●リプレイ本文
終わる――全てが。
苛烈を極めたバグアとの戦争が終わり、新たな道を進む人々。
新たな場所で、職場で、新たな仲間とともに――。
傭兵を辞める者、尚も戦い続ける者、世界を流離う者、平穏な日常へ戻る者――そして、新たな『世界』へ移る者。
全ては終わるが――終らない日々が続いていく――永遠と。
『世界』は続いていく――様々な思いをのせて。
●戦い終わり――
愛輝(
ga3159)の場合。
愛輝の自室。
生活感のあった部屋も今は必要最低限の荷物を残してダンボールに纏められている。
数少ない必要最低限の物に――経済学の本やマネージメントの本が机に積み上がり、ノートが置かれていた。
机にあったノートは一冊だけではなかった。
家を継ぐのが嫌だなとか考え、18歳から傭兵になった為、勉強は少々不十分だった為だ。
だからこそ愛輝は今更ながらも勉強していた。
「ひとりだからな。好き勝手に自分の道を選べる」
気分転換に軽めの経済の本をソファーに寝転がりながら読んでいる愛輝。
傭兵を3月末で辞めたら、今は亡き父親の残した会社や土地の遺産を引き継ぎ、事業を考えていた。
窓に目をやり考える。
ただ事業を行うだけではなく地域復興への手助けがしたい、と。
何ができるのだろうか、と。遺産を引き継いで事業をしようと考えた時に同時に考えていたことだ。
「父さん‥‥」
ふと、父親の事を思い出す。
父親は祖父が学生時代に亡くなった為、大学卒業後すぐに会社社長になった。
そんな、父親の足元には及ばないと考えながらも、いまは自分しか残されていない為、コツコツやっていこうと思っている。
「父さん、これで良かったんだよな」
レインウォーカー(
gc2524)の場合。
故郷にレインウォーカーはいた。
10歳の時に両親が離婚し、父親と共に行く事を選ぶも、故郷を離れた後戦闘に巻き込まれて父親はレインを庇って死亡した。
その後、レインは傭兵集団に拾われ以後対人傭兵として生き、能力者となってラストホープに来た。
15年ぶりの帰郷を果たしていた。
忘れ去ったと思っていた故郷の風景が鮮明に浮かび上がり、その風景が今も変わらぬことに気づく。
「忘れたと思ってたけど、ただ思い出すのが怖かっただけなのかもねぇ。変わらないな、この街は」
帰郷の目的は――墓参り。
風の噂でかつての家族が死んだ父の墓を故郷に作ったと聞いた為だ。
たとえ、遺骨ひとつない空っぽの棺が埋められた墓としても、父さんの墓には違いない、と。
この日の為に買った黒い喪服を着て、弔いの花束を持って父の墓へ向かうレインウォーカー。
墓地の一角、父の名が刻まれた墓碑に花を供える。
「父さんの最後の言葉通り、ボクは今も生きてるよ。父さんが望んだ生き方とは違うんだけどね」
「それでも、ボクはこの生き方を選んだ。選んだからにはこの命尽きるまで歩き続けるよ」
「それに悪い事ばかりじゃないんだ。一緒に笑える友達が出来た。背中を預けられる相棒が出来た。ボクの最高の刃と呼んでくれる戦友が出来た。それにボクを愛してくれる大切な人もね。ボクは今‥‥幸せだよ」
父への報告を終え、去ろうとすると、こちらに向かって歩いてくる喪服の女性に気付く。
自分と同じ赤い髪と金の瞳、忘れたと思った記憶と一致するその姿は――。
「‥‥母さん」
日野 竜彦(
gb6596)の場合。
ドイツ・ベルリン郊外。
『旅の目的』である場所の選定をかねてAUKVのリンドブルムを跨ってヨーロッパ周遊中の日野。
目的、それはLHの機能移転に伴う候補地の調査だった。
途中、別行動をとっていた兄妹である美紅・ラング(
gb9880)と連絡をとりあう。
そして、最後の方に子供の頃――7つぐらいに住んでいたドイツに足を運んだのだった。
そこには母の墓がある。しかし、行方不明の為に遺体はない。
訪れた日野はバグア関連の事件で母が居なくなってから、日本で暮らしていた事。
そして、能力者になりLHに行った事、そこで新しい家族とその死による離別。
その後、美紅・ラングと家族になり、新しい仲間達と小隊『戦竜』を結成するに至った事。
その小隊で戦った事。日常を含め、様々な事を墓前で話す日野。
時には嫌な人間も居たのも包み隠さず話していた。
日野の話は――その長かった時間を思い起こさせるように話が終わる頃には高かった陽も黄昏時になっていた。
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
その言葉と共に母の墓前を後にする。
日野の影が、墓の影が、黄昏時の陽によって長くのびていた。
日が落ちれば、夜が来て明日が来る。
日野は今の自分に出来る事を一つ一つ、一歩ずつ明日へ向かって進んでいく。
リヴァル・クロウ(
gb2337)と皇 織歌(
gb7184)の二人の場合。
日本の関東――リヴァルの故郷。
最愛の妻である、織歌と共にリヴァルの家族の墓へと向かおうと考えていた。
リヴァルは想う――正直、こんな日が来るとは思いもしなかった、と。
それも最愛の人を隣に連れて。
全てを捨てて逝くと誓った始まりの場所に、その場所へ、全てが終わった今、もう一度。
「‥‥なぁ、今日空いているだろうか?」
リヴァルは織歌に問いかける。
「‥‥えぇ、空いてますが‥‥」
リヴァルの問いに答える織歌。
「‥‥両親に、紹介したい」
真っ直ぐな眼差しで織歌の言葉に応えるリヴァル。
「親に挨拶を‥‥ですか? えぇ、その、構いませんが‥‥」
織歌は少し思案した後、ハッとする――織歌はリヴァルの『家族』のことを思い出して。
「――分りました。では、参りましょうか」
織歌とリヴァルの二人で墓参り。
一通り終えた後、両手を合わせて、戦争が終わったこと。
そして最愛の人を得たことを墓前に報告するリヴァル。
織歌はそのリヴァルのとなりで静かに祈る。
(どうか、この先も見守っていて下さいませ、私も支えさせて頂きます‥‥永遠を誓った、この人を――)
報告を終えたリヴァルは織歌に背を向け――。
「どうやって生きていこうか。‥‥少し、迷っている。普通の生活に戻るのか。それとも、また研究に生きていくのか」
これからの生き方についてぽつりと未来への不安を漏らす。
「今後を如何するか、ですか?」
リヴァル背中に近寄る織歌。
「‥‥なんと言うか、難しいな。普通に生きるというのも」
少し苦笑を交えて冗談っぽくごまかす。
そんなリヴァルを安心させる様に抱きしめる織歌。
「‥‥そうですねカンパネラ学園で、未来の子たちを育てる‥‥と言うのは、如何ですか?」
織歌の温もりを、優しさを感じるリヴァル。
「教職。か」
「えぇ、教職‥‥と言う事に成りますね。学園側に掛け合ってみないと何とも‥‥では有りますが」
言葉を続ける織歌。
「過去は変えられません‥‥でも未来は――。ですから、未来の希望を育てるのも‥‥一興だと思いますよ?」
「‥‥」
「今の‥‥これからの希望‥‥か、そういう生き方もいいものかもしれない」
振り返り、抱きしめ返してそう返事をしながら織歌の唇を重ねるリヴァル。
リヴァルのキスを受けて、嬉しそうに微笑んだ織歌は――。
「――それに、頑張って下さいませ‥‥未来のパパ? あら、キョトンとして‥‥」
リヴァルに耳打ちする織歌、一瞬停止するリヴァル。
「その内伝える心算だったのですが、早い方が良いでしょうし‥‥」
頬を赤らめて――。
「‥‥今月来る筈のモノが、来てないんです‥‥意味、分かりますよね?」
「お、お前‥‥つまりそれは‥‥!」
事を飲み込んだリヴァル。
「――って、どうかしましたか? ‥‥何か悩み事でも?」
ふと嬉しそうな顔をして、直ぐに表情を戻し考え込むリヴァルをみてやや不安気になる織歌。
「‥‥名前どうしよう」
「あぁ、名前‥‥えぇ、良い名前にしませんとね」
リヴァルの言葉に納得して頷く。
「まぁ、それは後で二人でゆっくり考えればいいか。お前がくれた俺の希望だからな」
「貴方様が与えてくれた、私の未来の希望ですもの」
墓前に向き直り、瞳を閉じて祈る。
(父さん、母さん、俺は本当にいい嫁を持った。次は、孫を連れてくる)
BLADE(
gc6335)の場合。
地方都市――。
BLADEは瓦礫をリヴァティーで数日がかりで撤去完了した所だった。
「こりゃ戻ったら全身洗浄だな」
おかげで愛機は埃まみれになっていた。
「必要は――なかったようだな」
この近辺はつい最近、軍によってキメラの掃討が行われたが、念のため武装をしたが、無駄になったようだ。
(武装は無駄になった平和になってきた証拠か‥‥)
「ふむ‥‥」
KVを見上げてBLADEは想う。
(目指す目標は地球圏のバグアの殲滅‥‥KVでの作業もあくまで瓦礫の撤去だけ、バグアのいた痕跡を無くすことだな)
「何も無くなった所から何かを作るのはそこに住む人たちの仕事、か」
BLADEはよほど特殊な作業でない限り作り上げることには携わらないつもりだった。
(バグアの殲滅、戦争での瓦礫の撤去、その依頼が無くなって御役目御免。役立たずに逆戻り)
「まぁその時は稼いだ金を使って今まで行った所に行くのも悪くないな」
数日後――
リヴァティーの洗浄、休暇を終えUPC本部に新しい依頼を受けに来たBLADE。
依頼の一覧を見て自分の考えが甘かった事を知る。
(まだ失業する心配は無さそうだな)
複雑な思いで依頼の一覧を見ていく――。
ルーガ・バルハザード(
gc8043)とエルレーン(
gc8086)の二人の場合。
世界のどこかで。
ルーガとエルレーンは、これまで同様に傭兵としてキメラのプラント破壊などに携わっている。
「さあ、終わらせてやろうッ!」
ルーガは今日もその手に、剣を握って。
キメラの生き残りを破壊して、金を稼いで生きている。
だが、ルーガはふと思う。
(‥‥こうやって生きていくことは、生涯変わりがないのかもしれない)
予感がある。やがて、今度は人間同士の戦争が起こり、その中でやはりエミタ能力者が「使われる」ことになるだろう、と感じていた。
自分はやがて、その中で死ぬだろう。
(‥‥だが)
ちらり、と攻撃しているエルレーンを見据える。
「壊れちゃえ、消えちゃえよッ!」
エルレーンは今日もその手に、握って。戦いの中でも、エルレーンは変わらない。
どうでもいいのだ、エルレーンにとって敵がキメラだろうと人間だろうと。
師匠のルーガがいれば、そこについていくだけ。
結局。
世界とは、エルレーンにとって、ルーガそのもの。
(だから‥‥)
世界が変わろうと、何だろうと。無邪気そのものに、エルレーンは修羅道を歩き続ける。
(ルーガと一緒に、いつまでも‥‥!)
無心に攻撃している弟子であるエルレーンを見たルーガは‥‥。
(この子だけは。娘と言ってもいいほどに愛している、この弟子だけは)
今までのエルレーンとの出来事が思い出される。
ルーガに向けられた笑顔を、楽しそうに共に居る一時を。
「絶対に死なせない、『それ以外』の道を選ばせてみせる‥‥」
ルーガの戦いは、永遠に終わらない。
「まだまだ行くよ!」
疲れを忘れて攻撃を続けるエルレーン。
(私は戦い続けるんだ、そうしてキメラたちをころすんだ)
(そうしたら、ルーガが私をほめてくれるから!)
●それぞれの道――
L3・ヴァサーゴ(
ga7281)、伊万里 冬無(
ga8209)、大鳥居・麗華(
gb0839)の三人の場合。
オーストラリア カルンバ 孤児院。
冬無はヴァサーゴと麗華をみて想う。
(二人は掛け替えのない存在です。嗚呼、愛おしくも狂しい。‥‥共に居るためなら――手段を問わないです。一切合財を闇に葬った過去の分まで、何処までも此の世の舞う為に――)
ヴァサーゴは作業をしながら想う。
(冬無も、麗華も、一番愛しくて‥‥大切な、人‥‥。困った処もある、けど‥‥そこも含めて、好き‥‥。此れからも‥‥三人‥‥ずっと一緒に過ごせれば、良い‥‥そう、思う‥‥)
「大分ここでの生活にも慣れたかしら。ん、兼業は中々に大変ですけども」
麗華はふと、作業の手を止めて感慨深く想う。
(戦争で大切な家族を失いながらも、戦争で大切な仲間を見つけ、仲間たちと共にこうしてやって行けてますわ――)
日常――
「さぁさぁ、今日もやることは沢山ありますですよ♪」
メイドな冬無はその面目躍如と言わんばかりに家事をこなしていく。
「冬無‥‥おしえて‥‥欲しい」
ヴァサーゴが行なっている家事の師事を冬無に頼む。
「まだまだ。さーどんどん教えてあげますですからね♪」
そんなヴァサーゴを冬無が教える――。
ヴァサーゴの家事や料理は来た当初に比べて冬無の指導でメキメキと上達していた。
‥‥時折、悪戯をされることもあったが。
人が少なく大変だが――ヴァサーゴはどこか楽しげでもあった。
(人手不足故、多忙なれど‥‥楽しい‥‥。‥‥斯様な温もり‥‥初めて、知る故、に‥‥)
「おはようご‥‥うぷっ」
「ケビン、おはようですわ♪ 今日も頑張りましょうね♪」
朝、起きたらケビンをハグするのが日課となっている麗華。
「麗華さん。今日はケビンさんと事務周りお願いします」
「了解しましたわ♪セシリー、今日もよろしくお願いしますわね」
セシリーと別れ、ケビンと事務室へ向かう麗華。
セシリーは療養の身でもあるが、子供達の世話をみることが多い。
「やはり、そろそろ、依頼を受けないと厳しいですわね」
経理をしていた麗華が帳簿を見て感想を漏らす。
「すみません‥‥」
普段、子供の世話をしつつ外で寄付を集めているケビンが済まなさそうに謝る。
「街のほうでの炊き出しとかあるから仕方ないですわ。それにこれぐらいなら依頼を受ければ問題ないですわ」
昼。
「‥‥然し、資金難、如何ともし難い‥‥」
昼休憩に麗華から話を聞いたヴァサーゴは考えていた。
「依頼を見繕って来ましたです♪」
その時、ドアが開き――麗華から話を聞いた冬無が依頼を取って戻ってきた――冬無が。
「こ、この依頼は‥‥く、ですがこの報酬は魅力ですわね」
『冬無』のとってきた依頼――ご多分に漏れず、まだしつこく生き残っていた破廉恥なキメラの討伐依頼だった。
「冬無、一体何を‥‥って、依頼‥‥? ‥‥報酬、良いけど‥‥此れ‥‥また、如何わしい‥‥。冬無‥‥何故、斯様な依頼ばかり‥‥」
狙ってとってきているのではないかと思ってしまいそうなヴァサーゴ。
「あぁん、良いじゃないですか♪ 此れも子供達の為ですよ?」
報酬の高さで言えば高い部類――冬無も孤児院を思っての事だろう。
「いかないわけにはっ。セシリー、孤児院の方はお願いしていいですかしら?」
「然し‥‥背に腹、代えられない‥‥。生命の危険、然程無いようだし‥‥受けよう‥‥。セシリー‥‥留守、お願い‥‥」
「ではでは、行ってきますです♪ セシリーさん、宜しくです♪」
こうして依頼へ向かっていく三人。毎度ながら、白濁した溶解液を浴びて破廉恥な事になるが‥‥それは別のお話。
夜。
子供達を寝かしつけるヴァサーゴと麗華、冬無は洗濯をしている。
「あはぁっ♪ 隙ありですよ♪」
戻ってきたヴァサーゴと麗華に悪戯をする冬無。
「何とか皆、寝てくれましたわね。次は何でしたかしr‥‥きゃ!? い、伊万里ー!?」
突然の出来事に驚く麗華。
「‥‥ひゃぅぅ‥‥!?」
不意打ちで胸を触られたヴァサーゴだったが、子供達を起さないように何とか声は抑えた。
三人は揃うと皆の寝室――時折、夜泣きしてしまうセシリーを心配した三人が一緒に寝ている部屋へ向かう。
そこで冬無、麗華、ヴァサーゴ達は今日あった事をセシリーと話して寝るのが日課だった。
子供達の世話をセシリー共にみて、時折、三人で依頼に出る。
そんな日々が続いていく――。
クレミア・ストレイカー(
gb7450)の場合。
月面。
「取り敢えず、この気持ち悪いキメラプラントの除去からということね」
クレミアはKVに搭乗し、キメラプラントの除去に従事していた。
無論、それだけではない。
「プラントよりこっちのほうが厄介よね‥‥」
貸与されたKVアタッチメント使って残骸を除去していくが、手間取っていた。
なんとか除去が終わり、続いて月面の基地の建設にも従事することになる。
全てが終わるり、巡洋艦に帰還した頃には晩の時間帯だった。
シャワーを浴び、食堂へクレミアが行くと――。
そこにはリズがいた。
「あ、クレミアさんっ‥‥」
「リズぅ〜」
いつもの様にリズをハグするクレミア。
どうやら、リズは勤務が終わった後らしい。
「リズ、最近どう?」
二人で夕食のプレートを取り、対面に座ったクレミアがリズに質問をする。
「最近、ですか‥‥『護る』仕事ができて充実していますよ」
父のように――オペーレーターであっても『護る』仕事ができて満足している様子だ。
一時期は‥‥傭兵――能力者になろうと考えていたほどだった。
「私は――UPCへの『転職』も考えているわ――ま、どこまでやれるかわからないけどね‥‥」
積もる話を続ける二人――だが、別れの時はやってくる。
別れ際にリズをハグするクレミア。
「いつ、今度会えるか、わからないから‥‥」
「会えます、よ。忘れないで――会いたいと思ってもらえれ、ば」
荊信(
gc3542)の場合。
オーストラリア カルンバ 孤児院 野外。
「よぅ、どうだ?」
「お久しぶりです。荊信さん」
孤児院に顔を出した荊信。どうやら――今、他は出払っており、ケビンしかいないようだ。
「その様子だとそこそこはやってる様だな」
「えぇ‥‥おかげさまで」
煙草を烟らす荊信。
「『選択』は正しかったのでしょうか?」
問う、ケビンは荊信に。
「他の奴がどう見るか、そんな事は解らんさ。だがな、お前ェは選んで大将になっちまったんだ」
「‥‥はい」
「向こうの嬢ちゃん達(セシリー等の職員)にガキ共‥‥ま、今は小せぇが背負っちまったんだ。生かすってのは簡単じゃぁねぇぞ‥‥」
「そう、ですね‥‥。寄付を募ったりと‥‥今は必死です」
表情から苦労を伺わせる。
「俺に言えることだけ言っといてやるよ。大将になってやってくなら色々とあるだろうさ」
そう言うと煙草を足でもみ消すと――。
「決断に対して迷いも悔いも出るかも知れねぇ。だが、そんなモンは消えねぇんなら消さねぇでもいい――ただ、結果を拒む事だけするな」
ケビンを見据えて言う。
「何もかもを血肉にしていけ――大将に必要な覚悟ってなぁ、そういうモンさ。俺なら、それが出来無ぇ様な大将は見限るかね」
「はい‥‥理解りました、心に留めておきます。荊信さんは‥‥」
「ん、俺か? 俺にゃぁソイツはできねぇよ。炉は暖める事ぁ出来ても冷やす事ぁ出来ねぇ‥‥そういうモンさ」
そう言って手をひらひらさせる荊信。
互いの近況を語る二人――そして。
「ま、達者でな‥‥」
背を向け手を振りつつ去る荊信。
後日どこかで。
「やれやれ‥‥やはりこの空気が俺の居場所だな」
切った貼った傭兵稼業――それを楽しむかのような荊信。
そんな中でリズに出した手紙。
よう、達者にやってるか?
とはいえ、お前さんについちゃぁ、特に心配はいら無ぇか……
こっちはこっちで好き勝手やってるだろうさ
追伸:
美味い仕事があったら回せよ、連絡先は裏に書いてある
美紅・ラング(
gb9880)の場合。
どこか――少し前。
「むむ、どうしたものじゃ‥‥」
戦争が終わってはたと美紅は気が付いた――行く当てがない。
「齢13にして能力者にして戦い続け、平和を勝ち得たが――居場所がない」
ふと、考える――。
(メーキャップ担当?――そんな軟弱な‥‥ダメじゃ)
「ふむ――しかし‥‥ふむ」
(里帰り――時期尚早じゃの‥‥)
「やはり――これか」
手にしているのは肉親からの手紙――どうやら、エカテリーナの近況を知らせるものであったようだ。
オーストラリア
美紅がいたのは――UPCの施設の一つ。少年、少女の兵士を訓練する為の施設。
そう、エカテリーナがここで教官としてのを知ってやってきた。
軍施設に入れたわけは――。
「美紅・ラングじゃ、よろしく」
指導者不足――多数の少年兵に対してエカテリーナ一人という状況のためだった為、その「補助」という立場での長期契約を行った為だった。
とは言うものの、最初からそうではなかった。
軍広報官によって連れられた当初は(オーストラリアでは子供が忌避されるという特殊事情を「軍」によってフォローしているという広報)
当初、美紅はなんとなく、エカテリーナの教練の様子を眺めているだけだったが、気がつけば手伝っていたという具合だった。
正規の人員はなるべく正面へ配置したい軍にとって美紅の参加はまたとないものであった。
こうして、両者の思惑の一致の元、今に至る。
とは言うものの――美紅は少年兵達と同い年でもあり、一般の座学は幼くして戦場に出たここともあり、共に机を並べて学ぶ事もあった。
「ふむ‥‥」
(まぁ、これも悪くはないの)
共に教え、また、ともに学ぶ――そんな日々が続いてく。
エドワード・マイヤーズ(
gc5162)の場合。
北米某所。
「あの一件以来、すっかり大人しくなったとはいえ、未だに往生際が悪いね。利権とかにすがり続けていると思われても仕方がないな」
農夫になりすましたエドワードはバグア寄りだった協力者の動向を調査していた。
そんな折、エドワードはエカテリーナにメールを送る。
FROM:エドワード
TO:エカテリーナ
Subject:近況どうかな?
どうも、伍長殿。
僕は今、本業として潜入捜査をしているけど、そちらはどうかな?
‥‥(中略)
ま、傭兵やめて、元のスパイ稼業に戻るか?
それとも、エージェントの養成学校で教師をやるか‥‥?
いろいろと模索中だよ。
僕としてはどこにも所属しないフリーランスの立場でやりたい‥‥
出来ることなら、UPCとのパイプ役を持つようなエージェントとして‥‥
ありたいなと‥‥思ってはいるけどね‥‥(苦笑)
今度、行く時はピロシキとか作ってロシアンティーを淹れておかないとな‥‥(^^
FROM:エカテリーナ
TO:エドワード
Subject:RE:近況どうかな?
エドワード、久しぶりだな。
こっちは子供相手に忙しい‥‥『補佐』も来たが‥‥
(中略)
そうだな、こっちもまだ人手不足なんだが、一度‥‥
(以下略)
この先はまた、別の話。
御守 剣清(
gb6210)の場合。
日本、某所。
電話を手にする御守。
「ども、お久しぶりです。すいませんね、いきなり‥‥」
架電先はエカテリーナ。
「あぁ、御守か‥‥元気か?」
「えぇ。実は‥‥エリミーさんと子供たちのその後なんですが‥‥」
御守は気になっていた事を切り出す。
「ちょっと待て‥‥」
僅かなノイズの後エカテリーナが話しだす。
「これで大丈夫だ‥‥。エリミーだが‥‥」
移送された後、秘密裏に調査に携わっていた事。
「強化人間」という特性を生かして廃棄衛星の強化人間でしか操作できない装置を動かしたりしていた事をぼかして説明した。
その見返りが、人へとの治療――成功したが、そのことはエリミーと子供達の安全のために秘匿されている。
といったことを説明する。
「そうだったんですか‥‥何にしても良かった」
安堵した御守の声。
そこからはお互いの近況の話になった。
「元々、就職予定だったとこの温情ってヤツでしてね〜」
今は引越し・宅配業の見習いとして勤めていることや。
「先生ももう年でしたし、ちょこちょこ顔も出してましたから‥‥」
剣術の先生の跡を引き継いで、道場で子供たちの相手をしていることを御守は話す。
「結構いろんな人に言ってんですけどね。エカテリーナさんからも、個人的な依頼も受けますよ〜。飲みに来い、とか、ストレス発散に付き合え、とかでも呼んでもらえりゃ、何とか都合つけて行きますから〜」
その一方で、傭兵はまだしばらく続けていくことを伝える。
「あ〜、1日だけ、外せない日が‥だいぶ先ですけど‥‥」
「ん?」
とある日付を伝える。
「エカテリーナさんも、その日空いてないですか? もしよかったら、来てもらいたいんですけど‥‥」
「あいて‥‥いるな」
「えぇ、結婚式、日取りが決まりまして‥‥」
「そう、か‥‥おめでとう」
心からの祝福の声をかけるエカテリーナ。
「ホントに‥もし、良かったら、なんですけど‥‥」
「ぜひとも、参加させてもらう‥‥」
エカテリーナがそう言うと、御守は‥‥。
「それと、今も変わってませんから‥‥貴女の幸せ願ってんのと、その為に力になりたいって思ってんのは‥‥」
「いや、あたしの事より――彼女を幸せにした方がいい。あたしよりな‥‥。と、済まない‥‥急用だ、またな。」
「そんじゃ、また〜」
ハンナ・ルーベンス(
ga5138)の場合。
ラストホープの教会執務室にて。
ひとしきり続いたタイプライターの音が止まる。
「ケビンさん‥‥今頃、貴方は何をしているのでしょうね‥‥」
様々な思いが交差する。
(本当は、出来る限りの手助けをしたいのですが。私の立場が、ケビンさんにとって、必ずしもよき結果を招くとは限りません‥‥)
(今は、立ち上げた院の運営を軌道に乗せる、とても大事な時期。私は、静かに見守り続ける事に致します‥‥)
「主よ、どうか少年に御加護と、祝福を」
タイプライターの音が再び鳴り響く。
タイプを打つハンナの想い。
(LHにおける兵舎。住人たる傭兵により、一つとして同じ物のない他様な文化が一同に介していたこの場所も、何時かは閑散となるのでしょう)
(遥かな未来では、その痕跡すら掻き消え、一石の碑文にのみ、その存在が記されているだけかもしれません)
タイプの音が途切れる。
(だからこそ。私は記録として残して置きたいのです――あらゆる人種の坩堝と化したラストホープ)
そして、また、鳴り響く。
(それでも、航行中に大きなトラブルもなく、私達は終戦まで無事に乗り切れました。人種による差別も、迫害もこの島では見られませんでした。それは、とても、稀有な事です)
(LHの賑わいは、どの文化とも似ている様で違う、この地独特のものです。世界政府を以てしても、私達のスタンスは些かも揺らがない。文化とは、こうありたいものです)
「さぁ、次の兵舎に取り掛かりましょうか。時間は無限に有る様でも、その実それ程余裕はないのですから‥‥」
???の場合。
どこかで。
オペーレーターとメガネを掛けた恰幅のいい青年。
「今月末で退官ですね。――報告官。どうされるのですか?」
「嗚呼。斡旋でね、教員をする予定だよ」
Never−Ending