‥
「ああ、それならあなたの後ろにいるわよ」
頭上にハテナマークの狭霧を見て、ニコッと微笑むはミーナ。え? と後ろを振り向いた彼の目の前に飛び込んできた人物とは
「しゃ、社長ですか!?」
そう、ドローム社社長のミユ・ベルナールだ!
「こんにちは、KVに負けない洗練されたデザインを期待してるわよ」
こうして、予想外のゲストを前に、本旅行の第一イベント、巨大雪だるま作りが幕を開けるのだった――
スタート! の合図とともに勢いよく駆け出す能力者たち。我先にとベストポジションをキープした者から、どんどんと小さな雪だるまを転がしていく。
何ともまあその光景たるや不思議なものであったが、異様に闘志を燃やした険しい顔つきの面々。その気迫のためか、どう見ても彼らの周囲を一般人が避けていたことはこの際気にしないでおこう。
さてさて、審査員のミユも見守る中、それぞれ四苦八苦しつつ徐々にそれらしい形になってくる雪だるまだが、そんな中、1人ポツーンと置いてけぼりをくらった人物が。
「ふむ‥‥とりあえず、あれが雪だるまというものか」
雪などとは縁のない沖縄出身の生粋沖縄人、風閂である。スタート前に仲間から情報は聞いていたものの、いざ作るとなるとどうしても上手くいかない彼。この様に、最初は膨らむ構想に技術が追いつかない様子だったのだが
「やはり、でかい方が良いよな。うん」
お、次第に雪と戯れているうちにしっかり形も丸くなってくるではないか。うん、なかなか良い形良いかたt‥‥ちょっとデカすぎね?
とりあえず、これは別の意味で完成が楽しみだ。
一方、こちらは何か思うところがあったのか、鳥の着ぐるみに身を包んだ火絵が楽しそうに雪だるまを作っていた。うむ、こちらもかなりデカくて立派だ。
「う〜ん。やっぱり〜なんか違うんだよね〜」
と、思いきや、完成した雪だるまを見て何故かため息。大きいだけでなく、バランスも良い感じなのだがそれでも納得いかない様子の彼女は
「時間あるし、また作っちゃお〜」
そう無邪気そうに囁くと、謎の歌を口ずさみながら、新たに新作を作っていくのだった。
こうして、過ぎいく時間と減りゆく雪をバックに、それぞれが目指す究極の雪だるまがお目見えし始めてきたころ‥‥突如として、地響きのようなものが!
「ん? 何、何のおt‥‥うおぉぉお!?」
我が目を疑う参加者たち。彼らの前に現れたのは
「きゃー! 通ります通ります。ああ、でも誰か止めてくれたら嬉しいかもー!」
一番高いところを陣取り、そこから恐ろしくデカイ雪だるまを転がして来る蒼河だ!
「デカッ」
さすがにこれほどのものをその小さな体で作り上げたのは立派だが、あれを胴体にすれば、上に乗せる頭は間違いなく比率10対1ぐらいになるだろう。何という寸胴雪だるま。
しかしそんな心配など気にもせず、結局一番下まで転がっていった蒼河。下の木にぶつかり何とか止まった彼と雪だるまだが、ぐぐっと雪の中から起き上がった蒼河が発した言葉とは‥‥
「ふ、ふふ。もう一回‥‥」
まだ転がるんかい! こうして、本気でKVサイズを目指す彼の死闘は、始まったばかりなのでした。
――結果発表
作成時間終了を告げる笛の音とともに、一気に腰を下に下ろす能力者たち。さすがに遊びとはいえ疲れたのだろう。皆の顔にはやり切った感とともに、どこかバーンアウトすら漂わせる生気のない顔もチラホラ。
「それじゃ、順番に審査しましょうかしらね」
あまりに巨大すぎる雪だるまが多かったため、一列に並べることができず審査はミユがそれぞれ回ってチェックすることに。まず足を運んだのは、巨大な五角形の模様が印象的なジェットの雪だるまだ。
「へー、これは考えたわね」
「手抜きかもしれないけど、こんなのもありだろ?」
「ふふ、手抜きでこんな綺麗な形は作れないわよ。お疲れ様」
斬新な発想と、雪だるまという固定概念をぶち壊したジェットの作品にミユは感嘆の一言をもらす。うん、かなり高得点のようだ。
その横では、幻堂と青海の2人で作成した巨大ダルマも。
「あらー、こっちも随分と凄いのが‥‥これはKVがモデルよね?」
一方、先ほどの超巨大ダルマを何とかスコップで削ってKVの形に近づけた蒼河。少ない時間の中ここまで完成させた技量には感服なのだが
「このKVは‥‥」
「ミカガミだよー」
「銀河重工のね。ふふ、ここでドローム社製のを持ってくれば満点だったんだけどなぁ」
「あ‥‥」
「なーんて、冗談よ」
などと社長からおちょくられてみたりも。とは言え、これは間違いなく優勝候補のひとつだろう。
「ん〜、あともう少しでモフモフ感が伝わりそうだったのに〜」
次にこちらは、最初に作った雪だるまに納得いかず作り直していた火絵。白い景色に映える赤髪を彼女は悔しそうに揺らしながら、帽子をとって一息。
その表情は少し曇っているようなのだが、その原因というのが‥‥
「途中で壊れちゃった〜」
そう、製作途中にダルマが壊れていたのだ。何でも小さな雪だるまを幾つも積み上げていき巨大な雪だるまを作ろうとしていたらしい彼女。ただ、どうやら後一歩のところで器用さが足りなかったようだ。無念。
こうして、結構な時間をかけて幕を閉じた雪だるま大会。能力者たちの去った広場には、しっかりと顔と腕が装着された、シンプルながらも巨大で美しい、優勝した那智のだるまさんがいつまでも佇んでいた――
結果.1位:那智 2位:狭霧 3位:蒼河
●ここは直に修羅場と化す‥‥チーム対抗、雪合戦!
雪、と言えばやはり雪合戦は譲れないのではなかろうか。今回もしっかり企画のひとつとして盛り込まれていたのだが、特に印象的だった試合をピックアップしてご紹介しよう。
まずは、【田中、芹沢、依神チーム】と、【リリィ、響、真白チーム】だ。
「響さん!」
「?」
試合開始5分前、そこにはくじ引きで同チームとなった響を呼び止め、顔を赤らめながらあるものを手渡す真白の姿が。
「えっと、外寒いですから‥‥良かったら使ってください!」
おっと、どうやら手編みのマフラーのようだ。
「ありがとうございます」
それを端麗な顔立ちの響は、微笑しつつ受け取り早速首に巻く。
「頑張りましょうね、よろしくお願いします」
こうして、くじ引きで決めた即席のチームだが、リリィ達3人は円陣を組むと、そのまま気合を入れていざ戦場へ。今、熱いバトルの火蓋がきって落とされた。
「ヒロミ、そっちに相手が回り込んでる! カバーを!」
「任せな!」
飛び交う雪の小玉。高速で量産されては投げられるその弾幕が、突撃するメンバーの行く手を阻む。
「わふっ」
「旗取りに来る人も隠れている人も、雪まみれを覚悟するように」
名前にスノーとあるだけに、雪は大好きなリリィなのだがさすがに顔面に直撃した雪は冷たく目にしみる。器用なのかぽこぽこ玉を作って絶え間なく投げ続ける依神なのだが、何ともその光景と可愛らしい顔とにギャップが生まれてどこか面白い。
「旗はとらせてもらうぜ!!」
と、その時局面は動いた! 均衡を破るかのように飛び出す田中。しかし、ただ突出するだけでは、それは良いカモだ。
「今です!」
言うまでもなくベチャッと響たちの攻撃を顔面に直撃で受けてしまう――と思われた瞬間!
「ふふ、俺で終わりと思うなよ‥‥っ!」
「次は俺だぜ!」
「しまっ!?」
更に田中に続いて芹沢が一気に正面突破! しかも、田中に連射したおかげで玉のストックが少ない状態。
「くっ、止まらな‥」
ズサーっ。ダイビング、雪の地面に直線を描くよう転がり込んだ芹沢の手には、確かに誇らしく一本のフラッグが翳られていた。
「今日はよろしくね」
一方、場面は変わってこちらは【百地、澄野、橘川の学友3人チーム】VS【フィリス、神浦、ミユ社長チーム】。フィリスと神浦は丁度くじで一緒となったのだが、人数にあまりが出たのでミユが特別に救援として参戦した模様。
「では、頑張りましょう♪」
「そうだね、目指すは優勝だ」
この機会に友達を増やそうと、試合にも交友にも意気込むフィリスの横で、神浦も笑顔で言葉を返す。うん、こちらも即席だけどなかなか良い感じのようだ。
「援護射撃は任せてください」
「じゃ、私は雪弾を作るね!」
「ならあたしは前衛ね」
とは言え、相手の3人はやはり普段から仲も良いため既に万全の連携で待ち受ける。どうやら、澄野や橘川を援護に回し、百地が主軸になって敵陣へ踏み込むらしい。まだ若いはずなのだが、どこか色気もあり頼れるお姉さん的な感じもする百地。きっと澄野と橘川からの信頼も篤いのだろう。
「それじゃ‥‥」
そして、お互いのチーム円陣を組み――
『いくわよ!』
今、一斉に散在、勝負が始まるのだった。
「私だってやる時はやるわよ!」
実は結構楽しみにしていたらしいミユは、手のひらいっぱいの雪を勢いよく投げつける。が、それを完全に相殺する橘川の攻撃は正に攻めと守りを一度にこなす的確さ。
「僕の陰に隠れてて」
戦局はほぼ互角なのだが、仇となったのは神浦の優しさだった。そう、彼はその心優しい性格のため、自軍のフィリスの盾になったりと精一杯の活躍を見せていたのだが‥‥
「う、やっぱり女性の顔は狙えない‥‥」
如何せん、相手のチーム全員が女性だった為、顔が狙えなかったのだ。ぶっちゃけほとんど痛くも痒くもない部位を狙ってしまったため、百地の進軍を許してしまった神浦たちは、後一歩のところで旗を取られてしまい‥‥
「残念でしたね。お疲れ様でした」
勝利を逃してしまうのだった。しかし、それでもここは神浦の男らしい優しさを称えたい。気づけば、試合の終わった後は庇ってもらったフィリスや観客から、その紳士らしい一幕にたくさんの拍手が巻き起こるほどだったのだから。
結果.1位:百地、橘川、澄野チーム 2位:田中、芹沢、依神チーム
●自由時間の1幕 〜スキー&スノボー編〜
さて、カオスの波動に包まれつつも盛り上がった雪合戦を終えて、いよいよ本格的な自由時間が始まった。ツアーに参加した能力者全員のフリータイムということで、一斉に駆け出していくグループも。
ここからは、主に今回のメインであろうスキーとスノーボードを楽しむグループにスポットを当てるとしよう。
「だから、あたしは素人なのでね」
「あ、そこで足元に力を!」
「う、こ、こう? ‥‥痛っ」
こちらは意外にスキー素人らしい百地が、慣れない格好と慣れない器具の扱いに必死で格闘していた。
「また失敗ね。ごめん、怪我なかった?」
「ううん、大丈夫」
スキーというのは慣れないとどうしても転んでしまうらしく、百地は先ほどから転んではそのまま滑った状態から止まれず、隣で教えてくれる橘川にぶつかったり。
思わず顔を顰める彼女に笑いながら再び手ほどきする橘川だが‥‥どうやら、最初に比べて随分と上達してきているようだ。
「あ、滑れてる。上手くなりましたね」
「そりゃあスポーツ万能じゃないけど、それなりに出来る運動神経は持っているわよ」
いつのまにか形になっている百地を見て感心する澄野に、百地は少し誇らしげに返す。こうして、とりあえずスキーをある程度楽しんだ3人は
「次はスノーボードをやってみましょうか」
「あ、私ボードはやったことないなー」
「じゃあ3人とも初心者ってとこだね」
澄野の提案に橘川と百地が承諾し、次はスノボーに挑戦することに。スキーもスノボーも同じ場所で滑れるため、とりあえず3人は仲良くボードの貸し渡し場に行ってみると‥‥
「よっと。うひょー、気持ち良い」
目の前をなかなかのフォームで滑っていく田中の姿が。
「へー、それなりに巧いね。アヤと違って地味なのに」
「本人が聞いたら、怒りますよ」
そんな格好良い彼を見て、思わず百地がポツリ。地味かどうかはさておき、どうやら田中たちも仲の良いメンバー同士で遊んでいるようだった。
「こ、これで良いかな‥‥?」
「そうそう、体重を左右に振って‥‥OKOK、いい感じ!」
スノーボードは初体験ということで、田中と芹沢からコツを伝授中の依神。ズコォーっというコケっぷりがなんとも初初しい。
依神は見た目こそ少年っぽいが、ちゃんとした年頃の女性である。アイスグリーンの地にライム色の縁取りの付いたウェアが、彼女の年不相応のあどけない童顔と合わさり、一層無邪気さと可愛らしさを引き立てているようだ。
一方、場所は変わってこちらは旅館近くの狭い敷地。そこでは、ジェットが1人黙々とカマクラを作っていた。大きさとしては、丁度2人分ぐらいの広さだろうか。
「お疲れ様です。仕込んでおいた甘酒を持ってきました。‥‥お酒が飲めればよかったのですけど‥‥」
「わざわざありがとな。今お汁粉もできるところだ」
そこに旅館の中から水無月が手作りの甘酒を持ってくる。それを確認したジェットは、スコップを横に置き、同時に作っていたお汁粉を2人分更に流すと――
――完成したかまくらの中には2人だけ。誰にも邪魔されない、安らかなひと時の出来上がり。
「‥‥ゆっくり流れる時間‥‥。このときがいつまでも続けば良いんですけどね」
そう微かに落ちてくる粉雪を見つめ、水無月はつぶやいた。今という幸せを閉じ込め、凝縮したかまくらの中は、心なしか少し暖かい。いつまでも続いて欲しい隣り合わせの温もりに、静かにジェットは一度目を閉じ、
「可愛く出来た心算だけど、どうだろうか?」
「あ‥‥」
水無月へ手作りの雪うさぎを1つ。
「ありがとう」
同時に返ってくる彼女の笑顔が、彼には何よりも美しく見えた――
スキーやスノボーとはしゃぎまわる者がいれば、静かに今日という日に身を任す者たちも。
こうしてみると、普段戦いに身を投じる傭兵にも、意外な一面があることが痛感できる。
‥‥ただしかし、まだこの時点では誰1人として予想していなかった。そう、今日の夜に起こってしまう温泉での惨劇を‥‥
●君の微笑は全てを凍らせる!? 雪女コスプレ対決!
「うへ〜。良い湯だったな〜と。お、そこの姉ちゃん可愛いね〜。ちょいと顔見せてよ〜」
時刻は午後7時。美味しい料理が直に振舞われるのだが、その前に本日最後のイベント、雪女コスプレ対決が行われようとしていた。
会場の宴会場に集まる能力者一同だが、その様子に興味を引かれた風呂上りの酔っ払いが1人、何事かと近寄ってくる。彼の目の前には、長い髪に白い格好をした美しそうな女性が。
「ほら〜、こっち向いて〜。なに、今日ここで何かあるのー?」
何というウザったいオヤジか。こんなのに絡まれたこの女性もお気の毒である。
能力者が貸切で今からイベントを行うとはいざ知らず、参加者らしき人物にしつこく声をかける男性。後ろから見える首筋を見ても、これは美人そうだ。そう思った彼が強引に女性の肩を引いた瞬間
「どうか‥‥しましたか?」
「!?」
どうだろうか。振り返ったその女性は、酔いも醒めるかのような冷たく鋭い、しかしそれでいて実に美しい視線で自分を見つめるではないか。
「あ、い、いや、随分とまあ、べっぴんさんだなーと」
「‥‥そうですか? そう言って貰えると‥‥少し、複雑な気分‥‥ですね」
黒髪のかつら、白の着物に深い赤色の瞳、そして女性にしては高い身長と、一般人とは違う雰囲気を感じて男性は思わず見とれ立ちすくむ。
「おっと‥‥どうやら‥‥始まるようです‥ね。ではここで‥失礼します」
「お、おう」
すると、時刻を確認した女性は、完全に酔いも吹き飛んだオヤジを後ろに、颯爽と宴会場内へ。
「綺麗だなぁ〜」
最早頭の中にはそれしか残らない男性だったのだが、不意に、最後に彼女の呟いた一言が、ただ彼の脳内に響くのだった。
「あぁ、そうそう‥‥自分は‥男、ですよ」
と、確かに呟いた、神無月の一言が、ね。
「見てくださいです、2人とも! 結構人が集まっているようですよ♪」
「ふっ、この私が出場するからには当然ですわね。そもそも、コンテストなんて私のためにあるものですわ! おーっほっほっほ!」
舞台は変わってこちらは宴会場ステージの裏側。何とも絶妙な衣装に身を包んだコスプレ姿の参加者が、そこでは自らの出番を待っていた。
どうやら主催者の意向で一般の観客も入場できるようになったらしい会場を見ながら、伊万里はやる気に満ち溢れた表情で意気込んでいる。
その横では、優勝間違いなしと高らかに笑いつつも、心なしか緊張で少し顔が引きつっている気がしないでもない麗華が、入念に最後のチェック中。
「我‥‥華‥‥無けれども‥‥雰囲気にて‥‥勝負、挑戦」
そんな2人とは正反対に、こちらはうって変わり落ち着いた様子のヴァサーゴ。薄水色の着物を着用した他には特に目立つ装飾品などもなく、至ってシンプルな格好である。
(「ふむふむ。どうやら、ヴァサーゴは格好からしても既に戦線離脱気味ですわね。と、なれば、やはり最大のライバルは‥‥」)
なんてことを考えつつ、麗華はジローッと伊万里へと視線を見やる。やはり、ライバル意識をする辺り、優勝を狙う気満々のようだが、彼女はこの時点で予想だにしなかった。実は、この一見地味な格好のヴァサーゴも、意外なところを突いて思わぬ敵と成り得ることを‥‥
「いやん♪ そんなに見つめられると照れるです♪ まったく、どこ見てますですか、麗華さん♪」
「ど、どこも見てませんわよ!」
すると、そんな視線に気づいたのか、伊万里はツーッと麗華の胸下をなぞりながら挑発と同時に目を見つめ返してくる。
「つ、冷たいですわっ!」
人の体温ではない指先に身震いし、思わず声を荒げる麗華。そう、先ほどからどうしても麗華がきになってしょうがないもの。ソレが、伊万里への警戒を高めると同時に、何を仕掛けてくるか予想のつかない最大のポイントであったのだ。
「それにしても、ソレでいったい何をするつもりですの?」
さり気なく聞いてみる――が、伊万里はごまかすだけで答えてはくれない。
『さぁ〜、それではこれより雪女コンテストを開始しまーす!』
こうして、司会者のテンション高い発声とともに、コンテストは幕を開けた。ただ、伊万里の手に持たれた『氷』だけが不気味に輝いたまま――
『まずはエントリーナンバー1、エル・デイビッドさんです!』
参加者も全員準備OKということで、いよいよ始まったコンテスト。まずは、颯爽と現れる細身ながらも実に美しいエルが観客の視線を釘付けにする。
「格好良い♪」
その姿に、友達の橘川も思わず見惚れてしまう。元々の神秘的な雰囲気も味方したためか、洋風の雪女チックでとても男性とは思えない。
ただ、それは次に紹介された神無月にもそれは言えることだった。先程軽くナンパされかけた彼だが、短刀を手に独特のアピールで攻める彼。少し怖さを秘めた笑顔がまたそそる。うん、これは大抵の男性もだが、女性でも惚れてしまうそうだ。
「予想以上の‥‥反響でしたね」
そしていよいよ順番は例の3人組に回ってくる。
『続いては仲良し3人組の登場です! さぁ、それでは、ご入場ください!』
「アハハッ♪ 限界ギリギリ仕立ての冬無登場ですよ♪」
「おーほっほっ、さぁ、私に見とれなさいですわ〜♪」
「‥‥‥‥」
何というシンクロ率0%! とは言え、個々の美しさが壮絶に光る伊万里、ヴァサーゴ、麗華の3人がご登場。心なしか男性の唾を飲む音が一斉に聞こえた気がするが、とりあえずアピールタイムへと。
「美しさで私に適うものなどいませんわ」
そう自分に言いきかせつつ、隣の2人にも見せ付けるかのように大胆に肌蹴させた着物の隙間から覗く胸と足を麗華がアピール。
「あぁ〜、素晴らしいです〜」
そんな光景を見て、うっとりしすぎて身を悶えさせるシェリル。今回特別審査員の彼女がどんな反応を見せるかが、ある意味本イベントのキーポイントなのだが、麗華の掴みはバッチリだ。
『続きましてはヴァサーゴさんです。では、ヴァサーゴさん、何かアピールを』
「‥‥」
「えーと、ヴァサーゴさん?」
「‥‥」
一方、次に紹介されたヴァサーゴはと言うと、緊張からかずっと黙り込んだまま。
(「ふっ、もらったですわ」)
そうニヤリと麗華が勝利を確信した‥‥瞬間!
「!?」
突如として無言のまま手を差し出し、訴えかけるかのような目でヴァサーゴは観客を見つめる。
「あぁん♪ 良い作戦です、ヴァサーゴさん♪」
しまったぁぁ! この手があったかと悔しがる麗華を横に、見事に無言萌を狙ったヴァサーゴは大絶賛。そして、いよいよ最後の大砲にバトンが渡されるわけだが‥‥
「私の番ですね♪」
と、言いつつ氷を取り出した伊万里は――
「☆※▽!?」
瞬間、言葉にならない絶賛の嵐。彼らの先では、薄紅色の被布を頭に被り、その一部を口に咥え背中を見せつつ、更に氷をその肌に這わせながらポーズを決めるメイドの姿が!
「はぅ〜ノックダウンです〜♪」
そのまま気持ちよさそうに昇天しかけるシェリル。勝負の決した瞬間であった。
結果.1位:伊万里 2位:水無月 3位:神無月
●自由時間の1幕 〜露天風呂(混浴←ココ重要)編〜
「おい、よっちー! 混浴だぞ!? 犯罪にならないんだぞ!? やっべ、どーしよ、どーするよ!?」
「ふっ、そうだな。今から起きることは全て合法の範囲内」
さあいよいよ雪女コンテストも終わりを告げ、本日最後の最大イベント(?)温泉タイムの始まりだ。まずは意気揚揚と駆け出す夜十字と焔。その顔には一点の曇りもなく、観音菩薩様の様な深い深〜い底の見えない笑顔が覗いている。
「‥‥やっべ、オラ、ドキドキしてきたゾ!」
叫び轟く魂のホムラン。どんどん燃え上がっていく彼の煩悩は最早止まることを知らなさそうだ。
「はふぅ♪ やはり旅行といえば温泉です♪ さあ、麗華さんとヴァサーゴさん、言わずもがなのチェッキングターイムですよ♪」
一方、夜十字たちが危険な男性陣なら、危険な女性は言うまでもなく彼女、伊万里である。
どっから仕入れてきたのか、極薄な特別仕様の湯浴み着を纏っているその姿は、一滴でさえ水分に浸れば肌にピットリの透け透けモードまっしぐら間違いなし。
「おおー! やばい、やばいぜよっちー! 俺はもうすでに限界だ!」
最初っから煩悩の炎で温泉を蒸発しつくしそうなほど眼に力を入れて伊万里を見る焔だが、彼女を囲むように入ってくるヴァサーゴと麗華の格好もある意味壮絶だったり。
タオル一枚を境界線に、隣のメイドに剥ぎ取ってくださいと言わんばかりの格好を麗華がしているかと思えば、ヴァサーゴに限っては、その、何と言いますか、全裸です。
「ヴァサーゴ‥‥やはり混浴では、せめてタオルぐらい持ったほうが宜しいんじゃありませんの?」
「水着や‥‥タオル装備‥‥邪道‥‥聞く故」
ごもっともな麗華の発言に対し、ヴァサーゴは気にする様子もなくスルー。着せ替え人形みたいなその姿、可能ならタオルで包んであげたいところでございます。
「そうですよ、麗華さん。そんなモノは邪道です♪」
とは言え、ヴァサーゴがこうも思いっきりの良い覚悟を決めた今、言うまでもなく伊万里の魔の手が伸びる先は麗華だ。伊万里の接近に気づき、びくっと反応し咄嗟に構える彼女だが
「アハハハッ、甘い、甘いですよ麗華さん! 羞恥心のあるあなたと羞恥心皆無の私では、動きに差が出るものなのです♪」
悲しいかな。真にその通りで、体を隠しながらタオルを庇った麗華の奮闘は空しく、簡単にソレは剥ぎ取られると
「はい、パスです♪」
「ちょ、パスって一体誰に‥‥ってサルー!?」
一足先に温泉に浸かっていたお猿さん一同に渡されるのであった。そのままサルにパスされたタオルを追いかける麗華、そしてそれを観察して楽しむ伊万里。ここまでくると、伊万里は傭兵よりも智将の方が向いている気がしないでもない。
「おーおー、何だかあっちが騒がしいみたいだぜ? 誰かが裸になってたりしてな」
一方、拡散する湯気を跨いでこちらでは芹沢と田中がスノボーで冷えた体を温め中。
「バカ言うなって。つか俺、別にそんなのに興味ねーし」
「あぁーん? またまたー、強がっちゃってーナオヒトはー」
「って、くっつくな!」
仲が良いって素晴らしい。じゃれ合いながら田中をからかう芹沢だが、腐った心の持ち主ならその光景だけでご飯3杯はいけると思われます。
「ウキキ、ウキッキー♪」
最初に第一陣の能力者たちが露天風呂に浸かりだしてから大体5分ぐらい。いよいよ本格的に本ツアー客の貸しきり状態となった混浴場では、大部分が能力者たちに占拠されつつあった。しかし、どう見てもその場に不釣合いなお客さんたちが‥‥
「‥お猿さーん、こんばんはー」
そう、サルだ。サルの集団が露天風呂内のあちらこちらに見受けられるのだ。
「ウキッキ」
「‥‥」
そんな混浴風呂。少しあたりを見渡してみると、風閂の様にサルが隣にいようと無言で温泉に浸かり続けている者もいれば
「きゃあああ! 変態!」
真白みたく、サルに手桶をぶつけだす者もいて、
「いい加減タオルを返しなさいですわ〜」
更に究極はサルと格闘するお嬢様までいる始末。
「あれは母ちゃんの裸あれは母ちゃんの裸あれは母ちゃんの裸‥‥」
しかもそんなカオスな現実から目をそむけるべく、丁度年頃の男の子、静磨は念じることで無我の境地に突入し
「何この地獄絵図‥」
それを傍観する火絵の言うとおり、正しく地獄絵図に近しい光景と変貌を遂げていくのであった。
「ああ、こら逃げるなレミィ〜」
「さ、さすがにそこはダメだって〜」
ただ、やはり温泉は楽しいものなのだろう。普段なかなかできないスキンシップもできると言う事で、レイチェルは周りの目などお構いなしに、ここぞとばかりレミィへ悪戯モードマックス。いや、あえて彼女は毎日そんな感じだろうというツッコミはこの際なしにしよう。
「ふふ、2人とも元気ですわね」
そんな仲良しコンビを見つめて、ルティエはニッコリと微笑む。しかし、実はこのルティエ、今日はまさかの黒ビキn‥‥おっと、湯気が邪魔をしてよく見えないようだ、無念。
さてさて、そうこうしているうちに気になるのは先ほどの2人、夜十字と焔の2人である。彼らのターゲットになりそうな人物は数多いだけにその動向が気になるのだが‥‥ん、2人の姿が見当たらない。
「おい、焔、そっちにいったぞ!」
「ったく、ちょこまかと!」
それもそのはず、実は焔が合法的に覗こうとした際サルに跪いてしまい、そのまま何故かサルとの死闘を繰り広げるうちに温泉から遠ざかってしまっていたのだ。
「霊長類なめんなヨ! このモンキーめ!」
サルも霊長類なのだが、転んだ際痛めた鼻を押さえつつ焔怒りの一撃! こうして友の夜十字とともにサルとの戦いを繰り広げた後、彼らが温泉に戻ってきたときには――
「婆さんばっか‥‥」
どこか空しい風が、彼らを待っているのでしたとさ。
「‥‥いやまて、焔。これはこれで悪くないぞ」
と思ったら、夜十字さん守備範囲かよ!
「ふふ、雪見酒♪ ゆっきみざけっ!」
「やっぱり平穏無事が一番ですよねー」
ある意味、予想通り(?)の超カオスとなった温泉だが、実は一番堪能していたのは深夜こっそり抜け出して入浴した狭霧と神浦の2人だったり。
こうして、それぞれの楽しみを胸に抱いたアツイアツイ一日が、次の朝へとリレーするのだった。
●皆の寝起きをウォッチング。ドキドキ朝のお部屋訪問!
「ふむふむ、つまり朝這いってコトだよね? え、違った?」
さて、色々と盛り上がったであろう一夜を終えて、時刻は午前6時。ここでは、秘密裏に動いていたとある企画がスタートしようとしていた。
何故かマイクとカメラを持って説明を受けているレイチェルや静磨。というのも実は、今から朝のドッキリお部屋訪問が始まろうとしているのだ!
「むほほ、これは楽しみ楽しみ」
しかし、あろうことか訪問する側のリポーターがまさかの焔やレイチェル達といった最凶メンバー仕様。こうして、本イベントはどうなるか全く予想不可能のまま、いよいよその全貌を見せ始めていくのだった‥‥
「つ、ついに憧れの夜十時さんの寝顔が‥‥」
○○○室。ここは本イベントのターゲットの1人である、夜十字のお部屋前。そこには、ばっちりカメラを持った焔と、何故か夜十字大好きっ子らしい静磨がサインペン片手に興奮中。
「今日、僕は美しい夜十字さんの寝顔に『肉』の一文字を書き、漢となるんです‥」
静磨の呟きとともに静かにオープンザ・ドア。そして、ゆっくり忍び込んだ先、そこではスヤスヤと眠る憧れの夜十字が――
「よっちー、おっはよー‥‥ぶっっっ」
「紅月さん!? どうし‥‥なっ!?」
が、どういうわけか焔が布団を剥ぎ取った下にはハズレと書かれた人形が。しかも、同時に彼めがけバネ仕掛けのボクシンググローブが直撃。そして静磨に至っては絶妙に置かれた粘着テープがベットリ。
「ア、アイツ〜」
悔しがる焔。そして当の夜十字はというと
「良い湯だな‥」
ちゃっかり焔がいる時点で寝首を掻かれると予想し、罠を張った後は朝風呂に行っているのであったとさ。
「さ〜て、今日の朝ごはんはどんな味かなー♪」
一方、こちらはレミィ、佐倉、ルティエの3人部屋を狙い突撃する予定のレイチェル。レミィ達を朝ごはんと例えた意味深げな発言をしつつ、ゆっくりとドアに手をかける。
「うふふー、寝てる寝てる」
ベットは2つのため、佐倉とルティエは一緒に寝ているようなのだが、3人とも完全に無防備でどうやら熟睡中の様子。しかも、レミィとルティエは良い感じで服が肌蹴t‥‥ゴホン、何でもありません。
とりあえず3人の露な姿をまず堪能したレイチェルは、早速行動開始。まず最初はさり気なく耳の甘噛みから‥‥
「ん、んん‥‥」
何だろう、何故か体がくすぐったい。そう夢の中で思っていそうだが、なかなか起きないレミィ。
「ふふふ、今度は〜」
そのままお次はルティエの美麗な脚へと伸びる魔の触手。こうして本来の目的を忘れておいしい朝ごはんを堪能したレイチェルは
「うぅぅ‥‥寝起きの無防備なところを襲うなんて‥‥酷いですわ」
最後に涙目のルティエからこう言われたものの、ちゃっかり一番本イベントを楽しんだのでありました。
結果.良反応でした賞:レミィ イロイロと頑張ったで賞:レイチェル GJ賞:夜十字
さてさて、如何だっただろうか真冬の修学旅行。最後まで何ともカオスなシーンの連続であったが、裏を返せばその分思い出に残りやすいものになったのかもしれない。
長いようで短かった2日間。2日目の朝は、心なしかどこか暖かい。昨日作った数々の雪だるまも、やがては土に還っていくのだろう。だが、願わくば、昨日と今日の思い出が、いつまでもあなた方傭兵の心に残りますように。そう最後に一言告げ、本ツアーの幕を閉じるとしよう。
――永久に、皆の友情が続きますように。