タイトル:ここが噂の温泉ランド!マスター:羽月 渚

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 42 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/08 19:57

●オープニング本文


 11月、いよいよ本格的な冬の到来を受けたここ日本では、一人の女性が地球温暖化などまるで頭にないかのように、震える体に別れを告げるためガンガンと暖房の設定温度を上げていた。
「寒‥‥やっぱだめねぇ。寒いと色々と面倒くさくなっちゃうわぁ」
「あなたが面倒くさいって呟くのは、いつものことですけどね‥‥」
 
 ――日本、武器開発研究所
 外では吐く息が白くなってしまいそうな季節、ここドローム社傘下の武器開発局では、1人の女性が暖かい室内で研究に勤しんでいた。彼女の名前はミーナ・リベッタ(gz0156)。そろそろ結婚も考え始めそうな歳ではあったが、彼女の身体を温めてくれるのは未だに無機物の生み出す熱風と、熱い熱いコーヒーだけである。
「ふー。それにしても、こう寒いとやっぱ行きたくなるわよね〜」
「寒いって、今の室内温度何℃だと思ってるんですか‥‥まぁ、それはいいとして。行きたくなるって、どこにです?」
「あれ、知らないの? 温泉ランドよ、温泉ランド!」
「は?」
 目を輝かせながら話し出すミーナの前で、完全に頭上にハテナマークを浮かべる彼女の助手、目島君。
 彼は優秀な助手であるが、超真面目すぎて、仕事以外への関心がないことがネックだったりするのは内緒だ。
 温泉ランドということからして、どこかの温泉であろうか。そんな疑問を持ちながら、温泉ランドについて問いかける目島君にミーナはとある雑誌を取り出す。
 その雑誌には、どうやら4ページに渡って温泉ランドのことが特集で書かれているようだが‥‥
「温泉をテーマとした、アミューズテーマパーク?」
 雑誌に貼られた、このご時世に何とも不釣り合いと思えるほど派手な建物の写真に、目島君はただ目を点にするのであった。

 ――それではここで、情報誌による温泉ランドについての解説をしよう!――

●温泉ランドとは?
 とってもゴージャスリッチな温泉と、一通りのレジャー施設を兼ねそろえた正に夢の空間。
 以下、温泉の種類と施設の紹介を簡単にすると

 ≪温泉について≫
 露天風呂は勿論、巨大サウナやプール、更には美肌の湯と称する謎の温泉まで、多数の温泉が存在
 一番広い大浴場に関しては、混浴も可。尚、プールでは水着着用厳守!

 ≪周辺施設について≫ 
 卓球台からマッサージルーム、ゲームセンター、そしてビリヤードやボーリングなど多数の遊技場が存在
 また、隣接する専属のホテルでぐっすり一晩過ごせるため、心おきなくエンジョイできるぞ☆

 となっている。よって、温泉ランドとは『遊びと癒し』をテーマにした、究極の施設であると言えよう。 

●参加者一覧

/ 大泰司 慈海(ga0173) / 神無月 紫翠(ga0243) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 黒川丈一朗(ga0776) / 翠の肥満(ga2348) / 天・明星(ga2984) / アッシュ・リーゲン(ga3804) / 伊流奈(ga3880) / 鳥飼夕貴(ga4123) / 門鞍将司(ga4266) / UNKNOWN(ga4276) / ミオ・リトマイネン(ga4310) / オリガ(ga4562) / 神森 静(ga5165) / L3・ヴァサーゴ(ga7281) / レイアーティ(ga7618) / 番 朝(ga7743) / 伊万里 冬無(ga8209) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / 守原有希(ga8582) / 御崎 緋音(ga8646) / 紅 アリカ(ga8708) / ジェイ・ガーランド(ga9899) / シュブニグラス(ga9903) / 穂摘・来駆(gb0832) / 大鳥居・麗華(gb0839) / 鬼非鬼 つー(gb0847) / イスル・イェーガー(gb0925) / 紅月・焔(gb1386) / 風花 澪(gb1573) / 芝樋ノ爪 水夏(gb2060) / 雨衣・エダムザ・池丸(gb2095) / 赤崎羽矢子(gb2140) / 七海真(gb2668) / 美環 響(gb2863) / 蒼河 拓人(gb2873) / リリィ・スノー(gb2996) / ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522) / 御薙 詩音(gb3528) / エリザ(gb3560) / 矢神小雪(gb3650) / 青海 流真(gb3715

●リプレイ本文

●序章

「温泉‥そうか、冬にも希望は残っていた!」
 日本某所に佇むド派手な建設物。真新しいオーラを目の前に、紅月は咆えていた。彼が今にも入らんとする建物の名は温泉ランド。名前通り温泉は勿論、一通りのレジャー施設を備えたこの夢の国を舞台に、今、壮絶な一日が幕を開けようとしていた――

「当選‥‥不可思議‥‥」
「あら、ヴァサーゴではありませんの」
 ザワザワと温泉ランドに集まって来る能力者達。そのうちの一人、麗華は、ゴスロリメイド服に身を包みポツンと突っ立っているヴァサーゴを発見し声をかける。必要最低限の荷物、といった様子のヴァサーゴに比べ、如何にもお嬢様っぽいドレスが目を引く麗華。
「今日はどこかのメイドもいないことですし、思う存分楽しみますわよ」
「麗華‥‥顔色、良好」
 普段の呪縛(?)から解放され、満面の笑顔を浮かべる麗華にヴァサーゴは坦々とした口調で話す。
「へへっ、自分一番乗りー!」
 そんな2人の横を、拓人が勢いよく駆け抜けていき、辺りに風を巻き起こす彼。今日は命ある限り楽しもうと心に決めていただけに、既にワクワクが止まらないようだ。
「それじゃ、わたくし達も行きますわよ」
 施設に駆けこむ拓人に続き、足を進める麗華とヴァサーゴ。しかし、麗華達は知らない。
「あはははははっ♪ あの後ろ姿は麗華さんとヴァサーゴさんですね? 楽しくなりそうです♪」
 そう、彼女達の後方で、戦闘用メイド服を靡かせて高らかに笑う1人の少女がいたことを‥‥

 ――ロビー
「んー、思ってたよりゴージャスっ。せっかくだから楽しもっと♪」
 受付に当選チケットを渡しながら、周囲の様子を見渡す大泰司の横では、何やら鏡を見ながらチェックをする翠の肥満の姿が。
「あっれー、 翠の肥満君なんで女装なんかしてるのー?」
「あら、何のことかしら?」
 元々顔見知りのため、わざわざ女装している翠の格好に疑問を持つ大泰司。そんな彼の問いかけに、翠は何食わぬ顔で微笑むと、そのまま歩いて行ってしまう。うーむ、何か様子がおかしいようだが‥‥
「そう言えば、初めてアリカと出かけたのも温泉旅行だったよな」
「‥‥そうだったわね、ちょっと懐かしいわ」
 今回は総勢42人の能力者達が当選、参加しており、その中にはカップルの数もチラホラと見受けられた。そのうちの1組、ジェイとアリカは2人寄り添い施設のマップに目を向けている。
 時刻は午前10時。もうすぐ企画のサウナ大会が始るのだが、それには参加する予定のない彼らは、ひとまず今日のスケジュールを確認しつつ予定を練るのであった。

「ほら、羽矢子ちゃん怪我してるんだし、僕が脱がしてあげる♪」
「えー、いいって、遠慮しとくよ」
 こちらは女湯入り口の脱衣所。前回の依頼で傷を負ってしまった赤崎に、風花は脱衣の手伝いを試みるが、苦笑されつつそれを断られてしまう。だが、それでもめげずにひたすら衣服に手をかけようとする彼女。だったのだが、
「あの、そろそろサウナの我慢大会が始る時間です」
 同じく2人と一緒に着替えていた水夏が、風花にそろそろサウナ大会が始ることを告げる。今回は傷の具合もありサウナ大会にはノータッチの赤崎ではあったが、参加を表明していた風花は遅れるわけにはいかなかったのだ。
「もうそんな時間かー。それじゃ、羽矢子ちゃんはまたあとでねっ」
「いってらっしゃーい」
 若干心残りがあるものの、また大会が終われば赤崎に抱きつこうと思いつつ、風花は水夏と供にサウナが置かれているルームへと移動を開始する。
 サウナルームは混浴の大浴場隣に位置しており、大会開始もすぐということで、貸切状態のサウナの前には既に何人かの能力者達で賑わいを見せていた。
「サウナは普段からよく使うしな‥‥自信はあったのだが‥‥」
 今回は合計で3種類のイベントが用意されていて、その中で最も人気だったのがこのサウナ我慢大会だったり。そういうこともあり、意気込む能力者の姿が目立つ室内だったのだが、中には顔色が優れない参加者もいるようだ。
 例えば、逞しい筋肉質の体が目を引く黒川は、その姿に反して顔を下に伏せ、何故か早くもダウン寸前である。
「丈一朗さん大丈夫? 顔色が悪いわよ」
 そんな彼を気遣い、髪を団子に縛り上げロープを着用した準備万端のナレインが声をかけるが‥‥
「あ、ああ。別に具合が悪いわけじゃないんだが‥‥なんで男女一緒なんだ」
「あらー、スキンシップと思えばいいじゃない♪」
 本気でガクッと項垂れる黒川を前に、ナレインはキャッキャッとはしゃいで彼を元気づけようと試みるものも、どうやら効果は見込めない様子。それもそのはず、黒川は体は厳つくとも、心は男子高校生のように純粋であったのだから。
 ――言ってしまえば、ナレインに例えると、虫に囲まれてサウナに入れというぐらい精神的に崖っぷちだったたのかもしれない。
 そして、彼と同様、いや、彼以上に顔色の悪い女性がここに一人。
「な、なんであなたが居ますの‥‥」
「あははははっ♪ 楽しい1日になりそうですね♪」
 何というイレギュラーだろうか。サウナに意気揚々とやってきた麗華とヴァサーゴを出迎えたのは、毎日嫌というほど見慣れた、顔の整った可愛らしい、しかし心はドス黒い(?)伊万里ではないか。
「麗華‥‥顔色、不良」
 壁に手をかけ、負のオーラを周囲に滲み出す麗華を見つめたヴァサーゴが呟く。
 そして今、欲望という渦が激しくとぐろを巻いたサウナ我慢大会が始りを告げた――

●エピソード1:サウナ耐久勝負

「勝負する以上は、負けられないな」
「臨むところですわ」
 事前にしっかりとアルコールをチャージしていた鬼非鬼は、鬼のパンツ一丁でデデンと腕を組みサウナの前に仁王立つ。ビール腹ということでお腹が気になる彼であったのだが、普通に格好良いその姿は、ただの酔っ払いらしからぬオーラを発している。
 一方、温泉というものをテレビでしか見たことのなかったエリザは、水着で参加しようとする女性能力者が目立つ中、てっきり温泉での正装と思いこんだタオルを体に巻くという簡単な格好で臨んでいた。特に賞金に興味があるわけではないのだが、やるからには負けられないと彼女のプライドは燃えに燃えているようだ。
 ちなみにその横では、その抜群のスタイルに、一般の健全な男子客が萌えに萌えていたとか何とか。
「やっぱり、自信な、い」
「大丈夫だって♪」
 エリザ同様、こちらも温泉初体験の雨衣は、ドッカーンと聳える巨大なサウナ部屋を前に、思わず怯えて水分補給用の容器を持つ手に力が入ってしまう。そんな彼女にニッコリと笑いながら抱きついて、雨衣の緊張をほぐしてあげる風花。
「‥サウナ‥少し入ったことはあるけど‥」
 小柄な体で片腕にミネラルウォーターを持つイスルの横では、彼とは真逆に鞭の様に引き締まった逆三角形ボディのUNKNOWNが水に濡らしたハンドタオルを片手に、戦場の舞台に踏み出そうとしていた。
「それじゃオリガちゃん、入ろっかー」
 赤フンという何とも言えない格好に身を包んだ大泰司がオリガを促すと、彼よりほんの少しだけ身長の高い長身のオリガが静かにサウナの中へと入っていき――
「これも鍛錬だと思えば‥‥」
 そのスレンダーで非常に美しいオリガを直視することのできない黒川も彼女に続き、いざ、我慢大会の1グループ目による耐久レース、スタート!

 暑いではなく熱い。普段からその仕事の性質上、あらゆる環境を体験してきた能力者ではあったが、普通とは違う、裸の体に直で伝わってくる熱気の前に思わずその顔は歪む。
 滴る汗、気づけば水分を含ませたタオルも、あっという間にただの蒸しタオルに変貌していた。
(「うう、我慢です! これも修行と思えば大丈夫です!」)
 目をつぶり静かに最小限の呼吸で熱気を体に入れないよう注意しつつ、精神を統一する天・明星。今回の参加者では一番若い部類であった彼だったのだが、我慢強い性格も幸いしてググッと握った拳を膝の上に置き、ひたすら耐える。
 幸い、彼は年齢的にまだあまり性への関心が少なかったのが一番の幸運と言えたのかもしれない。何故なら、
「はぁ‥熱い‥」
「なっ!?」
 丁度距離はあるものの、お互いを正面に臨む形で座っていた黒川とリトマイネン。リトマイネンにとっては祖国フィンランドの名物ということで負けるわけにいかないらしく、開始10分、そろそろ参加者の体力も減り始める時期を見計らって黒川にとある『攻撃』を仕掛けていた。
「くっ、それは反則だろ」
 思わず、顔を真っ赤にしながら伏せる黒川だったのだが、どうしてもチラッとそこへ視線が向いてしまう。その視線の先にあったのは、リトマイネンがタオルで隠した胸元からチラリと覗く谷間――魔の2つ丘。
「確かに、最近は騒がしいものだ、な。聞いているのか、黒川」
 今回は奥の部屋で、むさ苦しいながらも男だけで大人の時間を作ろうとしていたUNKNOWN達。しかし、鬼非鬼が様子のおかしい黒川に気づくも後の祭りで、その場でプスプスと黒川はショートする。
「おい、大丈夫か‥‥って、熱!?」
 思わず倒れる黒川を支えようとした鬼非鬼の手には、アルコールと熱気で上昇しているはずの彼の体温をはるかに上回る熱が感じられた。
 黒川、アウト!
「はっ、だらしねぇなぇ」
 熱と色気で完全にヤられて退出する黒川の姿を見て、脱落者が出たことにこっそり七海は喜ぶ。少年ながらも悪態が目につく彼だが、ドッシリ座って構える彼は賞金を狙う気満々である。一人目の脱落者が出ると同時に、徐々に雑談の会話も聞こえなくなるサウナ内。すると
「?」
 スクッとオリガが目を瞑ったまま立ち上がったかと思うと、表情を変えずスタスタとサウナ室から出ていく彼女。ドアを開けた時に入って来る外の涼しい風を一身に受けながら、彼女が向かった先は――
「やはり、熱いのは苦手ですね」
 そう言いながら、水風呂で熱った体を冷やすのであった。
 オリガの脱落に続き、リリィ・スノーも手で顔を仰ぎながらサウナ室のドアに手をかける。後に彼女はちょっぴり嬉しい‥‥かもしれない事に遭遇するのだが、そんなことを知る由もなくひたすらオリガの浸かっている水風呂へとイン。
(「賞金は欲しい‥だが‥」)
 開始25分。さすがに能力者に合わせて通常より温度の上げられたサウナでは、既に全員顔色が優れない様子。勿論それは御薙にも言えることであって、そろそろ自分の限界を悟った彼女は
「では諸君、引き続き頑張ってくれたまえ」
 そうきっぱり告げると、流れる汗で道しるべを作りながら退場するのであった。
 そろそろ限界か? 全員がそう自分に問いかけていそうなムードの中、外からコッソリ室内を除く小悪魔は、自らが企てた計画をいよいよ実行しようと最終の準備に取りかかっていた。その企みとは‥‥
「!?」
「ジャジャーン」
 急に勢いよく開かれるサウナ室のドア。ぶわっと入って来る冷風に思わず顔を向けて安堵の表情を浮かべる能力者達だったのだが、あれ? どういうことか、入り口で立っている少年、拓人の両手には桶が握られているようだが‥‥
「最終関門! 地獄の灼熱スチーム大作戦! さあ、皆耐えてみせろー」
 ちょっと待ってぇぇえという制止も振り切って、サウナの熱源になっている大きな大きな焼け石にありったけの水をぶっかける拓人。だが
「うわっっ」
 巻きあがる水蒸気の熱さで、思わず後ろに拓人は飛び退いてしまう。無邪気な子供の悪戯とはこのことなのだろうか。無念にも、サウナ室の隅々にまで行き渡る水蒸気のせいで、生き残りの兵達も出口へまっしぐらだ。
「さ、酒が切れた」
「なんだね。もう終いか」
 正にカオスな空間の中、一番奥にいたことでその被害を最小限に抑えていたUNKNOWN達であったのだが、彼の隣に座っていた鬼非鬼は、熱さではなくアルコール切れという敵の前に、敢え無く一斉退場の波に乗じしまう。無念。

 第一グループ、覇者:UNKNOWN

「ん、やっと俺達の出番か」
「良かったね、綺麗なお姉さんがいっぱいだよ〜」
「? 何言ってるんだ?」
 第一グループの試合が終了し、戦いで半分精神を持って逝かれ倒れている参加者を、矢神がタオルでパタパタと風を送り看病する横では、風花の挑発に女体など全く興味のないヴァレスが頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。
 異性に対しての感性が物凄くズレている彼だが、187センチという長身でこの童顔なんだから、今までその天然で知らずのうちに傷つけてしまった女性がいるような気もしないでもない。
 かくして、第2グループの戦いが始るわけだが、数分後、そのサウナはまるで如何わしい映像の撮影シーンの様に変貌する羽目となる‥‥

「熱い、熱いですぅ」
 開始10分後、『ソイツ』は動いた。胸に当てたニップレスを、最早紐にしか見えない下着で支えた格好の、伊万里冬無というダーク冥土が‥‥
「ちょっ、伊万里、あなた汗すごいですわよ」
「あははは〜」
 競争開始前にこれでもかと水をがぶ飲みしていた伊万里は、虚ろな瞳で体中を汗で濡らしながら麗華の肩へグテ〜ともたれかかる。
 全身ツユダクになりながらも、「麗華さん‥」と呟く伊万里に、思わず彼女の体調が心配になり、抱いてサウナから出ようとした麗華。
 だったのだが――
「隙ありです♪」
「ぇ」
 まるでこの瞬間を待っていたかのように、『最小限、かつ一瞬』の手捌きで麗華のロープを伊万里は剥ぎ取る。数秒間停止する思考、その後、咄嗟に腕をクロスして胸を隠そうとする麗華だが、生憎ロープの下に何も来ていなかったおかげで全てを隠しきれないという惨劇っぷり。
(「やってくれましたわね‥‥! ですが、これでギブアップするのは私のプライドが許しませんわ! こうなったら意地でも勝つんですわ‥‥」)
 隣で笑っている伊万里から咄嗟にロープを取り返すが、ここで着直すとそこが一瞬丸見えになってしまうため、そのままロープを簡易的に巻きつけ麗華は耐える。
 妙なプライドが働いて、一層闘志を燃やしその場に座り続ける彼女だが、周囲から見ればどう見ても何かのプレイです、本当に。
 一方、更にこちらでは、
「くんくん‥‥あはっ♪ レイさんの匂い♪」
 伊万里に負けず劣らずと、周囲にその色香を緋音が爆散させていた。彼女の横では、恋人のレイアーティが涼しげな顔でそんな緋音の頭を撫でている‥‥のだが、汗ダラダラで既に限界寸前なのはバレバレだったり。
 実は、作戦の一環として、緋音とイチャイチャして周囲の温度を上昇させようと企んでいた彼だったのだが、結局自分達が一番アツくなってしまい‥‥
「‥‥私、もうダメぇ‥‥」
 最後は恋人自らが自分にもたれかかり、トドメの一撃。体と心の体温が急激した彼達は、2人仲良く退場していくのであった。羨ましいぜ、こんにゃろー!
 とは言え、さすがにこれらのシーンの影響で、気づけば熱さに絶対の自信を持っていた翠でさえ退場していく始末。そう、普段から夏の炎天下における戦闘依頼でも重装備で臨む彼でさえも。
 こうして、健全な少年少女には刺激が強すぎる空間になり果ててしまったサウナ室だが、熱さと興奮で耐えきれなくなった参加者達の姿が消えていき、
「さぁ、そろそろ限界ではありませんの?」
「あはははっ♪ 忘れたのですか? 私はこれでもドMなのですよ?」
 いよいよ最後に残りしは伊万里と麗華。そして、端っこで体育座りしているのは‥‥
「それにしても、ヴァサーゴも中々やりますわね」
「さすがですね♪」
 そう、一人ジーっと隅っこで項垂れているヴァサーゴであった。
 それじゃ、ヴァサーゴさんも脱がしちゃいましょう、と相変わらず懲りない伊万里がその毒牙を向けた時、とある異変に彼女は気づく。
「熱くてヴァサーゴを庇う気力も出ませんわ‥‥ん? 伊万里、どうしましたの? って、伊万里!?」
 気づくと、ヴァサーゴを抱えて突如と無言のままサウナ室から伊万里が駆けだしていく。その光景をポツンと見つつ、訳の分らない麗華であったが、伊万里が抱えていたのは、あまり動かないのが災いし、そのまま体育座りで気絶してしまった少女であった――
 黒い心の持ち主と言っても、実は意外な一面も持っている‥‥のかもしれない。
 
 第2グループ、覇者:大島居・麗華


●エピソード2:自由時間での一幕〜覗き編〜

 覗き、何と甘美なる響き。覗き、何という罪悪の塊。
 覗き、これは、ロマンという夢を追った男達の壮大な実話である――

「煩悩力者‥‥今こそこの力を発揮する時」
 そこにいたのは、長身に鋭く光る赤い瞳の持ち主、正に美男子という言葉を具現化したような存在、紅月であった。
「ふっ。それじゃ、逝くとするか」
 炎の煩悩力者を背負う彼が、今足を踏み出す先、そこにあるは男のロマン地帯、女湯の露天風呂! 
 そう、今まさに彼は、未知との遭遇に出くわそうとしていt‥‥
「あっ、いたぜ、拓人!」
「げっ、ヴァレス、どうしてここに‥‥って、うぉ!?」
 臨戦態勢に入り、女湯を眼前に捉えた刹那、まるで自分を探していたかのようなリアクションでこちらを指さすヴァレスに遭遇した紅月は、気づくと後方から迫ってきた拓人の手によって体に縄をかけられているではないか。
「え、ちょ、マテ。これは一体、つーかまだ覗いてn」
「やっぱ覗くつもりだったんかよ。ということで、お仕置きな」
 ニコッと紅月を見て無邪気に笑うヴァレス。ああ、虚しきかな。ここに、覗きという囁きに随った勇者が1人、少年達の手によって吊るし上げの刑に処された。しかも、縛りあげられた場所、冬の屋上です。

「む、これはカメラ!?」
 紅月が捕まっても、安心できない覗きバスターズ。その長を務める守原は、どうやら混浴場に配置されたグリーンゾーンに、カメラを発見したらしい。すると、
「ちょっとお姉さんに貸してー。これをこおして、よしっ、これでオーケー」
 後ろからやって来た赤崎の手によって、何やら改造されるカメラ。
「何をしたんですか?」
 尋ねる守腹に、赤崎はニコッと笑ってとあるパッケージを見せ呟いた。
「この映像にすり替えといた」
 その手にあったもの、それは――「ムキッ☆ 男だらけの褌大会」

「感じる‥‥どうやら、誰かヘマをしたようですね」
 一方、こちらは何と自らを隠すどころか、女装し女性になり切り堂々と女湯へと向かっていた翠の姿が。何か同類(主に紅月)から発する電波を受信しつつも、自分は失敗しないと意気込みつつ湯船までやって来る彼。
「場所は風呂の隅よりやや真ん中寄り、目立つようで目立たない場所。うん、ココにしよう」
 常習犯ですか? と突っ込みたくなるほど華麗な手口で、見事に絶好のポジションを位置取った翠は、そのまま3分だけ居座ると、すぐに新たな場所へと移動し出す。
 完璧、正にこの2文字を肩に堂々と進む彼であったのだが、
「それで‥‥何やってんの、アンタ」
「あら、御機嫌よう」
「御機嫌ようじゃないでしょ」
 おかしい!? 何故だ!? 完璧ともいえる変装をしたはずなのに、いつの間にか目の前では赤崎が鉄パイプを片手に微笑んでいるではないか!?
「な、なぜ‥‥」
「とりあえず、今度から覗くときは知り合いがいない場所ですることだね。その身長じゃ、目立ち過ぎるよ」
 身長? ‥‥ふと周りを見渡す翠。そこでは、190センチという明らかに浮きすぎた体型の自分がいた‥‥
「‥‥撤退」
「あっ、まて!」
 捕まるわけにはいかないと駆けだした翠を阻んだのは、赤崎によって計画的に撒かれていたシャンプーのトラップ。ズコォーっとずっこけた翠の横には、気づけば笑顔の風花が。
「あ、そこは! ダメ!」
 これでもかと言うほど、男の人の大事なところを風花に蹴られコテンパンにされた翠は、そのあとシュブニグラスに手錠をかけられ、守原や美環達の元へと連行される。
「お姉ちゃんが言うとった。平穏は宝物、此の世で最も罪深いのはその宝物を傷つける者だ!」
「破廉恥なものには人誅を!」
「ま、待っ、アッー」
 そして、大罪を犯した彼には、能力者仕様に全てがパワーアップされたありとあらゆる粛清が行われるのであった。
(「覗かれたら、もちろん恥ずかしいですけど‥‥ちょっと嬉しいような」)
 しかし、翠がボコボコにされているそんな時、自分の幼い体にコンプレックスを感じるリリィが、逆に覗かれたことに秘かな喜びを覚えていたことは誰も知らない。

「あら、ご主人様ケガは大丈夫ですか? 牛乳でも飲んで、傷を癒してくださいね♪」
「何でメイド姿なのかはこの際聞かないとして、いただきます」
 覗きバスターズの粛清を受け、体中を傷やタンコブで被ってしまった翠は、悲しそうにメイド姿のアッシュから牛乳を恵んでもらっていた。だが
「どうせなら、フルーツ牛乳にしちゃいましょうか♪ えい♪」
 椅子に座った頭上で、レモンをギュっと絞り飛沫を飛ばすアッシュ。これは、女性陣を大切に思うからこそのアッシュなりの断罪だったのだが、翠曰く、レモンの酸味が何時にも増して傷に沁みた一日であったと言う。
 ちなみに、そんな光景を見ていた矢神は、まるで翠さんがボロ雑巾のようでした、と、10歳らしい感性で彼を評価していたらしい。

 かくして、翠はともかく、覗きゾーンに足を踏み入れることさえ叶わなかった紅月など、さすがにガードが堅いココ温泉ランドの女湯であったのだが、実は、意外な盲点の刺客がいたことをあなたはご存じだろうか。その子の名は‥‥
「ドキドキ・ワクワクを体験するのだ。覗きをするんだ!」
 青海 流真、20‥歳? とりあえず外見年齢は置いておくとして、あくまで『ワクワクを体験したいから』という理由で覗きに参戦していた彼。しかし、元々小柄な体と線の細かい容姿も相まって、完全に周囲から女性としか思われていなかった。
 世の諸君、男だってかわいければ、股間を隠しさえすれば何とかなるものなんだぞ☆
「覗きくらい、放置しておいてもいいでしょうに。健康な青少年であれば気になるものでしょうし、かわいいものだと思いますわ」
 入浴タイムを終え、翠が連れ去られるシーンを見ていたエリザはポロリと告げる。世の女性が全て彼女のようでなかったこと、それがきっと紅月達にとっての最大の不幸であったのだろう。
 しかし、忘れてはならない。今回覗きに参戦した者たちは皆、女湯という魔性のゾーンに踊らされた犠牲者だということを。

●エピソード3:ボーリング・卓球勝負

 ガコン、ガコンとピンをはじく音が辺りに響くボーリングスペース。合計20レーンものレーン数を誇るその空間は、とても温泉のオマケで作られたとは言えない光景であった。
「ボーリングは学生時代にやったきりですのでぇ、うまくできるでしょうかぁ? まぁ、何とかなるでしょうねぇ」
 ボーリング場、休憩用に設けられた椅子に座り、のほほんと甘いモノでエネルギーを補給している門鞍将司。
「‥‥ボーリングはあまりやったことないけど‥‥とりあえず、楽しみましょう」 
「とりあえず、スコアは気にせず楽しもうか」
 いよいよゲームスタートということで、自分に合うボールを2人仲良く選定するジェイとアリカ。その後ろでは、番朝が他の人のフォームを見て、見よう見真似で一生懸命コツをつかもうと努力していた。
 ――バコン
「パワーよりもコントロール!」
 番朝と同じレーンで投げるヴハインは、出だし順調に見事なストライク。おぉーと感心する番朝だが、ハインという実力者と同じレーンになったことが幸いして、最終的には彼もかなり上達するのであった。一方、
「おかしいですねぇ」
 悲しきかな、ブランクのせいか経験者の門鞍は、ガーターの連続記録を更新中。それでもマイペースなところが、彼の良いところでもあったんだけどね。
「お見事」
「‥‥案外、上手くいくものね」
 そしてこちらでは、アリカが持ち前の運動神経を発揮し、徐々にストライクを連発するようになっていた。
 その横では、豪快な力強い投球で、穂摘が次々とピンを蹴散らしていく。こうして時間は過ぎていき――
 ボーリング勝負を終えた時点での、成績上位者:紅アリカ、穂摘・来駆

「はっはっは、燃えるぜ。中学のとき、卓球部の幽霊部員だった俺の実力見せてあげるよ」
 幽霊部員だという点はさておき、ラケットを握る手にも力を入れ、やる気満々なのは鳥飼。彼は、白塗りを贅沢に顔にまぶし、一見女性かのように見える顔立ちなのだが、立派な男である。しかも、顔に似合わず非常に精悍な肉体は、脱いだらスゴイの一言。
 とは言え、今の舞台は卓球台が立ち並ぶ卓球スペースである。浴衣をビシッと着こなし、意気揚々と対戦表を確認する鳥飼を見て、
「熱いですね‥まあ、そのおかげで‥付け入る隙もできるかもしれませんが‥」
 こう呟くは落ち着いた様子の神無月紫翠。
「ほら、差し入れよ、紫翠」
「静姉さん‥ありがとうございます」
 彼の後ろから、チャイナドレスが非常に美しい女性、神静がドリンクを神無月に差し出す。顔が似ていると言われれば気づくかもしれないが、神無月と神森はいとことのことだ。
「それが終わったら温泉にでも行きましょうよ♪ 夕食は何か、奢りなさいよ?」
「奢りませんよ? 静姉さんの方が‥稼いでいる‥じゃないですか」
「冗談よ♪ どの道、私は闇鍋に参加するつもりだしね」
 神無月の返答に、ニコッと微笑みつつ言葉を返す神森。さり気ない仕草の一つ一つが美しい彼女だが、その意外な一面は後の闇鍋で語るとしよう。
「試合‥始りますね‥いってきます」
「うん、いってらっしゃい」
 バイバイと送り出す神森を背に、卓球台に神無月が向かう。卓球大会、開始――

「ほらほら、これはどうする!?」
「まだまだぁ!」
 カットマンスタイルで、完全に受けに回りつつピンポンの回転を華麗に操る鳥飼とは逆に、勢いで穂摘はガンガン攻めまくる。相手の反応を楽しむ余裕を見せる鳥飼はさすがと言ったところだが、穂摘も負けてはいない。
 ちなみにこの2人の試合、2人とも筋肉の格好良い男性同士のバトルということで、何故か燃えまくったミーナがカメラをパシャパシャしていたのは内緒です。
「夕貴ちゃん、化粧崩れたら直してあげるから安心して頑張れ〜」
 経験者といえども、手ごわい強敵に苦戦する鳥飼を応援するジュブニグラスの声にも熱が入る。
 一方、そんな熱戦が繰り広げられるその横では、
「もらいました!」
 シェイクハンドの回転系表ソフトラバーというラケットを指定までしていたハインが、完全に相手を手玉に取っていた。と、思いきや
「残念、この落下をまっとった!」
 引きつけつつ強烈なドライブで守原も負けじと打ち返してくる。デュースまでもつれ込む激戦の末、何とか守原に勝利したハインは、終始上位ポジションをキープし――

 ボーリング・卓球大会、総合成績優秀者:ハイン・ヴィーグリーズ、紅アリカ

●エピソード4:自由時間での一幕〜まったり編〜

「日本酒、やはり温泉ではこれに限りますね」
 寒空の下、モクモクと湯気が醸し出すスクリーンに写る1つの影。それは、日本酒を片手に幸せそうな顔をしてぐんにゃりしているオリガであった。
「さて、と。次は、あっちに行ってみますか」
 ザパーンと湯船から出たオリガは特に胸などを隠す様子もなく、タオルでお酒を包みながら移動を始める。
「惰性に塗れた休暇‥‥これが、一番の至福な時間ですね」
 そんなことを言いながら酒を片手に温泉巡り。確かに、惰性に塗れたという言い方は正しいのかもしれないが、傭兵として戦う日々の傍ら、そういった時間に身を捧げることは、ある意味彼女を再び戦場の地へと向かわせる動力源となっていたのかもしれない。 
 人としての生きがいを求めて‥‥オリガが見上げる空は、既に日も暮れかけ、後に完全な月夜へと姿を変えるだろう。そして、そんな空が天井から覗くロマンチックなスペース、大混浴場ではジェイとアリカが卓球後の汗を流していた。
「さて、そろそろ行こうか」
「‥‥ええ」
 何やら談笑を終え、温泉から出た彼らが向かった先は、ジャズの音楽が流れるロマンチックなビリヤードコーナー――

「‥‥ちょっと、くっつきすぎよ」
「仕方ないだろ、まずは形から入らないと」
 ビリヤード初心者というアリカに、手取り足取りキューの構え方からルール、ちょっとしたコツまで教えるジェイ。
 ただ、手取り足とり教えすぎるため、体が密着して‥‥
「‥‥」
 顔を赤らめるアリカ。良く見ると、台に体が押しつけられ、胸が苦しそうだ。
 薄暗い空間の中、大人の時間を過ごす彼らだったのだが、その部屋の隣では
「サウナ大会、お疲れ様。ところで、最近いい人できた? 私はまだなの‥どこに居るのかなぁ〜運命の人‥‥なんてね」
 ナレインと黒川が2人バーテンダーを前に、お酒を一杯してお楽しみ中のご様子。
「はは、そういった悩みを持てる‥‥若い連中は良いな‥‥俺はそんな時期は拳闘に捧げただけに。後悔はしてないがな」
 ハイボールを見つめ、どこか物思いにふけるような目で呟く黒川。
「あなたはステキだし、年齢なんて関係ないわよ。それに、まだ十分若いって」
 ニッコリ笑いつつ言葉をナレインは返す。こういう風に、恋話に花を咲かせる彼らではあったのだが、ナレインが着ているのは女性モノのチャイナ服ということで、傍から見れば「どう見てもあなた達がカップルでしょ」、と突っ込みたいバーテンダーなのでしたとさ。

●エピソード5:闇鍋

「ほら、餡子をとあんぱんだよ。隅々までいきわたる様かき回しとかないとね‥‥フフ‥‥」
「私はそこで採取したキノコと草を持ってきました」 
 次々と甘い個体を投入する伊流奈の横で、グツグツと煮えたぎる巨大なべに特に表情を変えることなくそこら片で拾ったというキノコと草を入れるオリガ。さすがにキノコはマズくないですか、というか酔ってませんか? と思わず突っ込みたくなるが、酒豪の彼女が温泉で日本酒を呑んだくらいで酔うはずはない。むしろ、本番はこれからということで、横ではスブロフのビンが光まくっている。
「物凄い量ね。誰が生き残れるのかしら?」
 そう言って神森は静かに笑うが、見た目に反して大食いの彼女は、結構自信が伺える気も。
 全員の持参した食材も投入が終わり、最終イベント、デス闇鍋がスタートした。

「アイタタ、あまりに味がひどいから傷が開いちゃったよ」
 ぐったりとした顔つきで、腹部を痛そうに抑える赤崎。そんな彼女を見て、隣の雨衣は気づかい心配そうな目で赤崎を覗く。のだが
「と、いうことでイスル君、お願い、あたしのも食べて‥‥」
「‥え」
 普段使わない口調で、ウルウルとイスルの方を見つめる赤崎だが、急に振られたイスルは返答に困ってしまう。
「でも‥僕」
「え、食べたい? 分ったよ、はい、あーん」
「ぇぇぇえ」
 気づけば、口をぎゅっと持たれ、赤崎に何か変な生き物の足っぽいものを口にねじ込まされるイスル。
「‥‥う〜‥むきゅー‥‥」
「あ、倒れた」
 甘いものなら大抵大丈夫なイスルなのだが、この今まで味わったことのない、意識を根底から剥奪される味に多大なるダメージを受けてしまい、そのまま地へとダイブ。
 その様子を見た赤崎は、ちょっとやりすぎたなぁと思いつつも、こっそりその足の様なものを別の参加者の前へと流すのであった。
「おっ、ガンモか。随分とまともなのが」
 正体不明の物質が行き交う中、ガンモをゲットして喜ぶレイアーティ。が
「え、何で、レイさん、レイさん!?」
 ガンモを口にした途端、突如として白目をむけ悲惨な姿へと愛しの彼は変わりはててしまう。
「ただのガンモなのに‥‥」
 そう言って、恋人の緋音もガンモを口にするのだが
「!? レイさん‥‥私も‥‥今、貴方のもとに‥‥ガクッ」
 悲しいことに、レイアーティに抱かれるようにして地にひれ伏した緋音。それを見て、
「ガンモは良く『出汁』を吸うからね‥‥」
 青海が静かに微笑むのであった。
「うん、今のリアクション最高☆」
 そんなカオス空間の中、一人戦線離脱気味で楽しむのは大泰司である。何といっても彼、一番の楽しみは嫌がる女子の反応観察という素晴らしさっぷり。
 そして、徐々に時は過ぎ――
「屍累々ね? さすがに、私もここで止めておくわ」
 結局、最後まで立っていたのは神森と赤崎の2人だけ。ただ、倒れるという最後ではなく、その美しい姿のまま神森は引き下がったため‥‥
 闇鍋、優勝者:赤崎羽矢子

 ちなみに、赤崎の優勝者インタビューでは、
「重症だし、皆手加減してくれたんだね〜」
 と、力技に出たことは一切発言しなかったようです。さすがだね!

●宴会、そして朝は巡る――

「先ずはこのツアーに当選できた幸運に、そして素晴らしい休日を約束してくれたこの温泉ランドに乾杯!」
「カンパーイ」
 鬼非鬼の音頭ともに、一斉に空に上がるグラス。それからは、それぞれのお楽しみ、歌って騒いでの宴会だ。自分の兵舎地酒を皆に御酌して回る鬼非鬼や、
「おひとつ、いかがですか?」
 相変わらず妙にメイド姿が似合うアッシュも忙しそうに働いている。
「これ、ばっちゃんの酒、差し入れだ」
 更に、二パッと可愛らしい笑顔で酒の追加を持ってきてくれる番朝のおかげで、参加者のテンションもピークに達していく。
「んぁ、カラオケぇ?」
 一方、こちらではマイクを振られた七海があからさまに嫌そうな顔で悪態をつくが、周りの勢いにのまれ結局ステージに上がる羽目に。
「ちっ、仕方ねぇなぁ」
 そう言いながらも、バックミュージックが流れ出した瞬間、急に静まり返る場内。
「え、演歌?」
 そうなのだ。明らかに彼に似合わない曲をバックに歌い出す七海。しかも上手い。すると
「あ、これは演歌ですね!」
 バッと目を輝かせて前に乗り出した明星が、そのままステージに上がると太極拳を披露する。
 演歌と太極拳、何だかんだで息のピッタリ合ってステージに巻き起こる拍手。
「俺も負けてられないね」
 そう言った伊流奈は、相棒のギターを持って2曲目を歌い、弾くべくステージへ向かうのであった。
 こうして夜は過ぎ――

 ――ホテル
「グラスちゃん、あなたといっしょにいると安心する‥‥これからもいっしょに」
 美しい夜景が眩いスイートルーム、そこではナレインとシュブニグラスが2人ベットに並んでいた。
 シュブニグラスがベットに座り、ナレインは疲れたのかシュブニグラスの方に顔を向けてはいるものの、既に瞼はウツラウツラとしている。
「勿論よ♪ それにしても、天蓋付きのベットなんて、ロマンチックね」
 そう言ってフッとナレインの方を振り返るシュブニグラスであったのだが、
「‥‥ふふ、おやすみなさい」
 そう言って、既に眠りに落ちてしまったナレインの髪を優しく撫でるのであった。

 一方、こちら、赤崎や風花達の部屋では
「楽しかったねー♪ もっとお話したいけど‥‥眠た‥‥」
 こちらも今日一日中遊んだ反動で、大好きな赤崎を前にしても抱きつく余力を残せていない風花。
 せめて、おやすみの一言を言ってから、そう思い最後の気力をふり絞って彼女が口を開けた時
「!?」
 自分の頬に優しく口づけする赤崎。
「羽矢子ちゃ‥」
「ゆっくり眠りなさいよ、明日は早いんだから」
「う‥‥ん」
 頬に暖かい感触を覚えた少女は、そのまま赤崎の横でグッスリと眠りにつく。刹那的とはいえ、とびきり熱いやつだ。そんなことを思いながら、風花の寝顔を見つめ何故か自分の顔も赤くなった赤崎は、
「‥‥さ、あたしも寝るかー」
 そう言って、パタンとペットに倒れこむのであった。

「あははははっ♪ どうしましたですか、麗華さん。ささ、早くこっちにです〜」
「い、嫌ですわ!! 大体、何故この部屋ベットが2つだけなんですの! わたくしはヴァサーゴと寝ますわ!」
「え〜。夜はまだ始ったばっかりですよ?」
 既にぐっすりとベットでお休み中のヴァサーゴを起こさないように、静かな声ながらも心に力を入れて叫ぶ麗華。しかし、伊万里はどうしても麗華と寝たいとおねだり中。
「仕方ないですね! じゃあ私は一人で寝ますです!」
 遂に諦めたのか、そう言ってプンとフトンに潜り込む伊万里を見て、安心した麗華はヴァサーゴの眠るベットに横たわる。のであったが‥‥
 翌朝、何故かそのベットには3人目として伊万里が入り込んで寝ていたのは、また別のお話ということで。

「楽しかったね〜」
 こうして、最後にそれぞれ別れの挨拶を済ませ帰路につく能力者達。彼らが背中に臨む温泉ランドは、これからも人々に夢と希望を与える存在として佇み続けるのであろう。
 ああ、温泉ランドは今日も笑顔で手を招く。君達の笑顔を見たいがために――


「ぐがー‥‥‥‥んん、アレ、ここどこだ‥‥」
「ママ―、変なお兄さんがいるよー」
「しっ、見ちゃいけません!」
 ただ、宴会の後、温泉に酒を持って忍び込んだ鬼非鬼が、翌日、混浴場で露わな格好となり見つかったのは内緒だよ。

 〜〜See you again