●リプレイ本文
「この寒い時期にわざわざ‥‥日本には変わった風習があるのね」
カレンダーが指し示す日付は○月○日。いくら雲ひとつない快晴とはいえ、吹き荒ぶ風は冷たい。本来なら暖かい暖房を前にお昼寝でもしたい時間帯‥‥なのだが、この街の『今日』は、それを許してはくれなかった。何故ならば
「とは言え、傭兵兼アイドルとして、ここはイベントを盛り上げないとね」
ミオ・リトマイネン(
ga4310)が見つめる先、そこにいたのは海辺に集まった多数の男子と、それを取り囲む老若男女達。そう、今日はこの街にとっての一大イベント『寒中水泳大会』が催される日だったのだ。
「とても深くて濃い色の海‥こんなに静かで暗い海、生まれてハジメテ」
目の前に重ねるは懐かしき故郷の面影か。いや、恐らくは初めて見た日本の海への興味なのだろう。穏やかに波打つ海の表情を見つめながら、琥金(
gb4314)は静かに呟く。そんな彼の後ろでは、ザワザワと本大会を見学に来ていた女子学生がカメラ片手に人波を作っていた。
「ちょっと、私にも写真撮らせて!」
「待って、もう少しでこっちを見てくれそうな気が‥あ、でも、あの凛々しい後姿もこれはこれで」
そんなことを言いながら、ひたすら琥金にデジカメやらを向ける女子学生達。海の波と人の波、その間に佇む1人の少年。しかし、その少年は他の参加者とは一味違っていた。確かに、容姿や肉付きの良い体を考えても、他参加者の男子学生と比べればその差は一目瞭然だろう。しかし、何よりも観客の目を引いたのは‥
「すげぇ‥俺もあれだけ思い切った格好ができれば‥」
羨まし気に男子諸君らが凍える体で見つめる先。そこにいたのは、見事なまでに『褌一丁』な琥金の姿であった。本大会は水着での参加が主なので、どう見ても琥金の格好は目立ちまくりだったのだ。最も当の本人は、見事なまでの天然っぷりで終始そのことには気づかなかったんだけどね。
「皆、がんばろ〜ね〜♪」
女子から注目を浴びる琥金とは裏腹に、こちらの方では男子から釘付けの視線を浴びるハルカ(
ga0640)。その初めて見る『Gサイズ』にゴクリと生唾を飲み込みながら、健気な少年達は彼女から目を離さない。こうして、6人の能力者達を巻き込んだ本大会は、いよいよ幕を開けるのだった。
●遠泳
(「男子学生だらけと聞いたから参加したのに‥‥こんなことになるなんて」)
幾つかのイベントが順を追って開始されていくこの大会。まずは、第一プログラム遠泳のスタートが開始10分前に迫る。
それに伴い、浜辺に参加者が一斉に並ぶのだが、どうやら1人、モジモジと落ち着かない様子の少女がいるようだ。
(「もし周囲に男だとバレてしまったら‥‥何としてもここは、男とバレずに任務を達成しなければ」)
静かに目を瞑り精神統一を始める少女‥‥ではなく、実は少年の神鳥 歩夢(
ga8600)。彼は異性に対しての免疫が極端に乏しかったため、何とかしてミオ達との接触に対する緊張を和らげる必要があったのだが、その方法とはなんと――まさかの女装。
「緊張している姿も、相変わらず可愛いものね」
遠泳では先導役として参加するミオが、神島の隣に並びボソッと話しかける。その言葉にビクッと反応しながらも咄嗟に顔を逸らす彼。悔しいが、こんなところで男子の生理現象が起きることだけは防がなくては‥‥
こうして、能力者達はそれぞれ持ち場に散開し、競技に出場する者と警戒する者とに別れると
「向こう岸まで行けばいいのか‥」
遠くに見えるゴールを見据え、琥金含む参加者は一斉にスタート。最も、琥金の目的は競泳への参加ではなく、全員が無事にゴールできるよう後列からの警戒を兼ねた追従だったのだが。
「冷てぇ!」
思ったよりも海水は暖かい。しかし、一般人からしてみればやはり辛いものがあるのだろう。必死にゴール目指して泳ぐ男子達に、ボートからミオは声援を送る。ちなみに、時々胸をチラ見させニンジン役もやってみたり。そして
「結構皆根性あるのね〜」
警戒に当たっていたハルカが、ゴールし終えた参加者を笑顔で出迎え遠泳競技は無事終了――
●麗華フラッグ
午後2時。いよいよ第2競技に移行する本大会だが、そこでは軽いパニック状態が浜辺に集う男子らを襲っていた。開いた口が塞がらないとはこういった光景を云うのだろう。
事の発端は、10分前に遡る。
「おーっほっほ、今日は私の美しい水着姿で皆を悩殺ですわ! ‥って、悩殺してどうするんですの」
「どうやら今回は麗華さんも気合十分のようですね♪」
次の競技はビーチフラッグと云うことで、スタートラインには参加者の万里 冬無(
ga8209)と大鳥居・麗華(
gb0839)の2人が並んでいた。麗華は自分の台詞に自己ツッコミしつつも、2人はそれぞれ着ていた服を一斉に脱ぎ捨てる。宙に舞うドレスと戦闘用メイド服。そして、彼女達は下に予め着ていた衣装をお披露目するのだが‥‥
「ぶっっ」
「!? ちょ、どうしたんですの!? 伊万里、大変ですわ。手を貸し‥‥て‥‥」
いくら派手な演出で登場したとはいえ、突如として鼻血を噴出し倒れる隣の男子を見て焦る麗華。瞬間、伊万里に助けを求めようと彼女の方を見た刹那、麗華にかつてない戦慄が奔った。
「い、伊万里‥‥あなた、その格好は‥‥」
「どうしましたですか? 立派な正装ではないですか♪」
顔が強張りろくに呂律も回らない麗華が見たもの。それは、ニップレス+白サラシ(極薄)、そして見事なまでの赤褌に抱擁された伊万里の姿であった。
これで前述した男子諸君らの反応にも納得していただけた事かと思うが、さすがにくっきりと食い込んだ伊万里の褌姿の前には、周囲に血の海を築き昇天してしまう人もチラホラ。最も、生き残った勇者達も皆前屈みで心臓の爆発音に耐えていたのは言うまでもない。
こうして、カオスな第2競技は、いよいよスタートを告げるのであった。
「き、気を取り直して集中ですわ」
「はいです♪」
この競技、5人がスタートラインに並び開始されるのだが、正直残り3人は伊万里と麗華の姿におかげで既に戦線離脱気味。ちなみに伊万里の特徴が強すぎて霞がちだが、麗華の格好も赤のハイレグ水着と即死級です。
「位置について〜」
スタートの号令係が鼻血に塗れて力尽きたため、色気に興味のない琥金が代わりに発砲音を響かせる。それに合わせ、勢いよく駆け出す5人。しかし
「あら? 随分と皆さん遅いですわね」
精一杯手加減して走っているはずの麗華だが、後方に続く伊万里と男子3人はどうやらかなり遅い様だ。
(「後姿もすげぇ」)
一般人といえどもここまで遅いものかと麗華は不思議がるが、後ろの男子3人が自分の後姿に見惚れていることなど知る由もない。
それなら一着でゴールしてしまえと、一気に麗華は旗に飛び込む。彼女が地を一蹴すると同時に舞い上がる砂飛沫。ニヤッと笑う後ろの少女。
――ズサー
「取りましたわ!」
ガバッと起き上がり誇らしげに旗を掲げる麗華。おぉ〜という声援に彼女は満足気だ。しかし
「どうです、伊万里! あなたに勝ちまし‥‥」
プランプラ〜ン‥‥‥ん? 気づけば、伊万里の手から見覚えのある水着が振り子の様に揺れているが‥えーと、これは確か自分の装着していた‥
「きゃぁぁ!」
響く叫び声、轟く観客の興奮ボイス。我先にとカメラを取り出す男性客を前に
「おぉっとぉ! 良い子の皆様には見せられませんです♪」
すかさず伊万里がダイブしてフォロー。その友情に泣きそうな声で感謝する麗華だが、ショックで事の原因が誰にあるのかすっかり忘れている模様。でも
「うふふ、これは私だけが堪能するのです♪ 役得です♪」
「‥‥」
相変わらずの伊万里に我を取り戻し、プルプルと怒りに震えるのでした。
●ビーチバレー
「ボク? お姉さんとチーム組んでくれないかな?」
「え、お、俺ですか!?」
いよいよ競技もこれが最後のビーチバレー。そこでは、ハルカが自分の目に留まった男の子に声をかけていた。少年の年齢は15歳、発展途上中の可愛げな顔が目を引く彼を選ぶ辺り、ハルカの眼力にはただただ感服である。
「それじゃ、頑張ろうね〜」
ニッコリと微笑み、自分よりも少し背の低い少年の顔をハルカは覗き込む。顔を真っ赤にしてハイと応える少年。ハルカの遊び心に火がついた瞬間だった。
「せーのっ」
勢いよく飛び上がり、そのまま敵コート内へとスパイクを叩き込むハルカ。その度にたゆんたゆんと胸が揺らぐのだが、そんなことは気にしない。
「任せて〜‥あ、しまっ」
かなりの点差でリードしていたハルカ達。これなら余裕で1勝と思われたのだが、相手のサーブが丁度2人の真ん中に打ち込まれ、2人はお見合い(ごっつんこ)してしまう。
「あ〜ん、ごめ〜ん」
頭を抑えながら凭れ掛かってしまった少年の方に目を向けるハルカだったのだが
「あ、あれ〜?」
そこには、今まで必死に抑えていた興奮が、ハルカとのボディコンタクトにより大噴火した一人の哀れな少年が倒れていた。ハルカペア、残念ながらアウト。
「良かった、歩夢さんと同じチームになれたみたい」
「そ、そうですか」
一方こちらは能力者同士で組むこととなったミオと神島の2人。しかし、半分はミオの企みだったり。
(「ま、まだラッキーと考えましょう。ミオさんが側にいてもボクが無事なのは女装のおかげですし」)
必死でミオを直視しないように目を逸らす神島は、こんなことを考えながらサーブに回る。しかし、そんな彼をジーッと見つめていたミオが、勿論このままで終るはずはない‥‥
「まずはサーブっと」
パコンとボールを叩き敵陣へボールを送り出す神島。相手のチームはどうやら経験者なのか、確実にソレをレシーブすると見事な連携でスパイクに繋げる。
「私が取るわ」
慣れない砂場に四苦八苦する神島のフォローにすかさずミオが回り込むと、ボールを高く上へとトス。だが
「ふえぇ!?」
目の前へ割り込むようにミオが入ってくるものだから、嫌でもその突き出たお尻に神島の目はいってしまうわけで。
「落ち着け、ボク」
這い上がってくる生理現象を必死で抑制する彼へ、更にミオは追い討ちをかけるように彼の前を蝶の様に動き回り揺れる胸を見せ付ける。
「これでどうだ!」
何だかんだでミオの働きにより苦戦する対戦チーム。そんな彼らは、バレー以外のものと格闘する神島目がけ勢い良くスパイク!
「歩夢さん、ボール!」
「え‥」
バシュッと神島の肩にそのままボールが突き刺さったかと思うと、そのままボールは地に落ちていく。ゲームセット。最後の1点を相手にとられ、試合が終わりを告げた瞬間だった。
「負けてしまいましたか。でも、これで解放され‥」
勝負には負けたがボクは最後まで戦い抜いた、そんな達成感とともにコートから退場しようとする神島。が
――スル
『あ』
ミオと神島の声が見事に重なり、神島のスク水肩掛けの部分がポロッ‥
「‥‥」
トドメだった。最後まで頑張った神島は、夢中になるが故に徐々に解れてくる水着に気づかず、最後は肩にぶつかったボールの衝撃で‥
こうして、男なのにポロリしちゃった彼は、ミオに抱かれて救護班の待つ場所まで運ばれるのだった。
●競技を終えて
「寒い〜。ほら、もっとこっち寄りなよ〜」
全ての競技も無事に終了し、残すは焚き火を囲んでの打ち上げだ。心なしか可愛い顔立ちの少年に囲まれたハルカは、皆でお食事中のご様子。
「結局、キメラ出てこなかったね」
ほとんど競技にも参加せず、ひたすら皆の警護を務め上げた琥金も今はマッタリとくつろぐ。女子に囲まれて話に花を咲かせるが、ここまで人気だと逆に異性に興味がないのが勿体無いくらいだ。
「終りましたわね」
心が磨り減った気がしないでもないが、麗華は傾いていく太陽に目を向ける。やっと帰れる、そう彼女が思った瞬間
「キメラだー!」
はい、最後の最後でお約束の登場でっす!
「最後の楽しみを邪魔するとは‥ダメだネ」
悲鳴のする方へ駆けつけた能力者達。まず、前に乗り出した琥金。その両腕には植物の蔦を模した模様が。刹那、彼のグラーヴェが描く直線の閃撃――正面に捉えたキメラの外皮を引き裂く。
「一般人の避難、完了しました」
一方、参加者の非難誘導に回ったミオは、即座に誘導を追え戦闘に助勢する。まず彼女は片手に持った小銃の火を噴かせると、そのまま味方の後方に回り込みサポートへ。
「あはははっ♪ 最後の最後まで楽しませてくれるとは!」
キメラの登場により、テンションが急上昇した伊万里はバトルモップを駆使して次々と小型のキメラどもを蹴散らしていた。しかし
「伊万里、危ないですわよ!」
「え」
夢中になるあまり、後方から敵の接近に気づかなかった彼女。そこを麗華が咄嗟に庇うのだが
「って、きゃぁ!?」
その代償として、見事にヒトデ型キメラの吸着攻撃を受けてしまう。
「く、離れなさいな」
必死で振り払おうとする麗華だが、付着した箇所が背中で思うように手が届かない。すると
「麗華さん、何て羨まし‥‥ではなく、今剥がしますです♪」
悶える麗華のリアクションをもう少し見ていたいと思いつつも、ヒトデを剥がそうと試みる伊万里。が
「伊万里! まだ後ろにいますですわ!」
「!?」
――チョキッ
不意に後ろからの衝撃に伊万里は態勢を崩してしまい、そのせいか(?)勢いあまった彼女はヒトデごと麗華の水着を案の定引き剥がしてしまう。
「またですの!」
怒鳴る麗華。最早慣れたのか予想していたのかすかさず胸を隠すと、そのまま伊万里の手から水着を奪い返す。
「あはははっ♪ そんなに怒鳴らないでくださいです♪」
「全く‥これが怒鳴らずにいられ‥!?」
懲りない様子の伊万里に呆れる麗華だったのだが、『その』光景を見た彼女は思わずそんな怒りもどこへやら。そう言えば‥‥先程伊万里に不意打ちをしたキメラは確かに蟹型だった‥‥
「い、伊万里‥‥褌が切れていますわー!」
「!? いやぁん♪ 麗華さん何処見てますですか♪」
かくして、本日最後のドタバタが終了し――
「臨時で食材も手に入ったし、続きを始めようか」
キメラの討伐を終えた6人は、参加者を呼び戻し再び打ち上げを開始する。琥金は討伐したキメラを見事なホイル焼きに調理したかと思うと
「それじゃ、近くの温泉に行こうか〜」
ハルカはすっかり自分の虜となった男子らを引きつれ温泉へと繰り出す。
「せっかくの褌が切れてしまいましたね♪ せっかくですし、この際新しい下着を新調しましょう♪」
「何やってますの、伊万里。早く帰りますわよ〜」
こうして、○○町の伝統ある祭は今年も無事に幕を閉じた。しかし、以前に比べて笑顔の参加者が多かったこと。これは、間違いなく本大会を支えた6人の能力者達のおかげといって過言はないだろう。