タイトル:さぁ、世界の話をしようマスター:後醍醐

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/02 00:09

●オープニング本文


 ●
 教室
「はじめまして、僕はULTからやってきたケビン=ルーデル(gz0471)です」
 教室の教壇に立つケビンと依頼に参加した傭兵達の前に居並ぶのは育ちのよさそうな高校生達。
 ケビンより、やや上か同じ世代の子供たちだ。
 ただ、ケビンとは違うのは生まれであり、育ちであった。
 その多くの子弟は軍の高官の子供であり、企業の重役や幹部の子供達であった。
 彼女、彼らはバグアの戦争を知らない――否、毎日の生活ですら困ったことはない。
 そう、何不十分もなく、また、危険に晒されることもなく生きてきたのだ。
 この世界でその様なことは可能か? ――可、それは膨大な金銭と政治力がなし得た奇跡だ。
 行く行くは官僚であり、経営者であり、人々の上に立つことを期待された子供達であった。
 そんな彼らに話をする機会ができたのは――。
 
 
 ●LH 7日前
 
 いつもの様に訓練所と本部を往復する毎日。
 戦争も終盤か激戦地での依頼が多い為、ケビンはオペレーター――リズ=マッケネン(gz0466)から参加するのを止められていた。
「ケビンさん」
「はい?」
 珍しくリズから声を掛けられるケビン。その為、怪訝な表情をしてしまったケビン。
「ケビンさんにコンタクト――面会を希望だそうです」
「面会――ですか」
 天涯孤独となった身に面会するような知り合いはいない筈だ。
 そう思いながら、指定された場所へ向かう。
 そこにはスーツを身にまとってシルバーのスクェアタイプなデザインの金属フレームのメガネをかけた男がいた。
 交渉事を生業にしているようなイメージを持たせる。
「はじめまして、アレクセイ・グロモフです。お話があって伺いました」
「ケビン=ルーデルです。」
 アレクセイと名乗った男は自己紹介がてらエージェントと名乗った。
 曰く「依頼主の要望にそって動いて人や物を調達し実現させる」のが生業だと話してくれた。
「以前、子供達相手に幾人かの傭兵の方と講義を行ったと聞きまして」
「はい。それが?」
 何か後で問題でもあったのだろうかと心配するケビン。
「実はその実績を生かしてお願いしたいことがありまして――」
 
 こうして、ケビンは二度目の講義を行うこととなった。
 
「誰でも良いっていうわけじゃない――でも、他の人にもたのもう」
 ケビンは共に依頼に参加してくれる傭兵を探すのであった。
 

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
ハンナ・ルーベンス(ga5138
23歳・♀・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
音桐 奏(gc6293
26歳・♂・JG
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

 幾つもの目が好奇心の眼差しで傭兵達へ向かっている。
 特に目を引いたのは――夢守 ルキア(gb9436)の姿だ。
 整備士用の汚れたツナギを身にまとった夢守は入場の際に一悶着有ったが、クローカ・ルイシコフ(gc7747)が夢守の身元を保証し、ケビン=ルーデル(gz0471)がULTの傭兵であることを証明して無事、入ることが出来た。

 ●祈りと力と
「皆さんとお会い出来た事を主に感謝致します」
 まず、講壇に立ったのは孤児として修道院で過ごし、院が戦火に潰えエミタ適性を神託としLHへ行ったハンナ・ルーベンス(ga5138)。
 手で空に十字を描き、短く祈り、皆の視線が集まるまで、沈黙を続ける。
 そして、沈黙が、視線が集まると――講堂を見渡し、時折、生徒達と視線とがあうと、温かく微笑するハンナ。
 
 
「‥‥今、世界は激動の最中です」
 
 
 ゆっくりと、だが、大きくもなくはっきりとした澄んだ声でハンナは生徒達に言葉を投げかける。
 其の言葉に食い入るように食いつく生徒達、外の世界を知らないのだから仕方ないだろう。
「夥しい犠牲と、甚大な破壊。それでも歴史がそうであった様に、私達も貴方達も『これからの世界』を生き、形作って往く事でしょう‥‥」
 (私達の思いが、何時か貴方達の道標となる様願っています)
 静かに、そして真剣に聞く生徒達。
「‥‥バグアへの憎悪と協力者への怨恨が渦巻く、死があまりにも身近な『これまでの世界』を背負いながら」
 世界で起こっていること、バグアとの戦争。それは二次元化された様な単純ではない、人とバグアの思惑が絡むセカイ。
 信じられないと言う様子の生徒達、彼等は何も知らなさ過ぎ、そして、ショックを受ける様子。
「私達は、バグアとの戦いに身を置いた中で、何かを失わざるを得ませんでした‥‥」
 力を得た代償、それは――決して少なくない。
 強すぎる力の代償は――生徒達でも想像が出来る。
「此処での毎日を、どうか大切に。‥‥友と、師と、共に考え、喜び、時には涙し、学生としての本分を果たして下さい」
 それは――其の日々を創りだしてきた傭兵の一人としての言葉。
 (‥‥けれど、貴方達なら出来る筈です)
 自分達の生活が――誰かによって作られている事を知る。
「大人達の『世界』は貴方達の想像より愚かでしょう‥‥皆さんが絶望しかけた時、思い出して下さい。此処で、貴方達の世界でどう過ごせたかを」
 それは値千金の経験、思い出だという言葉。だからこそ――そんな、世界を作っていく必要がある。
 ゆっくりと覚醒していく――髪が淡い光を帯び穏やかになびき、周囲に光粒子が舞う。
 その様子に――初めて見る傭兵の覚醒に驚き、一部は畏怖した表情をする生徒達。
「理想無き世界は虚無です。虚無こそ忌むべき敵なのです」
 (私達と違う、公正さと配慮のある未来を描く事が‥‥)
 生徒達は漠然としか――考えていなかった理想――ハンナの言葉はそれを改めて考える言葉となった。
「貴方達の未来に、主の加護と、祝福を」
 手で空に十字を描き、短く祈り講壇を後にする。
 
 ●決断の、覚悟
 次に講壇に立ったのは先程から傭兵を、生徒を、両者を観察していた音桐 奏(gc6293)。
 (人の上に立つ事を期待された子供達、彼らに世界を語る方々、どちらも観察し甲斐がありますね。彼らが何を想いどんな答えを出すのか、見届けるとしましょう)
「初めまして、皆さん。私の名前は音桐 奏と申します」
 音桐の挨拶に返す生徒達。
「あなた方はいずれ人の上に立ち、世の中を動かす立場になるでしょう。その為に学ぶことは多いです」
 それは学問だけなではなく、帝王学のような立つべき立場の人間としての学ぶことを――そして、今回の依頼だ。
 幾人かは音桐の言葉書き留めようとしている生徒がいる。
「ここで私達が語る事だけではなく、他にも多くの事を学んだことをどのように活用するか、それは貴方達自身が決める事です」
「そして決めたら己の選択に責任を持たなければいけません。自分以外の誰かに責任を押し付ける、それは恥ずべき事と知りなさい。己の行動に責任を持つ事が大人になる為の条件のひとつです」
 行動には責任が伴う――どんな結果であれ責任を取らなくてはならない――自身の決断の責任からは逃げられないのだ。
「さて、これから少し厳しい事も言いましょうか」
 音桐は区切って――生徒達を見て言う。生徒達は緊張の面持ちだ。
「人の上に立つ者は時に非情な決断をしなければならない事もあります。軍人ならば兵士を死地に送り出す等、政治家ならば国の方針を決める等」
 人の――部下の命を預かり、ひいては国の命運の左右を決めると言うこと。
「他の立場でも非情な決断を迫られる事があるでしょう。どれも自分だけでなく、大勢の人の命運が掛ってきます。誰もが私達と同じ血が通い、家族や友人恋人がいて己の人生を歩んでいます」
 上に立つ人間は――部下にも、否、関わるすべての人間の人生を背負っているということを音桐は生徒達に言い聞かせる。
 一様に生徒達は難しい表情をする。
「あなた方はそんな人々の生死を決める立場になるでしょう。忘れてはいけません、己の選択に他者の命が掛かる事を、そして決断と責任から逃げる事は許されない事を――」
 ただじっと音桐の言葉を聴き続ける生徒達。
「これはあなた達だけではありません。戦場に立ち己の命を賭ける我々も同じです。違いは一つ、立つ戦場が違うだけです――」
 立場が、立つ戦場が違えど――常に決断を求められている――だからこそ、選択し続けた傭兵達の言葉は重い。
「その事も忘れないでくださいね」
 そう言うと音桐は講壇を後にする。
 
 ●激動の世界
 音桐の講義の後は辰巳 空(ga4698)が入れ替わるように講壇に立つ。
「私は専門外ではありますが、能力者の視点から世界のこれからについて話したいと思います。もちろん、軍機に触れる所は割愛します――それは聞いた全ての人にお任せしたいと思います」
 辰巳は語る――一能力者として――その視点からの世界と世界のこれからを――。
 
「今、私達は――バグアという異なる存在と戦争をしています。そう、それは古今の戦争にあるような侵略戦争ではなく――種としての生存を掛けた「生存競争」といえるものです。
 先程からの講義で人とバグアとの戦争が行われていることがわかってきたが、実のところそこまで過酷な状況とまでとは考えていなかった生徒達がショックを受ける。
「そして、「生存競争」であるが故に人類は全ての力をその撃退に注ぎ込み、能力者という生き方も許容されてきました」
 能力者でしか成し得ない事が多い。そのことはハンナの講義で知らされたことを思い出す生徒達。
「ただ、その裏では大きなひずみを抱える事になりました――」
 そこで、辰巳は一旦区切り、生徒の注目を集める。
「もし、バグアがいなくなったら?」
 問い掛けるように話し、生徒達を見る――真剣に考えている様子だ。
「当分は――キメラの退治や復興で何とかなるでしょう」
「ですが、過ぎたる力は相手を畏怖させます――理解できない力を持った存在を人類は受けいれないでしょう」
 ハンナの覚醒の時に畏怖したクラスメイトを思い出す生徒達。
「能力者という力は忌み嫌われ――キメラや強化人間のように忌避され迫害されたり、悪用されることもありえます」
 それは生徒達でも想像することが容易い事態だった。
「そして、もし、これから能力者に関わるとしたら、彼らも結局は人間でしかないのです――だから、本当に必要な事を見極めて貰い欲しいと思います」
 それは辰巳としての願いであり、一能力者としての願いでもあった。
 そう告げると辰巳は講壇を後にした。
 
 ●満たされる者持ちし者、満たされぬ持たざる者
 クローカ・ルイシコフ(gc7747)が辰巳の後に講壇に立つ。
「さて、僕の番。始めよっか。突然だけど。朝ご飯を食べてきた人は挙手!」
 ほぼ全ての生徒が挙手をする。
「‥‥うん、じゃ質問ね。今朝、ご飯を食べられた人は世界中でどれくらいだと思う?」
 あたりを見渡すようにクローカは生徒達を見て質問をする。
「ほとんど?」
 挙手をした小太りな生徒が答える。
「そうだと――いいんだけど――。残念ながら、食べれる人は限られるよ、それもごく少数の人々に」
 当たり前だと思っていることは――実のところそうでないとクローカは生徒達に話をする。
「ご飯以外にも――例えば、家族」
 世界にはバグアとの戦争でなくした人も多い――家族団らんで心配なく日々を暮らせることは稀有だ。
「僕は貧しい孤児院で育ったんだ。薄いスープと黒パンが日に二回、無い日もあった」
 眼の前にいる生徒達へ語りかけるクローカ。生徒達はそんなクローカの言葉を真剣に聞いている。
「8歳で軍の施設に入った、多少マシかと思ってね‥‥凄かったな、毎日殴られてたよ」
 クローカの其の言葉にショックを隠せない女子生徒や一部の男子生徒。
「でも、軍の施設にはいれたのはまだマシな方だった――」
 そう、入れない人間もいる――そんな人間は――生徒達の想像に難しくなく、辛そうな表情が変わる。
「みんなはさ、大人になったら何になりたい?」
 雰囲気を切り替えるように明るい声で生徒達に言葉を投げかけるクローカ。
「‥‥」
 そんなクローカの言葉に返ってきたのは沈黙――無理もない――何故ならば、彼等にはそんな事を考えることもなかったのだ。
「お父さんやお母さんと同じ仕事をする人もいるよね。そしたらきっと、沢山の人に出会う。その誰もが、きみ達ほど幸せな訳じゃない」
 自分達の置かれた立場が、状況が当たり前でない事を生徒達に語りかける。
「だから、もしそんな人を見つけたら、みんなの幸せを、少し分けてあげてください」
 そう――彼等ならそれができる立場と力があるかもしれない。
「クローカさんは?」
 其の言葉に一人の生徒がクローカに問う。
「‥‥僕? 僕は今、とっても幸せだよ。こうして君達の前にいられるしね」
 そう言うと、講壇を降りるクローカ。
 
 ●それぞれのセカイ
 それぞれの言葉を受けて休憩時間に考えこむ生徒達。
 そんな休憩時間が終わり、彼等の前に立ったのは夢守 ルキア(gb9436)。
「今、こんな汚い奴が講師? って思ったヒト」
 あたりを見渡す夢守。生徒達は育ちがいいゆえに表情には出さないが、場の空気が肯定する。
「Sonare、本題を書いて、私、文字書けない。ケビン君、紙を配って。皆、思ったコトは、全部紙に書いて」
 取り出したのは何も書かれていない白紙の紙。クローカが板書してケビンが生徒達に紙を配る。
「大正解。それは『事実』さ。始めよう。私は先生じゃない、きみ達なりの意見を書いて」
「UPC軍人の一人が、敵と通じているコトが分かった、きみ達に処遇は一任する、どうする? どうするか、紙に書いて」
 そう言うと生徒達は紙に書き始める。
「彼は、沢山の金が入るからやった。此れは、悪? 書いてみて」
 考えた様子で紙に書く生徒達。
「彼は貧しく、娘が病気で巨額の治療費が必要だった、此れは、悪?」
 書き終えた後に更に質問を投げかけて、書くように言う夢守。
「始めと違う意見のヒトは、ドレだけいる? ――さて、新たな事実。彼の娘は、彼自身の暴力で死んだ後、既に判決は下された、手は出せない。どうしたい」
 書いたり消したりする生徒が見受けられる。
「正否はない。正義も悪も、私情。ヒトの意見は、簡単に変化する。自分の考え、思い『セカイ』を持って」
「私は知った時点で殺す。理由なんて関係ない、裏切りだ」
 それが夢守の選択。
「じゃあ、紙を回収するよ」
 ケビンが生徒達の紙を回収して端末に取り込む。
「みんなの意見を表示しよう」
 取り込んだ端末からプロジェクターで生徒達の意見を表示させる。
 様々な意見が――書かれている。
 『かわいそう』『仕方がない』『裏切りは敵だ』『ひどい』様々な言葉が流れる。
 夢守と生徒達は出てきた意見に対して互いに問答し合う――。
「ヒトは、己が安全なら容易く糾弾する。デジタルの先、誰かがいる、忘れないで」
 そう、それは人と人が物を介して触れ合う故に忘れがちなこと。
 物を介していても先には人がいる――それを忘れてはいけない。
 そう言うと夢守は講壇を後にする。
 
 ●立場と力と使いよう
 次に立ったのは――気さくな雰囲気の村雨 紫狼(gc7632)。
「元気ですか――!!」
「!?」
 講壇に立った第一声は元気な声。
 さすがに生徒達もびっくりするが、それ故に村雨に注目が集まる。
「今までの講義は、全て個人の経験と思い込みッ! ただの壮大なまやかしだ、気をつけろ!!」
 初っ端から今までの講義を否定する村雨――生徒達は混乱する。
「まあ全否定っつーか、だいたい説教だもん、退屈だったろ? 知識と経験、テメーの歩いた道が『世界』でしかない」
 それは他人の世界の話であり、自分達のセカイは自分達が見たセカイだと言う村雨。それもまた一つの意見。
 其の言葉に驚く生徒達。
「既に用意された道を歩くだけなら、血を流して『世界』を認識する必要はなし! オメーらは超優遇された存在だ、それを恥じる必要はねーよ。貧困で道を誤る事もねーんだし、バグアの手駒に改造される事もねえ」
 其の言葉は彼等の置かれた立場を肯定する言葉。
「俺は、お前らと同世代の強化人間と殺し合いをしてきたからな」
 一呼吸於いて話す村雨。其の言葉に生徒達もショックを受ける。だが、それは事実だ。
「お前らの仕事はただ一つ。その恵まれた境遇をフル活用して世界を動かせ!」
 置かれた立場で全うする――村雨はそう言いたいのだろう。
「無論、知識として世界の実情を知るのは上に立つ人間として確実にやっとけ。金持ちだろうが貧乏人だろうが、撃ち込まれる弾丸に貴賤はねえぜ?」
 だからこそ今回の講義なのだろう。そして、死は貴賎なくやって来ること印象づける。
「ま、ムダ食いするだけの豚なら要らねえ、俺が今ここで斬るから前に出ろ!」
 さすがにその言葉では――そんな生徒はいないだろう。
 だが、村雨の言葉は一つの考え方として受け入れるだろう。
 置かれた立場において持てるものを使い成し得ていくということは。
「俺は言いたいのはそういう事だ!」
 そう言うと村雨は講義を終える。
 
 全ての傭兵の講義が終わる。
 
「今回の講義、良かったですよ」
 アレクセイ・グロモフがケビンの所へやってきて話しかける。
「皆さんのおかげです」
 そう答えるケビン。
「そうですね‥‥ケビンさん、貴方は我々の支援のもと――孤児院をして見ませんか」
 それはケビンにとって思いがけのないオファー。
 
 受けるのか受けないのかは――。
 
 次回『決断』
 
 to be continued‥‥