●リプレイ本文
「あ、あの。それじゃ、約束のコレ」
「うは、これこれ、これッス。感謝ッスよぉ」
エイジア学園、高等部を正面に臨む学園の敷地内にて、1人の少女が1人の少年へとあるモノを渡している。渡す側、青い髪と青い瞳が印象的な少女は、顔を赤らめてどことなく恥ずかしそうな様子だが‥‥
「これでイケメンたる俺の魅力が最大限に発揮されるわけッスね。うは、マジパネェ」
かわいい紙袋を受け取って、喜びの絶頂にいるのは植松・カルマ(
ga8288)。一見すると不良っぽい身なりの彼だが、今日の彼は一味違っていた。何故ならば
「無駄毛は完全に処理したし、これを装着すれば、遂にハイブリッドな俺の完成ッス!」
渡された紙袋からブワッと勢いよく取り出されたソレ。植松の手には、『漢』と書かれた勇ましい褌がしっかりと握られていた。
「ちょ、ここで取り出さないでよ! それじゃあたしも準備があるから、後は頑張ってね」
ふふんと得意げに笑う植松を見て、一層顔を赤らめたレミィ・バートン(
gb2575)は、満足げな植松にホッと一息つくと、自分の持ち場へと走っていく。そう、今日はエイジア学園のイベントに参加することとなっていた彼女達。褌を前に勢いづく植松と同様、レミィの胸の高鳴りも、抑えようと思っても抑えきれないものであった。
参加者の様々な陰謀を動力源に、今、エイジア学園高等部主催によるイベントが幕を開ける――
「あとはこれを入れれば‥‥ほら、魔法のオイルの出来上がりっ♪」
「さすがにこれは、騙しているようでちょっと心が痛いですわね」
「何言ってるの。これは見物料だと思えばいいじゃない。だって、今日の本当のメインはボク達なんだから、ね?」
部活棟の一室。そこに集められた水泳部員と助っ人の能力者2人は、今日売る予定の、とあるアイテム作成に勤しんでいた。サラダ油とトイレの芳香剤を使って作る、魔法のオイルと称したその液体に、思わず苦笑してしまうのはルティエ・カルティエ(
gb3593)。童顔ながらも、その著しく発達した胸が特徴的な彼女の横では、ルティエに勝るとも劣らない胸を邪魔そうに動かしながら、オイルをビンに注ぎ込む少女の姿が。
「確かに‥‥今日やることを考えれば、タダでというわけにはいきませんものね」
「ふふ、そういうことだよ。今日は、ボク達のとっておきを魅せるんだからね」
やや緊張しているルティエに、隣の少女、レイチェル・レッドレイ(
gb2739)は怪しく微笑みかける。まだ幼い顔立ちなのだが、オイルを手に伝わらせてゾクゾクと肌を火照らせるその姿は、どこか妖艶な印象も。
そんな2人の何気ない会話に耳を傾けることもなく、言われるがままオイルをせっせと真面目に作る男子部員達。だが、今回イベントに参加した水泳部の彼らは、日に焼けたその顔を終始真っ赤にして過ごす羽目になってしまうことなど、現時点では知る由もなかった‥‥
「はじめまして、子虎だよ♪」
「可愛い〜!」
一方、こちらは薙刀部。女性部員しかいないためか整理整頓がきちんとなされたその部室では、部員達がとある1人の少女を囲んで盛り上がっていた。
「今日はたっくさん服持ってきたから、これを着て皆で宣伝するのだ♪」
「す、すごい」
今回、助っ人として呼ばれた神崎・子虎(
ga0513)が用意したコスプレ衣装に、思わず驚きの声を上げる女生徒達。イベントが始まるまで雑談に花を咲かせる彼女達だったのだが、ああ、知らぬが仏とはこのことだろうか。結局彼女達が真実を知ることは、後のパーティまで御預けとなるのであった。そう、今正に目の前で笑っているその可愛げな子が、実は彼女ではなく彼だったということを。
「マ、マジかよ」
「こんな美人が」
前述の薙刀部とは打って変わって、男臭い雰囲気ムンムンのラグビー部に、颯爽と現れた一人の美しい女性。その隣では、ラグビー部唯一の華である女マネが目を輝かせている。そんな彼らの視線の先にいた能力者とは――
「ふむ。ハロウィンと申せば祭りよのう? そうとなれば、わしらは祭コスで勝負するしかないじゃろ」
ガバッと法被や捻り鉢巻の入った紙袋を差し出す女性の名は、秘色(
ga8202)。黒髪と黒い瞳が織りなす色香が周囲を包みながら、その独特の口調がそれをより神秘的なものへと昇華している彼女の美貌は、部員から見れば正に女神そのものであった。そのあまりの魅力さ故か
「では気合を入れていくぞ? なんせ今日は祭りじゃからの!」
勢いよく秘色のかざした杓文字に後光を見たかと思えば、ラグビー部の歴史に残る連係プレイへの序章を今、彼らは踏み出した。
***
「お客さ〜ん、今から始るこの一戦。しっかりその目で観ていってや!」
10月31日、平日だというのにその道は賑わいを見せている。道を行き交う多数の人々、道の横にはいくつもの簡易的テントが立ち並ぶ。その一角に、一際目を引き佇む1つの特設リングが。そして、そのリングの真ん中では高らかに叫ぶ少女が1人――
「姉ちゃん、ここで試合でもあるのか?」
「お、お客さんタイミングバッチリやでぇ。何せ、今からこのアタシ、セーラー服美少女拳士VS巨漢男子レスラーの試合が始るんやから!」
「へー」
戎橋 茜(
ga5476)の威勢の良い声に引かれて、続々とリングの周囲に一般客が集まってくる。何でもあの女の子が巨漢レスラーと戦うらしい、という話が辺りを飛び交い、客の目線は茜に集中し出すと
「うお、いつのまにかこんな一杯‥‥有難う!」
人だかりが人だかりを呼ぶとは良く言ったもので、気づけばリングの前には多数の人が今か今かと対戦の始りを待っていた。
「あの、本当に手加減なしでいいんですか?」
「そや! アタシの言った通り、こっちがやられても遠慮なく向かってきてな」
そんな観客を前に、最後の確認を済ませる茜とプロレス研究会の男子部員。プロレス用パンツを穿いた彼は、緊張と初めて女の子と戦う興奮とで、心臓がバクバクのご様子だ。
「よっしゃいくで!」
試合開始を告げるゴングとともに、勢いよく男子部員が茜の足に掴みかかる。だが、それを身軽な動きでヒラヒラかわす茜。
「このっ」
「やばっ!?」
すると、そんな彼女に本気モードになった男子部員は、茜を角に追いこみ屈強な腕で痛烈な一撃! そこから、尚も手を緩めず寝技に移行しようとする部員に、思わず観客が声援を送る。すると、まるで観客の声援に同調するかのように、ググッと男子の腕を茜が振りほどき
「え、こんな力、どこに」
「必殺、通天閣落しぃ!」
それは、観客のドッという歓声とともに、跳躍からの踵落しが部員の頭頂に叩き込まれた瞬間であった――
「おまけはハロウィンをモチーフにした占いカードですよ」
各部活が賑やかに宣伝をしている中、新体操部ということで、部員とともに美環 響(
gb2863)は能力者の身体能力を生かしたバク転などのパフォーマンスで注目を集めていた。
「かわいい〜」
それは売られている商品に向けての言葉か、それとも響に向けられての言葉か、響らの周囲には多数の女子学生がその目を輝かせ集まってくる。
「色んなチョコレートがありますから、ゆっくり見ていってくださいね」
大きなプラカードを持ち、ドラキュラのコスプレをした響のあまりのかわいさに、チョコを買うのを忘れて話しかけてくる女子学生も。その横では、男子学生がコスプレした新体操部の女子部員に釘付けである。
「頑張って優勝目指しましょう!」
店がオープンする数十分前に響が皆に告げた一言。その言葉に応えるかのように、彼らの店は学生を中心に絶大な人気を得るのであった。
だが、こっそり偵察に出かけた響は、後にとんでもない光景を見ることとなる。ああ、恐ろしい。彼が見たもの、それは‥‥
「はいはーい、そこの皆さん、自分の体に悩んでいるならちょっとお話聞いてってー♪」
その店の前を通りかかる人々は、皆一様に足を止めていた。何故なら
「この魔法のオイルにかかれば、『漏れなく』こーんなナイスボディが手に入っちゃいます」
我が目を疑う光景。これは夢だろうか。自分達の目の前、そこではスク水姿の少女達が、一糸乱れぬ状況で互いの体にオイルを塗りあっているではないか!
「あ‥‥俺、もうダメだ」
褐色の、バランス良く筋肉の付いた体を同じく水着姿でアピールしていた男子部員が、思春期という悲しい性に逆らえず、また1人、また1人とテントの裏へと走っていく。
「あっ、何してるんですの」
そんな男子の心境を知ってか知らずか、男子部員の水着にヌルヌルの手を潜り込ませキャッチしたかと思えば、そのまま逃げる男子を引き止めるルティエ。
「ほら、どうしたの。今日は君達の働きにかかってるんだよ?」
ふふ、と笑いながら男子の頬を撫でるレイチェルに、少年は耐えきれず目に涙を浮かべつつも、思わず彼の意志に反してレイチェルの胸へと視線を向けてしまう。
「ダメだよルティ。何だかその子顔色悪いし、手、離してあげよう?」
ああ、天使とはこのことだろうか。抑えきれない自我が崩壊しかけの少年に、レミィが救いの手を差し伸べる‥‥が
「そんなこと言ってぇ、レミィも興味あるんじゃないの?」
いつのまにか、前かがみでこちらを覗きこむレイチェルが自分の腕を握りしめたかと思うと、そのままオイルまみれの手を少年の胸へとなぞる様に持っていき
「え、まっ‥」
ゴクリと息を呑む観客。悶絶する少年。今、レミィの中で何かが芽生えた瞬間であった。
一方、水泳部同様絶大な人気を誇るこちらのテントの中では、精悍な体の漢衆が褌姿でちゃんこ鍋を囲んでいる。
「ちょ、写メ、写メ!」
そのあまりにも珍しい光景にテンションの上がるお客であったのだが、現在の繁盛っぷりを語るため、場面は数時間前に遡らなくてはならない――
――午前10時
「オラオラでゴワス」
「な、何だ」
人通りの多い道の真ん中で、そのチンピラ風情の太い男子達は暴れていた。通行人の言葉も聞かず、ケンカに走り出す彼ら。ふと、そんな時
「トオゥッ!」
そこに現れたのはハロウィンの仮面をかぶった褌一丁の植松であった。意気揚々と現れたかと思うと、一瞬でチンピラを撃退する彼。
「こんな寒い日はやはりチャンコに限るな!」
後に、通行人達が彼らの芝居だったと気づく頃には、相撲部のテントでは十分すぎるほどの賑わいを見せる結果となる。さすが僕らの植松、マジパネェッス!
昼を過ぎて、なんだかカオス度がパネェ状況になりつつあるアジアンストリート。その半ば祭り騒ぎの道では、本当に祭り装束に身を包んだ少年少女の姿が。
「お次はとっりくA一丁!」
「ほい、こっちはとりーとB、あがりじゃ!」
オニギリを注文したはずなのだが、何故か目の前で男子部員が掛け声を上げたかと思うと、その後方からスパイラル回転したラグビー型のオニギリが弾丸のように飛んでくる。
「ヘイ、お待ち!」
「ど、どうも」
オニギリが空中を自在に行き交い、店員のパスを経て自らの目の前へと差し出されてくるソレ。初めて見る斬新な光景に驚きつつも、子供づれの客などは大喜びだ。
「すげー。いただきます」
目の前の壮絶な光景に釘付けになりながら、はむっとオニギリを一口。突如、脳に口から神経を経て直撃する刺激。
「すっぱ!?」
「ふっ。どうじゃ、超酸っぱ梅干の味は?」
そこでは、秘色が杓文字をクルクル回しながら、ニヤリと微笑んでいた。
「ここは女の子だけなのか」
「そうだよ♪」
一方、こちらでは、一人の子供が無邪気な笑顔を振りまきつつ、通りかかる紳士さん達を次々と釣り上げていた。
「君高校生? 可愛いね〜」
「あは。ありがと、お兄さん♪ これ、可愛い女の子が作ったお菓子なんだけど、買ってってよ♪」
語りかける男性客に、その可愛さで商品をアピールする少女(偽)。もし、買い物を渋る客がいようものなら‥‥
「も〜、買ってくれないと悪戯しちゃうぞ! え、むしろしてくれ? いやん♪ えっち〜」
冗談っぽく言いながら、男性の横に体をくっつけ、最後は下から客の顔を見上げるてらて――
「か、買うよ!」
言わずもがな、神崎のテクに負け財布を取り出す客。その横ではそのテクに見とれる部員達。
「神崎さんすごいわね‥‥演技とは思えないわ」
感嘆しつつ語りかける部員に、神崎はニコッとこう返すのであった。
「え? 違うよー。演技なんかじゃなくて、ボクは、本気だよ♪」
そして‥‥
「ほら、だからここでお尻をさ」
「そ、そんな、レイチェル。いきなりは無理だよ」
「大丈夫、リードは任せて」
相変わらず、例の部活では日が暮れるまで、人が絶えなかったと、さ。
***
「ハハハ、サインは順番だよ!」
後夜祭。そこでは、寒さに耐えつつも褌姿で体を魅せつける植松が、女子生徒を前にサイン会を開いていた。褌と言って侮るなかれ。彼の漢な魅惑に囚われた女性は、意外に多かったのだ。
「こういうのはノリが大事なのですわ」
一方、テント同様スク水+バニースタイルのルティエは、ホール内でウェイトレスの仕事を着々とこなしていた。また、すっかり健全だった心にレイチェルの毒牙がかかってしまったレミィも、ルティエに付き添い未だにスク水仕様でパーティに参加中。もう全て割り切った感がある。
「今日は一杯楽しんだから満足☆」
薙刀部の面子と乾杯をする神崎は、とても満足げな表情だ。そんな彼に、今日はありがとうとお礼を言う部員達。その時
「神崎君、あっちで作業があるんやけど、男手が足りないみたいやからいっしょ行こうや」
ふっと後ろから現れる茜。戎橋さんは大男とプロレスするぐらいだから大丈夫として、神崎君には荷が重たいよ、と薙刀部の皆が茜を止めると‥‥
「? 何言ってるんや。神崎君は男やん」
「あは☆」
ニッコリと笑う『少年』。脳内で思考が停止する少女達。後に、神崎が薙刀部全員から告白されたことについては、内緒にしておこう。
「今日はお疲れさまでした」
新体操部に最後まで笑顔を貫いた響が挨拶をする横で、疲れたと杓文字で肩を叩く秘色。そんな彼女だったのだが
「おお、そうじゃ。美環、良かったらオニギリを配るの手伝ってくれんか?」
「勿論です」
思いだしたかのようにいきり立つと、最後の一仕事ということで中身の不明なオニギリを響きと2人で配り出す。そして、渡るオニギリの味に多種多様な反応を示す生徒達に、いよいよ運命の時間はやって来て――
「それでは、結果発表です!」
***
まだ余韻が残るホールからレミィを連れ出したレイチェル。めくるめく思い出の星を散りばめた天幕の下、並んで空を見上げる2人。そんな中、急にレイチェルがレミィの耳元に唇を持ってきたかと思うと、少女は優しくこう告げるのであった。
「優勝できて、良かったね♪」