タイトル:【Hw奪還】累の空マスター:羽月 渚

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/13 05:43

●オープニング本文


 ――カナダはオタワにあるUPC北中央軍の戦艦ドック
 そこには完成したばかりのユニヴァースナイト弐番艦が船体を横たえ、出航の時を待っていた。
 船体は壱番艦と同じ、白地に赤のラインが入ったカラーリング。しかし、壱番艦と異なるのは、特に目を引く艦首に付けられた対艦対ドリルだろう。その上には主砲の対衛星砲SoLCが燦然と輝き、艦橋の前後に三連装衝撃砲が搭載され、取り囲むように連装パルスレーザー砲が設置されている。
 また、艦底部には艦載機を発射させる遠心カタパルトが2基備えられていた。
「いよいよですな」
「ああ。これで我が軍もバグアに後れを取る事はなくなる。奪われた地を取り返す事も出来る」
 弐番艦を感慨深く見つめる2つの人影。1つはUPC北中央軍を指揮するヴェレッタ・オリム(gz0162)中将。もう1つはこの弐番艦の艦長覇道平八郎中佐だ。
「欧州軍がグラナダ攻略に動いてくれたお陰で、東海岸側のバグアの主力部隊も今は迂闊に軍を動かせまい。西海岸の都市を奪還する好機だ」
 オリム中将は壁に備え付けられたモニターを操作し、北米の地図を呼び出す。西海岸の南に、作戦の目標値が赤く点滅していた。
「ハリウッドですか」
「正確にはロサンゼルスだが、ハリウッドと言っても過言ではない。ハリウッドを取り戻す事が、本作戦の最優先事項だからだ」
 ロサンゼルスはまだ完全なバグアの支配地域ではないが、市街地にバグアの侵入を許してしまっている競合地域故に、ハリウッドで映画が制作できない状況にあった。
 アメリカ人にとって映画はアイデンティティの1つであり、北アメリカの「歴史」なのだ。
 ハリウッドを取り戻す事で、北アメリカ人の士気を大いに高める事が出来る。それは消耗品でしかない一般兵の補給に直結していると言えた。
 もちろん、それだけではない。北アメリカを南北に貫くロッキー山脈の存在だ。バグアといえども一部の機体を除き、ロッキー山脈を越える軍の展開は鈍るだろう。東海岸側のバグアの目がグラナダに向けられている今なら、西海岸側のバグアとメキシコのバグア軍を相手にするだけで済む。

 斯くして、オリム中将の指揮の下、ロサンゼルスならぬハリウッド奪還作戦が開始される事となった。


 ――ロサンゼルス市街
「このタイミングとは‥‥どうやら、優秀な指揮官がいるようね」
 そこには、空に散開されたHWの群れを見据えながら佇む女性が1人、風に髪を靡かせている。その風貌は、先の大規模な交戦後、北米にやってきたというエミタ・スチムソンに良く似ていた。彼女は、人類側の軍が自分を狙い動き出したとの情報を受け、迎撃の態勢へと移行していた。最も、上記したように、現状東海岸側のバグアの目はグラナダに向けられており、周囲の土地的条件から考えても現時点での状態がバグア側にとって有利とは言い難い。
 作戦の展開に思案する女性。その時、ふと後ろから幼い少女の声が聞こえてくる。
「あらあら。結構ヤバい感じですかー?」
「エヴァか‥‥そんなところで油を売っている暇があるのなら、自前のキメラを戦線に配置でもしておきなさい」
 赤い髪と赤い瞳、そして黒い服がその白い肌を一層際立たせる、エヴァと呼ばれた少女に命令する彼女。
「でもでもー、陸戦用のキメラは今回手持無沙汰なんですよ〜。ゲヘナも、前の戦いで壊れちゃったし」
 そんな女性の言葉に、やれやれといった手振りでエヴァは顔を顰める。
「ゲヘナ? あぁ、いつかのキメラ製造基地で、あなたをKVの射撃から庇ったキメラのことね」
「そうです♪ まだ修理中だし、今回は使えないなー、アイツ。ということで、あたしは今回は役立たずさんってことかしら?」
 バグア内において、自分より地位が上の存在への服従はほぼ絶対だ。それにも関らず、どこか呆気に振舞うエヴァからは、外見以上に精神年齢が幼いようにも見て取れる。
「分かったわ、現段階でこちらの戦力は不十分。エヴァ、あなたはジャック・スナイプのFRでサンディエゴの防衛ラインへと向かいなさい」
「‥‥‥‥そこで人類側のKV含む戦力を排他してきなさい、と?」
「察しがいいわね。その通りよ」
「‥‥」
 冷たい目線で彼女は少女を見据える。そして、それ以上の会話はなく、エヴァは故ジャック・スナイプの残したファームライドが置かれる場所へと静かに足を踏み出すのであった。

 本来、自分が受け持つ最大の役割はキメラ作成であり、わざわざ機体を使用し最前線に戦いへ赴くことなどではないはずだ。だが、今まで想定を超えた傭兵達の戦闘能力の前に、実験が足踏みしてきたばかりか、挙句最近ではキメラ製造基地をUPCに爆撃されるという失態まで犯してしまっていた彼女。言うまでもなく、今のエヴァは女性からの命令に背くことなどは不可能。
 つまり、これからもキメラの実験を続けていくためには、何としてでもここで汚名を返上しなくては――

「ふーん、これが噂のFR、赤い悪魔か。面倒くさいこと押しつけてくれたけど、これはこれであたしにぴったりの機体かもね」
 そして、微笑む少女の凶刃は、静かに人類側の喉笛へと向けられるのであった。

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

「ハリウッドね。映画好きの私としちゃ、何としても取り返したいか‥‥」
 赤く美しい装甲が目を引く機体の中では、美しい青い空をその瞳に映しながら、聖・真琴(ga1622)が静かに前方へと眼差しを向けていた。彼女の機体と並行し空を往くは、シャープな聖の機体とは打って変わり重厚な装甲にその身を包んで機体、雷電を操縦する柿原ミズキ(ga9347)である。
「ったく、ボクらしくもない。なに弱気になってるんだろう。これでも小隊長なのに‥‥」
 自身が所属する小隊では小隊長としてその力を揮ってきた柿原。しかし、やはり息苦しいコクピットの中では、正体のわからない敵への緊張や恐怖が先行してしまう。
『Hw奪還のためにも、まずは南からのバグア軍を止めないと! サンディエゴ防衛、張り切っていきましょうね♪』
 一方、そんな柿原と比べて、こちらでは並木仁菜(ga6685)が元気よく時期に始まる戦闘を前にして意気込んでいた。傭兵と言えど、並木を見て分る様に、全体的に平均の年齢としては若い能力者達も多い。本来であれば学校に通っている年頃であろう彼女達。しかし、絶対的に能力者の数だ足りない以上、年齢に関わらず人類側にとって能力者は貴重な戦力となっているのだ。
 だが、そんな者達へもバグアの無慈悲な刃は向けられる。Hw奪還における今日の戦い。それは、この悲惨な現状を少しでも打破しに向かえるかどうかの、正に分岐点と言えるものであった。
 そして、そのバグアに大切な家族――妹を奪われた麻宮 光(ga9696)は、想い出のペンダントを見つめて重い声で呟く。
「考えてもしょうがないことだけどな‥‥敵でも、救えるなら救ってやりたいと思うのは俺の甘さだろうか」
 望むは争いのない日々。敵味方関係ない。誰もが傷つかずに済むならそれが一番だ。自分が傷つく事よりも、相手が傷つく事を最も嫌う麻宮にとっては、傭兵業は非常に辛いものであろう。しかし、彼は大切な妹のためにも負けるわけにはいかなかった。彼が望む世界、それを実現するためには、矛盾しつつも争いが前提となってしまうのだから。
「そろそろか」
 こうして、目的地上空へと近づいた能力者達は、徐々にその視界にバグア勢力と人類側が引き起こす火花を見ることとなる。そして、目標空域へと一気に駆け抜ける8機のKV。今、サンディエゴの防衛ラインを舞台に、それぞれの想いを繋ぐための激戦が始った――

「想像以上にキメラの数は多いようだが‥‥問題はないか」
 自分達が担当する空域を見据え、冷静に周囲の状況を分析する八神零(ga7992)。どうやら真っ先に目につくのはキメラの群れのようだが、彼らのKV戦力を考えると、特筆するものでもない。
『まずは‥HWを優先して叩きましょう』
 8機のうち、真っ先に引き金が引かれたのは終夜・無月(ga3084)のミカガミだ。搭載された小型ミサイル250発が一斉に噴射され、彼が優先的に潰すと判断したHWの周囲へと襲いかかる。HW側から見れば、まだ自身の完全な射程範囲へとは入っていない段階。攻撃体制へと展開しよう、そう判断する暇さえなく、前方から接近してくる敵軍6機を視認した瞬間、気づけば多数のミサイルが目に飛び込んでくる。
 ブースト――速攻で横に抜けミサイルを回避しようとHWが翔た刹那
「まずは1機‥‥」
 静かに呟く八神。そして、終夜のミサイルをギリギリでかわしたHWは、盛大な爆発とともに表面が焼きつく。わずかな隙を縫いHWを蝕む八神のミサイル。そして
「雑魚に用はねぇ、消えな!」 
 覚醒し口調の変貌した聖が、終夜の攻撃とタイミングを合わせて発射したロケットランチャの追撃を奔らせる。数十秒の間に、満足な展開すらできず一斉放火を浴びたHWは、結局何も出来ぬまま地へと真っ逆さまへに墜ちていくのであった。

『さて、空の方はどうやら順調そうだね』
 一方、こちらはカララク(gb1394)と組み陸から周囲の状況を確認しつつキメラ排他へと回っていた赤崎羽矢子(gb2140)が、不意に上空から墜ちてくる1機のHWを見て満足そうに告げる。先の依頼で負った傷が完全に癒えていない状態での参加となってしまった2人であったが、上空で戦う6機の支援も兼ね、できる範囲内で積極的に自らの仕事をこなしていたのだ。
「すまない、皆。空は任せる‥‥」
 とは言え、やはり戦いたくても戦えない現状は辛いものである。自らの不手際でメンバーに迷惑をかけてしまったカララクは、苦そうな顔で静かにスカイスクレイパー、『シバシクル』に搭載された装置を操り
「‥‥電子戦開始。特殊電子波長装置、作動‥‥」
 機体の大きな特徴でもある特殊能力、特殊電子波長装置を作動する。
「このまま何事もなければ良いんだけどね」
 それを見た赤崎も、自らの機体、ウーフーに備えられた強化型ジャミング中和装置を起動し始めた。元々の規格が違うため、お互いの効果は重複し、2人を中心に強力な電磁の膜が張られる。その巨大な支援空間に突入した上空の6機は、激しい火花を散らしながら太陽の光にその機体を輝かせていた――

「甘ぇ‥‥逃がしゃしねぇよっ!」
 幾重にも張られる弾幕の波に身を苛まれるキメラの群れ。数こそ多かったものも、地上からの支援も受けた聖達にとっては正に文字通りの雑魚だ。
「真琴、そのまま前進して。後方の敵を攻撃する!」
 次々とキメラを蹴散らしていく聖をターゲットに据えたキメラ達が、翼をバサバサとはためかせながらディアブロに迫る。だが、そもそも移動スピードの点から言っても絶対的な差があり、結局はバディの柿原が聖の撃ち洩らしを順調に確殺していく。
 6機とはいえ、気づけば対象空域の戦況を完全に掌握していた彼女達。敵からの援護としてHWが3機姿を現すものの
『援軍ですね。終夜さん、敵の接近は私がカバーしますので、攻撃を』
『了解』
 青いフォルムを煌めかせ、味方機と連携しつつHW同士を終夜は裂く。まず初撃で敵の連携を分担し、確実に空間を制圧しながら最終的に並木と合わせての砲撃でHWを沈める彼ら。特に終夜のポテンシャルは圧巻であり、HWの攻撃が掠った程度では、決定打へ結びつかないようだ。
 そして、フォーメーションの最前線では、今参加者中、物理的攻撃では最高峰の能力を持つ八神機が、翼に装着された剣で敵機を完膚なきまで切り裂いていた。
 一点から次の点まで翔ると、その線上に結ばれる1つの閃撃。その線上にいたHWはまず左翼を失う。本来は扱いが難しい武器なのだが、八神の巧みな技術で完全に我がものとされたソードウィングの破壊力は絶大だ。こうして敵の行動を彼が完封したかと思うと、数秒後は麻宮の阿修羅がトドメを刺し――
「残りは2機か」
 最早キメラなどは眼中にもない状態の彼らは、麻宮と八神がHWの残り1機に突っ込み、次いで残り4機も一斉に銃口を対象へと向ける。
「ちっ、肩慣らしにもなりやしねぇ」
 無慈悲にHWを貫くエネルギーの集合体。その線の端では、聖が煙を上げ地に墜ちるHWを見下ろしていた。

「よし、次は残りのキメラを――」
 全HWの撃墜を確認後、柿原が静かに辺りを見渡す‥‥すると
『‥‥熱源反応? ‥‥まさか、柿原さん、後ろ!』
『え』
 突如通信機越しに柿原の耳に伝わる並木の声。その後、柿原の雷電が揺れ、突如としてコクピット内に衝撃が奔る。プチロフ社の技術が生み出したIRSTシステムを導入していた並木が真っ先に気づいた1つの熱源反応。そして、能力者達の前に現れたのは、あの紅い悪魔であった――
 
「へー、これスゴイ威力ね」
 体勢を傾ける柿原の雷電を見て、高らかに笑うFRの操縦者。その声は高くまだ幼いようにも聴こえる。
「あれは‥‥」
 我が目を疑う終夜。その目に光学迷彩を解き放ち映し出された機体、それは間違いなく彼の良く知る敵、ジャック・スナイプの忘れ形見であった。
「あのエンブレム!  山羊座は死んだはずでしょ!?」
 地上から突如として現れたFRをスコープ越しに見つめ、思わず赤崎は声を大にする。そう、彼女達の元へとやってきたこの1機は、間違いなく死亡の確認されたゾディアックが操っていた悪魔の機体。
「御機嫌よう、皆さん! 今日はあたしと遊びましょう!」
「くっ」
 咄嗟に機体を逸らしFRから発射された小型ミサイルを回避する聖、攻撃に転じようとするが
「また消えちゃえ」
 まるで相手を嘲笑うかのように光学迷彩でその身をFRは隠そうとする。しかし
『終夜さん、右です!』
「気づかれた!?」
 並木の声で有無を言わさず砲口の向きを直す終夜機を見て、慌てて方向を転換するFR。良く見ると、その機体には麻宮によって付着されたペイントの跡が。
「なーんだ、奇襲程度でしか使えないのね、コレ」
 それに気づいているのか気づいていないのか、光学迷彩の仕組みすら理解していないかのような言動で再び赤い機体を曝け出したFRは、ライフルを構え砲撃に移ろうとする。
『操縦者が誰か分らないですが‥‥空戦は厳しいかもしれませんね』
 いつ敵の増援が来るかわからない状況と、未だに完全に排他しきれていないキメラの様子を見て終夜は作戦の方針転換に悩む。すると
『ご自慢の玩具は今日は留守か?』
「?」
 ふと、八神がFRの操縦者に向けてと思われる言葉を発する。その言動に一旦鎮まる戦場であったが、その数秒後
『‥‥あの時の』
 滞空したまま、低く重い声でFRから返答が返ってくる。
『随分と縁があるものだな。僕達を始末したいなら付いて来い‥‥邪魔の入らない陸戦で今度こそケリをつけよう』
『奇遇ね‥‥あたしもアンタだけは殺しておくべきだと思ってたわ』
 以前このFRの操縦者と対面したことのある八神は、確実に自分達にとって有利となる地上戦へとFRを誘いこむ。そんな彼に目を向けるFRの操縦者は、外見の幼さからは想像もつかないほど憎しみを込めた視線で八神のディアブロを見やる。
「纏めて‥‥殺してあげる」
 そう呟くと、静かに高度を下げるFR。
「何だか厄介そうなのが来たね」
 その光景を見つめつつ、カララクと赤崎も次の戦場へと移動を開始するのであった。
 地へと降り立つ少女であったが、彼女が機体での戦闘経験がなかったこと‥‥これが、むざむざ地の利を犠牲にしてまで感情にその思考を流した最大の要因であったのだろう。そして
『俺が行く! 援護を頼む!』
 その形態上、最も力を発揮するのが陸戦と言われる麻宮の阿修羅が、全機着陸後真っ先に駆けだした。彼も、八神同様少女と過去に対面したことがあり、操縦桿を握る手にも力が入る。
『さぁ、来なさい、虫けらさん達!』
 こうしてサンディエゴの防衛ラインでは、能力者達と思わぬ刺客との戦いへ、局面は展開した――

「このっ」
 阿修羅に装着されたツインドリルがまずその矛先をFRに向けた刹那、避けるどころか自らの兵争で阿修羅の機体を抑えつけたかと思うと、FRはそのまま阿修羅を切断しようと体重をかける。だが
『ラフファイトは大好物だ! さぁ来いや!』
『悪いけど、これ以上好き勝手させるわけには行かないんだ』
 FRを挟み込むように、聖と柿原の連携が襲いかかる。それを視認した瞬間、そのまま後方へ移動し射撃体勢へと移行しようとする少女。だが
『‥‥これ以上、お前の遊びで人を殺させはしない』
「ちっ、邪魔くさいわね」
 退けばカララクの遠距離射撃に先手を打たれ、結局中々思うように動かしてもらえない。ならばと前方全方位に向けて弾幕を張り巡らすが
『戦い方が‥‥稚拙すぎますよ』
「やばっ」
 気づけば後方に回り込んでいた終夜の砲撃が機体を抉りにかかり、無休で全方位から次々と攻撃される状態に思わず焦る少女。しかし、徐々に操縦に慣れてきたのか、手数だけで決定力に欠ける能力者の攻撃に耐えたFRは
「まずはアンタから‥‥!」
 地を一蹴し、辺りに巻きあがる土煙。その後、赤崎の機体にFRは突っ込んでいた。慣れないと言えども、明らかに他機と挙動の違う機体――つまり、重傷を負った操縦者の機体に気づいた少女は、まずは敵の頭数を減らすべく確実に始末できる相手を潰す作戦に出たのだ。
『FRもあんたも残しておけば多くの命が失われる。だから刺し違えてでも墜としてみせる!』
『その声!?』
 不意に脳内によみがえる声、確かに少女に聞き覚えのあるその声とともに、彼女の赤い機体には一筋の亀裂が奔っていた。
 攻撃に転じたため防御が疎かになってしまい、赤崎の機体を再起不能にするだけの攻撃は与えられたものの、その際に負ってしまった傷。そして、ジャミング中和装置の起動がダウンした赤崎のウーフーに握られていたもの、それは一対のハイ・ディフェンダーであった。
『くっ、アンタもまたあたしの邪魔をするのね。ほら、トドメ刺してあげるわ!』
 甲高く叫びながら刃を動かないウーフーに向けるFR。その機体内では、気を失った赤崎がコクピットに項垂れていた。数秒後、時期に貫かれるであろうウーフーを救ったのは――
『どこ見てんだぁ!』
『くらえ!!』
 急に巨大な圧力に押され吹っ飛ばされたFRの横、そこにはそれぞれライトニングファングとツインドリルを携えた聖と麻宮の機体が。
『体勢を整える暇は与えませんよ!』
 地面を抉りながら衝撃に耐えたFRに、更に並木と柿原の追撃が畳み掛けられる。
「何よ、もうっ!」
 激しい攻撃を受けながらも、その装甲の前に何とかダメージを打ち消していたFRは2人の機体を兵争で引き裂くのだが、後方に展開していたカララクからの射撃を背に受けてしまう。その攻撃に意識が向かい、一瞬だけ出来てしまった隙――
『終わりです』
「!?」
 いつの間にかブーストで真横に接近していた終夜のミカガミに気づき、刃を向けるFRだが
「カハッ」
 今までに味わったことのない衝撃。突如として鳴り響く警告アーム。そして、電気の火花が散る装甲に突き刺さっていたのは――練剣「雪村」
『貴様ぁあ』
 声を荒げて上空に離陸したかと思うと、そのまま上空から一斉にミサイルの爆撃に少女は移る。しかし、その動きに合わせて既に離陸した八神は、ソードウィングで最後の詰めへと移ろうと既に展開済み。
『はっ、私が興味あるのはてめぇの死に様だけさ。さっさと消えな!』
 そして、聖はミサイルをかわし陸からレーザー砲の砲口を掲げる。撤退‥‥その2文字が頭に過った少女は、そのままブーストで飛び出した。
「逃がすか!」
 飛行形態へ変形する麻宮機、その上では一手先を進んだ八神が追いかけようと試みる。が、残存のキメラ勢力がまるで逃げる少女を護るかのように邪魔をするのであった。

「アイツら、殺‥」
 基地へと戻り、機体から這い出るように吐血で塗れた体を地面へ落とす少女。それは、Hwの奪還へ確実に足を進めた人類側の確かな成果と言えよう――