●リプレイ本文
● LH
記憶を取り戻したセシリー・ニミッツ(gz0463)の止まっていた時間の針が動き出す。
だが、それは余りにも過酷な『現実』を、『過去』を見せつけ心を傷つけた。
生ける屍の様な状況で買い物を済ましたセシリーは自室へ戻ろうとしていた。
だが――。
『偶然』が訪れる。
●それもまた、正論‥‥なれど
「大丈夫か?」
(あの娘の濁った眼は、悲しみを乗り越えられない者のそれだ)
セシリーに声をかけたのは村雨 紫狼(
gc7632)。
「‥‥?」
声を掛けられた相手に記憶がないセシリーの頭上に?が灯る。
「俺はおせっかい焼きの村雨 紫狼ッ!!」
そう元気に自己紹介する村雨にセシリーはビックリする。
「私は‥‥セシリー」
おっかなびっくりに名乗った村雨に名乗るセシリー。
「調子が悪そうだな‥‥どうした?」
「え、あ‥‥ちょっと‥‥」
村雨の質問に言い淀んでしまう。
「ふむ‥‥」
(やはり、今の状態は、自己決定が出来ない危うい状態か)
考えこむ村雨――そして。
「調子が悪そうなら――病院に行ってみればどうだ」
調子が悪ければ病院に行く――それはごく当たり前の行動。
「えっと‥‥うー‥‥、大丈夫です」
ハッキリとしたモノの言い様ではないが拒む回答をする。
「だが断る!!」
「ひぅ!?」
その激しい村雨の言葉に怯えるセシリー。
「君には専門の治療が必要だ!」
そう言うとセシリーの腕を掴み、引っ張っていく村雨。
抵抗むなしく、セシリーが連れて来られたのは心療内科の病院だった。
「え? え??」
だが、それを見たセシリーは村雨の腕が離れたその瞬間に全力で逃げ出した。
「セシリー!」
村雨もセシリーのことを考えていた、だが、やや少し強引であった。
●どちらか? 二者択一
「‥‥? どうしたの、セシリーさん?」
買い物に行っていたエルレーン(
gc8086)はクレープを食べながら歩いていたところにセシリーを見つけて声をかける。
「あ‥‥こんにちわ、エルレーンさん」
とぼとぼと歩いていたセシリーはエルレーンから声を掛けられて立ち止まり、応える――見知った顔で安堵していた。
「ど、どうしたの‥‥? 何か、あったの?」
前回の依頼の時の様子とは全く違っていた姿に困惑しながらも話しかけるエルレーン。
「実は――」
ぽつり、ぽつり とあったことを言葉で紡いでいくセシリー。
「‥‥あの時忘れたおともだちのこと、思い出しちゃったんだ」
「‥‥うん」
「うーんと、あのねえ‥‥私もねえ、むかしの事ね、ぜんぜん覚えてないんだ」
セシリーの話を聞いたエルレーンは自身の事を話しだす。
バグアに破壊された街で女戦士に発見された時、エルレーンは自分の記憶をすべてなくしていたのだった。
あるのは、傭兵として女戦士と戦う「今」だけ。
「でもねえ、おししょーさまがね?私に名前をくれて、いっしょにいてくれるの。だから、しあわせなの」
屈託なく笑い、話すエルレーン。
「だから、」
一呼吸おいて。
「も一度忘れたいなら、忘れても‥‥いいと、思う。きっと、誰も、せめないよ」
セシリーの目を覗き込み、言うエルレーン。
「もしそれをのぞむなら、おいしゃさんとかに行ってもいいし。でも、つらいきもちもったまま、その人たちのことを忘れないでいてあげるのも、ひとつ、だと、思う」
微笑するエルレーン。
「‥‥」
投げかけられたエルレーンのその言葉――どう、『過去』と向き合うのかを考えるセシリー。
「それじゃあね、セシリーさん」
そう言うと、エルレーンは去っていった。
●未だ答えは出ず
エルレーンと別れた後、考え込んでいたセシリーに声を掛ける人が――。
「オレのこと、覚えてたりします?」
「えっと‥‥御守さん?」
よくあるナンパ――ではなく、前の依頼にも参加していた御守 剣清(
gb6210)が声をかけていた。
「飲み過ぎ、ってワケじゃなさそうですよね‥‥」
様子が変わっていることに気がついた御守は話しやすくするために冗談交じりながらセシリーに様子を尋ねた。
「あはは‥‥飲み過ぎなら、良かったんだけどね‥‥」
笑った顔で答えるセシリー――痛々しい表情だった。
聞き役に徹する御守――そのせいか、つとつとセシリーはあったことを話す。
「なんとはなしに、このまんまじゃいけないってのは、セシリーさんも気付いてんでしょ?」
「‥‥うん――だけどまだ‥‥」
だが、まだ――答えは出ない。
「なんとなく話し相手が欲しい時とか、電話でもメールでもいいんで寄越してくださいね」
と、御守が差し出したのは連絡先を書いたメモ用紙。
「ま、そういうオレの出番が減るのが、いい方向なんだろけど‥‥」
渡されたメモ用紙をじっと見つめるセシリー。
「あぁ、遊びに来たり、飲みに誘ってくれんのもアリですよ〜。しばらくはまだ傭兵でいるんで、個人的な依頼として呼んでくれても‥‥報酬は、美味い酒ってとこで〜」
そう言うと御守とセシリーは別れた。
●『事実』は『真実』はどこに
「セシリーちゃん♪」
「!?ッ」
セシリーに抱きついてきたのは樹・籐子(
gc0214)。
突然のことで目を白黒させているセシリー。
少し、落ち着くと見知った藤子であったため元の調子を取り戻す。
「ちょっと、喫茶店でお茶しましょう」
(‥‥少し、様子がおかしいわね)
「‥‥うん」
喫茶店に場所を移す二人。
向い合って座っている藤子とセシリー。
「何があったのかしら?」
セシリーの目を見ながら話しかける。
「えっと‥‥」
今日、何度目かになる説明をする。
時折、藤子は褒めたり宥めたりしつつ、非難せずそのまま話を受け入れた。
「そんな事があったのね‥‥。セシリーちゃんは伊万里ちゃんや麗華ちゃんの事はどう思ってるの?」
藤子が気になっていたこと――セシリーの冬無と麗華に対する気持ちが気になっていた。
「‥‥ちょっと、怖いって‥‥思ったけど‥‥大事な友だちだし‥‥」
「あの子達はあのままで素直で感情露わだけど、今までにセシリーちゃんに対して嘘ついたり・直接嫌な事をされたのは有る?」
「それは‥‥ないです」
そう、『直接』なにかされたわけではないのだ。
「本当に危害を加えようとしたのは一度も無い筈だし、その辺を思い返して貰えるとお姉ちゃんとしては嬉しいかな」
「うん‥‥ありがとう」
「それにね‥‥セシリーちゃんに傭兵活動は無理かなと、あの戦場の緊張にもう耐えられないわよね?」
「‥‥」
「なのでさあ‥‥いっそのこと子供相手の世話役とかどうかしらね?」
「子供の世話‥‥」
「さて、と。お姉ちゃんはちょっと用事をしてくるわね」
セシリーと別れる藤子。
●誰が為 成し得たるモノは
趣味の中華料理の為の食材を買いに来たトゥリム(
gc6022)は「GooDLuck」を使って特売品を探していたが――。
「あ、セシリーさん‥‥」
トゥリムが見つけたのはセシリーだった――前回の依頼での出来事で覚えていた。
(様子が少し、おかしいです)
セシリーの様子がおかしいと思ったトゥリムは近づいて声を掛ける事にした。
「こんにちわ、セシリーさん」
「!?‥‥こんにちわ、トゥリムさん」
声を掛けられたことにビックリして振り返り、知っている人間――トゥリムだと確認すると安堵して挨拶を返すセシリー。
「あの依頼の後、大丈夫でしたか?」
「‥‥うん、大丈夫だったよ」
心配していたトゥリムはセシリーに様子を聞いていた。
「すみません、つい気になって」
「大丈夫。それに、あんなことがあったしね‥‥」
済まなそうにするトゥリムにセシリーが応える。
やはり、依頼で共にしたのとそうでないとのではこういう状況になったとしても違ってくる。
「伊万里さんや、大鳥居さんとは‥‥」
そう、セシリーがこの二人とは特に仲が良かったので気になっていた。
「あ‥‥うん‥‥。まだ、ちょっと‥‥怖いけど‥‥。でも『大事な友達』」
極めて交友関係の少なかった中においてはこの二人とのは特に仲が良かった。
「さて、整理も一段落しましたし‥‥夕飯どうしますかしらね。久しぶりに戻って来ましたし何か‥‥あら、あれは‥‥?」
誰かが――セシリーを見つける。
「セシリーさん♪」
「セシリー♪」
と、トゥリムと話している時に「丁度」、必要最低限の物を残し、孤児院に荷物を送る為にLHにやって来ていた伊万里 冬無(
ga8209)、大鳥居・麗華(
gb0839)の二人が通りかかった。
そう、セシリーを見つけたのは麗華だった。
「あ‥‥冬無さん、麗華さん‥‥こんにちわ」
やや、若干距離感を感じさせる挨拶ではあったが、心なしか嬉しそうでもあった。
「な、セシリーどうしましたの!? とと、そうですわね。ここは伊万里の美味しいご飯を食べて元気つけるのがいいですわっ」
「あぁ〜丁度良かったです♪ 晩御飯なら、私に任せて下さいですよ♪」
「ボクも手伝うよ」
麗華の提案に冬無の手伝いを申出したのはトゥリム。
こうして、トゥリム、冬無、麗華と共にセシリーの部屋へ向かうこととなった。
黄昏時の夕日が四人を照らし影を作る。
セシリーの部屋。
荒れ放題、ゴミは袋に纏められていはいるものの‥‥。
「こ、此れは‥‥! ふふ、ふふふふ、私への挑戦ですね!」
「一人じゃ大変そうですね。手伝います」
あまりの部屋の惨状に冬無のメイドとしてのファイティングスピリットに火が灯り、トゥリムと共に片付けていく。
「そういえばセシリーの部屋に来たのは初めてな気がしますわね?」
麗華とセシリー――向かい合った二人。
「うん‥‥そうだね」
「そうそう、私達は今孤児院で働いていますのよ。もしよければセシリーも来ませんこと? 私達だけでは手が足りてませんし、孤児の世話を専属でしてくれる人を探していましたのよ」
「孤児院‥‥?」
麗華がオーストラリアでの孤児院についてケビンが書いた手書きのパンフレットを手に説明する。
「私は資金集めも兼ねてキメラがまだ出るようならそちらの対応をしていかないといけませんしね。本当に平和になるまではきっちりとやりませんと、ね」
そう、麗華や冬無が傭兵として出稼ぎに行っている間の要員として誘っているのだ。
「ちょっと、考えさせてね」
麗華の元を離れるセシリー。
「‥‥と言うことなんだ」
「セシリーさんはどうしたいです? 今こそ、自分の思いの丈をぶつけてみるのです」
部屋の整理をしていたトゥリムに相談するセシリー、冬無は調理中だ。
「‥‥できるなら、一緒がいいけど‥‥」
「乱雑な言葉でもいいじゃないですか。今しないと‥‥きっと一生後悔しますよ。‥‥大丈夫です。僕もついています」
「うん‥‥わかった」
‥‥‥
「ご飯できましたです♪」
並んでいるのは冬無お手製の料理とトゥリムのお手製の中華料理だ。
「私達は『影』ですから。貴女は『光』であって下さいです♪」
食事中、冬無も麗華と同じような説明をして子供達と一緒に居てくれる人が欲しかった、気心のしれたセシリーだからこそ任せられるのだと告げた。
「‥‥そのことだけど――私も行こうかなと思う」
善は急げとばかりに、孤児院に連絡を取り付けにかかる冬無。
「――解りましたです♪」
一足遅れて――セシリーも行くことなった。
楽しい時は過ぎる――準備のために一足先に冬無と麗華はセシリーの部屋を去る事となった。
「‥‥良かったですね」
「うん‥‥ありがとう」
トゥリムとの別れ際の一言。
そして、部屋にはセシリーだけ。
●涙の訳は
麗華達三人がいなくなって一人になったセシリー。
一人になった時の表情は――やはり、まだ暗い。
そこへやって来たのは――追儺(
gc5241)。
「よぉ」
「追儺、さん‥‥」
「どうしたんだ――何があった?」
「えっと――」
今までの事、『過去』の事――全てを話した。
「何を今更、怖がってるんだ、失うのが怖いのか? お前の仲間は本当にそれを望んでいたのか?」
「‥‥」
問う追儺、沈黙するセシリー。
「何時までも怖がらずに出てこい。いなくなるのが怖くても俺は絶対に『死なない』少なくともお前より先には死なない」
「もし、お前が一人で駄目なら横にいて引き上げるし、前に進めないなら前に立って行く道を拓く。お前が一人で大丈夫になれるまで一緒にいて欲しければ、一緒にいよう」
その追儺の言葉は真剣だった。
セシリーは追儺のその言葉に驚きを隠せなかった。
「後は‥‥セシリー次第だな」
そう言うと追儺は部屋を後にした。
「‥‥」
追儺とは依頼を、時を共にすることが多かった――時には互いの背中を守ったこともあった。
だが――同じぐらいに共にしてきた『心友』もいる――何方かを選ばなければならないのだろうか――。
何方かを選ばなくてはならないとしたら――。
セシリーは‥‥。
やはり、孤児院へ行くことにした――『心友』をとった形になるが――セシリー自身の将来も考えて。
セシリーは追儺に手紙を綴る――手紙は所々、涙で滲んでいる。
追儺さんへ
セシリーです。
追儺さんの言葉に「うん」と言って一緒にいたかったけど‥‥。
追儺さんの足を引っ張りそうだし‥‥。
私が傭兵をすることが厳しい現状を考えて
友人から紹介されたオーストラリアの孤児院へ
行くことになりました。
私はそこで他の人が傭兵で稼いでいる間、
子供達の相手をしたりすることになります。
‥‥ごめんなさい。
まだ、職員は募集しているみたいです。
よかったら‥‥。
本当に‥‥ごめんなさい。
セシリーより
こうして、セシリーはオーストラリアの孤児院で職員をすることになった。
子供達に囲まれながら――。
THE END NPC セシリー・ニミッツ MainStory