●リプレイ本文
「最近はお金を使いすぎましたかねぇ」
LHの依頼掲示モニター。そこでは、それをぼんやりと眺めつつ溜息をつく少年が1人、元気のない顔で突っ立っていた。彼の名は金城 エンタ(
ga4154)。一見女性とも見間違えるほどに可愛げな容姿の持ち主だが、心と財布の荒んだ今の彼からはどことなく寂しげなものが感じられる。
「どこか割の良さそうな仕事は‥‥ん?」
そんな時、新着で舞い込んできた依頼に金城が気づくと、彼が目を向けた先。そこにあったのは――
「執事‥喫茶?」
「メイド服‥‥着用、久方ぶり」
「あはっ♪ ヴァサーゴさんのメイド服、他とは違いますですね♪」
――大阪日本橋
ロイヤルガールズ、その何とも如何わしい名前の掲げられた看板が目を引く店の中では、まだ朝も早いというのに何人かの女性達で賑わいを見せていた。ヴァサーゴと呼ばれた少女が手に持っているのは、少しダークなゴシック風メイド服。そんな見慣れないメイド服に、隣の伊万里 冬無(
ga8209)は目を輝かせている。
「特注故‥‥他に存在、無し」
淡々とした口調でゴスロリメイド服について語るL3・ヴァサーゴ(
ga7281)。そう、今回彼女達がやってきたここロイヤルガールズ、この店が行っているサービスとは、所謂メイド喫茶というものであった。
「だから何故わたくしはこんな所にいるんですの‥‥」
そんな店内では、戦闘用メイド服を着用してはしゃぐ伊万里を見つめながら、美しい金髪が眩い女性が1人、更衣室の隅っこで項垂れている。
「そんな所で何やってるんですか! ほら、麗華さんも共に萌に生きるのです!」
「も、もえ?」
伊万里の発する言葉に顔を引きつらせながら、彼女の手にしっかりと握られたメイド服を見て思わず視線を逸らす大鳥居・麗華(
gb0839)。別に何時ぞやの様にサイズがピッチリというわけではないのだが、相変わらず彼女的に恥ずかしい格好であることに変わりはない。
「わたくしだけ裏方とかではダメですの? あ。そうですわ、料理とか」
そう言うや否や、そのまま厨房へ逃げようとする麗華‥‥であったのだが
「逃がしませんよ♪」
ガッシリ肩を伊万里に掴まれたかと思うと、そのまま笑顔の彼女にロッカーへと強制連行。
「冬無‥前に‥‥逃亡、不可能」
涙目でなすがままにされる麗華の様子を、ヴァサーゴはジーッと見つめながら呟く。悲しいことだが、アサルトメイドから逃げることは誰にもできないのだ。
「久々に依頼を受けたはいいものも‥‥それが、これか」
ロイヤルガールズの隣、同じ建物の形状こそはしているものの、全体的にガールズとは全く違ったゴージャスな雰囲気を醸し出すその店内では、持参の執事服を片手に微妙そうな顔で呟く佐嶋 真樹(
ga0351)の姿が。
そう、隣がメイド喫茶ならこちらは執事喫茶ということで、ここロイヤルボーイズでもスタッフ達が開店に向け、着々準備を始めていた。
「まっ、執事喫茶でスタッフとして働ける機会なんてそうないし、サクッと片づけつつ楽しもうじゃないの」
「確かに‥‥メイド喫茶ではないだけマシだな」
佐島の隣で同じく着替えを済ます三塚綾南(
gb2633)の言葉に、意味深げな返事をする佐嶋。実はこの2人、列記とした女性であったりする。
「この店の雰囲気からして‥‥その道の人には‥‥好きそうな感じですね」
同店内、こちらは他の男性従業員とともに執事服に着替えた神無月 紫翠(
ga0243)が、店の重厚なムードに包まれていた。店員の呼び掛けに応じ料理の仕込みを行おうとする彼の目の前に
「これは‥随分と‥お似合いですよ?」
ビシッと決めた格好の佐嶋と三塚が歩いて来る。
「あら、そういうあなただって」
その2人の凛々しい姿に微笑む神無月に、笑顔で返す三塚。
「おっと。声はもうちょっと下げた方がいいかしらね」
そんな彼女は、自分の声の高さに気を配りつつ、役作りと言いながら鏡の前で最終チェックを済ませると
「あまり気は乗らないが‥仕方ないな」
佐嶋も割り切り、午前10時、両店オープン――
「御帰りなさいませ、えーと‥‥ご、ご主人クン?」
ロイヤルガールズの開店と同時に、予約していた客が入って来る。そんな彼らに、え? と思わず突っ込みを貰ってしまう挨拶をしてしまった、まひる(
ga9244)。スカートなんて穿くのは何年ぶりだろうということで、恥ずかしい格好にどうしてもギクシャクしてしまうようだ。
(「ああっ、もう! そんな目で私を見るんじゃない!」)
心の中ではこんな考えの彼女だったのだが、元々モデルの様な体型にメイド服がバッチリすぎるほど決まっていたために、見るなとの願いも空しく客からの視線は途絶えることがない。だが、そんな視線も思わず自分の恥ずかしい格好を馬鹿にしているのではないかと自虐してしまい、つい顔を赤らめながら目を伏せてしまう。普段はクールビューティーとばかりにその美を振りまく彼女も、さすがに着なれないメイド服にはある種の抵抗感があるようだ。
「すげー美人がいるぜ」
とは言え、メイド服が似合うどころか、逆に高身長かつスレンダーな体形のおかげで今までのメイドさんとは完全に異彩を放つ彼女。結局まひるは、素で恥ずかしがったがためにそれが客の萌ポイントを見事に突いてしまい、最終的に魅力を存分に引き出す結果へと至るのであった。
一方、こちらでは‥‥
「おーっほっほ、わたくしを選ぶとは目が高いですわね」
ちょっぴりフリルが可愛らしいお嬢様使用(?)のメイド服に身を包んだ麗華が、朝の嫌々ムードなど完全に忘れたかのように超乗り気で接客中。しかし、何故か彼女はその体に不釣り合いな大剣を担いでいる。
「いくらカモフラージュとはいえ‥‥メイドさんと大剣なんて、さすがに無理があるんではありませんの?」
調理場に入り、注文されたオムライスを店員から受け取りつつ、客が怪しまないか気にして呟く麗華。すると
「何を言ってますですか。麗華さんも、まだまだですね♪」
ふと、横から笑顔でそんな心配はいらないとばかりに伊万里がご登場。何がまだまだなんですの、という顔で彼女を見る麗華だったのだが
「そんなことでは、上級者への道程はまだまだ遠いですよ♪」
意味不明な返答を返されたかと思えば、伊万里はそのままニコニコと接客へ行ってしまう。
「此は‥我が主上、護る‥‥刃」
「小さい体に大きな剣。このギャップがたまんねぇ!」
最も、そんな麗華の疑問の答えが、ヴァサーゴと客のこんな会話の中にあることなど彼女は知る由もなかった。
(「こんなところ、あいつらには見せられない」)
一方、接客に精を注ぐうちに次第と要領を掴み始めるまひる。窓ガラスに映る、メイド姿でテキパキ仕事をこなす自分見つめては、思わず妹や友達には絶対見せられないとぼやいてしまう。
「それにしても、あっちは随分と慣れてるねー」
そんな彼女が感心しつつも、チラッと視線を向ける先。そこでは‥‥
「アハハっ。仕方がないですね、お触りは厳禁ですよ?」
高らかな笑い声が聞こえたかと思うと、その声の発生源周囲五メートルにできる人だかり。彼らの前ではなんと、一人の青年が伊万里から膝枕して貰っているではないか!
「うぉー俺も!」
その異様な光景と伊万里のフェロモンのおかげで、狂ったように彼女を指名する客達。一応ここ、喫茶店です。
「いやぁん♪ ジャンケンで勝った人だけですよ? 負けた方はあちらの2人にお願いしますです♪」
「って何でわたくしが!?」
「我‥難題‥‥如何対処、すべき?」
突如として膝枕を振られた麗華が怒声を上げたかと思えば、ヴァサーゴは眉を顰めあからさまに嫌そうな顔。
「ダメですか‥‥? 麗華さん‥‥」
「う」
すると、いつのまにか下からお願いのポーズで麗華の顔を伊万里が覗き込んでくる。周囲を見渡す麗華、そこでは期待に胸を膨らませた男性陣がこちらをガン見中。
「‥‥仕方ないですわね、して差し上げますわ!」
一斉に歓喜に包まれる店内。そのムードに包まれて妥協してしまった麗華だったのだが、彼女自身、いつのまにか伊万里に毒されてきている気がしないでもない。
「我‥如何‥」
ただ、さすがに膝枕は無理とばかりに、通常の思考を維持し続けたヴァサーゴは言葉を失うのであった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
賑わう隣のメイド喫茶に比べ、打って変わり静まり返ったこちらの執事喫茶でも、隣同様、能力者達による接客が行われていた。
ゴポゴポ
どこで学んだのか、紅茶出しの作法を完璧に修得している佐嶋。元々女性の割に長身と恵まれた体型のためか、特に女性と感づかれる様子もない彼女は坦々と紅茶の説明を始める。最も、客はそんな説明よりも、目をハートマークにして佐嶋に一目ぼれのご様子だが。
(「たまらないわね、この感じ」)
そんな佐嶋の近くでは、彼女と同じく女性の三塚が料理の配膳中なのだが、何故かその目はキョロキョロとして若干落ち着かないようだ。
(「あ、あの子かわいい。私好みだわ〜」)
ここだけの話、実はショタコンだったりする彼女。格好良い執事に囲まれて興奮する心は、好みの執事の発見で高まり、普段の仏頂面からは想像もつかない恍惚の表情を生み出している。
「こちらがご注文のオムレツになります。あの‥これ、僕が作らせて頂きました」
薄暗い灯りの中、ふわっと蕩けそうなオムレツを客の前に差し出す金城は、いつになく緊張顔の面持ち。そんな彼の料理をパクっと一口食べ、数秒後、彼の耳に届くおいしいの一言。その言葉を聞いた彼は、無邪気な笑顔でこう告げる。
「あ、ありがとうございます」
それは、オムレツと同時に客のハートが蕩ける瞬間でもあった。更に、玄関ではこんなサービスをやっている執事も。
「行ってらっしゃいませ、またお待ちしてます」
神無月、彼は記念撮影を担当した客の帰りの際、急に地面に腰を下ろしたかと思うとそのまま女性の手甲になんと見送りのキスをプレゼント。
「絶対また来ます!」
あわわと声も震えた状態で、自分の視線より下にいる神無月の美しい長髪に目を向ける女性。神無月は元々絶対的な容姿の持ち主でこそはあったのだが、そのサービス精神までそれに加わったとなると、もう無敵としか思えない。
隣の店とは逆に静かな盛り上がりを見せる執事喫茶、こうして彼らの頑張りは何日も続き――
――4日後
「さすがに、仕事にも慣れるわねー」
キメラが現れる様子もなく、気づけば執事観察と接客を同時に行うテクを三塚は身につけていた。
「ですねぇ」
キュッキュッとグラスを拭きながら、金城も慣れた手つきで仕事をこなす。余談だが、金城を見た客の第一印象は、小さい身長と執事服がここまで似合うとは思わなかった、らしいです。
「さて、交代の時間ですわよ」
今回は交代制で外の見回りを設けていた能力者達。ということで、時計を見てそろそろ順番だと伊万里に麗華が声をかけた、その時
〜にゃんにゃんにゃん♪
「って何ですの、この着信!?」
「アハハっ! 私がこっそり麗華さん仕様に変えておきましたです♪」
「なんでわたくしの着信がコレなんですの! ま、まぁそれはいいとして。ゴホン、もしもしですわ」
動揺を抑え携帯に出る麗華。そんな彼女の耳に入って来たまひるの一声は――
「キメラのお出ましだよ!」
「240秒だ」
「え?」
「紅茶が蒸し終わるまでに終わらせる」
執事喫茶、連絡を受けた佐嶋はお嬢様に挨拶して店を駆け出していた。店の外から聞こえる悲鳴に何事かとざわつく店内で、金城は静かに一礼する。
「賊が出たそうです‥お嬢様をお守りするため、行って参ります」
「やっと私の本番ってとこかね」
携帯をポケットに入れたまひるが取り出した獲物、それは銃身下部にチェーンソーの取り付けられた最悪を絵で表したかのような武器。完全オリジナル仕様の武器を構え、まひるは怪しく笑う。さぁ、ショータイム。
「アレですわね。行きますわよ、伊万里!」
「はいです♪」
街に現れた長い爪を持った人型のキメラを視認し、まず最初に敵に突進したのは伊万里と麗華の2人であった。彼女達の連携が、街に巣くう悪に牙を向く! と、思いきや
「きゃぅん♪」
「え?」
2人して突進したはずが、気づけば伊万里に背中を押されて前に一人だけ飛ばされる麗華。
「ちょ、まだ武器抜いてな」
「ハイ、チ〜ズ♪」
その数秒後、服の切れ端が華麗に空に舞ったかと思えば、○○が丸見えとなってしまった麗華の横で伊万里がカメラをカシャッ。
「‥‥天誅ですわ」
それは伊万里に対しての一言か、キメラに対してか。とりあえず早々公開プレイされブチ切れた麗華が覚醒したかと思うと、そのままキメラの側面に回り込み獣突をぶち込む!
「アハハっ! コレは店のお客さんに無料配布しましょう!」
そのまま吹っ飛ばされたキメラを、ふざけた台詞を言いながらも伊万里が高く空に舞い上から下へと斧による痛烈な一撃。
「ギシャア」
同時に左腕をもぎ取られつつも、怯まず敵はそのまま伊万里に右腕を振りかざす、が
「どうした? お前の敵は一人じゃないだろ」
突如右肩を奔る激痛。そこには神無月によって射抜かれた一筋の弓矢。
「私に出会った不幸をあの世で悔やめ」
痛みにまどろむキメラの横に佐嶋が踏み込んだかと思うと、敵の攻撃をそのまま刀で受け流し半回転後刃を突き立てる。瞬間、絶叫するキメラを後方から三塚の電磁波が包みこみ――
「なんだ、つまらない」
あまりに呆気ない結果に思わず溜息をつくまひる。しかし、彼女がチェーンソーの起動を止めた刹那
「後ろ!」
「やば」
円心を描いて振り下ろされた一撃。そこには、2体のキメラが太陽の光をその爪で反射させていた。
「新手か」
不意打ちに怒りつつ、銃口を向け直すまひるの横から、2丁拳銃スタイルの金城が飛び出す。そして
「万敵‥撃砕‥!」
静かに放たれる言葉、そして振り下ろされしは『死よりも苦痛を与える剣』の異名を持つフランベルジェ――
周囲に血の飛沫をあげ、覚醒により緋色の模様を帯びた肌に重なる更なる緋色。最後の一撃を叩きこんだヴァサーゴは、血を拭う素振りも見せず静かに佇んでいた。だが
「ヴァサーゴさん、良い破けっぷりですね♪」
「‥‥」
いつのまにか周囲に露わな格好を見せてしまっていた彼女。剣で体を隠す少女の頬には、3重目の赤がお目見えだ。
「慣れない事すると‥疲れます‥お客さん‥増えると良いですね」
そう言いつつも、しっかり接客業をやり遂げた神無月が最後の挨拶をしていると、後ろからまひるの呼ぶ声が。
「伊万里、くっつきすぎですわよ!」
「ほら、ヴァサーゴさんも♪」
8人皆が最後に残したこの一枚。それは、後に2つの店にいつまでも飾られ続ける思い出の写真となる。今日もこの店にはたくさんの人が集うだろう。そう、彼ら皆、萌えと癒しを求めて――