●リプレイ本文
「藍紗さま、ココはどういう風に着付ければ良いのでしょうか?」
「ふむ。ここはこうして‥良し、完成じゃ」
関西圏に存在する、某神社の更衣室。そこでは、各々が支給された巫女服を片手に、慣れない手つきでソレに着替える7人の能力者がいた。
初めて着用する巫女服に戸惑うメンバーを、本職が巫女業という藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)が、丁寧に着付けの仕方含め手ほどきする。
「これが巫女服‥ああ、お姉さまに是非見せたいです」
藍紗に続き、バッチリ巫女服に着替えた直江 夢理(
gb3361)は、赤と白で彩られた自らを鏡に映し顔を赤らめる。忍者の末裔ということで、こういった和装には精通していたものの、さすがに巫女服は初体験の彼女。初めてみる自分の新たな一面を見つけては、この場に彼女からお姉さまと呼ばれる存在がいないことを悔やむ。
「和装は下着を着ないと良く聞きますので、わたくしもそれに習いたいと思いますが‥」
一方、こちらは二条 更紗(
gb1862)が今まで着ていた服を脱ぎ、巫女服の前で何やら思案中。通例に習うと、巫女服の下には下着を着用しないらしいのだが、かといって下が全裸というのも憚られる。
「仕方ないですね。とりあえず下着はコレにしておきましょう」
数秒間黙り込んだ後、彼女は思い立ったように紐の様な下着を取り出す。なるほど、確かにこれなら着用しても不自然ではないだろう。
ただ、二条は小柄なこともあり、体のラインが浮き出るというパターンにならないだけ、これら下着の悩みは些細なものであった。そう、まだ彼女に比べては‥‥
「ちょ、もう少し大きいサイズはありませんの!? かなりキツいですわ」
何故か支給された巫女服のサイズが1回り小さいらしく、ソレに悪戦苦闘するは大鳥居・麗華(
gb0839)。
サラサラの美しい金髪と巫女服という絶妙な組み合わせの彼女だが、どう見ても胸が苦しそう。
「あの娘が用意したわけではないのに、何故この大きさですの!? く、胸が痛いですわ」
普段はいつも同行する某メイドから服のサイズを調整されてきた麗華だが、今回そのメイドはいない。それでもこう言った展開を要求される辺り、彼女はそんな星の下に生まれてきてしまったのだろうか。
尚、ちゃっかりその某メイドから、和装では下着を着用しないと教えられ(洗脳され)ていた為、勿論巫女服の下には何も着ていません。
「それにしても、巫女だけを襲うなんて‥まったくどんな変態野郎だよ。絶対に許さない」
かくして、着替えを終えた柿原ミズキ(
ga9347)らは、人で賑わう境内へと足を踏み出すのだった。
「ど、どうだ」
「おう、結構似合ってるぜ」
今回は女性メンバーの方が多かったのだが、そんな中貴重な(?)男手として本依頼に参加していた麻宮 光(
ga9696)と嵐 一人(
gb1968)の2人。
嵐は警備員としての参加だったが、麻宮はと言うと‥‥
「そ、そうか、良かった。人前に出れる位にはしておかないとな」
若干照れながらそう言う彼。上は赤いリボンからロングヘアーのカツラ、そしてメイクで整えたその姿は‥‥どう見ても女性と見間違うほど。しかも、妙にリボンが似合っているのは気のせいか。
そんな麻宮を見ながら、自分がこの役じゃなくて良かったと安堵する嵐。さて、それじゃあ俺も警備に行くか。そう思いつつ彼は振り向くのだが‥‥その先には――
「? 嵐様はまだ着替えていないのですか?」
「よう二条。って、お、俺は着ないぞ、こんな服!」
キョトンとした顔で巫女姿の二条が、不思議そうな眼差しで見つめているではないか。
「わたくし達だけに押しつけて、あとは高みの見物ということですね」
「いや、ちょっと待て。そんなんじゃ」
二条の言葉に同様する嵐に、続いて
「せっかくだし、皆で参加した方が楽しい気もするが」
「麻宮まで何言ってn」
「では決まりですね。ささ、こちらへどうぞ」
麻宮の一言がトドメだった。結局、嫌だと叫びながらも更衣室に連れ込まれた彼は
「これが俺‥」
何ということでしょう。匠達の手によって、見事な巫女さんへと変身するのでありました。しかも、かなり女装似合ってますね!
●巫女コン
「レディース・エーンド・ジェントルメン! 只今より、第12回ミス・巫女コンテストを開催致します!」
その声は、青い空の下、参拝しに来たたくさんの人々への耳へと響いた。突如として人の流れが、ある一か所に集中しだす。彼らが人の波を作りながら見据えた先、そこにあったのは、簡易的ながらも、作りのしっかりした特設ステージ。掲げられた看板には、『第12回、ミス・巫女コンテスト』の文字が。
‥‥本当に12回の歴史があるかは謎だが、そこはおいておこう。
「司会は私、猫屋敷猫夜がお送りさせていただきます。では、麗しき美女たちによる壮絶なる美の戦い、とくとご覧下さい!」
十分すぎるほどの人を集め、アピールも万全の状態となった巫女コン会場。ステージ上では、男装し偽名を用いた猫屋敷 猫(
gb4526)が観客に向けて挨拶中。そして、裏の方では
「む、無理だ。俺は帰るぞ‥」
「何を言っておるのじゃ。男なら覚悟を決めるべきじゃぞ」
プルプルと涙目になりながら出番を待つ嵐が、根性注入、バシッと背中を藍紗に一叩きされていた。
ちなみに藍紗だが、巫女コンに相応しい人材ながらも、今回はどうやら見回りに専念する様子。
その背中には破魔矢ならぬ長弓と、両手には何故か巨大ハリセンと準備万端だ。
「よし、そろそろ我は見回りに行ってくるからの。では、健闘を祈るぞ」
そして、人の波へ藍紗が紛れていくと
「それでは、これより美しき巫女達を紹介していきましょう。まずは、エントリーNo1、柿原さんです!」
猫屋敷の実況と共に、静かながらも、どこか熱いムードが漂う巫女コンが幕を開けた。
「大丈夫、女は胸じゃないってトコ証明してやるやるんだから!」
最初に指名された柿原は、自分の頬を掌で叩き気合を入れ、いざステージへ。だが
「胸を張って‥って、うわっ!? ‥いったーぁ」
闘志を燃やし過ぎた為か、はたまた慣れない巫女服の悪戯か。悲しきかな、登場早々足が縺れてコケてしまう柿原。観客の笑い声が聴こえる。早く立たなくちゃ、このまま惨めには終われない。そう思いつつ体を起き上らせる柿原の顔は赤い。だが、彼女が起き上がり見据えた先に広がる光景、そこには
「ママー。綺麗なお姉ちゃんだねー」
「あはは、やるねあの人。出オチとか、新年早々良い初笑じゃん」
予想のほか、暖かい観客の笑顔が広がっていた――
「うん、皆良い人達そうだったよ。だから頑張って」
台から降りる柿原は、不安が脈打つ麻宮にバトンタッチ。すれ違いざま、笑顔で通り過ぎる柿原から元気を貰った彼は、心も体も(?)女性となってステージへと足を進めた。
「続いては赤いリボンが印象的な麻宮さんです!」
「えーと‥‥あの、投票、よろしくお願いします」
いざ舞台に上がってみると、押し寄せてくる緊張にろくに言葉も出ない麻宮。精一杯女性らしい声でアピールしつつも恥じらうその姿は、これまた妙に愛おしい。
「し、死ぬかと思った‥それじゃ、次頑張れよ」
「ふ、任せなさいですわ。この美しい私が優勝は頂きですわよ」
続いて猫の紹介でステージに上がった麗華。するとどうだろう。その瞬間、会場は異常なまでのフラッシュの嵐が巻き起こるではないか。
「おーっほっほ。さすが私ですわね、観客からの視線が痛いですわ」
目ん玉が飛び出しそうなほどの勢いでこちらを観る観客の視線に満足気な麗華は、自らの身体を見せつけるかのように優雅に舞う。確かにその姿は美しいのだが、観客の視線の理由が、自分の美しさ以外にもピッチリサイズの巫女服にあることを気づいていない。
とは言え、そのピッチリ巫女服は、見回りの藍紗が無断撮影者にハリセンアタックで応戦する暇さえ与えないほど、凄まじい影響力であったそうな。
「さぁ、盛り上がって参りました。続いてエントリーNo4、嵐さんです。どうぞ!」
「‥」
麗華のおかげで盛り上がりも頂点に達した巫女コンだが、次に紹介された嵐はと言うと、極度の緊張のあまり動くことすらままならず立ち竦んでいた。
「えーと、嵐さん、何か一言ありますか?」
「‥」
必死でサポートする猫の言葉も耳に入らず、彼はステージ上で顔を紅潮させ震えるだけ。だが
「うわ、可愛えー」
無言で恥じらう姿が観客の萌えゾーンを射抜いたのか、再びフラッシュの嵐。本当にこの会場には紳士さんが多いですね。
「お、俺は‥」
「大丈夫ですか、嵐様。では、次は私ですね」
嵐がステージから退場する際、すれ違った直江は彼から聴こえてくる心臓の鼓動音に心配しつつ、ステージに昇る。
「いよいよ、ラストNo、直江さんです!」
「おおー」
最後の巫女ということで観客にも司会にも熱が入る中、直江は忍者刃と称したイアリスを紹介しつつアピール開始。
「実に可愛らしい。ぜひ我が家に嫁ぎに来てもらいたいです」
最初に比べ、実況にも慣れたのか猫の解説もプロ顔負けのレベルに。お持ち帰りしたいくらい可愛いいと声援を浴びる直江だが、当の本人はと言うと
「この忍者刀は、私の愛するお姉さまより戴いたものなのです‥まるで、お姉さまが側にいるみたいで‥ぽっ」
観客が自分に陶酔するように、何故か彼女自身も自分の世界に陶酔しちゃったり。
「それでは、いよいよ投票に――」
こうして、なおも冷めない熱を帯びたまま会場は投票に入ろうとした――その時!
「!? 来たぞ、天狗じゃ!」
観客に紛れ、周囲を警戒していた藍紗の声が響き渡った――
「み、みこぉ!」
意味不明の奇声と共に襲来した天狗。その初撃は、完全に非覚醒のまま油断していた二条を捉えていた。
――パサッ
「‥」
一瞬静まり返る境内。二条に関しては、混乱する頭のせいで何が起きたのかすら理解が追いついていない。
「みこぉー!」
巫女服獲ったどー! と言わんばかりに空に巫女服を掲げる天狗。そう、このキメラの得意技は秘儀・巫女服脱がし!
「‥絶対潰す!」
瞬間、二条の髪が銀色に変化したかと思うと、覚醒した彼女は怒りを露わにイアリスの先端をキメラに向けた。覚醒により羞恥心の消えた彼女だが、覚醒を解いたときに襲ってくるであろう後悔の念は、今は語るまい。
●変態VS巫女
「邪なる欲望あるところ我らあり!」
二条の覚醒をかわぎりに、まず第一声を高らかに上げたのは藍紗。
「紅白衣装は天意の証!」
それに続き、麻宮はリボンをふわりと浮かし、藍紗の横に滑り込む。
「天に仇なすバグアを討つため」
更に、いつのまにか巫女姿の恥じらいに吹っ切れた嵐が続き
「可憐に華咲く純情乙女の巫女魂!」
柿原が敵を指さしアピールすると
\『調伏戦隊巫女連者!』/
5人全員で一斉決めポーズ!
「不埒な野望は、お仕置きですわ!」
決まった‥‥5人の波長を合わせた一斉登場、最後に麗華が〆て完璧な登場となった藍紗達。その異様な光景の前に思わず天狗も面喰らった様子だが、傍から見れば、この5人に本当に討伐を任せていいか不安になったことは内緒にしておこう。
「皆さんの非難誘導終わりましたですよ〜♪」
避難誘導を終えた猫も合流し、変態キメラとの戦闘が今、始った。
8人が武器を構え囲む中、天狗が二条の次に狙いをつけたのは――直江。
「来ましたね‥ふふ、そう脱がされてたまるかぁー! ‥ああっ! でも、やっぱり巫女服の着付けが甘くて、私‥」
戦う意欲があるのか謎だが、交通整理されたらしくAU−KVを失くした状態で戦闘に臨んでいた彼女。脱がされまいと意気込むものの、妄想に溺れるあまり
「直江さん、危な‥あ」
「あーれー」
秘儀・巫女服脱がしにおける、2人目の犠牲者が誕生した瞬間だった。
「くっ、どんな姿になろうと悪は斬ります!」
巫女服を失って我に帰る直江は、改めて闘志を燃やし剣を構えるのだが、既に麻宮と嵐の2人は二条の件含め目のやり場に困るという悲惨さ。
「よし、まずはボクが!」
出だし早々不安になる光景だが、気を新たに、能力者側で先に仕掛けたのは柿原。ダッシュと同時に天狗に向け薙刀が弧を描く。しかし
「柿原殿、後ろじゃ!」
「え」
突如として横から伝わる衝撃が。その方向へ振り向くと、柿原の巫女服の裾には‥‥狛犬型のキメラが噛付いているではないか。
「動くんでないぞ、柿原殿! 我が神弓、その身に刻むが良い!」
必死で柿原の巫女服を脱がそうと頑張る狛犬だが、そこに藍紗の一撃。背中を抉られるような痛みに、思わず裾から口を離すキメラ。すると、その後方から
「2匹目か」
更なる狛犬が1匹、姿を現した。
「こんなことになったのも、全部お前らのせいだー!」
こいつらさえいなければ、大衆の前にあんな姿を曝すこともなかった。そう、こいつらさえいなければ。そんなことを考えつつ、逆ギレ気味に天狗へ吶喊する嵐。その横からは二条、更に後方では藍紗がサポートに入る。
「みこぉー!」
しかし、そんな彼らには目もくれず、そのまま天狗は空へと一蹴。そして向かった先は
「どうやら次の狙いは私のようですわね」
相変わらずピッチリの巫女服姿が眩しい麗華だった。
目をギラつかせながら走ってくる天狗に、麗華はヴァジュラを構える。そこに救援する麻宮と猫。
「先手必勝」
麗華に突進する天狗の真横に瞬天速で着けた麻宮は、そのままティガイアの爪先で敵を引き裂く。
「みっこぉ!」
何故か「み」と「こ」しか発音しないキメラだが、痛恨の一撃の前に怯んだところを猫が追撃の一閃。絶叫するキメラの命に最期を告げるべく、麗華がトドメを刺す! しかし!
「みごぉお!」
「!?」
最期の悪あがきと言うべきか、麗華の刀身をその身に吸い込みながらも、天狗はなお『巫女服脱がし』を発動!
「しまっ!? くっ、離しなさいな! こ、この‥きゃぁ」
胸に食い込んだヴァジュラを抜いて巫女服脱がしを避けようにも、何とこの天狗、片手で剣を押さえつけてまで麗華を逃がそうとしないではないか。そして
「何でいつもこうなるんですの‥」
結局、敵の命と引き換えに巫女服を脱がされてしまう麗華なのであった。しかし、ある意味ここまで巫女服に執着する敵の執念には脱帽だ。
「これで終いじゃ!」
一方、狛犬と対峙していた5人は、猪突猛進で突っ込む二条を筆頭に、順調に敵のダメージを蓄積中。そして藍紗がトドメの矢を射抜き
「グガ‥」
最後の1匹が地にひれ伏した。ただ、藍紗も巫女服脱がしを受けたらしく、水着姿なのが何とも眩し‥ゴホン、悲しい。
こうして、行方不明となっていた巫女達も無事発見され、安堵感に包まれた神社を夕暮れが赤く染める。巫女服に踊らされた哀れなキメラは、恥を捨て戦い抜いた能力者によって見事討伐され、本事件は幕を閉じるのだった。